技術資料火山灰等を用いた重金属類の吸着性能に関する室内化学分析 * 田本修一岡﨑健治 * 伊東佳彦 1. はじめに平成 22 年 4 月土壌汚染対策法の一部を改正する法律の施行により自然由来の重金属類を含有する汚染土壌も規制の対象となった建設工事区域内で発生した汚染土壌に対しても

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しげじろうはなだて
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1 技術資料火山灰等を用いた重金属類の吸着性能に関する室内化学分析 * 田本修一 ** 岡﨑健治 *** 伊東佳彦 1. はじめに平成 22 年 4 月土壌汚染対策法の一部を改正する法律の施行により自然由来の重金属類を含有する汚染土壌も規制の対象となった建設工事区域内で発生した汚染土壌に対してもより厳格な対応が求められるようになった一方国土交通省では平成 22 年 4 月土壌汚染対策法の一部を改正する法律の施行前に建設工事における自然由来重金属等含有岩石土壌への対応マニュアル ( 暫定版 ) 1) を公開したこのマニュアルでは汚染への新たな対応の枠組みとして人の健康および環境への負の影響がどの程度解消されるのかを定量化するサイト概念モデルに基づくリスク評価による設計手法が示されたこの手法を導入することにより対策の効果をリスクの低減という観点で評価できるため対策の妥当性を明らかにできるとともに最も効率的な対策の方法を選択することができるようになったヒ素や鉛などの重金属類は火山灰や粘性土による吸着効果が大きい 2) このため重金属類を含有する岩石ずりなどに敷土覆土することによって降雨による水の浸透と酸素の侵入を抑制し重金属類の溶出を低減させるとともに岩石ずりから溶出した重金属類は敷土への吸着により外部への溶出濃度を低減されることが期待されるしかし現状では土木分野における適用例は少なく吸着性能を評価するための統一的な試験方法等検討すべき課題がある本資料では新たな対策技術の評価施工管理技術の検討の一環としてより経済的な重金属類の汚染拡散防止策を検討するため北海道内で流通している火山灰等を主体とする土取り場より試料を採取しヒ素セレンおよび鉛の重金属類の吸着試験を行い重金属類の吸着性能について検討した結果を報告する 2. 試料採取および試験方法 2.1 試料採取試料は北海道土壌図 3) より火山性土が分布するとされる土取り場を5 箇所選定し採取した表 -1に試験に供した試料の一覧を示すまた同表中には平成 13 年底質調査方法に基づく含有量試験結果と平成 15 年環境省告示 18 号に基づく溶出量試験結果を示す表 - 1に示すように土壌含有量基準値土壌溶出量基準値を超過する試料はなかった 2.2 土質試験鉱物分析各試料の物理特性鉱物学的特性を把握するため表 -2に示す各土質試験および X 線粉末回折試験を実施した 2.3 吸着試験吸着試験はバッチ法に基づき実施した被吸着質としてヒ素 (As) セレン (Se) 鉛 (Pb) を用いた試験溶媒は表 -3に示す試薬を用いてそれぞれ次のように調整を行ったヒ素とセレンは1,000mg/L の標準液を蒸留水で8~9 倍に希釈して中和後 100mg/ L としそれを段階的に希釈して所定の濃度に調整した鉛は試薬を溶かして1,000mg/L 溶液に調製しそれを段階的に希釈して所定の濃度に調整したなお中和後の ph は 7.0となるよう試験溶媒を作製した表 -1 試験に供した試料一覧 18 寒地土木研究所月報年 4 月

