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1 1. 調査の目的 (1) 調査の背景と必要性カザフスタン共和国で生産される天然ガスは その殆どが原油の採掘に伴って産出する 随伴ガス であり 豊富な石油資源を有する同国では 油田開発に伴い大量の随伴ガスが発生している 2004 年末に実施された法改正により 同国では 緊急時を除く随伴ガスのフレア処理が全面的に禁止され 随伴ガスを有効利用しない場合には 原油生産量の減産など厳しい措置が取られる事となり 本格的な規制が開始された しかしながら 現実には 国内の安価なガス価格や ガス輸送インフラの整備の立遅れ ガス精製設備の能力不足 高い硫化水素含有率と大量に副生される硫黄処理の問題などから 随伴ガスの有効利用は一向に進んでおらず 2005 年上半期現在 同国の石油生産企業 34 社の中で 随伴ガスを適切に処理している企業は僅か 5 社であり 大部分の会社が随伴ガスの処理に関し今後何らかの対策を講じる必要性が生じている このような状態は 原油生産が経済成長の原動力となっている同国にとって憂慮すべき事態であり 随伴ガスの利用は早急かつ着実に進めなければならない問題となっている (2) 調査の目的本調査では このような状況を踏まえ カザフスタン国における随伴ガスを有効利用した発電事業の実施や新規産業の育成に関する検討を行い エネルギー使用の合理化に向けたマスタープランを作成するとともに 本邦企業の事業への参画を通じた我が国のエネルギー安定供給確保への貢献度についても検討を行った 随伴ガスは 産業用及び家庭用の燃料や様々な製品の原料として利用することが可能であり 同国関係者も随伴ガスを多面的に有効活用することで 同国のエネルギー使用合理化を進めたいと考えている また 随伴ガスを最大限に利用することで多くの新規産業を育成できる可能性があり これによる地域への多大な経済効果と新規雇用の確保が期待できる 2. マスタープランの基本計画本マスタープランの基本計画策定にあたり 現在の環境下で随伴ガスの有効利用が最大限促進され得る事業の選択を最重要視し かつエネルギー鉱物資源省などカザフスタン政府の意向も踏まえ検討を行った結果 ( 表 1 参照 ) 本マスタープランの構成事業として 随伴ガスを利用した 発電 液体ガス燃料の製造 販売 硫黄コンクリートの製造 販売 を選定した なお 硫黄コンクリートについては 随伴ガス中の硫化水素含有量が多い場合に適用する事業として 新日本石油 が開発を行っている改質硫黄固化体 ( レコサール ) を採用し また 液体ガス燃料については 既にカザフスタンで利用され 世界的にも製造技術が確立されている LPG(Liquefied Petroleum Gas) を選択した - 1 -

2 表 1 随伴ガス有効利用方法の優位性と課題 政策への合致 市場の有無 事業性 評価 1 現状 電気料金レベルが低いが 国内の電力需要は旺盛 発電事業は今後の産業政策の優先分野の一つとして謳われている 2 国土が広いカザフスタンには有効な手段 マンギスタ州などでは大きな市場が形成されている 但し 遠方への輸送はコスト増加が問題 3 政府は既存ルートの改修を優先 経済的に有利だが ルートが限定的であり かつ容量も脆弱 4 政府は積極的推進の立場 但し 国内の市場が未成熟なため 大きな需要は見込めない 価格競争力の高いロシア製品との競合も問題 5 - 政府が油層への再圧入に否定的な立場 1: 発電 4: 石油化学製品の原料として販売 2: 液体ガス燃料の製造 販売 5: 油層への再圧入 3: パイプラインによるガスの輸送 販売 写真 1 LPG スタンド 写真 2 レコサール製品例 ( マンギスタウ州アクタウ市 ) ( 消波ブロック 廃水ピット 漂砂防止マット ) 3. プロジェクト候補地点における具体的な事業 (1) プロジェクト候補地点本調査では カザフスタン国内の石油生産企業 5 社を訪問し 各社が所有する 6 地域 9 箇所の既設又は開発中の油田で調査を行った 個別プロジェクトの検討を行う候補地点の選定にあたり 日本及びカザフスタン双方にメリットのあるマスタープランの作成 という点を考慮し 油田の規模が比較的大きく 随伴ガスの発生量が豊富であり かつ油田所有者が今回のプロジェクトに関心を示している BMB MUNAI 社所有の開発中油田群 (Aksaz 油田 Dolinnoe 油田 Emir 油田 ) を候補地点として選定した なお 本油田群を含め今回の調査では 随伴ガス中の硫化水素含有率が高い油田で調査には至らなかったが Central Asia Petroleum 社が所有する西カザフ州の Typlovscoye コンデンセート田群では 随伴ガス中に若干量の硫化水素が含まれている - 2 -

