別添 -2 浚渫土及び高水敷掘削土の土質改良の試みについて 内藤恵介 関東地方整備局利根川下流河川事務所工務課 ( 287-8510 千葉県香取市佐原イ 4149) 利根川下流河川事務所管内の下流部では 河川整備計画における治水対策として約 2,40 0 万m3の河道浚渫が計画されている また 自然再生事業においては 今後約 10 年で約 50 万m3の高水敷掘削が計画されている これらの事業進捗のために 河道掘削土を効率的 効果的に活用することが望まれており 海岸養浜事業等との連携や 下流部無堤地区の築堤材料として有効活用することが重要と考える 本報文は 河道掘削土を築堤材料として活用することに主眼を置いた 土質改良の試みについて報告するものである キーワード河道掘削土, 有効利用, 土質改良 1. はじめに 利根川下流部及び河口部では流下断面が不足している このため 河道掘削を行い流下能力を確保することが急務となっており 河川整備計画における治水対策として約 2,400 万m3の掘削が計画されている また 利根川下流部には無堤部が存在し 過去に浸水被害が発生しており 堤防整備をあわせて実施することにより 治水安全度の向上を図っている さらに 利根川下流部の自然再生事業においては 湿地環境 ワンド等の整備による 多様な生物の生息環境の再生を目的として 今後約 10 年で約 50 万m3の高水敷掘削が計画されている なお 築堤整備に必要な築堤材料は 約 100 万m3となっている 自然再生予定箇所 築堤予定箇所 図 1. 事業箇所概要図 河道浚渫予定箇所 築堤事業の盛土材の確保と 河道浚渫及び高水敷掘削による大量の掘削土により 土砂の需給が一致しているよう思えるが 供給 需要側ともに以下のような課題が存在している まず 土砂の供給側となる河道浚渫 高水敷掘削により発生する河道掘削土について 浚渫土は塩分濃度が高くカキ殻が混入 高水敷掘削土は根茎が混入している そのため これらの掘削土をそのまま築堤材として活用することが困難となっている そのままでは 第 3 種建設発生土にはならず 近隣工事の受入れ調整をすることも困難である さらに 河道掘削土の継続的な発生が見込まれるにも関わらず ストックヤード及び受入れ先 ( 海岸養浜事業等 ) には限りがある 次に 発生土の需要側となる築堤事業については リサイクル原則化ルールに基づき 近隣工事で建設発生土の搬出があれば利用調整を行うこととしているが 発生する事業が無いため 利根川の下流部ではやむを得ず購入土を使用している状況である 本報告においては 浚渫 高水敷掘削により発生する河道掘削土の処分 及び 築堤材料の確保 という両問題に対し 河道掘削土を改良し築堤材料として活用することが 事業の効率的 効果的な推進に繋がり 限られたストックヤードの有効利用が可能となるという考えのもと 試験的に行った土質改良の試みについて述べる
2. 母料特性と土質改良方法等 1) 母材特性について浚渫土及び高水敷掘削土について 原材料試験により把握した母材特性及び特徴 築堤材料として利用する際の課題を下記に列挙する (1) 浚渫土について 河口部で浚渫される土砂はカキ殻を多く含んでいる カキ殻は塑性を示さないため 締固め強度や力学強度等の増加は見込めないことが予想される また 径が大きいものが混入している場合 堤防の空洞化の懸念がある 掘削箇所により異なるが 粒度曲線の勾配が緩やかで 粒度分布が比較的良い 塩分を含んだ土砂であるため 塩分濃度の植生等への影響に注意する必要がある 含水比が約 37% コーン指数は約 50 kn/m2 一年間仮置した状態の土砂である 細粒分が 約 7 割 凡例 : 高水敷掘削土 : 浚渫土 図 4 河道掘削土の粒径加積曲線 高水敷掘削土 図 2 浚渫土のカキ殻混入状況 (2) 高水敷掘削土について根茎を含んでおり 細粒分が多く含水比が高い粘性土である 含水比が約 46% コーン指数は約 180kN/m2 図 5 三角座標より 高水敷掘削土単体では締固まらない土質である 図 5 土の分類 浚渫土 2) 改良土の築堤材料としての目標浚渫土と高水敷掘削土を混合し粒度調整を行うこと及び 高含水比の母材を石灰配合することにより コーン指数の向上を期待し 築堤材料としての利用を図ることを目標とした 発生土利用基準 建設発生土利用技術マニュアル等を参考にし 下記を土質改良の設計目標値とした 第 3 種建設発生土 コーン指数 Qc 400kN/m2 細粒分 15 Fc 50 図 3 高水敷掘削箇所 3) 改良方法について本試みにおける母材特性を考慮すると 下記項目を満たすことが重要であると考えた また 試験施工実施後に評価可能な改良方法であることを条件とした 河道掘削土に含まれる異物 ( 貝殻 根茎 ) を効果的に分別できること 高含水比粘性土である高水敷掘削土と浚渫土を効果的に混合できること
