146 音声言語医学音声言語医学 55: ,2014 原著 fmri を用いた聴覚的注意機構の解析 1) 中尾雄太大西 2) 英雄 3) 遠藤優有美城本 2) 修村中 4) 博幸要約 : われわれは, 音刺激への注意喚起における脳賦活領域を同定するために,fMRI (func

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こごろうみつだ
4 years ago
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1 146 音声言語医学音声言語医学 55: ,2014 原著 fmri を用いた聴覚的注意機構の解析 1) 中尾雄太大西 2) 英雄 3) 遠藤優有美城本 2) 修村中 4) 博幸要約 : われわれは, 音刺激への注意喚起における脳賦活領域を同定するために,fMRI (functional magnetic resonance imaging) を用いて, 聴くと聞くにおける脳賦活領域を定量的に比較検討した. さらに, 自作したソフトウェアを用いて MR 画像の賦活領域の体積を算出し, 各領域における賦活程度を比較した. 聴覚障害を認めない健常成人 12 名 ( 男性 5 名, 女性 7 名 ) に対して, 男性話者と女性話者の単音節聴取課題, 雑音下聴取課題を行った. その結果, 音刺激へ注意を喚起すると, 前頭前野, 縁上野, 帯状回が賦活することが示唆された. また, 同性話者より異性話者の声に注意を喚起したほうの脳活動が活発になると示唆された. 索引用語 :fmri, 聴覚, 選択的注意 An fmri Study of s Activated by Auditory Attention Yuta Nakao 1), Hideo Onishi 2), Yumi Endo 3), Osamu Shiromoto 2) and Hiroyuki Muranaka 4) Abstract: The purpose of this study was to identify brain regions activated by auditory attention using fmri (functional magnetic resonance imaging). The activated brain regions, which were identified between listening and hearing, were compared quantitatively. We also compared the activation volume in each region using original software that we developed. Additionally, SPM2 software was employed to analyze the results. The subjects were twelve healthy adults (five men, seven women) without hearing problems. The tasks performed were a monosyllabic hearing test employing both male and female speakers, and the same monosyllabic hearing test under ambient noise. The results showed that the dominant regions activated by auditory attention, for both male and female speakers, were the middle frontal gyrus, orbital cortex, superior temporal cortex, and inferior semilunar lobule. ANOVA results indicated that the frontal area was the 1) 医療法人社団博愛会木阪病院 : 広島県東広島市西条町土与丸 ) 県立広島大学保健福祉学部コミュニケーション障害学科 : 広島県三原市学園町 1 番地の 1 3) 医療法人ハートフルアマノリハビリテーション病院 : 広島県廿日市市陽光台 5 丁目 9 4) つくば国際大学医療保健学部診療放射線学科 : 茨城県土浦市真鍋 6 丁目 20 番の 1 1) Kisaka Hospital: 1235 Doyomaru, Saijo-machi, Higashihiroshima-shi, Hiroshima ) Department of Communication Sciences and Disorders, Faculty of Health and Welfare, Prefectural University of Hiroshima: 1-1 Gakuen-machi, Mihara-shi, Hiroshima ) Heartful Amano Rehabilitation Hospital: 5-9 Youkoudai, Hatsukaichi-shi, Hiroshima ) Department of Radiological Technology, Faculty of Medical and Health Sciences, Tsukuba International University: , Manabe, Tsuchiura-shi, Ibaraki 年 4 月 23 日受稿 2013 年 11 月 20 日受理