3 ことから 随伴ガス中に硫化水素が含まれている場合の例として 本コンデンセート群 でも概略検討を行った 表 2 BMB MUNAI 社所有の油田群の概要項目内容 地点 マンギスタウ州アクタウ市東方約 50km オーナー BMB MUNAI 社 ( 米系企業 ) オペレーター EMIR OIL 社 ( カザフスタン企業 ) 原油埋蔵量 ( 確認量 + 予想量 ) ガス埋蔵量 ( 確認量 + 予想量 ) Dolinnoe:8 [ 百万トン ] Emir:10 [ 百万トン ] Aksaz:50 [ 億 Nm 3 ] Dolinnoe:45 [ 億 Nm 3 ] Emir:20 [ 億 Nm 3 ] 写真 3 Dolinnoe 油田油 / ガス分離設備 写真 4 Dolinnoe 油田フレア状況 (2) 事業内容及び計画本油田群で副生する随伴ガスには 硫化水素が含まれていないことから 対象事業として 発電 LPG の製造 販売 を選定した 事業概要を図 1に示す a. 発電事業今後カザフスタン国の各州では電力開発プログラム達成のため段階的に 50~ 200MW の新規電源開発が必要だと判断されること また現地調査でのヒアリングによる現地関係者のニーズなどを勘案し 出力規模として 100MW 級のプラントを選定した 発生した電力は油田群内で利用すると共に 油田群内の送電線を通してマンギスタウ州の地域配電会社へ売電する - 3 -

4 b.lpg 製造 販売事業 今回のプロジェクトでは 年間約 33,000 トンの LPG と年間約 18,000 トンのコン デンセートが生産される これらは 油田群内を通る鉄道又は車両にて輸送し 需要 の見込めるマンギスタウ州内へ販売すると共に ガスパイプラインが敷設されていな い地域への供給も視野に入れることとする 96.24MW (GT:32.78MW 2,ST:30.68MW) 発電設備 (GTCC) 電力 残留ガス 18,200Nm3/h Dolinnoe 油田 脱水設備 ガス冷却設備 LPG 製造設備 LPG 随伴ガス 20,700Nm3/h 32,900t/y コンデンセート 18,200t/y 図 1 Dolinnoe 油田における事業概要 (3) 硫化水素含有率の高い油田での事業 (Typlovscoye 油田群 ) Typlovscoye 油田群で副生する随伴ガスには 若干量の硫化水素が含まれていること から 対象事業は 発電 液体ガス燃料の製造 販売 硫黄コンクリートの製造 販売 である なお 発電事業の出力規模は Dolinnoe 油田と同等として検討を行った 結果を図 2 に示す 96.42MW (GT:32.87MW 2,ST:30.68MW) 発電設備 (GTCC) 電力 処理ガス 52,200Nm3/h 脱水設備 残留ガス 49,400Nm3/h ガス冷却設備 LPG 製造設備 LPG 20,700t/y スラグキャッチャー 酸性ガス除去設備 コンデンセート 43,100t/y 随伴ガス 52,900Nm3/h H2S,CO2 硫黄除去設備 液体硫黄 14.5t/d 硫黄コンクリート製造設備 レコサール 72.5t/d Typlovscoye コンデンセート田 排ガス処理設備 フライアッシュ 鉄鋼スラグ他 図 2 Typlovscoye コンデンセート田群における事業概要 - 4 -

5 4. カザフスタンから日本への原油輸出の可能性 (1) 原油の日本への輸送カスピ海周辺の油田から採掘される原油を日本へ輸出する場合の現実的なルートとして 以下が考えられる a. 油田 ~(CPC パイプライン経由 )~ 黒海沿岸積み出し港 ~ボスポラス海峡 ~ 地中海 ~ジブラルタル海峡 ~ 日本 b. 油田 ~(CPC パイプライン経由 )~ 黒海沿岸積み出し港 ~ボスポラス海峡 ~ 地中海 ~スエズ運河 ~ 日本 c. 油田 ~(BTC パイプライン経由 )~ジェイハン積み出し港 ~ 地中海 ~ジブラルタル海峡 ~ 日本 d. 油田 ~(BTC パイプライン経由 )~ジェイハン積み出し港 ~ 地中海 ~スエズ運河 ~ 日本 上記の何れもルートも輸送距離が長く 中東地域からの輸送運賃と比較して数倍のコスト増となるのは避けられず 日本への現物輸送は困難と判断される 湾岸戦争時における 中東産原油の CIF 価格高騰により 本邦石油会社がカザフ産原油を買い付け スエズ運河経由で日本に持ち込んだ実績があり 日本へのカザフ産原油の原物輸送については このように中東有事の際などの特殊な状況下においてのみ実現可能であると判断される CPC パイプライン 黒海 地中海 BTC パイプライン - 5 -

