第6回運動・スポーツ分科会 講演要旨

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Transcription:

第 10 回運動 スポーツ分科会発表抄録 テーマ スクワット運動普及推進について 発表 NPO 法人日本健康運動指導士会専務理事荒籾忠志 NPO 法人 NSCA JAPAN 事務局長阿部良仁 日時 : 平成 24 年 11 月 14 日 ( 水 ) 場所 :( 社 ) 日本理容美容教育センター 6 階講堂

司会ただいまより 健康日本 21 推進全国連絡協議会 第 10 回運動 スポーツ分科会 を開催いたします 運動 スポーツ分科会座長である 財団法人日本健康スポーツ連盟の玉利理事長に進行をお願いします よろしくお願いいたします 玉利座長本日は第 10 回目の分科会ですが ご案内の通り今回のテーマは スクワット運動普及推進について です 日本健康運動指導士会と NSCA ジャパンの 2 団体による共同発表です スクワットという言葉から ウエイトリフティングやパワーリフティングなどをイメージされる方が多いと思いますけれども 体にある程度の負荷をかけてそれに反発することで筋肉の発達を促進する これがウエイトトレーニングの基本原理です この原理にもとづいて 主に下半身を鍛える運動の一種目がスクワットです 人間は立って歩く動物ですから 足から先に弱ってきます 高齢者が寝たきりになると 経済的にも大変な負担がかかってきます しかし亡くなるぎりぎりまで自分の体を自分で運べて自分で動かすことができれば 我々がいうところの健康寿命の延伸にも役立ってきます そのような意味でもスクワット運動というものは 正しいやり方でその人の年齢や体力 健康状態に応じてできれば これは大変な効果を発揮する運動だと思っています それでは これから日本健康運動指導士 会の荒籾専務理事と NSCA ジャパンの阿部事務局長のお 2 人に 誰にでもできるスクワット運動を解説していただいて 皆さんに広く実践 普及していただきたいと願っています 荒籾専務理事皆さま こんにちは このような席でお話をする機会を与えていただきましたこと 深く御礼を申し上げます 本日はスクワット運動の普及ということで 私からはその考え方や概念をご説明させていただきたいと思います ( 図 1) どうぞスクリーンをご覧ください ( 図 1) 本日はスクワット運動普及推進活動のご提案 国民運動としてのスクワットの普及ということで スライドをご用意させていただいています 来年度から健康日本 21( 第二次 ) がスタートします これを機会に 健康日本 21 推進全国連絡協議会 特に運動 スポーツ分科会からご提案をして 各団体や各企業を巻き込んで 国民の健康維持のためのキャンペーン活動などはいかがでしょうかということで 普及活動の一案 1

として今回はスクワットを例にご紹介させていただきます 肩の力を抜いてお聞きいただければと思いますので よろしくお願いいたします ( 図 3) ( 図 2) そして三番目は 手軽さです ( 図 3) ご自身が立ってしゃがめるスペースさえあれば十分ですからほとんど場所をとりません そして屋内外を問わずに実行できます 自体重だけで行うスクワットであれば 器具 なぜスクワットなのでしょうか ( 図 2) 先ほど玉利理事長からもお話を頂戴いたしましたが 第一にスクワットというのはトレーニング種目の中でかなり高い認知度を持っています 高齢者から青少年まで広く認知された種目です そして多くの方がその動きや動作 立ちしゃがみ運動ということも知っています そして二番目ですが 幅広い世代に運動効果が期待できます 青少年の体力強化から働き盛り世代のぎっくり腰の予防など そして中高年の膝痛 腰痛の予防 さらには介護予防 ( ロコモティブシンドローム予防対策 ) にも効果が期待されます そしてスクワットはアスリートにも必須な種目ですので あらゆる世代の方にとって必要かつ効果的な運動種目であるといえます 等の準備はいりません しかも短時間で実施できます 四番目ですが 汎用性の高さ 多彩なバリエーションという特徴があります まずは動作のバリエーションですが しゃがみ込む深さだけでも大きく分けてクォーター ハーフ パラレル フルスクワットと 4 種類に分かれます それらについてはこの後 阿部先生よりご解説をいただきます スクワットに類似した動作 エクササイズも インターネット等で少し調べただけでも 30 種ほどみつけることができました 次に器具の活用ですが 座布団の上など やや不安定な状況でのスクワットでインナーマッスルのコアの部分のトレーニングも合わせてできるというメリットもあります そしてポピュラーなバーベル等の負荷をかけたスクワット さらには各種スクワットの動作に準じたトレーニングマシーンもあ 2

