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ほのかうなだ
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1 139 長春市における満州国遺跡群の諸様相周家彤中国東北地方の中心都市である長春市における満州国遺跡は観光資源として注目を集めているところが満州国遺跡に関する中国国内の認識は時代によって異なる本稿では観光資源に関する拙稿長春市における満州国遺跡群に引き続き中国の解放戦争解放初期文化大革命経済改革開放との 4 つの時期における遺跡の諸様相から歴史遺産の時代性を明らかにしそして現代市民社会の論争における満州国遺跡群の様相を明らかにするその目的は観光資源を通じて国際社会の理解を深め長春市における満州国遺跡を世界文化遺産として捉える可能性を探ることにあるはじめに経済と社会の発展に伴い人間の文化的欲求が高まっている 1) 多文化共生の 21 世紀の今日観光文化の国際化時代を迎え地域文化は国際交流の舞台に登場したここに中国東北地方の中心都市である長春市における満州国遺跡も今日国内外の観光資源として注目を集めているところが満州国遺跡に関する認識は時代によって異なるそれは満州国をめぐる歴史認識問題に影響を与えているその歴史認識問題とは満州国をめぐる肯定論と否定論の対立であるそれによって満州国遺跡問題についても認識の共存積極的に観光資源を活性化していけない何かを感じる歴史の視角から見れば第一世界大戦後の世界史的状況の変化とナショナリズムの高揚に伴い日本植民地時代の満州国の主権と経営権は関東軍に支配され満州国は経済的にも文化的にも日本本土と異なる歴史を歩んでいた 2) また満州国崩壊後中国は紆余曲折の歴史過程と政治変革を経て満州国についての認識も変化して来た一方 1980 年代以来の中国では国家の統一を守り強めるために愛国主義が強調されて来た現在日中国交の回復はもう 39 年を迎えこのような背景のもとでどのように満州国時代に残された遺跡を捉えるか現時代の課題になった特に国際理解を深め価値観対立を避けるために満州国遺跡の管理と保存はどうあるべきかそれをめぐる観光はどうあるべきかについて深く検討する必要があると思う本稿では観光資源に関する拙稿長春市における満州国遺跡群 ( 愛知淑徳大学大学院現代社会研究科編刊現代社会研究科研究報告 6 号 97 頁 ~111 頁所収 ) に引き続き中国の解放戦争解放初期文化大革命経済改革開放との 4 つの時期と現代市民社会の論争における遺跡の諸様相から歴史の流れにおける社会変動の諸要因が満州国遺跡に価値評価に対する影響を明らかにしさらに遺跡に関する価値変遷の側面から歴史遺産の時代性を明らかにする目的は観光資源を通じて国際社会の理解を深め長春市における満州国遺跡を世界文化遺産として捉える可能性を検討することである

2 140 現代社会研究科研究報告 1. 解放戦争時期における満州国遺跡群 1945 年光復後日中間の戦争は終結したが満州では新たな戦争が始まったすなわち日本軍の撤退後国民党と共産党の国内戦争である解放戦争が新たに始まり 1948 年の長春解放まで続いたその時の満州国遺跡群は国民党第 60 軍の支配下にあり大部分が国民党の軍政機関に使用されていた中でも満州国皇宮は松北連中となった 3) 松北連中とは松花江北の解放区からきた逃亡した地主や資本家の子弟学校である満州国国務院は励志社と称するアメリカと国民党政府の連合米蒋特務機関に使用されたという 4) 歴史は人類社会の過去における変遷興亡のありさまであるが満州国歴史のありさまをどのように記載すべきであるかは難しい問題であるその理由は 2 つあるひとつは満州国は国際的な公式における様相は曖昧でありもうひとつは満州国は中国の歴史王朝変遷におけるありさまも曖昧だからであるしたがってそのことが長春市における満州国遺跡の位置づけを難しくしている国際的な公式の立場からから見れば 