図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子


60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 DNA の量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明 - 植物の核内倍加は染色体のセット数を変えずに DNA 量を増やすメカニズムが働く - 生命の設計図である DNA が 細胞の中で増えたらどうなるので

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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共生菌が植物と共存するメカニズムを解明! ~ 共生菌を用いた病害虫防除技術への応用にも期待 ~ 名古屋大学大学院生命農学研究科の竹本大吾准教授と榧野友香大学院生 ( 現 : 横浜植物 *1 防疫所 ) らの研究グループは 共生菌が植物と共存するためのメカニズムの解明に成功しました 自然界において 植

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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コントロール SCL1 を散布した葉 萎 ( しお ) れの抑制 : バラの葉に SCL1 を散布し 葉を切り取って 6 時間後の様子 気孔開口を抑制する新しい化合物を発見! 植物のしおれを抑える新たな技術開発に期待 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM) の木下俊則

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

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回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS) 研究課題別中間評価報告書 1. 研究課題名 テーラーメード育種と栽培技術開発のための稲作研究プロジェクト (2013 年 5 月 ~ 2018 年 5 月 ) 2. 研究代表者 2.1. 日本側研究代表者 : 山内章 ( 名古屋大学大学

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

( 写真 ) 左 : キャッサバ畑 右上 : 全体像 右下 : 収穫した芋

の基軸となるのは 4 種の eif2αキナーゼ (HRI, PKR, または ) の活性化, eif2αのリン酸化及び転写因子 の発現誘導である ( 図 1). によってアミノ酸代謝やタンパク質の折りたたみ, レドックス代謝等に関わるストレス関連遺伝子の転写が促進され, それらの働きによって細胞はス

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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生物時計の安定性の秘密を解明

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2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

報道関係者各位 平成 29 年 2 月 23 日 国立大学法人筑波大学 高効率植物形質転換が可能に ~ 新規アグロバクテリウムの分子育種に成功 ~ 研究成果のポイント 1. 植物への形質転換効率向上を目指し 新規のアグロバクテリウム菌株の分子育種に成功しました 2. アグロバクテリウムを介した植物へ

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チロシンリン酸化によるジベレリン応答の新しい制御機構を発見 高塩濃度環境下で植物種子が発芽できない機構が明らかに 概要 プロテオサイエンスセンター根本圭一郎特定研究員 ( 現 : 岩手生物工学研究センター主任研究員 ) 澤崎達也教授らの研究グループは 主要植物ホルモンであるジベレリンの応答がチロシン

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

博士学位論文審査報告書

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

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平成24年7月x日

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

研究最前線 CSRS GD 乾燥に耐える植物の新戦略を発見 GD GD 20µm 1 2 ABA GD PP2C PP2C SnRK2 GD GD RIKEN NEWS 2018 September

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 6 月 28 日 独立行政法人理化学研究所 植物の耐病性の複雑な制御メカニズムを解明 - 病原菌と環境ストレスに対抗する複雑な生存戦略が存在 - 植物は 生育環境の変動や病原菌の感染 昆虫や草食動物による食害など常にさまざまなストレスにさらされています これらのストレスに打ち勝つために 植物は個々のストレスに対する独自の自己防御機構を発達させてきました 環境の変動 ( 乾燥 低温 高塩濃度など ) を感知するとアブシジン酸 (ABA) を 病原菌に感染するとサリチル酸 (SA) を 虫の食害などを受けるとジャスモン酸 (JA) を生合成し これらの環境ストレスに耐えるためのタンパク質の合成などを行います このように 防御機構を発動するためには 植物ホルモンと呼ばれる低分子化合物がシグナル伝達物質として重要な役割を果たします 植物は一度病原菌に感染すると 次の感染に備えて全身で病害耐性機構を発動するという防御機構を持っています その 1 つである全身獲得抵抗性 SAR は サリチル酸の生合成を介して誘導されます この SAR は薬剤で人工的に誘導することが可能であり 実際に農業において病害予防剤として利用されています しかし 冷害時などには SAR 誘導剤の効果が十分に発揮されないことから 環境要因が抵抗性誘導に何らかの影響を及ぼしているのではないかと推察されていました 理研基幹研究所仲下植物獲得免疫研究ユニットを中心とした研究グループでは SAR 誘導シグナルがアブシジン酸シグナルにより抑制されることを明らかにしました 環境ストレスにさらされた植物は 病害抵抗性の誘導が起きにくく 逆に耐病性が誘導された植物では 環境ストレスに弱くなる傾向を見いだしました これは 植物が複数のストレスにさらされたとき 緊急性のあるストレスに対して優先的に適応し ほかのストレス耐性機構を抑制することを示しています これは 固定生活を営み周辺環境に適応していかなければならない植物が持つ より効率的にストレスに対応していくための生存戦略と考えられます 今後 植物の免疫力を効果的に利用する環境調和型の病害防除システムが確立できると期待されます