り それらの器具を生産している企業もありますので スクワットが国民運動として活用されることになれば 産業界を巻き込む可能性も出てくると思われます また さまざまな健康運動やエクササイズなどに組み込みやすく 実際既に組み込まれているものがほとんどです たとえばラジオ体操などの屈伸動作は基本的にスクワットの動作です ( 図 4) 現代のスクワット普及の状況ですが スクワットの実施を推奨している団体と活動内容の一例をご紹介させていただきます ( 図 4) 公益財団法人健康 体力づくり事業財団発行の各種リーフレットや 貯金運動 等で スクワットが取り上げられております そして公益社団法人日本整形外科学会では いわゆるロコモティブシンドローム予防のためにスクワットをトレーニングメニューの一つとして取り上げています その他 少しインターネットで調べてみても多数の団体がスクワット運動を推奨 実施を呼びかけています ( 図 5) スクワットとは ただやみくもにやればよいのでしょうか ( 図 5) 正しい姿勢 適切な方法 強度で実施しなければ 場合によっては膝痛や腰痛の運動障害 弊害を生じる可能性があります スクワットを効果的な運動として行うためには それぞれの方々の体のサイズや体型 体力 目的などに合わせて強度や姿勢を設定することが重要です さらに 解剖学的 物理学的に してはいけない動作 すなわち禁忌事項があります そういったことを十分に知ったうえで行うことが事故防止のために重要です そして効果的なスクワットを各世代の方々が実施することにより 介護予防や転倒予防 中高年の筋力低下を要因とした膝痛 腰痛の予防 青少年の体力低下の防止など 現代の日本の問題点についても対応可能です スクワットは立ったままの状態で行うことにより 立位姿勢の改善にも効果が期待されます 立位姿勢がよくなければよいクスワットは始められない これは解剖学的にもあてはめられると思います この点については後ほど阿部先生からご説明いただ 3

きます ( 図 6) 労働災害の防止にもある程度の効果が期待 できると思われます ( 図 7) 正しいスクワットを普及させるためには どうしたらよいのでしょうか ( 図 6) 正しいスクワットを行う場合 運動の指導技術を持った専門家に相談や指導を受けることが大切です そうした運動指導者のいる運動施設へ行ってみる 通ってみることです そして各マスメディアでの正しい情報の流布に努めるべきだと思います スクワットを間違ったフォームで行ってしまったために腰を痛めたりしたなどという例も実際に報告されておりますし 専門家から見てそのフォームはどうかな? という例も見受けられます やはり正しい情報をいかに皆さんに知っていただくかが大事だと思います 小中高 そして大学 専門学校など 各学校で生徒の皆さんに体育などの教科の中で教えることも必要ではないかと思います さらに各職場で 運動指導者を招いてのスクワット指導も考えられます たとえば重たいものを持ち上げる作業など スクワットの動作を各職場に行き渡らせることによって 特に肉体労働をしているところでは 本日の会は健康日本 21 推進全国連絡協議会です 来年度から始まる健康日本 21 ( 第二次 ) の中で さまざまな目標が設定されています スクワットを行うことによって どの目標に対して効果が期待できるか 私の独断と偏見で記させていただいていますのでご紹介させてください ( 図 7) まず 健康寿命の延伸です スクワットをすることによってご自身の体をご自身で支えることができるようになれば この期待度は大きいかと思います そして運動やスポーツを習慣的にしている人の割合の増加です スクワットをすることが運動習慣になるかということですが たとえば あまり運動をせずに家でテレビやゲームをしているお子さんが とりあえず運動を始める種目としてスクワットをするのであれば ある程度の効果は期待できると思います また ロコモティブシンドローム予防にも効果があると思います 足腰に障害のある高齢者の割合の減少では 中長期的に見て 4

足腰の筋肉が鍛えられることにより膝痛 腰痛の予防や 膝痛 腰痛のある高齢者の割合の減少に貢献できると思います 治療という側面からだけでなく予防という側面からも 非常に効果が期待されるところと思われます ( 図 8) が必要になってくると思います 今回のスクワットのキャンペーンについては 大きな目的が二つあげられます 正しいスクワットのやり方の普及と 日頃 ほとんど運動をしない人の 運動のきっかけづくり です 歩く時間も体操をする時間もないという人でも 少しの時間とスペースさえあればできるスクワットなら始めてみようか というきっかけづくりとして スクワットは非常に適していると私は思っています ( 図 9) さらに 健康づくりに関する活動に取り組み 自発的に情報発信を行う企業登録数の増加が期待されます ( 図 8) 日頃から健康活動に取り組んでいる企業であれば 何を発信するか既に決定していると思います が 何を発信してよいか決めかねている企業などにおいて たとえばスクワットをみんなで広めましょうという動きが出れば そうした動きに賛同いただいて登録参加しやすい状況が生まれるのではないかと思われます もちろん 健康づくりにおいて身近で専門的な支援が受けられる民間団体の活動数の増加も期待されます もしもスクワットをみんなでやりましょうとなった場合に 身近な施設に行って 私の体に合ったスクワットフォームってなんだろうとニーズが高まった際に それに対応できる場 普及活動の例として 私の考えをあげさせていただきます ( 図 9) まず 各団体が統一して使用できるようなポスター リーフレットの作成 二番目がキャッチコピーの作成ですね 最近 多くの地域が町おこしなどでさまざまなキャッチコピーを用いています キャッチコピー次第で普及率が高まることが予想されますので キャッチコピーが必要だと思います そしてロゴマークの作成です 新聞広告へ掲載する時も何らかのシンボルマーク ロゴマークがあるとよいと思います そしてイベントの開 5

