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1 穀物繊維 と腸内環境の関係に迫る 2015 年 3 月 No.121 世界初の食物繊維が豊富なシリアル として 1915 年に米国で ブランフレーク が誕生しました 以来 100 年 ケロッグはお腹の健康に欠かせない食物繊維を研究し続けてきました 日本ケロッグでも今年は オールブラン シリーズのアニバーサリーイヤーとして 食物繊維ひとすじ 100 年 をキーメッセージとして 食物繊維に関する様々な情報発信や啓発活動を展開します 2015 年は 日本でも 食品表示法の施行 機能性表示食品制度の導入 日本人の食事摂取基準 2015 年版の運用開始など 食事や健康に関わる制度の大きな変化を迎える年となります 食事摂取基準 (2015 年版 ) では 食物繊維 の目標量について 18 歳以上については数値の変更 ( 目標量の増加 ) 小児 (6 歳 ~17 歳 ) については初めて目標量が設定されました 小児の目標量設定の根拠として 小児期の食習慣はその後の食習慣にもある程度影響しているという報告が複数ある 小児期の食習慣が成人後の循環器疾患の発症やその危険因子に影響を与えている可能性も示唆されている といったことをあげ 子どもの頃からの食物繊維摂取の重要性が明らかになってきました これまでも Kellogg s Update では食物繊維と腸内環境について様々な先生方からお話をいただいてきました 今回は 新たな知見とともに 改めて食物繊維 とりわけ穀物に含まれる食物繊維と腸内環境についての情報をお届けします 日本ケロッグ栄養アドバイザー博士 ( 理学 ) 栄養管理士田中恭子 - 特集記事 - 穀物由来の不溶性食物繊維と腸内環境の関係 青江誠一郎大妻女子大学教授 - 論文情報 - 食物繊維の多い食事が大腸炎を抑える 福田真嗣慶應義塾大学先端生命科学研究所 食物繊維の摂取増加による医療費削減効果 Kellogg s Update は日本ケロッグ合同会社が 1992 年より発行している 栄養 健康情報誌です 2010 年 4 月より 季刊で発行 国内 海外の最新の話題を取り上げ その分野の専門家の方々にご執筆頂いております 本誌内部の引用 転載は自由でございますが Kellogg s Update ( ケロッグアップデイト ) より転載の旨を御書き添えいただければ誠に幸甚に存じます 日本ケロッグ合同会社 日本ケロッグ WEB サイト : Kellogg s Update WEB サイト : <Kellogg s Update に関するお問い合わせ先 > Kellogg s Update 事務局 ( ブルーカレント ジャパン株式会社 ) TEL: [email protected] 1

2 穀物由来の不溶性食物繊維と腸内環境の関係 大妻女子大学家政学部青江誠一郎 Seiichiro Aoe 食物繊維が腸疾患や代謝性の疾患と密接な関連をもつことが示されて以来 食物繊維の生理作用に関する研究が精力的に行われてきました 研究に使用される食物繊維素材も多様化し 現在ではレジスタントスターチも含めて生理機能が研究されています 食物繊維は その包括的な定義から様々な物理化学的特性を有するものが多く これまでには大まかに水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分類されてその機能が研究されてきました 表 1は 食物繊維の主な生理作用とエビデンスが存在する機能についてまとめたものです 小麦ふすま ( ブラン ) に代表される食物繊維は 腸疾患の予防や改善に グアーガムやペクチンに代表される水溶性食物繊維は代謝性疾患の予防 改善に有効とされてきました しかし 近年になって不溶性食物繊維に富む穀類 ( 穀物ふすまや全粒穀物 ) の摂取は 肥満 2 型糖尿病 冠状動脈疾患のリスク低減に有効とするシステマティックレビューが報告されました 1) さらに朝食に穀物繊維を摂取することにより糖尿病 冠状動脈疾患の相対リスクが低下するというメタアナリシスの結果が報告されています 2) 一般的に 穀物由来の食物繊維は 不溶性食物繊維が主体です 表 1 食物繊維の機能 3) 生理機能 糖質代謝糖質の消化吸収速度の遅延 * グリセミックインデックスとの関係 * 脂質代謝血清コレステロール低下作用 * 排便 便性改善効果嵩増加, 便形成の調節 * エビデンス 排便回数の改善 * 腸疾患の抑制炎症性腸炎の予防とコントロール * ポリープ形成, 腸憩室症の予防効果 * プレバイオティクス効果腸内細菌叢の改善 * 消化管機能消化管組織形態変化 * 嫌気性菌による発酵基質としての食物繊維, 難消化性オリゴ糖 小腸粘膜機能の調節 : ムチンの産生促進 * 消化管ホルモンの (GIP,GLP-1 など ) の産生刺激 免疫刺激バリア機能や腸管感染の改善 * 有害物質毒性軽減効果 ミネラルの腸管吸収 変異源物質の吸着排泄作用 環境汚染物質の体外排泄作用 Ca, Mg 吸収促進作用 Fe, Cu, Zn の吸収への影響 * 穀物由来の不溶性食物繊維に効果が認められている機能 2

