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特集Ⅰ 3 発酵 醸造食品における多様な微生物の働き 関連する 生物 学科 関連する 生物 学 学問 化学 農学 バイオテク ノロジー 医学 薬学 栄養 学 漬物における乳酸菌の働き 乳酸菌叢の形成とその機能 小野 浩 Hiroshi Ono 善藤 威史 Takeshi Zendo 東海漬物株式会社 漬物機能研究所要素技術開発グループ グループ長 九州大学 大学院農学研究院生命機能科学部門 助教 ぬか漬などの発酵漬物では 熟成に伴って乳酸菌叢が形成される 乳酸菌は発酵漬物の酸味や風味 を形成し 乳酸やバクテリオシンなどの抗菌性物質を生産して漬物の保存性を高めている 漬物由 来乳酸菌には腸内環境改善作用などの機能性をもつものも見いだされており これらを利用した機 能性発酵漬物の安定的な製造が期待される 1 漬物と乳酸菌 漬物とは 漬物の衛生規範 で以下のように定 義されている 通常 副食物として そのまま 摂食される既成食品であって 野菜 きのこ 海 藻等を主原料として 塩 しょう油 みそ かす 酒かす みりんかす こうじ 酢 ぬか 米ぬか ふすま等 からし もろみ その他材料に漬込 んだものをいう 日本では全国各地で多種多様 な漬物が製造され 食されている 食品新聞社が 発表した 2015 年の漬物品目別推定出荷額 表 1 では 浅漬の出荷額が約 900 億円と最も多く 野 菜をなるべくフレッシュな状態で喫食することが 関連する領域 組 織 大学 農学 栄養学系 業 界 食品 醸造 学 科 生物 化学 2 2 0 Vol.71 No.3 漬物御膳 松屋旅館 愛媛県西予市 撮影 小野 浩 問 生物学 農学 バイオテクノロジー 医学 薬 学 栄養学 情報源 厚生労働省 HP 農林水産省 HP 全日本漬物協 同組合連合会 HP 東海漬物株式会社 HP 学

好まれていることがわかる 1990 年台後半から台頭し, 浅漬に続いて出荷額の多いキムチでは, 国内製造品の出荷額が韓国からの輸入品よりも大幅に多い 韓国からの輸入キムチは, 賞味期間内で * が増殖し, 酸味が段々強くなる発酵キムチである 一方, 国内製造品の多くは, 乳酸菌が増殖することなく, 味が変化しない熟成タイプのキムチである キムチが市場に浸透するにつれ, 日本人好みに味付けされ, 賞味期間内に味が変化しないキムチが好まれるようになってきた また, 刻み漬等の古漬製品においても, 漬液のpH 低下, 日持ち向上剤やアルコールの添加により, 保存効果を高めて製品中で微生物が増殖しないように工夫されたものが多い このように, 一般に流通している漬物のほとんどが発酵により製造されておらず, 生野菜もしくは塩蔵野菜を調味することにより製造された漬物である しかしながら, 昨今の発酵食品ブームにより, すんき漬, すぐき漬, ぬか漬といった乳酸発酵漬物に対する注目が高まっている 乳酸発酵漬物は主に乳酸菌の活動により, 特有の酸味や風味が形成され, 乳酸発酵の進行度合により漬物の風味が変化する特徴があり,euconostoc mesenteroides, Enterococcus faecalis,enterococcus faecium, Pediococcus acidilactici,pediococcus pentosaceus, actobacillus plantarum,actobacillus brevisなどの乳酸菌が分離されている 1) 乳酸発酵漬物において乳酸菌の活動状況は一般的に以下のような挙動を示すといわれている まず, 発酵初期は乳 50 30 1 漬物の分類と推定出荷額 2015 900 700 470 380 330 210 110 50 90 酸含量が少なく, 通常 0.3 0.4% である このよ うな環境では酸に対する抵抗性の弱いeu. mesenteroides が優勢になることが多い さらに乳酸 濃度が高くなり, 漬物のpHが低下すると, 酸耐 性の強いb. plantarumやb. brevisが優勢になり, さらにpHは低下する 乳酸発酵が進行し, 乳酸 量が1.2% を超えるとすべての乳酸菌の活動は抑 制されるようになる 1) 2 ぬか床と乳酸菌 ぬか漬は日本の家庭で好まれている発酵漬物の一つである