エキノコックス (Echinococcus) ( 仮訳 ) 鹿児島大学岡本嘉六 ECDC: エキノコックス症 (Echinococcosis) エキノコックス症は サナダムシの幼虫 ( シスト 包虫嚢胞 ) によって引き起こされる人獣共通感染症 ( 動物からヒトに伝播する ) である 虫卵は感染した犬やキツネの糞便内に排泄され これらの動物との濃厚接触や汚染された食品を通して虫卵を摂取することによってヒトが感染する シストが寄生する最も一般的な部位は肝臓であるが 肺 腎臓 脾臓 神経組織を含むほぼ全ての臓器にエキノコックスの虫卵を摂取してから数年後にシストを形成する シストが形成されると その大きさによって症状が現れる 肺のシストは 癌のように組織に浸潤して 未治療の場合は常に死に至る 患者は外科的治療を受け 特定の駆虫薬を投与される 羊や牛の内臓を犬に与える地方では 含まれているシストによって犬も発症する 周辺にキツネがたくさんいる北方の国々では肺の病型が多い リスク要因は 不適切な手指衛生 感染した動物との濃厚接触 エキノコックス虫卵で汚染された洗浄と加熱が不十分な食品 ( たとえば野菜 ) の喫食である ヒトのエキノコックス確認症例の年齢分布 2009 年 ECDC: Epidemiological data 訳注 : エキノコックス症には 犬などを終宿主とし羊などを中間宿主とする単胞条虫 (Echinococcus granulosus) と キツネなどを終宿主としケッシ類などを中間宿主とする多胞条虫 (E. multilocularis) を原因とする 2 種がある 日本には北海道のキタキツネの間で多胞条虫が広がっており ヒトや家畜の感染例も続いている このことから エキノコックス症は感染症法で四類感染症に指定されており 診断した医師および獣医師は届出なければならない 2005 年に埼玉県 2014 年に愛知県で犬の症例が確認されており 感染した犬の国内移動により全国各地で散発事例が発生する可能性がある 厚労省 : エキノコックス症の犬の診断 対応ガイドライン届出基準 ( 診断した獣医師が届出る際の基準 ) 第 7 エキノコックス症感染症研究所 : エキノコックス 岡本の解説 2012/12/26 教材 ;1,2-1 -
要旨エキノコックスヒト : 2014 年に 全部で 806 例のエキノコックス症が EU で報告され その内 801 例が検査で確認された EU の届出率は人口 10 万当り 0.18 で 2013 年と同じだった 単胞条虫 (Echinococcus granulosus) に感染した報告症例数は 2008 年以来の安定した低下の後 2014 年に増加した それとは対照的に 多胞条虫 (E. multilocularis) 感染した報告症例数は 2008 年以来初めて減少した 単胞条虫による 1 名の死亡が 2014 年に報告された 図 1.EU における確認されたヒトの人獣共通感染症の報告数と届出率 2014 ( 註 : 図のマイナーのものを抜き出した ) 表 1 EU における人獣共通感染症の確認ヒト症例の報告された入院と致命率 2014 年 エキノコックス症 Q 熱 旋毛虫症 狂犬病 届出ヒト症例数 801 777 319 3 入院 病状が確認できる割合 24.0% NA 74.6 NA 報告した加盟国数 14 NA 5 NA 報告された入院症例数 122 NA 150 NA 入院割合 63.5% NA 63.0% NA 死亡 転帰が確認できる割合 24.6% 51.2% 74.9% 66.6-2 -
報告した加盟国数 12 11 6 3 報告された死亡数 1 1 2 2 致命率 0.51% 0.26 0.84 100 NA: 情報が入手できなかった 動物 : 多胞条虫はキツネにおける浸潤が低度から中程度であると加盟国の 8 ヶ国から報告された さらに 3 ヶ国は豚 タヌキ ビーバーにおける多胞条虫の症例を報告した 加盟 2 ヶ国 ( ギリシャとスペイン ) は 家畜におけるエキノコックスのほぼ全ての陽性結果を報告し それらは主にと畜場での食肉検査によるものだった 単胞条虫はほとんどが一加盟国 ( スペイン ) によって報告された 2.4.9. データの出典 2.4.9. エキノコックスのデータヒト : 多胞条虫症と単胞条虫症は