2 表 -2 表 -3 表 -4 土質試験鉱物分析一覧吸着試験に用いた試薬一覧実験は調整した溶媒 300mL に試料 30g を添加し常温常圧で 4 時間振とう (20±2 振とう回数毎分 200 回振とう幅 4~5cm) しその懸濁液を遠心分離 (3000rpm 20 分 ) 後さらに 0.45μm メンブランフィルターでろ過して分析に供した水質分析の方法は ICP 質量分析法により対象重金属類の分析を行った 2.4 土壌成分分析土壌成分分析は重金属類との吸着に関係性の深い項目 4) について実施した各試料の分析項目および分析手法について表 -4 に示す分析項目および分析手法表 -5 土質試験結果一覧表 -6 鉱物分析結果一覧量と確認され粘土鉱物はスメクタイトが同定された 3. 試験結果と考察 3.1 試料の物理特性および鉱物学的特性各試料における物理試験透水試験結果を表 -5に示す粒度特性は表 -5に示されるとおり礫分は 2.5 ~ 62.9% 砂分は20.6 ~ 92.3% 細粒分( シルト分 + 粘土分 ) は3.9 ~ 30.6% の範囲であった透水係数は NS-1を除き道路盛土の路体盛土の施工管理基準値である締固め度 D=85% の時で10-3 ~ 10-4 m/s オーダーであった X 線粉末回折試験による鉱物同定の結果を表 -6に示す KH-1は石英が中量確認されているが粘土鉱物は同定されなかった SH-1と NS-1はともに石英が極多量斜長石が中量確認され粘土鉱物は雲母類緑泥石が同定されたさらに SH-1ではスメクタイトが NS-1ではハロイサイトとレクトライトが確認されレクトライトは中量であった KF-1は斜長石が極多量石英が多量と確認され粘土鉱物は雲母類とハロイサイトが同定された OM-1は石英と斜長石がともに多 3.2 吸着特性吸着試験結果の平衡液相濃度とその時の吸着量から式 (1) に示すフロイントリッヒ型の吸着等温式に近似させて吸着特性を整理した 6) 求められた定数 k と n および平衡液相濃度から式 (2) より分配係数 (Kd) を算出した吸着試験結果に基づく対象重金属類の平衡液相濃度と吸着量の関係を図 -1に示すまた式 (1) および (2) で得られた各定数を表 -7 8に示す (1) (2) ここで Q: 試料への吸着量 (mg/kg) C: 平衡液相濃度 (mg/l) k,n: 定数 Kd: 分配係数 (L/kg) ヒ素は各試料ともフロイントリッヒ型の吸着等温寒地土木研究所月報年 4 月 19

3 図 -1 対象重金属類の平衡液相濃度と吸着量の関係式に近似され高い相関性が見られる KH-1は平衡液相濃度の低下とともに分配係数がわずかに減少傾向を示し吸着能が低いものと考えられるその他の試料は濃度依存性が高く SH-1と NS-1は特に高い吸着能を示したセレンは各試料ともフロイントリッヒ型の吸着等温式に近似された KH-1は平衡液相濃度の低下とともに分配係数がわずかに減少傾向を示し吸着能が低いものと考えられるその他の試料は濃度依存性が高く NS-1は特に高い吸着能を示した鉛は各試料ともフロイントリッヒ型の吸着等温式の定数 k が他の重金属類に比べ高い値を示したしかしヒ素とセレンに比較すると相関性は若干低かった各試料とも濃度依存性が見られ平衡液相濃度の表 -7 フロイントリッヒ型の吸着等温式の定数低下とともに分配係数が急激に上昇した平衡液相濃度が低濃度の領域において鉛に対する試料の吸着性が強いものと考えられる表 -8 各平衡濃度における分配係数一覧 3.3 土壌成分と吸着量土壌成分分析結果を表 -9 に示す KH-1 と KF-1 は非晶質アルミは検出されず非晶質鉄の値が小さなかった SH-1 と NS-1 は他試料と比較すると非晶質アルミと鉄がともに高かった OM-1 は中程度の値であった表 -9 非晶質アルミ非晶質鉄含有量 20 寒地土木研究所月報年 4 月