ぬか漬は野菜を漬床であるぬか床に漬け込んで製造される ぬか床は, 米ぬかに塩と水を加えて練り合わせたものであり, これに野菜を漬け込むことで発酵が進み, 独特の風味が作り出されていく 古くからぬか床に乳酸菌が生育することは知られており, ぬか床から乳酸菌の分離がおこなわれてきた 支倉は, 風味が良好なぬか床からb. plantarumが分離されると報告している 2) 今井らは, ぬか床の発酵が進むにつれ,Enterobacter 属細菌を中心とするグラム陰性菌が優勢な環境から,P. pentosaceus,pediococcus halophilus (Tetragenococcus halophilus),b. plantarum,b. brevis 等の乳酸菌中心の * へと変化し, 発酵日数が長くなると,Pediococcus 属よりも actoba- Vol.71 No.3 2 21

[ ]3 発酵 醸造食品における多様な微生物の働き Others Enterobacteriaceae Staphylococcaceae Enterococcaceae euconostocaceae actobacillaceae 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2 8 15 25 32 40 50 54 60 Weissella paramesenteroides actobacillus plantarum Pediococcus pentosaceus Enterococcus faecalis Staphylococcus gallinarum Pantoea ananatis 70 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 50 60 1 ぬか床の菌叢変化 4 2 ぬか床の菌叢変化 4 cillus 属の存在割合が増加すると報告している 3) 筆者らは, 塩分 5% のぬか床を作成し,60 日間のぬか床発酵, 熟成過程をロッシュの454 genome sequencer * によって, 遺伝子レベルで菌叢変化を解析した 4) その結果, 科レベルでは, 発酵初期はEnterobacteriaceaeが多く検出され, 発酵が進むにつれEnterobacteriaceae の存在割合が減少し,Staphylococcaceae,Enterococcaceae,actobacillaceae,euconostocaceae の存在割合が増加し,60 日目には,actobacillaceaeは70% を超える存在割合となった ( 1) 続いて, 種レベルで解析したところ, 発酵初期はグラム陰性菌であるPantoea ananatisが優占種であったが, 発酵が進むにつれ優勢菌はStaphylo- coccus gallinarum,e. faecalis,p. pentosaceus, 菌叢を占めるが, その後, 乳酸球菌 E. faecalis,p. pentosaceus へと菌叢が大きく変化する 乳酸球菌が主菌叢となって以降, 徐々に乳酸桿菌の存在が高くなり, 乳酸球菌から乳酸桿菌 b. plantarum が主菌叢へ変化することがわかった 一方, 中山らは, 北九州地方に100 年以上に渡り継代されているぬか床 ( 超長期熟成ぬか床 ) の菌叢解析を同じくピロタグ法を用いておこなった結果,actobacillus acetotoleransとactobacillus namurensis が優占種として検出されたと報告している 5) これらの結果から,60 日程度の発酵期間ではb. plantarumが優占菌となり, その後, 発酵, 熟成が長期間にわたると, さらに菌叢が遷移し,b. plantarumから,b. namurensisとb. acetotolerans へ優勢菌が変化すると考えられた これらの乳酸菌 b. plantarum と変化した b. plantarum は 25 日目以降, 急激に存在割合が増加し,43 日目に は優占種となり,60 日目には60% を超える存在割合となった ( 2) 以上の結果から, ぬか床の発酵, 熟成過程における菌叢変化をまとめると, 発酵初期はグラム陰性菌, 乳酸菌ではないグラム陽性菌がぬか床の主 454 genome sequencer 16S rrna PCR 2 22 Vol.71 No.3

