緒言 カンキツ類では着果過多を防ぎ, 適度な着果とするため摘果は必須の作業である. その目的は隔年結果の防止, 品質向上などさまざまであるが, 最も大きなねらいは目標とする大きさの果実を生産することにある. 目標とする果実の大きさはカンキツの種類によって異なっており, それは市場で

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長崎農林技セ研報第 6 号 :1 2 3 ~ 1 3 0 ( 2 0 1 5 ) 露地栽培中晩生カンキツ 麗紅 の商品性の高い果実を生産するための摘果指標 林田誠剛 キーワード : 麗紅, 果実肥大, 摘果, 品質 Thinning Index for the Production of High Quarity Fruit in Medium-late Maturing Citrus Reikou at Open Cultivation. Seigo HAYASHIDA 目次 1. 緒言 124 2. 材料および方法 124 1) 果径から果実重を推定する方法 124 2) 果実肥大パターンの品種間差異 124 3) 摘果指標の作成 124 4) 果実の大きさと品質の関係 125 3. 結果 125 1) 果径から果実重を推定する手法 125 2) 果実肥大パターンの品種間差異 125 3) 摘果指標の作成 126 4) 果実の大きさと品質の関係 127 4. 考察 128 1) 果径から果実重を推定する式について 128 2) 摘果指標について 129 3) 果実の大きさと品質について 129 5. 摘要 129 6. 引用文献 130 Summary 130

- 124-1. 緒言 カンキツ類では着果過多を防ぎ, 適度な着果とするため摘果は必須の作業である. その目的は隔年結果の防止, 品質向上などさまざまであるが, 最も大きなねらいは目標とする大きさの果実を生産することにある. 目標とする果実の大きさはカンキツの種類によって異なっており, それは市場での評価によるところが大きい. 一般にウンシュウミカンはg 前後の中庸な大きさの果実が, イヨカンやブンタン類などの中晩生カンキツでは大きな果実が市場での評価が高い. 本研究に供試した 麗紅 12) は, 中晩生カンキツでありながら, イヨカンやブンタン類などとはまったく異なる果形を呈し, ウンシュウミカンに類似した果形指数 1 前後の扁平な果実 であることから, どれくらいの大きさの果実を生産すればいいのか, そのためにはどのような摘果をすればよいのか明らかとなっていない. 従来, 摘果の指標として, 主に適正な着果という観点から, 葉果比による着果量, 単位樹容積当たりの着果量が用いられてきた. これらは樹全体の着果量を調整するためには有効な指標であるが, 個々の果実を求める大きさとするための指標としては適していない. そこで, 露地栽培の 麗紅 で品質がよい果実を生産するため, 摘果時期に当たる幼果期の果径から収穫期の果実階級を予測できる摘果指標の作成について試験を実施したので, その概要を報告する. 2. 材料および方法 1) 果径から果実重を推定する方法果樹研究部門内に植栽した露地栽培の高接ぎ 5 年生 麗紅 を供試し, 成熟期に当たる2005 年 2 月 9 日に 3 樹から無作為に10 果ずつサンプリングし, 果実横径 (2w), 縦径 (2h) および果実重を測定した. 得られた横径および縦径を基に下記に示す 3 つの方法から体積を推定し, 果実重との相関を求めた. 図 1に測定した部位を示した. 推定式 1 V 1 =4/3π w 2 h 推定式 2 V 2 =4/3π w h 2 推定式 3 V 3 =4/3π((w+h)/2) 3 w h 図 1 果径の測定部位 2) 果実肥大パターンの品種間差異主な中晩生カンキツ品種における果実肥大パターンの差異を明らかにするため,2008 年に果樹研究部門内に植栽した露地栽培の高接ぎ 9 年生 麗紅 3 樹, 高接ぎ10 年生 せとか 3 樹および 7 年生 不知火 4 樹を供試し, 各樹より無作為に10 果を選び, 生育期に果実横径および縦径を調査した. 調査は 麗紅 と せとか は 7 月 1 日から12 月 10 日まで10~30 日間隔で, 不知火 は 6 月 30 日から11 月 21 日まで約 10 日間隔で行った. なお, 満開日は 麗紅 および せとか が 5 月 11 日, 不知火 が 5 月 12 日であった. 3) 摘果指標の作成 2008 年および2009 年に佐世保市針尾東町に植栽された露地栽培の 麗紅 10 樹を供試し, 各樹から無作為に20 果, 合計 200 果を選び, ラベルした. なお, 供試樹の樹齢は2008 年時点で 7 年生で, 着果量は両年とも樹容積 1m 3 あたり15 果になるように調整した. 2008 年は満開 日後の 7 月 7 日および満開 81 日後の 7 月 28 日に果実の横径を測定した. 成熟期に当たる2009 年 1 月 21 日に着果していたすべての果実 165 果を収穫し, 横径および果実重を測定した. 2009 年は満開 62 日後の 7 月 6 日, 満開 83 日後の 7 月 27 日および満開 99 日後の 8 月 12 日に横径を測定した. 成熟期に当たる2010 年 1 月 25 日に着果していたすべての果実 179 果を収穫し, 横

