国外転出時課税制度に関する改正「所得税基本通達」の解説

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図 起床してから携帯電話を確認するまでの時間 日本では 起床後直ちに携帯電話を確認するユーザーの比率が であり 他の先進国より高い Q. 起床してから携帯電話 * を確認するまでの時間は? 0 8 わからない 3 時間以上 6 2~3 時間以内 時間以内 30 分以内 5 分以内 5 分以内 34%

税務情報 固定資産の加速減価償却の範囲が拡大 ~ 財税 [2014]75 号の施行 ~ 2014 年 10 月 20 日付けで 固定資産の加速減価償却に係る企業所得税政策の完備に関する通知 ( 財税 [2014]75 号 以下 75 号通知 と表記 ) が公布され 2014 年 1 月 1 日から遡

Global Tax Update

用語の意義 この FAQ において使用している用語の意義は 次のとおりです 用語 意義 所得税法 ( 所法 ) 所得税法 ( 昭和 40 年法律第 33 号 ) をいいます 所得税法施行令 ( 所令 ) 所得税法施行令 ( 昭和 40 年政令第 96 号 ) をいいます 改正所令 所得税法施行令の一

き一 修正申告 1 から同 ( 四 ) まで又は同 2 から同 ( 四 ) までの事由が生じた場合には 当該居住者 ( その相続人を含む ) は それぞれ次の 及び に定める日から4 月以内に 当該譲渡の日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し かつ 当該期限内に当該申告書の提出により納付

国外転出時課税制度(出国税)の導入

( 相続時精算課税適用者の死亡後に特定贈与者が死亡した場合 ) (6) 相続時精算課税適用者 ( 相続税法第 21 条の9 第 5 項に規定する 相続時精算課税適用者 をいう 以下 (6) において同じ ) の死亡後に当該相続時精算課税適用者に係る特定贈与者 ( 同条第 5 項に規定する 特定贈与者

目次 国内企業の事例から学ぶこと これからの課題 GRC Technology の活用 なぜデロイトがクライアントから選ばれているのか 本資料の意見に関する部分は私見であり 所属する法人の公式見解ではありません 2

統合型リゾート (IR:Integrated Resort) ~ マネーロンダリング防止の取組み ~ 2014 年 12 月 IR ビジネス リサーチグループリーダー 有限責任監査法人トーマツパートナー 仁木一彦 当該資料中 意見に亘る部分は著者の私見であり 著者の属する法人等のものではありません

統合型リゾート (IR:Integrated Resort) ~ ゲーミング ( カジノ ) 市場及び主要 IR 施設の概要 ~ 2014 年 11 月 IR ビジネス リサーチグループリーダー 有限責任監査法人トーマツパートナー 仁木一彦 当該資料中 意見に亘る部分は著者の私見であり 著者の属する

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

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問題 1 1 問題 1 1 納税義務者 相続税の納税義務者及び課税財産の範囲 課税価格 1 納税義務者 ⑴ 次に掲げる者は 相続税を納める義務がある 1 居住無制限納税義務者 ( 法 1 の 3 1 一 ) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において法施行地に住所を有するもの

時価で譲渡したものとみなされ所得税が課税され かつ その所得税は相続税の課税価格の計算上被相続人の債務として控除されていることにより 所得税と相続税の負担の調整は済んでいますので この特例の適用は受けられません 2 取得費に加算される金額平成 26 年度の改正前は 相続財産である土地等の一部を譲渡し

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事業承継税制の概要 事業承継税制は である受贈者 相続人等が 円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において その非上場株式等に係る贈与税 相続税について 一定の要件のもと その納税を猶予し の死亡等により 納税が猶予されている贈与税 相続税の納付が免除される

公共債の税金について Q 公共債の利子に対する税金はどのようになっていますか? 平成 28 年 1 月 1 日以後に個人のお客様が支払いを受ける国債や地方債などの特定公社債 ( 注 1) の利子については 申告分離課税の対象となります なお 利子の支払いを受ける際に源泉徴収 ( 注 2) された税金

M&A会計の解説 第11回 事業分離に関する税効果会計

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給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

申告所得税関係 手続名 帳票名平成年分セルフメディケーション税制の明細書 ( 次葉 ) 特定証券投資信託に係る配当控除額の計算書 平成 年分給与所得の源泉徴収票 ( 平成 28 年以降用 ) 平成 年分特定口座年間取引報告書 ( 平成 28 年以降用 ) 平成 年分公的年金等の源泉徴収票 ( 平成

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営業秘密とオープン&クローズ戦略

平成19年12月○日

2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

第一法基通改正7

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目次 サマリ 3 アンケート集計結果 5 回答者属性 12

株式等の譲渡(特定口座を利用していない場合)編

ブロックチェーン技術によるプラットフォームの実現 デロイトトーマツコンサルティング合同会社 2016 年 4 月 28 日 For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting LLC.