はぬか床発酵に重要な役割を果たしていると考え られるが, ぬか床中での役割についてはよくわ かっていない それぞれの乳酸菌とぬか床の風味 との関係にも非常に興味が持たれ, 今後の研究の 発展に期待したい 3 漬物由来乳酸菌が生産するバクテリオシン このように, 乳酸発酵漬物やぬか漬には多くの種 類の乳酸菌が関わっており, 漬物中の乳酸菌は, 酸 味をはじめとする風味を付与するほか, 保存性の向 上にも寄与している 乳酸菌は主な代謝物として, 細 菌に対して広く抗菌活性を示す乳酸を生産し, ほか にも酢酸やエタノール等の種々の低分子抗菌性物 質を生産することで, 雑菌による汚染から発酵食品 を守り, 保存性を高めている 乳酸菌の中には, さ らに * と総称される抗菌ペプチド を生産するものもあり, バクテリオシンが漬物の 保存性の向上にも寄与していることが予想される 乳酸菌が生産するバクテリオシンは, 一般のタ ンパク質と同様に遺伝子にコードされており, リ ボソーム上で生合成される抗菌ペプチドである 古くは最初に発見された抗生物質であるペニシリ ンと時を同じくして 1928 年に, 発酵乳から分離さ れた乳酸菌 (actococcus lactis) から発見された これが現在でも最も代表的な乳酸菌バクテリオシ ンであるナイシン A である [ 3(a)] その後, 強力な抗菌活性や広い抗菌スペクトル, さらには 高い安全性が実証され, ナイシン A は日本を含め 世界中で広く食品保存料として利用され, 最近で a A Z I Dha A M S G G 1 S A Abu A S 34 I Dhb A A Abu A K Abu A N M K Abu A H I H V Dha K S P G S S 27 N b Y M 1 42 fm A N I V R G S V A Y P F K I W I E N Y K V S G G Y N Q I I W V A H K G N K G W W fm Y 1 43 fm V S A A K V A K V G W G V K K Y Y T K V M Q F I G E G W S V D Q I A D W K R H c Q 1 61 A S A Abu S A Dha Dhb Abu V N Q G I S K S A N T I G A I A V W A I A 3-2- A A K G E H K V I T E A T A A A K T A M は口腔ケア剤などにも応用されている 6) これま でに, 乳酸菌バクテリオシンの研究は欧米を中心 に進められ, 発酵乳などから分離されたさまざま な種類の乳酸菌から多数のバクテリオシンが発見 され, バクテリオシンの構造や性質が多岐にわた ることが明らかになってきている そこで, 筆者 らは, 日本特有の漬物を分離源とし, 新しいバク テリオシンを生産する乳酸菌の探索をおこなって きたので, いくつかの例を紹介したい 高菜漬けから分離された乳酸菌 Weissella hellenica QU 13 から, ワイセリシン Y とワイセリシン M と命名した 2 種の新奇バクテリオシンを発見した [ 図 3( b )] 7) これらのバクテリオシンは漬物の汚 染菌となりうる Bacillus 属細菌などに抗菌活性を 示す また, この二つのバクテリオシンの生産は, 栄養条件によって制御されていることが明らかと なった 8) この乳酸菌は高菜漬けの初期段階で見 いだされたことから, 生産される二つのバクテリ オシンが発酵の初期段階での雑菌汚染防止や菌叢 の安定に貢献していることが考えられる G N A S W A W G P G P V 3 ナイシン A と漬物由来乳酸菌から発見されたバクテリオシンの構造 a A Z A 27 b Y M N c Q N C 赤かぶ漬けから分離された乳酸菌 euconostoc Vol.71 No.3 2 23