催やグッズの作成です ( 図 10) 立ち上がろう 健康立国はスクワットから 貿易立国という言葉がありますが たとえば日本が今後 健康立国というフレーズを掲げるのもよいのではと思いました 最後ですが 世界一美しいスクワットをする国 日本 スクワットは立ち姿勢も重要です 美しいスクワットができれば みな美しい姿勢になるということですね ( 図 11) 私自身もキャッチコピーを考えてみました ( 図 10) 自分の体重は自分で責任を持とう やはり自分の足で責任を持って自分の体を動かすことで 介護予防につなげようということです まずは始めよう スクワット とりあえずスクワットだけは始めてみようじゃないか という感じです あ なたは何歳まで和式便座を使用できますか? 和式便座はだいぶ減っていますが インターネットで調べたところ公園などの公衆トイレはいまだに 3 割以上 和式便座が採用されているようです 公衆トイレに行くほとんどの場合で急を要するので 和式 洋式を問わずに座れなければなりません そういった場合に いわゆるフルスクワットの状態ができなければ 和式トイレで遭難という ややオーバーですが そのような事態が起こるかもしれません 一日数回のスクワットで足腰健康度チェック スクワットをできる体かどうか 自分の健康をチェックする目安にするのもよいのではと思います とりあえず深くしゃがんで まとめとなりますが ( 図 11) スクワットは認知度が高く 効果的な運動です また スクワットはトレーニング種目の一つで 特定の団体の固有メソッドではありません そのため どの団体でも どなたでも取り上げることが容易ではないかと思われます 各業界や分野から反対意見が出ることもあるかと思いますが そういった意見が出ることも波及効果の一つとして ある意味 喜ばしいことではないかと考えています なお スクワットだけやれば OK というように とかく一つの運動だけがブームになりがちです 実際はさまざまな運動種目が必要ですので これさえやれば では 6

なく せめてスクワットだけでもやろう まずはスクワットから という考え方が必要になってくると思います 最後に ブーム つまり流行にさせないこと たとえブームになったとしてもブームで終わらせないこと というのも ブームが過ぎた後が非常にこわいからです あくまでも国民運動化を目標に掲げていきたいと思います これを機に 皆さんで一緒になって何かキャンペーンを展開するのはいかがですかという提案として 今回はスクワットという例をあげさせていただきました 他にもさまざまな種目 方法があるかと思います 今後ご検討いただければ幸いです 本日は誠にありがとうございました 玉利座長ありがとうございました 続けて NSCA ジャパンの阿部事務局長にご発表をお願いします 阿部事務局長こんにちは NSCA ジャパンの阿部と申します 実は運動 スポーツ分科会に出席させていただくのは初めてでして その初めての機会にこのような場に立たせていただいて非常に緊張しております 今回お話をさせていただくことになったのは 日本健康運動指導士会の荒籾専務理事から 市民権を得つつあるスクワットの安全で効果的な実施方法を各団体がひとつになって広めていったらどうだろう? という提言を受けて 何かお手伝いできることがあったらということで引き受けさせてい ただきました 先ほどもお話にありましたように スクワットは非常に広がっているものですから いろいろなイメージがあるかと思います 私どもの団体はもともとアメリカにある団体なのですが 理論的な根拠を重視する一団体としての考え方を皆さんとシェアさせていただいて 皆さんのスクワットに対する見方の参考にしていただいたり あるいは賛同していただけたら より安全で効果的なスクワットの普及につながっていくと考えました そのようなわけですから スクワットの理論的な背景について解説しますが あまり難しくならないようにしたいと考えています また 実技をやるつもりで このような服装で来たのですが 皆様は正装されていますのでやめておいたほうがいいかなと思っています 玉利座長実技はやったほうがいいです ぜひお願いします 阿部事務局長わかりました それでは無理のない範囲で 実技を紹介させていただきたいと思います 7

( 図 12) スクワットというと つらい きつい 危険 というイメージがあるかと思います ( 図 12) 確かにシリアスなトレーニングとなると 非常につらくてきついです では危険かというと そういったトレーニングであっても実は危険ではないと思います ちなみに 私は今まで一度も腰痛の問題を起こしたことはありません また やり方次第では全くつらくないですし きついこともないと思います その人に合った負荷のかけ方や動き スピードなどを選べば 適度なエクササイズになりますし 非常に安全であり 決して危ないものではないと思います スクワットは別名 キング オブ エクササイズ と呼ばれています ( 図 13) スクワットは 体の中にあるパワーゾーンという一番大きな力を発揮する主要な筋肉 腰背部とお尻 太ももの筋肉ですね そういった筋肉を発達させることができます それと同時に 負荷が骨に対してまっすぐかかるという特性があるので 骨の密度や靭帯 腱の強度も増します それによって関節の安定性が高まります それから床を押して立ち上がるという動きを実際に行っていきますので こういった動きに対する神経と筋の協調性を高めることができます これは実際の生活でも非常に重要な部分です ( 図 14) ( 図 13) 私の恩師の矢野雅知先生 ( 元 NSCA ジャパン理事 ) が書かれた文章の中で紹介されているのですが ( 図 14) あるコーチのコメントとして アスリートにとって重要なエクササイズは 5 つあると書かれています 第一はスクワット 第二がベンチプレス 第三がハイクリーン そして第四がスクワット 第五がスクワットであると 少しオ 8

