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() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から


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Study on Cissing Phenomena Observed in Application of Waterborne Paints Kazutoshi Sugiura Miki Aoki

水性塗料のハジキ現象に関する研究 1. はじめに EPMAによるハジキ分析事例ではハジキ部位に微量のSi成 分が検出されている このように原因物質が特定できると そ れが発生する原因や場所を推定しやすくなり ハジキトラブル 沈静化への近道となる しかし実際には 他のトラブルに比 塗液中 気液界面 もしくは被塗物/塗液界面に低い表面張 べハジキは原因物質を特定できない場合が非常に多い そ 力を有する部位 汚染部位 が存在すると そこを中心に塗 れは ハジキ部の分析が極めて微小微量を対象とする分析 液がはじかれてくぼみが発生する 一般的に被塗物表面が であるというだけでなく 塗料の乾燥過程における揮散 分 見えるほどくぼんでいるものをハジキ 被塗物表面まで到達 散等により 分析時における原因物質の量がハジキ発生時に していないものをヘコミ 又はヘコ と言うが ヘコミも含めて おける量に比べ減少してしまう もしくは完全になくなってし ハジキと言う場合もある 図1に自動車塗装塗膜の断面写 まうことが多いためである このためブツ等の塗膜欠陥に比 真を示すが クリヤーコートにおいてハジキが発生している べハジキの分析は難しく かなり高度な分析技術を要する 事が判る ハジキトラブルの沈静化にはハジキ物質を特定し塗装環境 から取り除くことが最重要ではあるが 実際には環境からハ ジキ原因物質を完全に取り除くことは非常に困難である そ こで 耐ハジキ性の良好な塗料を設計する必要があり その クリヤーコート ベースコート ためには塗料物性とハジキの関係を把握することが重要と なる 50μm 図1.05 ハジキ部位の光学顕微鏡写真 7-1-L ハジキ部 表面.04 Absorbance シリコーン油や長鎖のアルキル成分 油成分 等がハジキ を発生する原因物質の代表であり それ以外に塗料系に不 溶もしくは難溶の溶剤 気泡や異物などがある 塗料とハジ.03.02.01 キの原因物質が接触する原因には次の3つのケースが考え られる.00 ① 原因物質が塗料に混入した状態で塗装される場合 3800 3600 3400 3200 3000 ② 原因物質が被塗物上に存在し その上に塗装される場 2800 2600 2400 2200 2000 Wavenumber 1800 1600 1400 1200 1000 800 2800 2600 2400 2200 2000 Wavenumber 1800 1600 1400 1200 1000 800 合 STD.07 ケース①の場合 塗料中の特定成分が原因物質となる場.06 合と塗料製造や塗装機中で塗料以外の成分が 混入する場.05 Absorbance ③ 塗装後に原因物質が塗液にふりかかる場合 合の2種類ある ケース②や③では原因物質が塗料と接触 する機会は非常に様々であり 被塗物がもともと汚染された 正常部 表面.04.03.02 状態で用いられる 塗装環境で汚染物質がふりかかる 塗装.01 環境は問題ないが乾燥炉などで汚染される等がある また.00 スプレーなどによる塗装方法ではダスト状にふりかかった塗 3800 3600 3400 3200 3000 料自身が原因物質となりハジキが発生する場合もある この SEM観察像 ようにハジキは塗料自身に原因がある場合から 製造 塗装 環境に原因がある場合と様々であり非常に複雑である 以 上のことから ハジキが発生した場合 分析等で原因物質が 何かを突き止め それがどの過程で発生しているのかを把握 ハジキ部 することが重要である ハジキの 分析に は 光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡 SEM 等による形態観察と全反射法 ATR法 によるFTIR 測定や電子プローブマイクロ分析法 EPMA 等による組成 1 分析とを組合せて行うのが一般的である 図2 図3にハジ キの分析事例を示す 図2はハジキ部のSEM像と顕微ATR 法によるIR吸収スペクトルである ハジキ部に は 正常部塗 100μm 膜表面に認められないジメチルシリコーンが存在しており 図2 これが核となってハジキが発生していることが判る 図3の 13 顕微ATR/FTIR法によるハジキの分析結果 塗料の研究 No.147 Mar. 2007 報 文 ハジキ Cissing やヘコミ Cratering は塗装工程で発生す る塗膜欠陥の一つである 塗装後から乾燥過程にかけて

