野村資本市場研究所|顕著に現れた相続税制改正の影響-課税対象者は8割増、課税割合は過去最高の8%へ-(PDF)

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目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

Microsoft Word - 第67号 来年からの贈与税改正と相続時精算課税を選択する際の注意点

(2) 課税状況の累年比較 申告状況 課税価格相続税額税額控除被相続人の数相続人の数金額人千円千円千円人 平成 24 年 平成 25 年 平成 26 年 平成 27 年 8, ,371,256 50,659,924 15,868

相続税・贈与税の基礎と近年の改正点

(2) みなし相続財産ものか13 第1 章12 2 課税される 相続財産 の範囲 海外にある財産も課税対象となる 贈与税の暦年課税適用財産も 3 年以内は課税対象となる 葬式費用 墓地や墓碑 仏壇 仏具等は非課税 相続税の課税対象となる相続財産は (1) 被相続人が亡くなったときに所有していた財産

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

相続人の居住用または事業用の宅地については2 割または5 割評価にするという小規模宅地等の評価減の特例があるが 平成 22 年度税制改正により 原則として申告期限まで居住または事業を継続していなければ適用が認められなくなっている 今回 基礎控除額が引き下げられることと合わせ 都市部の独居老人が亡くな

スライド 1

平成 25 年度税制改正解説相続税 ~ 基礎控除の引き下げ 税率構造の見直し等 法定相続人の数と基礎控除法定相続人の数と基礎控除 法定相続人の数 1 人 2 人 3 人 4 人 5 人 60,000 千円 70,000 千円 80,000 千円 90,000 千円 100,000 千円 36,000

Microsoft Word - 第53号 相続税、贈与税に関する税制改正大綱の内容

2011年税制改正のポイント

東京太郎様 Inheritance Report 相続診断書 弁護士法人 税理士法人リーガル東京 平成 30 年 8 月 20 日作成

税制改正を踏まえた生前贈与方法の検討<訂正版>

平成 22 年 11 月 25 日 資料 ( 資産課税 )

暦年課税の贈与を毎年する人のデータ 暦年課税の贈与は 現金を贈与するのか不動産を贈与するのかで違ってきます 土地は路線価方式または倍率方式で評価し建物は固定資産税評価額で評価しますので 現金での贈与の場合よりも税率は低くなります ただし不動産の贈与では 土地や建物の贈与または共有持分の贈与になります

一戸建ての自宅を所有している人のデータ 東京都内やその近郊など路線価の高い宅地に一戸建ての自宅を所有し その他に預貯金や有価証券を保有している人の相続税シミュレーションになります 路線価が高いと自宅の敷地の面積が広くなくても その宅地の評価額は高額になりますので この宅地に対して小規模宅地等の特例が

2011年度税制改正大綱(相続・贈与税)

コピー又は web からダウンロードしてご使用ください 答案用紙 Chapter1 問題 1 個人とみなされる納税義務者 Ⅰ 相続人及び受遺者の相続税の課税価格の計算 1 遺贈財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 取得者財産の種類計算過程金額 2 生前贈与加算される贈与財産の額の計算 ( 単位 :

問題 1 1 問題 1 1 納税義務者 相続税の納税義務者及び課税財産の範囲 課税価格 1 納税義務者 ⑴ 次に掲げる者は 相続税を納める義務がある 1 居住無制限納税義務者 ( 法 1 の 3 1 一 ) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において法施行地に住所を有するもの

相続税の節税対策としての生前贈与 相続税 贈与税はともに相手に渡る財産の金額に対して累進的な税率により税金がかかりま す そこで 相続税の税率よりも低い税率で贈与をすれば 相続税の節税になります 下の 図で相続税と贈与税税率を確認して下さい 贈与税は 相続税に比べ 基礎控除額が低く さらに税率が高く

このうち 申告納税額がある方 ( 納税人員 ) は640 万 8 千人で は41 兆 4,298 億円 申告納税額は3 兆 2,037 億円となっており 平成 28 年分と比較すると 人数 (+0.6%) (+ 3.4%) 及び申告納税額 (+4.6%) はいずれも増加しました 所得者区分別の状況イ

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

Microsoft Word 常発041号 改正相続税法等の周知について(・

平成 22 年 12 月 7 日 資料 ( 資産課税 )

3.相続時精算課税の適用を受ける場合編

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

土地の譲渡に対する課税 農地に限らず 土地を売却し 譲渡益が発生すると その譲渡益に対して所得税又は法人税などが課税される 個人 ( 所得税 ) 税額 = 譲渡所得金額 15%( ) 譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 - ( 取得費 + 譲渡費用 ) 取得後 5 年以内に土地を売却した場合の税率は30

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2015 年 1 月いよいよ施行! 相続税増税の影響と対策 Part 1 相続税はどう変わる? 影響は? Part 2 相続税の負担を軽減するには?