2 Vol. 55 No. 2, most activated region. Analysis according to gender of the speaker and measurement of activation level indicated that activation increases in response to the voice of an opposite gender speaker. Together these results suggest that the prefrontal cortex, supramarginal gyrus, and cingulate gyrus are responsible for auditory attention. Also, the affected brain regions activate more when listening to a speaker of the opposite gender than to a speaker of the same gender. Key words: fmri, auditory attention, language 緒言われわれは日常生活において意識的に聴覚の注意機構を駆使しながら, 他者とコミュニケーションを図っている. たとえば, 大勢の人たちが大きな声で会話しているなかで, たとえ小さくても自分が聞きたい相手の声だけはしっかりと聞き分けることができる. これは聴覚の注意機構において最も有名なカクテルパーティ効果 1) と呼ばれている現象である. われわれは, カクテルパーティ効果のような注意深くきくことと, 何の気なしにきくでは脳機構が多いに異なるのではないかと考えた. 広辞苑 ( 岩波出版 ) において, 注意深く耳を傾ける場合に聴くを使い, 広く一般に聞くを使うと記述している. そこで, われわれは聴覚的注意における脳機構を明らかにするために, 聴くと聞くに注目した. これまでに, 聴覚の注意機構についての研究は数多く報告されている. 岩木ら 2) は,1000 Hz の tone burst を刺激音とし, 脳磁図を用いて検討した結果, 一次聴覚野における脳内活動を認めたと報告してい表聴くと聞くの認知的差分 Middle Frontal Gyrus Middle Frontal Gyrus (BA 6) Middle Frontal Gyrus (BA 46) Inferior Frontal Gyrus Sub-Gyral Superior Temporal Gyrus Superior Temporal Gyrus (BA 21) Superior Temporal Gyrus (BA 22) Superior Temporal Gyrus (BA 38) Middle Temporal Gyrus Inferior Temporal Gyrus Declive Tonsi Tuber of Vermis Pyramis Inferior Semi-Lunar Lobule Cingulate Gyrus (BA 32) Sub-Lobar Insula (BA 13) Pnone<0.001 uncorrected, degrees of freedom=[1.0, 10.0]

3 148 音声言語医学る. また, 渡辺 3) は, 多数の複雑な聴覚情報から 1 つだけを分離して選択する効率を高めるには情報の呈示される耳の区別や男女の声質の違いが重要であると述べている. 以上のように, 脳磁図や脳波を用いた研究は数多く報告されているが, 日常生活における聴覚の選択的注意を計測することがやや困難であり,fMRI (functional magnetic resonance imaging) を用いた研究はあまり行われていなかった. しかし, 近年の脳機能画像処理技術の普及により, 注意機構に伴う脳賦活領域の研究も多く行われるようになってきた.Wu ら 4) は, 聴覚的注意機構における神経回路を fmri を用いて解析した結果, 聴覚的注意課題では上中下前頭回, 前頭眼野, 上島, 中帯状回, 上頭頂小葉が賦活すると報告している. また, 注意の定位には背側注意系がかかわっており, 背側注意系は両側の頭頂間溝と前頭眼野で構成されているとの報告がある 5,6). さらに, 山口ら 7) は紡錘状回, 前頭葉眼窩部, 前帯状回, 頭頂葉が注意効果を認める部位と報告している. 前述の各研究は, 非言語音を課題とした研究が中心であり, 言語音そのものを課題とした研究はほとんど行われていない. また, 注意の対象により脳活動に変化を生じるかどうかについて検討した研究はない. そこで, 本研究は,fMRI を用いて, 聴くと聞くの脳賦活領域の違いに注目し, 言語音そのものを課題に取り上げ, 音刺激へ注意を喚起したときの脳賦活領域の同定を行った. また, 注意の対象が男性話者あるいは女性話者の場合において, 脳賦活の程度に変化が生じるかを併せて検討した. 方法. 研究協力者聴力障害を認めない健常成人 12 名 ( 男性 5 名女性 7 名, 右利き 11 名左利き 1 名, 平均年齢 21±1.4 歳 ) が研究協力者として参加した. 県立広島大学の研図聴くと聞くの認知的差分 SPM2 に用いられる有意水準 uncorrected p<0.001 にて, 聴くと聞くの認知的差分を求めた. その結果, 中下前頭回, 補足運動野 (BA 6), 上中側頭回, 側頭極 (BA 38), 背側前帯状皮質 (BA 32), 島 (BA 13) に賦活を認めた.

