DLC製造プロセスの歴史とその応用

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まなたけすえ
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特集製造プロセスの歴史とその応用 History and Applications of Diamond-Like Carbon Manufacturing Processes 森口 * 秀樹大原久典辻岡正憲 Hideki Moriguchi Hisanori Ohara Masanori Tsujioka 膜は潤滑性化学的安定性を持つ硬質薄膜である近年は環境問題への対応のため

1 特集製造プロセスの歴史とその応用 History and Applications of Diamond-Like Carbon Manufacturing Processes 森口 * 秀樹大原久典辻岡正憲 Hideki Moriguchi Hisanori Ohara Masanori Tsujioka 膜は潤滑性化学的安定性を持つ硬質薄膜である近年は環境問題への対応のため摩擦損失の低減による自動車エンジンの低燃費化に貢献しているまた車体軽量化のため採用が増加しているアルミ合金の切削工具用コーティングとして活用されている日本アイティエフは複数種類の成膜装置を所有し多彩なレシピの中からお客様のニーズに合わせて最適な膜を提供できる体制を整えている本報告では膜の製造プロセスの歴史と当社が標準化している多彩な膜質について紹介する Diamond-like carbon () is a hard material with lubricity and chemical stability. Amid the growing awareness of environmental problems in late years, films have been used to reduce the fuel consumption of automobiles by reducing friction loss. The films are also used as a coating of cutting tools for aluminum alloys that have been widely used for automobile weight reduction. Nippon ITF Inc. provides films most suitable for the customer needs by utilizing its equipment, systems, and expertise. This paper introduces the transition of manufacturing processes and films that we have commercialized. キーワード : PVD CVD コーティング低摩擦 1. 緒言 (Diamond-Like Carbon: ダイヤモンド状炭素 ) が初めて論文に登場したのは1971 年であるはダイヤモンドの気相合成法の研究過程で偶然に発見された 195 年代に結晶質ダイヤモンドの超高圧合成法が発明されたが特殊で高価な装置が必要であり炭化水素ガスや炭素蒸気 ( 気相 ) からダイヤモンド結晶を成長させる気相合成法の研究が数多く試みられた (1) この過程で 1971 年にAisenbergらによって炭素を主成分とする非晶質硬質膜に関する論文が発表されこれがと呼ばれるようになった (2) それ以降多様な製造プロセスと膜質の開発が進められた膜は低摩擦係数高硬度化学的安定性といった潤滑性材料として優れた特性を有しており結晶質ダイヤモンドの気相合成法とは異なる独自の発展を遂げてきた特に近年は環境問題への対応のための低摩擦係数に注目が集まり摩擦損失の低減による自動車エンジンの低燃費化焼き付き防止のための駆動部品やポンプ部品への採用など益々その重要性は高まっている本報告では膜の製造プロセスの歴史に始まりその特徴分類手法当社が開発した膜質とその適用事例について順に紹介する素 ) を用いる PVD 法にはアークスパッタレーザー蒸着法などがある CVD 法には高周波直流放電 PIG(Penning Ionization Gauge) 自己放電法などがある図 1に当社が採用している高周波放電プラズマCVD PIG 方式プラズマ CVD アークPVDの概念図を示す Ar,H 2,CxHy 排気マッチンクホックス絶縁物 13.56MHz CVD( 高周波放電 ) CVD(PIG 方式 ) PVD( アーク放電 ) 図 1 Ar,H 2 CxHy 電磁コイル排気フィラメントアノート絶縁物 PIG-plasma source DC-pulse アーク蒸発源代表的な製造プロセスグラファイトターゲット排気絶縁物 2. の製造プロセスとその特徴膜の製造法は PVD(Physical Vapor Deposition: 物理蒸着 ) とCVD(Chemical Vapor Deposition: 化学蒸着 ) の2 種類に分類できる PVD 法ではカーボン原料として固体 ( 黒鉛 ) を用い CVD 法では気体 ( メタンなどの炭化水 2-1 高周波放電プラズマCVD 法 197 年代後半に炭化水素ガスのグロー放電プラズマにを晒すことでを作る研究が活発に行われ 198 年代前半までに数多くの論文が発表された (3) 減圧ガス中でグロー放電を発生させる手法としては直流 (DC) 放電や高周 38 製造プロセスの歴史とその応用