配偶者がいる人の一次相続と二次相続のデータ 被相続人に配偶者がいる一次相続と 配偶者がいない二次相続の相続税シミュレーションを行います 配偶者の税額軽減は その節税効果が大きいために一次相続で相続税を大幅に減額することができますが 次の二次相続では想定外の相続税が発生することがあります 配偶者がいる

3.相続時精算課税の適用を受ける場合編

[2] 税率構造の見直し 相続税の税率構造が現行の6 段階から8 段階に変更されるとともに 最高税率が 50% から 55% に引き上げられることとなりました ただし 各法定相続人の取得金額が2 億円以下の場合の税率は と変わりありません この改正は 平成 27 年 1 月 1 日以後に相続または遺

土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

Microsoft Word - uchida_report_24++.doc

税法入門コース 相続税 学習スケジュール 回数学習テーマ内容 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 4 回 第 4 回 第 1 章 第 2 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 4 章 第 5 章 テーマ 1 相続税 贈与税とは? テーマ 2 用語の説明 テーマ 1 相続人となれる人は? テ

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

おき 太郎様 Inheritance Report 相続診断書 税理士法人おき会計 平成 28 年 7 月 20 日作成

5 適用手続 ⑴ 相続時精算課税の適用を受けようとする受贈者は 贈与を受けた財産に係る贈与税の申告期間内に 相続時精算課税選択届出書 ( 贈与者ごとに作成が必要 ) を贈与税の申告書に添付して 納税地の所轄税務署長に提出する ( 相法 21の92) なお 提出された当該届出書は撤回することができない

第 5 章 N

固定資産税の課税のしくみ < 評価額と課税標準額と税額の推移 > ( 土地編 ) 課税標準額 評価額 税 額 なぜ, 地価が下落しているのに, 土地の固定資産税が上昇するの!? 2 なぜ, 平成 6 年評価額が急激に上昇したの!? 3 < 公的土地評価相互の均衡と適正化 > < 地価公示価格の一定割

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3.相続時精算課税の適用を受ける場合編

日本の富裕層は 122 万世帯、純金融資産総額は272 兆円

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

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未成年者控除 障害者控除の見直し 未成年者控除 障害者控除 6 万円 20 歳に達するまでの年数 6 万円 ( 特別障害者 :12 万円 ) 85 歳に達するまでの年数 10 万円 20 歳に達するまでの年数 10 万円 ( 特別障害者 :20 万円 ) 85 歳に達するまでの年数 小規模宅地等につ

2 税額控除等の計算 ( 単位 : 円 ) 項目対象者計算過程金額 答案用紙 Chapter2 問題 3 課税価格の計算 Ⅰ 相続人及び受遺者の相続税の課税価格の計算 1 分割財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 2 みなし取得財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 取得者財産の種類計算過程金額

配偶者の税額軽減特例の有利な受け方 配偶者がいる場合の 相続税の具体的な計算例は以下の通りです 1. 設例 自宅 預貯金等の相続財産の遺産額 =2 億円 法定相続人 = 配偶者 + 子 2 人の合計 3 人 実際の遺産分割は 法定相続分の通りとする 未成年者控除 外国税額控除 生命保険金の非課税枠金

課税遺産総額 = 各人の課税価格 ( ア ) の合計額 - 遺産に係る基礎控除額ウ相続税の総額の計算 1 課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定し 各人ごとの取得金額を計算する 2 1に税率をかけ 各人の税額を合計する (= 相続税の総額 ) エ各人の相続税額の計算相続税の総

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

目 次 ページ テーマ 1 データで見る相続税申告 1~4 テーマ 2 相続税申告までのスケジュール 5 テーマ 3 相続税計算の仕組み 6~7 テーマ 4 相続税申告における実務上の問題点 8~12

1. 相続税 (1) 基礎控除額の引き下げ 1) 改正の趣旨現在 ( ) の相続税の仕組みは 下図の通りです すなわち 合計課税価格から 基礎控除額を除いた課税遺産総額が相続税の計算の対象となるため 合計課税価格が基礎控除額の範囲内である場合には 相続税が課税されません その結果として 現状の相続税