3 したがって このような穀物の多彩な生理機能は これまでの水溶性食物繊維と不溶性食物繊維による機能分類では説明できませんでした ここでは 穀物中に多く含まれる不溶性食物繊維と腸内環境との関係に焦点を当ててみたいと思います 不溶性食物繊維の排便 便性改善効果不溶性食物繊維は 大腸内の通過時間の短縮 4) 便の重量と排便回数の増加 5) 大腸内容物の希釈により腸内環境に影響を与えます 小麦ふすま ( ブラン ) や野菜の多い食事は腸内通過時間を短縮させますが その他の食物繊維源では一貫した報告がありません 一般的に 小麦ふすま ( ブラン ) などの発酵を受けにくい食物繊維は便重量を増加させますが ペクチンなどの易発酵性食物繊維は便重量をあまり増加させません 朝食にふすまなどの食物繊維を摂取すると 便秘が軽減したという報告は多くあるものの 排便促進効果を直接証明した報告はあまり多くないのです しかし システマティックレビューで取り上げられた論文 5 例ともに一貫して排便を促進するという結果となっています 1) この結果を統合すると 朝食にふすまなどの穀物繊維を摂取すると 少なくとも平均排便頻度が25% 増加すると結論づけられます なお この5 例のうち4 例が小麦ふすま ( ブラン ) を用いた試験でした 不溶性食物繊維の腸疾患の予防効果食物繊維は 大腸の腸憩室症を予防し 症状を緩和する作用があることが報告されています 6,7) 便の重量を増やし 腸内容物の通過時間を短 縮し 大腸内の圧力を低下させることが 予防効果に関与していると考えられています この効果は 小麦ふすま ( ブラン ) などの不溶性食物繊維で特に効果が明確です 健康な男性を対象に 食物繊維摂取量と大腸憩室症の発症関係を4 年間追跡調査した結果 食物繊維摂取の多い集団は 少ない集団に比べて有意に相対危険度が低下しました 8) 水溶性食物繊維の摂取の増加よりも 小麦ふすま ( ブラン ) に代表される不溶性食物繊維の摂取の増加の方が 大腸憩室症リスクの低下に有効なのです 9) 不溶性食物繊維の腸粘膜機能の調節効果ムチンは 腸上皮細胞の防御に対して重要な役割をはたすため 分泌量が変化することが防御機能や生理機能に重要な影響をもたらします これまでにも 食物繊維はムチン分泌を促進することが報告されています 10-14) 初期の研究では, 水溶性食物繊維の粘性や大腸での発酵性がムチン産生に有効と考えられていましたが, 不溶性の食物繊維である小麦ふすま ( ブラン ) も腸のムチン分泌を促進することが報告されました 13) Settling volume(sv) という概念が桐山らによって提唱されており, 消化管内での不溶性食物繊維の嵩を増加させる作用を定義するのに有用であるとされています 15) SVに比例して小腸のムチン分泌が促進されることが示され 不溶性食物繊維ではSVが 水溶性食物繊維では粘性と発酵産物である短鎖脂肪酸が刺激因子と考えられました 16) なお, 不溶性食物繊維の中では 小麦ふすま ( ブラン ) のSVが特に高くなっています 以上のように, 穀物由来の不溶性食物繊 3