1894 年 4 月下関条約にはじまり 1945 年 7 月ポツダム宣言受諾による太平洋戦争終結に終った日本植民地帝国の歴史において日本支配下の満州国は山本有造が論文満州国に述べたように日露戦争 (1904 年 ~1905 年 ) 後関東州と満鉄附属地からなる租借地の経済的な点と線の支配権をも超えたものであったすなわち満蒙特殊権益は日本自ら自由に肥大化させたものである 5) 中国の封建王朝清の延長として考えれば清王朝はヌルハチ 1616 年に即位してから末帝 ( ラストエンペラー ) 溥儀 6)1912 年に退位するまで 12 代約 300 年にわたり皇帝溥儀は 1908 年に僅か 3 歳で即位し辛亥革命により 1912 年の中華民国成立とともに退位した彼は末帝と言われているが満州国の皇帝を指すものではない実質的には 1932 年にはじまる満州国皇帝溥儀の在位期間においていわゆる龍の帰郷復辟を夢みて 7) とは真の皇帝ではなく傀儡の皇帝でありその国家も独立国家ではなかったその統制は政府形態と統治実態の乖離 8) 状態だと言えるしたがって傀儡国家満州国は偽国という国際非難 9) にさらされていた以上から光復後の中国ではその満州国の遺跡はいつも偽満州国遺跡と言われ今日に至っている 2. 解放初期における満州国遺跡群 1948 年長春解放後満州国遺跡群は中国人民解放軍とその地方政府の管轄になりその内満州国皇宮は第一自動車製造場技工学校や吉林省文化幹部学校 10) などに使用された満州国国務院の建物は中国人民解放軍軍医大学に使用されその後その軍医大学は諾尓曼白求恩 (Norman Bethune)(1890~1939) を記念するために白求恩医科大学に改名された 1949 年 10 月 1 日以後の社会主義国家の中華人民共和国吉林省政府と長春市政府にとって満州国遺跡の主な価値は有用性すなわち使用価値にあるところが例外もあったようでありそれは満州国新宮殿遺跡に関してであるそれはもともと国都広場の正面に設けられ正式な満州国皇帝溥儀の宮殿となる予定であったしかし当時の資材不足と太平洋戦争における戦況の悪化により 1943 年にその建造は中断され満州国崩壊に至った残されたのは建物の基礎だけであった使用価値もな

3 長春市における満州国遺跡群の諸様相 141 い物であるにもかかわらず満州国の皇宮であるからそれを無視するわけにはいかないという考え方が強かったようである 1949 年中国建国後新宮殿に関する議論が各方面から起こった中国人は建築技術がないので先進的な宮殿を建築することができないのであるという主張もあったようである筆者が子供の時すなわち 1970 年代に伯父がそのように言っていた中国政府は中華人民は進取の気性があり能力があり自分の国家を建設することができるという発言をし新宮殿工事を再開する計画が立てられ建築家梁思成 ( ~ ) 11) がその工事を担当することになったその梁思成は東京生まれで 1898 年戊戌変法に失敗して日本に亡命した清朝末期の改革派の指導者である梁啓超の息子であり 30 年代にハーバード大学大学院で建築学の博士課程を修了した後帰国していた梁思成が担当したその工事は 1953 年に起工し 1954 年に五階建ての中国伝統的な宮殿式建築が落成したまたその建物は落成した 1954 年に中国科学院院長郭沫若により地質宮 12) と命名され長春市地質学院の教学棟として使用されてきた 2011 年現在それは吉林大学付属地質博物館となっている地質宮の落成は中国人の自立意識を象徴しているように思われる 1958 年から 1960 年前半にかけて毛沢東の提唱で展開された全国規模の大衆運動大躍進 13) 運動の影響で満州国遺跡をめぐる議論は一時的に影を潜めたしかし大躍進運動の後社会秩序の回復に伴い文化的遺産として歴史遺産として評価され始めたそれは 1962 年 7 