ラ関係受注額を約 30 兆円 ( 現状約 10 兆円 ) とすることを目指している. そのための施策の柱として,1 企業のグローバル競争力強化に向けた官民連携の推進,2 インフラシステムの海外展開の担い手となる企業 地方公共団体や人材の発掘 育成支援,3 先進的な技術 知見等を活かした国際標準の獲得

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手法 という ) を検討するものとする この場合において 唯一の手法を選択することが困難であるときは 複数の手法を選択できるものとする なお 本規程の対象とする PPP/PFI 手法は次に掲げるものとする イ民間事業者が公共施設等の運営等を担う手法ロ民間事業者が公共施設等の設計 建設又は製造及び運営

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3. 行政分野への女性の参画 (1) 行政分野への女性の参画の実態 1 国 オランダには 13 の省があり それらの関係政府機関に現在約 20 万 7 千人の国家公務員が勤務している オランダの国家公務員全体における女性比率は約 3 割 (2005 年 ) で 約 6 万 5 千人の女性公務員が勤務

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運輸政策トピックス 交通 都市インフラシステムの海外展開について 株式会社海外交通 都市開発事業支援機構の設立 日笠弥三郎 国土交通省大臣官房参事官 国際統括室 地域戦略担当 HIKASA, Yasaburo 1 はじめに 我が国は 世界に先がけて 少子高齢化や国内市場の縮小 などの課題に直面している その中で 中長期的に経済成長を 共投資だけで賄うのは困難であることから この20年ほどの 間に 民間の資金を活用するPPP型でインフラ事業が実施さ れる事例が多くなっており これが各国の民間企業にとって大 きな事業機会となっている 続けていくためには 成長 拡大を続ける国際マーケットの獲 国土交通省では 現在 我が国の交通事業 都市開発事業 得競争に打ち勝っていくことが重要である 特に 世界のイン の海外市場への参入促進を図るため 需要リスクに対応した フラ市場は 新興国の急速な都市化と経済成長により 今後 出資等 と 事業参画 を一体的に行うことを目的とした 株 の更なる拡大が見込まれている 経済協力開発機構 OECD の報告によると 交通インフラ の整備需要は 現在 年平均38兆円となっているが 2015年 式会社海外交通 都市開発事業支援機構 を設立すべく準備 を進めてきた 本稿では 同機構の活用も含めたインフラシス テムの海外展開の取組を概説する 図 1 2030年には5割以上増加して59兆円に上ると予想されている このため 我が国の技術とノウハウを活かして世界の膨大なイ ンフラ需要を積極的に取り込むことは 我が国の政策の重要 な柱となっている 2 政府の動き 政府においては 平成25年3月に官房長官を議長とし 関係 また インフラ整備に関する最近の傾向として 官民連携の 大臣から構成される 経協インフラ戦略会議 を設置し 同年 枠組み PPP Public-Private Partnership の拡大が挙げら 5月に インフラシステム輸出戦略 を取りまとめた 同戦略に れる 新興国を中心に膨大なインフラ需要が発生するなか 公 おいては 2020年 平成30年 における我が国企業のインフ 図 1 050 株式会社海外交通 都市開発事業支援機構 新設 英語名称 Japan Overseas Infrastructure Investment Corporation for Transport & Urban Development JOIN 運輸政策研究 Vol.17 No.3 2014 Autumn 運輸政策トピックス

