レプラ患者の癒し ( ルカ 5:12~16) 1) ルカ福音書講義 (25) 章 12 イエスが 2) 町の一つにいたときのこと 3) みよ全身がレプラ 4) に冒された男 5) がいたイエスを見ると彼は顔を地につけ 6) イエスに願って言った主よもしその気

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くうしょうこいたばし
5 years ago
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1 レプラ患者の癒し ( ルカ 5:12~16) 1) ルカ福音書講義 (25) 章 12 イエスが 2) 町の一つにいたときのこと 3) みよ全身がレプラ 4) に冒された男 5) がいたイエスを見ると彼は顔を地につけ 6) イエスに願って言った主よもしその気になれば 7) あなたは私を清める 8) ことがおできになります 13 そこでイエスは 9) 手を伸ばし彼に触れて 10) そうしよう清まれ 11) と言ったするとただちにレプラは彼から出て行った 12) 14 イエスは彼に命じた 13) 誰にも話さないように 14) ただ 1) マコ 1:40-45 マタ 8:1-4 が並行記事 2) 原文彼がこの単元では 12 節イエスを見ると以外にはイエスはすべて名指されることはない 3) した / であったときのことはヘブライ語法に基づく 70 人訳の用法マルコはこの単元をイエスのガリラヤ宣教の一環とするのでこのような状況説明はおかないマタイはこの単元を山上の教えに続けるので彼 (=イエス) が山から下ると多くの民衆が彼につき従ったとはじめるポリス町と記すのはルカの特徴ガリラヤの町カファルナウム (4:31 マコ 1:21 では単にカファルナウム ) 町から (8:4 マコ 4:1 には見られない ) 他にユダの町 (1:39) ダビデの町 (2:4) など 4) レプラ (lépra 英 leprosy) は狭義にはらい菌によって発症するハンセン病ハンセン病はもともとインドの風土病西方世界にはヘレニズム期にもたらされたというしたがって口語訳などの旧約聖書でらい病と訳されるヘブライ語ツァーラアトはハンセン病ではない ( 新共同訳重い皮膚病 ) 福音書に出るレプラも病理学的意味でハンセン病であったかどうかは確認できないしかし古代には皮膚が変色する病は穢れと判断され病者は穢れたものとして町の外に隔離されねばならなかった ( レビ 13:46 民 5:2 代下 26:21) したがって全身がレプラに冒された男が町のなかにいたとすれば何らかの異常事態が想像されようかなおツァーラアトの穢れに関する定めはレビ章に詳しいメソポタミアにおいても皮膚が変色する病気はアッカド語でサハルシュッブー (saḫaršubbû) あるいはエプカンヌ (epqannu) と呼ばれ神 ( とくに月神 ) の呪いによって起こされた皮膚病とみなされたその療法を記した前 13 世紀の粘土板文書が残る 5) 冒されたは満ちたが原意マルコとマタイは単にらい者(lépros) 6) 直訳顔の上に落ちてヘブライ語的表現マルコは跪き 7) 直訳あなたが望むならば 8) レプラは当時穢れと考えられていた ( レビ 13:8) それゆえその癒しには清めるという動詞が用いられるルカでは 4:27 7:22 17:14 など 9) マルコではここに深く同情して (splagchnízomai) が加わる 10) 触れる(háptō) ことによって癒しや祝福の力が移される ( ルカでは 6:19 7: :44 18:15 22:51 など ) 日本語でも治療や介護のことを手当てというここではしかし穢れとみなされていたレプラに全身を冒されていた男にイエスは直に触れたのであるじつはレプラのことは当時のヘブライ=アラム語でネガア (nega ) と呼ばれていた ( ミシュナートホロート篇ネガイーム ) それは触れという意味であり神の呪いが触れたと理解されていたためである ( 日本語で病をさわりというのに似る ) イエスはあえてそれに触れたのである 11) 言葉による癒しルカ福音書におけるイエスの癒しはまじないめいた行為でなく言葉によってなされる ( 言語行為 ) ルカはそれによってイエスが神の子の権威をもつことを示そうとするなおそうしようの直訳は私は望む前節その気になればと同一動詞 12) 熱病と同じく(4:38-39) レプラが擬人化されている 13) マルコではすると彼を厳しく戒めすぐさま彼を立ち去らせたそして言う 14) マルコは誰にも何も話すないわゆるイエスの沈黙命令ルカでは 4:35, 8:55 1