月に中国共産党中央宣伝部副部長周揚が偽皇宮を観覧したことを契機としている 1962 年 12 月 1 日に吉林省常務委員会は周揚の指示により将偽皇宮遺址移交省文化局籌辨陳列館的決定すなわち偽満州国皇宮遺跡を吉林省文化局に引き渡し陳列館を企画する決定について合意をし 12 月 3 日に同じ趣旨の中共吉林省委員会弁公庁 148 号文件が決定されたそして 12 月 31 日人事異動に関する管理機関である吉林省編制委員会の審査を経て偽満州皇宮陳列館に弁公陳列研究資料の 4 室を設置し事業人員編制 68 名を割り当てるという報告がなされたそれを受け翌 1963 年 7 月に偽皇宮に偽満州国皇宮陳列館と吉林省博物館が併設された 14) こうして偽満州国皇宮陳列館は吉林省の文化事業の一部として歴史的に満州国仮宮殿の姿を国内各地の見学者に開放することになった 3. 文化大革命時期における満州国遺跡群 1966 年 5 月から文化大革命 15) が始まり中国は階級闘争の展開を中心とする時代となった毛沢東林彪らを主導者として江青らいわゆる 4 人組が責任者となって直接大衆を組織し中国の政治思想文化に関する闘争を行なったその末期にはクーデタ未遂による反逆者となった林彪と孔子に代表される儒家思想の反動的反革命的性格を批判し一時は中国全土に広まり批林批孔が唱えられた中国では階級闘争が展開され内乱に陥った 1966 年 6 月 1 日に人民日報の社説に破四旧 16) ( 旧思想旧文化旧風俗旧習慣の打破 ) というスロ-ガンが掲げられた同年の 8 月 1 日 ~12 日に開催された中国共産党第 8 回第 11 次会議で合意された文化大革命に関する決定で破四旧が肯定されたその時建造物についても批判の対象になった

4 142 現代社会研究科研究報告上記の満州国新宮殿 ( 地質宮 ) の建設技術担当者梁思成はもともと 1955 年における設計では大屋根など民族的な様式を用いることにしていたがそれに対し現代建築家楊正彦らは高コストであり復古主義であるとの理由からそれを批判した中国共産党中央政治局の批判にさらされることになったこのため梁自身が自己批判し政治的に決着がつけられたしかし文化大革命開始の 1966 年になって再度これが問題とされ彼は身柄を拘束されその上市中引き回しを受け罪の告白を強いられている 17) この時期における満州国遺跡も破四旧の対象とされ一部は破壊され他のものは破壊されていないまでも疵つけられた閉館した博物館も紅衛兵によって破壊され収蔵されていた文物の大半が流失してしまった長春市における他の満州国遺跡はこの時代に無産階級を擁護する文化大革命に対立するシンボルであるかのように破壊の対象とされていた毛沢東の死後江青らいわゆる 4 人組が文化大革命の責任者として逮捕され 1977 年に文化大革命の終了が宣言された文化大革命の終了は中国の文化復興時代の到来でもあった 4. 経済改革開放時期における満州国遺跡群 1978 年 12 月鄧小平は中国共産党第 11 期第 3 回総会において経済改革開放を提案し中国は経済建設を中心とする時代になり物質文明と精神文明が同時に注目されるようになった文化大革命以前の百花斉放百家争鳴すなわち文化芸術上の異なる様式や風格は自由に発展させることができ科学上の異なる学派も自由に論争することができる方針が再認識され文化と経済が同時に社会的価値として認識されるようになった文化は国家建設の一部分として取り上げられた文化事業について以文補文政策が掲げられた以文補文とは文化保存と開発のための文化事業はそれ自体が独自に経営されそこから得られた利益は再び文化事業のために使うとする形式で経営し収入は文化事業を補助育成する税収優遇政策を指している 1982 年 8 月 4 日に吉林省編制委員会が偽満州国皇宮陳列館と省博物館自然部の回復と増員に関する 74 号文件を下し 8 月 16 日偽満州国皇宮陳列館の回復を発布した 9 月皇族愛新覚羅毓嵣とその妻の陽景竹溥儀の 