[ ]3 発酵 醸造食品における多様な微生物の働き mesenteroides TK41401 からは, ロイコサイクリ シン Q と命名した新奇環状バクテリオシンを発見 るが, その解明には非常に興味が持たれる 将来 の漬物由来バクテリオシン生産乳酸菌の積極的な 利用に向けても, 今後の研究成果を期待したい した [ 図 3( c )] 9) ロイコサイクリシン Q は Bacillus 属細菌をはじめ種々のグラム陽性細菌に対し て強い抗菌活性を示す また,N 末端とC 末端のアミノ酸残基がペプチド結合をした特異な環状構造を有することが明らかとなっている 現在までにその生合成機構の一端が明らかとなり, 菌体内で環状化がおこなわれた後にバクテリオシンが分泌されることが推定されている 10)11) このバクテリオシンは広い抗菌スペクトルを示すことから, こちらも発酵の初期段階に存在していると考えられる種々の雑菌による汚染の防止や菌叢の安定に貢献していることが予想される ぬか床から分離されたactococcus lactisに分類される複数の乳酸菌が, ナイシンAのアミノ酸の一つが置換した類縁体であるナイシンZを生産することが明らかとなった [ 図 3(a)] 12)13) ほかにも, ナイシンZ 生産乳酸菌は, 島根県産の津田かぶ漬けなど 14), 日本中のさまざまな漬物から広く見いだされており, 日本中の発酵漬物に広く分布していることが推察された 以上のように, 漬物にはバクテリオシンを生産する乳酸菌がさまざまに見いだされ, とくに発酵の浅い漬物に多く存在していると考えられる バクテリオシン生産乳酸菌は, 発酵の初期段階において安定な菌叢の形成を促し, 漬物の保存性の向上に寄与していることが推察される バクテリオシン生産乳酸菌およびそのバクテリオシンの漬物中での実際の働き, つまり雑菌への抗菌作用や他の乳酸菌への影響など, 発酵漬物の製造や熟成における直接的な役割については依然不明な点が多く残されてい 4 漬物由来乳酸菌の機能性 乳酸菌が健康にもたらす良好な効果についてはさまざまに実証され, 特定の乳酸菌株がヨーグルトなどに広く利用されている 上述のように多様な乳酸菌が見いだされることから, 漬物も機能性をもつ優れた乳酸菌の分離源 供給源となりうると考えられ, 研究が進められている actobacillus plantarum TK61406は, 漬物由来乳酸菌 1,000 株から, 人工消化液耐性の最も高い乳酸菌として選抜された生姜漬由来の乳酸菌である 15) このTK61406について, ヒトでの有効性, 安全性が報告された TK61406を25 億 cfu * 含む発酵液 2.5 m を摂取した群では, プラセボ食群と比較し, 糞便内のビフィズス菌および乳酸菌が有意に増え, アンモニア濃度が有意に減少した また, このような腸内環境改善作用以外にも, 顔肌の目立つ毛穴数の有意な減少, 連続計算負荷試験時の計算時間が有意に早くなることが明らかとなった 16) TK61406 発酵液は12 週間の長期にわたる連続摂取において安全性に問題がなく 17),TK61406を 125 億 cfu 含む発酵液 12.5 mを1 日 1 回,4 週間連続摂取するという過剰摂取においても安全性に問題がなく, 整腸作用が確認された 18) これらのことから漬物由来乳酸菌 TK61406 はヒトにとって安全でかつ有用性が高い乳酸菌であると考えられる 上述のように漬物からは多様な乳酸菌が見いだ されるものの, その機能性や保健効果を明らかに した例はまだ少なく, さらに優れた乳酸菌の分離 cfu Colony Forming Unit 1 源として漬物は非常に有望と考えられる 機能性をもつ漬物由来乳酸菌やそれらを使って機能性を強化した漬物が, 昨今のヨーグルトと同じように, プロバイオティクスとして広く摂取される日もそう遠くはないかもしれない 2 24 Vol.71 No.3

5 まとめと今後の展望 漬物からはさまざまな乳酸菌が見いだされ, 漬 物において乳酸菌は酸味 風味の形成や抗菌性物 質の生産による保存性の向上に寄与している 発 酵の進行に伴って菌叢は刻々と変化して各漬物に 特有の乳酸菌叢が形成され, 漬物が熟成される その過程には, 乳酸菌によって生産される乳酸の ほか, バクテリオシンなどの抗菌性物質の関与が 予想される 漬物中での雑菌汚染の防止や特有の 乳酸菌叢の形成におけるバクテリオシンの役割の 詳細については, 今後の研究成果を待たねばなら ないが, バクテリオシン生産乳酸菌の積極的な利 用は, 漬物のみならずさまざまな食品の保存性向 上に貢献できるものと思われる たとえば, 漬物由来のバクテリオシン生産乳酸 