担保契約及びベーシス スワップのスプレッド を考慮したスワップの評価 みずほ情報総研金融技術開発部仲山泰弘 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科安岡研究室債券とリスクセミナー 2012/1/12
2 本日の発表の流れ 1. 部署紹介 2. 金融危機後のデリバティブ市場の変化 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大 2-2. 担保契約取引の増加 3. イールド カーブの構築 4. 課題と展望 5. 参考文献
3 1. 部署紹介金融技術開発部 (1) ターゲット みずほグループ 地域金融機関 投資顧問等 目的 数理コンサルティング システム開発 ソリューション提供 分野 デリバティブ ( 金利 為替 クレジット等 ) 現物債券 オルタナティブ
4 1. 部署紹介金融技術開発部 (2) ~ 主な業務領域 ~ バック フロント ミドル 数理コンサルティング クォンツクォンツ ロジック開発開発 ロジック検証検証 システム開発 EUC EUC 開発 ファイナンシャルシステムファイナンシャルシステム開発開発 ソリューション提供 FE-LIBRAS ASTARISKs データ配信 AltalphA
5 2. 金融危機後のデリバティブ市場の変化 スワップの評価への影響が大きいと考えられる市場の変化 2-1. ベーシス スワップ ( 1) のスプレッドの拡大 テナー スワップ ( 2) のスプレッド 通貨スワップ ( 3) のスプレッド 2-2. 担保契約付取引の増加 1 ベーシス スワップ 変動金利同士を交換する取引 2 テナー スワップ 期間の異なる変動金利同士を交換する取引 3 通貨スワップ 異なる通貨の金利及び元本を交換する取引
6 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大 テナー スワップとは? テナー スワップ 期間の異なる変動金利を交換する取引 例 )3M LIBOR と 6M LIBOR を 18 ヶ月間交換する場合 3M LIBOR + スプレッド 6M LIBOR 3M 9M 15M 6M 12M 18M
2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大なぜテナー スワップにスプレッドが存在するのか? 7 信用リスクによる説明 LIBOR 借り手銀行の倒産リスクを織り込んだリスキーリスキー レート 例 :3M LIBOR または 6M LIBOR で 6 ヶ月間運用する場合を考える (i) 3M LIBORで3ヶ月間運用し 3ヶ月後に再び3M LIBORで運用する場合 3ヶ月後に貸し出し先の信用力が下がっていた場合は 別のLIBOR 適格銀行に貸し出すことができる (ii) 6M LIBOR で 6 ヶ月間運用する場合 3 ヶ月後に貸し出し先の信用力が下がっていたとしても さらに 3 ヶ月間貸し続けなければならない 6M LIBOR の方により大きな信用リスクが上乗せされている
2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大単一のカーブによるテナー スワップの評価 (1) 8 M L 6 1Y : 半年後のフォワード 6M LIBOR DF T : 時刻 Tのディスカウント ファクター 6 ヶ月後の 1 円を 6MLIBOR で半年間運用 例 : 半年後の 6MLIBOR の現在価値 無裁定条件から 6M L 1Y DF6M = 1 + DF1 2 L 6M 1Y DF 6M = 2 1 DF1 Y 半年後の 6MLIBOR の現在価値 (PV) は Y 1 PV = = L 2 DF 6M 1Y 6M DF 1Y DF 1Y 6M 1Y ====想定元本方式 6M 想定元本方式 1
9 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大単一のカーブによるテナー スワップの評価 (2) 想定元本方式 3M LIBOR サイド Spot 3M 9M 15M 6M 12M 6M LIBOR サイド 18M スプレッドの現在価値分だけ 3MLIBOR サイド価値が大きくなってしまう
10 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大単一のカーブによるテナー スワップの評価 (3) 例 : 3M LIBOR 受け 6M LIBOR 払い 期間 18M のテナー スワップを 6M LIBOR ベースの単一のスワップカーブで評価した場合 想定元本 100 億円 3/6M SPD(18M) 13bp Term Date CF DF PV T/ 2011/12/29 3M 2012/3/29 3,286,111 0.99914041 3,283,286 6M 2012/6/29 3,322,222 0.99828897 3,316,538 9M 2012/9/29 3,322,222 0.99733265 3,313,361 12M 2012/12/29 3,286,111 0.99637724 3,274,206 15M 2013/3/29 3,250,000 0.99538472 3,235,000 18M 2013/6/29 3,322,222 0.99439319 3,303,595 19,725,987
11 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大単一のカーブによるテナー スワップの評価 (4) 問題点 テナー スワップのスプレッドの存在は期間の異なる LIBOR を同一のカーブで評価できないことを意味している ( フォワード LIBOR を過大 ( 過小 ) 評価してしまう ) スプレッドを考慮し マーケットと整合性がとれるように期間毎にフォワード レートを求めなければならない