相続税計算 例 不動産等の評価財産の課税評価額が 4 億 8 千万円 生命保険金の受取額が 2 千万円 現金 預金等が 4 千万円 ローン等の債務及び葬式費用等が 3 千万円である場合の相続税を計算します 相続人は妻と 2 人の子供の 3 人です ( 評価額を計算するには専門知識を要します 必ず概算

給与所得控除額の改正前後の比較 改正前 改正後 給与等の収入金額給与所得控除額給与等の収入金額給与所得控除額 180 万円以下 収入金額 40% 65 万円に満たない場合は 65 万円 180 万円以下 収入金額 40%-10 万円 55 万円に満たない場合は 55 万円 180 万円超 360 万

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第25回税制調査会 総25-1

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

( 図表 1-2) 課税割合 ( 課税対象被相続人数 / 被相続人全体 100(%) ( 注 ) 財務省公表資料による こうした中で 多くの相続税納税者にとって評価額が高額で相続税納税上の負担増が大きい一定の小 規模宅地については 課税強化への影響を緩和するため 相続税強化が行われた 2015 年に

13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

相続税の総額の計算法定相続分であん分課税遺産総額実際の相続割合であん分超過累進税率の適用税価格の合計額の総額税額 基礎控除額遺産に係る相続税の基礎知識 (1) 相続税の計算過程 相続人が配偶者と子 2 人の場合課法定相続分 法定相続分 税額 算出税額 法定相続分 税額 相続税算出税額 税額控除相続人

<918A91B190C F0939A91AC95F BD90AC E A>

平成 31 年度住宅関連税制改正の概要 ( 一社 ) 住宅生産団体連合会 平成 31 年 3 月 (1) 住宅ローン減税の拡充 ( 所得税 個人住民税 ) 消費税率 10% が適用される住宅取得等をして 2019 年 10 月 1 日から 2020 年 12 月 31 日までの間にその者の居住の用に

事例 父 ( ) が 年 5 月 9 日に亡くなり ( 亡くなられた人のことを 被相続人 といいます ) 母 ( 国税花子 ) 私 ( 国税一郎 ) 妹 ( 税務幸子 ) の 人で父の財産を相続しました 父が残した財産は 自宅のある土地と家屋 上場株式 現金 預金 生命保険金です 父が亡くなった年分

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

テキスト編 第 1 章相続税 贈与税とはなにか 目次 1 相続税が課税される理由 1 2 どれくらいの遺産がある場合 相続税は課税されるか 2 3 贈与税が課税される理由 3 4 相続税と贈与税の関係 4 第 2 章相続人と相続分 1 相続人と相続順位 5 2 相続の承認と放棄 14 3 相続人の相

相続税に関するチェックリスト

2. 改正の趣旨 背景 (1) 問題となっていたケース < 親族図 > 前提条件 1. 父 母 ( 死亡 ) 父の財産 :50 億円 ( すべて現金 ) 財産は 父 子 孫の順に相続する ( 各相続時の法定相続人は 1 名 ) 2. 子 子の妻 ( 死亡 ) 父及び子の相続における相次相続控除は考慮

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(3) 年金所得者公的年金等の収入金額が400 万円以下であり かつ その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合において公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20 万円以下である場合には 確定申告の必要はありません また 上記 (2) 又は (3) に該当する方であっても 医療費控除や住宅借入金

特別障害者一人につき 75 万円を所得から控除することができます 障害者控除は 扶養控除の適用がない16 歳未満の扶養親族を有する場合においても適用されます ⑶ 心身障害者扶養共済掛金の控除 P128 条例の規定により地方公共団体が実施するいわゆる心身障害者扶養共済制度による契約で一定の要件を備えて

自宅の他に賃貸マンションと駐車場を所有している人のデータ 自宅の他に賃貸マンションと駐車場を所有している人の 法定相続人の数と相続財産および債務のデータから相続税を試算します 賃貸マンションについては全室が賃貸用かどうか 駐車場については舗装がしてあるかどうかで評価額が違ってくることがあります また

1.一般の贈与の場合(暦年課税)編

相続税準備ガイド

(2) 滞納残高 イ 税目別の滞納残高 平成 18 年度平成 19 年度平成 2 年度平成 21 年度平成 22 年度平成 23 年度平成 24 年度平成 25 年度平成 26 年度平成 27 年度 申告所得税 2,119 2,72 1,994 1,921 1,871 1,871 1,784 1,7

