救急 X 線撮影 ~ 実践塾特別編 ~ 老兵の撮影技術を経験してください 山鹿クリニック放射線室 工藤靖之
本日の内容 部位は 肩関節 肘関節 手関節 股関節 足関節 体位 注意点 症例 特徴的所見や撮影時のコツ 実際に体を使って実践しましょう!
老兵が救急の X 線撮影時に重要と考えている事 見る : 撮影プランをたてるため 撮影オーダーを見るのはもちろんですが 患者さんを撮影室に招き入れる際に 患者さんの姿勢や対象部位の状態がどうなっているか見る 聞く : 受傷部と撮影箇所が合っているか確認するため 患者さんに受傷時の状況を具体的に聞く 例 ) 転倒 ならば後ろに転んだの? 横に転んだの? 話す : 依頼医師とのコミュニケーション 追加撮影や部位変更の連絡をし 患者さんの負担や行ったり来たりの 2 度手間を減らすため
ポジショニングについて 本日の参考資料は以下の冊子です
肩関節 ( 周辺 )
肩関節のポジショニング 体位 ( 正面 ) 検側肩関節背面をカセッテにつけ 30~45 体軸を回旋する X 線中心 肩甲上腕関節 ( ほぼ烏口突起の位置 ) に向け 頭尾方向に 15~25 で入射する
肩関節 ( 周辺 ) この撮影部位でいいのかな? 鎖骨 肩脱臼肩関節 肩鎖関節脱臼 肩関節 鎖骨骨折
肩関節 ( 周辺 ) 肩周辺にはいろいろな撮影部位がありますよね 肩関節 肩鎖関節 鎖骨 肩甲骨 上腕骨近位部 なんとなく依頼部位と痛いところが違うような気もするけど いまいち正確にはわからない どの撮影部位が依頼されても 周辺が含まれるように 正面は広めに撮影する
肩関節 ( 周辺 ) 患者さんの姿勢を見るって 撮影部位の参考にはなります
肩関節 Y-View について 体位 ( 正面 ) 検側部全面をカセッテに付けるように体軸を回旋する X 線中心 棘上窩の底部が接線となり 上腕骨を射出点とする 一般的に入射角は頭尾方向に 20 前後となる
肩関節 Y-View について ( 老兵法 ) ポジショニングの方法 ( 正面 ) 手を広げ 親指と他の 4 指を 90 くらいに開く 親指と人差し指が V の形になるように構え 人差し指 or 中指を肩峰付近に置くと 親指が肩甲棘三角 ~ 上角付近に来る ( はず ) 親指と人差し指 or 中指の中間に上腕骨が来るまで体軸を回旋する X 線中心 上腕骨骨頭付近をめがけて頭尾方向 20 前後で入射する
まずは肩甲骨の解剖を 上角 肩甲棘三角 肩甲棘 肩峰 烏口突起
Y-View の状態 上角 肩峰 烏口突起 肩甲棘 肩甲棘三角
Y-ViewのVをなしているのは肩峰 ~ 肩甲棘と烏口突起 上角 ~ 肩甲棘三角 上角 肩峰 烏口突起 肩甲棘 肩甲棘三角 老兵法では 人差し指側が肩峰 ~ 肩甲棘を 親指が上角 ~ 肩甲棘三角の線を表面的に表すような形となる よってその中間に上腕骨を持ってくるイメージで回旋させればきれいな Y-View が撮影できる ( はず )
肩関節 ( 周辺 ) のまとめ 患者さんの姿勢がどうなっているのか確認する 依頼された撮影部位と自分の見立てが合っているか考える 依頼された部位の正面を照射野広めで撮影 必要に応じて依頼医に相談し 最適な撮影部位を追加する 解剖を理解し 棘 突起などが骨折していないか確認する Y-View は老兵法を よろしくご検討ください
肘関節
肘関節 体位 ( 正面 ) 撮影台に向かい 上肢を自然に挙げられるような体の向きをとる カセッテを腋下とほぼ同じ高さに配置し 肩関節と肘関節が水平になるように調整する X 線中心肘関節の曲がり皺の中点から 1.5cm 遠位に入射
肘関節 体位 ( 側面 ) カセッテが腋下と同じ高さに配置 肩 肘関節が水平になるようにし 肘関節は 90 屈曲 回外 90 手掌を垂直に 手関節の位置で橈骨側に 4cm 上げる X 線中心外側上顆の 45 外側前方 1.5cm の点に垂直に入射
肘関節 まずどこが骨折しているのか? なるべくそのままの姿勢で側面から撮影することを考える
肘関節 骨折している場所がわかったら 骨折している側 ( 上腕側 or 前腕側 ) をカセッテに付けて撮影する方法を考える 上腕側ならば立位で撮影することも有効
肘関節 伸展が全く出来ないわけではないが 痛みがありなかなか肘を正面に向けてもらえない場合などの患者さんに対してどうするか? 肘を回すという意識ではなく 肩と体の向きに注意して 撮影者が手関節 & 上腕部を持つようにして 上肢や体全体を回すように説明し サポートする
fat pad sign: 肘関節の異常所見 骨折などの外傷によって 関節内の血腫や滲出液がその内圧を上昇させると 滑膜外 ( 関節包内 ) にある fat pad( 脂肪 ) が押し出され 前方は帆船の帆のように (sail sign) 後方は肘頭窩 鉤状突起の骨と軟部組織の間に透過陰影として描出される
fat pad sign: 肘関節の異常所見
fat pad sign: 肘関節の異常所見