4 番目の妻李玉琴が相次いで来館し満州国皇宮の旧貌と室内の陳列を紹介したそして吉林省文物局が所有満州国の文物 ( 書画陶磁器など ) を寄贈することにより偽満州国皇宮陳列館の再建が模索されたその結果 2 年という時間を経て勤民楼復元工事が完了し元満州国皇宮の物品 6 千余件が収蔵され展覧が開始された 1986 年 5 月 28 日映画ラストエンペラーを連合撮影制作するために中国イタリアイギリスの映画監督と技術スタッフが来館した 7 月 28 日皇帝から公民へと題する展覧が観光客に対し提供された 2004 年まで偽満州国皇宮陳列館が国内外の多数の観光客を招待し多くのマスメディアと旅行機関及び学術団体に注目された特に 1991 年 9 月 17 日勿忘 9.18 すなわち 9.18 忘れるな展覧会の開幕式で江沢民の題辞が見学者の目に映じた時新華社中央 TV 台文滙報光明日報北京日報香港大公報吉林日報吉林 TV 台長春日報長春 TV 台長春晩報城市晩報新文化報など有力

長春市における満州国遺跡群の諸様相 143 メディアが競って同一のこのテーマで報道したそれにより偽満州国皇宮陳列館が一時国内外の政治と社会の注目の焦点になったそれが日中近代の歴史認識問題に影響を与えるかどうかも話題ともなった実は偽満州国皇宮陳列館の公開の再開について日本側も当初から注目していたすでに 1985 年 12 月 20 日放送協会 (NHK) 訪問団が来館し

5 長春市における満州国遺跡群の諸様相 143 メディアが競って同一のこのテーマで報道したそれにより偽満州国皇宮陳列館が一時国内外の政治と社会の注目の焦点になったそれが日中近代の歴史認識問題に影響を与えるかどうかも話題ともなった実は偽満州国皇宮陳列館の公開の再開について日本側も当初から注目していたすでに 1985 年 12 月 20 日放送協会 (NHK) 訪問団が来館し博物館の研究者達と意見交換を行なったまた 1987 年 6 月 6 日北海道新聞社編集委員局次長高橋昭夫も来館したさらに 1989 年 3 月 13 日日本平和のため戦争に反対する京都展覧会執行委員会代理事務局長吉田保と京都府立大学教授井口和起も来館し戦争と平和をテーマとして座談を行なったその時この展覧会側は歴史写真 105 枚資料複製品 5 件の提供を受けるとともに展示文物 46 点を借り受け同年 7 月に京都で展覧会を開催したまた 1991 年 5 月 6 日元首相中曽根康弘が長春市を訪問しその際吉林省長王雲坤の案内で陳列館を見学したそのほか翌年 8 月 3 日日本侵略調査団森正孝一ら 18 人も学術交流のために来館した日本の平和組織も大いに偽満州国皇宮陳列館の復興事業に注目した 2003 年 2 月偽満皇宮博物院に改称された文化機関が名古屋市で行われた戦争に反対し平和を維持する日本全国の交流会に招待され交流の中で互いに歴史認識を深めたこのように偽満皇宮博物院が各方面の注目のもとで 2004 年 8 月 15 日に復元工事が完成し全面的な開放が実現された ( 写真 1 は復元した溥儀の乗用車である ) 復元した溥儀の乗用車写真年 3 月 15 日撮影偽満皇宮博物院の開放は文化政策による満州国時代文化財の固有価値に対する認知と肯定の体現だと言えるそれでは満州国皇宮以外の建築は文化政策においてどのような意味を持っているのであろうか実は 1961 年に吉林省政府は文化財保護政策もう策定したにもかかわらず歴史の影響を受け満州国遺跡は 1981 年 4 月になってやると文化財指定の工作が始まった 2008 年吉林省文化庁の文化財統計データによると 2007 年までに吉林省文化庁は前後 6 回省内の 271 所文化財を考察し保護政策を策定したその内保護価値がある満州国遺跡は第 2 回目の調査では 1 処第 3 回目 3 処第 4 回目 1 処第 5 回目 2 処第 6 回目で 7 処であったその結果今日吉林省長春市に限って言えば近現代史跡及び代表的な建造物の価値として認定されているのは表 4 に示した 14 点である