Microsoft Word - 平成15年税制改正(2).doc

3. 研究の概要等 1 章では 第 1 節で相続税法の歴史的経緯について 特に贈与の位置づけの変遷を中心に概観し 明治 38 年に創設された相続税法での贈与に対する扱いはどうであったのか また 昭和 22 年のシャベル勧告により贈与税が導入され 昭和 25 年のシャウプ勧告で廃止 その後 昭和 28

2. 改正の趣旨 背景 国内に住所を有しないことにより相続税 贈与税の課税を免れる租税回避行為を抑制するため 平成 12 年度改正 ( 相続人 受贈者の国籍による納税義務判定の導入 ) 平成 25 年度改正 ( 相続人 受贈者が日本国籍なしの場合の課税強化 ) が行われてきた 平成 29 年度改正で

事業承継税制の概要 事業承継税制は である受贈者 相続人等が 円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において その非上場株式等に係る贈与税 相続税について 一定の要件のもと その納税を猶予し の死亡等により 納税が猶予されている贈与税 相続税の納付が免除される

公益法人の寄附金税制について

2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

時価で譲渡したものとみなされ所得税が課税され かつ その所得税は相続税の課税価格の計算上被相続人の債務として控除されていることにより 所得税と相続税の負担の調整は済んでいますので この特例の適用は受けられません 2 取得費に加算される金額平成 26 年度の改正前は 相続財産である土地等の一部を譲渡し

である 12 遺留分とは 遺言の内容にかかわらず一定の相続人が確実に受け取ることができる一定の 割合のことである 直系尊属のみが相続人である場合は 被相続人の財産の 1/3 その 他の場合には 被相続人の財産の 1/2 である ただし 兄弟姉妹には遺留分はない 13 相続の放棄は 被相続人の生前に行

相続税を計算してみましょう!

<TAC> 無断複写 複製を禁じます ( 税 18) 相上 (8)C10-1 相続税法 上級 演習 8 テキスト 2 第 8 回 - 解答 点 - 第一問 問 1 持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があった場合において 税負担の不当減少を防 止

2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

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日興証券

Microsoft Word - 36号事業承継.doc

平成23年度税制改正の主要項目

( 相続時精算課税適用者の死亡後に特定贈与者が死亡した場合 ) (6) 相続時精算課税適用者 ( 相続税法第 21 条の9 第 5 項に規定する 相続時精算課税適用者 をいう 以下 (6) において同じ ) の死亡後に当該相続時精算課税適用者に係る特定贈与者 ( 同条第 5 項に規定する 特定贈与者

新・NPO法人申請マニュアル.pwd

用語の意義 この FAQ において使用している用語の意義は 次のとおりです 用語 意義 所得税法 ( 所法 ) 所得税法 ( 昭和 40 年法律第 33 号 ) をいいます 所得税法施行令 ( 所令 ) 所得税法施行令 ( 昭和 40 年政令第 96 号 ) をいいます 改正所令 所得税法施行令の一

2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

2017 年度税制改正大綱のポイント ~ 積立 NISA の導入 配偶者控除見直し ~ 大和総研金融調査部研究員是枝俊悟

問 1 ( 続き ) ⑵ 債務の意義 1 控除すべき債務 (➋ 点 ) ⑴ により控除すべき債務は 確実と認められるものに限る 2 公租公課の金額 (➍ 点 ) ⑴ により控除すべき公租公課の額は 被相続人の死亡の際納税義務が確定しているもののほか 被相続人の死亡後 相続税の納税義務者が納付し 又は

4.住宅取得等資金の非課税の適用を受ける場合編

固定資産税等の概要及び税収動向等 3-1

金庫株を活用した事業承継対策 1. 概要 非上場株式を相続して相続税が発生する場合は 相続で取得した自社株を相続税の申告期限後 3 年以内に金 庫株すればみなし配当課税しない (= 譲渡所得とする ) 特例があります ( 措置法 9 条の 7) 所得税の特例の内容 ( 自己株式をみなし配当課税しない

