債権法改正が損害保険に及ぼす影響 ～　中間利息控除に関する規律の見直しについて　～

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1 損害保険にかかわる債権法の論点 ~ 中間利息控除に用いる割引率の変動化について ~ 平成 25 年 12 月 20 日三井住友海上火災保険株式会社波多江健

2 報告の目的 中間試案が示した中間利息控除に関する規律の評価 意見募集に際して出された主な意見やその理由の分析 損害保険を通じた損害賠償実務への影響 債権法改正に当たって留意すべき点 2

3 中間利息控除とは 意義 損害賠償額の算定に当たり 将来の逸失利益を現在価値に換算するために 損害賠償額の基準時から将来利益を得られたであろう時までの利息相当額 ( 中間利息 ) を控除 根拠 民法には 中間利息控除に関する規定は置かれていない 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは その利率は 年五分とする ( 民法 404) 金銭の給付を目的とする債務の不履行については その損害賠償の額は 法定利率によって定める ただし 約定利率が法定利率を超えるときは 約定利率による ( 民法 419Ⅰ) 3

4 中間利息控除とは 損害賠償額の算出 現在一括して損害賠償金を支払う場合の債務額 = 1 年あたりの将来利益の額 残存年数に応じた係数 係数 ( ライプニッツ係数の例 ) 1 年 年 年 (n 年後までの損害を 年利 r% で割り引いたうえで 現在賠償する場合 ) 1 年後の将来利益の額 100 (100+r) 年後の将来利益の額 100 (100+r) n 年後の将来利益の額 100 (100+r) n 4

5 中間利息控除とは 平成 11 年 11 月 22 日共同提言 交通事故による逸失利益の算定における中間利息の控除方法については 特段の事情のない限り 年 5 分の割合によるライプニッツ方式を採用する 平成 17 年 6 月 14 日最高裁判決 損害賠償額の算定に当たり 被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は 民事法定利率によらなければならないというべきである 5

6 中間試案における提案 平成 21 年 10 月 28 日法制審議会諮問 民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について 同法制定以来の社会 経済の変化への対応を図り 国民一般に分かりやすいものとする等の観点から 国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので その要綱を示されたい 平成 23 年 4 月 12 日中間論点整理を決定 平成 25 年 2 月 26 日中間試案を決定 6

7 中間試案における提案 第 8 債権の目的 4 法定利率 ( 民法第 404 条関係 ) (1) 変動制による法定利率 (2) 法定利率の適用の基準時等 (3) 中間利息控除 損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を行う場合には それに用いる割合は 年 [5 パーセント ] とするものとする ( 注 ) このような規定を設けないという考え方がある また 中間利息控除の割合についても前記 (1) の変動制の法定利率を適用する旨の規定を設けるという考え方がある 7

8 中間試案に対する反対意見 変動制にすべきとの意見 a 変動制の法定利率を適用する方向で検討すべき 中間利息控除の割合に法定利率を用いるという結論については判例法理で確立 明文化せず不法行為法の検討に委ねるべきとの意見 b このような規定を設けないという考え方に賛成 現在と同じように判例にゆだね できるだけ速やかに人身損害の損害額計算方法について合理的な立法をすることが望ましい 8

9 中間試案に対する反対意見 法定利率より低い割合とすべきでないとの意見 c 中間利息控除の規定を設けないのが妥当 法定利率と中間利息との間での逆転現象が生じるくらいであれば むしろ中間利息控除の規定を置かないのが 混乱回避の見地から見て妥当 d このような高い割合を用いることは明らかな誤り 平仄を欠いた提案 ( それどころか 本来... 中間利息控除の割合こそ低くなければならない ) e 法定利率を変動制や 3% として 中間利息を 5% とすることは強く反対 変動制を導入することにともない 中間利息を年 5% に固定化することは被害者の利益に反する 9

10 中間試案に対する反対意見 現在より低い割合に改めるべきとの意見 f 法定利率が 3% に改正されることを前提に中間利息控除の割合も 3% とすべき 年 5% で資産を運用することは困難である現状に鑑み 中間利息控除の割合も法定利率と同様に引き下げることが適切 g 固定制の利率を用いる点には賛成するが... 少なくとも その割合は 5 パーセントよりも低いものでなければならない 市場金利の実勢から乖離している年 5 パーセントの割合にて中間利息を控除することは 将来にわたる分割払を現在価額に換算するという本来の論理に照らして妥当性に問題 h 法定利率... が中間利息控除の問題には影響しないことを明確にすべく 中間利息控除の取扱いの規定を設けることには賛成 割合については 法定利率に係る規定改定時の当初利率 ( 上記では年 3%) と同じものとすることは検討されてよい 10

11 中間試案の検討 (1)5% を明文化 プラスの影響 マイナスの影響 備考 被害者の保護 解消せず 実勢金利の水準とのかい離 解消せず 遅延利息の割合とのかい離 解消せず 実質金利と名目金利 解消せず 被害者相互間の公平性 影響なし 虚構性 解消せず 純保険料への影響 - - 影響なし 付加保険料への影響 影響なし 11

12 中間試案の検討 (2) 変動制に移行 プラスの影響 マイナスの影響 備考 被害者の保護 当初は 以後変動 実勢金利の水準とのかい離 緩和 遅延利息の割合とのかい離 当初は 一部解消 実質金利と名目金利 当初は 緩和 被害者相互間の公平性 相対化 虚構性 一部解消 純保険料への影響 当初は 以後は上下 付加保険料への影響 つど発生 12

