フレイルのみかた

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08 資料4★ がっちゃんこ★2016年9月2日【厚労省会議】フレイル対策(東大・飯島勝矢)①

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的


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問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

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高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する ポイント 高齢者の筋肉内に霜降り状に蓄積する脂肪 ( 筋内脂肪 ) を超音波画像を使って計測し, 高齢者の運動機能や体組成などの因子と関係するのかについて検討しました 高齢男性の筋内脂肪は,1) 筋肉の量,2) 脚の筋力指標となる椅子

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為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました



                                        

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1フレイルとは? POINT OF STUDY フレイルの概念 高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し, 不健康を引き起こしやすい状態は Frailty と表現されており 1), 転倒や日常生活の障害, 要介護の発生, 死亡のリスクを増大させる要因となる. これまでは, 虚弱 や 老衰 などの用語で表現されることが多く, 心身が加齢により老いて衰え, 不可逆的な印象を与えることが懸念されてきた. そのため, 日本老年医学会 (2014 年 5 月 ) から 虚弱 や 老衰 などに代わって, Frailty の日本語訳に フレイル を使用する提言がなされ, フレイルを評価することの意義や予防 改善の重要性を広く周知されることで, さらなる健康寿命の延伸へと繋がることが期待されている. 2 498-05916

健康長寿におけるわが国でのフレイルの位置づけ 日本老年医学会からのステートメント (2014 年 ) をみると, 多くの要介 護高齢者が Frailty という中間的な段階を経て, 徐々に要介護状態に陥ると考えられていると記載されており, いわばフレイルは健常と要介護の中間と捉えることができるであろう. 確かに,Cardiovascular Health Study (CHS) をはじめとする海外での先行研究においても, そのような相対的な位置づけでの概念であることが伺える. しかしながら, 介護保険制度という, わが国独自の体制を踏まえて, 日本における加齢に伴う相対的なフレイルな位置づけとその国際的コンセンサスを考慮すると, いまだ議論の余地が残されているように思われる. 歩行速度を例に挙げると, 北米 欧州での代表的な地域コホート研究におけるフレイル ( ここでは身体的なフレイルを指す ) の基準では, 通常歩行速度を 0.8m/ 秒未満や身長を考慮した基準値 ( 例えば, 男性 173cm 以下で 0.65m/ 秒以下程度 ) とすることが多い. しかしながら, この基準を日本の大規模な地域コホート研究で適用すると, 歩行速度の低下に該当する者はほとんどいない. その背景に, 日本では介護保険制度が浸透しており, 要支援や要介護の認定を受けている者が地域コホート研究では含まれないことが多い. わが国で要支援または要介護の認定を受け, 通所介護を利用する高齢者 3,340 名 ( 平均 81.4 歳 ) の身体機能測定を実施した報告では, 通常歩行速度の計測が可能であった 2,799 名の平均値は 0.71m/ 秒であり, 転倒発生を予測するカットオフ値として 0.7m/ 秒が採用されている 2). この値は,Fried らの報告にある CHS(2001 年 ) 1) で採用されているフレイル判定の歩行速度低下の基準と近似する値であり, 北米 欧州で採用されている多くの研究でのフレイルは, わが国においては要支援から軽度要介護に該当する程度の高齢者を含むような概念であるかもしれない. そのような意味から Frailty を捉えると, Frailty が進行 悪化した先に位置する Disability は, すなわち基本的な日常生活活動能力の低下を意味すると考えてもよいかもしれ 498-05916 1. フレイルとは? 3

健常 Robust プレフレイル Pre-frailty フレイル Frailty 機能障害 Disability 図 1 フレイルの相対的な位置づけ ない図 1. より早期に危険を把握して, 早期に対応策を講じるためには, より厳しい基準を設定することは有益かもしれないが, 海外を中心に報告されている Frailty の操作的な定義に基づく臨床像が, わが国における健常と要介護 ( 要支援 要介護の認定者 ) の中間に位置する臨床像と必ずしも一致しない恐れがある. つまり, 基本的な日常生活には要さずとも手段的な日常生活に支援を要する程度までは,Frailty に包含されている臨床像として捉えることができるかもしれない. フレイルの多面性 フレイルを理解し, 臨床的に活用する上では, その概念は多面的かつ包括的であることを考慮する必要がある. フレイルは, 筋力低下に代表されるような身体的な問題のみならず, 認知機能障害やうつなどの精神心理的問題, さらに独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念とされ, これらを包括的に捉える必要がある図 2. 認知機能障害の併存を考慮した認知的フレイル (cognitive frailty) や社会的な側面に焦点を当てた社会的フレイル (social frailty) については後の章を参照いただきたい. 4 498-05916

身体 Physical frailty Cognitive frailty 認知 心理 精神 Social frailty 社会 図 2 フレイルの包括的な概念 フレイルサイクル フレイルの多面性の中でも, 身体的なフレイル (physical frailty) はこれまでに最も焦点が当てられてきた側面であり, 多くの報告がなされている. 身体的フレイルの判定方法についてはいくつかの異なる方法が用いられていることには留意が必要であるが,1) 体重減少 (shrinking/weight loss),2) 筋力低下 (weakness),3) 疲労 (exhaustion),4) 歩行速度の低下 (slowness),5) 身体活動の低下 (low activity) のうち,3 つ以上に該当する場合を身体的フレイルと判定し, 健常とフレイルとの中間として 1 ~ 2 つ該当する場合を, プレフレイルとする操作的な定義がよく用いられる 表 1 1, 3). その背景で諸々の要因が身体的なフレイルに関与することが考 えられており, 加齢による骨格筋量の減少や食欲不振による慢性的な低栄養などが相互に影響し合い, これらの諸要因が悪循環となって心身機能の低下を加速させることとなる図 3. このような身体的フレイルの発生サイクルに影響する要因について, 様々な側面から改善可能なアプローチを施し, フレイルの悪循環を断ち切ることが必要となる. 498-05916 1. フレイルとは? 5

表 1 代表的な地域コホート研究における身体的フレイルの判定方法 Cardiovascular Health Study CHS 1 4.54kg 5 Women s Health and Aging Study 60 10 BMI 18.5 kg/m 2 Study of Osteo porotic Fractures SOF 25 National Center for Geriatrics and Gerontology Study of Geriatric Syndromes NC GG SGS 6 2 3kg 20 BMI 24 29kg BMI 23 17kg CHS 5 26kg 18kg 1 1 CES D 3 1 1 1 GDS 15 2 20 173cm 0.65m/s 159cm 0.65m/s 159cm 0.65m/s 160cm 0.76m/s 1.0m/s Minnesota Lei sure Time Activity 383kcal / 270kcal / Minnesota Lei sure Time Activity 90kcal / 3 1 2 3 1 2 2 1 3 1 2 6 498-05916