て 次に掲げる要件が定められているものに限る 以下この条において 特定新株予約権等 という ) を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権等に係る株式の取得をした場合には 当該株式の取得に係る経済的利益については 所得税を課さない ただし 当該取締役等又は権利承継相続人 ( 以下この項及

法関係法人税法関係 zeimu QA テーマ分類別索引 法人税

また 国外財産調書制度は 2013 年 12 月末の国外財産から調書の提出義務が始まりましたので 5,000 万円超の国外財産を保有の方はご留意ください これに関連して 国税庁より 2013 年 11 月 15 日に FAQ が発表されており FAQ は国税庁のホームページで閲覧等できます 資産税ニ

目次 調査趣旨 概要等 3 適用初年度の開示事例分析 6 補足調査 コーポレートガバナンスガイドラインの開示状況 18 ( 参考資料 ) コーポレートガバナンス コードの概要 24 本資料は当法人が公表情報を基に独自の調査に基づき作成しております その正確性 完全性を保証するものではございませんので

〇本事例集は 平成 31 年 3 月を期限とした個人の確定申告について 国税通則法関連 ( 所得税 の納税地を含む ) の 誤りやすい事例 について取りまとめています 〇本事例集は 誤りやすい事例 を載せた後に 正しい解釈 処理方法を提示しています なお 無用 な文字数 ページ数の増加を避けるため

税金読本(8-5)特定口座と確定申告

経 [2] 証券投資信託の償還 解約等の取扱い 平成 20 年度税制改正によって 株式投資信託等の終了 一部の解約等により交付を受ける金銭の額 ( 公募株式投資信託等は全額 公募株式投資信託等以外は一定の金額 ) は 譲渡所得等に係る収入金額とみなすこととされてきました これが平成 25 年度税制改

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コーポレート機能の仕組みが企業変革の障壁に グローバルでの競争激化とデジタル化の進展により 日本企業を取り巻く事業環境は急速に変化しています 従来の市場の枠組みが壊れ他業種プレイヤーがテクノロジーを武器に新たに市場参入してくる中 戦い方を大きく変えなければなりません また顧客のニーズや価値観の変化に

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土地の譲渡に対する課税 農地に限らず 土地を売却し 譲渡益が発生すると その譲渡益に対して所得税又は法人税などが課税される 個人 ( 所得税 ) 税額 = 譲渡所得金額 15%( ) 譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 - ( 取得費 + 譲渡費用 ) 取得後 5 年以内に土地を売却した場合の税率は30

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

投資情報 中国への短期出張におけるビザの取扱い情報 2015 年 1 月 1 日より中国において 外国人が入国して短期業務を遂行する際の関連手続き手順 ( 試行 ) ( 以下 78 号通達 と表記 ) が施行されたことに伴い 中国への短期出張者に関するビザの取扱いが一部変更されています 1 78 号

税法実務コース 海外勤務者と外国人の出国 入国 滞在時の国際税務 学習スケジュール 回数学習テーマ内容 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 1 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 第 7 章 第 8 章 テーマ 1 居住者 非居住者判定テーマ 2 課税範囲についてテー

目次 調査の背景と調査の意義 3 システム会社依存度の次元分解 ~ 因子分析 11 本調査の概要 4 推定システム会社依存度の 3 因子と経験年数からの分析 12 経験年数との相関分析 5 各因子の 推定システム会社依存度への影響を解析 13 経験年数との相関分析結果の解釈 6 システム会社の手配す

所令要綱

税金読本(16-2)税務署への財産債務の申告と国外転出時みなし譲渡益課税

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

株式等の譲渡(特定口座の譲渡損失と配当所得等の損益通算及び翌年以後への繰越し)編

[Q1] 復興特別所得税の源泉徴収はいつから行う必要があるのですか 平成 25 年 1 月 1 日から平成 49 年 12 月 31 日までの間に生ずる所得について源泉所得税を徴収する際 復興特別所得税を併せて源泉徴収しなければなりません ( 復興財源確保法第 28 条 ) [Q2] 誰が復興特別所

