ギリシャ財政危機の経緯と最近の状況 平成 22 年 7 月 2 日内閣府
ギリシャ財政危機 1 1. ギリシャ危機の経緯 29 年 1 月 政権交代新民主主義党 ( 中道右派 ) 全ギリシャ社会主義運動党 ( 左派 ) 財政統計データの大幅下方修正財政収支 GDP 比 28 年 5.% 7.7% 29 年 3.7% 12.5% ギリシャの財政に対する市場の不信の高まり 29 年 11 月 ドバイ ショック 市場がソブリン リスクを強く意識するように 29 年 12 月 ギリシャ国債の格付け引下げ ギリシャの財政に対する市場の懸念が更に高まる 29 年 11 月 ギリシャ政府が累次の財政再建策を発表 ~21 年 3 月 EUもEU 首脳会合等で 欧州の金融安定のために必要な場合には断固とした協調行動を取る 等のメッセージを発出 市場のギリシャへの懸念はおさまらず ( 長期金利 CDS) 4 月 11 日 IMF 融資とユーロ圏参加国による支援枠組みの合意 4 月 23 日 ギリシャ政府が正式に支援要請 (bps) 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 (bps) 11 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 ドイツ国債 (1 年物 ) 利回りとのスプレッド 9 月 15 日リーマン ブラザーズ破たん 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 28 9 1 9 月 15 日リーマン ブラザーズ破たん ( 備考 ) ブルームバーグより作成 ソブリン CDS 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 28 9 1 7/19 時点 ギリシャ 778. 7/19 時点 ギリシャ 814. 1
1,1 億ユーロの支援策 5 月 2 日 ユーロ圏財務大臣会合において ギリシャ政府からの要請を踏まえ ユーロ圏参加国 ECB 及び IMF は ギリシャの財政再建を条件に 3 年間で 1,1 億ユーロのギリシャ支援に合意 ギリシャ財政危機 2 ( 参考 1)1,1 億ユーロの内訳 : ユーロ圏参加国が 8 億ユーロ IMF による融資が 3 億ユーロ ( 参考 2) 最初の融資は 85 億ユーロ相当のギリシャ国債償還日である 5 月 19 日までに実施 ギリシャ政府は IMF から 55 億ユーロ ユーロ圏参加国から 145 億ユーロの合計 2 億ユーロを受け取り 7,5 億ユーロの基金 5 月 9 日 ECOFIN(EU 経済財務相理事会 ) において 新設の欧州金融安定化メカニズム ( ユーロ圏安定基金 ) への総額最大 7,5 億ユーロの支援に合意 ( 参考 1) ユーロ圏安定基金内訳 ( 見込み ): EU6 億ユーロ ユーロ圏参加国等による保証 4,4 億ユーロ IMF による 2,5 億ユーロ ( 参考 2) 本件支援は 欧州条約第 122 条第 2 項に基づく財政支援で IMF 同様の厳格なコンディショナリティの下で融資を行うとしている ECB( 欧州中央銀行 ) の対応 5 月 1 日 機能不全に陥った国債及び社債の流通市場への介入を発表 各国中央銀行の協調行動 5 月 1 日 各国中央銀行 ( カナダ ECB 米国 スイス 日本 ) は 米ドルスワップ取極を再締結 米ドル資金供給オペレーションを実施 2 (bps) 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 (bps) 11 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 ドイツ国債 (1 年物 ) 利回りとのスプレッド イタリア ポルトガル アイルランド ベルギー スペイン ギリシャ 1 2 3 4 5 6 7 21 フランス アイルランド ポルトガル 日本 ギリシャ イタリア スペイン オーストリア 1 2 3 4 5 6 7 21 ( 備考 ) ブルームバーグより作成 7/19 時点 ギリシャ 778. アイルランド 283.9 ポルトガル 282.9 スペイン 175.7 イタリア 14.2 7.3 ベルギー 66.3 ソブリン CDS( 先進国でソブリン CDS の高い上位 8 か国 ) 7/19 時点 ギリシャ 814. ポルトガル 288.7 アイルランド 26. スペイン 219.6 イタリア 173.1 ベルギー 116. オーストリア 92.1 日本 84.7
