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しじんすみい
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1 非効率な打者は本当に給料泥棒か? ~ プロ野球打者の総合成果指標効率性と年俸 ~ 田原猛志桃山学院大学経済学部 13e 年 11 月 123 日目次 1 スポーツの経済分析と給料泥棒仮説効率な打者非効率な打者とは? DEA を活用した先行研究と本稿のモデルとデータ種の DEA モデルによる打者の効率性の比較給料泥棒の翌年の年俸は相対的に低下するかつの総合成果指標と給料泥棒仮説給料泥棒と翌年の年俸分析結果の要約と残された課題考文献 i

2 1 スポーツの経済分析と給料泥棒仮説スポーツは多様な面から分析可能であり欧米で盛んな経済経営分析も次第に我が国に浸透しつつあるその経済分析の教科書の代表例であるリーズアルメン (2012, 第 1 章 ) によれば経済学では特に産業組織論公共財政論労働経済学の 3 分野との関連性が高いというさらに経営学やビジネスにまで対象を拡大すればすでに我が国でも多様な定量的な研究が行われているたとえば備前原田 (2010) はスポーツ選手が商品推奨者として果たす役割に注目し企業はスポーツ選手とエンドースメント契約を結ぶことによって商品普及を進展させるという消費者の購買行動を刺激する為のメッセージとして企業による広告を捉え信頼性専門性等のメッセージ効果に注目するのである特に広告する人物が推奨者として商品とマッチして放つイメージが消費者の購買行動に大きな影響を与えるので著名なスポーツ選手とビジネスの関わりあいは近年ますます拡大しているという本稿の分析対象はリーズアルメン (2012, 第 4 部 ) の分類に従えばプロ野球選手の労働市場に相当するといえるかもしれないしかし主たる分析手法としてはむしろ経営学で多用される DEA ( Data Envelopment Analysis: 包絡分析法 ) に基づいている事実我が国でもDEA を活用した野球に関する先行研究は多くたとえば橋本 (1995) 廣津上田(2009) 廣津 (2010) 丸山他(2010) 等がある本研究もこれらの先行研究と同様に DEA を活用するものの本研究の特徴はこれらの先行研究とは異なり Ruggiero(2011) によって提起された給料泥棒仮説とでも呼ぶべき議論に焦点を合わせ日本のプロ野球打者のデータを用いて仮説を検討する点にある 1 Ruggiero(2011) による給料泥棒仮説の要点とは 0 から 1 までの数値に集約されるメジャーリーグ選手の総合成果指標 (Aggregate 1 給料泥棒という言葉は Ruggiero 自身が使ったわけではなくその分析を日本プロ野球に適用しようとした南他 (2016) によるものである 1

3 Performance) とその選手の年俸とを比較し年俸が高いのに総合成果指標が低い選手を給料泥棒とみなすことにある本稿の第 3 章第 2 節の図 3 に描かれているように日本のプロ野球にも高年俸なのに成果の低い給料泥棒選手もいれば逆に低年俸でも好成績のお買い得選手もいるこのような散布図を使えば給料泥棒を一目でビジュアル化できるので多くのファンの関心を呼ぶだけでなく球団経営者の意思決定にとっても重要な情報を提供できるただしこの作業が散布図等で容易に行える理由は各選手の複数の成果指標 ( たとえば打者ならホームランや打率や盗塁数等 ) に DEA の手法を応用することによって単一の総合成果指標に集約できるからであるすなわち Ruggiero(2011, pp.39-40) の給料泥棒仮説の分析技術上の基礎は総合成果指標が全選手の投入を同一にした産出志向の VRS ( Variable Returns to Scale: 規模に関する収穫可変 ) モデルで推定できるという Collier らの研究にある 2 この手法の確立によって従来の各種野球統計とでも呼ぶべきセイバーメトリックスより容易に総合的な判断が可能となり給料泥棒仮説のようなビジュアル化もしやすくなったのである 3 しかしこの給料泥棒仮説には 2 つの疑問が残る第 1 の疑問は総合成果を推定する際にどのような個別指標を幾つ選択すべきかという点である事実上記の先行研究においても打者の評価であれ投手の評価であれ選択すべき個別指標に定説は未だに存在しないようであるというのもそもそも多くの先行研究では成果 2 Collier, T., Johnson, A. and J. Ruggiero (2010), Technical Efficiency Estimation with Multiple Inputs and Multiple Outputs Using Regression Analysis, European Journal of Operational Research. 丸山他 (2010 ) も CRS ( Constant Returns to Scale: 規模に関する収穫不変 ) モデルを用いて総合成果指標を推定しているようにみえるがそれを効率性と呼んでいるしかし Ruggiero(2011, p.41) が強調するようにそれは通常の DEA モデルの効率性 (Efficiency) ではなく総合成果指標として区別すべきものであるそこで本稿でも第 2 章の通常の DEA モデルの効率性と第 3 章の総合成果指標とを明確に区別する 3 廣津 (2010) は日本の投手評価についてセイバーメトリクスと DEA による結果を比較しており一部の相違は残るものの基本的な傾向は類似している 2