4 Vol. 55 No. 2, 究倫理規定に従い, 県立広島大学研究倫理委員会の承諾を得た. 研究協力者に対して, 研究の目的, 方法の概要や MR 検査を行ううえで予測される危険性などを説明した後, 書面にて本実験への参加の同意を得た.. 音声課題の作成われわれは, 聞くを雑音聴取課題とし, 聴くを単音節課題と仮定した. 雑音聴取課題で用いた音源は, デパートや地下街などで発生する環境雑音と白色雑音との合成音を用い, 環境雑音と白色雑音の S/N を 0 db に設定した. 単音節課題で用いた音源は男性話者および女性話者の単音節 ( te mo wa など) を前述した雑音聴取課題のなかに 1 ブロック当たり 5 音節ずつ組み込み, 男性話者単音聴取課題 ( 男性単音 ) と女性話者単音聴取課題 ( 女性単音 ) をそれぞれ作成した. 単音節課題の S/N を 5 db に設定し,1 課題施行に 5 つの単音節を挿入した. スイッチング課題は,20 秒間に 5 個のクリック音を挿入した. これらの音声編集はフリーソフト Praat(Paul Boersma,David Weenink 作成 ) と AcousticCore 7( アルカディア社製 ) を用いて作成した.. 手続き課題は単音節聴取課題, 雑音下聴取課題, スイッチング課題の 3 課題を連続で試行した. 課題と安静の収集時間は, それぞれ20 秒間とし, 安静と課題を 1ブロックとして各課題を行った. また, 単音節聴取課題は 8 ブロック, 雑音下聴取課題は 4 ブロック, スイッチング課題は 2 ブロック行い, 単音節聴取課題, 雑音下聴取課題, スイッチング課題の順に試行した. 単音節聴取課題は, 男性単音 (4 ブロック ) と女性単音 (4 ブロック ) をランダムに配置した. 各課題ともに, 課題遂行を確認するために, 単音節聴取課題は, 単音節が聞こえたときにスイッチを 1 回押すように教示した. 雑音下聴取課題は, 何も考えず刺激音を聞くように指示し, スイッチング課題は, クリック音に合わせてスイッチを押すように教示した. 研究協力者はスイッチを利き手で保持し, 単音およびクリック音が聞こえた場合に人差し指でスイッチを押すように指示した. なお, こ表男性注意における賦活領域 Superior Frontal Gyrus Middle Frontal Gyrus Inferior Frontal Gyrus Inferior Frontal Gyrus (BA 47) Precentral Gyrus (BA 6) Superior Temporal Gyrus Middle Temporal Gyrus Middle Temporal Gyrus (BA 22) Inferior Temporal Gyrus (BA 20) Parietal Lobe Inferior Parietal Lobule (BA 40) Occipital Lobe Lingual Gyrus (BA 18) Cingulate Gyrus Declive Inferior Semi-Lunar Lobule Pyramis Anterior Lobe Culmen Pnone<0.001 uncorrected, degrees of freedom=[1.0, 10.0]

5 150 音声言語医学の音声課題は fmri 装置の外部から両耳のヘッドホーンを通して聴取させた. また, 音声課題は, 毎回騒音計 (RION 社製 NL-26) を用いてヘッドホーンからの出力を 94 dbspl 一定に保っている.. 撮像条件およびデータ解析装置は,GE 社製 Signa EXCITE HDxt(3.0T) を使用し,fMRI の撮像シーケンスには GRE 型 EPI 法を用いた. 繰り返し時間 (TR)5000 msec, エコー時間 (TE)35 msec, フリップアングル (FA)90, マトリックス数 (matrix) pixel, 加算回数 (NEX)1 回, 有効視野 (FOV)240 mm, スライス厚 3 mm, スライス枚数 50 枚とした. 得られた画像データは,mouse computer i720x2 上の Mricro(Dr. Chris Rorden 作成のフリーソフト ),statistical parametoricmapping(spm2,the Wellcome Department of Cognitive Neurology, University College London, を用いて処理した. まず固定効果モデル (fixed effect model) に基づき, 個人脳の解析を行った.smoothing(FWHM in mm) は 8 mm に設定した. 次に, 変量効果モデル (random effect model) に基づき, 集団解析を行った. 各課題における脳賦活部位を同定するために, 認知的差分に基づいて, 各課題で観察された脳賦活部位を引き算し, 有意差を検定した. なお, 有意水準は SPM2 に用いられている p<0.001 uncorrected に設定した. 