ーバーかもしれないのですが それほどス クワットは重要であるという意味ですね ( 図 15) と思います ( 図 16) 次は実際の動作ですが まず椅子からの起立動作や椅子に座る動作です ( 図 17) ( 図 16) 椅子に寄りかかっているところから立ち上がる時には重心を少し移動しなければならないので 足を手前に引きこんで体を前傾させる そこから脚部の伸展力で立ち上がっていくという動作になりますが それ自体がスクワットの動作そのものになると思います ( 図 17) では 実際に日常生活の中で スクワット動作に類似する動きにはどのようなものがあるか見てみましょう ( 図 15) まず色々な姿勢ですね たとえば 座っている姿勢や立位姿勢などがあります 適切な姿勢は腰痛などを予防するうえで重要ですが これを簡単に表現すると 高い姿勢 つまり身長を測定する際に少しでも背を高くしようとしてまっすぐに伸びる姿勢になります この高い姿勢を常に維持することが 適切なスクワットにおけるスタート姿勢からしゃがみこんだボトム姿勢にマッチングする ( 図 18) 正座の状態から片膝を立てて立ち上がっていく動作です ( 図 18) この場合はスタンスが若干変わります 前後に開いたスタ 9

ンスになって片足への負荷がより高くなります 片足に体重をかけて立ち上がりながら 後ろの足を蹴って寄せていくという動きになります ( 図 19) と スクワットは基本的にあまり深く沈んではいけないのではないかという考えがあって それについても後で説明をさせていただきますが 日常のニーズとしては実はしゃがみこむことも必要となってきます ( 図 20) それから荒籾専務理事よりお話があった のですが 和式トイレですね ( 図 19) 和式トイレを使用する時は 非常に過酷なフォームになります 実際に動きを再現してみたのですが 非常に狭いスタンスをとらざるを得ない なおかつ膝の位置が衣類によって制限されてしまう フルスクワットも実は膝を開いていると楽にできるのですが 膝を寄せてくると非常に難しいのです さらに実際には拭いたりしなければならないので その時に中腰の姿勢を維持しなければならないという難しさがあります そうするとしゃがみこんだ際に 股関節あるいは足関節がかたいと重心をコントロールできなくなってしまいますので 後ろに転倒してしまう危険性もあります トイレによっては前に何もつかむ場所がないところもあるので そうなると非常に危険なんですね そのようなことを考え合わせてみる スクワットと障害の関係についてですが まずは膝についてです ( 図 20) 膝にかかる力には圧縮力と剪断力があります 圧縮力はさらに 膝のお皿についている骨が手前に引っ張られる圧縮力と脛骨と大腿骨がお互いに押し合うという圧縮力の二種類があります 剪断力は脛骨に対して大腿骨が前後にスライドするような力ですが この剪断力と圧縮力に関しては 膝の屈曲角度が大きくなるにつれて増大するというデータがあります これは 自重でのスクワットに関しましても 膝蓋大腿骨の圧縮力が自重の約 4 倍かかります それから剪断力に関しては自重の約 2.5 倍かかるといわれています ということは スクワットをやる時に下肢のアライメントをきちっと守ることが重要な要素になってきます 10

( 図 21) たとえば一つの例ですけれども 中央のフォームが適切な見本です ( 図 21) 見るポイントは 股関節の中心と膝の中心とつま先の向きが直線状につながることです 左右の写真は膝が中に入ってしまったり外側に出てしまったりという例です 原因は必ずしも一概には決められないのですけれども 膝関節に関わっている筋肉ですね 特に二つの関節にまたがる筋肉 たとえば股関節と膝関節 あるいは膝関節と足関節といった二つの関節にまたがる筋肉が弱かったり 柔軟性が不足すると アライメントに難しい点が出てくるといわれています ( 図 22) それから膝の靭帯にかかる張力はどう かといいますと ( 図 22) 実はスクワットとそれ以外のエクササイズを比較してみた場合ですが 皆さんご存じかと思いますが レッグエクステンションと呼ばれる膝を伸ばすエクササイズと比較しますと スクワットによる脛骨の前方変位のほうが小さいといわれています 前方変位が小さいということは ACL と呼ばれる前十字靭帯にかかる張力も少ない それから PCL と呼ばれる後十字靭帯にかかる張力も同様に小さいといわれています 同じレッグエクステンションでも 自分の体重だけを使ってやるものと実際にウエイトをきちんとかけてやるものとの比較になりますので 一概にレッグエクステンションというエクササイズが悪いというわけではありません 同じような負荷をかけて比較した場合では スクワットとレッグエクステンションでは前十字靭帯と後十字靭帯にかかる張力がスクワットのほうが低いという研究の結果です ただし同じスクワットでも かかとが床から離れてしまうようなスクワットに関しては かかとが床にきちっとついているスクワットに比べて ACL にかかる張力が大きいといわれています これはどういうことかといいますと 足首が固い方の場合は深くしゃがみこもうとしてもしゃがめない場合があるんですね その場合に もしかかとが浮いてくるようであれば 浮いてくる一歩手前までやることが必要になると解釈していただければと思います 11