2 波 (RF) 放電が主流でその多くはを設置した陰極側に高周波電力あるいは負の直流電圧を印加し対向する陽極側を接地電位とした方法であった原料ガスとしてアセチレン (C 2H 2) メタン(CH 4) などが用いられた炭化水素ガスプラズマ中のイオンやラジカル 1 といった活性種を比較的低温に保った表面に照射することにより水素を含有した膜が得られる 2-2 PIG 方式プラズマCVD 法このプロセスも炭化水素ガスをプラズマに晒してを成膜する方法であるがに入射させる炭素イオンの量と入射する炭素イオンのエネルギーをそれぞれ独立して制御できるためリモートプラズマCVD 法に分類され水素を含有した膜が得られるの膜厚や硬度残留応力膜組成の制御が容易で様々な形状のに被覆でき適応性が広いまたプラズマの発生する範囲が広く投入電力や原料となるガスを比較的効率良く利用して成膜できる膜硬度は後述するアークPVD 法に劣るが高周波法に比べて特性幅の広い膜質を成膜でき 6µm 膜厚のの成膜もできる PIG 法では膜硬度と膜厚を幅広く制御できるためアルミのような軟質金属にも成膜が可能である 2-3 スパッタ / プラズマCVD 複合法固体原料の黒鉛製スパッタ蒸発源に直流電圧や高周波電力を印加し不活性ガスプラズマ中の正のイオンを黒鉛に衝突させて炭素原子を叩き出し上に炭素膜を成膜する方法がスパッタ蒸着法である (4) 平滑な膜を成膜できるが炭素のスパッタ収率が低いため成膜速度が遅い短所があるこの炉内に炭化水素ガスを流すとプラズマCVD 法と同じ原理でが成膜でき炭化水素ガスを流さないスパッタ蒸着法に比べ成膜速度が大幅に向上するまたスパッタ蒸発源に金属を用いると金属元素を含んだが成膜できる単純な黒鉛原料のスパッタであれば純粋なPVD 法に分類され水素を含有しない膜が得られるが炭化水素ガスを併用する場合はリモートプラズマCVD 法に分類され水素を含有した膜が得られる 2-4 アークPVD 法固体原料の黒鉛を陰極とし陰極表面で連続的な真空アーク放電を起こすことで炭素イオンを高効率に発生させ負電位の表面にを成膜する方法が陰極アーク式 PVD 法であるこの手法は旧ソビエト連邦で開発され 197 年代に既に水素を含有しないの成膜が報告されている (5) その後 197 年代後半にこの技術が西側諸国に紹介されるとオーストラリアや欧州そして米国において開発が加速したこのプロセスの特徴は黒鉛の気化速度が速い上に黒鉛蒸気のイオン化率が高いためダイヤモンド質が多く黒鉛質が少ない高硬度の水素を含有しないが容易に成膜できることであるまた蒸発源のサイズが比較的小型であり多数の蒸発源を同時運転することで大面積での高速成膜が可能となるしかしアーク放電時にイオン化しなかったドロップレットあるいはマクロパーティクルと呼ばれる粗大粒子が膜中に混入して面粗さが低下し相手攻撃性が大きくなってしまうことが欠点である 2-5 フィルタードアークPVD 法前述の粗大粒子がに届かないよう幾何学的に屈曲したダクトと磁場を組み合わせた磁気フィルター式陰極アーク蒸発源が197 年代に旧ソビエト連邦で開発され欠陥の少ない硬質炭素膜が形成できることが報告された (6) しかし磁気フィルターによって蒸発源の利用効率が低下し成膜速度の低下や処理面積の減少など生産性が低下する短所があるまたダクト内を反射しながらに到達する粗大粒子は皆無ではなく装置価格も高い各プロセスで成膜したの構造と特徴を表 1に示す合成プロセス構造特徴プラズマCVD密着性がやや劣るPVD硬度が低い複合高周波法 PIG 法自己放電法アーク法スパッタ法スパッタ +PCVD 表 1 3. の分類手法製造プロセスの構造と特徴 ( 水素含有 ) ( 水素含有 ) ( 水素含有 ) ta-c ( 水素フリー ) a-c ta-c ( 水素フリー ) 平滑低摩擦 ( ドライ ) 絶縁基板も成膜可能密着性がやや劣る厚膜対応可能膜硬度応力制御可能膜厚分布が若干悪い高付き回り ( 内面コート可能 ) 高成膜レート充填密度ダイヤに近い高硬度油中で低摩擦厚膜化に難表面状態に敏感導電性対応可能 t ( 水素含有 ) Ti W 等の金属添加が容易の分類については Casiraghi らによって疑似三元系状態図の形に整理され製法との関係性について把握されている (7) スパッタ蒸着法アークPVD 法で成膜したは原料として炭化水素ガスを用いず固体黒鉛のみを用いる限りいずれも水素を含まないとなるこれらの膜は図 2において水素含有量ゼロのGLC(Graphite-Like Carbon: 黒鉛状炭素 ) a-c(amorphous Carbon: 非晶質炭素 ) からta-C(Tetrahedral Amorphous Carbon: 正四面体配位非晶質炭素 ) の範囲で sp 3 結合炭素量やクラスタ構造の違いによって特徴づけられる他方プラズマCVD 法により炭化水素ガスを原料として成膜したはいずれも水素を含有した膜となるこれらの膜は (Hydrogenated Amorphous Carbon: 水素含有非晶質炭素 ) からt(Hydrogenated Tetrahedral Amorphous Carbon: 水素含有非晶質炭素 ) のいずれかの形態をとり水素量 sp 3 結合炭素量の違いによって特徴づけられるこ 216 年 1 月 S E I テクニカルレビュー第 188 号 39

