平成24年7月x日

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

( 報告様式 4) 16ek h0002 平成 29 年 5 月 22 日 平成 28 年度 委託研究開発成果報告書 I. 基本情報 事 業 名 : ( 日本語 ) 免疫アレルギー疾患等実用化研究事業 ( 免疫アレルギー疾患実用化研究分野 ) ( 英語 )Practical Resear

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が


ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形


ヒト胎盤における

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

Microsoft Word CREST中山(確定版)

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

平成24年7月x日

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

平成14年度研究報告

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

汎発性膿庖性乾癬の解明

検査項目情報 1171 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090. トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブユニット ) トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブ

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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情報提供の例

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

生物時計の安定性の秘密を解明

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

知っておきたい関節リウマチの検査 : 中央検査部医師松村洋子 そもそも 膠原病って何? 本来であれば自分を守ってくれるはずの免疫が 自分自身を攻撃するようになり 体のあちこちに炎 症を引き起こす病気の総称です 全身のあらゆる臓器に存在する血管や結合組織 ( 結合組織 : 体内の組織と組織 器官と器官


図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

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< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

検査項目情報 抗 SS-A 抗体 [CLEIA] anti Sjogren syndrome-a antibody 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5G076 分析物 抗 SS-A 抗体 Departme

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荒瀬尚 ( あらせひさし ) 大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫化学研究室 / 微生物病研究所免疫化学分野 大阪大学の荒瀬尚教授らの研究グループは 自己免疫疾患で産生される自己抗体が 異常な分子複合体 ( 変性蛋白質と主要組織適合抗原との分子複合体 ) を認識することを発見し それが自己免疫疾患の発症に関 与していることを突き止めました < 研究背景 > 自己免疫疾患は 自己に対する抗体等が自己組織を誤って攻撃してしまうことで生じる疾患です 主要組織適合抗原 (MHC) は 非常に多様性に富む分子で それぞれの個人で異なる組み合わせを持っており どの主要組織適合抗原を持っているかで 自己免疫疾患の感受性が決定される最も重要な分子です 主要組織適合抗原はペプチド抗原を T 細胞に提示することから 自己免疫疾患の原因は T 細胞の異常だと長年考えられてきましたが 依然として 自己免疫疾患の原因は明らかになっていません ( 図 1) 関節リウマチは 免疫機構が関節を破壊してしまう自己免疫疾患で 人口の約 1% が罹患する最も頻度の高い代表的な自己免疫疾患です 関節リウマチ患者の血液には 様々な自己抗体が認められます 自己抗体は関節 2) リウマチの発症に直接関与している一方 関節リウマチの診断にも使われています リウマチ因子注は 変性した抗体に対する自己抗体であり 関節リウマチ患者の約 8 割が陽性であることから 50 年以上前から関節リウマチの診断に使われています しかし 関節症状のない他の自己免疫疾患および正常人でも陽性になることがあります また 変性した抗体は生体内に存在しないため リウマチ因子が本来何を認識する自己抗体なのか なぜ関節リウマチで陽性になるかは不明でした 一方 細胞内では正常蛋白質ばかりでなく うまく折りたためられなかった変性蛋白質も常に作られています しかし そのような変性蛋白質は細胞内で速やかに分解されてしまい細胞外に運ばれることはありません ところが 本研究によって細胞内の変性蛋白質が自己免疫疾患に感受性の主要組織適合抗原と結合すると 変性蛋白質が主要組織適合抗原によって細胞外に輸送され それが異物として自己抗体の標的になることが判明しました ( 図 2) 1