2 出て行きあなた自身を祭司に見せ 15) モーセが定めたとおり 16) 人々への証としてあなたの清めのための献物をしなさい 17) 15 ところが 18) イエスについての評判 19) はますます広まり多くの民衆が彼に 20) 聞こうとしてまた病を癒してもらおうとして集まってきた 16 イエスはしかし荒野に退いて祈っていた 21) 資料 : シリアの古代都市エマル出土のアッカド語皮膚変色症治療文書 ( 前 1300 年頃 ) の裏面行 ( 平山郁夫シルクロード美術館所蔵月本昭男古代メソポタミアの神話と儀礼岩波書店 2010 年 152 頁 ) 行もし人が皮膚変色症に罹ったら, あなたはクミンとイムフルアシュナン草を潰して混ぜ, 病気の皮膚に振りかけ, 亜麻布で覆い, これらの薬草を包帯にして巻かねばならない. 朝, あなたはピッルの根瘤とピッルの葉を散らし, 包帯にして巻かねばならない. 彼は回復しよう行もし人が皮膚変色症に罹り, その身体に白色がみられるなら, あなたはアシャグ樹, 塩, 大麦粉, 柳, 雌雄のナツメ椰子主葉脈を持ってきて, 潰し, 塗らねばならない. 彼は回復しよう. 55 同様にして, その身体に黄色がみられるなら, あなたは彼に生き物の脂肪を七日間, 塗り続けねばならない同様に, その身体に赤色と黒色がみられるなら, 蛇の脂肪, 魚の脂肪, 墓地のをあなたは七日間, 蛇の刻まれた角杯のように, 彼に包帯として巻きつけねばならない同様に, その身体に赤色と白色がみられれば, あなたはアシャグ樹の根, 塩, 大麦粉, 柳, 雌雄のナツメ椰子主葉脈を茹であげ, それを包帯として彼に巻きつけねばならない. 彼は回復しよう. ( 中略 ) 同様に, 皮膚変色症が赤色, 白色, 黒色であれば, その人の神の手であるこれを取り除くために蛇の脂肪, 大きなアシャグ樹, ライオンの脂肪, 原野の大蛇の脂肪を七日間, 七日あなたは彼に塗らねばならない. 彼は回復しよう. 15) ルカ 17:14 でもイエスは同様の指示をするモーセの律法によれば皮膚病が清められたかどうかの最終判断は祭司が行ったレビ 13: 他 16) マルコではここに深く同情して (splagchnízomai) が加わる 17) 皮膚病から清められたときの献物はレビ 14:10-32 に詳しいイエスのこの発言は彼が律法をないがしろにしなかったことを示す 17:14 も参照 18) 沈黙を命じたにもかかわらずマル 1:45 では以下癒された人が出かけて評判を伝え広めたのでイエスは大っぴらに町に入ることができなくなり人々があらゆるところからイエスのもとにやってくるようになったと記す 19) 原語は彼についての言葉 ( ロゴス ) 20) 彼には補い 21) ヒュポコレオー (hypochōréō, 英 retreat) 退くは他には 9:10 イエスはしばしば荒野に赴き (4:42) ひとりでときには近しい弟子たちとともに祈った (6:12 9: :1 22:40 以下 ) 2

