更には 死亡災害が年々減少傾向をたどる一方 墜落 転落は死に直結する可能性が非常に高いことから他業種にも対策を打つ施策が必要になったことによる このように 墜落 転落災害 を特定災害対策に掲げ 災害の発生防止に力を入れており 各労働局では特に墜落 転落災害の多い建設業に対し 建設現場の一斉監督指導を

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更には 死亡災害が年々減少傾向をたどる一方 墜落 転落は死に直結する可能性が非常に高いことから他業種にも対策を打つ施策が必要になったことによる このように 墜落 転落災害 を特定災害対策に掲げ 災害の発生防止に力を入れており 各労働局では特に墜落 転落災害の多い建設業に対し 建設現場の一斉監督指導を実施している ここでは 公表されている東京労働局の一斉監督指導結果を参考にしながら 現状についてみてみたい 3. 墜落 転落災害の現状 (1) 平成 21 年 3 月 7 日時点での建設作業現場等における墜落 転落による死亡災害発生数は表 -1 のとおり 平成 19 年度までは全産業でみると漸増している 業種別では 建設業で毎年 200 件前後の死亡災害が発生している また 製造業や陸上貨物自動車運送事業等においても概ね横ばいで 死亡災害は減ってはいない 平成 20 年度においては 減少する事が予想されるが これは第 11 次労働災害防止計画での強化策が効を奏していると思われる 平成 20 年度 (3/7 現在 ) 死亡災害発生件数 墜落 転落 ( 表 -1) 平成 19 年度平成 18 年度平成 17 年度 建設業 174 (55.6%) 207 (57.3%) 190 (53.8%) 203 (59.9%) 製造業 39 (12.4%) 46 (12.7%) 46 (13.3%) 36 (10.6%) 陸上貨物自運送 16 (5.1%) 17 (4.7%) 17 (4.8%) 24 (7.1%) 墜落 転落 / 全産業 313/1264 (24.8%) 361/1357 (26.6%) 353/1472 (24.0%) 339/1517 (22.3%) 死亡災害発生状況 死亡災害報告 を基に TRC 作成 ( 参考 :http://www.jaish.gr.jp/information/sokuhou.html) (2) 過去 4 年 ( 平成 17 年度 ~ 平成 20 年度 ) の業種別 事故の型別死傷災害発生状況 ( 死亡災害及び休業 4 日以上 ) において 墜落 転落 が占める割合を見ると表 -2 の通りである 年度業種別 事故の型別死傷災害発生 ( 合計 ) における墜落 転落災害の割合 20 年度 19 年度 18 年度 17 年度 (21.1 月末 ) ( 表 -2) 墜落 転落災害 / 事故の型別死傷災害 21459 /122,971 ( 17.5 %) 23064 /131,478 ( 17.5 %) 24029 /134,298 ( 17.9 %) 23,730 /133,050 ( 17.8 %) ( 厚生労働省 労働者死傷病報告 を基に TRC 作成 ) まず 平成 17 年度から平成 20 年度にかけての墜落 転落災害が全災害件数に占める割合については 概ね全体の 18% 約 2 割近くを占めており 墜落 転落災害の多いことが分かる 2

(3) 次に 表 -3 の中で 平成 20 年度の場合を見ると 全産業における 墜落 転落 は全災害件数の 17.5%(21,459 件 ) を占め 業種別にみると 建設業の 墜落 転落 が 29.9%(6406 件 ) を占めて一番多く 以下 運輸 交通業 製造業 商業の順となっている なお この傾向は 過去 3 年間同じであり 建設業だけでなく他の業種においても対策が必要な事が分かる 全産業 業種別 事故の型別死傷災害発生状況 ( 死亡災害及び休業 4 日以上 ) 墜落 転落 20 年度 19 年度 18 年度 17 年度 (21.1 月末 ) 21,459 23,064 24,029 23,730 ( 表 -3) 建設業 6,406 29.9% 7,141 31.0% 7,819 32.5% 7,974 33.6% 運輸 交通業 4,278 19.9% 4,493 19.5% 4,482 18.7% 4,451 18.8% 製造業 3,400 15.8% 3,677 15.9% 3,791 15.8% 3,706 15.6% 商業 2,205 10.3% 2,344 10.2% 2,334 9.7% 2,325 9.8% 清掃 と蓄 1,237 5.8% 1,236 5.4% 1,291 5.4% 1,235 5.2% トップ 5 の合計ー 81.7% ー 81.9% ー 82.1% ー 83.0% ( 厚生労働省 労働者死傷病報告 を基に TRC 作成 ) (4) 東京労働局が実施した最近 3 回の一斉監督指導結果を見ると表 -4 の通りである 一斉監督指導現場 ( 箇所 ) H19.12 324 墜落 転落防止のための建設現場一斉監督指導結果 労働安全衛生法違反 (%) 墜落 転落防止に関する違反 ( 労働災害の急迫した危険により ) 作業停止処分 198(61.1%) 157(48.5%) リスクアセスメントを実施 ( 現場 /%) ( 表 -4) リスクアセスメントの実施予定がない 制度を知らない ( 現場 /%) 111(34.2%) 55(27.8%) 113(34.9%) H20.6 387 H21.1 310 224(57.9%) 199(51.4%) 128(33.1%) 48(21.4%) 97(25.1%) 172(55.5%) 185(59.7%) 105(33.9%) 52(30.2%) 57(18.4%) ( 東京労働局資料を基に TRC 作成 ) 平成 19 年 12 月には 墜落 転落防止を重点に 324 箇所の建設現場を一斉監督指導し 約 6 割 (198 箇所 ) の現場で労働安全衛生法違反 ( 以下 安衛法違反 という ) を摘発 3 割強 (111 箇所 ) が墜落 転落防止に関する違反であり 労働災害の急迫した危険を認めたことによる作業停止処分が約 3 割 (55 箇所 ) の現場に対し行われている 3