< 研究内容 > 主要組織適合抗原がリウマチ因子の変性抗体の認識に関わっているかを調べるために ヒト抗体重鎖遺伝子と共にヒト主要組織適合抗原クラス II 遺伝子をヒト細胞に遺伝子導入しました 抗体は軽鎖と重鎖から成るため 重鎖のみでは変性して細胞外に輸送されることはありません ところが 主要組織適合抗原が存在すると 抗体重鎖が主要組織適合抗原と結合して細胞表面に出現することが判明しました さらに この変性抗体重鎖と主要組織適合抗原複合体は関節リウマチ患者血液中の自己抗体に認識されることが判明しました ( 図 3) さらに多くの関節リウマチ患者の血液を調べてみると 今まで診断に使われてきたリウマチ因子の値と変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体に対する抗体量は強く相関しました ( 図 4) ところが 関節症状のない他の自己免疫疾患および正常人血清を解析してみると リウマチ因子陽性の血液でも変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体に対する抗体は認められませんでした 以上より 今まで診断に使われてきたリウマチ因子と比べて 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体は 関節リウマチ患者に特異的な自己抗体の標的であることが判明しました 次に変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が 実際に関節リウマチ患者の関節滑膜に存在するかどうかを関節 3) リウマチ患者の滑膜組織を用いて PLA 法注で解析しました その結果 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が関節リウマチ患者の関節滑膜に存在するが 自己免疫疾患ではない変形性関節症の患者の関節滑膜には存在しないことが判明しました ( 図 5) 従って 変性抗体/ 主要組織適合抗原複合体が関節リウマチ患者の関節滑膜で産生され それが自己抗体の標的になっていると考えられました 最後に 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が関節リウマチの発症に関わっているかを調べました 関節リウマチの罹りやすさは主要組織適合抗原クラス II の型 ( アリル ) によって決定されることが知られています 例えばヒト主要組織適合抗原クラス II の一つである HLA-DR4 を持っているヒトは HLA-DR3 を持っているヒトより約 1 0 倍以上も関節リウマチに罹りやすくなります そこで 抗体重鎖と種々の HLA-DR との複合体に対する自己抗体の結合性を解析しました その結果 それぞれの HLA-DR を持っているヒトの関節リウマチの罹りやすさ ( オッズ比 ) と変性抗体 /HLA-DR 複合体に対する自己抗体の結合性は 非常に高い相関を示すことが判明しました ( 相関係数 0.81 危険率 0.000046)( 図 6) つまり 関節リウマチに罹りやすい主要組織適合抗原を持っているヒトは 自己抗体の標的抗原が産生されやすいことになります 以上の結果より 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が自己抗体の標的として関節リウマチの発症に関わっていると考えられました < 今後の期待 > 本研究により 変性蛋白質と主要組織適合抗原との分子複合体が自己抗体の標的として 関節リウマチの発症に関わっていることが明らかになりました 他の自己免疫疾患においても同様に変性蛋白質と主要組織適合抗原との複合体が自己抗体の標的になっていると思われます ( 論文投稿中 ) 従って 変性蛋白質/ 主要組織適合抗原複合体は様々な自己免疫疾患の治療薬開発のための標的分子だと思われます また 変性蛋白質 / 主要組織適合抗原複合体に特異的な自己抗体が産生されることから 主要組織適合抗原と変性蛋白質との複合体は自己抗体の検出にも有用であり 自己免疫疾患の診断にも役立ちます 今後 様々な自己免疫疾患での変性蛋白質 / 主要組織適合抗原複合体の研究を進めることによって 自己免疫疾患の病因解明が期待されます 2

< 用語解説 > 注 1) 主要組織適合抗原 (Major Histocompatibility Complex, MHC; Human Leukocyte Antigen, HLA) 主要組織抗原は非常に多様性に富む分子であり 基本的に全てのヒトが異なる主要組織適合抗原を持っている T 細胞にペプチド抗原を提示する ( 図 1) ことで 免疫応答の中心を担っている分子である クラス I とクラス II があり クラス II はヘルパー T 細胞に抗原を提示することで B 細胞の抗体産生に関与していると考えられている また ヒトのクラス II は HLA-DR とも呼ばれている 一方 主要組織適合抗原は 以前より自己免疫疾患の発症に最も関与した分子であることが知られており 最近の全ゲノム解析によっても 主要組織抗原が最も強く自己免疫疾患の感受性に関与した遺伝子であることが確認された しかし なぜ特定の主要組織適合抗原を持っていると特定の自己免疫疾患になりやすいかは 依然として明らかになっていなかった 注 2) リウマチ因子 最も昔から知られている自己抗体の一つであり 変性した抗体に対する自己抗体である 約 8 割の関節リウマチの患者で陽性になり 現在でも関節リウマチの検査に使われている しかし 関節症状のない他の疾患や健常人でも陽性になることがある しかし 変性した抗体は通常生体内に存在しないため どのような抗原がリウマチ因子を誘導するのか なぜ 関節リウマチの陽性率が高くなるのかが明らかになっていない 注 3) PLA 法 (Proximity Ligation Assay) 組織や細胞内での分子間相互作用を検出する方法 40nm 以下の分子間の近接を検出することができ る < 特記事項 > 本研究成果は 米国の科学雑誌 米国科学アカデミー紀要 ( 日本時間 2 月 25 日午前 5 時 ) にオンライン掲載されます 本研究は 独立行政法人科学技術振興機構 (JST) の戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構と治療技術 ( 研究総括 : 菅村和夫宮城県立病院機構理事長 ) 研究課題名 : ペア型レセプターを標的とした免疫 感染制御技術の開発 研究代表者: 荒瀬尚 ( 大阪大学微生物病研究所教授 ) の一環として行いました また 本研究は 大阪大学 京都大学 北海道大学 九州大学 理化学研究所 国立国際医療センター カリフォルニア大学との共同で行ったものです 3