EU の症例定義が 2 つの病型を区別していないので 両方をまとめてエキノコックス症として ECDC へ報告される ECDC は 報告された動物種の解析によってのみデータを 2 つの病型に区別できる ヒトにおけるエキノコックス症の届出は ほとんどの加盟国 アイスランドおよびノルウェー法的義務である 4 加盟国 ( ベルギー フランス オランダ 英国 ) は エキノコックス症の自主的な発生動向調査システムを持っている デンマークとイタリアはエキノコックス症の発生動向調査システムを持っていない スイスでは ヒトのエキノコックス症は届出義務がない 食品と動物 : 食品のエキノコックスは 加盟 10 ヶ国 ( ベルギー エストニア フィンランド ハンガリー イタリア ラトビア オランダ スロベニア スペイン スウェーデン ) とノルウェーにおいて届出義務があり アイルランド スロバキアおよび英国では届出義務がない ブルガリア クロアチア キプロス チェコ デンマーク フランス ギリシャ ドイツ リトアニア ルクセンブルク マルタ ポーランド ポルトガル ルーマニアおよびスイスらは情報が提供されなかった 動物のエキノコックスは 加盟 18 ヶ国 ( オーストリア ベルギー デンマーク エストニア フィンランド ドイツ ギリシャ イタリア ラトビア リトアニア オランダ ポルトガル ルーマニア スロバキア スロベニア スペイン スウェーデン 英国 ) ノルウェーおよびスイスにおいて届出義務があり チェコ フランス ハンガリーおよびルクセンブルクでは届出義務がない ( ブルガリア クロアチア キプロス アイルランド マルタおよびポーランドからは情報が提供されなかった ) と畜の際の検査を通した単胞条虫 (E. granulosus) の制御に関する指針は 理事会指令 64/433/EC によって規定されており と殺する全ての動物は 臓器を検査する獣医官によって肉眼検査が実施されている エキノコックスのシストが見つかった場合 臓器は破棄される - 3 -
3. 査定 3.9. エキノコックス附属文書には 本節を作成するために要約した動物とヒトの全てのデータへのリンクが含まれている それには 顕著な知見がないので本節に含めなかった旋毛虫を要約した図表へのリンクもある 要約したデータは 件名が一覧表示され Excel と PDF ファイルがダウンロード可能である 3.9.1. ヒトにおけるエキノコックス症単胞条虫症と多胞条虫症は 2 種の異なる病型であるが EU の症例定義が 2 つの病型を区別していないので 両方をまとめてエキノコックス症として ECDC へ報告される ほとんどの症例は多胞条虫によるものであり 症例の総数は多胞条虫に関わる状況を反映している 2014 年に 806 例のエキノコックス症が EU に報告され その内 801 例が検査で確認された ( 表 22) 加盟国の 21 ヶ国が少なくとも 1 例の確認された症例を報告したが 5 ヶ国はゼロであった EU における届出率は人口 10 万当り 0.18 であり 2013 年と同じだった 最も高かった届出率はブルガリアの 4.17 で リトアニア ラトビア クロアチアが それぞれ 0.75 0.65 0.47 と続いた EU/EEA における確認されたエキノコックス症報告数の月別分布と 12 ヶ月移動平均 ( 緑 ) 2008 2012 年出典 : オーストリア キプロス チェコ エストニア フィンランド フランス ドイツ ギリシャ ハンガリー アイルランド ラトビア リトアニア マルタ ノルウェー ポーランド ポルトガル スロバキア スロベニア スペイン スウェーデンおよび英国 - 4 -