のようには水素量とsp 3 結合炭素量クラスタ構造によって特徴づけられ機械的 ( 硬度ヤング率 ) 光学的( 屈折率透過率 / 吸収率 ) 電気的( 導電率 ) 化学的( 昇温時の挙動酸化挙動各種物質との親和性等 ) な挙動を理解する際の情報となる例えば水素を比較的多く含むは乾燥窒素雰囲気中や超高真空中で極端に低い摩擦係数 (.

代表的適用例軟質金属用工具金型自動車エンジン部品精密金型レンズ成型金型 HC 6 >5 高耐久自動車エンジン部品 HT 5 3 厚膜対応低内部応力一般機械部品自動車部品 ( 非エンジン ) HP 5 未測定内面コート対応パイプ内面処理 HS 8 >5 低相手攻撃性自動車部品 ( 非エンジン ) F 未測定未測定低温処理高分子材料対応ゴム部品 ( 低摩擦固着防止 ) sp 3

3 のようには水素量とsp 3 結合炭素量クラスタ構造によって特徴づけられ機械的 ( 硬度ヤング率 ) 光学的( 屈折率透過率 / 吸収率 ) 電気的( 導電率 ) 化学的( 昇温時の挙動酸化挙動各種物質との親和性等 ) な挙動を理解する際の情報となる例えば水素を比較的多く含むは乾燥窒素雰囲気中や超高真空中で極端に低い摩擦係数 (.2 以下 ) を示すことや湿潤大気中でのSi 添加の低摩擦性が報告されている (8) 一方自動車部品や機械部品に多い潤滑油存在下では膜中に含まれる水素量が少ないほど摩擦係数が下がることが報告されている (9)(1) 膜質表 3 スクラッチ (N) ITF の代表的な膜の特徴と用途高面圧摺動 (N) HA 6 >5 HAX 5 >5 特徴高硬度油中低摩擦高硬度低欠陥密度代表的適用例軟質金属用工具金型自動車エンジン部品精密金型レンズ成型金型 HC 6 >5 高耐久自動車エンジン部品 HT 5 3 厚膜対応低内部応力一般機械部品自動車部品 ( 非エンジン ) HP 5 未測定内面コート対応パイプ内面処理 HS 8 >5 低相手攻撃性自動車部品 ( 非エンジン ) F 未測定未測定低温処理高分子材料対応ゴム部品 ( 低摩擦固着防止 ) sp 3 /(sp 3 +sp 2 ) (%) 日本アイティエフの膜当社の代表的な膜の分類と特性を表 2に特徴と用途を表 3に示す表 2 ダイヤモンド ta-c a-c GLC 水素量 (atm%) 図 2 t グラファイトの分類 PLC (Polymar like carbon) ITF の代表的な膜の特性 4-1 HA- アークPVD 法で成膜した水素を含まない膜であり ta-cに分類されるダイヤモンドに次ぐ高硬度の硬質薄膜であるアルミ合金切削用工具成型金型などに用いられ軟質金属や樹脂の溶着防止加工精度の向上長寿命化に効果を発揮するこの膜は油中で低摩擦を示し Mo-DTC などの潤滑材を含む油剤においても優れた耐摩耗性を示す 26 年には自動車エンジン部品であるバルブリフターの低摩擦膜として量産適用された図 3はアルミ合金 (ADC12) を超硬工具とHA- を被覆した超硬工具で切削評価した結果であるがノンコートの超硬工具ではアルミの凝着が激しいのに対し HA- を被覆した工具では凝着がほとんど見られないまた切削抵抗の評価結果を図 4に示すが HA- を被覆した工具では超硬工具と比較して乾式湿式のいずれでも切削抵抗が減少しているこれは膜はアルミの凝着が起こりにくく摩擦抵抗も小さいため切りくずがスムースに排出された効果である (11) 図 5はSUJ2を相手材にノンコートのSCM415 浸炭材と TiN 水素含有水素フリー (HA-) ダイヤモ膜質構造可能膜厚 (µm) HA ta-c 1 面粗度 Rz (µm) 1. ラップ後.3 膜硬度酸化温度 (GPa) ( ) 6~8 5 HAX ta-c 1.1 6~8 5 HC t 3 HT HP HS :Si :Si 1~2 1. ラップ後.3.1~.5 膜厚依存 4~ ~25 3 材質一般鋼超硬合金一般鋼超硬合金一般鋼超硬合金金属全般セラミックスヤング率 (GPa) ~1 <.2 15~25 3 金属全般未測定 :Me.5~1.5 <.1 2~3 3 金属全般 2 F.3~2 <.2 <15 3 高分子全般未測定ノンコート HA- 図 3 アルミ切削における工具への凝着状態 4 製造プロセスの歴史とその応用