6 144 現代社会研究科研究報告表 1 吉林省級文化財における新京遺跡リスト 2008 年現在番号偽満州国遺跡名認証回次時間使用部門位置 ( 長春市 ) 1 皇宮遺跡第 2 回偽満皇宮博物院光復路 3 号 2 日関東軍司令部遺跡第 3 回中共吉林省委員会人民大街 47 号 3 国務院遺跡第 3 回吉林大学医学院新民大街 2 号 4 中央銀行遺跡第 3 回吉林省人民銀行人民大街 91 号 5 建国忠魂廟遺跡第 4 回空軍長春飛行学院人民大街 193 号 6 司法部遺跡第 5 回吉林大学新民校区新民大街 8 号 7 総合法衙遺跡第 5 回空軍 461 病院新民大街 8 号 8 交通部遺跡第 6 回吉林大学地方病学院新民大街 1163 号 9 経済部遺跡第 6 回吉林大学第 3 病院新民大街 829 号 10 軍事部遺跡第 6 回吉林大学第 1 病院新民大街 71 号 11 民生部遺跡第 6 回吉林省石化設計院人民大街 3623 号 12 外交部遺跡第 6 回太陽会館建設街 1122 号 13 新京警察庁遺跡第 6 回長春市公安局人民大街 2627 号 14 日憲兵司令部遺跡第 6 回吉林省政府新発路 329 号吉林省級文化財一覧表 18) により作成 5. 現代市民社会の論争における満州国遺跡群上記したように長春市における満州国遺跡群の様相は歴史の縦軸に沿って変化してきた一方歴史の変遷と共に発展してきた長春市における市民社会も質的に変化しているその質的に変化しているのは市民社会の外貌ではなく個々の市民意識であるその意識はかつての莫談国事すなわち天下国家を議論することを許さないという制約から離脱し個人の豊かさや個人の幸福を問題にするようになった中国の社会は多元的な自我意識の時代へと変化したのであるこのような多元構造の中での社会参加意識の顕在化は満州国遺跡に対する認識を多側面かつ対立的にし現代社会時点の横軸上にそれらを展開させている図 1 は 2010 年 5 月 10 日現在中国の検索インタネット百度でヒットしたのは長春市における満州国遺跡 ( 長春満州国遺跡 ) に関するデータであるそれによるとその遺跡そのものに対する新聞や雑誌の記事は 222 件そのうち賛成反対などの評価がなく単なる現状に関するものは 152 件その遺跡そのものに対する批判的な意見は 59 件その遺跡の存在と保存との間が国辱的であるとする否定的な記事は 11 件である図 1 満州国遺跡に関するインタネット記事百度網満州国遺跡の検索により作成

長春市における満州国遺跡群の諸様相 145 記事によると 1990 年代から満州国八大部遺跡は全国 126 景観の一つとして観光客を誘致しそれについて少なからざる一部の市民の内で論争が起こった吉林省政府に認定された文化財は偽満皇宮博物院を除けばほかの 13 の建物は様々な部門での使用文化財保護のため他に転用や観光開発が進められない状況になっていた

7 長春市における満州国遺跡群の諸様相 145 記事によると 1990 年代から満州国八大部遺跡は全国 126 景観の一つとして観光客を誘致しそれについて少なからざる一部の市民の内で論争が起こった吉林省政府に認定された文化財は偽満皇宮博物院を除けばほかの 13 の建物は様々な部門での使用文化財保護のため他に転用や観光開発が進められない状況になっていたそれだけではなく文化財指定がなされた時遺跡の使用側がそれを受け入れず例えば満州国建国忠魂廟遺跡をもつ空軍長春飛行学院側が文化財認定板の設置を拒否した ( 写真 2 は廃棄した建国忠魂廟の現状である ) その建国忠魂廟遺跡は満州事変以来死亡した関東軍と満州国国軍の兵士の慰霊の目的で建てられた建造物であり東洋風を基調とした満州独特の新様式であるそれが竣工したのは 1940 年 9 月 18 日であり 19) 満州事変すなわち 9 18 