表 22 EU/EEA における報告されたエキノコックス症ヒト症例数と人口 10 万 当り届出率 2008~2014 年 国 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 オーストリア 14/0.17 11/0.13 3/0.04 7/0.08 21/0.25 20/0.24 6/0.07 ベルギー 15/0.13 15/0.13 6/0.05 1/0.01 1/0.01 0/0.00 0/0.00 ブルガリア 302/4.17 278/3.82 320/4.37 307/4.17 291/3.92 323/4.33 386/5.13 クロアチア 20/0.47 - - - - キプロス 0/0.00 0/0.00 0/0.00 2/0.24 0/0.00 1/0.13 1/0.13 チェコ 6/0.06 2/0.02 0/0.00 0/0.00 5/0.05 1/0.01 2/0.02 デンマーク # - - - - - - - エストニア 1/0.08 3/0.23 3/0.23 0/0.00 0/0.00 0/0.00 1/0.08 フィンランド * 0/0.00 4/0.07 3/0.06 1/0.02 1/0.02 1/0.02 1/0.02 フランス 32/0.05 34/0.05 49/0.08 45/0.07 33/0.05 27/0.04 14/0.02 ドイツ 112/0.14 127/0.15 118/0.14 142/0.17 117/0.14 106/0.13 102/0.12 ギリシャ 13/0.12 10/0.09 21/0.19 17/0.15 11/0.10 22/0.20 28/0.25 ハンガリー 2/0.02 5/0.05 6/0.06 11/0.11 9/0.09 8/0.08 7/0.07 アイルランド * 0/0.00 1/0.02 0/0.00 0/0.00 1/0.02 1/0.02 2/0.05 イタリア # - - - - - - - ラトビア 13/0.65 7/0.35 8/0.39 10/0.48 14/0.66 15/0.69 21/0.96 リトアニア 22/0.75 23/0.77 23/0.77 24/0.79 23/0.77 36/1.13 32/1.00 ルクセンブルグ 0/0.00 0/0.00 0/0.00 1/0.20 1/0.20 0/0.00 0/0.00 マルタ * 0/0.00 0/0.00 0/0.00 0/0.00 0/0.00 0/0.00 0/0.00 オランダ 30/0.18 33/0.20 50/0.30 49/0.29 35/0.21 25/0.15 12/0.07 ポーランド 48/0.13 39/0.10 28/0.07 19/0.05 36/0.09 25/.07 28/0.07 ポルトガル 4/0.04 3/0.03 2/0.02 1/0.01 3/0.03 4/0.04 4/0.04 ルーマニア 31/0.16 55/0.28 96/0.48 53/0.27 55/0.27 42/0.21 119/0.58 スロバキア 8/0.15 20/0.37 3/0.06 2/0.04 9/0.17 4/0.07 5/0.09 スロベニア 5/0.24 6/0.29 6/0.29 8/0.39 8/0.39 9/0.44 7/0.35 スペイン 77/0.17 94/0.20 96/0.21 53/0.11 82/0.18 86/0.19 109/0.24 スウェーデン 21/0.22 16/0.17 16/0.17 19/0.20 30/0.32 12/0.13 13/0.14 英国 * 25/0.04 14/0.02 7/0.01 9/0.01 7//0.01 7/0.01 9/0.02 EU 計 801/0.18 800/0.18 864/0.20 781/0.18 793/0.18 775/0.18 909/0.21 アイスランド 0/0.0 0/0.0 - - - - - ノルウェー * 0/0.0 2/0.04 2/0.04 3/0.06 1/0.02 4/0.08 3/0.06 # : 発生動向調査システムがない *: 国の一部地域は多胞条虫清浄を宣言 症例が 50 名以上を黄色 届出率が 0.2 以上を青で強調した 病気の 2 つの病型は種別に ECDC へ報告できるが 種を不明として報告することもできる 種の情報は 2014 年にエキノコックス症例を報告した 21 ヶ国中 15 ヶ国によって 521 例 ( 確認症例の 65%) によって提供された 加盟 8 ヶ国 ( ブルガリア ハンガリー ラトビア ポルトガル ルーマニア スロベニア スペイン 英国 ) が単胞条虫症例のみ 2 ヶ国 ( エストニアとフランス ) が多胞条虫症例のみ 5 ヶ国 ( オーストリア ドイツ リトアニア ポーランド スロバキア ) は両方の症例を報告した EU/EEA において 単胞条虫の報告症例は 439 例 ( 確認症例の 54.8% で その内 302 例 68.8% はブルガリアから ) であり 多胞条虫は 82 症例 (10.2%) 280 例 (35.0%) は種別情報がなかった - 5 -