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

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顕著に現れた相続税制改正の影響 - 課税対象者は 8 割増 課税割合は過去最高の 8% へ - 宮本佐知子 要約 1. 1 年末 国税庁から 15 年分の相続税の申告状況が公表された これは 15 年中に亡くなられた人から相続や遺贈などにより財産を取得した人についての相続税の申告状況の概要を示すものであり 15 年開始の相続税制改正の影響を把握できる速報性の高い資料として注目される 相続税は 15 年から基礎控除の引き下げ等の改正が行われており 相続税の課税対象者の裾野が広がると見込まれていた. 本稿では 国税庁から公表された資料を基に分析した 15 年開始の相続税制改正の影響について 結果の概要を示す 全国の影響としては 15 年に亡くなられた人 ( 被相続人 ) のうち課税対象となった被相続人数が 83% 増加し その課税割合は現行課税方式の下で過去最高となる 8.% に達した 理由として 基礎控除の引き下げや財産価格の上昇により これまでは課税対象とならず申告不要だった階層でも新たに課税対象となる人が増えたためと考えられる 3. また 地域別の影響としては どの国税局でも顕著な影響が見られており 特に課税割合が高い東京国税局では 15 年には 1.7% へと 前年の 7.5% から増加した 一方で 東京以外の地方圏では 課税対象となった被相続人数や相続人数などは前年からの変化率が大きくなっている また 相続税が課される財産のうち現金 預金の割合は趨勢的に増加しており 15 年には過半の国税局において最も多い相続財産となった. このように 15 年開始の相続税制改正の影響は顕著に現れている この制度変更により 総じて相続税は大衆化が進み 最早これまでのようなごく一部の資産家対象の税ではなくなっている また 相続税制改正の影響を考える上では 資産家の人数が多い東京など大都市圏に目を奪われがちだが 実は地方圏でも今回の改正を機に大きな変化が生じている 1

1 年末に 国税庁から 15 年分の相続税の申告状況が公表された 相続税は 相続財産から基礎控除と呼ばれる非課税枠を差し引いて計算するが 15 年 1 月 1 日から基礎控除が 5, 万円 +(1, 万円 法定相続人の数 ) から 3, 万円 +( 万円 法定相続人の数 ) に引き下げられており 相続税の課税対象者の裾野が広がると見込まれていた 1 本稿では 国税庁から公表された資料を基に分析した相続税制改正の影響について 概要を示す Ⅰ. 初めて明らかとなった 15 年開始の相続税制改正の影響 1 年末 国税庁から資料 平成 7 年分の相続税の申告状況について が公表された これは 15 年中に亡くなられた人から 相続や遺贈などにより財産を取得した人についての相続税の申告状況の概要を示す資料であり 15 年開始の相続税制改正の影響を把握できる速報性の高い資料として注目される 全国ベースでの影響としては 以下の点で変化が見られた 1. 被相続人数 : 相続税の課税対象となった被相続人数は 83% 増加 15 年中に亡くなられた人数 ( 被相続人数 ) は 19 万 人であり 前年から 1.% 増加した ( 図表 1) このうち 相続税の課税対象となった被相続人数は 1 万 3,3 人であり 前年から 83% 増加した 図表 1 被相続人数と課税対象被相続人数の推移 ( 万人 ) 1 1 1 8 ( 万人 ) 1 1 1 8 被相続人数 ( 左目盛 ) 課税対象被相続人数 ( 右目盛 ) 1 この改正は 平成 5 年度税制改正により平成 7 年 1 月 1 日から施行されており 本稿では 15 年開始の相続税制改正 とする 改正内容の詳細は国税庁 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし ( 平成 7 年 1 月 1 日施行 )http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sozoku/aramashi/pdf/all.pdf 参照

. 課税割合 : 過去最高の 8.% に上昇課税割合とは 被相続人のうち相続税の課税対象となった被相続人の割合のことである 15 年の課税割合は 8.% であり 前年の.% から 3. ポイント増加した ( 図表 ) 15 年の課税割合は 現行の課税方式の下で過去最高となった 図表 課税割合の推移 (%) 1 8 3. 相続人数 : 前年から 75% 増加相続税の納税者である相続人数は 15 年は 3 万 3,555 人であり 前年から 75% 増加した ( 図表 3) また 被相続人 1 人当たりの相続人数は 15 年は.7 人であり 前年から.1 人減少した 図表 3 相続人数の推移 ( 万人 ) 5 15 1 5 3

. 課税価格 : 前年から 7% 増加課税価格とは 相続財産価額に相続時精算課税適用財産価額を加え 被相続人の債務 葬式費用を控除し 相続開始前 3 年以内の被相続人から相続人などへの生前贈与財産価額を加えたものである 15 年の課税価格は 1 兆 5,55 億円であり 前年から 7% 増加した ( 図表 ) また 被相続人 1 人当たりの課税価格は 15 年は 1 億,1 万円であり 前年から 31% 減少した 図表 課税価格の推移 ( 兆円 ) 1 1 1 1 8 5. 税額 : 前年から 3% 増加 15 年の税額は 1 兆 8,11 億円であり 前年から 3%(8 億円 ) 増加した また 被 相続人 1 人当たりの税額は 15 年は 1,758 万円であり 前年から 9% 減少した ( 図表 5) 図表 5 税額の推移 ( 兆円 ). 1.5 1..5.