果径 (mm) 日増加体積 (cm 3 ) 実測果重 (g) - 125 - 径および果実重を測定した. 2008 年および2009 年に供試した果実について, 収穫時の横径を基にSから4Lまで階級別に区分し, その果実の幼果期の横径から摘果指標を作成した. 次にその指標の精度を評価するため, 適合率を算出した. 適合率とは幼果期の横径から予測される収穫期の階級と実際に収穫時点の横径から得られた階級とが一致している割合を示すもので, その率が高いほど指標の精度が高いと判断できる. 4) 果実の大きさと品質の関係上記 3) の試験で2010 年 1 月 25 日に収穫したすべての果実を供試し, 果皮の粗滑程度, 糖度および酸含量を調査した. なお, 糖度は屈折糖度計による可溶性固形物含有率で, 酸含量は一定量の果汁を採取し,0.156Nの水酸化ナトリウムによる中和滴定量によりクエン酸含量で算出した. また, 粗滑程度は下記に示す 3 段階で評価した. 粗滑程度 0: 滑 1: 中 2: 粗 3. 結果 1) 果径から果実重を推定する方法 いずれの推定式も果径から推定した体積と実測果 重との間には高い正の相関が見られた ( 図 2). ま た, 推定した体積と実測果実重との間の相関係数は 推定式 1 と推定式 3 で 0.99 と非常に高かった ( 表 1). 回帰直線の傾き a は推定式 1 が最も 1 に近く, 次いで 推定式 3, 推定式 2 の順に低かった.b(y 切片 ) の 値は推定式 1 が最も低く, 次いで推定式 3, 推定式 2 の順に高かった. 0 3 300 2 200 1 推定式 r 相関係数 a 傾き 推定式 1 推定式 2 推定式 3 線形 ( 推定式 1) 線形 ( 推定式 2) 線形 ( 推定式 3) 1 200 2 300 3 0 推定体積 (cm 3 ) 図 2 推定方法の違いと推定精度 表 1 推定方法の違いと相関係数, 一次回帰式 b y 切片 推定式 1 0.9918 1.009 1.217 推定式 2 0.9642 0.714 12.175 推定式 3 0.9894 0.888 4.898 2) 果実肥大パターンの品種間差異 図 3 に 麗紅 の, 図 4 に せとか の, 図 5 に 不知火 の横径, 縦径および日増加体積の 推移を示した. 満開後 日の 麗紅 の横径と縦径はどちらも 13mm 程度で, 同時期の せとか の 20mm, 不知 火 の 27mm と比べ, 小さかった. その後の 麗紅 の増加パターンは せとか と類似し, 満開 日前後までは横径と縦径はほぼ同じで, それ以降, 縦径の伸びは緩やかとなった. 一方, 不知火 は満開 130 日後まで横径と縦径はほぼ同じであっ た. 麗紅 の日増加体積は満開 日後までの生育 初期は せとか と比べ少なかったが, それ以降 は せとか よりも多く推移し, 満開 1 日後が 最も増加が多かった. 30 20 10 0 横径縦径日増加体積 79 110 1 171 201 満開後日数 ( 日 ) 図 3 麗紅 の横径, 縦径および日増加体積の推移 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0

収穫時横径 (mm) 収穫時横径 (mm) 果径 (mm) 日増加体積 (cm 3 ) 果径 (mm) 日増加体積 (cm 3 ) 収穫時横径 (mm) - 126 - 横径縦径日増加体積 2.5 2.0 110 1.5 30 20 10 0 79 110 1 171 201 満開後日数 ( 日 ) 1.0 0.5 0.0 y = 1.168x + 53.736 r = 0.33 図 4 せとか の横径, 縦径および日増加体積の推移 14 16 18 20 22 24 26 28 満開 日後横径 (mm) 30 20 10 0 横径縦径日増加体積 79 110 1 171 201 満開後日数 ( 日 ) 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 図 6 満開 日後と収穫時の横径の関係 (2008) y = 0.584x + 67.236 r=0.27 図 5 不知火 の横径, 縦径および日増加体積の推移 3) 摘果指標の作成満開約 日後の横径と収穫時横径との関係について,2008 年を図 6に,2009 年を図 7に示した. 両年とも正の相関は見られるものの相関係数 rは 2008 年が0.33,2009 年が0.27と低く, バラツキが大きかった. 