3 ルカ福音書はシモンペトロをはじめとする弟子の召命記事の後に全身がレプラに冒された男性の癒しの物語を配置したこの物語はマルコ福音書 1:40-45 の記事に基づくルカは以下 6:16 まで基本的にマルコ福音書を資料に用いたただしマルコはこの記事をイエスのガリラヤ宣教の一環として位置づけるがルカは弟子の召命記事をガリラヤ宣教の後に配置したためつながりを持たせるためにイエスが町の一つにいたときというマルコにはない導入句を加えたマタイ 8:1-4 にも同じ記事が掲載されているがマタイはこれをいわゆる山上の説教の直後に配置したためにイエスが山を下られるとという別の導入句を付したマタイはまたマルコとルカでは物語の締めくくりにあたる部分 ( マコ 1:45 ルカ 5:15-16) をなぜか省略したいずれにしてもこの物語もまたマルコ福音書から採られて随所にルカ的な脚色がみてとれる物語自体は短くまた単純である全身レプラに冒された一人の男がイエスにおそるおそるレプラからの清めを願ったのでイエスは手を伸ばしてその男に触れ清まれと語ったするとレプラはその男から出て行ったそこでイエスはその男に律法に定められているようにレプラが清くなったことを祭司に見せ清めの献物をするように命じたその際イエスによって清められたことを他言しないようにと戒めたが逆にイエスの評判はますますひろまり民衆がイエスのもとに集まってきたイエスはしかし一人荒野に退き神に祈っていたというこれだけの短い逸話ではあるが考えさせられることは少なくないその一つは当時穢れているとみなされていたレプラの癒しを語ることレプラは日本では伝統的にらいと呼ばれてきた病気日本でも比較的最近まで遺伝病などと考えられ忌み嫌われ差別の対象になってきた 1873 年この病気がらい菌によって発症することをノルウェイの医師ハンセンが発見しいまではハンセン病ないしハンセン氏病と呼ばれるしかし日本では戦前はいうに及ばず戦後に制定されたらい予防法でさえも患者の隔離政策を認めてきたそれに対してらい予防法違憲訴訟が患者によって起こされ 2001 年熊本地方裁判所で違憲判決がだされときの小泉首相と厚生省が謝罪しまた国会でも謝罪が決議され最高裁判所長官も謝罪声明を発表した新約聖書にレプロスと記された患者が病理学的にもハンセン病者であったのかどうかは確認できないそもそも古代西アジアにおいては旧約聖書以前の時代から皮膚が変色する病気はサハルシュップーエプカンヌなどと呼ばれ神の手とくに月神シンの手が下ったために起こると考えられていたつまり月神の呪いの結果とみなされていたかつてのバビロニアやアッシリアの遺跡からは楔型文字で粘土板に記された医学文書が数多く発見されていたがそのなかに皮膚の変色症の治療はなかったがなんと文化財保護を訴えた平山郁夫画伯の楔型文書コレクションのなかに皮膚変色症治療文書が発見され解読された ( 解読者は月本で 20 年ほど前英語で発表 ) 現在では旧約聖書に関連する楔型文書の一つとして英語やドイツ語の資料集に紹介されているその一部を 2 ページ目の空欄に記した旧約聖書ではレビ記章に重い皮膚病に関する定めが詳しく記されているがその背景にはここに紹介したような皮膚変色症に関わる古代西アジアの観念が 3

4 あったそしてそれが治らない場合患者は穢れているとして町の外に隔離されねばならなかったのである新約聖書より後ユダヤ教において成立したミシュナーの清潔 ( トホロート ) 篇のなかに皮膚病 ( ネガイーム ) という章がありその章全体が皮膚の変色変性症を扱いどういう場合が清くどういう場合が穢れているかということを詳しく論じている本日の物語にはそうした背景があったそしてルカはマルコなどがレプラ患者というところを全身がレプラに冒されていたと記しこの患者がどんなに穢れていたのかという点を強調するその男がイエスに清めを願ったのであるこの物語には周囲にいた人々がどのような反応を示したかは記されていない誰にも話なさないようにというイエスの言葉からすると二人だけであったかもしれないあるいは他の人々に気づかれないように男は衣で全身を覆っていたかもしれないイエスはしかしその病の穢れを気にせずに手を伸ばして彼に触れ清まれと告げたこれは先週上田明子先生が言われたイエスの <Speech Act 言語行為 > 注 11 に記したようにイエスの奇蹟のなかでも病気を癒す奇蹟はその多くが触れることと言語行為によるマルコには耳に指を入れ唾を下につけて聾唖者を癒したと記され ( マコ 7:33) ヨハネはイエスが唾で土をこねて眼に塗って盲人を癒したといった記事も残している ( ヨハ 9:6) しかしルカはそのような記事を伝えなかったルカが医者であったとすれば癒しの過程を詳しく記してもよかったはずしかしそうしなかったルカは医者でありながら癒しがどのように起こったのかということに関心を寄せないむしろ癒されたという事実を重視したそれは旧約聖書の創造物語に似ている天地創造の物語において神は言葉によって万物を創造する創造のプロセスを詳しく叙述することはないルカが意識したかどうかはわからないがイエスの癒しの行為もその創造行為に比せられるといってよいレプラが清められたときイエスは癒された人に誰にもこのことを言わないようにと命ずるマルコ福音書はにもかかわらず癒された男はその皇都を周囲に吹聴したと記すルカはその辺をすこしゆるやかに次第にイエスの評判が広まっていったと言い換えたしかしその前に沈黙命令とともにレプラの清めを祭司に見せ清めの献物をするようにと勧めるレビ記によればレプラが清くなったかどうかは祭司が判断し清めの献物もレビ 14:10-32 に詳しく定められているこうしたイエスの指示はイエスが律法を蔑ろにしなかったことを示している人間を窒息させてしまうような律法主義はイエスはこれを厳しく批判したしかしイエスは律法破壊論者ではなかったむしろ律法そのものは大切にしたのである後にパウロもまた救いは神の恵みに基づくのであって律法によるのではないことを強調したこの点においては譲ることはないがパウロは律法を無視したのではなかったむしろ律法は聖なるものであるとさえ述べている ( ロマ 7:12) いずれにしてもイエスの命令は彼がモーセの律法を重んじていたことを物語る (17:14 においてもレプラ患者に同様の指示をする ) この物語は最後にイエスは荒野に退き祈っていたと締めくくられるマルコもマタイもそうは記していないのでこの締めくくりがルカの筆によることは明らかである退くことを英語でリトリートという安曇野の鳥居山荘での夏の集いに 4