4 切削抵抗 (N) 焼付き発生焼付き発生図 5 図 4 SCM < 加工条件 > 切削速度 :3m/min 送り量 :.15mm/t Ad=Rd=5mm 被削材 :ADC12 乾式窒化チタン従来 < 試験条件 > 相手材 :SUJ2 :SCM415 浸炭材荷重 :8N(max1.5GPa) すべり速度 :1m/sec HA 湿式アルミ切削における切削抵抗各種膜質の無潤滑及び油中での摩擦係数ダイヤモンドンドを被覆したSCM415 材の摩擦係数を無潤滑と油中で比較評価した結果である無潤滑ではノンコートとTiNに焼付きが発生したのに対しとダイヤモンド被覆品には焼付きが発生せず油中では水素フリーがダイヤモンド被覆品に近い低摩擦を示したこれはHA- はダイヤモンドと同じsp 3 結合の炭素原子を多数含むta-Cであり油剤が sp 3 成分と親和性に優れることが原因であるこの油中での低摩擦が自動車エンジンの動弁系部品であるバルブリフターにHA-が採用される決め手となった (9) 4-2 HC- アークPVD 法で成膜した水素を含むであり ta-c: H~ に分類される本膜は固体ターゲットだけでなく炭化水素ガスも成膜中に原料として用いることに特徴があり硬度はHA- よりも柔らかく面粗さはHA- よりも良好であるこのため HA- より耐チッピング性と相手なじみ性に優れ相手攻撃性も低い炭化水素ガスの投入量圧力の調整で水素含有量の異なるを成膜でき膜硬度をある程度制御可能である本膜の適用用途としては自動車エンジン部品の他各種機械部品軟質金属の成型金型などが期待できる 4-3 HT- PIG 方式プラズマCVD 法で成膜した水素を含むでありに分類される HT-は材質を選ばず様々な用途に対して膜構造と特性を制御できることから各種の機械部品や自動車の摺動部品に適用されている自動車の駆動系部品は潤滑油やグリースを用いて摺動しておりこれらが劣化枯渇すると振動や異音が発生しひどい場合は焼き付きを起こすまた外部から砂塵が侵入し摩耗対策が必要となる場合もあるまた近年バイオエタノールが燃料となる場合がありこの燃料は異物がフィルターで捕集されにくいことからポンプ部品の摩耗が問題となるこの部品には軽量化易加工性の観点からアルマイト処理をしたアルミ鋳造品が用いられる各種膜を評価した結果絶縁体で多孔性のアルマイト上に安定した成膜ができたのはHT- のみで二輪車用のポンプ部品として量産で採用された 4-4 HP- PIG 方式プラズマCVD 法ではパイプの内面や複雑な形状の部品に均質なコーティングを行うことは困難である通常のプラズマCVD 法の成膜圧力は.1~1Pa 程度であるがこの圧力範囲では電子がほとんど存在しないイオンシース厚みが数 1mm 以上となり数 1mm 以下のパイプ内面には高密度のプラズマは生成されずは成膜できなかった HP- はこの欠点を改良するため穴内部でホロー放 2 電を生成させガス圧力を数 1Pa 以上に保つことで穴内部に高密度のプラズマを発生させた図 6にHP-で成膜可能な内径と穴深さの範囲を示す両端が開口したパイプ形状であれば図の2 倍の深さまでの処理が可能となる HP- の適用用途は軸受けシリンダー内面金型凹部液体ガス配管内面などである径D従来 16 2 対応不可 14 深さ Y 対応可能 12 1 対応可能領域可能領域内最小内径サイズ : 3mmφ 内径 D(mm) 深さ :2.5mm( 長さ5mm) 深さ Y(mm) 図 F- HP- のパイプ内面コート可能サイズ高周波プラズマ CVD 法で成膜した水素を含むでありに分類される F-は特に高分子材料に被覆可能なプロセスとして開発された一般にはArなどの 216 年 1 月 S E I テクニカルレビュー第 188 号 41