( 図 23) 膝の関節トルクが減少するという結果報告があります ところが 膝が前に出ないようにスクワットをすると重心が後ろにいくので それをカバーするために上体を前にかぶせないと前後のバランスがとれなくなります そうすると今度は股関節のトルクが増して 腰背部への負荷が上がってしまいます ( 図 24) ( 図 25) 図 23 の左側がレッグエクステンションの写真の一例で 右側がかかとが浮いてしまったスクワットの例になります それから膝と股関節のトルクについてですが ( 図 24) トルクというのは膝にかかる力と股関節にかかる力のことですが これの比較ということになります 先ほども日常生活の例であげましたが 実際には深いスクワットが必要になる時があります ただし深いスクワットは膝の前方変位を引き起こすという問題が出てきます ACL や半月板にかかる力が増えるということですね ただし 膝がつま先よりも前に出ないように膝の前方移動をしないようにすると それが図 25 の写真なのですが 一番左側が膝を極端に前に出したスクワットの例です 一番右側が膝を極端に後ろにした例です 中央がちょうど中間の例なのですが 比較してみていただけるとおわかりかと思いますが 膝を前に出せば上体は立ったままで沈むことができます ただし膝に対する負荷が高まります 逆に一番右側のように膝を前に出さないと 今度は後ろ側に体重がくるので上体を前に倒さなければいけないという 腰に対する負荷があります 特に この時に腰が丸まってしまうと腰椎の椎間板に対する負荷が非常に高まってしまいます 12

( 図 26) 上体の前傾についてですが 実はスタンスによってもかなり変わります 広いスタンスをとるのか狭いスタンスをとるのかによっても変わってきます 後ほどスタンスについても説明をしたいと思いますが その方の脚の長さや胴の長さによって また柔軟性の問題などに合わせてスクワットのフォームなどを見ていかなければならないという点が重要になります ( 図 26) ( 図 27) えば肩幅くらいと決めたとしても 同じ身長でも肩幅が広い人もいれば狭い人もいる 逆に 肩幅が同じでも 身長が違う場合もあります さらに細かくいうと 脚の長さも 大腿が長い人もいれば下腿が長い場合もあります ですから一概にはどれくらいとはいえないと思うのですが 平均的に考えると だいたい肩幅くらいか肩幅よりやや広めというのが一つの目安になると思います なお 足幅は両方のかかとの位置を我々の団体では基準としています 広いスタンスをとると 一番右の写真で見てもわかるように 脛骨 すねの角度が上体に対してまっすぐになります 上体もまっすぐですね 腰に対する負荷も低いです ただし 内転筋などが固いとどうしても膝が内側にかかるため下腿と大腿の間でねじれが生じやすいという問題があります 股関節の柔軟性もスタンスを決めるうえで重要になります ( 図 28) 先ほども申し上げましたが スタンスと 上体の角度の違いについてです ( 図 27) 中央が基本的な肩幅くらいのスタンスです スクワットのスタンスはどのくらいがよい のか 実は一概には決められません たと 各スタンスのメリット デメリットをま とめました ( 図 28) 狭いスタンスとは通 常の椅子に座っている時のスタンスともい 13

えるかと思います ですから日常のことを考えると スクワットでも狭いスタンスが必要になると思います ただ狭いスタンスでスクワットをやりますと どうしても重心が後ろに移動しますので 股関節や臀筋の柔軟性が必要になります それから上体が前傾してきます 次に 肩幅くらいですと機能解剖学的にはノーマルなスタンス 深く安全なスクワットが一番可能になるのではないかといわれています それから広いスタンスの場合ですが 先ほども申し上げたように脛骨や上体の角度を垂直に保ちやすいという特長があるのですが 内転筋の柔軟性が必要となります ( 図 29) では スクワットをやってみましょう ( 図 29) まず最初は各自が普段実施されている足幅に開いていただいて 両手を前に出しましょう ここから少し股関節を後ろに動かすような感じにしながら ゆっくり しゃがめるところまででよいので しゃがんでみましょう そして立ち上がります できるだけ前を見て 頭のてっぺんができるだけ高い 位置にあるように少し胸を張ってください もう一度ゆっくりしゃがんで それからゆっくり立ち上がってください いくつか試していただきたいのですが 先ほどスライドでも説明したのですが 膝の位置が前に出る場合と前に出ない場合の違いを体験してみてください 膝を前に出している時に使われる筋肉の感じと 膝を前に出さない時に使われる筋肉の感じが少し違うのがおわかりいただけるかと思います では やってみていただけますか? 膝を前に出した時は どちらかというと腿の前側のほうの筋肉になるかなと思います そして極端に膝を前に出さないようにしてしゃがんでくると お尻や腰背部の筋肉にくるのではないかと思います そしてちょうどその中間ですね 膝が前に出ながらも自然に自分の体重を支えられる位置が ちょうどその方に合った動きになるかと思います 次にスタンスの違いです 今度はスタンスを狭く つま先の向きは少し正面に近くなってきますが ここからしゃがんでみてください 次は広いスタンスですね 今度はつま先の向きはより外向きになります ここから膝を下ろしていくのですが 注意しなければならないことがあります スタンスが広くなると どうしても膝が中に入りやすくなります 狭いスタンスですと股関節 膝 つま先を同じラインに保ちやすいのですが 広いスタンスだと膝が中に入りやすいので 14