ギリシャ財政危機 3 6 4 2-2 -4-6 ギリシャの財政 :214 年までの 5 年間で GDP 比 11% の財政再建 ギリシャの実質 GDP 成長率 ( 前期比年率 %) 8 21 年 Q1 3.9% Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 ( 期 ) 27 8 9 1 29 21 211 212 213 214 実質 GDP 成長率 2. 4. 2.6 1.1 2.1 2.1 一般政府財政収支 GDP 比 13.6 8.1 7.6 6.5 4.8 2.6 一般政府債務残高 GDP 比 115 133 145 149 149 146 ( 備考 ) ギリシャ政府 IMF より (%) 14 ギリシャの失業率 ( 備考 ) ユーロスタットより作成 ( 備考 )1. ギリシャ政府統計局より作成 2. 数値は 原数値 ( 季節調整値ではない ) 12 1 8 6 4 21 年 4 月 11.9% 135791113579111357911134 27 8 9 1 懸念 1 ギリシャの財政再建の実現可能性 ギリシャ世論調査結果 (5 月 4 日 ) (1) 新たな財政再建措置賛成 23% 反対 66% (2) 新たな財政再建措置は唯一の手段か唯一の手段 32% 唯一ではない 59% (3) パパンドレウ首相に対する評価肯定的 36% 否定的 62% (4) ストやデモを受容するか受容する 68% 受容できない 28% 懸念 2 今後の国債償還スケジュール ( 億ユーロ ) 8 7 683 6 5 415 4 314 317 316 3 268 222 247 2 153 73 1 98 21 11 12 13 14 15 16 17 18 19 22 年 以降 ( 備考 )1. ブルームバーグより作成 2.21 年 7 月 1 日時点 懸念 3 コンテイジョンのリスク次ページ参照 3
ギリシャ財政危機 4 財政状況 格付け 主要格付け機関による格付け 一般政府財政収支 GDP 比 ( 備考 ) ブルームバーグ ユーロスタット OECD より作成 ギリシャ国債の保有主体 (1 年 4 月時点 ) 一般政府債務残高 GDP 比 ムーテ ィース S&P フィッチ 29 29 ポルトガル A1 A- AA- 9.4 76.8 イタリア Aa2 A+ AA- 5.3 115.8 アイルランド Aa2 AA AA- 14.3 64. ギリシャ Ba1 BB+ BBB- 13.6 115.1 スペイン Aaa AA AA+ 11.2 53.2 ベルギー Aa1 AA+ AA+ 6. 96.7 Aaa AAA AAA 11.5 68.1 ドイツ Aaa AAA AAA 3.3 73.2 フランス Aaa AAA AAA 7.5 77.6 日本 Aa2 AA AA- 7.2 192.9 アメリカ Aaa AAA AAA 11. 83. 各国銀行のPIIGS 諸国向け対外与信残高 ( 億ドル ) 1 9 8,948 8 ギリシャ向け イタリア向け 7,38 アイルランド向けポルトガル向け 7 スペイン向け 6 5 4 4, 3 2,433 1,896 2 1,479 1,18 1 1,155 フランス ドイツ オランダアメリカベルギースペイン 日本 ( 億ドル ) フランスドイツ オランダアメリカベルギースペイン 日本 ポルトガル向け 449 474 256 141 47 59 85 43 イタリア向け 578 1897 765 691 532 287 472 544 その他 5% ベネルクス三国 5% イタリア 6% ドイツ / スイス / オーストリア 9% スウェーデン / ノルウェー / デンマーク 4% フランス 11% アメリカ 3% ( 備考 ) ギリシャ国債管理庁による アジア 3% スペイン / ポルトガル 2% ギリシャ 29% / アイルランド 23% 4 アイルランド向け 521 1838 1727 282 571 346 146 217 ギリシャ向け 788 45 154 122 166 47 12 67 スペイン向け 2112 238 11 1197 58 278-284 合計 8,948 7,38 4, 2,433 1,896 1,18 1,479 1,155 与信残高全体に占めるギリシャの割合 (%) 与信残高全体に占める PIIGS 諸国の割合 (%) 2.1 1.4.4.8.7 1.1.1.3 24.3 21.6 11.2 15.5 7.7 24. 1.9 5.1 ( 参考 ) 銀行総資産額 ( 億ドル ) 53,465 51,924 42,357 15,481 116,68 8,82 24,68 86,35 ( 参考 )PIIGS 諸国向け与信 対銀行総資産比 16.7 13.6 9.4 15.7 1.6 12.6 6.1 1.3 ( 備考 )1.BIS より作成 2.29 年 12 月末時点 3. ECB 他 各国統計より作成 民間銀行総資産額を 9 年 12 月末の為替レートでドル建て換算