(1) 改正の内容 内容 現行制度 特例制度 納税猶予対象株式 納税猶予税額 発行済議決権株式総数の 3 分の 2 に達するまでの株式 贈与の場合 : 納税猶予対象株式に係る贈与税の全額 相続の場合 : 納税猶予対象株式に係る相続税の 80% 取得した全ての株式 贈与の場合 : 納税猶予対象株式に係

新しい非居住者債券所得非課税制度の概要 < 平成 22 年度税制改正前の制度の概要 > 非居住者等が受ける振替国債及び振替地方債のについては 一定の手続要件を満たせば非課税とされていました しかし 非居住者等が受ける振替社債等のについては 原則 15% の税率により源泉徴収課税がなされていました 非

株式等の譲渡(上場株式の譲渡損失の繰越し)編

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6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

1.修正申告書を作成する場合の共通の手順編

第11 源泉徴収票及び支払調書の提出

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投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

税理士法人トーマツ Newsletter

特定口座一般口座株式等の譲渡 売却などが該当 ) による所得は 申告分離課税の対象となっており 原則として お客さまによる譲渡損益の計算や申告納税の手続きが必要です 特定口座には これらの事務負担を軽減する機能があります 特定口座の機能 上場株式等の譲渡損益の計算 管理を行います 特定口座内に保管す

II. 課税標準の確定申告と納付 ( 地 税法第 103 条の23) 1. 申告期限 各事業年度の終了 が属する の末 から4ヶ 以内 ( 連結法 は5ヶ 以内 ) に納税地管轄の地 治 団体の に申告 納付しなければなりません 法 地 所得税の申告納付期限は下記のとおり 部変更されました 区分 従

1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

配当所得の入力編

1. 贈与税のながれ はじめに行う作業 1 データの 新規追加 2 税理士登録 3 受贈者登録 4 贈与者登録 贈与税申告書の作成 5 贈与税申告書 の作成 その他の帳票作成 印刷 6 税務代理権限証書 の作成 印刷 2

1. 相続税 (1) 基礎控除額の引き下げ 1) 改正の趣旨現在 ( ) の相続税の仕組みは 下図の通りです すなわち 合計課税価格から 基礎控除額を除いた課税遺産総額が相続税の計算の対象となるため 合計課税価格が基礎控除額の範囲内である場合には 相続税が課税されません その結果として 現状の相続税

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海外財産の相続 : 事例研究 ~ 米国の財産の相続手続き ( 第 4 回 ) 三輪壮一氏三菱 UFJ 信託銀行株式会社リテール受託業務部海外相続相談グループ米国税理士 これまで 海外に財産を保有する場合の 海外相続リスク の存在 特にプロベイト手続き等の相続手続きの煩雑さについて 米国の例を基に説明

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

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収益事業開始届出 ( 法人税法第 150 条第 1 項 第 2 項 第 3 項 ) 1 収益事業の概要を記載した書類 2 収益事業開始の日又は国内源泉所得のうち収益事業から生ずるものを有することとなった時における収益事業についての貸借対照表 3 定款 寄附行為 規則若しくは規約又はこれらに準ずるもの

~ この操作の手引きをご利用になる前に ~ この操作の手引きでは 確定申告書の作成方法を説明しています 操作を始める前に 以下の内容をご確認ください 共通の操作の手引きの確認入力方法やデータ保存 読込方法などを説明した ( 共通 )e-tax で送信するための準備編 又は ( 共通 ) 書面提出 (

非課税上場株式等管理に関する約款 第 1 条 ( 約款の趣旨 ) この約款は お客さまが租税特別措置法第 9 条の8に規定する非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得の非課税および租税特別措置法第 37 条の14に規定する非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税の特例 ( 以下 非課税

2004年7月

事業承継税制の全体像は ( 図表 1) の通りである ( 図表 1) 事業承継税制の全体像 経営者 1 代目 経営者 2 代目 一括贈与 大臣認定 贈与税の課税 贈与税の納税猶予の適用 相続税の納税猶予制度と同様 雇用確保を含む 5 年間の事業継続を行い その後も株式を継続保有 生前贈与により株式の