15 なるべく内側に入らないようにつま先の方向に向くようにしゃがんでみてください すると上体の角度が変わることに気づかれるかと思います 狭いスタンスだと体が前に倒れてくるのですが 広いスタンスにすると体を倒さなくてもしゃがむことができます ということは 二つのチョイスから その方のやりやすいスクワットを考えていただくとよいかなと思います 一つは 膝をどのくらい前に出すのか 出さないのか もう一つは スタンスをどれくらい広くしたらよいかということです いろいろやっていただくのが一番よいかと思います 実際にやってみると 皆さん自然に自分の一番やりやすいスタンスをとられると思います そして もう少し狭くしてみましょうとか もう少し広くしてみましょうとか 試してみるのもよいと思います なお 膝の位置ですが つま先よりも前に出してはいけないといわれていますが 実際には大腿が長い方の場合ですと 膝を前に出さないと体がかぶってしまうのです そうすると腰に負担がかかりやすく しかもお尻の筋肉が固いとしゃがんできた時に骨盤が後ろに引っ張られますので 椎間板への圧が均等にかからなくなってしまうという問題点があります そのあたりをうまく見ながら 膝の前後の位置や下げる深さもチョイスするとよいと思います スクワットの深さについてですが 実生活を基準にすると 日頃から使われている椅子の高さかなと思います 椅子からの座り立ちや椅子に座っている時の姿勢についても普段は自然に背中が少し丸まっていると思うのですが 時々まっすぐにできるような柔軟性や筋力があったらいいなと そのくらいの深さまではスクワットできるようにしましょうというのが私の考える一つの基準です ただし和式トイレは完全にしゃがみこまなければならず しかも膝の動きに制約がある これは非常に厳しい状態です これを考えれば適切な動き フォームで深いスクワットができるに越したことはありません スクワットの回数や負荷ですが トレーニングとして考えると 1 セット当たり 10 回くらいを基準にすることが一般的ですが 日常生活における体の動きを確認するという意味でしたら 5 回くらいを目安にしていただけるとよいかと思います できる限り適切なフォームとアライメントを守って 5 回ですね 行う時間帯ですが 身体の使い方を確認するという意味で できれば朝が一番よいですね ただ 寝起きにいきなりはやらないほうがよいです まずは歩くなど動いて少し体を温めてから行ってください 朝に何の運動もしない場合は スクワットの動きの範囲を少しずつ広く深くして 少し回数を多めに行うのもよいでしょう たとえば椅子から立ち上がるという動きを 手を置く位置を変えながらやっていく その時も ただ立ち上がるのではなく その人なりに高い姿勢をとって立ち上がるということから始める 理想は 椅子の高さ

を変えられるとよいのですが 自宅でしたら椅子やソファ お風呂で体を洗う時の椅子などというように高さを変えてやってみるとよいかと思います ( 図 31) ( 図 30) スクワットの深さのバリエーションですが ( 図 31) 実生活や競技など どの程度のものが要求されるかによって変わってきます ただ より深くなればなるほど お尻の筋肉の動員が高まるといわれています 手の位置による運動の違いについてお話 をします ( 図 30) 腕を前に出してスクワットをすると 上半身の重さを前に保ちやすくなります ということは より股関節を後方に使いやすくなります つまり膝を前に出さなくてもよくなります 逆に手を横にしてしゃがむと 同じ膝の位置では重心の位置は保てなくなります 写真を見ていただきたいのですが 両者とも上体の角度は同じですが 腕を耳の横に置いたスクワットでは 膝の位置が若干 前に出ているのがわかると思います カウンターバランススクワットという ダンベルを手に持って前に出しながらしゃがむスクワットがありまして これをやるともっと膝の位置が後ろでも転倒しないで重心を保つことができます 手の位置によっても股関節や膝の使い方が変わってくるということも知っていただければと思います ( 図 32) 適切なスクワットを行うこと 行えるようにすることを通じて ( 図 32) 子どもたちの体力が向上し 適切な姿勢の学習ができる そして中高年者は介護予防や転倒予防 あるいは膝痛 腰痛の予防にもつながると考えています ですから適切なスクワットという点が非常に重要かと思われます 適切なスクワットへ至るプロセスとして 柔軟性の要素も重要です 少しずつストレ 16