ハンガリーの財政不安について 1 4 月 25 日 ハンガリーで総選挙が行われ 中道右派の最大野党ハンガリー市民連盟 (FIDESZ) が勝利し 8 年ぶりの政権交代 ( オルバン首相就任 ) 経 6 月 4 日 オルバン首相のシーヤート報道官が デフォルトに関する観測が 誇張だとはまったく考えていない と発言 上記発言を受けて 6 月 4 日 ハンガリーの通貨フォリントが大幅下落 また これをきっかけとした他の欧州諸国の財政問題に対する懸念の高まり 財政悪化国への貸出が多い欧州金融機関の経営悪化懸念から ユーロは大幅下落 6 月 8 日 ECOFIN(EU 経済財務相理事会 ) において 統計に関する規則の強化について合意 統計の質を検証するため ユーロスタット ( 欧州統計局 ) の役割を強化することとなった 6 月 8 日 レーン欧州委員が ブルガリアの財政統計に懸念を表明 緯 (bps) 6 5 4 3 2 1 ( 備考 ) ブルームバーグにより作成 ソブリン CDS( 中 東欧 ) ポーランドルーマニアリトアニアエストニアスロベニア チェコブルガリアラトビアスロバキアハンガリー 1 2 3 4 5 6 7 21 7/19 時点 ルーマニア 381.4 ハンガリー 372.3 ラトビア 357.5 ブルガリア 344.8 リトアニア 268.3 ポーランド 144.4 エストニア 17.1 チェコ 97.6 スロバキア 88.2 スロベニア 82.5 5
ハンガリーの財政不安について 2 中 東欧諸国への貸出が多いのは オーストリア ドイツ イタリアの金融機関 このため ヨーロッパの金融システムが不安定化する懸念 特にオーストリアの金融機関は歴史的な経緯もあり ハンガリーを始めとする中 東欧諸国への貸出が多く 対外与信残高の約 4 割を占めている また スウェーデンの金融機関は 地理的な関係もあり バルト三国への貸出が多い 日本の金融機関の中 東欧諸国向けの対外与信残高は 79 億ドルと少ない ( 億ドル ) 2,5 中 東欧諸国に対する欧州金融機関の対外与信残高 2, 1,5 1, 2,67 ハンガリー向け ブルガリア向け スロバキア向け 1,313 1,32 スロベニア向け エストニア向け チェコ向けラトビア向け 1,22 931 リトアニア向け 737 ルーマニア向け 5 ポーランド向け 221 89 79 72 オーストリアイタリアドイツフランスベルギースウェーデンオランダアメリカ日本スペイン 537 対外与信残高全体に占めるハンガリーの割合 (%) 対外与信残高全体に占める中 東欧諸国の割合 (%) 7.1 2.6 1..3 4.2.1.2.2.1.1.1 39.5 13.7 4. 2.8 21.9 1.4 3.4.9.3.3.5 ( 参考 ) 銀行総資産額 ( 億ドル ) 7,258 26,169 51,924 53,465 8,82 9,7 15,481 116,68 42,357 86,35 24,68 ( 参考 ) 中 東欧諸国向け与信対銀行総資産比 (%) 28.5 5. 2.5 1.9 11.5 7.6 3.5.2.2.1.3 ( 備考 )1.BIS 国際与信統計 より作成 2.29 年 12 月末時点の数値 3.ECB 他 各国統計より作成 民間銀行総資産額を 9 年 12 月末の為替レートでドル建て換算 6
ギリシャ等のソブリン リスクがヨーロッパの金融システム不安に拡大 (bp) 7 6 5 4 3 2 CDS( 銀行セクター ) の推移 (28 年以降 ) アメリカ ユーロ圏 EU ストレステストの実施方法の概要を発表 7 月 7 日 欧州銀行監督委員会 (CEBS) は EU ストレステスト実施方法の概要を発表 これによると 91 行を対象にストレステスト ( 健全性審査 ) を実施 ストレステストの結果は 総計と個別行について 7 月 23 日に発表予定 対象行の 91 行は EU 域内の金融機関の 65% ( 総資産ベース ) に相当 大手銀行 ドイツの州立銀行 スペインの貯蓄銀行 ( カハ ) を含む ストレステストで使う悪条件シナリオでは EU の GDP が 向こう 2 年間で 欧州委員会の成長見通しより 3% 悪化することを想定するとともに 5 月上旬よりも国債価格が下落することを想定している 1 ( 参考 ) 欧州委員会春季見通し (21 年 5 月発表 ) EU の実質 GDP:21 年 1.% 増 211 年 1.7% 増 1 2 3 4 5 6 7 8 9 11112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 11112 1 2 3 4 5 6 7 28 9 1 ( 備考 ) データストリームより作成 7 ( 備考 )CEBS 資料より作成