13 中間試案の検討 (3) 明文化見送り プラスの影響 マイナスの影響 備考 被害者の保護実勢金利の水準とのかい離遅延利息の割合とのかい離実質金利と名目金利 予測不能予測不能予測不能予測不能 5 被害者相互間の公平性 相対化 6 7 虚構性 純保険料への影響 解消せず 予測不能 8 付加保険料への影響 予測不能 ( ) 13

14 変動化の影響 (1) 被害者の保護 プラスマイナス備考 1 被害者の保護当初は 以後変動 変動制の法定利率が 5% を上回らない限り 損害賠償額はこれまでと比べ増加 中間利息控除割合モデルケース損害認定額 ( 上段 : 葬儀費 精神的損害 / 下段 : 逸失利益 ) 5%( 現行 ) との比較 5%( 現行 ) 27 歳男性 ( 全年齢平均賃金 : 月額 415,400 円 / 就労可能年数 40 年 ) 20,600,000 円 55,597,219 円 - 3% とした場合 一家の支柱 被扶養者 2 人 ( 生活費控除割合 35%) 20,600,000 円 74,895,374 円 +25.3% (+1,930 万円 ) 法制審議会 民法 ( 債権関係 ) 部会第 29 回会議における日本損害保険協会の説明資料をもとに作成 14

15 変動化の影響 (2) 実勢金利とのかい離 プラスマイナス備考 2 実勢金利の水準とのかい離 緩和 損害賠償額の計算 損害賠償金の運用 被害者の不利益 将来の必要額 5% で割引計算 賠償額 = 賠償金 5% で運用可? 運用後 実勢金利とのかい離が縮小するほど 賠償を受けた被害者の不利益も緩和 15

16 変動化の影響 (3) 遅延利息とのかい離 プラスマイナス備考 3 遅延利息の割合とのかい離当初は 一部解消 遅延損害金よりも高い割合を用いることは被害者にとって酷 将来の必要額 損害賠償額の計算 賠償すべき額 ( 元本 ) 遅延損害金の計算 賠償すべき額 ( 支払時 ) 被害者の不利益 中間利息を 5% で計算して控除 > 遅延損害金を 3% で計算して加算 16

17 変動化の影響 (3) 遅延利息とのかい離 プラスマイナス備考 3 遅延利息の割合とのかい離当初は 一部解消 法定利率適用の基準時 金銭の給付を内容とする債務の不履行については その損害賠償の額は 当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるものとする 債権存続中に法定利率が変動した場合 債権の存続中に法定利率の改定があった場合に 改定があった時以降の当該債権に適用される利率は 改定後の法定利率とするものとする 17

18 変動化の影響 (3) 遅延利息とのかい離 プラスマイナス備考 3 遅延利息の割合とのかい離当初は 一部解消 変動制のもと 利率が変動し得る 将来の必要額 損害賠償額の計算 賠償すべき額 ( 元本 ) 遅延損害金の計算 賠償すべき額 (Y1 末 ) 賠償すべき額 ( 支払時 ) 被害者の不利益 全期間について損害発生時 (T1) の利率で割引計算 T1 を含む期間 (Y1) の遅延損害金を同じ利率で計算 Y1 以後支払時までの遅延損害金を各期間の利率で計算 法定利率が変動 18

19 変動化の影響 (5) 被害者相互間の公平性 プラスマイナス備考 5 被害者相互間の公平性 相対化 変動後の利率が変動前を下回った場合は 損害賠償額は変動前と比べ増加 ( 反対に 変動の結果 損害賠償額が減少することもあり得る ) 中間利息控除割合モデルケース損害認定額 ( 上段 : 葬儀費 精神的損害 / 下段 : 逸失利益 ) 5%( 現行 ) との比較 5%( 現行 ) 27 歳男性 ( 全年齢平均賃金 : 月額 415,400 円 / 就労可能年数 40 年 ) 20,600,000 円 55,597,219 円 - 3% とした場合 一家の支柱 被扶養者 2 人 ( 生活費控除割合 35%) 20,600,000 円 74,895,374 円 +25.3% (+1,930 万円 ) 前出の日本損害保険協会の説明資料をもとに作成 19

20 変動化の影響 (8) 付加保険料 プラスマイナス備考 8 付加保険料への影響 つど発生 収支相等の原則利率低下 賠償金総額増加 純保険料上昇利率上昇 賠償金総額減少 純保険料低下 保険料の改定純保険料上昇 保険料への転嫁作業純保険料低下 保険料への還元作業 法定利率の変動頻度 改定の有無が定まる日 ( 基準日 ) は 1 年のうち一定の日に固定して定めるものとする 20

21 変動化の影響 3% 固定制との対比 変動制 ( 当初 3%) 固定制 (3%) 優劣 被害者の保護 将来も変動 将来固定 判定不能 実勢金利の水準とのかい離 将来も変動 固定 変動制が 遅延利息の割合とのかい離 解消せず 解消せず - 実質金利と名目金利 解消せず 解消せず - 被害者相互間の公平性 利率差あり 利率は一律 固定制が 虚構性 解消せず 解消せず 判定困難 純保険料への影響 将来上下 なし 判定不能 付加保険料への影響 あり なし 固定制が 21

22 留意すべき点 ~ まとめにかえて ~ 現在の割引率を 変更 することの是非と 固定制 と 変動制 の優劣とは 別次元 割引率の変動化がもたらす影響 社会全体のコスト 22