肘を伸展できないときに 前腕を優位に撮影しなければならない症例
肘関節症例 : モンテジア骨折 尺骨骨幹部骨折と橈骨頭の前方脱臼を合併したもの スノーボードで転倒
肘関節症例 : モンテジア骨折 術後写真
肘を伸展できないときに 上腕を優位に撮影しなければならない症例
肘関節症例 : 上腕骨遠位部骨折 上腕骨通顆骨折 関節内で より遠位部 ( 関節軟骨部 ) の横骨折 幼稚園で 2m 落下した
肘関節症例 : 上腕骨通顆骨折
肘関節のまとめ 肘が伸ばせるか見る 聞く 動かすことが困難な場合はまず側面から撮影 肘が伸ばせない場合 側面の画像で骨折部位が上腕側か前腕側かでカセッテ面と平行にする側を決める ( どっち付かずはダメだと個人的には思います ) 回内 回外時は肩を回すイメージで fat pad sign は意識する
手関節
手関節 体位 ( 正面 ) 撮影台に向かい 上肢を自然に挙げられるような体の向きをとる カセッテを腋下とほぼ同じ高さに配置し 肩関節から手部が水平になるように調整する X 線中心 橈骨と尺骨の茎状突起を結ぶ中点に入射する
手関節 体位 ( 側面 ) カセッテの横に体の側面が位置するように着座 上腕を脱力下垂し 肘関節を 90 屈曲 回内外中間位 肘 手部が同じ高さになるように調整する X 線中心 橈骨茎状突起に入射する
手関節 : よくある症例は橈骨遠位端骨折 Colles 骨折橈骨の遠位骨片が手の甲側に転位してフォークを伏せて置いたような変形が生じる 手のひらをついて転倒した場合などに起こる 会津の冬にはほぼ毎日見られる Smith 骨折橈骨の遠位骨片が手のひら側転位する バイクや自転車でハンドルを握ったまま倒れた時などに起こる Barton 骨折 ( 背側 掌側 ) 上記 2 種は関節外骨折 Barton 骨折は関節内骨折で上記の重症例 ほぼ手術 背側 Barton 骨折はお年寄りに多い 会津の冬にはほぼ毎週見られる
手関節 ( 橈骨遠位端骨折 ) Colles 骨折 Smith 骨折
手関節 ( その他 ) 手根骨骨折 ( 舟状骨 )
手関節 ( その他 ) 若木 膨隆骨折 見逃し率激高! 骨に直線性が無い部分があったら疑う 健側の比較撮影が有効である
手関節 見た目に変形があったり 痛みがありなかなか体位が取れない場合のポジショニングのコツとして 肘の時と同じように 手 ~ 前腕を回すの ではなく 撮影者が手と肘付近を持ち 上肢全体を肩から回すように説明し サポートする
手関節 ストレッチャーなどに寝たまま撮影するにはどうするのか? 実践! この状態で前腕を回内 回外さえしなければ肘を伸ばしても手関節の角度は変わらない 即ち 寝た状態で掌が体側に向き 前腕を垂直に挙げられる角度が側面の角度になる この状態で肩を外旋しても手関節の角度は変わらない
手関節のまとめ 受傷状況を確認する 肘同様 肩を意識した回内外をする 側面の応用撮影を意識する 橈骨 尺骨両方とも骨折していると安定性が悪く痛みが増すが 指先を持ち 前腕を縦にすると痛みが和らぐ 転倒して手をついた場合は 手根骨も注視する ( 舟状骨 有鈎骨など ) 小児の若木骨折や膨隆骨折は見逃されやすいので注意 わかりにくい場合は健側も撮影する
股関節
股関節 体位 ( 正面 ) 下肢伸展位 膝関節 足関節を最大内旋する X 線中心上前腸骨棘と大転子下部の中点の正中線上
股関節 正面はできるだけを左右同じ内旋角で撮影する 最大内旋により 大腿骨頚部が広く描出されている 腸骨が左右対称に描出されている 閉鎖孔も左右対称とし 大転子が照射野内に描出されている 外傷で撮影する場合は生殖腺防護はしない
股関節 : よくある症例は大腿骨近位部骨折 なぜ 大腿骨近位部骨折なのに大腿骨の撮影ではなく 両股関節撮影が必要なのか? 骨折部の正確な正面像がほしい ( 大腿骨正面像では正確な評価は困難な事がある ) 手術の際に必要な情報は股関節正面 両股関節を撮影することにより 健側の形で元の状が把握できる 骨折の状態により治療方針 手術方法が違う 人工物を入れる際は作図も行うため (Film 出力 )
股関節 : 骨折状況による手術の違い 転子部骨折 : 骨折部が転子間より遠位にある ネイル (nail):ɤ- ネイル CM ネイル
股関節 : 骨折状況による手術の違い 頚部骨折 : 転位がほとんどない場合 SB フィックス ハンソンピンなど
股関節 : 骨折状況による手術の違い 頚部骨折 : 転位がほとんどない場合 CHS:Compression HIP Screw
股関節 : 骨折状況による手術の違い 頚部骨折 : 転位があり 偽関節や皮膜下動脈の断裂により骨頭壊死の可能性がある場合 FHR:Femoral Head Replacement
股関節 : よくある撮影依頼パターン 状況 : 転倒主訴 : 股関節痛診断 :( 大腿骨頚部 ) 骨折疑い 一言で転倒と言っても どうやって転倒したのか? ( ふらっと? 滑って? 自転車で?) どっちに転倒したのか?( 横に? 後ろに?)