イオンを表面に照射して表面を清浄化してから被覆されるが高分子材料はイオン照射時の温度上昇で変質してしまう問題がある F- では水素プラズマに晒して表面の汚れを低温で除去する方法を採用したまた通常のプラズマCVD 法では温度は2 近傍まで上昇し高分子材料が変質するそこでプラズマを断続的に停止することでの温度上昇を6~8 に抑制し

ノンコートではゴム材質により摩擦係数は大きく異なるが F-を被覆するとPTFE( ポリテトラフルオロエチレン : フッ素樹脂 ) と同等の低摩擦を示すようになるこの低摩擦はドライ環境でも得られ潤滑油やグリースを使用できない環境下で大きな効果が期待できるまたは化学的に安定でありゴムと比較して使用環境 ( 熱や油など ) による変質に強いためゴムで問題となる固着防止への適性が期待できる

) 6 5 4 3 2 写真 1 一般的に示される μ=1 に相当 F- の表面 SEM 写真 F- PTFE 摩耗体積 (mm 3 ) 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 ノンコート F- 図 8 F- 被覆したPTFEの摩耗特性であった PTFEに対するF-の長所は耐摩耗性と薄膜コートによる優れた寸法精度である一方

5 イオンを表面に照射して表面を清浄化してから被覆されるが高分子材料はイオン照射時の温度上昇で変質してしまう問題がある F- では水素プラズマに晒して表面の汚れを低温で除去する方法を採用したまた通常のプラズマCVD 法では温度は2 近傍まで上昇し高分子材料が変質するそこでプラズマを断続的に停止することでの温度上昇を6~8 に抑制し高分子材料を変質させず密着力に優れるを成膜できるようにしたさらに高分子材料は柔らかく変形しやすいため通常の膜では変形に追随できず膜が破壊してしまうそこで F- 膜には膜の厚み方向に亀裂を導入する形とした F- の表面 SEM( 走査電子顕微鏡 ) 写真を写真 1に示す亀裂が膜中に存在することでが大きく変形しても膜は破壊しない各種ゴムにF-を被覆した際の摩擦係数を図 7に示すノンコートではゴム材質により摩擦係数は大きく異なるが F-を被覆するとPTFE( ポリテトラフルオロエチレン : フッ素樹脂 ) と同等の低摩擦を示すようになるこの低摩擦はドライ環境でも得られ潤滑油やグリースを使用できない環境下で大きな効果が期待できるまたは化学的に安定でありゴムと比較して使用環境 ( 熱や油など ) による変質に強いためゴムで問題となる固着防止への適性が期待できる摩擦係数 (A.U.) 