事変の 9 周年にあたるまた民間投資による偽満州国国務院博物館は遺跡使用権を持っている吉林大学が賃貸借契約を中止してしまったので保管された満州国時代の収蔵物は保管不備が原因で大部分が破損してしまった 20) 賃貸借の両当事者はそれぞれが自分の言い分を主張する特に 2001 年 5 月長春市政府が偽皇宮旧跡周辺に関する総合管理の通知 21) を下した後一時満州国皇宮復元工事のため繁華街である光復路から退去させられた住宅所有者ならびに使用者の間には商店経営者や市政府に対する不満の声が高まったそれは専ら感情的な理由によるもので満州国遺跡の保護政策を受け入れられないというものであったこの問題すなわち建国忠魂廟の文化財認定板問題や光復路偽皇宮周辺の開発問題はやがて長春市を揺るがす政治問題へと発展したこうした話題をめぐる論争は専ら新聞やインタネット上で展開されたその代表的な意見は下記の例のようにいくつかのパターンに分類でき拮抗した態勢になっている建国忠魂廟遺跡写真年 3 月 15 日撮影 5-1 否定側 A. 民族傷痕論満州国遺跡は民族傷痕だとされる 1937 年 7 月 7 日におこった盧溝橋事件その 65 周年の前日すなわち 2002 年 7 月 6 日に李春生は中国青年報で長春市民の意見の代表として長春市の旅行業を批判した李は既存の遺跡は愛国教育のため利用するのはいいが民族の傷を観光資源として観光客に提供し観光客を楽しませるだけではいけない歴史を忘れ

8 146 現代社会研究科研究報告させてはいけない 22) また異国情緒を作るために多くの日本植民地建築を復元するのは適当ではないだろうと言ったそのほか吉林大学医学院孫副院長は愛国主義教育拠点として厳粛なることで商業経営を行うのは本末転倒だとの主張もある B. 撤去論満州国遺跡を撤去すべきであることの主張もある東北師範大学の一教員は遺跡は傀儡政権の象徴であり保存する価値はないと述べたまた韓国で何年か前に植民地遺跡を取り壊すようなやり方をまねたほうがよい 23 ) という意見もあるここでいう韓国の事例とは朝鮮総督府として使われた建物 ( 韓国中央博物院 ) の撤去を指している一方肯定しないけれども撤去論を反対する意見もある韓国のようにするとハルビンの半分さらに上海の浜も植民地遺跡だから全部取り壊すかと反問している 5-2 肯定側 C. 文化財論民族傷痕論に対する反論の声も聞こえるそれは満州国遺跡は民族傷であり国辱であるとしてもその自体は文化財である抗日戦争が終結した 60 年後の 2005 年 8 月 25 日に南方週末紙の新聞記者朱紅軍はインタビュー記事偽満遺跡は文化財であろうか国辱であろうかとの記事 24) を同紙に掲載した記事は満州国遺跡について元満州国国務院遺跡展覧館経営者の徐世昆吉林省社会科学院研究員王慶祥吉林大学医学院の孫副院長長春市旅行局市場促進処処長邵大明元長春市文物保護研究所所長劉紅宇など関係者に対するインタビューから構成されているのである議論の要旨は次の通りである徐世昆偽満州国国務院展覧館の多くの展示物は偽国務院総理の後裔から高価で買い取ったもので展覧館の家賃は毎年 7 8 万元ガイドの給料と展覧館の修繕費などは個人の負担でありなぜこれらの展示が出来ないのだろうか邵大明遺跡を開発しないわけではない民間の議論は激しかったからである劉紅宇文化財として保護することが鉄則である王慶祥満州国遺跡は歴史の証言者拠品として 200 年の歴史を持つ長春市にとって特徴のある観光資源と言えるどんな形式で開発する問題は別として資源は社会全体に帰属するものであるまた遺跡の保護は全社会の協力が必要である D. 建築美学論以上のほかに満州国遺跡に対して建築そのものだけの考えもある満州国の建築は日本の有名な建築家達が西洋建築の特徴と東洋建築の特徴を一つに融合させ長春に残した作品であるその建築の設計風格はそれぞれ異なりかつ全体としての調和をもつものである