6 4 2-2 -4-6 -8-1 -12-14 ユーロ圏 1 年 1Q.8% ドイツ 1 年 1Q.6% フランス 1 年 1Q.5% 1 年 1Q 1.3% ギリシャ 1 年 1Q 3.9% ポルトガル 1 年 1Q 4.3% アイルランド 1 年 1Q 11.1% イタリア 1 年 1Q 1.7% スペイン 1 年 1Q.3% ドイツ フランス ユーロ圏 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 27 8 9 1 ( 備考 ) ユーロスタット ドイツ連邦統計局 INSEE( 仏国立統計経済研究所 ) 統計局 ギリシャ政府統計局より作成 ヨーロッパ経済 失業率が高水準であるなど引き続き深刻な状況にあるが 景気は下げ止まっている 先行きについては 基調としては緩やかな持ち直しに向かうと見込まれる ただし ギリシャ財政危機により 他のヨーロッパ諸国の財政状況やヨーロッパの金融システムに対する懸念が高まり 金融資本市場の変動が更に深刻化するリスクに留意する必要がある また 新興国向け貸出の不良債権化による信用収縮や自動車買換え支援策の反動の広がり 雇用の悪化等により 景気が低迷を続けるリスクがある (%) 失業率 ヨーロッパ主要国の実質 GDP 成長率 2 ( 前期比年率 %) 8 EU 向け輸出の GDP 比 (29 年 ) 日本 :1.6% 中国 :4.8% アメリカ:1.5% 韓国 :6.% タイ :6.8% ( 期 ) 8 18 16 14 12 1 8 6 4 ギリシャ 4 月 11.9% ポルトガル 5 月 1.9% アイルランド 5 月 13.3% イタリア 5 月 8.7% フランス スペイン ドイツ 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 27 8 9 1 ( 備考 )1. ユーロスタット ( ユーロ圏 ドイツ フランス スペイン ) 統計局 ギリシャ政府統計局より作成 2. ギリシャの数値は 原数値 ( 季節調整値ではない ) 2 ギリシャの数値は原数値 ( 季節調整値ではない ) IMF (1 年 7 月 8 日 ) OECD (1 年 5 月 26 日 ) 欧州委員会 (1 年 5 月 2 日 ) ユーロ圏 国際機関等の見通し ( 前年比 %) 21 年 11 年 ユーロ圏 1. 1.3 ドイツ 1.4 1.6 フランス 1.4 1.6 1.2 2.1 ユーロ圏 1.2 1.8 ドイツ 1.9 2.1 フランス 1.7 2.1 1.3 2.5 ユーロ圏.9 1.5 ドイツ 1.2 1.6 フランス 1.3 1.5 1.2 2.1 ( 備考 )IMF World Economic Outlook Update OECD Economic Outlook 87 欧州委員会 European Economic Forecast Spring 21 より作成 スペイン 5 月 19.9% ユーロ圏 5 月 1.% フランス 5 月 9.9% 5 月 7.8% ドイツ 5 月 7.%
ユーロ ( 対ドルレート ) の推移 ユーロの長期的な動き ( ドル / ユーロ ) ( 円 / ユーロ ) ( 円 / ドル ) 1.7 18 14 参考 : 円ドルレート ( 右目盛 ) 1ユーロ=1.2942ドル円安 1ユーロ=112.19 円 ユーロ史上最高値 (7/19) (7/19) 1.6 1ユーロ=1.638ドル (28 年 7 月 15 日 ) ユーロ史上最安値 1ユーロ=.823ドル 16 1.5 (2 年 1 月 26 日 ) 円高 13 ユーロ高 円の推移 1.4 12 1.3 ユーロ安 14 11 1.2 12 1.1 1 1. ドルユーロレート 1 円ユーロレート 9.9.8 8 8 1999 2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1999 2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 ( 備考 ) ブルームバーグより作成 ( 備考 ) ブルームバーグより作成 9
6 月の月例経済報告 世界の景気は 景気刺激策の効果もあって 緩やかに回復している 中国 ( 世界 GDP の 8.5%) アメリカ (24.6%) インド (2.1%) 政策効果もあり 緩やかに回復している 韓国 (1.4%) 拡大している EU(28.4%) 回復している 日本 (8.7%) 台湾 (.7%) 下げ止まり 景気は 着実に持ち直してきており 自律的回復への基盤が整いつつあるが 失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある ( 注 ) 各国の景気の現状について その方向性に着目して相互関係を模式化したものである