4 維の機能は これまで考えられてきた以上の健康効果を有する可能性が示されました これらは 腸内環境の変化を介して直接的あるいは腸内代謝を介した間接的な作用と考えられます 今後 穀物由来の不溶性食物繊維に着目した さらなるエビデンスの蓄積と作用メカニズムの基礎 研究が発展することを期待したいです < 参考文献 > 1) Cho SS, Qi L, Fahey GC Jr, et al: Consumption of cereal fiber, mixtures of whole grains and bran, and whole grains and risk reduction in type 2 diabetes, obesity, and cardiovascular disease. Am J Clin Nutr 2013; 98, ) Williams PG: The benefits of breakfast cereal consumption: a systematic review of the evidence base. Adv Nutr 2014; 5, 636S-673S 3) 青江誠一郎, 山下亀次郎, 岸田太郎他 食物繊維の生理作用, 日本食物繊維学会編集委員会編 : 食物繊維基礎と応用, 第一出版 2008; ) Burkitt DP, Walker AR, Painter NS: Effect of dietary fibre on stools and transit-times, and its role in the causation of disease. Lancet 1972; 2, ) Saito T, Hayakawa T, Nakamura K, et al: Fecal output, gastrointestinal transit time, frequency of evacuation and apparent excretion rate of dietary fiber in young men given diets containing different levels of dietary fiber. J Nutr Sci Vitaminol 1991; 37, ) 太田昌徳, 石黒昌生, 岩根覚他 : 大腸疾患患者における食物繊維摂取量の検討. 日本消化器病学会雑誌 1985; 82, ) Nakaji S, Danjo K, Munakata A, et al : Comparison of etiology of right-sided diverticula in Japan with that of left-sided diverticula in the West. Int J Colorectal Dis 2002; 17, ) Aldoori WH, Giovannucci EL, Rimm EB, et al: A prospective study of diet and the risk of symptomatic diverticular disease in men. Am J Clin Nutr 1994; 60, ) Aldoori WH, Giovannucci EL, Rockett HR, et al: A prospective study of dietary fiber types and symptomatic diverticular disease in men. J Nutr 1998; 128, ) Cassidy MM, Lightfoot FG, Grau L et al : Effect of chronic intact of dietary fibers on the ultrastructural topography of rat jejunum and colon : a scanning electron microscopy study. Am.J.Clin.Nutr 1981; 34, ) Schneeman BO, Richter BD, Jacobs LR : Response to dietary wheat bran in the exocrine pancreas and intestine of rats. J.Nutr 1982; 112, ) Vahouny GV, Le T, Ifrim I et al : Stimulation of intestinal cytokinetics and mucins turnover in rats fed wheat bran or cellulose. Am.J.Clin.Nutr 1985; 41, ) Satchithanandam D, Vagofcak-Apker M, Calvert RJ et al : Alteration of gastrointestinal mucin by fiber feeding rats. J.Nutr 1990; 120, ) Satchithanandam D, Klurfield DM, Calvert RJ et al : Effects of dietary fibers on gastrointestinal mucin in rats. Nutr.Res 1996; 16, ) Takeda H and Kiriyama S : Correlations between the physical properties of dietary fibers and their protective activities against amaranth toxicity in rats. J.Nutr 1979; 109, ) Tanabe H, Sugiyama K, Matsuda T et al : Small intestinal mucins are secreted in proportion to the settling volume in water of dietary indigestible components in rats. J.Nutr 2005; 135, Profile 青江誠一郎 ( あおえせいいちろう ) 大妻女子大学家政学部食物学科教授 一般社団法人日本食物繊維学会常務理事 大妻女子大学家政学部食物学科教授 農学博士 千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了 一般社団法人日本食物繊維学会常任理事 雪印乳業株式会社技術研究所を経て平成 15 年度より大妻女子大学家政学部助教授に就任 平成 19 年度より現職 大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する論文にて 平成 22 年度日本食物繊維学会の学会賞を受賞 4

5 海外栄養 健康情報 1 食物繊維の多い食事が大腸炎を抑える ~ 腸内細菌がつくる酪酸による制御性 T 細胞の分化誘導 ~ 以前より食物繊維の摂取は腸内環境を整えることが知られていましたが 近年の研究でストレスや加齢 抗生物質摂取などによる腸内環境のバランスの悪化が 腸疾患や自己免疫疾患 代謝疾患といった全身性の疾患につながることが明らかになってきました 今回は 腸内エコシステム ( 腸内細菌叢と種々の腸管細胞群から構成される腸内生態系 ) の専門家 福田真嗣特任准教授を中心とするグループが行った 食物繊維の発酵代謝により産生される腸内細菌叢由来酪酸が 炎症性腸疾患 ( 潰瘍性大腸炎やクローン病 ) を抑制するメカニズムの研究を紹介します 以下 引用文 炎症性腸疾患では 腸管免疫の働きが強すぎることにより消化管に炎症が起きている この一因に 腸管免疫の働きを抑制する制御性 T 細胞の数が少ないことがある 最近の研究でクロストリジウム目の腸内細菌が制御性 T 細胞を増やすことがわかってきた この研究は これらの関係を分子レベルで明らかにしたものである クロストリジウム目細菌群だけを腸管内に持つマウスを作製し 食物繊維を多く含む食事を与えた場合とほとんど含まない食事を与えた場合を比較すると 前者で大腸粘膜における制御性 T 細胞の割合が大きく増加していた メタボローム解析を用いて腸内細菌が食物繊維の発酵代謝により産生する様々な代謝産物について網羅的に解析したところ 酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸や いくつかのアミノ酸が腸管内で多く産生されていた メタボローム解析により同定した短鎖脂肪酸やアミノ酸を一つずつ未成熟なT 細胞の培養液に添加したところ 短鎖脂肪酸の一つである酪酸により制御性 T 細胞への分化が誘導された 腸管内の酪酸濃度を高めるため 酪酸を難消化性でんぷんに化学的に架橋した酪酸化でんぷんをマウスに与えたところ 与えていないマウスに比べて大腸粘膜の制御性 T 細胞の割合が約 2 倍増加した ( 次頁へつづく ) 5