< 掲載論文 雑誌 > Hui Jin, Noriko Arase, Kouyuki Hirayasu, Masako Kohyama, Tadahiro Suenaga, Fumiji Saito, Kenji Tanimura, Sumiko Matsuoka, Kosuke Ebina, Kenrin Shi, Noriko Toyama-Sorimachi, Shinsuke Yasuda, Tetsuya Horita, Ryosuke Hiwa, Kiyoshi Takasugi, Koichiro Ohmura, Hideki Yoshikawa, Takashi Saito, Tatsuya Atsumi, Takehiko Sasazuki, Ichiro Katayama, Lewis L. Lanier, and Hisashi Arase. Autoantibodies to IgG/HLA class II complexes are associated with rheumatoid arthritis susceptibility. Proceedings of the National Academy of Sciences USA (PNAS). 4

< 図と解説 > 図 1 従来考えられてきた自己免疫疾患の発症機序自己免疫疾患に最も強く関与している主要組織適合抗原は T 細胞に抗原を提示することから 自己免疫疾患の原因は T 細胞の異常が原因であると考えられてきた しかし 自己応答性 T 細胞を活性化するペプチド抗原 ( 赤丸 ) や自己応答性 B 細胞を誘導する自己抗原 ( オレンジ色 ) は明らかでなかった 図 2 今回明らかになった新たな自己免疫疾患の発症機序通常は細胞内で生じた変性蛋白質は速やかに分解され 細胞外に排出されることはない ところが 細胞内の変性蛋白質が 自己免疫疾患に罹りやすい型の主要組織適合抗原に結合してしまうと それらは分解されずに主要組織適合抗原によって細胞外に運ばれ その複合体が異物として自己抗体の標的分子になっていることが明らかになった 5

図 3 関節リウマチ患者の自己抗体は 主要組織適合抗原によって細胞外へ輸送された変性抗体重鎖を認識する 抗体は重鎖と軽鎖から構成されるが 重鎖のみだと構造異常のために 分泌もされないし 細胞表面にも検出されない ところが 細胞内の変性抗体重鎖が主要組織適合抗原クラス II (MHC クラス II) と結合すると 細胞外に輸送されることが判明した ( 左図 ) さらに 主要組織適合抗原によって 細胞外に輸送された変性抗体は関節リウマチ患者の自己抗体に認識された ( 中央図 ) 以上より 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体は自己抗体の標的分子であることが明らかになった ( 右図 ) 図 4 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体は 関節リウマチで産生される自己抗体の特異的な標的分子である 関節リウマチにおいては 酵素で処理した抗体に対する自己抗体として測定されるリウマチ因子 ( 縦軸 ) と変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体に対する抗体量 ( 横軸 ) は高い相関性を示した ところが 関節炎症状のない他の自己免疫疾患や健常人では 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体に対する抗体は リウマチ因子が陽性のヒト ( 矢印 ) でも認められなかった 従って 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体は関節リウマチに特異的な標的分子であることが明らかになった 6

図 5 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が 関節リウマチ患者の関節滑膜に認められる 関節リウマチ患者の関節滑膜に変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が存在するかどうかを PLA 法で解析した 関節リウマチ患者の関節滑膜には変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体 ( 赤色 ) が認められるが ( 左図 ) 自己免疫疾患ではない変形性関節症患者の関節滑膜には認められない ( 右図 ) 関節リウマチ患者の滑膜で産生された変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が自己抗体の標的として関節破壊に関与していると考えられた 図 6 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体に対する自己抗体の結合は関節リウマチの感受性 ( 罹りやすさ ) と強い相関を示す 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体に対する関節リウマチ患者の自己抗体の結合性 ( 縦軸 ) は 主要組織適合抗原のクラス II である各 HLA-DR アリル ( 図中の番号 ) による関節リウマチの感受性 ( 罹りやすさ )( 横軸 ) と 高い相関を示すことが判明した このことから 変性抗体 / 主要組織適合抗原複合体が関節リウマチの病態に直接関与していると考えられる 7