満開約 日後の横径と収穫時横径との関係について,2008 年は図 8に,2009 年は図 9に示した. 両年とも相関係数 rは2008 年が0.88,2009 年が0. 67と満開 日後より高かった.2009 年に行った満開約 日後の相関も 0.78と高かった ( 図 10). そこで, 収穫時横径との相関が高かった満開 日後および 日後の横径について, 収穫時の階級別にまとめたのが表 2である. たとえば, 収穫時にL 級の果実になるのは2008 年の場合, 満開 8 0 日後で28.6±2.2mm( 平均 ± 標準偏差 ),2009 年は満開 日後で29.2±3.4mm, 満開 日後で39. 0±3.4mmであることを示している. なお, 実際の調査日は満開 日後, 日後とずれているため, 表中の値は前後の横径の日変化量を算出し補正を行っている. 110 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 満開 62 日後横径 (mm) 図 7 満開 62 日後と収穫時の横径の関係 (2009) y = 1.9828x + 12.892 r = 0.88 20 25 30 35 45 満開 81 日後横径 (mm) 図 8 満開 81 日後と収穫時の横径の関係 (2008)

収穫時横径 (mm) 収穫時横径 (mm) - 127 - 図 9 満開 83 日後と収穫時の横径の関係 (2009) y = 1.1572x + 39.284 r=0.67 20 25 30 35 45 満開 83 日後横径 (mm) y = 1.26x + 25.01 r=0.78 次に表 2で示した摘果指標の適合率を算出した ( 表 3).2008 年の満開 日後の指標を基に収穫期の階級を予測した場合の適合率は, 当該年である2008 年はいずれの階級も~55% と比較的高い適合率であった. 同じ指標を使って,2009 年の適合率を見たところ, 階級により差が見られたものの30% 程度とやや低い適合率であった. 同様に2009 年の満開 日後の指標を基にした適合率は2008 年の適合率が比較的高く,2009 年はやや低かった.2009 年の満開 日後の指標を基に適合率は満開 日後よりやや高く,30~45% 程度であった. なお, 予測する階級をL 級 ~2L 級とした場合の適合率は,2008 年は% 程度,2009 年は満開 日後で% 程度, 満開 日後で% 程度であった. 4) 果実の大きさと品質の関係果皮の粗滑はL 級以下の果実はすべて平滑であったが,2L 級以上では大きな階級の果実になるほど果面が粗くなった ( 表 4). 糖度および酸含量は階級間に有意な差は認められなかったものの, 糖度は階級が小さくなるほど高く, 酸含量は小さな階級ほど多い傾向にあり, 特に酸含量は S 級およびM 級では 1.3g/ml 以上と非常に多かった. 30 35 45 55 満開 99 日後横径 (mm) 図 10 満開 99 日後と収穫時の横径の関係 (2009) 表 2 収穫期の果実階級と幼果期の横径との関係 ( 摘果指標 ) 階級 収穫時横径 (mm) 平均果実重 2008 年 2009 年 横径 (mm) 平均果実重 横径 (mm) (g) 満開 日後 (g) 満開 日後満開 日後 S 55~61 92.0 25.0±1.6 z 87.8 24.7±0.6 32.0±1.3 M 61~67 110.5 27.2±1.3 114.6 27.1±1.7 36.2±1.6 L 67~73 132.3 28.6±2.2 142.4 29.2±3.4 39.0±3.4 2L 73~ 169.6 31.4±1.7 182.0 32.6±3.4 43.0±3.1 3L ~89 218.3 34.4±2.5 233.5 34.3±3.2 45.9±3.0 4L 89~ 286.1 37.3±3.0 291.2 36.9±2.4 49.4±2.0 z 平均 ± 標準偏差

- 128 - 表 3 摘果指標の適合率 (%) 満開後日数 日 日 指標として使用した年 2008 2009 2009 適合率を見た年 2008 2009 2008 2009 2009 S.0 25.0.0 25.0 33.3 M 45.8 38.5 48.8 35.7 35.7 L 46.2 27.0 41.0 21.4 36.8 2L 55.3 31.9 56.4 31.9 44.4 3L 52.6 58.8 61.5 57.1 69.4 4L 44.4 19.1.9 17.0 24.3 L~2L 78.1 52.3 79.5.7 61.6 表 4 果実階級と糖度および酸含量 階級 粗滑程度 糖度酸含量 (Brix) (g/ml) S 0.0 13.2 1.41 M 0.0 12.6 1.36 L 0.0 12.6 1.25 2L 0.3 12.4 1.21 3L 0.8 12.4 1.26 4L 1.5 12.3 1.21 有意性 ns z ns z 一元配置の分散分析によりnsは有意差なし 4. 