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1 第 4 回 11 月 1 日講義のテーマ 1 農家をどうみるか? 歴史上大きな再編期にさしかかった日本の農家 : あらためてその基本的な性格を考えてみるキーワード : 家族経営, 二面性, 農業純収益 2 他産業に比べ農業の成長が遅れる要因 キーワード : ペティー クラークの法則, 需要の限界 前回の設問 (10 月 26 日 ) : 中山間地域における耕作発生要因のメカニズムを 事例を用いて述べてください 通作の便の悪さ 機械利用の困難さ ( 地理的な条件不利 ) 労動力の高齢化 農村の過疎化 気候変動の影響を受けやすい 生産調整 農産物価格の低迷 1 2 高齢化 農作物の価格低迷による収入の減少で後継者不足労働と収入のバランスがとれていないため農業をやめる人がいる 自然災害による収入の不安定さも要因であると思う 労動力の減少には農産物の価格低迷により より利益のある別の仕事に就こうとする人が増えていることも考えられる 1 区画が小さく 傾斜が多いため整備しにくい 交通が不便なため 作物の輸送にコストがかかり収入が減る 私の地元でも畑を耕している人は皆 高齢だと感じる 3 中山間地域で発生している不耕作地を農地資源として有効利用するための国がすべき施策は何か 1) 環境保全の視点獣害対策農地の外部委託定期的な圃場整備外部経済効果に対する補助金廃棄物等の不法投棄の防止植林 ( 土砂災害防止 二酸化炭素削減 海の資源保護 ) 放棄された土地を国有化して 農業従事者に無償提供価格支持政策厳しい環境での栽培に向く作物への切替景観作物の栽培農地管理のためのリーダーシップ農作業受諾業者へのサポート里山としての価値の認定環境教育の場として利用 4 1

2 2) 食料確保の視点耕作放棄地の把握獣害対策水田からの転作傾斜地の整備服役中の人にさせる国産農作物の消費量を高める外部委託地産地消の推進近くの農家 集落で農地を共有後継者探し ( 定年退職者等 ) 価格支持 ( 収入の拡大 ) 育てやすい作物の開発農地の貸与耕作放棄地に関する情報公開 疑問点と不明な点 どうして豊松を調査しているのですか? 作物転換でどうしてトマトになったのですか? 1 中山間地域の農業構造 経営がどのようになっているか? 2 豊松地区では第三セクター方式で農作業の請負作業を実施 これが広島県内ではとてもユニークな試み その実態を調査したかった ( 先進事例のひとつと考えられた ) 3 行政のほうから, 今後の農業振興のあり方, 第三セクターの運営の仕方等について, 調査して欲しいという依頼 トマトが普及したのは, トマト栽培に早くから取り組む農家グループがあり, 技術的に優れたものをもっていた 傾斜地 ( 畑地 ) を利用したハウス, 土地利用型農業の展開はできないと判断, 施設利用型農業に活路を見いだそうとした 農協, 自治体もその方向を有効と判断 栽培農家が増えるにしたがって, 出荷体制が整い, 栽培しやすい条件となった 5 6 疑問点と不明な点 農業公社は第三セクター ( 企業との違いに関する質問 ) 国 地方自治体 ( 第 1 セクター ) と民間 ( 第 2 セクター ) の出資による官民共同経営組織 民間資金の導入 民間ノウハウの活用 機動的な意思決定 などのメリットを強調して とりわけ 1980 年代後半以降に多数設立 一定の成果をあげている法人も少なくはないが 最近は, 経営見通しの甘さや放漫な経営で破綻し, 整理される第三セクターがめだつ 農業分野でも多種多様な第 3 セクターが設立 農業補助金を受けやすいこと, 自治体が管理 運営に関与できること, 民間だけでは資金 技術等が不足して対応できないこと, などが設立の理由 豊松では, 自治体が農業施設投資が必要と判断, この方式が選択された 日本農業の現状をどうとらえるか 農業の地位の低下 7 2