EU/EEA の 2008~2014 年におけるエキノコックス症例数の傾向は安定していたが 種別では変化があった 多胞条虫の感染症例数は 2008~2012 年に増加したが 2013~2014 年にはやや減少した それとは対照的に 単胞条虫の年間症例数は 2008~2013 年に減少し 2014 年にわずかに増加した 2014 年に報告した国別の多胞条虫に関して 加盟 5 ヶ国では報告症例数が減少し 1 ヶ国で増加したが 1 加盟国では 2013 年と比べて変化がなかった 単胞条虫に関しても同様に 報告症例数の増加が 2014 年に加盟 5 ヶ国でみられ 2 ヶ国で増加し 残りの 2 ヶ国では変化がなかった 図 43. 特定加盟国における種類別エキノコックスヒト症件数の報告数 2008 ~2014 年出典 : 加盟 10 ヶ国からの 2008~2014 年に報告されたほぼ全ての症例データ 単胞条虫は加盟 9 ヶ国 ( オーストリア ブルガリア エストニア ドイツ ラトビア リトアニア ポーランド スロバキア 英国 ) 多胞条虫は加盟 7 ヶ国 ( オーストリア フランス ドイツ ラトビア リトアニア スロバキア ポーランド ) 加盟 13 か国は エキノコックス症の確認症例の大半または全ての入院に関する情報を提供した スペインは 2014 年に初めて入院状態を報告し それによって EU における入院したエキノコックス症の確認症例数の割合が 22.7% から 24.0% へ増加した 入院症例の全体的割合の 70.6% から 63.5% への減少が 2013~2014 年において観察された 2014 年に 入院症例の 70.8% は加盟 5 ヶ - 6 -
国によって報告された多胞条虫であり 単胞条虫の 61.2% は加盟 10 ヶ国によって報告された 単胞条虫による 1 名の死亡が 2014 年に報告された (Morar et al., 2014) 3.9.2. 動物におけるエキノコックスデータの比較可能性 : 単胞条虫と多胞条虫は 異なる疫学の 2 種類の人獣共通感染症の原因となる 2 種類の異なるサナダムシである 単胞条虫の終宿主は犬であり 希に別の犬科動物のこともあるが 中間宿主は主に家畜である 多胞条虫については ヨーロッパにおける伝播サイクルは主に森の野生動物である 多胞条虫の中間宿主は野生の小型ケッシ類 ( ハタネズミ科 ) であるが ヨーロッパにおける終宿主はアカキツネとタヌキが主であり 犬とオオカミもなり得る 上記のように 過去 5 年間において EU/EEA の多胞条虫によるヒト症例数は増加している ヨーロッパにおける多胞条虫の発生と分布を査定することがとくに重要である 図 44.EU 加盟国と近隣諸国の多胞条虫の状態 加盟 4 ヶ国 ( フィンランド アイルランド マルタ ノルウェー 英国 ) は多胞条虫清浄と見做され これらの加盟国は多胞条虫がいないことを監視するため EU 規則 No 1152/201137 に従って 発生動向調査プログラムを毎年実施することが求められている 欧州経済領域 (EEA) の一つであるノルウェー本土 (Svalbard 諸島を除く ) も清浄を主張し EU 規則 No 1152/2011 に従って 発生動向調査プログラムを実施している 最近採択された EFSA 見解に従って - 7 -