12 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大 通貨スワップとは? 通貨スワップ 異なる通貨間での金利と元本を交換する取引 例 : 期間 18M のドル 円通貨スワップ ( 円金利受け ドル金利払い ) USD 元本 Spot JPY 元本 JPY 3M LIBOR + スプレッド 3M 6M 9M 12M 15M 18M USD 3M LIBOR JPY 元本 USD 元本
13 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大通貨毎単一カーブによる通貨スワップの評価 (1) ドルサイドの評価 ( 例 : 期間 18Mの場合 ) Spot 3M 6M 9M 12M 15M 18M ドルサイドの現在価値は 0
14 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大通貨毎単一カーブによる通貨スワップの評価 (2) 円サイドサイドの評価 ( 例 : 期間 18Mの場合 ) 3M 6M 9M 12M 15M 18M スプレッドの現在価値が残ってしまう 現在このスプレッドは負である ドルサイドと釣り合わない
15 2-1. ベーシス スワップのスプレッドの拡大通貨毎単一カーブによる通貨スワップの評価 (3) 例 : ドル 円通貨スワップ 18M( 円金利受け ドル金利払い ) をドル 円それぞれ単一のカーブで評価した場合 元本ドル 円 SPD(18M) 100 億円 -60bp Term Date CF DF PV T/ 2011/12/29 3M 2012/3/29-15,166,667 0.999140413-15,153,630 6M 2012/6/29-15,333,333 0.998288973-15,307,098 9M 2012/9/29-15,333,333 0.997332647-15,292,434 12M 2012/12/29-15,166,667 0.996377237-15,111,721 15M 2013/3/29-15,000,000 0.99538472-14,930,771 18M 2013/6/29-15,333,333 0.994393191-15,247,362-91,043,016
16 2-2. 担保契約付取引の拡大 担保付取引の場合のディスカウント 担保契約 (CSA; Credit Support Annex) 現金担保に対して O/ の金利を付与しなければならない A 銀行 現在価値 +V O/ 金利 担保 V(Cash) B 証券 現在価値 -V 理論的にはO/ 金利でディスカウントすべき ( 参考文献 [1] 他 )
17 2-2. 担保契約付取引の拡大中央決済機関の対応 海外では中央決済機関 (CCP;Central Counterparty) を通した取引が一般化 LCH.Clearnet(London Clearing House + Clearnet) 金利スワップの CCP として業界一 OTC 金利スワップの約 50% が決済されている 2010 年 6 月 29 日より USD,EUR,GBP で LIBOR ディスカウントから OIS(Overnight Index Swap) ディスカウントに切り替えた
2-2. 担保契約付取引の拡大ディスカウント ファクターの影響 18 例残存期間 :20 年想定元本 :100 億円固定金利 :3% 固定金利払い 6M LIBORディスカウントによる現在価値 : -23.8 億円 OISディスカウントによる現在価値 : -24.8 億円 OISディスカウントにすると約 1 億円の評価損が発生 ポジションによって影響の方向 度合いは異なるが その影響が無視できない可能性がある
19 3. イールド カーブの構築 現金担保付の取引については 将来のキャッシュ フローは担保通貨の O/ 金利より作成したディスカウント ファクターで割引く 各ベーシス スプレッド ( テナー 通貨等 ) を考慮し 商品特性ごとにフォワード レートを求めるカーブを変える ( マルチ カーブによる評価 )
20 3. イールド カーブの構築 ( 円担保 ) OIS (Overnight Index Swap) とは? OIS 一定期間の O/ 金利の加重平均金利 ( 複利運用 ) と固定金利を交換する取引 例 : 期間 2 年の OIS Spot 1Y 2Y O/ 金利で複利運用 キャッシュ フローの交換は年 1 回 割り切れない場合は最初の交換で調整 ( 例 :18M の場合は 6M と 18M で交換 )
3. イールド カーブの構築 ( 円担保 ) OIS によるディスカウント ファクターの作成 21 O δ i OIS DF :OIS の固定レート ( マーケットより取得 ) : 日数計算関数 ( 利払い期間を各コンベンションで年換算したもの ) :OIS レートから作成したディスカウント ファクター ( 求めるもの ) 1Y 2Y Spot 1Y 2Y Spot 年のOISを考える 固定サイドの現在価値 = 変動サイドの現在価値 O これを解くことにより i=1 DF DF OIS OIS i δ = DF i OIS Spot DF OIS を求めることができる
3. イールド カーブの構築 ( 円担保 ) OIS ディスカウントによる 6MLIBOR カーブ 22 S M L 6 i : 年スワップ レート ( マーケットより取得 ) :(i-6m) から i までのフォワード 6M LIBOR( 求めるもの ) 6M 1Y -6M すべてのキャッシュキャッシュ フローフローを OIS レートよりより作成作成したしたディスカウントディスカウント ファクターファクターで割引割引く金利スワップの関係式 固定サイドの現在価値 = 変動サイドの現在価値 OIS DF S 2 2 OIS 6M δi / 2 DFi / 2 = Li / 2 δi / 2 i= 1 i= 1 DF OIS i / 2 は求まっているので この式よりフォワード 6MLIBOR( M L 6 i ) を計算できる