ラ関係受注額を約 30 兆円 ( 現状約 10 兆円 ) とすることを目指している. そのための施策の柱として,1 企業のグローバル競争力強化に向けた官民連携の推進,2 インフラシステムの海外展開の担い手となる企業 地方公共団体や人材の発掘 育成支援,3 先進的な技術 知見等を活かした国際標準の獲得,4 新たなフロンティア分野への進出支援,5 安定的かつ安価な資源の確保の推進, を掲げている. なお, 同戦略については, 同年 6 月に閣議決定された 日本再興戦略 において, 迅速かつ着実に実施するよう位置づけられており, 政府一体となって, 施策を着実に進めている. 3 国土交通省における交通 都市インフラシステムの海外展開の考え方このような政府の動きを受け, 国土交通省においても, インフラシステム輸出戦略 に基づき, 国土交通分野におけるインフラシステム輸出を推進することとしている. 競合する諸外国との競争に勝ち抜き, 我が国企業が受注を獲得するためには, ハードとソフトが一体となって安全で信頼性の高いシステムを構築するといった我が国の強みを発揮し, 相手国のニーズに柔軟に対処していくことが必要である. そのため,1 トップセールスや国際会議での情報発信等を通じプロジェクトの川上 ( 構想段階 ) からの参画をめざすとともに, 我が国の技術 基準の国際標準化や相手国でのスタンダード化を通じ, 我が国企業が参画しやすい環境を整備すること, 2 海外で事業展開する企業のトラブル等の解決を支援すること等, 我が国企業の受注と事業展開を多角的に支援している. 具体的には, 我が国技術による高い安全性 信頼性, 運営段階も含めたトータルでの費用対効果の優位性等について, 相手国の理解を深めるため, 大臣等政務による官民一体となったトップセールスや要人の来日表敬 セミナー等を実施するとともに, 構想段階から相手国のニーズを把握して, 売り込みを図っている. また, 官民の連携の場として, 道路, 水, 港湾物流, エコシティ, 鉄道, 航空といった各インフラ分野や横断的な防災分野において海外官民協議会等を設置している. さらに, 国際標準化に関しては, 国際規格の制定に向けた議論に積極的に参画することにより, 我が国規格を反映させるほか, 相手国における我が国規格 標準のデファクト スタンダード化を進め, 我が国企業の進出 受注に向けて有利な環境整備を進めているところである. そのほか, 近年, 相手国において, 法令や商慣行の相違等により, 海外での事業においてトラブルを抱える企業に対し, その活動を支援するため, 国土交通省に 海外建設ホットライン を設置するとともに, 二国間対話等を通じたビジネストラブルの解決支援を行ってきている. しかしながら, 我が国の交通 都市開発の事業者が海外へ飛び出してプロジェクトを運営するという実績は依然として少ないのが現状である. その理由として, 以下のことが挙げられる. (1) これまでの状況これまでの先進国などの海外の市場では, 現地の運営事業者が存在し, 製品納入のみが求められることが多く, 我が国のインフラ ( 交通 都市関連分野 ) の製造事業者 ( メーカー ) が, 世界各地において, その製品の優位性を前面にして, 海外進出を果たしてきた. また, 途上国でのインフラ事業では, これまで長い間, 中央政府 政府機関による公共投資を財源とするものが中心で, 運営までは求められなかった. さらに, 我が国では, 国内市場の需要が相当の規模で存在し, インフラを建設 運営する企業にとっても, わざわざリスクの高い海外に進出する必要性は小さかった. (2) 周辺状況の変化ところが, 前述のとおり, 新興国の急速な都市化と経済成長により, その市場が急速に拡大するとともに, 建設や製品納入のみならず, 運営まで求められる PPP 型の事業が増えてきた. 特に, 新興国の場合には事業運営の経験が十分蓄積されていないために, 事業権を付与して経験豊富な企業に事業運営を任せるといった形態が出てきている. また, 中国や韓国など新興国のメーカー等の競争力が上っており, 製品の価格だけでは, 勝てないケースも増えていることや, 仏のパリ交通公団や VEOLIAなど, インフラ運営企業が既にアジア含め新興国に進出してきていることなど, 運営分野も含め, 各国インフラ企業による熾烈な競争が行われている. このような状況の下で, 我が国の国内市場が成熟しており, 今後大きく拡大する見込みがないことや, 我が国のインフラについては, 高い技術を誇るハードに加えて, 高い評価を得ている安全性や信頼性といったソフト面の運営に関しても, その強みを生かしていく必要があることから, これまでのプレーヤー ( 商社, 製造 建設業者 ) とともに, 我が国のインフラ運営事業者も一体となって, 海外に進出していくことが喫緊の課題となっている. (3) 分野特有のリスクところが, 出資等を通じて民間の企業がこれらの事業に参画するにあたっては, この分野特有のリスクがあることが大きな壁となっている. つまり, 巨額の投資を要し, その投資の回収には大変長い期間がかかるというリスク, また, 計画通り, 利用者が増えるかどうかという需要リスク, さらにインフラの場合, 通常相手国政府が大きく関与しており, 相手国政府に由来するリスク等が発生する. このように, 現地で長期間にわたって事業を行うとなるとリスクが大きく, 民間企業としてはなかなか踏み切れない状況にある. 運輸政策トピックス Vol.17 No.3 2014 Autumn 運輸政策研究 051