平成 20 年 6 月には 墜落 転落防止を重点に 387 箇所の建設現場を一斉監督指導し 約 6 割弱 (224 箇所 ) の現場で安衛法違反を摘発 3 割強 (128 箇所 ) が墜落 転落防止に関する違反であり 労働災害の急迫した危険を認めたことによる作業停止処分が約 2 割 (48 箇所 ) の現場に対し行われている 平成 21 年 1 月には 墜落 転落防止を重点に 310 箇所の建設現場を一斉監督指導し 約 5 割強 (172 箇所 ) の現場で安衛法違反を摘発 3 割強 (105 箇所 ) が墜落 転落防止に関する違反であり 労働災害の急迫した危険を認めたことによる作業停止処分が約 3 割 (52 箇所 ) の現場に対し行われている 以上から 推察すると 建設現場においては 6 割近くの現場で何らかの安衛法違反があり 中でも労働災害の急迫した危険が認められるということで作業停止処分を受けた現場が約 3 割 更に 墜落 転落防止に関する違反についていえば 同じく 3 割の現場が摘発されている状況であり 安全風土の構築が進んでいないと言わざるを得ない こうした現状が 先に述べた業種別の墜落 転落災害の発生状況において 業種特性があるものの建設業がトップ ( 全体の 3 割 ) を占める大きな要因となっていると言える (5) 平成 21 年 1 月の建設現場一斉監督指導における摘発事項の細部の一例表 -5 は 平成 21 年 1 月に東京労働局が実施した一斉監督指導において 墜落 転落防止違反 として摘発した内容の一部を示したものである 事項別違反状況 * 安衛法は労働安全衛生法 安衛則は労働安全衛生規則の略 ) ( 表 -5) 違反事項違反現場数主な内容 墜落 転落防止違反 足場や高所の作業床等からの墜落 転落防止関係 105 (33.9%) 高所 (2m 以上 ) 作業における安全帯不使用 ( 安衛則 5182) 高所の作業床の端 開口部に手すり無し ( 安衛則 5191 653) 高所作業箇所で安全帯取り付けせつび無し ( 安衛則 521) 足場の作業床未設置 手すり無し ( 安衛則 563,655) 東京労働局資料を基に TRC 作成 ( 参考 :http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2008/20090121-sidou/20090121-sidouhtml.html) 墜落 転落防止違反における主な指摘内容は 高所作業における安全帯不使用や手すりが無いこと 更には足場の作業床未設置等である これらは 現場の監督者や事業者が日々確認 指導できることばかりであるが それが 3 割強も守られていない ( 見過ごされている ) ことは現場を監督する側に立つ事業者等の監督責任であり 大きな災害生起要因である 4. 墜落 転落災害を生む要因 以下 墜落 転落災害を生む要因について考える (1) 安全に対する事業者の無関心 怠慢多くの建設現場において 安衛法違反が摘発 ( 全体の約 6 割 ) されていると先に述べたが これらは まさに事業者の安全確保に対する考え方 姿勢の表れと言い換える事ができる 4