3. イールド カーブの構築 ( 円担保 ) OIS ディスカウントによる 3MLIBOR カーブ τ : 年の 3M/6M LIBOR テナー スワップのスプレッド ( マーケットより取得 ) L 3 :(i-3m) から i までのフォワード 3M LIBOR( 求めるもの ) M i 23 3M LIBOR τ 6M LIBOR 期間 年の 3M/6M のテナースワップを考える 3M サイドの現在価値 = 6M サイドの現在価値 4 2 6M / Lj / 2 δj / 2 j= 1 3M OIS ( L + ) k DF = k 4 τ δ / 4 k / 4 k= 1 3M 6M 9M 12M 15M DF 6M サイドの現在価値は求まっているので 適当な補間法を仮定することにより フォワード 3M LIBOR を求めることができる OIS j / 2 18M
24 3. イールド カーブの構築 ( 円担保 ) OIS ディスカウントによるマルチ カーブ ここでは 3M LIBOR カーブを作成したが 他のベーシス スワップのデータを用いれば 同様の考え方でそれぞれのフォワード カーブを作成することができる 例えば LIBOR/TIBOR のベーシス スワップのスプレッドのデータから 6M TIBOR のカーブを 1M/3M LIBOR のテナー スワップのスプレッドのデータから 1M LIBOR のカーブを作成することができる 商品特性に合致したフォワード カーブで評価することで マーケットと整合性のとれた評価となる
25 3. イールド カーブの構築 ( ドル担保 ) ドル OIS ディスカウントによるドルカーブ $ O : ドルOISレート ( マーケットより取得 ) OIS DF $ : ドルOISレートより作成したディスカウント ファクター ( 求めるもの ) $ S : ドルスワップレート ( マーケットより取得 ) 円の場合と同様に OIS の関係 固定サイド = 変動サイド O i=1 DF $ OIS i δ = DF $ OIS Spot $ OIS ドル金利スワップの関係 固定サイドの現在価値 = 変動サイドの現在価値 i DF S 4 $ $ OIS δi DFi = i= 1 k= 1 L $3M k / 4 δ k / 4 DF $ OIS k / 4 この関係よりドルのフォワード 3M LIBOR を求めることができる
3. イールド カーブの構築 ( ドル担保 ) ドル担保を仮定した円カーブ (1) 26 ドル円の通貨スワップを考える ( 円金利受け ドル金利払い ) USD 元本 1 $ X Spot Spot 3M 6M 9M 12M 15M USD LIBOR 3M 1 $ X Spot USD 元本 ドルサイドの現在価値 ( 円ベース ) PV $ DF $ OIS Spot DF $ OIS 4 $ X Today k= 1 L $3M k / 4 δ $ X Spot (, :Today 及び Spot の為替レート ) $3M k / 4 DF $ OIS k / 4 X X $ Today $ Spot
Spot JPY 元本 1 3. イールド カーブの構築 ( ドル担保 ) ドル担保を仮定した円カーブ (2) JPY LIBOR 3M + スプレッド 3M 6M 9M 12M 15M b 27 JPY 元本 1 円サイドの現在価値 PV DF Spot + DF + 4 $ Col 3M ( L + b) k / 4 k= 1 DF DF : ドル担保の場合の円ディスカウント ファクター Col M L 3 δ k / 4 k / 4 $ : ドル担保の場合の円フォワード 3M LIBOR
3. イールド カーブの構築 ( ドル担保 ) ドル担保を仮定した円カーブ (3) 28 両サイドの釣り合いより 未知数 { DF } { } $Col L 3M PV + $ PV = 0 そこで ドル担保の場合の円フォワード LIBOR と円担保の場合の円フォーワード LIBOR が等しいと仮定する $ Col L 3M 円担保の場合の円フォワード LIBOR( レートより計算可能 この関係からだけでは一意に決定することはできない = L M L 3 3M ) は マーケットのから取得できる 未知数が一つ減るので 通貨スワップの関係式よりドル担保の場合の円ディスカウント ファクターを求めることができる
29 4. 課題と展望 OIS の流動性の問題 OIS ディスカウントが一般化することによりマーケットが成熟? 日本版 LCH( スワップの CCP) 東京証券取引所で検討中 どのような担保のルールになるか注目 スタンダード CSA 担保契約の標準化 シングルカレンシーの取引に関してはその通貨での担保に限定される方向 ( 例えば円金利スワップの担保は円に限定 ) クロスカレンシーの取引に関しては両方の通貨での担保が認められるか?
30 5. 参考文献 [1]Masaaki Fujii et al. A ote on Construction of Multiple Swap Curves with and without Collateral <FSA Reserch Review Vol.6(March 2010)> [2]Masaaki Fujii et al. Choice of collateral currency <Risk January 2011> [3] 高田勝己 シグマインベストメントスクール イールドカーブ構築の技術 講義資料