図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

報道発表資料 2008 年 6 月 28 日 独立行政法人理化学研究所 植物の耐病性の複雑な制御メカニズムを解明 - 病原菌と環境ストレスに対抗する複雑な生存戦略が存在 - ポイント 環境要因が植物の獲得免疫機構を抑制する新メカニズムを発見 生物/ 非生物ストレス応答で 植物ホルモンのシグナルネットワークが働く 殺菌剤に依存しない環境低負荷型の病害防除システム構築に貢献独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 植物の病原菌感染 ( 生物ストレス ) に対する免疫機構である 全身獲得抵抗性 (systemic acquired resistance:sar) 1 が乾燥 塩害などの環境ストレス ( 非生物ストレス ) によって弱められ 逆に全身獲得抵抗性を既に獲得していると環境ストレスへの応答が低下するという 複雑なストレス耐性制御機構を持つことを初めて明らかにしました 理研基幹研究所 ( 玉尾皓平所長 ) 仲下植物獲得免疫研究ユニットの安田美智子協力研究員 仲下英雄ユニットリーダーと理研植物科学研究センター ( 篠崎一雄センター長 ) 公立大学法人福井県立大学 ( 祖田修学長 ) 国立大学法人東京大学( 小宮山宏学長 ) などとの共同研究による成果です 植物は 病原菌に感染すると サリチル酸や抗菌性タンパク質などを体内に蓄積し 病原菌の 2 次感染を抑制します このサリチル酸をシグナルとする抵抗性は全身獲得抵抗性と呼ばれ 植物独自の獲得免疫機構として盛んに研究されています 実際に 作物を病気から守る目的で 農業に活用されています 研究チームは 乾燥 低温 塩害などの環境ストレスへの応答に重要な役割を果たすアブシジン酸が サリチル酸の合成遺伝子やシグナル応答遺伝子の機能を低下させ SARの誘導を抑制して 結果として病原菌の感染に対する抵抗性が弱まることを明らかにしました 一方 SARが既に誘導された植物では 環境ストレスへの応答能が低下することも見いだし これら両者の間に相互抑制的なシグナルのクロストーク 2 が存在することを突き止めました 本研究結果から 植物が生物 / 非生物ストレスの両方を受けた時に生体内の限られたエネルギーで効率よく適応するために このような相互抑制的なメカニズムを備えていると推定されます 本研究成果は 米国の科学雑誌 The Plant Cell ( 6 月号 ) に掲載されるに先立ち オンライン版 (6 月 27 日付け : 日本時間 6 月 28 日 ) に掲載されます なお 本成果は The Plant Cell 巻頭で編集者が紹介する話題の成果の1つとして取り上げられます 1. 背景固定生活を営み生育場所から移動できない植物は さまざまな外界からのストレスを常に受けるため 動物とは異なる独自の自己防御機構を備えています 病原体の攻撃などの生物ストレスに対して 動物のように免疫担当細胞を持たない植物で