5 毎年参加された日野原重明先生は人生においてはときに娑婆を離れ自然のなかでリトリートの時間を過ごすことの大切さを繰り返し話されていた忙しい毎日を送る者にとってリトリートの時間を取ることは容易ではないしかしこの点で私たちもイエスを見習ってときにリトリートしようではないか最後にこの物語の意味を考えてみたい私たち自身はハンセン病に苦しむわけではないまたもし重篤な病に罹患すれば病院がある病気の原因も多くの場合究明されてきたので病気の癒しを神に願うということはほとんどなくなってきている清めとか穢れという観念ももはや現代的ではなくなってきたしかしそうであっても自分の力はもとより科学や経済の力ではなんともできない事態が私たちを襲うことはあるすべてが計画通りすべてが思い通りというわけにはゆかない健康の問題だけでなく様々な人間関係もそうである私たちの思いをこえてにっちもさっちもゆかないことが起こりうる絶望のどん底に落とされることもある本日の物語のレプラに全身が冒された男もそうであったに違いない自分の思いとは別の力によって希望を絶たれただがそこにイエスがおられた自分の思いをイエスに披瀝することによって絶望のどん底から解放されたルカ自身がそうした体験者であったかどうかはわからないしかし神の子イエスとの出会いによって人はどんな絶望からも解放されるという使信をルカがレプラの癒しの物語のなかにこめたであろうことは間違いないように思われる 5

2013 年 3 月 10 日 ( 日 ) 11 日 ( 月 ) 51 回目 Ⅵ-054 山上の垂訓山上の垂訓 054 マタ 5:1~2 ルカ 6:17~19 1. はじめに (1) 呼び名について 1マタ 5:1~8:1 は通常山上の垂訓 ( 説教 ) と呼ばれる 2しかしこの名称は説教

2013 年 3 月 10 日 ( 日 ) 11 日 ( 月 ) 51 回目 Ⅵ-054 山上の垂訓山上の垂訓 054 マタ 5:1~2 ルカ 6:17~19 1. はじめに (1) 呼び名について 1マタ 5:1~8:1 は通常山上の垂訓 ( 説教 ) と呼ばれる 2しかしこの名称は説教 054 マタ 5:1~2 ルカ 6:17~19 1. はじめに (1) 呼び名について 1マタ 5:1~8:1 は通常山上の垂訓 ( 説教 ) と呼ばれる 2しかしこの名称は説教が語られた場所を指しているだけである * ルカの福音書では平らな所となっている 3 本当は内容を表現する命名の方がよい * メシアによる律法解釈 * 律法を正しく解釈するメシアの権威 (2) マタイとルカの比較