3 1 ー 1 農業部門の縮小 1-2 農家数, 耕地面積,etc. 1 経済が発展するにつれて農業部門の割合は縮小 1) 国内総生産 (GDP) に占める割合国民所得の水準が高くなると農業の国民経済に占める割合が小さくなる 2) 農業就業人口の割合減少, 絶対的にも減少工業部門の拡大によって農業就業人口が吸収される ( 賃金水準の高い部門に流れる ) 経済成長 : 就業人口の移動 1 次 =>2 次 =>3 次 歴史的に経済発展が進むと,GDP( 国内総生産 ) に占める農 業部門の割合が低下することが確認されている 農家数, 耕地面積,etc. 2 国内生産の縮小と加工品消費 外食の拡大 戦後の日本農業を担ってきたのは, 昭和一桁世代 1985 年に 50 歳代になり,90 年に 60 歳代, 今は 70 歳代となって, リタイアしている それでも農業の中心的な担い手になっているのが日本農業の現実 昭和一桁世代 逆に, 団塊の世代は農業には少ないのが特徴 直接消費向けの縮小が顕著 ゼミナール現代社会と食料 環境 農業 より 11 ( 資料 ) 食料 農業 農村白書 ( 平成 19 年度版 ) 3

4 2 ペティー クラークの法則 日本固有の問題ではなく, 歴史的な傾向的法則であると考えられている ( ペティー クラークの法則 ) 経済発展とともに, 工業を中心とする近代部門の生産性の向上が農業を上回り, 農業の比較優位が失われるという理解 開発途上国農業生産性上昇の工業に対する遅れ先進国農業の相対的縮小の原因は需要面にある この法則は, 途上国と先進国では発現の仕方が異なる日本 : 農業は高度経済成長に大きく貢献 ( 韓国も同じ ) ( 参考 ) 何故, 途上国は工業化を急ぐのか? 製造業などの 2 次産業に比べて成長速度が遅く, 生産性が低い 将来的に農業に国を引っぱっていく力がないと判断し, 工業化を急がせる政策を採用する場合が多い資本を都市 製造業部門に集中させる政策人口移動を引き起こして都市に労働者群を形成させる都市を中心に市場を創設する 外国との貿易で農産物を中心にした輸出, 工業製品の輸入では, 交易条件 が不利になる後述 : 農産物の所得弾力性の低さ工業製品の所得弾力性の高さ, など 図販売農家戸数の推移 ( 主業農家, 準主業農家, 副業的農家 ) ( 平成 12 年 =100) 3-1 なぜ, 農業は相対的に縮小するのか? ( 需要面からの説明 ) 1 需要の所得弾力性 から考えると 需要の所得弾力性 = 需要の変化率 / 所得の変化率需要の変化率 = 需要の所得弾力性 * 所得の変化率 ( 経済成長率を1 人当たり実質 GDPとみなす ) それぞれの部門の生産物に対する所得弾力性は異なる 需要の所得弾力性が小さいほど,GDP の成長率が高いほど, GDP に占める農業の割合は急速に低下する ( 資料 ) 食料 農業 農村白書 ( 平成 19 年度版 ) 主業的農家の減少割合が高い! 1より大きい商品は需要の増加率はGDPの増加率よりも高くなる 16 4