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水性塗料のハジキ現象に関する研究 では 双方の測定を実施したが試料間の微妙な差を正確に 粘弾性の測定条件 判断できる塗装塗料の表面張力測定値を用いて評価した 装置 HAAKE社製RS-150 測定温度 2 5 35 センサー コーン プレート φ3 5 /角度2 報 文 測定モード 応力掃引 30 応力 0 3 1 0 0Pa 表面張力 / mn m 1 周波数 0 1Hz 評価 応力06 Pa時におけるG'およびG'/G'' 2.4 塗液の表面張力測定 自動車用水性ベースコートの塗着塗液 塗装後の塗液 は 粘度が高いため ウィルヘルミー法 静止した白金プレート 25 20 15 が濡れた時の応力を測定 ではプレートに試料が完全には 濡れず 接触角が0にならない また白金リングを動かして 測定するデニューイリング法でも試料の粘性の影響が表面 10 モデルNo.7 モデルNo.1 張力測定値に反映されてしまうため これらの方法を適用す ることはできなかった そこで比較的高粘度試料まで測定 モデルNo.10 塗装塗料 が可能なペンダントドロップ法 液滴の形より表面張力を測 図10 定 を用いて測定を行った ペンダントドロップ法の測定原理 を図9に 測定条件を以下に示す 塗着塗液 ペンダントドロップ法による表面張力測定結果 2.5 被塗物の汚染状態評価 塗装前の被塗物の汚染状態を評価するため 接触角測定 を行い 式 2 式 3 に示すYoung-Fowkes式を用いて被 塗物の表面張力を求めた 水およびパラフィンの接触角を 測定することで 被塗物の表面張力の分散項 γs d および極 γ gρde 2 H 1 ds de 性項と水素結合項の和 γs p+γsh を算出した 接触角の測 定条件を以下に示す γ 表面張力 g 重力定数 ρ 液体の密度 H ds de 1に関する補正項 γs =γsl+γlcosθ 式 2 Youngの式 γs 固体表面張力 γsl 固液界面張力 γl 液体表面張力 de 図9 γsl γs γl 2γSdγLd 2γSpγLp 2γShγLh ペンダントドロップ法による表面張力の測定原理 γd γd γp γp γh γh 表面張力の測定条件 S L 2 S L 2 S L 2 式 3 Fowkesの式 装置 協和界面化学社製界面張力計PD-X型 測定温度 2 5 針の径 1 5G 外径1 8 γd 分散項 測定回数 5回 γp 極性項 γh 水素結合項 検討塗料 塗装塗料 および塗装1分後にサンプリングし 接触角の測定条件 た塗着塗液のペンダントドロップ法による測定結果の例を 装置 協和界面化学社製接触角計CA-X150型 図1 0に示す 塗装直後からセッティング中 昇温乾燥前 に ハジキ現象が発生したことから この間の表面張力が重要 測定温度 2 5 であると考えている しかしながら 塗着1分後では粘度は 滴下液 水 γld =2 91 mn m 1,γL +γlh=4 3 7mN m 1 p p パラフィン γld =2 44 mn m 1,γL +γlh = 0 かなり高く ペンダントドロップ法による表面張力測定にお 測定回数 7回 いても誤差が大きくなった 一方 塗装塗料の測定誤差は 小さく 塗装状態から塗着状態にかけて表面張力は低くな るが試料間の順列の逆転は起こっていない そこで本検討 塗料の研究 No.147 Mar. 2007 16