4 指標と年俸に有意な相関が実在するかどうかも検証されていないか r であるすると使用する個別成果指標やその数が異なれば総合成果指標や効率性も変わりうるのではないだろうか第 2 の疑問は複数年契約の場合を除けば今年度の年俸は昨年度の成績の査定結果として決まるのが通常だからそもそも同一年度の成績と年俸とを比較して給料泥棒と決めつけること自体に無理があるのではないかという点である言い換えれば今年度の成績が年俸に比べて低くても来年度の年俸が下がっていれば真の給料泥棒とは呼べないのではないだろうか今年度の年俸は今年度の活躍への球団の期待にすぎないからであるそれゆえ今季の期待が裏切られたとしても来季の年俸が調整されるなら給料泥棒と呼ぶような杜撰な年俸決定システムとは言えないだろうこれら 2つの問題を検討するために本稿の議論を次のような構成で展開する次の第 2 章では年俸を入力とし異なる産出変数を組み合わせた 4 種のDEA モデルの効率性を比較しやはり個別成果指標やその数が異なれば効率性の値も大きく変わりうることを例証する第 3 章では推定した総合成果指標と年俸との相関からいわゆる三冠から成る出力に着目し給料泥棒仮説を再構築するとともに翌年の年俸調整が統計的に有意に行われていることを実証するそれゆえ第 4 章では残された課題はあるものの給料泥棒仮説の提示には個別成果指標の選択が決定的に重要なことそして翌年には年俸調整が実施されているために一時的に過剰評価された選手も真の給料泥棒ではないと結論づけられる 2 効率な打者非効率な打者とは? 第 2 章では給料泥棒仮説への第 1 の疑問である打者の個別成果指標 ( ホームランや打率や盗塁数等 ) の選択如何によって最終評価結果も変わりうるのではないかという点を中心に分析するそうするために第 1 節では先行研究を参照しながら4 種の出力パターンを提案し年俸を入力とした通常のDEA モデルで効率性を推定する第 2 節ではこれら 4 種の効率性の順位相関を計測するとともに実際にワースト 10 およびベスト10 の顔ぶれを検討するこれらの選手は年俸で測った典型的な非効率な打者と効率的な打者の実例であり次章の給料泥棒仮説の検討でも重要な実例になるからである 3