改良方法については 改良材の配合量が管理できるプラント又は自走式であるものとし 渡良瀬遊水地で根茎分別の実績のある 回転式破砕混合工法用いた改良法 を採用することとした 回転式破砕混合工法用いた改良法を採用することにより 根茎の分別 カキ殻の分別及び破砕 粘土塊の解砕が 1 サイクルで可能であり 異物の除去を効率的に行うことができ 高含水比粘性土についても効果的に改良することができる また 高速回転するフレキシブルなチェーンにより 破砕と混合を同時に行うことで 母材が細粒化され均一に分散されるため 築堤材料としての品質の確保も期待できる 図 7. 含水比 3. 土質改良試験施工の内容 1) 配合ケースの検討浚渫土及び高水敷掘削土について 混合及び石灰配合による土質特性の変化及び強度増加を確認するため 試料について粘性土と砂質土の混合比 1:0 1:1 1:2 1:4 の 4 パターンを設定し 上記 4 ケースに石灰を 10kg/m3 配合するケースを設定し 室内配合試験を実施した なお 上記の配合ケースの決定後に 母材の現状土試験結果により 浚渫土のコーン指数が 40~49 kn/m2 高水敷掘削土が 182 kn/m2 の値を示した 母材のコーン指数を踏まえると 目標とするコーン指数を確保するためには 石灰配合が必要不可欠であると考えられた このため 同様の配合比で 石灰配合量を 20 kg/m3 30 kg/m3 としたケースも試験を追加することとし 土質改良試験施工における配合量決定の基礎資料として活用した 室内土質試験の結果は 図 6~8 のとおり 図 8. 細粒分 石灰配合量 30 kg/m3 20 kg/m3 図 9. 改良土 図 6. コーン指数 30 kg/m3 10 kg/m3 20 kg/m3 石灰配合量図 10. ロス材 無し
合割合が大きいほどコーン指数が低下する傾向が読み取れる 粘性土と浚渫土を混合すると 混合割合に依らず コーン指数 400kN/m2 を満足するには 70kg/m3 以上の石灰配合が必要となり 植生への影響や土の固化が懸念される 3) 土質改良方針 ( 案 ) の決定室内配合試験の結果より 下記を基本として土質改良試験施工を実施することとした 図 11. プラント全景 2) 配合試験結果配合試験結果からは 以下の傾向が確認された 浚渫土単体で土質改良を行った場合浚渫土 ( 砂質土 ) の単体は 含水比が 40% 弱と高く 石灰配合により図 12 のとおりコーン指数が増加する 石灰配合量とコーン指数の増加傾向の関係より コーン指数 400kN/m2 の発現には概ね 35kg/m3 の石灰添加が必要であることが分かった 養生 7 日後のコーン指数 qc7(kn/m 2 ) 1200 1000 800 600 400 200 粘性土 : 砂質土 =0:1 y = 37.426e 0.0656x R² = 0.9762 (1) 浚渫土について石灰添加量は 35kg/m3( 母材の含水比約 40%) を基本 ( 上限 ) として行う 土質改良の目標は コーン指数 400kN/m3 とした 強度発現の確認は 1000m3 に 1 回実施することとした また 母材については 状態の変化に応じ 含水比を把握するものとした (2) 高水敷掘削土について母材特性より 次年度以降の浚渫土改良のための混合材料としての利用を鑑み 優先的に根茎の選別を実施することとした 生石灰添加量は 5 kg/m3 15 kg/m3 25 kg/m3 のケースを設定し 根茎選別に要する最低限度の量を試験施工により求め 15 kg/m3 に決定した 4) 含水比の変化によるロス材発生状況 (1) 高水敷掘削土について工事現場で毎朝 母材の含水比データを収集したところ 自然含水比の高い値を示す日において ロス材発生量の増加 施工機械の目詰まりが発生する傾向が確認出来た ロス材発生の減少 根茎の分別効率の向上のため 母材の含水比が 40% を超える場合は 石灰配合量を 5 kg/m3 増加して対応することを試み 結果としてロス材発生を抑制し 効率的に施工することができた 0 0 20 40 60 80 100 生石灰添加量 (kg/m 3 ) 図 12. 含水比とコーン指数 400kN/m2 を得る生石灰添加量の関係 浚渫土と高水敷掘削土 ( 粘性土 ) を混合して土質改良を行った場合図 6. より 粘性土と浚渫土の混合では 浚渫土の混