股関節とは限らない 状況 : 転倒 本人に聞いたら尻もちをついて転倒したと主訴 : 左股関節痛診断 : 左股関節骨折疑い 恥 坐骨骨折
股関節とは限らない 状況 : キッチンに登って作業していて床に落ちた主訴 : 左臀部痛診断 : 左股関節骨折疑い 骨盤骨折
股関節 骨折してる患者さんを最大内旋位で正面を撮影するのは困難! しかし 骨折を正確に判断する為には重要な写真です 何とか頑張って撮影するには まず健側は放っておく 患側の大腿骨遠位 ( 膝うらあたり ) と足関節付近をもち 力を 抜くように声をかけ 少し引っ張り気味にしな がら内旋すると痛みが少なく内旋できる その後 健側を内旋する
そうはいっても無理はしないように
股関節のまとめ 受傷状況を確認する 正面は両股関節が望ましい なるべく左右対称になるように撮影する 外傷は生殖腺防護はしない 状況によっては骨盤部までよく観察する 骨折等があった場合 入院に必要な胸部写真など追加撮影の確認をする 骨盤骨折があった場合は次の検査 ( 造影 CT) 治療 (IVR) の準備が必要になることを考えておく
足関節 ( 周辺 )
足関節 体位 ( 正面 ) 仰臥位で下肢の力を抜き 下腿骨とカセッテ面を水平にする 足基準軸を 15~20 内旋する ( 内果と外果を結ぶ線が平行になる角度 ) 足関節は中間位 X 線中心 内果と外果を結ぶ線の中点へ垂直に入射する
足関節 体位 ( 側面 ) 側臥位で患側の膝を軽度屈曲し 踵骨外側 足部外側 外果 下腿遠位外側を付ける X 線中心 脛骨内果へ向けて入射
足関節も周辺をよく見よう! 足首をひねって足関節痛 でも腫れているのは足背
足関節も周辺をよく見よう! 足首をひねって足関節痛 でも腫れているのは足背
足関節も周辺をよく見よう! 高いところから落ちた
足関節も周辺をよく見よう!
第 5 中足骨骨折について 下駄 ( 履き ) 骨折 足を捻った際に中足骨基部が筋肉に引っ張られて起こる 短腓骨筋の付着している一部で骨折するので 骨片の動きが少なく 予後はよい Jones 骨折 疲労骨折として起こる場合が多い 外傷でも骨折する 短腓骨筋すべてが骨片側になってしまうため 骨融合しにくく予後は悪い
第 5 中足骨骨折について
第 5 中足骨骨折について 受傷時 2 か月後
足関節 ( 周辺 ) のまとめ 受傷状況を確認する 正面像は第 4 趾が中心線にくるように 側面は絞りすぎないように 関節は中間位 ( 曲げすぎず 伸ばしすぎず ) 肩関節と同じく 足関節面だけでなく 周囲にも注意して観察し 骨折が疑われる場合は追加撮影を 受傷箇所が青く斑 ( ぶち ) てる場合は骨折が強 く疑われる 斑てなくても 広範囲に腫れている場合は骨折のほかに靭帯 腱損傷などが起きている場合がある
最後のまとめ 見る 聞く 話す を心がけ依頼内容を再確認 痛みを軽減する撮影方法を身につける 解剖を理解し どのように描出されるか想像し 患者さんにとって最適なポジショニングで撮影する 骨折時の特徴を理解し 軟部組織や周囲の骨 関節も観察する 骨折の状況によっては次のステップを考え 必要な準備ができるようにする 自分が関わった患者さんの治療状況を追うと撮影の重要さがわかる