考察 1) 果径から果実重を推定する式について球の体積は円柱の体積の2/3であることから, 下記式で求められる. 円柱の体積 :V=2πr 3 球の体積 :V=2/3(2πr 3 )=4/3πr 3 (π: 円周率,r: 球の半径 ) 楕円体はrがxyz 軸で異なるだけで, 基本的に球と同様と考えてよく, 球の体積を求める数式で算出する. しかしながら, 果実は真の楕円形ではないため, 推定体積と実測果重の相関は球の半径 r の算出方法によって異なる結果となった. 3つの推定法の中では, 推定式 1が最も相関係数が高く, 傾きaが最も 1に近く,b(y 切片 ) は最も低かった. このことは, 推定式 1が果径から実測果重を推定するのに最適な算出方法であることを示している. その要因として, 麗紅 は横径/ 縦径 で示す果径指数が 1と扁平であり, 横径 (2w) の寄与度が大きいためと推察される. 果径から果実重を予測する手法として,Kikuchi 6) がナシで 縦径 横径 を, 岩崎 5) がカンキツで π ( 横径 /2) 2 を提案している. また, 田端ら 10) は早生ウンシュウ, 普通ウンシュウおよび夏橙を用いて果径から果実重を予測する手法として, 数種の式を検討した結果, π ( 横径 /2) 2 縦径 が最も精度よく予測できるとして, これを重量発育指数として定義している. 本報告の結果とは推

- 129 - 定式が異なるが, 縦径よりも横径に重み付けをした場合が精度が高くなるという結果は岩崎や田端らの報告と同様である. ところで, 推定体積から実測果重を推定するには比重も考慮すべきである. 井上 4) はウンシュウミカンを使った実験で, 果実が成熟に近づくほど, また浮皮程度が大きいほど比重は低下し, 成熟期の比重は0.85 程度としている. 今回の試験は同一の生育ステージである成熟期の果径から果実重を推定するものであり, また, 供試品種がほとんど浮皮の発生が見られない 麗紅 であることから, 個体間の比重に違いはないと考えられ, 今回の推定式に比重をパラメータとして入れる必要はないと思われる. 2) 摘果指標について摘果時の果径と収穫時の果径の関係について, ウンシュウミカンでの調査事例 7),8),9),11) は多いものの, 中晩生カンキツでは少なく, 田端 橋本 11) が 夏橙 で, 池田ら 3) が 天草 で, 平山ら 2) が 不知火 で報告しているに過ぎない. その平山らの報告によれば, 不知火 では 8 月上旬以降から収穫期の果実の大きさ予測が可能であったとしている. 本報告では暦日ではなく, 満開後日数で評価し, 収穫時横径と相関が高かったのは満開 日以降であった. 本試験の供試品種である 麗紅 の露地栽培での満開期は 5 月 10 日前後なので, 満開 日後は暦日では 8 月上旬となり, 品種は異なるものの平山らの報告と一致する結果となった. 今回, 生育が正常な樹で, 着果量を揃えた条件 で得た 2か年のデータを基に満開 日後および満開 日後における摘果指標を作成したが, 表 3に示すように,2008 年と比べ,2009 年は精度が低かった. このことは, 満開約 日後と収穫時の横径の相関が2008 年のr=0.88( 図 8) に対し, 2009 年はr=0.67( 図 9) と低いことに起因する. つまり, 年次によっては図 3で示した果実横径の増減は満開 日以降の気温, 降水量などの気象条件で変化することが予想され, 予測精度が多少落ちることも考えられる. 3) 果実の大きさと品質について果実の大きさによって品質が異なり, 小さな果実ほど糖度が高く, 酸含量が多かった. この結果は, 原田ら 1) がウンシュウミカンを供試して実施した同様の調査結果と一致する. 果実の品質として, 糖度は高いほどよく, 酸は適度 (1.0~1.3g/ml) に含まれるのがよいとされている. また, 麗紅 は果皮が非常に滑らかなのが特徴であり, 粗滑程度も重要な品質評価の要因となる. これらのことから, 糖度が比較的高く, 酸含量が1.3g/ml 以下で, かつ粗滑程度が低いL 級および2L 級の果実が商品性が最も優れていると判断できる. 以上のことから収穫期に商品性の高いL 級および2L 級になる果実 ( 横径 67~73mm) を生産するための摘果時の横径は, 表 2から満開 日後で 28~33mm, 満開 日後で39~43mmである. また, その指標の適合率は表 3から~% である. 5. 摘要 露地栽培の中晩生カンキツ 麗紅 について, 果径から果実重を測定する手法, 果実肥大特性および商品性の高い果実を生産するための摘果指標の作成に関して試験を行った. その結果, 下記のことが明らかとなった. 1) 下記の式を用いることで, 成熟期の果径から果実重を精度よく推定できる. V=4/3π w 2 h(w: 横径の半径,h: 縦径の半径 ) 2) 満開 日以降の果実横径と収穫時の横径の間 には正の相関があった. そこで, 収穫時に任意の階級の果実を生産するための指標として, 満開 日後と満開 日後の横径を算出した. 3) 果皮が滑らかで, 糖度が高く, 酸含量が高くない果実の階級はL 級および2L 級である. さらにその階級を生産するためには満開 日後で横径が28~33mm, 満開 日後で39~43mmの果実を残せばよく, その適合率は~% と高い.

