技術コーナー クランプメータによる電流計測について 共立電気計器株式会社国内営業部第一営業グループ東京オフィス主任日下亮一 1. はじめにクランプメータは 現場での電流測定にはなくてはならない非常に重要な測定器である 今回はそのクランプメータについて 測定原理 特長及び応用方法を解説することにより 目的に応じたクランプメータの選択方法 また最近の製品動向について 理解を深めていただければと考える 2. クランプメータの基本一般のマルチメータ ( 回路計 ) の場合 いったん電源を落とし 回路を切断して電流測定をするが クランプメータは電線を被覆の上からクランプするだけで電流を測定できる 操作が簡単な上 回路に直接接続しないので 安全に大電流を測定することができるのが クランプメータの最大のメリットである < 図 1> クランプメータのメリット -12-
3. クランプメータの外観代表的なデジタルクランプメータの外観を示す 本体は開閉式の CT ( トランスコア ) 部 ファンクションスイッチ部 表示部 電圧 抵抗入力端子部から構成されており CT 部を除いては一般のマルチメータとほとんど変わりない この CT 部は先端が開閉できるような構造になっており トリガという開閉装置を押すことにより 先端が開き配線をはさみ込むことができる また CT の先端が開いている形状のクランプメータもあり この CT をオープンコアタイプという このタイプのクランプメータはトリガで C T を開く動作は必要なく CT 部の奥に電線を入れることで測定ができる < 図 2> クランプメータの外観 4. クランプメータの測定原理電流検出の基本的な原理としては 電流が流れることにより発生する磁界を CT( トランスコア ) で検出し 測定電流に比例した出力を取り出す この電流検出の方法にはいろいろあるが 次の 4 種類の方式が一般的である -13-
< 表 1> クランプメータの測定原理 測定方式 特長 測定対象 1 CT 方式 もっとも一般的 コストも安 ACのみ い 2 ロゴスキーコイル方式 コアレスなので 磁気飽和が ACのみ なく 大電流測定に適している 3 ホール素子方式 ホール素子のホール効果を利 AC/DC 用しているので 交流 / 直流両方の測定が可能 4 フラックスゲート方式 ホール素子方式と比較して ゼロドリフト特性が非常に小さいので 高精度の直流電流測定が可能 AC/DC 5. クランプメータの機能と使用方法 1) 負荷電流測定方法 < 図 3> 負荷電流測定方法 図 3 中央の電源コードのような二芯コードの場合 コードを分割して 1 本だけをクランプするか 図のようなラインセパレータを使用する 電流レンジは測定電流の大きさに合わせて大きい測定レンジから小さい測定レンジに切り換える -14-
測定導体ができるだけ CT の中心になるように測定する ( 中心に近いほど精度の良い測定をすることができる ) 直流電流測定を行う場合 必ずゼロ調整を行う必要がある ( オートで行う製品もある ) 2) 真の実効値測定交流電流測定器には平均値タイプ ( 平均値検波実効値表示 ) と真の実効値タイプ (RMS) の 2 タイプがある 平均値タイプは交流の半周期間の瞬時値の平均値を検出しており この値が正弦波の実効値になるように波形率を乗じて指示している 波形率とは平均値を実効値に換算する際に使用する値で波形率 = 実効値 平均値で求められ 正弦波の場合 波形率は 1.111 になる ただし 歪み波形や正弦波以外の波形では当然波形率が異なるので 平均値タイプでは指示値に誤差が生じる これに対し 真の実効値タイプ (RMS) は 瞬時の交流波形の波高値から実効値に内部演算しているので 歪んだ波形でも正確な測定ができる RMS( 二乗演算回路 =Root Mean Square) このため 歪みのない商用電源周波数 (50/60Hz) では平均値タイプ 実効値タイプ (RMS) 共に同じ値を示すが 歪んだ波形 ( サイリスタ及びインバータ制御等により高調波成分を含み歪んだ電流波形 ) の測定をした場合 平均値タイプは波形率が異なり 測定値に誤差が生じる < 図 4> 平均値タイプ 実効値タイプの比較 -15-