表 1 発起人一覧団体名物流一般社団法人日本物流団体連合会土地 建設産業一般社団法人海外建設協会都市 住宅一般社団法人海外エコシティプロジェクト協議会一般社団法人日本橋梁建設協会一般社団法人日本道路建設業協会道路一般社団法人プレストレスト コンクリート建設業協会日本高速道路インターナショナル株式会社一般社団法人海外鉄道技術協力協会鉄道一般社団法人日本民営鉄道協会一般社団法人日本船主協会海事一般社団法人日本造船工業会一般社団法人日本埋立浚渫協会港湾一般社団法人日本港運協会一般財団法人港湾空港総合技術センター航空一般社団法人全国空港ビル協会合計 15 団体 こうした事情を踏まえ, 昨年から, 国土交通省において, 出 資 と 事業参画 を一体的に行う新たな政府出資機関を設立すべく, 準備を行ってきた. 平成 26 年 4 月に国会で 株式会社海外交通 都市開発事業支援機構法 が成立し, 国の予算として, 平成 26 年度財政投融資計画において,1,095 億円 ( 産業投資 585 億円, 政府保証 510 億円 ) が盛り込まれた. その後, 鉄道, 港湾, 海事, 都市, 道路, 建設, 物流といった幅広い分野の15の民間団体 ( 表 1) が発起人となり, 官民計約 108 億円の出資 ( ) を得て,10 月 20 日に機構は設立されたところである. 政府は, 常時, 機構の発行済株式の総数の 2 分の 1 以上にあたる 株式を保有しなければならないこととなっている. 今後, 政府は, プロジェクトの進展などに応じ, 予算の範囲内で機構に増資する こととなる. なお, シンガポール, 中国, 韓国, 欧州諸国などでも, 海外のインフラ事業に出資を行う政府出資機関が既に存在しているところである. 日本においても, これまで JICA,JBIC,NEXIといった公的金融があったが, 今般の機構の設立により, ファイナンス面 オペレーション面での大きな強化 充実が図られることになる. 4 株式会社海外交通 都市開発事業支援機構 ( 以下 機構 という ) について 2 事業参画機構は, 出資先の現地事業体に対して, 日本の技術や経験を活かすため, 必要に応じ, 役員 技術者等の人材派遣等により, 事業参画を行う. これにより商業的なリスクを減じることができる. 3 相手国側との交渉共同出資者の中において, 日本政府の出資機関として, 相手国と交渉する. これにより政治的なリスクを減じることができる. (2) 機構の支援事業の対象範囲について機構の支援対象は, 鉄道, 道路, バス, 物流, 船舶 海洋開発, 港湾, 空港, 都市 住宅開発などの幅広い分野に亘る交通事業 都市開発事業であり, さらにそれらの事業を支援する事業も含まれる. 海外の地域に関する制約要件はなく, ブラウンフィールド ( 既存 ) の案件も支援の対象になる. (3) 支援決定までのプロセスについて機構法において, 機構は支援決定を行う際には, 国が定めた支援基準に従うことになっている. 同基準は,10 月に国土交通省の告示として公表されたが, その基本的な考え方は,1 政策的意義,2 民間企業のイニシアティブ,3 長期的な収益性の確保 の 3 点である. そのポイントは, 1 我が国に蓄積された知識, 技術及び経験が活用され, 我が国企業の海外市場参入促進につながること 2 民業補完性に配慮し, 民間企業と連携 調整して出資等の資金供給がなされること 3 適切な分散投資を行い, 長期的な収益性を確保することであり, これらを含む支援基準にしたがって, 機構の内部で具体的な検討を行う. 支援の決定に関しては, 機構法に従い, その公正性, 中立性, 透明性を確保するべく, 代表取締役及び社外取締役を各 1 名とその他取締役から構成される 海外交通 都市開発事業委員会 が設置されており, 同委員会が個別のプロジェクトへの出資等の支援内容を決定する. その後, 国の認可を受けて, 実際の出資等が行われることとなる. (1) 機構の業務内容について機構は, 主として以下の支援を行う. 1 出資日本企業が海外でインフラ事業に参入する際, 関係企業は, 現地で事業運営を行う事業体を設立する場合が多い. このような場合に, 機構は, これら関係企業と共同して現地事業体に出資する. これにより, 民間事業者とのリスクの分担を行い, ファイナンス組成を円滑化することができる. (4) 機構の組織 体制設立当初は, 出資が中心的な業務であり, 大きな収入が見込まれるまで時間を要することから, まずは最小限の規模の 20~30 名程度でスタートし, 業務の拡大に応じて組織も拡大していくことになる. 職員については, 関係業界及び国から, プロジェクト ファイナンス等の金融の専門知識, インフラ事業の専門知識, 国際経験等を有する専門家が参加し, 適切な情報管理体制を整えて, 機構の運営に当たることとなる. 052 運輸政策研究 Vol.17 No.3 2014 Autumn 運輸政策トピックス