は 個々の細胞が病原菌に対する抵抗性を発動させ そのシグナルが全身に伝えられ 2 次感染に備えます また 乾燥 低温 塩害などの環境変動から受ける非生物的ストレスに対して 植物は環境に適応するための保護タンパク質などを生産し これらのストレスに適応します これらの生物 / 非生物ストレスに対応するためには 植物ホルモン 3 のような低分子化合物をシグナル伝達物質として全身に情報を伝えて さまざまなストレスに対する応答システムを発動させて自身を防御しています 壊死病斑を形成する病原菌が感染して 細胞の壊死を伴う病徴が現れる際には 一種の植物ホルモンであるサリチル酸が合成され これがシグナル物質として働いて 全身獲得抵抗性 (SAR) が誘導されます ( 図 1) このような全身に誘導される病害抵抗性は 初めに感染した特定の病原体に対してだけではなく 多種多様な病原体の感染に対して防御効果を持つという特徴があり 病原微生物の脅威にさらされることが多い環境のなかで身を守る植物独自の免疫機構といえます この特徴は 農業での利用価値が高いため 基礎 応用の両面から盛んに研究が進められてきています 基礎研究としては SAR が起きるメカニズムに関する研究が進められ サリチル酸合成が誘導される機構や サリチル酸の下流のシグナル伝達機構が徐々に明らかになっています また 応用研究として このような SAR を活性化する農薬が開発されてきました 日本では 約 30 年も前から SAR を誘導する薬剤が 農薬として水田で利用されてきました SAR 誘導剤は それ自体には抗菌作用がないため 生態系に影響を与えない環境に優しい農薬であり さらに植物の複雑な病害抵抗性機構を活性化するので耐性菌が出現しない という効果もあります しかし このような SAR 誘導剤が使用されていても 冷害時などのように植物の生育に影響を及ぼす環境ストレス下では 効果が十分に発揮されず 病害を被ることがあります この理由は 植物体が弱るためと考えられてきましたが そのメカニズムは明らかになっていませんでした 2. 研究手法と成果 (1) 環境ストレスの SAR への影響研究チームは モデル実験植物であるシロイヌナズナを用いて SAR に及ぼす環境ストレスの影響を詳細に解析しました 通常 SAR は 病原菌の感染によって誘導されますが 本研究では SAR 誘導経路を活性化する化合物 ( 農薬として利用されている化合物の類縁体など ) を使用して SAR を誘導しました これは 病原菌感染時に植物で起こるさまざまな生理現象の影響を除外するためで これにより SAR にかかわる複雑な遺伝子発現の制御だけを観察できるようになります 今回 SAR 誘導化合物として サリチル酸合成の上流シグナルを活性化する BIT 4 と下流シグナルを活性化する BTH 4 を使用し SAR 誘導経路をより詳細に観察しました まず 環境ストレスを受けた際に働く植物ホルモンであるアブシジン酸を介したシグナル伝達が SAR 誘導におよぼす影響を調べました シロイヌナズナをアブシジン酸で前もって処理したところ サリチル酸合成にかかわる遺伝子や

サリチル酸の蓄積 サリチル酸の下流のシグナル伝達のすべてに対して抑制が起き SAR の誘導が強く抑制されていることがわかりました ( 図 2) 次に 実際の環境ストレスの一例として 高濃度の塩の処理 ( 塩害 ) を行い アブシジン酸合成を含む環境ストレス応答シグナルを活性化しました その結果 同じように SAR 誘導が抑制されることを見いだしました 反対に 植物体内のアブシジン酸濃度が通常より低く 高濃度の塩の処理でも植物体内のアブシジン酸が増加しないようになった植物を用いた場合には 環境ストレスを前もって与えても SAR 誘導の抑制は起こらず 通常のアブシジン酸濃度の植物よりも強い SAR が誘導されました これらの結果は 植物が環境ストレスに応答してアブシジン酸の合成 蓄積がおきると SAR のような病害抵抗性が弱められてしまうことを示しています 農業の現場で使用されている SAR 誘導剤が 環境ストレスにさらされた植物で効果を発揮できない理由も ここにあると考えられます (2) SAR の環境ストレス応答への影響ゲノム研究手法であるマイクロアレイ解析を行った結果 SAR が常に誘導されている突然変異株では 環境ストレス応答に関わる遺伝子の発現が低い傾向にあることがわかりました 実際に SAR 誘導化合物 BIT によってサリチル酸合成や SAR を誘導した植物では 塩処理を施しても アブシジン酸合成にかかわる遺伝子や下流のシグナル伝達にかかわる遺伝子の発現が抑制されていました また SAR 誘導経路の一部を失った突然変異株を用いた実験から この抑制のメカニズムは少なくとも 2 種類あることがわかり 複雑な制御が働いていることが明らかとなりました 以上の結果は 植物では 乾燥 塩害 低温などの環境ストレスに対する応答シグナルと 病原菌感染などの生物ストレスに対する全身獲得抵抗性誘導シグナルと間に 拮抗的な相互作用があることを示しています ( 図 3) また このシグナル間クロストークは 植物のストレス応答が複雑な制御を受けていることを裏付けました 乾燥などは 植物体全体に影響を及ぼす環境ストレスであり 個体の生命維持に大きな影響を与えます 一方 葉や根などさまざまな部位で局所的に受ける病害も 全身に蔓延した場合には全体が枯れ 生命の危機に至ります 植物は そのときの状況に応じて一方の応答システムを止めて より重要なストレスに対して効果的に対処していると考えられます 虫による食害や傷害などの刺激によって ジャスモン酸という植物ホルモンを介して全身に誘導される抵抗性機構もありますが これまでに このジャスモン酸のシグナルは サリチル酸のシグナルともアブシジン酸のシグナルとも拮抗的な相互作用があることがわかっています したがって 外界からのさまざまなストレスに対して この 3 つのシグナル伝達経路は 3 つ巴の関係で相互に制御しあっていると考えられます ( 図 4) 植物が受けるストレスの種類と大きさなど その時々の緊急性にあわせて それぞれ対応するストレス応答システムを制御し 限られた生命エネルギーを効率よく使用して 危機的状況を耐え抜こうとするメカニズムが働いていると考えられます