粘土塊 c 図 13. 含水比 40% 程度の施工状況 ( ふるい ) カキ殻 図 16. ロス材発生状況 ( 浚渫土 ) 5) 試験盛土工改良土による盛土締固め特性を把握するため 振動ローラにより試験盛土を行った 施工後に現場密度試験を実施し 築堤材料として良好に締固まるということを確認することが出来た 図 14. 含水比 46.2% 時の施工状況 ( ふるい ) (2) 浚渫土について浚渫土の改良実施期間において 母材の自然含水比が高くなりロス材の発生量が約 1 割に達する場合があり 施工効率の低下が顕著となった このまま施工を継続した場合 改良ボリュームの大幅な減少が懸念された このため コーン指数 400kN/m2 を得られる母材含水比と生石灰添加量の関係を求め 含水比に応じて石灰配合量を 40kg/m3 45kg/m3 とするよう柔軟性を持たせることにより ロス材料の発生を抑えることができた 図 17 試験盛土 ( 上部 :4.0m 4.0m 高さ :0.9m 法勾配 :1:3.0) 石灰配合量を調整することにより 高水敷掘削土の平均ロス率は約 2.2% 浚渫土の平均ロス率については約 5.3% さらに改良時のロス材を石灰を加えず改良した結果 約 0.8% まで抑止することできた また 現地でロス材を確認すると 比較的小さな異物も分別されていた 根茎 図 15. ロス材発生状況 ( 高水敷掘削土 ) 図 18 試験盛土転圧状況 6) 試験植生工本試みにおいては 汽水域の掘削土を築堤材に活用することが前提条件であるため 石灰配合に起因する土の ph 上昇 ( アルカリ化 ) と固化による植生の生育への影響を把握のほか 塩分の植生への影響を把握することが非常に重要であるため 試験盛土に芝張を施し定期的にモニタリングを行うこととした 芝は 総芝とワラ芝を使用することとし 盛土の川表側と裏側の両面にそれぞれ配置し 日照により育成に差が生じるか確認できるよう工夫した
4. 試験施工の成果 1 浚渫土に混入しているカキ殻 根茎への対処方法として 回転式破砕混合工法用いた改良法は効果的 効率的であることが分かった 2 浚渫土と高水敷掘削土の混合改良による粒度調整による改良を第一の目標としていたが コーン指数の低下に繋がることが分かった 3 浚渫土と高水敷掘削土ともに高含水比であり 石灰配合による含水比調整がコーン指数の改善に効果的であることを確認できた 4 試験盛土について 改良土が築堤材料として良好に締固まることを確認することができた また 施工後約 6 ヶ月経過しても クラックは見受けられなかった 5 試験植生工は 塩分を含む浚渫土を一年以上仮置した後に土質改良を行っているが 張芝 ワラ芝共に順調に生育している 芝を部分的に剥がして 根が良好に活着しているか 今後確認したいと考えている 図 19 試験植生の育成状況 H26.11 撮影 5. 今後の課題 1 今回の試みの一番の目的である 浚渫土と高水敷掘削土の粒度調整による混合改良については 別々に改良した方が効果的という結果となり 当初期待していた成果を上げることは出来なかった 混合改良による粒度調整がコーン指数の低下に繋がる要因の分析が必要であり 根本的な解決策を検討することが課題となった 2 所定強度の発現が困難であった高水敷掘削土について 今回は根茎を取り除くのみとしたが 今後築堤材料としての利用方法を検討する必要がある 3 改良時に石灰の配合量を可能な限り低くすることが コスト 品質面ともに好ましいため トレンチや天日干し等により 自然に含水比が低下させ 目標とするコーン指数が得られる処理方法を試みる必要がある 4 浚渫土は同じ河口部でも 位置によりカキ殻混入量 シルト分の含有量が変わるため その場合どのような配合を行えば効果的であるか検討が必要である 5 土質改良の石灰配合について 関東地整管内の試験施工実績によると 30 kg/m3 以下が目安となっているが 試験施工ではトラフィカビリティを確保するため 配合量が最大で 45kg/m3 となり 改良土の品質について懸念が残った 6 試験改良のコストが 購入土より割高となっているため より経済的となる方法を考慮する必要がある 7 築堤土量に対して掘削土量が多く 2,300 万 m3 の土の有効利用 処分が必要となるため 今後も土質改良を含めた対応策を考える必要がある 図 20 試験植生の育成状況 H27.4 撮影