長春市における満州国遺跡群の諸様相 147 その時代の建築水準を示している 25) という建築を学習する秦韬のような議論もあったこのように満州国遺跡についてはいろいろな意見の立場がありそれをめぐる論争は未だに決着していないむすび 2009 年 3 月 8 日全国人民代表大会において長春市長崔傑が長春市は今積極に偽満遺跡をユネスコ遺産登録に努力している 26) と述べたその後

9 長春市における満州国遺跡群の諸様相 147 その時代の建築水準を示している 25) という建築を学習する秦韬のような議論もあったこのように満州国遺跡についてはいろいろな意見の立場がありそれをめぐる論争は未だに決着していないむすび 2009 年 3 月 8 日全国人民代表大会において長春市長崔傑が長春市は今積極に偽満遺跡をユネスコ遺産登録に努力している 26) と述べたその後 2009 年 7 月長春市人民政府が満州国遺跡の保存を長春市文化事業と文化産業発展計画 27) に取り入れ 2008 年から 2012 年の間に主な文化事業建設の任務 ( 第 3 項第 3 条 ) のひとつとして文化遺産の保護を重点政策としていた具体的には満州国遺跡を長春市内の文化遺産として保護しユネスコ文化遺産登録のための準備を計画したまた 2010 年 7 月吉林省博物館が中華人民共和国文化財保護法と博物館管理法に基づき 2010 年 2020 年吉林省博物館事業中長期発展計画綱要 28) を作成し発表したその中第 2 部第 6 8 条には積極的に民営博物館を扶助し吉林大学と共同で偽満州国務院博物館を設立しまたいくつかの西団山 ( 財団 ) 文化遺産博物館を設けさらに偽満州中央銀行遺跡博物館を設立することをうたったこれらの計画は今後の満州国遺跡をめぐる展望を可能にするものであったコオロギ缶写真 3 コオロギ喧嘩ゲーム用缶陶土制直径 15 センチ高さ 11 センチ 2011 年 3 月 15 日撮影そもそも政策の時代性と妥当性は的確に判断し難いことであるそれは筆者が所蔵している蛐蛐罐 ( チュチュークゥア ) というコオロギ缶に対する認識と同じものである 15 年前長春市大経路と大馬路の間に東頭道街という満州国時代に残した古い住民街遺跡があり土日曜日には骨董品市が立て筆者もしばしばそこを訪れた現在ではこの満州国住民街遺跡はすでに高層マンションが建ったが自宅にはそこで買った八旗子弟が好きなコオロギ缶 ( 写真 1) を保存している形も質も溥儀が皇帝玉座の上で愛玩したものと違うし真偽の判断もできないところでそれは確かに偽満州国皇宮博物院に陳列している外観が華美な鼻煙壷 ( ビヤンフー ) という阿片瓶と同じように堕落した封建的な特権社会時代における退屈性と毒害性な余暇文化を象徴しているしかし今の子供はトンボ

10 148 現代社会研究科研究報告コオロギも知らずコオロギ缶によりその時代の社会や風俗の一端を知ることも悪くないであろう文化というものはいつの時代でも人間生活には存在しその時々の人々の人間たちが生活の仕組みを維持すべく創りだした生活パターンを維持のため社会規範である 29) 満州国遺跡に記憶されたものも同様文化的な特徴とその時代を映し出しさらに全部またはその一部についてある社会集団に受け入れられたり否定されたりしつつその時代やその時代の価値判断を体現する満州国遺跡に含まれる文化的諸形態とその様相さらにそれをめぐる価値判断は時代とともに変化するであろうし腐りきったものから新しいものへと異質的なものから同質的なものへと変化していくその絶えざる変化はまさに文化改良主義の古為今用の体現であるすなわち昔のものは現在のために使うということでありそれも観光客の文化認知水準を反映するしたがって満州国遺跡を観光資源として捉える際に観光の本義といえる易経の一節国の光を見る 30) に依拠して考えればいいのではないかその国の光はまさに核戦争を批判し恒久的な平和を記念するために 1996 年日本広島 165 万人の署名運動 