菌は, 漬物のスターターカルチャーとしての利用 が期待される 仕込み時に, その漬物由来のバクテ リオシン生産乳酸菌を加えることで, その漬物本 来の風味を保ち, 日持ち向上剤やアルコール, 塩分 の添加を抑えつつ, 雑菌汚染の防止が期待できる このように, バクテリオシン生産乳酸菌を使用す ることで, 品質を安定させることが難しい発酵漬 物を安定的かつ容易に製造できる可能性がある 一方, 漬物由来の乳酸菌の中には優れた機能性 をもつものもあり, その機能性乳酸菌を利用した 機能性漬物の創出も期待される 将来的にバクテ リオシンによる菌叢の調整機構を自在に操ること が可能となれば, 風味や保存性, 機能性を高めた 漬物の創出も容易となるかもしれない 機能性を 付与した発酵漬物を安定的に製造できれば, 漬物 市場の活性化にもつながる可能性がある [ ] 1) 宮尾茂雄. 日本乳酸菌学会誌, 13, 2 22 (2002). 2) 支倉サツキ. 家政学雑誌, 28, 1 14 (1977). 3) 今井正武, 平野進, 饗場美恵子. 日本農芸化学会誌, 57, 1105 1112 (1983). 4) Ono, H., Nishio, S., Tsurii, J., Kawamoto, T., Sonomoto, K. et al. J. Biosci. Bioeng., 118, 520 525 (2014). 5) Sakamoto, N., Tanaka, S., Sonomoto, K. & Nakayama, J. Int. J. Food Microbiol., 144, 352 359 (2011). 6) 善藤威史, 石橋直樹, 園元謙二. 日本乳酸菌学会誌, 25, 2 4 3 3 ( 2 0 1 4 ). 7) Masuda, Y., Zendo, T., Sawa, N., Perez, R. H., Nakayama, J. et al. J. Appl. Microbiol., 112, 99 108 (2012). 8) Masuda, Y., Perez, R. H., Zendo, T. & Sonomoto, K. J. Appl. Microbiol., 120, 70 79 (2016). 9) Masuda, Y., Ono, H., Kitagawa, H., Ito, H., Mu, F. et al. Appl. Environ. Microbiol., 77, 8164 8170 (2011). 10)Mu, F., Masuda, Y., Zendo, T., Ono, H., Kitagawa, H. et al. J. Biosci. Bioeng., 117, 158 164 (2014). 11)Mu, F., 益田時光, 善藤威史, 小野浩, 北川博史, 他. 日本生物工学会誌, 94, 71 (2016). 12)Ennahar, S., Zendo, T., Sonomoto, K. & Ishizaki, A. Jpn. J. actic Acid Bacteria, 10, 29 37 (1999). 13) 善藤威史, Ennahar, S., 園元謙二, 石崎文彬. 日本生物工学会誌, 77, 463 465 (1999). 14)Aso, Y., Takeda, A., Sato, M., Takahashi, T., Yamamoto, T. et al. Curr. Microbiol. 57, 89 94 (2008). 15) 小村美香, 西尾翔子, 河本哲宏, 日野真吾, 森田達也. 日本食物繊維学会誌, 18, 9 17 (2014). 16) 森下美香, 西尾翔子, 伊與田哲也, 小室あゆ美, 河本哲宏. 新薬と臨床, 65, 1274 1294 (2016). 17) 森下美香, 西尾翔子, 伊與田哲也, 小室あゆ美, 河本哲宏. 新薬と臨床, 65, 1296 1309 (2016). 18) 森下美香, 西尾翔子, 伊與田哲也, 河本哲宏. 新薬と臨床, 65, 1310 1325 (2016). Takeshi Zendo 2004 2006 2007 2012 2015 2016. 2010 Hiroshi Ono 2005 2011 2014 2016 2015,, 2009 Vol.71 No.3 2 25