今回, われわれは聴覚の注意機構を描出するために, 単音節聴取課題 ( 聴く課題 ) と雑音聴取課題 ( 聞く課題 ) における有意差を検討した. 音刺激への注意喚起における賦活領域の傾向を明確にするために, 単音節聴取課題の賦活領域のコントラストを強調して単音節聴取課題と雑音聴取課題の比較も行った. また, スイッチング課題を個人解析したところ,1 ブロックに 5 回程度のスイッチングでは運動野領域がほとんど賦活しないことが判明したため, スイッチング課題は除外して課題間の有意差を求めた. さらに, 本研究は, 男性話者の単音節聴取課題と雑音下聴取課題の有意差を男性話者への注意喚起 ( 以下, 男性注意 ), 女性話者の単音節聴取課題と雑音下聴取課題の有意差を女性話者への注意喚起 ( 以下, 女性注意 ) として解析を行った. 解析対象は, データ収集時の被験者の頭部の動きが 1 mm 以内のデータとした. また, 非右利き者の言語の側性化は, 通常とは異なることが多いといわれているため 8), 非右利き者 ( 左利き ) のデータは解析対象から除外した. 賦活程度に関して, 今回, 賦活領域の体積を賦活の程度と定義し, 賦活領域の体積は 1 ボクセルの体積 (2 2 2 mm=8 mm 3 ) にボクセル数を積算することで算出した. なお, 算出した賦活領域は,SPM におけ表女性注意における脳賦活領域 Middle Frontal Gyrus Middle Temporal Gyrus (BA 22) Middle Frontal Gyrus (BA 9) Inferior Frontal Gyrus Inferior Frontal Gyrus (BA 47) Superior Temporal Gyrus Superior Temporal Gyrus (BA 38) Superior Temporal Gyrus (BA 21) Superior Temporal Gyrus (BA 42) Middle Temporal Gyrus Cerebellar Tonsil Inferior Semi-Lunar Lobule Anterior Lobe Culmen Pnone<0.001 uncorrected, degrees of freedom=[1.0, 10.0]

6 Vol. 55 No. 2, る height threshold : t=5.21 以上の領域とした (t 値とは, あるボクセルが賦活したと思われる統計量の値のこと ). 賦活領域のボクセル数の算出は, 自作したソフトウェアを使用した. 領域別にボクセル数を算出するために, 本ソフトウェアに, 水村が考案した voxel-based Analysis-Stereotactic Extraction Estimation(vbSEE) の level 2 を組み込んだ 9,10). 結果. 聴覚の注意機構の賦活部位聴くと聞くの認知的差分を求めた結果, 中下前頭回, 補足運動野 (BA 6), 上中側頭回, 側頭極 (BA 38), 背側前帯状皮質 (BA 32), 島 (BA 13) に賦活を認めた ( 表 1, 図 1). 次に, 注意の対象が男性の声である場合, 女性の声である場合に分けて解析を行った. 男性注意は, 上中下前頭回, 眼窩野 (BA 47), 上側頭野 (BA 22), 下側頭野 (BA 20), 補足運動野 (BA 6), 下頭頂小葉縁上野 (BA 40), 帯状回, 島 (BA 13), 下半月小葉などに賦活を認めた ( 表 2). 女性注意は, 中前頭回, 顆粒前頭野 (BA 9), 眼窩野 (BA 47), 上側頭野 (BA 22), 中側頭野 (BA 21), 横側頭野 (BA 42), 下半月小葉などに賦活を認めた ( 表 3).. 課題による賦活の程度の比較被験者を性別ごとに分類し解析した結果, 賦活領域に大きな差を認めず, 上述した賦活領域とほぼ同じ領域が賦活していた ( 表 4-7). しかし, 男性被験者に表男性被験者の男性注意 Superior Frontal Gyrus Superior Frontal Gyrus (BA 10) Middle Frontal Gyrus Middle Frontal Gyrus (BA 6) Middle Frontal Gyrus (BA 8) Medial Frontal Gyrus (BA 9) Inferior Frontal Gyrus Inferior Frontal Gyrus (BA 47) Sub-Gyral Superior Temporal Gyrus Superior Temporal Gyrus (BA 22) Superior Temporal Gyrus (BA 38) Middle Temporal Gyrus Middle Temporal Gyrus (BA 21) Middle Temporal Gyrus (BA 22) Inferior Temporal Gyrus (BA 21) Inferior Frontal Gyrus (BA 45) Sub-Gyral Parietal Lobe Inferior Parietal Lobule Inferior Parietal Lobule (BA 40) Postcentral Gyrus Supramarginal Gyrus Cingulate Sub-Lobar Insula(BA 13) Pnone<0.001 uncorrected,degrees of freedom=[1.0, 3.0]