. 相続財産の金額の構成比 : 現金 預貯金等 の構成比が増加相続財産のうち金額の構成比が多いのは順に 土地 (38%) 現金 預貯金等 (31%) 有価証券 (15%) である ( 図表 ) 前年に比べると 土地 や 有価証券 が減少した一方 現金 預貯金等 は増加した 現金 預貯金等 の割合は これまでも趨勢的に上昇しており 15 年は過去最高となっている 1% 図表 相続財産の金額の構成比の推移 8% % % % その他 現金 預貯金等有価証券 家屋 土地 % Ⅱ.15 年開始の相続税制改正がもたらしたもの このように 15 年開始の相続税制改正の影響は大きく 被相続人のうち相続税の課税対象となった被相続人の割合は 現行の課税方式の下で過去最高となる 8.% へ急増した この理由として 基礎控除の引き下げや財産価格の上昇により これまでは課税対象とならず申告不要だった階層でも 新たに課税対象となる人が増えたためと考えられる 特に 1 億円以下の課税価格階級 の被相続人数は 1 年には課税対象となった被相続人全体の % を占めていたが 15 年には大幅に増加し その結果 被相続人 1 人当たりの課税価格を 3 割減少させたと見られる また被相続人 1 人当たりの相続人数はもともと減少傾向にあったが 15 年は減少ペースが加速しており 課税対象事例のうち二次相続が占める割合が増えたと考えられる そのため 総じて相続税は 15 年からの改正により大衆化が進み 最早これまでのようなごく一部の資産家対象の税ではなくなっている また 国税局別にも分析したところ どの地域においても顕著な影響が見られたが 特に課税割合が高い東京国税局では 1 年の 7.5% から 15 年には 1.7% へと上昇しており 今回の改正によって相続税がより一般的なものになっている 一方で 地方圏の方が課税対象となった被相続人数や相続人数などの変化率は大きかった また 相続税が課さ 5

れる財産のうち最も多い財産は 全国ベースでは 土地 だが 国税局別に見ると 土地 を 現金 預金 が上回る動きが見られており 札幌国税局に続き 15 年には 国税局で首位の財産が交代した 相続税制改正の影響としては 富裕層の人数が多い東京など大都市圏に目を奪われがちだが 実は地方圏でも今回の改正を機に大きな変化が生じている このように影響が大きかった 15 年開始の相続税制改正だが この制度変更はバブル後の地価の大幅下落等への対応や 格差の固定化の防止等の観点から 基礎控除の引き下げと最高税率の引き上げなど税率構造の見直しが行われたものである 基礎控除については バブル期の地価急騰による税負担緩和のために数次に亘り引き上げられたが その後は地価が下落しても据え置かれ 15 年に現行の課税方式の下で初めて引き下げられたという経緯がある ( 図表 7) そのため 今回の改正による相続税収が財務省の事前予想を大きく上回ったとはいえ 日本の財政状況が厳しく消費増税が予定され 負担の公平感を期すとの流れがある一方で バブル期のような地価高騰も見込みづらい環境下では 基礎控除が再度見直されるとすれば 引き上げの可能性は低いと考えられる 図表 7 相続税の基礎控除の改正 年 内容 1975, 万円 +( 万円 法定相続人の数 ) 1988, 万円 +(8 万円 法定相続人の数 ) 199,8 万円 +(95 万円 法定相続人の数 ) 199 5, 万円 +(1, 万円 法定相続人の数 ) 15 3, 万円 +( 万円 法定相続人の数 ) ( 注 ) 現行課税方式の下での改正を示した ( 出所 ) 財務省資料より野村資本市場研究所作成 平成 5 年度税制改正時には 基礎控除の見直しにより,57 億円 税率構造の見直しにより 1 億円が平年度ベースで見込まれていた