EU 加盟国と近隣諸国における多胞条虫に係る資格は図 44 に示してある (EFSA AHAW Panel, 2015) その他の全ての加盟国において 多胞条虫に関するデータは 届出を要するかどうか 検査が実施されているかどうか 多胞条虫の研究が行われているかどうかに依存している 動物における多胞条虫のデータは 地理的および時間的に様々であり ( 国内においても ) 多胞条虫の報告事例を国内および国家間で比較することは困難である 科学文献によると 多胞条虫は 19 の加盟国 ( オーストリア ベルギー ブルガリア チェコ デンマーク エストニア フランス ドイツ ハンガリー イタリア ラトビア リトアニア ルクセンブルク オランダ ポーランド ルーマニア スロバキア スロベニア スウェーデン ) で主にキツネからなる野生の肉食獣において記録されている 多胞条虫の発生動向調査は 食肉検査において実施されており ( と殺時に該当する家畜の内臓の肉眼的検査 ) この発生動向調査のデータは 届出義務が実施されていることを前提に比較可能性がある 動物における多胞条虫 : 多胞条虫は主にキツネについて監視されている フィンランド アイルランド マルタ ノルウェーおよび英国は 多胞条虫清浄と見做されており (EU 規則 No 1152/2011) 2014 年中に欧州委員会への報告された症例はなかった ( データがここに表示されていない ) キツネにおけるエキノコックスの知見 2014 年検査数陽性数 % 多胞条虫単胞条虫未特定 ベルギー無作為 317 6 1.89 クロアチア狩猟 544 0 0 キプロス無作為 1 0 0 デンマーク無作為 344 7 2.03 7 フィンランド無作為 265 0 0 フランス 無作為 95 14 14.74 14 狩猟 41 4 9.76 4 ドイツ無作為 963 242 25.13 225 17 ハンガリー狩猟 334 33 9.88 33 アイルランド狩猟 331 0 0 ポーランド無作為 340 94 27.65 94 スロバキア狩猟 222 35 15.77 35 スウェーデン 無作為 1 0 0 無作為 2779 3 0.11 3 英国無作為 691 0 0 EU 計 7268 438 6.03 303 94 35 ノルウェー狩猟 546 0 0 スイス無作為 5 1 20 1-8 -
2014 年に 13 の加盟国と非加盟 2 ヶ国は エキノコックスについて調べた 7,268 頭のキツネのデータを報告し 8 加盟国と 1 非加盟国が陽性例を報告した ポーランド ドイツ スロバキアおよびフランス (95 頭のキツネの調査 ) は 陽性サンプルの割合が最も高く それぞれ 27.7% 25.1% 15.8% 14.7% であった 2014 年に感染したキツネを報告した 8 加盟国の内 6 ヶ国から種の情報が提供された 4 加盟国 ( デンマーク ハンガリー スロバキア スウェーデン ) は 多胞条虫に感染したキツネのみを報告し 陽性率はそれぞれ 2.0% 9.9% 15.8% および < 0.1% であった キツネについて ポーランドは単胞条虫のみを報告し (27.7%) ドイツは多胞条虫 (23.6%) と未定のエキノコックスを報告した ( 図 45) これらの調査結果は 昨年と同様である ベルギーとフランスは キツネのサンプルの調査結果を報告しなかった 図 45. キツネにおける多胞条虫の知見 2014 年 加盟 10 ヶ国と非加盟 1 ヶ国は監視プログラムの一部としてキツネの調査結果を報告し 残りの国は 意図的調査 (3) 臨床調査 (1) あるいは無作為調査 (2) のデータを報告した 加盟 10 ヶ国は 2005 年から 2014 年までの 4 年連続でのキツネにおける最少の多胞条虫のデータを報告した スウェーデンは キツネにおける少数の陽性結果を報告した チェコにおいて 2005~2011 年の間に多胞条虫の症例数の明らかな増加が報告されているが 2011 年以降データが提供されていない フランス ドイツ ルクセンブルク - 9 -
オランダ ポーランドおよびスロバキアからの調査結果は年毎に変動しているが ほとんどの年で陽性結果が報告されている 報告例の変動は おそらく 有病率の真の変化を反映しているのではなく 特定の年に行われた努力によるものである ポーランド デンマークおよびスイスは その他の動物種における多胞条虫を報告した ポーランドは検査した 200 頭の内 7 頭の陽性豚を デンマークは検査した 200 頭の動物の内 1 頭のタヌキの陽性を スイスは検査した 2 頭の内 1 頭のビーバーの陽性を報告した その他の動物における単胞条虫と多胞条虫の結果 : 7 加盟国と非加盟 2 ヶ国は エキノコックスを検査した 92,440,091 頭の家畜 ( 牛 山羊 豚 羊 馬 ) のデータを報告した これらのデータは 主にと畜場における食肉検査から得られた 