写真 1 一般的に示される μ=1 に相当 F- の表面 SEM 写真 F- PTFE 摩耗体積 (mm 3 ) ノンコート F- 図 8 F- 被覆したPTFEの摩耗特性であった PTFEに対するF-の長所は耐摩耗性と薄膜コートによる優れた寸法精度である一方リングオンディスク試験のような面摺動となる低荷重の用途ではPTFEコートの方が低摩擦を示す高面圧 (PV 値で12MPa m/min 以上 ) や高精度 (1~1µm) の用途では低面圧(PV 値で12MPa m/min 未満 ) や低精度 ( 膜厚 1~1µm) の用途ではPTFEコートといった選択が好ましい 4-6 HS- スパッタ / プラズマCVD 複合法で成膜したでありに分類される入射させる炭素イオン量と入射する炭素イオンエネルギーを独立に制御して膜質が膜厚方向で傾斜的に変化するように成膜し密着性に優れる中間層を採用して優れた耐剥離性と耐チッピング性を実現した 3 HS-をギアに被覆してFZG 試験を行った所潤滑材を含まない油剤環境で最終の14ステージまでスカッフィング 4 損傷なしで試験できた HS-は他のプラズマCVD 膜よりも優れた密着性と耐チッピング性を有する 4-7 最新の膜当社ではフィルタードアーク手法で成膜したHAX- を標準化している HAX- はHA-の短所である面粗さを改善した膜であるが偏向磁場を用いるため成膜領域が狭く成膜速度も遅い短所があったこれらの短所を解決するため当社は粗大粒子を全く発生しないアーク蒸着源の開発に取り組み粗大粒子をほぼ発生しない成膜プロセスの開発に成功した写真 2にこれらのプロセスで成膜した膜 1 CR ゴム NBR ゴム EPT ゴムウレタンゴムシリコンゴム塩化ビニル図 7 各種ゴムに F- を被覆した時の摩擦係数図 8にPTFEとその上にF-を被覆した材料のボールオンディスク試験結果を示すノンコートと比較してF- を被覆すると摩耗量は約 1/9となり摩擦係数はPTFEと同等 5 μm 5 μm 5 μm HA- HAX- SLA 写真 2 各種アークPVD 法の表面 SEM 写真 42 製造プロセスの歴史とその応用

の表面 SEM 写真を示す新開発プロセスで成膜したは HAX- よりも平滑性に優れ成膜領域の広さ成膜速度ともに通常のアーク法と同等である粗大粒子の生成を極度に抑制した後研磨が不要な新しい水素フリー成膜プロセスとして特に面粗さと耐熱性が重視されるレンズ成型用金型への市場展開を狙い現在量産プロセスの確立に注力している将来的には切削工具自動車機械部品

結言はその優れた潤滑特性から幅広い産業でその適用例が増加している特に近年は自動車分野での環境規制や燃費規制が契機となってコーティングは動力損失を低減可能な重要技術として注目されている特に当社が得意とする水素フリーはバルブリフターだけでなくピストンピンやピストンリングなどの自動車部品用途において Mo-DTC 5 を含む潤滑油中でも耐摩耗性に優れることから注目を集めている

開発部門と一体となりに適したの選定形状設計を行うことも必要であり今後そういった連携共同作業がますます重要になってくると思われる参考文献 (1) J. C. ANGUS, Growth of Diamond Seed Crystals by Vapor Deposition, J. Appl. Phys., 39, 6(1968)2915 (2) S. AISENBERG & R.