7 152 音声言語医学表男性被験者の女性注意 Superior Frontal Gyrus Superior Frontal Gyrus (BA 11) Middle Frontal Gyrus Middle Frontal Gyrus(BA 6) Middle Frontal Gyrus (BA 8) Middle Frontal Gyrus (BA 9) Middle Frontal Gyrus (BA 10) Middle Frontal Gyrus(BA 47) Inferior Frontal Gyrus Inferior Frontal Gyrus (BA 45) Inferior Frontal Gyrus (BA 47) Superior Temporal Gyrus Superior Temporal Gyrus(BA 22) Superior Temporal Gyrus(BA 38) Middle Temporal Gyrus Middle Temporal Gyrus (BA 21) Transverse Temporal Gyrus (BA 41) Cingulate Gyrus (BA 24) Cingulate Gyrus (BA 32) Sub-Lobar Insula(BA 13) Caudate Body Caudate Head Claustrum Pnone<0.001 uncorrected, degrees of freedom=[1.0, 3.0] おける男性注意と女性注意の比較や女性被験者における男性注意と女性注意の比較では,t 5.21 を示した賦活領域の体積, つまり賦活の程度に大きな差を認めた. 男性被験者は, 男性注意が mm 3, 女性注意が mm 3 賦活しており, 女性被験者は, 男性注意が mm 3, 女性注意が 104 mm 3 賦活していた. 考察. 聴覚の注意機構の同定聴くと聞くを比較した結果, 中下前頭回, 補足運動野 (BA 6), 上中側頭回, 側頭極 (BA 38), 背側前帯状皮質 (BA 32), 島 (BA 13) に賦活を認めた. 一般的に, 前頭前野である中前頭回は注意, 思考, 推測, 判断といった高次脳機能を担うといわれており, 注意課題において, 前頭前野領域が賦活したという報告は数多くある 4-6,11). 本実験においても, 音刺激へ注意喚起する課題を実施しているため, 前頭前野領域に賦活を認めたと考えられる. 上中側頭回, 側頭極 (BA 38) について, 聴覚刺激を用いて実験を行ったため, 聴覚野領域が賦活したと思われる. 背側帯状皮質 (BA 32), 島 (BA 13) について, 橘ら 12) は, 提示刺激に対する注意が強化された結果, 下前頭回, 島皮質および視床が賦活したと述べている. また, 帯状回は注意システムとして働いているといわれているため, 背側帯状皮質 (BA 32), 島 (BA 13) が賦活したと推測される. 注意の対象を区別して解析した結果, 男性注意と女性注意に共通して, 眼窩野 (BA 47), 下半月小葉などの小脳領域に賦活を認めた. 眼窩野について, 注意の定位には背側注意系がかかわっており, 背側注意系

8 Vol. 55 No. 2, 表女性被験者の男性注意 Superior Frontal Gyrus Superior Frontal Gyrus (BA 11) Middle Frontal Gyrus Middle Frontal Gyrus (BA 6) Medial Frontal Gyrus (BA 8) Middle Frontal Gyrus (BA 11) Inferior Frontal Gyrus Inferior Frontal Gyrus (BA 9) Inferior Frontal Gyrus (BA 13) Sub-Gyral Superior Temporal Gyrus Superior Temporal Gyrus (BA 22) Middle Temporal Gyrus Sub-Gyral Declive Tonsi Pyramis Inferior Semi-Lunar Lobule Uvula Cingulate Gyrus Cingulate Gyrus (BA 32) Parietal Lobe Inferior Parietal Lobule Sub-Gyral Pnone<0.001 uncorrected, degrees of freedom=[1.0, 6.0] 表女性被験者の女性注意 Middle Frontal Gyrus Tonsil Pnone<0.001 uncorrected, degrees of freedom=[1.0, 6.0] は両側の頭頂間溝と前頭眼野が機能を担うといわれている 5,6). さらに,Rolls 11) は, 五感の感覚情報のすべてが最終的に眼窩野に送られ, そこで感覚が統合化されることで認識すると述べている. 本実験は, 音刺激に注意を向けるという注意の定位に関する課題であったこと, 聴覚という感覚情報を統合したことにより, 眼窩野が賦活したと考えられる. 下半月小葉などの小脳領域について, 聴覚の注意機構に関する研究で小脳領域が賦活したという報告はほとんどされていない. しかし, 動物実験において, 第 Ⅰ,Ⅱ 聴覚野は, それぞれ虫部葉, 虫部隆起などの小脳領域に投射するという報告があり 13), 本実験においても, 聴覚野に到達し