5 2.1 DEA を活用した先行研究と本稿のモデルとデータ本稿が依拠する主たる先行研究はメジャーリーグの打者や投手の定量的な評価を分析したRuggiero (2011) の研究である特に本稿ではその 5 章で分析されている打者の給料泥棒仮説に焦点を当てる我が国では橋本 (1993) の先駆的な研究以降投手に比べて打者の評価に関する研究が少ないように思われたことがこの研究理由の 1 つである橋本 (1993) が強調したように産出志向(output-oriented) の DEA モデルによって所与の投入に対し産出がどれほど効率的かを示す尺度を得ることができる 4 その際, 産出および投入に複数の変数を考慮できる多次元評価手法である点がDEA の魅力の 1 つである実際に橋本 (1993) は産出に安打四死球盗塁犠打打点の5 出力 ( 産出変数 ) 投入に打席併殺打の 2 入力 ( 投入変数 ) を用いて打者の効率性を推定している 5 しかし本稿の関心は打席数よりもむしろ年俸に対する打者成績の効率性にあるさらに蓄積の豊富なメジャーリーグの研究と比べると橋本 (1993) の選択変数が必ずしも標準的であるとはいえないかもしれないそこで本章では年俸を入力とし出力は主として Ruggiero (2011, 第 5 章 ) のサーベイに基づく以下の4 種のDEA モデルを提案したい 1) DEA モデル 1 ( 三冠モデル ) 最初のモデルの産出変数は Mazur が提案したという三冠 (Triple Crown) つまり打率ホームラン打点の3 出力である 6 Mazur 4 逆に投入志向 (input-oriented) モデルでは所与の産出に対しどれほど投入を効率化しているかという尺度を得ることができる詳細はたとえば矢根 (2015) を参照 5 入力に併殺打が含まれているのは負の産出変数と捉えられているからであるまた本塁打や塁打は打点との相関係数が高いため産出変数には含めなかったということである 6 Mazur, M.(1995), Evaluating Relative Inefficiency of Baseball Players, in A. Chames, W. Cooper, A. Lewin, L. Seiford eds., Data Environment Analysis: Theory, Methodology and Applications, Kluwer. 4

6 自身の研究自体はすべての選手の入力を同一値に固定しているという意味で効率性ではなく総合成果指標とみなすべきものだと Ruggiero(2011, p.41) は指摘している本稿でも本章では年俸を入力とする効率性を次章では総合成果指標を推定する日本のプロ野球史上でも三冠王を取った選手は年の 2 リーグ制開始以来今日までの 6 5 年の歴史でも過去 7 人 ( 計 1 1 回 ) しかなく王貞治落合博光野村克也ランディバースなど球界を代表する選手たちであるそれゆえ三冠こそ打者評価のベースであるという主張には一定の説得力があろう 2) DEA モデル 2 ( CBI モデル ) 第 2のモデルの出力は Anderson らが導入したという CBI ( Composite Batter Index ) つまり四球一塁打二塁打三塁打ホームランの5 変数である 7 CBI という名称が示すとおりできるだけ多くの要素を考慮しようとする点で総合的な考え方である Anderson ら自体の研究における入力は打席数であったが上述したように本章の4モデルの入力はすべて年俸をとることにする 3) DEA モデル 3 ( Ruggiero モデル ) 第 3のモデルの出力は以上の2モデルをサーベイしたRuggiero (2011, 第 5 章 ) 自身が提案した 4 変数つまり四死球と一塁打の合計二塁打三塁打ホームランである基本的な考え方は Anderson らと同じだが死球を加える一方でワンベースとなる変数をまとめて4 変数にシンプル化している点が異なる 8 4) DEA モデル 4 ( 田原モデル ) 第 4のモデルの出力は第 3のモデルの4 変数に盗塁数を加えた 5 産出変数モデルであるこのモデルを考案した理由は橋本 (1993) の考慮に加え特に近年のプロ野球事情があるたとえば巨 7 Anderson, T. and G. Sharpe (1997), A New Measure of Baseball Batters Annals of Operations Research ;73; Ruggiero (2011, p.41) はホームランや 1 塁打の評価のウェイト ( たとえば 0.4 と 0.1 ) をあらかじめ与えてやるモデルも検討しているがそのモデルとの順位相関は 0.98 と非常に高い 5