3) モータの突入電流測定モータ等の電気機器の電源を入れた際に 定常時よりも5 倍から10 倍の大きい電流が瞬間的に流れることがあり この電流を突入電流 ( インラッシュカレント ) という 突入電流は定常時の電流の10 倍を超えることもあり 場合によっては電源スイッチの溶着 整流器やその他の部品への過大なストレス 照明の一時的な減光 コンピュータのクラッシュ ブレーカのトリップ等を引き起こす可能性もある これらを未然に防ぐには 突入電流が機器等の仕様範囲内に収まっているかなどの確認を行う必要がある この突入電流を測定するには 非常に短い時間 ( 約 10ミリ秒 ~100ミリ秒 ) の電流変化を捉えることができるピークホールド機能付クランプメータで測定する ピークホールド機能は電流波形の最も振幅が大きい電流値を保持する機能で 瞬間的に流れる高い電流値を確認することができる < 図 5> モータの突入電流測定 4) 漏れ電流の測定通常 電気機器へ向かっていった電流は一本の線を通って 100% 戻ってくる 漏れ電流がない場合は互いに打ち消し合い 測定値はゼロになる もし 漏れ電流があった場合 負荷側から流れる電流で誘起された磁界は 電源側から流れる電流で誘起された磁界よりも 漏れた電流の分だけ 少ない磁界が発生することになる その為 差し引き 漏れた電流の分だけの磁界を測定できる -16-
< 図 6> 漏れ電流の測定方法 5) 計装電流 (4-20mA) 測定計装電流とはポンプやモータなどのアナログ量 ( 流量 温度 電力 重量 圧力等 ) を計測 制御装置に伝達する際に変換する電流信号をいう 直流電流の4mAを最小値 20mAを最大値としてア < 図 7> 計装電流 (4-20mA) ナログ量を表している 例えば 12mAの場合は最大値の半分 (50%) のアナログ量になる また断線や故障が起きた場合と信号 0の状態を区別するため 0mA~4mA( ライブゼロ ) の範囲を設けている 計装電流を使用している設備例を図 8 に示す この場合では 水量を4-20mA の電流値に変換している 4-20mAの信号によりモーターポンプが流す水量を制御している < 図 8> 計装電流で制御された設備この計装電流がアナログ量に対して正しく発信されているかを確認するために計装電流を測 -17-
定する必要がある 計装電流 (4-20mA) 測定方法の一例として 測定回路に250 Ωの抵抗を直列に挿入しマルチメータでその電圧を測定しオームの法則で計装電流を算出する方法がある ただし この方法では回路を切 < 図 9> 4-20mA 信号の確認方法断して抵抗を接続する必要があるため 測定に手間がかかるのと 長い信号線を測定した場合にノイズの影響を受けやすいなどの欠点がある 4-20mA 測定用のクランプメータではクランプするだけで計装電流を測定することがきるため 従来に比較して簡単に確認することが可能 6. 共立電気計器のクランプメータご紹介 交流電流測定用クランプメータ KEW 2200R 標準価格 12,000 薄型 計量ポケットサイズのクランプメータ AC 0.01~1000A AC/DC600V 抵抗 導通 測定機能 付き 交流電流 直流電流測定用クランプメータ MODEL 2033 標準価格 25,000 小型 計量 AC/DC ミニクランプ AC/DC 0.01~300A KEW 2200R MODEL 2033-18-
漏れ電流 負荷電流測定用クランプメータ MODEL 2433R 標準価格 36,000 ピークホールド機能付中口径実効値タイプのリーククランプ AC 0.01mA~400A フィルタ ピークホールド機能付き MODEL 2433R 7. さいごにクランプメータは 電気工事 電気保守関係の現場では欠かせない測定器のひとつである 性能の向上とともに 大電流の測定 フレキシブルコアによる大口径化 微少直流電流の測定等 様々なアプリケーションに対応できるよう改良が加えられている 種類も非常に多いので 各測定器メーカのホームページ カタログ等を確認した上で 測定の目的にあった最適なクランプメータを選ぶことが重要である 参考文献 1. 一般社団法人日本電気計測器工業会電気測定器の技術解説クランプ電流計 2. 共立電気計器株式会社クランプメータ測定ガイドブック -19-