- 130-6. 引用文献 1) 原田豊, 谷本十四春, 松本武吉 : 温州ミカンの着果状態が果実の品質に及ぼす影響, 香川県農業試験場研究報告,21,36~39(1971) 2) 平山秀文, 藤田賢輔, 磯部暁, 重岡開 : 不知火の品種特性と生産安定技術の確立, 熊本県農業研究センター研究報告,5,125~1(1996) 3) 池田繁成, 松元篤史, 新堂高広, 平野稔邦, 篠倉耕作 : 中晩生カンキツ 天草 の施設栽培における着花 果および果実生育特性, 佐賀県果樹試験場研究報告,16,17~24(2007) 4) 井上宏 : 温州ミカンの果実の肥大と果実比重, 香川大学農学部学術報告,31(2),105~111(1 9) 5) 岩崎藤助 : 柑橘栽培法, 朝倉書店 (1954) 6)Kikuchi,A:Variation in size and form of Pyrus serotina, Botanical Gazette, 79(4), 412-426 (1925) 7) 岸野功 : 温州ミカンの収量予測について ( 果実肥大の推移 ), 九州農業研究,31,166(196 8) 8) 中島利幸, 大垣智昭 : 温州ミカン園の収量構成予測法に関する研究 ( 第 2 報 ) 果実の肥大について, 園芸学会発表要旨, 昭 46 春,32~33(19 71) 9) 野方俊秀, 江口浩, 江原忠彰, 遠田春二 : 温州ミカンの摘果時果径と収穫時果径の関係について, 九州農業研究,31,1~162(1968) 10) 田端市郎, 加藤義雄, 西場静雄 : 柑きつ果実の重量発育指数について, 三重県農業試験場研究報告,1,45~52(1966) 11) 田端市郎, 橋本敏幸 : カンキツ果実の大きさべつ摘果に関する研究, 園芸学会発表要旨, 昭 45 秋,42~43(19) 12) 吉岡照高, 松本亮司, 奥代直巳, 山本雅史, 國賀武, 山田彬雄. 三谷宣仁, 生山巖, 村田広野, 浅田謙介, 池宮秀和, 内原茂, 吉永勝一 : カンキツ新品種 麗紅, 果樹研究所研究報告,8,15~23(2009) Summary Results of examination about technique to estimate fruit weight from fruit diameter, fruit enlargement properties and making of thinning index to produce high-quality fruit of the marketability in medium-late maturing citrus Reikou at open cultivation, follows became clear. 1) It is possible to estimate fruit weight from fruit diameter of the opportune time with high precision by using the following expression. V=4/3π w 2 h (w: radius of a transverse diameter,h: radius of a longitudinal diameter) 2) There was an equilateral association between the fruit transverse diameter after full bloom da ys and the transverse diameter at harvest time. Therefore, an index to produce fruit of any rank at harvest time is calculated with transverse diameter at the after full bloom and days. 3) The rank of the fruit which has smooth rind, high sugar contents and few acid contents, is L and 2L. Furthermore, the technique for product is to leave fruit which transverse diameter 28-33mm after full bloom days and 39-43mm after full bloom days. The conformable rate to that case is high with -%.