7 人の鈴木尚広選手のように最近では代走を専門にしても 1 軍で活躍できるほど走塁や盗塁が重視されているからである以上の 4 種の DEA モデルの効率性を推定するために 2013 年および 2014 年のプロ野球データフリークスからパリーグの規定打席数の半分を超える打者のデータを用いるこれは給料泥棒仮説を検討しようとした南他 (2016) の結果と比較するためでもある上述したように投入変数である年俸を所与として考えるので産出志向型のVRS を仮定し R のパッケージBenchmarking を指定に用いた種のDEA モデルによる打者の効率性の比較表 1は前節で説明した4 種のDEA モデルで推定された2013 年の 56 打者の効率性からベスト 10 とワースト10 を抽出したものであり DEA1 モデルでの効率性が高い順に並べている効率性の値が 1 の ( 島内や浅村らの ) 選手はVRS フロンティア上にいる効率的な打者でありその値が小さい ( 細川や稲葉らの ) 選手ほど非効率な打者ということになる 9 いずれのモデルの入力も年俸だから非効率な選手ほど ( 当該シーズンの ) 給料泥棒の疑いが濃い 2 億円の年俸をもらっていた稲葉選手の引退がそれを物語っているただしベスト 5の選手は DEA1 以外のモデルでも効率的だがすべてのモデルによるランキングが一致するわけではない最下段の 56 選手の平均値を比較すれば明らかなようにむしろ DEA1 モデルによる効率性は他のモデルよりも高くなる傾向があるこうした直感は図 1 によって確かめることができる図 1 は対角線上に 4 種の DEA モデルの効率性の分布を描き右上に順位相関係数左下に散布図を描いたものである明らかに DEA1 に基づく効率性の分布状況は他の 3 モデルとは大きく異なっている実際に散布図に示されるとおり順位相関係数も非常に値が小さいまた表 1 から高額年俸者ほど非効率になる傾向があるかもしれないと疑い各モデルの効率性と年俸の順位相関係数を計測してみたが最大でも DEA4 モデルの-0.19 で統計的に有意な関係はなかっ 9 産出志向型の効率性は 1 以上の値で示されることも多いが本稿では理解しやすいように Ruggiero (2011, 第 5 章 ) や矢根 (2015) にしたがってその逆数をとっている 6

8 たすなわちこれらの年俸で測った効率性は低年俸だからといって高く評価されたり逆に高年俸だから低く評価されたりする傾向はないのである表 1 効率性 ( ベスト 10 ワースト 10) と年俸 ID 選手名 DEA1 DEA2 DEA3 DEA4 年俸 19 島内宏明 , 浅村栄斗 , 長谷川勇也 , 中村晃 , アブレイユ , 中田翔 , 聖澤諒 , 内川聖一 , 今江敏晃 , 中島卓也 ,000 9 安達了一 , 金子侑司 ,200 4 後藤光尊 , スピリー , ラヘア ,500 5 坂口智隆 , 炭谷朗銀仁 , 稲葉篤紀 , 細川亨 ,100 平均値 ,810 出所 : プロ野球データフ Freak (2013 年 ) より作成以上の分析から確かに DEA2 と DEA3 のようによく似た個別成績指標を出力に用いれば効率性の順位相関係数も 0.99 と非常に高くなることを確認できるしかし他方では DEA1 と DEA4 のように少し異なる個別成績指標を出力に用いると効率性の順位相関係数が 0.53 と大きく低下することも事実である選択するモデルによって評価の順位が大きく異なるという事実は評価される選手にとってはきわめて深刻な問題であるたとえば表 1 の中島選手は DEA1 による評価ではワースト10 に属するが 7

DEA4 によるベンチマーキングでは最も効率的な打者の 1 人になるからである図 1 4 種の DEA モデルの効率性の分布と順位相関係数出所 : プロ野球データ Freak (2013 年 ) より作成そこで次章では総合成果指標を用いて年俸ともっとも高い順位相関をもつ出力に注目し給料泥棒仮説の検討を行うことにしよう 3

9 DEA4 によるベンチマーキングでは最も効率的な打者の 1 人になるからである図 1 4 種の DEA モデルの効率性の分布と順位相関係数出所 : プロ野球データ Freak (2013 年 ) より作成そこで次章では総合成果指標を用いて年俸ともっとも高い順位相関をもつ出力に注目し給料泥棒仮説の検討を行うことにしよう 3 給料泥棒の翌年の年俸は相対的に低下するか第 3 章では総合成果指標を用いて年俸との順位相関の高い個別成果指標の組み合わせを決定するとともに給料泥棒仮説への第 2 の疑問である翌年に年俸は調整されるかという問題を検討するすなわち第 1 節では三冠の出力が年俸ともっとも高い順位相関を示すこと第 2 節では EA1 の効率性が年俸の変化と有意な順位相関を示すことを例証する 8