5 3-1 なぜ, 農業は相対的に縮小するのか? ( 需要面からの説明 ) 2 農業の割合の変化率 = 農業生産物の成長率 GDP の成長率 = 食料需要の所得弾力性 *GDP の成長率ー GDP の成長率 =( 食料需要の所得弾力性ー 1)*GDP の成長率 需要の所得弾力性が高い商品作物を作る動き所得弾力性が高い農産物? 低い農産物? 食料の所得弾力性が 1 よりも小さいと, 成長率が小さくなってくる なぜ, 農業は相対的に縮小するのか? ( 需要面からの説明 ) 3 エンゲルの法則から考えると 家計費にしめる飲食費の割合は, 家計費の総額が大きいほど低下する傾向がある 食料は家計費が豊になってもいくらでも欲しいという商品ではない 消費できる量には限界がある * 効用 : 消費者が財を消費するときにえる欲望満足の度合い限界効用 : 財の消費量が増加していくときの追加 1 単位当たりの効用 世帯の飲食費支出の合計 : 民間消費支出に占める割合は小さくなる食料を生産する産業部門の GDP に占める割合が小さくなる 荏開津典生 農業経済学 より 18 ( 参考 ) エンゲル係数と限界効用 エンゲル係数 (%) 食料費 / 消費支出 *100 一般的に生活水準が上がるにつれて低下する 所得水準が上昇すると, 必需品の購入から嗜好品の購入を促す 日本 : 経済不況下であった時期, 消費支出が減少した ( 今もその傾向がみられるが ) エンゲル係数が低下したのは, 生活費を切りつめる必要から食料費を削減した 限界効用逓減の法則 財の消費量が増加していくときの追加 1 単位当りの効用を限界効用といい 財の消費量の増加とともに限界効用がしだいに減少することを 限界効用逓減 ( ていげん ) の法則 という 農業は相対的に縮小するのか? 1 ( 需要の所得弾力性の視点から ) 所得の変化に対する需要量の変化需要の変化率 ( Q/Q) 所得弾性値 *= 所得の変化率 ( I/I) 所得弾性値が正 : 所得の増加にともなって消費が増える ( 上級財 ) 所得弾性値が負 : 所得の増加にともなって消費が減る ( 下級財 ) 1 必需品的な食料品 : 所得弾性値が小さい 2 嗜好品的な食料品 : 所得弾性値が大きい 調理食品は増加 それ以外は, 需要の所得弾力性が低く,1 人当たりの所得が増えても, その需要の増加は見込まれない 20 5

6 3-2 なぜ, 農業は相対的に縮小するのか? ( 需要の価格弾力性 ) 2 価格弾性値 : 価格変化に対する需要の変化率消費者は, 価格が上がれば, 需要量を減らし価格が下がれば, 需要量を増やす 価格弾性値 = 需要の変化率 価格の変化率 通常この値はマイナスとなる 絶対値が 1 よりも大きい時, 価格に対して弾力的である 1 必需品的な食料品 : 多少の価格の高低でも, 食べる量が変わらない 高くても食べる 安くても多くは食べない米, 野菜 2 嗜好品的な食料品 : 価格の高低によって, 食べる量が変わる 高ければ食べない 安ければ多く食べるかつての果物, 肉類 21 工業製品の弾力性は高い : 価格が下がると需要が増える度合いが高い 価格P+ P P P Q/Q 価格弾性値 = P/P 嗜好品的な食品必需品的な食品 4 経済発展における農業開発の役割 1) 食料供給の質的安全と量的安定の向上農業 非農業部門の発展に貢献 2) 農業労働の限界生産性向上によって非農業部門への労働力資源の移動を促進 ( 農業部門の近代化 => 産業部門への労働力移動 ) 3) 農業部門での雇用機会が増え, 所得向上 消費市場が拡大 4) 農業生産の増大によって GDP, 政府収入の増大に貢献 5) 農産物輸出によって外貨獲得, etc. Q+ Q Q Q 需要量 農業の近代化 : 非農業部門とりわけ工業部門のインパクトが農業部門に与えられて, 農業部門がそれに呼応する 24 6

7 ( 参考 ) 農業の経済成長への貢献 農業発展のフローチャート 土地供給の制約 土地価格の上昇 工業化 近代的投入財の供給 肥料価格の低下 農業機械価格の低下 農村余剰労働力の吸収と活用 農業賃金の上昇 演習問題 1) 経済成長にともなって国民経済に占める農業の比重が低下する現象を, 食料 農業 農村白書 などに掲載されている諸統計で確認してみよう 2) 開発途上国が農業開発にではなく, 工業開発に重点を置こうとする理由を考えてみよう その開発戦略は成功すると思うか, 失敗するだろうか 肥料集約的農業の展開 機械化農業の展開 3) 経済発展にともなって農家戸数が減少せず, 農村に過剰人口が滞留したとすると, どのような社会問題が生じるだろうか 渡辺利夫 開発経済 25 学 より ( 農家の厚生水準の上昇 ) 農業生産性の向上 26 7