おき 太郎様 Inheritance Report 相続診断書 税理士法人おき会計 平成 28 年 7 月 20 日作成

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

税金読本(8-5)特定口座と確定申告

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ビジネス・タックス・ロー・ニューズレター

目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

2 2 上場株式等 の範囲の拡大 上場株式等には 上場株式 上場投資信託の受益権 (ETF) 上場不動産投資法人の投資口 (REIT) 公募株式等証券投資信託の受益権が含まれていた 今回の租税特別措置法の改正により 発行者の情報が一般に公開され その商品内容を入手することが容易に可能な公社債を 上場

1 仮想通貨の売却問保有する仮想通貨を売却 ( 日本円に換金 ) した際の所得の計算方法を教えてください ( 例 )3 月 9 日 2,000,000 円 ( 支払手数料を含む ) で4ビットコインを購入した 5 月 20 日 0.2 ビットコイン ( 支払手数料を含む ) を 110,000 円で

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1 どちらかをご選択特定口座と客さま般口座の特定口座の概要 特定口座とは 個人のお客さまが公募株式投資信託を換金され利益が出た場合は 原則 確定申告が必要ですが お客さまの確定申告にかかる負担を軽減させるべく当金庫が納税の代行などを行う制度として 特定口座 があります 特定口座 をご利用いただくこと

以下本人の給与収入速報 平成 29 年度税制改正解説所得課税 ~ 配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し 2 配偶者の給与収入が 万円超 15 万円以下の場合の改正案の控除額及び改正前後の影響について 配偶者特別控除 配偶者の給与収入 万円超 15 万円 15 万円以上 11 万円 11 万円以上 1

 

1 口当たりの基準価額 口数 + 再投資されていない未収分配金 - 再投資されていない未収分配金に係る源泉所得税相当額 ( 注 ) - 信託財産留保額および解約手数料 ( 消費税相当額を含む ) 注 : 特別徴収されるべき都道府県民税の額に相当する金額 および復興特別所得税を含みます ( 以下同 )

間の初日以後 3 年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間 6 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例事業者 ( 免税事業者を除く ) が簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に国内における高額特定資産の課税仕入れ又は高額特定資産に該当する課税貨物の保税地域からの引取り ( 以下 高

別表六 ( 一 ) 所得税額の控除に関する明細書 1 この明細書の用途この明細書は 法人が当期中に支払を受ける利子及び配当等並びに懸賞金等及び償還差益について課された所得税の額について 法第 68 条第 1 項 (( 所得税額の控除 ))( 復興財源確保法第 33 条第 2 項 (( 復興特別所得税

サービスパンフレットについて

概要 平成 27 年までと平成 28 年以後の証券税制の比較 平成 27 年までは 上場株式等 と 公社債等 の税制上の取扱いが異なっています 平成 28 年以後は 金融所得課税の一体化 により 上場株式等 と 公社債等 の税制上の取扱いが統一されます 平成 27 年まで 上場株式等 上場株式 公募

第68回税理士試験 消費税法 模範解答(理論)

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

Transcription:

中央経済社 税務弘報 2015 年 8 月号 国外転出時課税制度に関する改正 所得税基本通達 の解説 税理士法人トーマツ税理士山川博樹税理士法人トーマツ税理士中島礼子 はじめに平成 27 年度税制改正においては いわゆる 出国税 制度 ( 国外転出をする場合の譲渡所得税等の課税の特例 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の課税の特例等 以下 国外転出時課税制度 という ) が創設された これに対応して このほど所得税基本通達の改正が行われ 発遣された ( 所得税基本通達の制定について の一部改正について ( 法令解釈通達 ) ( 課個 2-7 ほか 平成 27 年 4 月 23 日発遣 )) また 本制度に係る申告書付表等の各種様式についても 国税庁ホームページにおいて公表された 本稿では (a) 新設通達を俯瞰した後に (b) 実務上特に重要と思われる通達について その概要を解説するとともに (c) 付表の記入方法について簡単な事例をもとに説明を行う 今回の所得税基本通達の改正では これらの規定に関連して 次頁の合計 31 本の通達が新設された 2. 解説 (1) 国外転出時に譲渡又は決済があったものとみなされた対象資産の収入すべき時期 ( 所基通 60 の 2-1) 納税管理人の届出を行わずに国外転出する場合 本特例に係るみなし譲渡の譲渡収入金額は国外転出予定日から起算して 3 か月前の日 ( 同日後に取得した有価証券等にあっては取得時 ) の対象資産の時価を基礎として計算する ( 所法 60 の 21 二 ) このため 譲渡収入の測定日と国外転出した日のいずれを 譲渡所得所等の収入すべき時期とすべきか疑問が生ずるところである この点 本通達において 収入すべき時期 は あくまで国外転出をした日である旨が明らかにされた 1. 新設通達一覧国外転出時課税制度とは 国外転出をする場合 あるいは贈与等により非居住者に資産を移転した場合 当該時点において対象資産の譲渡があったものとみなして所得税を課税するというものである 本制度に関連する所得税法上の規定としては (a) みなし譲渡に係る規定 ( 所法 60 の 2 3) (b) 納税猶予に関する規定 ( 所法 137 の 2 3) (c) 外国税額控除に関する規定 ( 所法 95 の 2 153 の 5) (e) 海外で 出国税 と同等の制度の適用を受けた場合の取扱規定 ( 所法 60 の 4) がある 1