4 対象重金属類について自然由来の場合の溶出量として 0.1mg/L を選択しこれを平衡液相濃度として表 -7 に示す定数を用いて式 (1) より吸着量を算出したこの値と各土壌成分の関係を図 -2 3 に示すここで定量下限値未満のものは便宜上定量下限値をプロットしたこれらの図より非晶質アルミ鉄含有量の値が大きくなると対象重金属類の吸着量は上昇する傾向が見られた NS-1 では他よりも大きな吸着量を示したこれらの結果から火山灰土や粘性土に含まれる非晶質ないしは準晶質の粘土鉱物すなわちアロフェンイモゴライトフェリハイドライトなどの含水アルミニウムケイ酸塩鉱物や水酸化鉄鉱物が重金属類の吸着に大きな役割を果たしているものと考えられる図 -2 図 -3 非晶質アルミ含有量と対象重金属類吸着量の関係非晶質鉄含有量と対象重金属類吸着量の関係 4. まとめと今後の課題北海道内で流通している火山灰等を主体とする土取り場より試料を採取しヒ素セレンおよび鉛の重金属類の吸着試験を行い重金属類の吸着性能について検討した結果以下のことが明らかとなった試験に用いた試料の吸着特性は各試料ともフロイントリッヒ型の吸着等温式で近似されたヒ素セレンでは KH-1は平衡液相濃度の低下とともに分配係数がわずかに減少傾向を示し吸着能が低いものと考えられたヒ素セレンと比較して鉛はフロイントリッヒ型の吸着等温式での相関性が比較的低く各試料とも平衡液相濃度の低下とともに分配係数が急激に上昇したこのことから今回試験を行った火山灰等の試料では鉛に対する強い吸着性を持つものと考える試料の火山灰等に含まれる非晶質アルミ鉄含有量の値が大きくなると対象重金属類の吸着量は上昇する傾向が見られた特に NS-1で大きな吸着量を示したこのことから火山灰土や粘性土に含まれる非晶質ないしは準晶質の粘土鉱物含水アルミニウムケイ酸塩鉱物や水酸化鉄鉱物が重金属類の吸着に大きな役割を果たしているものと考えられる今後の課題として自然由来の重金属類を含む岩石ずり等からの溶出水を用いた吸着試験を行い同様な吸着傾向が見られるのか検証する必要があるものと考える参考文献 1) 建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル検討委員会 : 国土交通省 HP region/recycle/recyclehou/manual/index.htm 2) 日本地下水学会編 : 地下水土壌汚染の基礎から応用理工図書 pp ) 北海道農業試験場 : 北海道土壌図農牧地および農牧適地 60 万分の ) 坂田昌弘 : 土壌へのヒ素とホウ素の吸着特性電力中央研究所報告 )Blakemore, L. C., Searle, P. L. and Daly, B. K.: Methods for chemical analysis of soils, NewZea land Soil Bureau Scientific Report, 10A, )( 独 ) 土木研究所編 : 建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル ( 暫定版 ) 鹿島出版会 pp 寒地土木研究所月報年 4 月 21

5 * 田本修一 TAMOTO Shuichi 寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム研究員 ** 岡﨑健治 OKAZAKI Kenji 寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム研究員技術士 ( 応用理学 ) *** 伊東佳彦 ITO Yoshihiko 寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム上席研究員博士 ( 工学 ) 技術士 ( 応用理学 ) 22 寒地土木研究所月報年 4 月

第 18 回地下水土壌汚染とその防止対策に関する研究集会 (2012 年 ) ( S1-18) 吸着資材の性能評価に際しての留意点植松えり子 1 成田瑞季 1 小口智久 1 常松哲 1 1 株式会社イーエス総合研究所 1. はじめに近年道路トンネル河川地下鉄工事現場等で自然的原因による重

第 18 回地下水土壌汚染とその防止対策に関する研究集会 (2012 年 ) ( S1-18) 吸着資材の性能評価に際しての留意点植松えり子 1 成田瑞季 1 小口智久 1 常松哲 1 1 株式会社イーエス総合研究所 1. はじめに近年道路トンネル河川地下鉄工事現場等で自然的原因による重第 8 回地下水土壌汚染とその防止対策に関する研究集会 (202 年 ) ( S-8) 吸着資材の性能評価に際しての留意点植松えり子成田瑞季小口智久常松哲株式会社イーエス総合研究所. はじめに近年道路トンネル河川地下鉄工事現場等で自然的原因による重金属類を含有した岩石土壌がほぼ全国的に発生しており ), 2), 3), 4) 特にヒ素の事例が多く報告されているこれは我が国には