10 3.1 4 つの総合成果指標と給料泥棒仮説すでに第 1 章で紹介したRuggiero(2011, pp.39-40) の説明によれば Collier らの研究によってすべての打者の入力を同一水準に固定した産出志向の VRS モデルによって総合成果指標を推定できるすなわち前章のDEA モデルの入力を年俸からある特定値に置き換えればその産出変数に応じた総合成果指標を推定できるのである図 2 4 種の総合成果指標 ap 年俸と順位相関係数出所 : プロ野球データFreak(2013 年 ) より作成そこで前章のDEA1-4 モデルに応じた総合成果指標のap1-4 モデルを想定しその総合成果指標を推定する前章の効率性と同じく 0 から 1 の値をとるがもはや年俸に対する効率性ではなく純粋な打撃の総合評価である点に注意すべきである図 2 はこれら異なる産出変数をもつ 4 種のモデルap1-4 によって推定された総合成果指標を図 1 と同じ様式で要約したものである図 1のDEA モデルのように図 2 の ap2 と ap3-4 の総合成果指標の間には非常に高い順位相関があるが ap1 との相関は非常に低い図 1 と異なるのは 2013 年の年俸 d13.sal との有意な順位相関の出現である Ap1-3 の 3 モデルによる総合成果指標はいずれも年俸と 5% 水準で有意な相関関係をもつただし私が提案した盗塁にも配慮した ap4 による総合成果指標は年俸とは有意な関係はない 9

11 すなわち特定の個別成果指標から推定した打撃成績の総合成果指標のみが年俸と一定の関係をもちうるのである表 2 総合成果指標 ap 1 ( ベスト 10 ワースト 10 ) と年俸の変化 ID 選手名 ap1 ap2 年 13 年俸 14 年俸比 25 浅村栄斗 ,500 8, 長谷川勇也 ,000 20, アブレイユ , 中田翔 ,500 15, 聖澤諒 , 内川聖一 ,000 27, 今江敏晃 ,000 20, 松井稼頭央 ,000 16, 李大浩 ,000 40, ヘルマン ,300 10, ラヘア , 中島卓也 ,000 2, 安達了一 ,500 3, スピリー , 坂口智隆 ,500 9, 金子侑司 ,200 1, 炭谷銀仁朗 ,700 7, 稲葉篤紀 , 細川亨 ,100 6, 平均値 ,810 8, 出所 : プロ野球データFreak(2013 年 ) より作成この点が重要なのはそもそもオリジナルな給料泥棒仮説は図の最下段の散布図によって表わされるがその場合でも ap4 ではなく ap1 によって推定された総合成果指標を使用すべきことを示唆するからであるなぜならそもそも成果指標と年俸に有意な関係がないならそこから給料泥棒を見出す理由を失うからであるそこで表 1 に対応するように ap1 による総合成果指標のベスト 10 ワースト 10 の打者を抽出したのが表 2 である年俸の水準と 10