6 大腸炎を起こしたマウスに酪酸化でんぷんを与えたところ 与えていないマウスに比べて制御性 T 細胞の割合が1.5~2 倍に増加し 大腸炎の症状も緩和された 次世代シーケンサーを用いたゲノムワイドなエピゲノム解析により 制御性 T 細胞への分化誘導に必須なマスター転写因子であるFoxp3 遺伝子領域のヒストンのアセチル化が 酪酸の添加により促進された これらの結果は 腸内細菌による食物繊維の発酵代謝により産生された短鎖脂肪酸の一つである酪酸が 大腸粘膜における制御性 T 細胞の分化をエピジェネティックに誘導することを明らかにしただけでなく 炎症性腸疾患の新たな治療方法の確立や 腸内細菌由来代謝産物と腸管免疫機能との関係に新たな知見を与えるものである Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature 2013 ;504, 福田真嗣 ( ふくだしんじ ) 先生プロフィール 2006 年明治大学大学院農学研究科博士課程修了 博士 ( 農学 ) 理化学研究所免疫 アレルギー科学総合研究センター基礎科学特別研究員などを経て 2012 年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授 2013 年に科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞 2014 年に山形県科学技術奨励賞を受賞 大学時代から一貫しておなかの中の小宇宙 腸内細菌叢の摩訶不思議について研究を続けている 食品成分による腸内環境改善効果の分子機構に迫る新たなプロジェクト発足に伴い 腸内環境改善効果を有すると思われるような食品成分を研究材料として随時募集中 専門は腸内環境システム学 統合オミクス科学 6

7 海外栄養 健康情報 2 食物繊維の摂取量増加が医療費削減に貢献 1) 昨年 4 月に医療分野における新たな研究により 米国の成人が食物繊維の 1 日の摂取量を 25 グラムまで増 やせば 医療費を年間 127 億ドル節約できるという試算が示されました 2) 今回は 同様の試算を ヨーロッ パ ( 英国 アイルランド スペイン ) のデータに基づき行った結果です 以下 引用文 1 日あたり国民の25% が3グラム 15% が4グラム 25% が5グラム 10% が11グラム 食物繊維の摂取量を増加 25% は変更なし の場合に 年間医療費がどのくらい削減できるかを試算した その結果 英国では約 1.3 億ポンド ( 日本円で約 236 億円 ) アイルランドで約 880 万ユーロまたは約 724 万ポンド ( 日本円で約 13 億円 ) スペインで約 1.2 億ユーロ ( 日本円で約 154 億円 ) 削減できるという結果となった この試算に用いられた各国の基礎データでは 例えば 英国で 食物繊維の摂取推奨量を満たしている人口は男性 33% 女性 13% 便秘などの症状がある人口割合: 男性 9.2% 女性 17.4% となっている 日本では毎年行われている国民健康 栄養調査ですが 国民に対して直接行う国レベルでの調査は米国でもヨーロッパ諸国でも行われておりません そのため 米国での研究結果 今回のヨーロッパ諸国での試算結果も おおもとの基礎データが異なるため 直接的な比較は行えません しかし いずれの結果も食物繊維の摂取量を増加させることで 医療費の削減につながるという結果が示されました 1) Cost savings of reduced constipation rates attributed to increased dietary fiber intakes in Europe: A decision-analytic model. J Pharmacy and Nutrition Sciences 2015; 5, ) Cost saving of reduced constipation rates attributed to increased dietary fiber intakes: A decision-analytic model. BMC Public Health 2014; 14,374 * 1) 2) ともに ケロッグ社の委託によりエクスポーネント社が実施 7

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