3. 今後の期待植物のストレス応答では 種々の植物ホルモンの複雑なシグナルネットワークが働いていると推定されていますが 本研究成果は その一端を明らかにしたものです 今回得られた知見は シグナルネットワークの解明に大きく貢献し さまざまな環境に適応しながら生き抜いて 種を守っていく植物の生存戦略の解明に役立つことが期待できます 相互抑制関係を制御する因子を見いだし利用することにより さまざまなストレスに対して同時に適応できる強い植物を作ることができると考えられます また 本研究成果は 植物の免疫力を効果的に利用する手法の開発に貢献します 具体的には 既に農薬として使用している SAR 誘導剤の効果的利用技術の開発や 新しい SAR 誘導剤の開発 また日本では水田だけで利用している SAR 誘導剤を 生育環境の異なるさまざまな作物へ適用する技術 さらに SAR を抑制するシグナルを抑える植物免疫安定化剤の開発などです これらを通して 環境調和型の農業生産体系の確立に貢献できると考えています ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所基幹研究所仲下植物獲得免疫研究ユニットユニットリーダー仲下英雄 ( なかしたひでお ) Tel : 048-467-9529 / Fax : 048-462-4670 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 全身獲得抵抗性 (SAR) 植物の病原菌に対する自己防御機構である誘導抵抗性の 1 つ 特定の病原菌に対する抵抗性を獲得した植物は この病原菌が侵入した部位で過敏感細胞死を引き起こして病原菌を封じ込めて増殖を抑える このようにして形成された壊死病斑ではさまざまな生理学的変化が生じているが その 1 つとして合成されるサリチル酸がシグナルとなって情報が全身に伝えられ 感染部位から離れた組織でも次の感染に備えて抵抗性を発揮するようになる 2 クロストーク植物ホルモンは 単独でも生長調節などのさまざまな生理現象に働くが その際に ほかの植物ホルモンシグナルにも影響を与えることが知られている また 1 つの生理現象について複数の植物ホルモンが関与しているものもある 植物ホルモンの

組み合わせにより ある生理現象について相乗的に働いたり 抑制的に働いたりする この現象をクロストークと呼んでいる 3 植物ホルモン植物の生長を制御する低分子化合物の総称 現在までに オーキシン ジベレリン サイトカイニン エチレン ジャスモン酸 アブシジン酸 ブラシノステロイドの 7 種類が認定されている サリチル酸は生長に影響を与えないが 耐病性誘導に重要な役割を担っていることから 準植物ホルモン ( 教科書によっては植物ホルモン ) として認定されている 4 BIT と BTH 1,2-benzisothiazol-3(2H)-one1,1-dioxide(BIT) と benzo(1,2,3)thiadiazole-7-car bothioic acid S-methyl ester(bth) は 合成化合物で いずれもイネ タバコ シロイヌナズナをはじめ さまざまな植物で全身獲得抵抗性を誘導する活性を持つ

図 1 全身獲得抵抗性 (SAR) の概念図 壊死病斑を形成する病原菌が感染した部位から サリチル酸 (SA) をシグナルとして情報が全身に伝えられ 健康な葉でも病害抵抗性を発動して 次の感染に備える SAR は 多様な病原体に対して防御効果を発揮できる SAR 誘導経路を活性化する化合物 (SAR 誘導化合物 ) が農薬として利用されている

図 2 環境ストレスによる全身獲得抵抗性の抑制 乾燥 低温 塩害等の環境ストレスを受けた植物は アブシジン酸 (ABA) を生産して 環境ストレスに耐えるメカニズムを活性化させる この環境ストレス応答が活性化されている植物では 全身獲得抵抗性 (SAR) の誘導が抑制された

図 3 植物ホルモンのクロストーク 病原菌の感染によりサリチル酸 (SA) を介して誘導される全身獲得抵抗性 (SAR) の誘導経路と 環境ストレスによりアブシジン酸 (ABA) を介して誘導される環境ストレス応答の間には 複数の箇所において 相互に抑制するクロストークが存在している

図 4 ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク 病害 虫害 乾燥等のストレスに対する応答システムでは それぞれサリチル酸 (SA) ジャスモン酸 (JA) アブシジン酸 (ABA) が働くが これらのシグナルは相互に抑制的に制御している 植物は その時々の状況に合わせて必要なシグナルを強めて 効率的にストレスに適応している