国外転出時課税制度に関連する新設通達一覧 法 60 条の 2 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例 関係 60 の 2-1 国外転出時に譲渡又は決済があったものとみなされた対象資産の収入すべき時期 本稿における解説 2(1) 60 の 2-2 国外転出直前に譲渡した有価証券等の取扱い 60 の 2-3 有価証券等の範囲 2(2) 60 の 2-4 デリバティブ取引等の範囲 60 の 2-5 非課税有価証券の取扱い 2(2) 60 の 2-6 国外転出の時における有価証券等の価額 2(3) 60 の 2-7 外貨建ての対象資産の円換算 60 の 2-8 修正申告等をする場合における対象資産の国外転出時の価額等 60 の 2-9 対象資産を贈与により居住者に移転した場合の課税取消しと価額下落との関係 60 の 2-10 国外転出後に譲渡又は決済をした際の譲渡費用等の取扱い 2(4) 60 の 2-11 納税猶予期限が繰り上げられた場合等の価額下落の適用除外 法 60 条の3 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例 関係 60 の 3-1 非居住者である相続人等が限定承認をした場合 60 の 3-2 贈与等の時に有している対象資産の範囲 60 の 3-3 非居住者からの譲渡等をした旨の通知がなかった場合 60 の 3-4 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に関する取扱いの準用 法 60 条の4 外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例 関係 60 の 4-1 有価証券等の取得費とされる金額等の円換算 法 95 条の2 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の特例 関 係 95 の 2-1 納税猶予期限が繰り上げられた場合等の外国税額控除の適用除外 95 の 2-2 外国税額控除に関する取扱いの適用 法 137 条の2 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予 関係 137 の 2-1 修正申告等に係る所得税額の納税猶予 137 の 2-2 適用資産の譲渡又は贈与による移転をした日の意義 137 の 2-3 納税猶予分の所得税額の一部について納税猶予の期限が確定する場合の所 得税の額の計算 137 の 2-4 納税猶予の任意の取りやめ 137 の 2-5 納税猶予適用者が死亡した場合の納税猶予分の所得税額に係る納付義務の 承継 137 の 2-6 猶予承継相続人に確定事由が生じた場合 137 の 2-7 担保の提供等 2(5) 137 の 2-8 取引相場のない株式の納税猶予の担保 2(5) 137 の 2-9 納税猶予分の所得税額に相当する担保 137 の 2-10 増担保命令等に応じない場合の納税猶予の期限の繰上げ 法 137 条の3 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用が ある場合の納税猶予 関係 137 の 3-1 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予に関 する取扱いの準用 法 153 条の5 国外転出をした者が外国所得税を納付する場合の更正の請求の特例 関 係 153 の 5-1 法第 153 条の2の更正の請求の適用がある場合の法第 153 条の5の更正の請 求の取扱い 153 の 5-2 外国所得税を納付することとなる日の意義 2