31) が世界遺産推進の原動力となったと世界平和理念と同じものであろう平和文化高揚の政策理念が登場した 1972 年に日中国交が回復して今年でもう 39 年となる日中国交正常化 40 周年を迎えるにあたり満州の大地に狭義的の民族意識を超えて文化共有の雰囲気が高揚することを願う注 : 1) 新睦人ほか社会学のあゆみ有斐閣新書 1979 年 3 月 221 頁 2) 中見立夫ほか満州とはなんだったのか藤原書店 2006 年 11 月 2 頁 3) 偽皇宮陳列館偽皇宮年鑑吉林省内部資料準印証第号 1989 年 96 頁 4) 偽満州遺跡の旅八戒網年 3 月 8 日 5) 山本有造満州国中見立夫ほか前掲書 68 頁 6) 中国帝王一覧フリー百科辞典年 3 月 12 日 7) 山室信一キメラ満州国の肖像中公新書 1993 年 7 月 137 頁 8) 同上 156 頁 9) 同上 125 頁 10) 前掲偽皇宮年鑑 96 頁 11) 梁思成フリー百科辞典年 2 月 20 日 12) 長春漫歩 13) 李旭ほか大躍進互動百科 ) 偽満皇宮博物院大事記互動百科 15) 中嶋嶺雄文化大革命 Yahoo! 百科事典トップ年 2 月 16) 人民日報社説横掃一切牛鬼蛇神 1966 年 6 月 1 日 17) 前掲梁思成 18) 吉林省文化庁吉林省級文化財一覧表 2008 年 12 月 19) 西澤泰彦満州国政府の建築中見立夫ほか前掲書 90~91 頁 20) 朱紅軍偽満遺跡は文化財であろうか国辱であろうか南方時報 2005 年 8 月 25 日を参 21) 長春市人民政府偽皇宮旧跡周辺に関する総合管理の通知 2001 年 5 月 24 日 22) 李春生民族の傷痕を観光資源とするはずか中国青年報 23) 郭恵興満州国皇宮のような国辱を取り壊してよいか千龍網

11 長春市における満州国遺跡群の諸様相 ) 朱紅軍前掲記事 25) 秦韬建築の時代性社会調査報告設計家園 26) 譚英姿長春偽満遺跡はユネスコ文化遺産登録に申請している中国日報 2009 年 3 月 9 日 27) 長春市人民政府長春市文化事業と文化産業発展計画 2009 年 7 月 28) 吉林省博物館 2010 年 2020 年吉林省博物館事業中長期発展計画綱要 2010 年 7 月 29) 北川宗忠観光文化論ミネルヴァ書房 2004 年 6 月 61 頁 30) 同上 20 頁 31) 同上 39 頁参考文献 : 新睦人ほか社会学のあゆみ有斐閣新書 1979 年 3 月中見立夫ほか満州とはなんだったのか藤原書店 2006 年 11 月偽皇宮陳列館偽皇宮年鑑吉林省内部資料準印証第号 1989 年山室信一キメラ満州国の肖像中公新書 1993 年 7 月吉林省文化庁吉林省級文化財一覧表 2008 年 12 月長春市人民政府偽皇宮旧跡周辺に関する総合管理の通知 2001 年 5 月 24 日長春市人民政府長春市文化事業と文化産業発展計画 2009 年 7 月吉林省博物館 2010 年 2020 年吉林省博物館事業中長期発展計画綱要 2010 年 7 月北川宗忠観光文化論ミネルヴァ書房 2004 年 6 月寿里茂文化の変動朝倉書店 1980 年 10 月 27 日小沼正博訳小島晋治監訳中国の歴史明石書店 2001 年 9 月浜島書店編集部新祥日本史浜島書店 2006 年 10 月

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2-1_ pdf 歴史 2-_02020 History 教員室 : B02( 非常勤講師室 ) 環境都市工学科 2 年会的諸問題の解決に向けて主体的に貢献する自覚と授業の内容授業授業項目授業項目に対する時間. 近代世界の成立 - 近代ヨーロッパの成立と世界 -2 絶対王政と近代国家の形成 -3 市民革命と産業革命 -4 ナショナリズムと国民国家の成立 -5 アジアの植民地化 2- 帝国主義の成立と世界分割