6 (2) スワップ取引による代替原油の日本への輸送一方 スワップ取引による代替原油の日本への輸送については イラン及びロシアルートが考えられ 政治的な要素が絡むなど解決すべき課題はあるものの 実現の可能性は十分にあると思われる a. イランとのスワップ取引イランとのスワップ取引は カスピ産原油を同国北部で受け入れ 首都テヘランを含むイラン北部の消費地に供給する一方 受け入れた原油と同量のイラン産原油を南部の油田地域から輸出するスキームであり 原物輸送に比べコスト面で非常に魅力的なルートである このため 本ルートは小規模ながらこれまで何度か実際に利用されているが 日本への輸出に利用された実績はない 本ルート実現の最も大きな障壁は イランの核開発問題等に絡み米国が反対の姿勢をとっている事であり 実現には日本及び米国を含めた各国政府間の政治的な対話及び解決が必要である また カザフスタンからの原油輸送手段として 既存のアティラウ~サマラ間や CPC パイプラインとともに 今後は BTC および中国ルートが選択肢として加わることを考えると イランルートに配分できる原油量は限定的なものとなる可能性もある この点については 本邦政府主導により日本への輸送分を確保すると共に 本邦企業が上流権益に入っていく事が重要な解決の鍵になると考える b. ロシアとのスワップ取引その他の選択肢として ロシアルートによるカスピ海周辺原油とロシア極東原油とのスワップ取引があげられる 本ルートの場合 ロシア受入側の精油所と引出側の精油所が同一企業により所有運営されていることが重要となるとともに 極東から太平洋沿岸へ原油を輸送するパイプラインの建設問題もあり 実現のためにはこれらの課題をクリアにする必要がある 5. 結論と提言 (1) 随伴ガスを利用した事業について a. 発電事業今回選定した3 事業の中で どの事業を実施するかは ガス性状 周辺インフラの整備状況 市場などを総合的に勘案し 地点毎に判断すべきであるが いずれの地点においても事業の核となるのは発電事業である この発電事業については 平成 15 年度に東北電力 が実施した調査 ( カザフスタン共和国における随伴ガス利用高効率発電事業化調査 ) で示されたように 政府により電気料金が低いレベルに抑えられているため 単独での採算性は決して高くなく カントリーリスクを加味すれば 投資可能と判断できるレベルに達するのは難しい状況にある しかしながら 本マスタープランで検討し - 6 -

7 た事業を状況に応じて適切に組み合せることにより 収益性が改善され 事業実現の可能性が高まると考えられる また 高品質 高信頼度の電力を比較的高い価格で買い取る意思のある企業を本調査で確認したことから 電力事業については これら企業への電力供給が事業実現のポイントの一つになると考える b.lpg 製造 販売事業カザフスタンにおける LPG の製造 販売は 広い国土を有する同国において有効な手段の一つであるが 一方で 遠方への輸送によりコスト増となることも事実であり 今後の検討項目として 鉄道など大量輸送手段に関する検討や詳細な市場調査があげられる c. 硫黄コンクリート硫黄コンクリートについては 硫黄含有率の高い随伴ガスが発生する油田の所有会社や政府行政機関から非常に高い関心が示された 現状における有望な適用先としては 大規模な都市再開発が行われているアティラウ市の下水道施設やカスピ海周辺の港湾設備 ( アクタウ港では港湾設備の拡張が計画中 ) などが考えられ 今後の課題としては これら販売先の開拓 輸送方法 硫黄コンクリート製造に必要な材料 ( 骨材 : 鉄鋼スラグ 珪砂 貝殻など 微粉体 : 石炭灰など ) の入手方法などの検討があげられる (2) カザフスタンから日本への原油輸出の可能性カザフスタンから日本への原油輸出については 中東地域有事などの際には原物を また通常時にはスワップ取引により代替原油を輸送できる可能性はあるものの 国際的政治課題の解決や 本邦企業による上流権益の確保などが必要不可欠となる 今回調査を行った一部の民族系油田では 資金力や技術力の不足から開発が滞っている地点もあり 本マスタープランで提案した 3 つの事業を基本計画とし 高い日本の技術力を十分に生かした魅力的な提案を行うことにより 本邦企業が上流権益に入り込んでいくというシナリオも十分考えられる 以上より カザフスタンからの日本への原油輸入が 日本のエネルギー セキュリティー確保の一手段となる可能性が十分あり この実現のためには 今後政府主導による官民一体となった積極的な取り組みが求められるのではないか - 7 -

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