譲渡所得等の 収入すべき時期 3 か月 国外転出予定日の 3 か月前の日 国外転出予定日 国外転出した日 この時点の時価にて譲渡収入を計算 譲渡所得等の 収入すべき時期 (2) 有価証券の範囲 ( 所基通 60 の 2-3 60 の 22-5) 納税者が 受益者等課税信託や任意組合等を通じて有価証券を保有している場合 国外転出時課税制度の適用上 これを 有価証券 として取り扱うのか否かという疑問が生ずる この点 今回の通達改正により 受益者等課税信託の信託財産に属する有価証券や 任意組合等の組合財産である有価証券等 その譲渡による所得が居住者の譲渡所得等として課税されるものについては 所得税法 60 条の 2 及び 60 条の 3 の規定の上 有価証券として取り扱う旨が明らかにされた ( 所基通 60 の 2-3 60 の 3-4) また 公社債や NISA 口座内の有価証券等 譲渡を行った場合に非課税とされる有価証券についても 本特例の適用上 有価証券 に含まれる ( つまり 課 税対象者の判定上 保有有価証券の時価の合計額に含める ) 旨が留意的に明らかにされている ( 所基通 60 の 2-5 60 の 3-4) (3) 国外転出の時における有価証券等の価額 ( 所基通 60 の 2-6) 国外転出時課税制度においては 国外転出時 ( あるいは非居住者への贈与等による移転時 ) において 有価証券を時価にて譲渡したものとみなすわけであるが ここで 譲渡所得等の計算上 有価証券の時価を具体的にどのように算定するかという疑問が生ずる 今回の通達改正においては 有価証券等の 時価 について 有価証券等の区分に応じ 次の方法により算定することが示された ( 所基通 60 の 2-6 60 の 3-4) 有価証券の 時価 の評価方法 区分 評価方法 (i) 下記以外 (ii) 公社債 公社債投資信託 所基通 23~35 共 -9 及び 59-6 の取扱いに準じて算定した価額 財産評価基本通達 8 章 2 節 公社債 の取扱いに準じて算定した価額 ( 注 1) 法 60 条の 2 第 1 項第 2 号の国外転出の予定日から起算して 3 月前の日後に取得をした有価証券等の当該取得時の価額については 原則として 当該有価証券等の取得価額による ( 注 2) 法 60 条の 2 第 8 項に規定する限定相続等による移転があった場合における当該限定相続等の時における当該有価証券等の価額についても 上記と同様に算定した価額による 前表 (i) の 所基通 23~35 共 -9 及び 59-6 により算定した価額 とはすなわち 所得税法 59 条 1 項の低額 ( 無償 ) 譲渡に係るみなし譲渡規定において 譲渡収入金額を算定する際の 時価 を指す これは ごくおおざっぱに言えば 上場株式については 公表された最終の価格をもって時価とし 非上場株 式 ( 売買実例なし 公開途上にない 類似する他の法人の株式の時価なし ) については 1 株又は 1 口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額 をもって時価とするというものである この 1 株又は 1 口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額 とは 一定 3