加盟 8 ヶ国は 全部で 188,076 頭 (0.2%) の陽性サンプルを報告し それらは主に山羊 ( 陽性サンプルの 49.5%) と羊 (43.2%) であった スペインとギリシャは それぞれ 50.3% と 48.9% のエキノコックス陽性サンプルを報告した 全体として 陽性サンプルの 50.3% は単胞条虫と特定され ほとんど全てがスペインからだった スペインとフィンランドは 狩猟で得た野生のイノシシ シカ トナカイおよびオオカミの単胞条虫の結果を報告し フランスとルーマニアは犬 猫および猿におけるエキノコックス属を報告した 動物におけるその他のエキノコックスの知見 2013 年 ( 陽性国のみを抜粋 ) 牛国採材検査数陽性数 % 多胞条虫単胞条虫未定 オーストリアと畜場 623,272 129 0.02 129 ギリシャと畜場 60,065 1,451 2.42 1,451 イタリア と畜場 1,006,621 5,017 0.5 2,699 2,318 14,681 77 0.52 38 39 スペイン と畜場 2,211,837 14,872 0.67 14,872 英国 と畜場 2,283,336 2,749 0.12 2,749 計 7,606,532 24,295 0.32 17,609 6,686 山羊 ギリシャと畜場 287,921 381 0.13 381 ハンガリーと畜場 11,146 22 0.2 22 イタリア と畜場 648 98 15.12 98 と畜場 3 3 100 3 スペインと畜場 988,831 3129 0.32 3,129 英国と畜場 14,665 2 0.01 2 計 1,309,818 3,635 0.28 3,230 405 豚 ハンガリーと畜場 1144 1 0.09 1 イタリアと畜場 7250988 61 <0.01 1 60-10 -
と畜場 5573 4 0.07 4 農場 3 3 100 3 ポーランド と畜場 370 13 3.51 9 4 スロベニア と畜場 229066 22 <0.01 22 スペイン と畜場 39322606 3189 <0.01 3189 農場 13551 88 0.65 88 計 76810784 3381 <0.01 9 3311 61 山羊 オーストリア と畜場 140,266 43 0.03 43 ギリシャ と畜場 874,590 4,780 0.55 4,780 ハンガリー と畜場 384 2 0.52 2 イタリア と畜場 1,043,096 2,267 0.22 2,267 と畜場 8,482 7,372 86.91 7,332 40 スペイン と畜場 10,697,407 61,307 0.57 61,307 英国 と畜場 14,563,539 33,050 0.23 33,050 計 27,652,618 108,821 0.39 68,639 40,182 単蹄動物 イタリア と畜場 6,984 2 0.03 2 スペイン と畜場 51,154 668 1.31 668 英国 と畜場 5,056 202 4 202 スイス 農場 1 1 100 1 計 70,833 872 1.23 668 204 羊 山羊 と畜場 182,645 145 0.08 41 104 イタリア と畜場 1,945 337 17.33 337 農場 19 19 100 19 水牛 イタリア と畜場 23,972 34 0.14 34 野生イノシシ イタリア と畜場 35,164 70 0.2 38 32 無作為 949 1 0.11 1 ポーランド 狩猟 1 1 100 1 スペイン 狩猟 67,734 149 0.22 149 トナカイ フィンランド と畜場 55,595 8 0.01 8 オオカミ フィンランド 無作為 29 5 17.24 5-11 -