(5) 機構の存続期間機構の対象となるプロジェクトは, 長期のプロジェクトになるものも想定されるため, 機構については, その存続期限を設けていないのが特徴である. ただ, 機構法上,5 年毎に法律の施行状況を検討し, 必要な措置を講ずる旨定められている. (6) 関係機関との連携 機構による支援は,JICAの円借款,JBICの融資等と適切に役割分担しながら実施される. 厳しい競争を勝ち抜くため, 機構による支援と他の関係機関による支援をパッケージにして, 相手国に魅力的な提案をすることも考えられ, 関係省庁や関係機関との緊密な連携の下, 効率的かつ効果的な支援を行う. 5 機構に期待される役割我が国は, 交通 都市開発の分野に関して, 優れた知識, 技術及び経験を蓄積している. 例えば, 安全で定時性を確保しつつ大量 高頻度の鉄道輸送等を可能とするノウハウ, 大型浮体構造物の建造 維持管理の技術, 災害発生のメカニズム, 耐震対策等防災対策等の知識, インフラの老朽化対策等の経験などは, 世界の関連プロジェクトにおいて, 我が国の強みとして活用されることが期待される. また, 安全性, 信頼性, 快適性に優れたサービスを提供する我が国の事業を海外に展開していくことは, 相手国にとっても 有益である. 例えば, 日本の大都市圏の公共交通の運営 都市開発は, 民間企業の力を活用して, 極めて効率的に運営されており, 人口の多いアジアにおける都市 交通 環境問題 ( 渋滞など ) において極めて有効な解決策となる. 今般の機構の設立により, 公的なファイナンス面での厚みも増し, ハード, ソフト, ファイナンスが一体となったパッケージを更に提示しやすくなり, 我が国の競争力が上がることが期待される. 図 2の表は, 現在, 国土交通省が把握している主な海外の交通や都市開発のプロジェクトを一覧にしたものである. これらのプロジェクトの中には, 全てが民間活用型となるのではなく, 相手国側が, 一部を公共事業として実施する形態のプロジェクトも含まれる.( 図 3のハッチがかかっている部分 ). 個々のプロジェクトのうち, どれが民間活用になるかは, 今後順次決まっていくものであり, また, 実際に機構が参画するかどうかは, プロジェクト毎に機構自らが民間事業者と緊密に連携しながら判断していくことになる. この表の事例はあくまでも現時点での例示であり, 一般的には, 海外では政治的な要因による延期や変更もあり得る. したがって, 今後, これ以外にも多種多様なプロジェクトについて, 機構の活用により我が国企業の参画が促進されることが望ましい. そのためにも, インフラ海外展開におけるこれまでの先行事例も参考にしながら, 機構をよく活用していくことが重要で 図 2 各国における主要プロジェクト 運輸政策トピックス Vol.17 No.3 2014 Autumn 運輸政策研究 053

図 3 民間活用型インフラ事業例 ( 機構による出資と円借款の協調の場合 ) ある. 先行例としては, 例えば, 以下の事例が挙げられる. 1ビジネスの育成に取り組む韓国は, 世界の水メジャーと共同で事業運営を行い, 経験を蓄積している. 2 我が国電力事業では, 操業中の発電事業を買収し, 経験や実績を得た上で, 現地又は第三国の市場に進出した. 3 インドの港湾や空港建設 運営プロジェクトでは, 他国企業はEPCコントラクター ( 設計 調達 建設 ) となることを目的として現地事業体に出資した事例も見られる. 上記 1 2 は, 経験の浅い分野において, 我が国企業が経験 ノウハウを蓄積するために有効なプロセスであり, また, 徐々にプロジェクトのコア部分を請け負うまでの段階的な進出も考えられる. 上記 3 は, 我が国のサプライヤーにとっても参考となる事例と考えられる. 機構が支援するプロジェクトの典型は, 大規模で, 整備 運営が長期間にわたるものが想定されるが, 我が国企業が経験 ノウハウを蓄積する上で効果的なプロジェクトであれば, それ が小規模又は整備 運営が短期間にとどまるものであっても, 将来の大規模案件の我が国受注の獲得へのステップとしてとらえるべきである. 6 おわりに相手国が真に求め, 真に役立つインフラの整備に協力し, 現地の経済社会の安定 発展に貢献すると同時に, 雇用創出や技術者育成にも貢献し, さらには環境の保全にも資するような 良い仕事 をすることによって, 日本は, 将来にわたって繁栄を享受し, 世界で尊敬される国であり続けることができる. 国土交通省としては, 以上の取組を通じて, 我が国の国土交通関連産業の国際競争力強化や海外プロジェクトへの参入機会の拡大を図ると共に, 海外において真に必要とされ, 真に役立つインフラシステムの構築に貢献してまいりたい. 054 運輸政策研究 Vol.17 No.3 2014 Autumn 運輸政策トピックス