ッチと組み合わせてやっていただけけるとよいかと思います たとえば かかとを上げずにしゃがめなかったとしたら 足首の柔軟性が不足していると思われます この場合には 足首のストレッチと組み合わせてスクワットを行われるとよいかと思います また しゃがんだ時に腰が丸くなってしまう場合にはお尻のストレッチも必要かと思います お尻のストレッチにはいろいろなやり方があるのですが 正しい姿勢を維持するためのお尻のストレッチなので 姿勢を正しく保つようにしながらお尻のストレッチをする方法がよいと思います やり方ですが 椅子に座っていただいて まず骨盤の動きを確認します 骨盤が後ろに倒れる状態ではなく できるだけ立っている状態 この時使われている筋肉は背中の筋肉だったり それから腸腰筋という股関節を曲げる筋肉ですが ここがとても重要になってきます 椅子に座ったまま片方の足をもう一方の腿に乗せて できるだけ骨盤を立てて背すじを伸ばします 適切な姿勢を維持するようにしながら お尻をストレッチします 股関節が固い場合は脚を重ねることができませんので 同じことを仰向けに寝た状態で行います ( 図 33) 一般的にレジスタンスエクササイズにはそれぞれの目的に応じた負荷の設定があります ( 図 33) ただ 自体重で行うエクササイズの場合には負荷の調節にどうしても限界があります ただ 日頃から少しずつ体を動かしながら適切な姿勢や身体の動かし方を学習するという意味で考えるなら 負荷はあまり気にしなくてもよいと思います むしろ適切なフォームに近づけることが重要になってくると思います ( 図 34) たとえば日頃からの確認動作の一例ですが これは椅子に座ってお辞儀をするエクササイズですね ( 図 34) 皆さん 背筋を伸ばして正しい姿勢をとってみてください 17

スライドでは手の位置は耳の横ですが 股関節の上に手の平を上に置いてください そうすると肘を引きやすくなるので肩甲骨を寄せやすくなると思います さらに顎を軽く引いて高い姿勢をつくります その姿勢を維持したままお辞儀をして戻ってくるという動作です 前に倒す角度が深くなれば深くなるほど背中の筋肉が鍛えられます これは膝をあまり前に出さずに股関節を使う時に必要になります それから先ほど申し上げたように椅子を使ったスクワットです 動作確認としては完全に座らなくてもよいと思います 腿の裏がイスに触ったら戻ってくる できる限りゆっくり適切なフォームと動きを意識するようにします るかをいつも確認しながらエクササイズすることが重要だと思います ( 図 36) ( 図 37) ( 図 35) 転倒予防ということを考えた場合には スタンスをパラレルにとるだけでなく前後に開いたスタンスも非常に重要になると思います ( 図 36) バランスを崩した時にこ 仮に 余裕があってもう少し深くやりたいということであれば フルスクワットに近いのですが ( 図 35) しゃがめる深さまでしゃがんで立ち上がるということもありかと思われます 目的はやはり動作確認なので つま先 ~ 膝 ~ 股関節がきちんとしたアライメントになっているかどうか 適切なフォームや動作コントロールができてい れを修正する方法として 足関節を中心に修正するものと 股関節を中心に修正するもの さらに足を踏み出して修正するものがあります 最後の足を踏み出してバランスを修正する方法が フォワードランジと呼ばれるエクササイズの原型ともいえます ( 図 37) このフォワードランジの導入エクササイズとしてスプリットスタンス ( 脚 18

を前後に開いたスタンス ) で沈んで立ち上 がるエクササイズがあります それがスプ リットスクワットです ( 図 39) ( 図 38) ( 図 40) 前後に開いた姿勢で注意しなければならいのは 下肢のアライメントです ( 図 38) 股関節 膝 つま先が常にライン上になることが非常に重要です スクワットに比べスプリットスタンスでは下肢のアライメン トを保持することが難しくなります 上の写真がその例です 腰が横に動く 膝だけ中に入る つま先が外に向いてしまうなどという動きにならないよう見てあげないといけません 常につま先 膝 股関節が一直線にある それから上体の姿勢ですね 姿勢が後ろにそっくり返ってしまわない 前にかぶりすぎない というところをチェックする必要があります この二つが特にスクワットの中のバリエーションというわけではないのですが 補助的なエクササイズとしてやっていただけるとよいと思います 最後に NSCA の傷害予防のガイドラインを紹介させていただきました ( 図 39 40) 特に大事な点としては 適切な監督のもとで正確に行うことが 傷害の予防につながるということです 一見 立ったり座ったりで簡単そうですが 実は奥が深く段階的に学べるところがあるのがスクワットだと思います そこに私たち指導者の価値が生まれると思います 安全に効果的にスクワットを行うためには 適切な指導が重要だと考えています それから 適切にスクワットを行えば 膝 股関節の伸展力を高めることができます さらに 膝関節の安定性に悪影響を及ぼすことはないということ 最後に スクワットに限らず負荷をかける 19