9 154 音声言語医学たニューロンが小脳に投射したため, 小脳領域に賦活を認めたのではないかと推測される. 本実験は聴くと聞くの認知的差分を求めることで, 聴覚の注意機構の同定を目的に実験を実施した. しかし, 聴くと聞くにおいて, 同一の刺激音を用いていないため, 注意だけではなく, それ以外の要因が作用した可能性がないとはいい切れない. また, 本研究では解析データ数が 12 名分と大変少なかった. 今後, 聴覚の注意機構を明らかにするために, 同一の刺激音に対する聴くと聞くを比較すること, 解析データを増やし再検討を行う必要があると思われる. さらに, 本実験の刺激音は単音節であったため, 本実験で得られた賦活の程度の違いが, 注意の対象の違いのみによるとは断定できないと思われる. そのため, 今後の研究では, 刺激音を単語や文レベルのもので検討していきたい.. 課題による賦活の程度の比較男性被験者では, 男性注意より女性注意の賦活の程度が大きく, 女性被験者では, 女性注意より男性注意の賦活の程度が大きかった. この結果から, 同性の声より異性の声に注意が喚起しやすい可能性が考えられた. 結論本研究では聴覚の注意機構を明らかにするために, 聴くと聞くにおける脳賦活領域の差について fmri を用いて比較検討した. 注意機構の脳賦活領域については先行研究と同様の結果が得られた. 注意対象の違いに関して, 対象が変化することで脳賦活領域は変化を生じないが, 同性話者の声より, 異性話者の声へ注意を喚起した場合が有意に賦活することが示唆された. 文献 1) 菊池吉晃 : 脳機能イメージングで高次脳機能を観る.J Jpn Health Sci, 10(4): , ) 岩木直, 外池光雄, 山口雅彦, 他 : 視聴覚間選択的注意による脳内情報処理修飾の脳磁界による計測. 生体生理工学シンポジウム論文集,14: , ) 渡辺功 : 選択的注意と記憶. 心理学評論,23(4): , )Wu C-T, Weissman DH, Roberts KC, et al: The neural circuitry underlying the executie control of auditory spatial attention.brain Res, 1134: , )Hopfinger JB, Buonocore MH and Mangun GR: The neural mechanisms of top-down attentional control. Nature America, 3: , )Corbetta M, Kincade JM, Ollinger JM, et al: Voluntary orienting is dissociated from target detection in human posterior parietal cortex. Nat Neurosci, 3: , ) 山口修平, ト蔵浩和, 小林祥泰, 他 : 注意記憶機能における前頭葉の役割. 老年期認知症研究会誌,16:16-19, ) 鈴木匡子 : 言語優位半球の決定法. 神経研究の進歩,47(5): , ) 水村直 : 機能画像と形態画像を用いた認知症診断 VSRAD と ezis/spm の画像融合. 老年精神医学雑誌, 19(1):41-51, )Mizumura S, Kumita S, Ishihara M, et al: Development of quantitative analysis method for stereotactic brain image: Assesment of reduced accumulation in extent and severity using anatomical segmentation. Ann Nucl Med, 17: , )Rolls ET: The orbitofrontal cortex. Phil Trans R Soc London, B351: , ) 橘亮輔, 力丸裕 : 劣化雑音音声知覚に関する脳内活動 functional MRI による研究. 信学技報,SP104(695): 37-42, ) 四十住伸一 : ネコ骨盤神経求心系の小脳皮質への投射. 十全医会誌,6: ,1996. 別刷請求先 : 広島県東広島市西条町土与丸 1235 医療法人社団博愛会木阪病院中尾雄太

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