6 の表面 SEM 写真を示す新開発プロセスで成膜したは HAX- よりも平滑性に優れ成膜領域の広さ成膜速度ともに通常のアーク法と同等である粗大粒子の生成を極度に抑制した後研磨が不要な新しい水素フリー成膜プロセスとして特に面粗さと耐熱性が重視されるレンズ成型用金型への市場展開を狙い現在量産プロセスの確立に注力している将来的には切削工具自動車機械部品電機電子関連部材などへの適用を検討している 5. 結言はその優れた潤滑特性から幅広い産業でその適用例が増加している特に近年は自動車分野での環境規制や燃費規制が契機となってコーティングは動力損失を低減可能な重要技術として注目されている特に当社が得意とする水素フリーはバルブリフターだけでなくピストンピンやピストンリングなどの自動車部品用途において Mo-DTC 5 を含む潤滑油中でも耐摩耗性に優れることから注目を集めている今後益々各種規制が強化されるに伴い摺動特性に優れる膜に対するニーズはさらに高まると予想されるこれらの期待に応えるには用途に対応した膜質様々な部品形状にも対応可能なプロセス低コスト化技術の開発が必要である部品への適用実用化に当たっては部品との相性使用環境を総合的に検討し膜の特性と構造を設計することが今まで以上に重要になっているそのため膜を適用するユーザー側の設計部門や製造開発部門と一体となりに適したの選定形状設計を行うことも必要であり今後そういった連携共同作業がますます重要になってくると思われる参考文献 (1) J. C. ANGUS, Growth of Diamond Seed Crystals by Vapor Deposition, J. Appl. Phys., 39, 6(1968)2915 (2) S. AISENBERG & R. CHABOT, Ion-Beam Deposition of Thin Films of Diamondlike Carbon, J. Appl. Phys., 42, 7(1971)2953 (3) H-C. TSAI & D. B. BOGY, Critical Review, Characterization of Diamondlike Carbon Films and Their Application as Overcoats on Thin Film Media for Magnetic Recording, J. Vac. Sci. Technol., A5, 6(1987)3287 (4) N. SAVVIDES, Fourfold to Threefold Transition in Diamondlike Amorphous Carbon Films, A Study of Optical and Electrical Properties, J. Appl. Phys., 58, 1(1985)518 (5) V. E. STREL NITSKII, V. G. PADALKA & S. I. VAKULA, Properties of the Diamond-Like Carbon Film Produced by the Condensation of a Plasma Stream with an rf Potential, Sov. Phys. Tech. Phys., 23, 2 (1978), 222, American Institute of Physics (6) I. I. AKSENOV, S. I. VAKULA, V. G. PADALKA, V. E. STREL'NITSKII & V. M. KHOROSHIKH, High-Efficiency Source of Pure Carbon Plasma, Sov. Phys. Tech. Phys., 25, 9(198)1164, American Institute of Physics (7) C. CASIRAGHI, J. ROBERTSON & A. C. FERRARI, Diamond-Like Carbon for Data and Beer Storage, Materials Today, 1(27) 44 (8) 森広行高橋直子中西和之太刀川英男大森俊英表面技術 59 巻 6 号 (28)41 (9) 加納眞精密工学会誌 66 巻 4 号 (2)531 (1)Y. MABUCHI, T. HAMADA, H. IZUMI. Y. YASUDA, M. KANO, The Development of Hydrogen-free -Coated Valve-Llifter, SAE Paper (27) (11)FUKUI, H., OKIDA, J., OMORI, N., MORIGUCHI, H., TSUDA, K, Cutting performance of coated tools in dry machining aluminum alloys, Surface and Coatings Technology, 187, 1 (24)7 執筆者森口秀樹 * : 日本アイティエフ執行役員技術開発センター長工学博士用語集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1 ラジカル不対電子をもつ原子や分子のことで反応性に富む 2 ホロー放電狭い空間に閉じこめられた電子が激しく往復運動することで起こる放電現象大原辻岡久典 : アドバンストマテリアル研究所無機材料研究部長正憲 : 日本アイティエフ常務取締役 3 FZG 試験ドイツで開発されたギア評価法 * 主執筆者 4 スカッフィング損傷ひっかき傷のこと焼き付きの前駆現象として現われる 5 Mo-DTC ジアルキルジチオリン酸モリブデンのこと油に添加して潤滑材として機能する 216 年 1 月 S E I テクニカルレビュー第 188 号 43

ハイブリッドイオンプレーティング装置「SPS-2020型」

ハイブリッドイオンプレーティング装置「SPS-2020型」 NACHI TECHNICAL REPORT Materials Vol.34B7 October/218 マテリアル事業ハイブリッドイオンプレーティング装置 Hybrid Ion Plating Equipment "SPS-22" キーワード DLC コーティング PVD CVD HCDガン耐摩耗低摩擦サーモテック事業部 / 技術部 Takeshi Takai Junichi Yamaguchi