12 その変化とを比較するために 2013 年および2014 年の年俸と前者に対する後者の比率も加えている 10 表 2から上位 10 人の年俸変化を下位 10 人と比べると年俸が上昇幅が大きいようにみえる特に上位では ap1,2 の三冠や CBI モデルの値の数値が同様に高く高評価を確認できる他方ワースト 10 の年俸を考察すると 3 人もの選手が昨季の成績に伴い引退戦力外通告によってプロ野球を去っているこの結果はたとえ今季には給料泥棒 ( ) あるいはお買い得選手 ) に見えても来季にはその修正が行われる可能性を示唆しており実際にそうであることを次節で実証しよう 3.2 給料泥棒と翌年の年俸以上の分析をふまえたうえで最初に給料泥棒仮説を再構築しておこうまず給料泥棒というからには図 2 の左下の散布図のように選手の年俸と一定の関係を有する ap1 のような総合成果指標を選択する必要があるいくら総合的に思えても ap4 のような指標では意味をもたないのに Ruggiero (2011, 第 5 章 ) や南他 (2016) ではこの重要な点の吟味がなされていないようである図 3は ap1 による総合成果指標を横軸に 2013 年の年俸を縦軸にとった散布図に単回帰直線と 95 % の信頼区間を加えたものである図 2 との相違は ( 図 4 と比較しやすいように ) 2014 年の年俸データを欠く 14 選手を除き選手のID 番号を明示した点である回帰直線が右上がりになっていることが示唆するように全体としては総合成果指標が高い選手ほど年俸も高いという傾向を確認できるしかし高年俸の 1 の李大浩や 10 のジョーンズや 2 の糸井嘉男は打撃評価も高いとはいえ 25 の浅村栄斗や 46 の中村晃と比べれば 10 引退等を含めて 2014 年のパリーグの規定打席の半分を満たさたないめに年俸データを欠く場合には 0 としているので倍率も 0 になる場合がある 11

きわめて割高である同じく 20 栗山巧や 38 の本多雄一も 29 の井口資仁や 39 の内川聖一と比較すれば明らかに給料泥棒であるこの他にも 3 の平野恵一よりも 22 のヘルマン 11 の松井稼頭央よりも 50 の中田翔を比較していくと年俸が高い平野や松井稼頭央よりもヘルマンや中田翔の方がお買い得選手であることが分かる図 3 ap1 による総合成果指標と年俸の散布図出所

13 きわめて割高である同じく 20 栗山巧や 38 の本多雄一も 29 の井口資仁や 39 の内川聖一と比較すれば明らかに給料泥棒であるこの他にも 3 の平野恵一よりも 22 のヘルマン 11 の松井稼頭央よりも 50 の中田翔を比較していくと年俸が高い平野や松井稼頭央よりもヘルマンや中田翔の方がお買い得選手であることが分かる図 3 ap1 による総合成果指標と年俸の散布図出所 : プロ野球データ Freak(2013 年 ) より作成しかし今季の成績が今季の年俸と比べて低かったからといって本当に給料泥棒と呼べるのかというのが本稿の第 2 の疑問であった来季の年俸によって調整されていれば球団が一定のコントロールをしている証拠でありそれゆえ真の給料泥棒とは言えないからである図 4はこの仮説を吟味するために横軸に第 2 章で推定した DEA1 モデルの効率性を縦軸に表 2 の 2013 年の年俸に対する 2014 年の年俸の比率 SalRat をとり図 3 と同様の加工を施した散布図である DEA1 の効率性を選んだのはそれ自身は年俸と有意な相関 12

14 がないにもかかわらず表 1 と表 2を見比べれば推察できるように ap1 による総合成果指標とは高い順位相関係数 (0.836) を有するからである図 4 をみれば明らかなように年俸を考慮して効率的な成績を残した打者の来季の年俸は大きく上昇し ( SalRat > 1 ) きわめて非効率だった打者の年俸は下落する ( SalRat < 1 ) 傾向があるもっとも表 2 に示されていた非効率な打者の中には引退やトレード等を余儀なくされた選手がいるもののここでは除外されているため年俸が減少する選手数は非常に少なくなっているしかし効率性が高いほど年俸の上昇も大きくなる傾向は見て取れよう図 4 DEA1 による効率性と年俸変化の散布図出所 : プロ野球データFreak(2013 年 ) より作成この傾向は統計的にも確かめることができる DEA1 の効率性と年俸変化 SalRat の順位相関係数は0.385 で 5 % 水準で有意だからであるこの効率性と高い相関を有する ap1 による総合成果指標は年俸変化とは有意な相関を示さないから年俸で測った打撃成績こそ来季の年俸査定の主要ベースになると考えられるたとえば 1 の李大浩は ap1 と ap2 の値も 1 に近い高評価の打者だが 46 の中村晃と比べれば年俸で測った効率性が劣るために年俸の上昇幅は相対的に低くなっていると解釈できる 42 の長谷川勇 13