フランス無作為 3 1 33.33 スペイン狩猟 140,193 40 0.03 40 猫 鹿 犬 スイス無作為 85 7 8.24 7 ジャッカル ハンガリー無作為 16 1 6.25 1 ビーバー スイス無作為 2 2 100 2 サル スイス 無作為 2 1 50 1 種々の動物 ルーマニア病院 3,873 441 11.39 計 114,020,000 142,256 0.12 10 93,759 48,045 出典 :European Union Summary Report on Trends and Sources of Zoonoses, Zoonotic Agents and Food-borne Outbreaks in 2013 訳注 : 2014 年版の資料がダウロードできないので 2013 年版を引用した したがって 本文の説明と一致しない部分がある 3.9.3. 考察確認されたヒトのエキノコックス症例の EU における届出率は 2010 年以来安定している 2014 年に最も一般的に報告された種は 単胞条虫 (13 か国 ) だったが 7 ヶ国では多胞条虫が多かった 10 万人当り罹患率が最も高かったのはブルガリア ( 単胞条虫のみを報告 ) で 届出率は EU 平均の 23 倍であった 単胞条虫は多胞条虫の 5 倍以上報告された 2008~2012 年の 7 年間において多胞条虫症が着実に増加した後 2013 年に安定し 2014 年に初めて減少した 同時に 単胞条虫の症例数は 6 年間の減少後 2014 年に初めて増加した 単胞条虫症の増加は 4 加盟国でとくに顕著だった 単胞条虫の分布は北アフリカとアジアで多く これらの地域からの輸入が観察された増加の要因と考えられる (Piseddu et al., 2015) 多胞条虫は 8 加盟国によって低 ~ 中程度にキツネで報告された 多胞条虫は大半の EU 加盟国のアカキツネで報告されている (FSA AHAW Panel, 2007; Osterman et al., 2011) ヨーロッパにおいて多胞条虫の分布とキツネの頭数が増えているので キツネにおける多胞条虫の発生動向調査は ヨーロッパの有病率を査定するために重要である (Vervaeke et al., 2006; Berke et al., 2008; Takumi et al., 2008; Combes et al., 2012; Antolová et al., 2014) この増加が範囲拡大に伴うものか 発生動向調査の強化によるのかは 基礎的データが一般的に欠如しているので 証明は困難である おそらく アカキツネの頭数増加を契機に急速に拡大した小さな病原巣において 寄生虫は存在する者の検出されていない可能性がある 感染したキツネの増加は 多胞条虫による高度の環境汚染のためビーバーを含む珍しい中間宿主から多胞条虫が分離される事態 - 12 -
も招いている 実際に キツネの多胞条虫の有病率が 30%~70% と推定されているスイスで 2014 年に陽性のビーバーが報告された さらに 多胞条虫の集計有病率データの地図 ( 図 43) は 気温 降雨量 湿度および土壌など多くの変数がこの寄生虫の分布を部分的に説明する関連要因として特定されているので 解釈に注意が必要である これらの要因は 加盟国内で地域的変動が大きく 陽性例を報告した加盟国内で地域的病原巣を形成している可能性がある 多胞条虫は フィンランド アイルランド マルタ ノルウェー 英国でこれまでに発見されておらず 多胞条虫清浄の資格を維持するために 4 加盟国 ( フィンランド アイルランド マルタ 英国 ) は国内のあらゆる地域でこの寄生虫を検出する発生動向調査プログラムを実施する義務を負っている (EU 規則 No 1152/2011) 欧州経済領域 (EEA) の一つであるノルウェー本土 (Svalbard 諸島を除く ) も清浄を主張し EU 規則 No 1152/2011 に従って 発生動向調査プログラムを実施している 2013 年に EFSA は査定を実施し 公平な代表サンプリング ( フィンランド アイルランドおよび英国において ) 公平なリスクに基づくサンプリング ( マルタにおいて ) の前提の下で 適用した検査法の感度を考慮して 加盟 4 か国の全てが発生動向調査活動が少なくとも 0.95 の信頼限界で 1% 以下の多胞条虫の存在を検出する効果について EU 規則 No 1152/2011 の要件を満たしていると判定した (EFSA, 2013b) ただし 調査したキツネの 0.1% が多胞条虫に感染していたスウェーデンで報告されたように より低頻度で多胞条虫が発生し得ることに留意しなければならない 多胞条虫についての広報活動が 野生動物で多胞条虫が検出されている地域の果実やキノコを食べることに対する警告に集中しがちであり 犬の所有権および野生肉食獣との接触がほとんど考慮されていない (Antolová et al., 2014) A case-control study has showed that having a dog and contact with wild carnivores are important risk factors (Kern et al., 2004). 