その大きな証左となるのが 表 -4 におけるリスクアセスメント 3 についてのデータである 東京労働局に一斉監督指導を受けた建設現場の約 2 割以上は リスクアセンスメントの実施予定がない 制度を知らない という状況である すなわち 2 割以上の事業者は現場の状況を把握していないか しようとしていないと言える 安全に関して監督責任を負う事業者等の無関心 怠慢こそが 墜落 転落災害がなくならない大きな要因と考えられる (2) 安全風土とは程遠い作業環境墜落 転落災害の多い建設業でいえば 先に述べたとおり 企業規模における差はあるものの 約 6 割の現場において何らかの安衛法違反があり 約 3 割が墜落 転落災害に関する違反をしている現状である 現場の作業員等の無関心によるものか 監督者等の無関心 あるいは意図的な放置によるものかは断定できないものの これでは 安全風土の構築 ( 労働安全衛生法の規定を守り 安全対策を施し その実践が行われている ) がなされているとは言い難いであろう 一概には言えないが 災害件数の多い他の業種 ( 運輸 交通業や製造業 ) でも似たような状況が生じていないかの確認が必要だろう (3) 作業員の安全意識の低さ建設業では毎年 200 人前後 製造業及び陸上貨物輸送業においても各々 40 人及び 20 人前後の墜落 転落災害の死亡被害者がでている また これまでに述べたように現場における多くの安衛法違反の事実がある このことは 作業員の安全意識に大きな問題があるとみるのが適当である 安全上 不適切な環境にあるにもかかわらず それの是正 改善を図らず 見過ごした環境下での作業の実施こそ その証左であり そのことが災害につながっていると考えられる 5. 墜落 転落災害防止策 これまで建設業を中心に見てきた通り 高所作業における墜落 転落災害は建設業だけでなく他の業種でも多く発生し その大きな要因として 1 事業者 現場監督者等の法令違反や安全対策に対する無関心 不徹底 1 事業者等における現場の確認不足 ( 現状把握の不十分 ) 1 作業員自身の低い安全意識 等が挙げられる そこで 墜落 転落災害防止策としては まずは 事業者 監督者等の意識から改革するとともに 具体的な対策が必要である 以下 重要と思われる対策について述べる (1) 事業者 監督者等の法令遵守への積極的な取り組み 関与墜落 転落災害防止のため労働安全衛生規則の一部が改正され 平成 21 年 6 月 1 日より施行されることになったことを契機とし 事業者および監督者は強く法令遵守について意識改革を行うとともに従業員 作業員等に強い法令遵守のメッセージを発信しなければならない そのためには 安全規則 の見直しや 現場査察等の実施 安衛法に則した不具合箇所の是正など PDC A に則った安全管理体制の構築が必要である さらに そうした法令 規則の遵守が実際に実行されるよう現場に対する監視 監督を強化しなければならない 事業者の強い指導力が問われるところである 3 リスクアセスメント等リスクアセスメント等とは 以下の手順で実施する労働災害防止対策であり 危険の度合 ( リスク ) に応じて 事前にリスクを除去 低減する計画を立てて対策を実施するため 死亡災害 重傷災害防止に有効な仕組みとなっている ( リスクアセスメント等の仕組み概要 ) 1 現場において事前に危険な箇所や作業の洗い出しを行う 2 各危険箇所等について 危険の度合い ( リスク ) を見積もり 4 段階程度のレベルに評価分類する 3 レベルに応じたリスクの除去 低減措置を事前に計画し リスクを再評価する 4 計画に基づく措置を実施するとともに 残ったリスクを明確にし 作業標準等を確実に守らせる ( 東京労働局資料より ) 5

(2) 現場における危険要素の摘出 改善するためのリスクアセスメントの実施 安全風土とはほど遠い環境にある という現状を打開するためには まず 監督者自らが現場の状況を知らなければならない 一斉監督指導結果によれば 作業現場のリスクアセスメントの実施予定がない 制度を知らない 等の事業者が 2 割もあるということは 現場を知らない 安全風土の構築に無関心な事業者が多いということである 大手であれ中小の事業者であれ 作業現場の安全確保 災害防止 すなわち安全風土の構築は当然の責務である 未だ実施していない事業者は 速やかにリスクアセスメントを実施する事が重要である (3) 作業員等に対する災害防止に関する教育 指導の徹底墜落 転落災害に遭遇するのは 現場の作業員である 彼らは日々危険と背中合わせに作業をしている一方 災害防止に対しては一様に無関心 他人事とみる傾向がある そうした現場や人を変えるには 監督責任を負う事業者等が 積極的かつ強力に災害防止活動についての指導 教育を行わなければならない 具体的な例を挙げれば 安全パトロールを実施することにより危険箇所の是正や作業員の啓蒙を図ったり 作業場でのツールボックスミーティングを励行することにより作業員等へのきめ細かな指導 教育を実践し 更には 安全標語を活用し安全意識の高揚を図るなど 日々の具体的な作業指示や指導 教育の積み重ねが重要である 6. おわりに 足場 架設通路及び作業構台からの墜落防止措置等に関し 労働安全衛生規則の一部が改正 施行されることを契機として 墜落 転落災害の防止策について述べてきた 多くの業種で死亡災害が減少する中で 建設業 運輸 交通業及び製造業等における 墜落 転落 に起因する死亡事故は減少していない その大きな要因として 安全風土の構築など安全確保に責任を有する人たちの無関心 怠慢等が挙げられた 平成 20 年度から始まった第 11 次労働災害防止計画の特定災害対策に 墜落 転落災害 が加えられ その効果も見え始めているようであるが 先に述べたように 建設業等の現場ではまだまだ改善 改革すべき点があるようである 墜落 転落災害等のない安全な作業環境の整備は喫緊の課題である 今からでも安全風土の構築を進めようとする事業者におかれては リスクアセスメントに関して弊社などに相談されることも一計である 以上 ( 第 240 号 2009 年 5 月発刊 ) 6