15 也や25 の浅村栄斗と比べても同じ事が言える逆に言えば今季のお買い得選手の年俸の上昇は相対的に大きくなるのである以上の結果から 1 の李大浩のような高成績をあげた打者の来季の年俸は上昇しているもののより効率的な浅村や中村長谷川に比べれば相対的な上昇率は低いことを確認できる球団は打撃成績をもとに来季の期待を込めた年俸を決めその結果が給料泥棒 ( お買い得 ) 選手なら来季の年俸上昇を相対的に低く ( 高く ) するのである 4 分析結果の要約と残された課題第 1 章で述べた総合成果の推定の際にどのような個別成果指標を幾つ選択するべきかという疑問については選択する指標によって最終評価が実際に大きく異なりうること ap4 のような多くの指標を取れ入れてもかえって年俸との有意な相関を失う場合があることを例証したすなわち給料泥棒仮説を論じる場合には本稿の ap1 のような三冠モデルの出力を用いなければならないことが判明したのであるしかし同一年度の総合成果指標と年俸だけを比較して給料泥棒と决めつけるのはやはり早計である年俸で測った効率性と年俸の変化には統計的に有意な相関があり今季の給料泥棒の来季の年俸は今季のお買い得選手の年俸に比べて相対的に低下するからである言い換えれば球団は真の給料泥棒を見逃すような杜撰な管理はしていないのであるもっともこれらの給料泥棒仮説への 2 つの疑問への回答の正確さはサンプルの取り方によって変わるかもしれない本稿で分析したのは2013 年度のパリーグの打者だけで Ruggiero(2011) のようなメジャーリーガーの分析と比べればサンプル数が少ないからであるとりわけ第 3 章第 2 節ではトレードや FA を行使した選手も引退した選手と同様に除外されており非効率な選手の来季の年俸の分析に成約が生じているこれらの点は複数年契約の処理等とともに今後の課題としたい 14

16 考文献 Ruggiero, J., (2011), Frontiers in Major League Baseball, Springer. 大竹文雄,(2005), プロ野球監督の能力, 日本労働研究雑誌どっかで使うよう日本野球機構オフィシャルサイト年 1 0 月確認廣津信義, ( 2010 ), 野球投手における DEA とセイバーメトリクスによる評価の比較日本オペレーションズリサーチ学会春季研究発表会アブストラクト集, 橋本,1995, DEA による野球打者の評価オペレーションリサーチ備前嘉文原田宗彦,( ), スポーツ選手が消費者の購買行動に及ぼす影響, 早稲田大学スポーツビジネス研究所, スポーツマネジメント研究第 2 巻第 1 号廣津信義, 上田徹, ( 2009 ), D E A を用いたプロ野球の投手の評価, オペレーションリサーチ NIT-Electronic Library Service プロ野球ヌルデータ年 1 0 月確認プロ野球フリークス年 1 0 月確認丸山貴広寺社下晃正道寺勉, ( 2010 ), プロ野球投手の評価方法に関する一考察自動制御連合講演会公園論文集, 53(0), 4-4. 南貴也, 田中周太, 芳賀勇一 ( 2014 ), 給料泥棒は誰なのか桃山学院大学卒業論文集矢根真二, ( 2015 ), 現代ベンチマーキングの普及, 桃山学院大学総合研究所紀要リーズ, M. P. アルメン, (2012), 済社. スポーツの経済学中央経 15

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd 第7章57766 検定と推定サンプリングによって得られた標本から, 母集団の統計的性質に対して推測を行うことを統計的推測といいます本章では, 推測統計の根幹をなす仮説検定と推定の基本的な考え方について説明します前章までの知識を用いて, 具体的な分析を行います本章以降の知識は操作編での操作に直接関連していますので, 少し聞きなれない言葉ですが, 帰無仮説有意水準棄却域などの意味を理解して,