の条件のもと 財産評価基本通達 178 から 189-7 まで (( 取引相場のない株式の評価 )) の例により算定した価額とされている (4) 納税猶予に際しての担保の提供等 ( 所基通 137 の 2-7 137 の 2-8) 国外転出時課税の適用により 所得税の納税額が生じた場合においても 担保提供等の一定の手続を行うことにより 最長 5 年 (10 年 ) 間の納税猶予を適用することが可能である ( 所法 137 の 21 137 の 31) 今回の通達改正において 国外転出時課税に係る納税猶予の担保の提供に関して 国税通則法 50 条 担保の種類 から 54 条 担保の提供等に関する細目 までの規定の適用があることが留意的に明らかにされた ( 所基通 137 の 2-7 137 の 3-1) また 一部実務家の間では 非上場株式が担保として認められるかという点が注目されていたが 今回の通達改正において 次のいずれかに該当する事由があるときは 非上場株式を納税猶予の担保として認められる旨が明らかにされた ( 所基通 137 の 2-8 137 の 3-1) 際譲渡収入金額に引き直すことが可能である ( 所法 60 の 28 所法 153 の 22) ここで 実際の譲渡において発生した譲渡費用は 国外転出時課税の譲渡所得等の計算において控除することができるのかという疑問が生ずる この点について 今回の通達改正において 実際の譲渡において譲渡費用が発生したとしても これを国外転出時課税における譲渡所得金額の計算上 控除することは認められない旨が明らかにされた ( 所基通 60 の 2-10 60 の 3-4) 3. 確定申告書付表 3 の記入例国外転出時課税制度の創設に伴い このほど これに関係する所得税申告書付表等の各種様式が国税庁ホームページで公表された 4 以下では このうち 国外転出等の時に譲渡又は決済があったものとみなされる対象資産の明細書 ( 兼納税猶予の特例の適用を受ける場合の対象資産の明細書 ) 確定申告書付表 の様式を紹介する < 非上場有価証券の担保提供の要件 > 法 60 条の 2 の規定により課税された財産のほとんどが取引相場のない株式であり かつ 当該株式以外に納税猶予の担保として提供すべき適当な財産がないと認められること 取引相場のない株式以外に財産があるが 当該財産が他の債務の担保となっており 納税猶予の担保として提供することが適当でないと認められること (5) 実際の譲渡価額による場合の譲渡費用 ( 所基通 60 の 2-10) 国外転出時において譲渡 ( 決済 ) があったものとみなした対象資産を その後 実際に譲渡等した場合において 1 その譲渡収入金額が当初申告における収入金額より低い場合 2 には 更正の請求を行うことにより 当初申告におけるみなし譲渡の収入を実 1 納税猶予適用期間中に限る 2 未決済デリバティブについては実際の決済利益金額が当初申告における決済利益金額を下回るとき 3 国外転出時課税制度の適用に際し 上記のほかに少なくとも以下の書類の提出が必要となる 国外転出時まで納税管理人の届出書 確定申告時平成 27 年分所得税及び復興特別所得税の確定申告書 B 株式に係る譲渡所得等の金額の計算明細書なお 納税猶予を適用する場合 確定申告書に 国外転出する場合の譲渡所得等の特例に係る納税猶予分の所得税及び復興特別所得税額の計算書 の添付が必要であるほか 担保提供等の手続が必要 4 国税庁ホームページ : ホーム> 申告 納税手続 > 国外転出時課税制度 4

国外転出の時に譲渡又は決済があったとみなされる対象資産の明細書 ( 兼納税猶予の特例の適用を受ける場合の対象資産の明細書 ) 確定申告書付表 記入例 5

< 事例 > 1) 国外転出までに納税管理人の届出をし 平成 27 年 8 月 22 日に国外転出した ( 納税猶予適用 ) 2) 国外転出時 ( 平成 27 年 8 月 22 日 ) に所有等している対象資産は以下のとおり 種類銘柄数量国外転出時の価額取得費 有価証券 ( 株式 ) X 興産 5,000 株 200,000,000 50,000,000 有価証券 ( 株式 ) Y 電気 1,000 株 30,000,000 25,000,000 デロイトトーマツグループは日本におけるデロイトトウシュトーマツリミテッド ( 英国の法令に基づく保証有限責任会社 ) のメンバーファームおよびそのグループ法人 ( 有限責任監査法人トーマツ デロイトトーマツコンサルティング合同会社 デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 税理士法人トーマツおよび DT 弁護士法人を含む ) の総称です デロイトトーマツグループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり 各法人がそれぞれの適用法令に従い 監査 税務 法務 コンサルティング ファイナンシャルアドバイザリー等を提供しています また 国内約 40 都市に約 8,500 名の専門家 ( 公認会計士 税理士 弁護士 コンサルタントなど ) を擁し 多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています 詳細はデロイトトーマツグループ Web サイト (www.deloitte.com/jp) をご覧ください Deloitte( デロイト ) は 監査 コンサルティング ファイナンシャルアドバイザリーサービス リスクマネジメント 税務およびこれらに関連するサービスを さまざまな業種にわたる上場 非上場のクライアントに提供しています 全世界 150 を超える国 地域のメンバーファームのネットワークを通じ デロイトは 高度に複合化されたビジネスに取り組むクライアントに向けて 深い洞察に基づき 世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを提供しています デロイトの約 220,000 名を超える人材は making an impact that matters を自らの使命としています Deloitte( デロイト ) とは 英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイトトウシュトーマツリミテッド ( DTTL ) ならびにそのネットワーク組織を構成するメンバーファームおよびその関係会社のひとつまたは複数を指します DTTL および各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体です DTTL( または Deloitte Global ) はクライアントへのサービス提供を行いません DTTL およびそのメンバーファームについての詳細は www.deloitte.com/jp/about をご覧ください 2015. For information, contact Deloitte Tohmatsu Tax Co. Member of Deloitte Touche Tohmatsu Limited 6