ウエイトトレーニングは 自重であったとしても筋肉や骨 靭帯 腱に刺激を与えることができるので これらを強化することができるという利点があります ( 図 41) 実践していただくこと それをぜひお願いしたいと思います 最後に多田羅先生から一言お願いします 多田羅会長健康日本 21の目標のうち 歩数が増えなかったどころか 男女ともに 1,000 歩ほど減ってしまいました 最近 ウォーキングをしているという話をよく耳にしますが 国民全体の平均としては 1,000 歩も減っていることが課題として残っております これについて 日本ウオーキング協会さんはいかがお考えでしょうか? 日本ウオーキング協会ウオーキングは距 繰り返しになりますが やはり適切なエクササイズを普及させることが非常に重要だと思います ( 図 41) 適切なフォーム 動きですね それから可動域とスピードのコントロールも重要です それから呼吸ですね 人間の体というのは一人として同じではないので その方に合ったフォームがあると思います それから他のエクササイズと組み合わせてやっていただけると 最終的には一番よいと思います 皆さんと協力して 適切なスクワットを普及できたらいいなと考えています ご清聴ありがとうございました 離だけでなく 頻度も重要です そして頻度は上がっています 多田羅会長エビデンスはあるんですか? 日本ウオーキング協会はい 一時間に 4km 以上のスピードで歩くのが非常に好ましいのですが 筋力をつけたり心肺機能をつけたりするには ある程度の強度 スピードが必要です 多田羅会長そうするとウォーキングを始めた人の数は多いということですか? 玉利座長皆さん いかがでしたでしょうか? 普段の何気ない動作を 解剖学的によく分析していたと思います やはり 日常の中でスクワットを続けることが大事ですから 日本ウオーキング協会参加人口は上がっています ただし平均歩数は増えないという状況です 頻度は確実に上がっています 多田羅会長平均の歩数ということですが 20

5,000 歩でもそういった人口が増えていくことが大事なんですね 今日はスクワットという話で これからそれを実践する人口や実践頻度が増えていくことが大事かと思います 奥が深いということも学びました 一日 5 回というのは達成可能な数字だと思います ウォーキングはなかなかできませんが 部屋の中でのスクワットならできると思いますので 今日は話を聞いて大変勉強になりました ありがとうございました 阿部先生のお話で 個人ごとに適正なスクワット運動をということでしたが 国民運動として進めていくにあたっては 一つ標準としての型やパターンを示していただいたほうがよいと思うのですが もちろん個人差はありますので難しいのかもしれませんが そのほうがとっつきやすいと思うんですね それぞれ考えてくださいというと 結局はわからなくなってしまうので 阿部事務局長だいたいの基準というものはあります 資料の中の基本スクワットの復習というところが基本のテクニックですね スタンス 肩幅か肩幅よりやや広め つま先を自然に外向き 姿勢 胸を張り前方を見る 荷重 足裏全体にかける 下に下げる動作はお尻を後方に引くように股関節を曲げ 前方を見たまま股関節の屈曲に同調して上体はやや前傾する 下降のスピードをコントロールし 下げる位置 深さだけは少し個人差がある 上にあがるのは下がった軌道を逆にして床を押してゆっくり立ち上がるというような形になります あとは 適切な動きづくりという目的で 何回くらい 何セットやったらよいのかですとか 朝昼晩なのか一日一回なのかということを年代や体力に応じて どのように設定していったらよいのかということを考え合わせて 標準というものを示すことができればと思っています 多田羅会長日本人の最大の課題の一つは 膝の痛みです 膝が痛い高齢者は 2 3 割 しかも 毎日つらくて泣いているという方が多いです 膝の健康のためにもこの運動はよいのでしょうか? やっているうちに膝を痛める心配があるのでしょうか? 阿部事務局長それはありません また そうならないためにも適切なフォーム 動かし方 スピードなどを指導者が見て スクワットを続けていただきましょうということです ですから スクワットが原因で膝に痛みが出るということは考えないでいただきたいと思います 多田羅会長手の位置についてですが いつも横か前というのはどうしてなのかなと思っていました では膝が悪い方には 手は前のほうがよいということでしょうか? 阿部事務局長その通りです 腰にあまり負担をかけたくない人はむしろ手を横で行って 可能ならスタンスを広くとれれば一番よいと思います そうすると 上体を前にかがめなくてもスクワットができますの 21

で 多田羅会長ストレッチと併用するとよいとのことでしたが スクワットをやる前にストレッチをするというのが大事なのでしょうね ストレッチを行って体を温めてから というのが理想でしょうね 22

健康日本 21 推進全国連絡協議会 第 10 回運動 スポーツ分科会 発表抄録 平成 24 年 12 月 発行 : 健康日本 21 推進全国連絡協議会 事務局 : 公益財団法人健康 体力づくり事業財団 東京都港区東新橋 2-6-10 大東京ビル 7 階 TEL:03-6430-9111 FAX:03-6430-9211 http://www.kenkounippon21.gr.jp/ 無断複製 引用を禁ず