症例コントロール研究は犬を持つことを示したが 野生の肉食動物との接触が重要なリスク要因 ( カーン et al., 2004 年 ) 一つの加盟国 ( スペイン ) は 主に家畜からほぼ全ての単胞条虫の陽性例を報告した スペインからの全てのヒト症例は単胞条虫によるとも報告された 動物の健康と福祉に関する EFSA 小委員会は 多くのヒト症例で診断はエキノコックス症として留まっており 病因の多胞条虫または単胞条虫を判定していないことを科学的意見で述べた (EFSA AHAW Panel, 2007) 同様に ヒトのエキノコックス症の発生に関する加盟国の現在のデータは 疫学的状況の正確な様相を提供していないことを EFSA は検討している 2014 年に報告された症例の 35.0% は種別の病因を判定していない 単胞条虫と多胞条虫による感染の区別は これらの 2 種の病気が予防と治療に異なる管理を必要とするため 欠かせない さらに EU 市民や移民における単胞条虫と多胞条虫の検出は 大きた疫学的重要性を持っている 動物のデータに関して エキノコックスについて報告されたデータの品質が近年向上し サンプリングの内容および種レベルでのより多くのデータが報告されている 動物における届出も 寄生虫の種別に関する信頼性の高いデータと情報の要件が 単胞条虫と多胞条虫が異なる疫学を示し ヒトに対して異なる健康リスクをもたらすので リスク管理活 - 13 -
動のために非常に重要である 単胞条虫について 届出要件は 加盟国の間で比較可能なデータが 食用動物の食肉検査から得られるように確保されるだろう 多胞条虫に関して 全ての加盟国に対する一般的な届出要件は疑問があるけれども エキノコックス清浄国については要求すべきである この寄生虫が常在する国において それぞれの症例報告は追加の貴重な情報をもたらさない したがって 多胞条虫の発生動向調査における繰り返し調査は 追跡と監視の基礎となり得る (EFSA AHAW Panel, 2015) 訳注 : ヨーロッパのほとんどの国においてエキノコックス症は EU 規則に基づいて検査体制と届出制度が確立されているが それでもなお 撲滅に至っていない EU 規則に基づくと畜検査が行われ 野生動物の発生動向調査が進められているが ヒトの検査体制には未だ問題が残っているようで 報告症例の 35.0% は種別の病因を判定していない という記述には驚いた 日本ではキツネ等を終宿主とする多胞条虫しかいないので種別を鑑別する手間は不要だが 犬等を終宿主とし羊等の家畜を中間宿主とする単胞条虫も存在する地域では 種別の判定は制御活動に影響する こうした事態を考えると 発展途上国におけるエキノコックス症の流行実態は闇の中と考えざるを得ない WHO の呼掛けで 無視された人獣共通感染症 (NZD: Neglected zoonotic diseases) の関心は少しずつ改善していると思うが テロや内戦の過酷な状況下で対策が進んでいるとは考えにくい エボラウイルス病も NZD の一つだったが 西アフリカにおける大流行によって世界的注目を浴び ワクチンも開発された ノーベル生理学 医学賞を受賞した大村智先生は NZD である熱帯の寄生虫症に対する予防 治療への貢献が認められた 健康と生命への脅威を取り除くことは人類共通の悲願であり 若い世代が関心を持ってくれることを期待する ウイルスについては変異が起きることから 監視体制が整備され 研究人口も多いが 寄生虫については マラリアなど原虫症以外は罹患者が少ないこともあって研究者が少なくなっている 一本の論文を書くのに 寄生虫を対象とするとウイルスの数十倍の時間と労力を要することから 若手研究者が集まらなくなっている これは 研究者育成の制度の問題である - 14 -