平成 22 年度指導看護師研修会 (22 年 9 月 6 日 於小倉会場 ) 人体のしくみと働き ( 呼吸器系 ) 表参道吉田病院名誉院長 安藤正幸
講義内容 1. 呼吸器系のしくみと働き 2. 喀痰を生じる疾患や病態 3. 口腔内吸引の技術及び関連するケア 4. まとめ
呼吸器系のしくみと働き
呼吸器のはたらき * 呼吸機能細胞 組織のエネルギーに必要な酸素を空気中より取り込み 代謝の結果産生される炭酸ガスを排泄する * 非呼吸機能 代謝機能 免疫機能
呼吸器のしくみ 呼吸器 気道系: 空気の通り道上気道鼻 口 咽頭 喉頭まで下気道気管から終末細気管支 肺胞系: ガス交換の場 上気道 下気道 研修会テキスト 講義 4 P67
上気道の働き 空気を暖め 湿度を加え 空気中の塵埃を捕捉する * 鼻腔で60~80% を捕捉する 10μ 以上の物質は上気道で捕捉される 研修会テキスト 講義 4 P67
下気道 上葉 上葉 中葉 下葉 下葉 研修会テキスト 講義 3 P45
肺胞管肺胞嚢気管支樹 気管 (20mm) 主気管支 (10mm) 細気管支 (1mm 以下 ) 肺胞 成人看護学 (2)p26 医学書院より引用
下気道のはたらき (1) 気管支が 2 分岐を繰り返すことにより 肺胞の総面積はテニスコート大の広さとなりガス交換に役立つ 2.54cm2 60m2 Webel, 1963 より改変 引用
下気道の働き (2) 粘液線毛輸送系により 無菌状態に保たれている 細菌 塵埃 粘液 線毛 胚細胞 気管支腺
肺胞 : ガス交換の場 肺胞の直径 :0.1~0.2 mm数 :3~5 億個総面積 : テニスコート大 大成浄志 : 内科学 医学書院
ガス交換 谷本晋一 : 呼吸不全のリハビリテーション. 南江堂 一部改変
肺胞と血管系 右心房 左心房 静脈血 CO2 動脈血 O2 臓器 組織 成人看護学 (2)p21 医学書院より引用
陰圧 からだの地図帳 講談社編より引用
肺活量 3,920ml 横隔膜低下 深吸気時 1秒量 2,910ml 横隔膜挙上 深呼気時
呼吸時の胸郭の動き 横隔膜低下 横隔膜挙上 深吸気時 深呼気時
呼吸時の胸郭の動き内肋間筋収縮外肋間筋収縮横隔膜 呼気時 吸気時 成人看護学 (2)p29 医学書院より引用
呼吸中枢 延髄 自律的調節系吸息 呼息というリズミカルな呼吸運動は延髄を中心とする呼吸中枢によってコントロールされている 随意的調節系大脳皮質も 延髄の呼吸中枢に存在する呼吸筋運動ニューロンにインパルスを送っている 換気運動は随意的に変えうる
呼吸の調整機構 自律的調節 : 無意識 呼吸数 :1 分間に全15 回 1 回換気量 :500ml 肺1 回換気量気量随意的調節 : 意識的肺活量 : 男 3~4L 女 2~3L 成人看護学 (2)p97 医学書院より引用 一部改変
小括 : 呼吸器のしくみ 呼吸器は気道系と肺胞系に分けられる 気道系は空気の通り道で 上気道と下気道に分けられる 上気道は空気を加温し 湿度を与え 空気中の塵埃を取り除く 下気道は 23 回分岐することにより呼吸面積 ( 肺胞面積 ) を拡大する 粘液下気道は線毛輸送系により無菌状態に保たれている 肺胞はガス交換の場で 酸素を取り込み 炭酸ガスを除去する 肺は外肋間筋 横隔膜の収縮で拡張し 内肋間筋の収縮と横隔膜の弛緩で収縮する 呼吸の中枢は延髄にあり 通常は無意識に行われる しかし 心臓とは異なり 自分の意志でも変えられる
喀痰を生じる疾患や病態
喀痰とは 呼吸器系 すなわち口腔 鼻腔 咽頭腔 喉頭腔 気管 気管支 肺胞などの粘膜からの分泌物の総称で 通常 咳などにより体外に喀出され 痰とよばれる 気道を閉塞し 換気量の減少をもたらす
喀痰の性状変化 膿性 ( 白血球のペルオキシダーゼ )/ 非膿性 a. 膿性 感染症粘液性 アレルギー 肺水腫 肺胞上皮癌 成人看護学 (2)p75 医学書院より引用 23
呼吸器疾患 A. 感染症 かぜ 肺炎 結核 真菌症 B. 間質性肺疾患 間質性肺炎 過敏性肺炎 塵肺 C. 気道疾患気管支喘息 慢性閉塞性肺疾患 D. 肺血栓塞栓症 E. 呼吸不全急性呼吸促迫症候群 CO2ナルコーシス F. 呼吸調節に関する疾患 G. 肺腫瘍肺癌 良性腫瘍 H. 肺 血管の形成異常 過換気症候群 睡眠時無呼吸症候群 肺分画症 動静脈瘻 I. 胸膜 縦隔 横隔膜の疾胸膜炎 気胸 胸膜腫瘍 縦隔腫瘍
微生物 ( 病原体 ) 一般細菌グラム陽性菌 : ブドウ球菌 レンサ球菌 肺炎球菌グラム陰性菌 : インフルエンサ 桿菌 変形菌 緑膿菌嫌気性菌 : 卵の腐ったような悪臭の膿汁 マイコプラズマ クラミジア ウイルス 抗酸菌 ( 結核菌 非結核性抗酸菌 ) 真菌 ( アスヘ ルキ ルス クリフ トコッカス カンシ タ ) 25
呼吸器感染症 急性上気道炎 ( かぜ症候群 インフルエンザ ) 急性気管支炎 気管支拡張症 肺炎 ( 市中肺炎 院内肺炎 日和見感染 ) 細菌性肺炎 異型肺炎原虫 ウイルスによる肺炎 * 誤嚥性肺炎 肺結核 非結核性抗酸菌症 肺真菌症 26
肺炎の胸部レントゲン写真と組織像 胸部レントゲン写真 正常肺 肺炎 浸潤影 肺の組織像
肺炎 微生物などによる肺実質の炎症である 症状 : 発熱 咳 痰 呼吸困難 胸痛 病状把握 : 意識 体温 呼吸数 チアノーセ 脱水 細菌学的検査 : 喀痰 ( 塗抹 培養 ) 血液培養 尿( 菌体成分 ) 血液検査 : 白血球増多 CRP 上昇 各種血清抗体価 ( マイコプラズマ レジオネラ クラミジア ) 一般的治療 : 安静 補液 吸入 酸素吸入 薬物治療 : 抗菌薬の選択 解熱剤 去痰剤 28
当院における肺炎の実態 平成 18 年度 療養病棟 介護病棟から一般病棟へ転棟入院した患者は40 名であった (1)40 名の男女比は1:1.7で 平均年齢は85.4 歳であった (2)40 名中 20 名 (50%) が肺炎で 全例が誤嚥性肺炎であった (3)40 名中 15 名 (37.5%) が死亡された 15 名中 8 名 (53.3%) は誤嚥性肺炎が死因であった 肺炎 ( 誤嚥性 ) は老人の友達 肺炎は老人の最後の命の灯火を吹き消す
誤嚥性肺炎 正常な嚥下 誤嚥 30 研修会テキスト講義 7 P89 より引用
高齢者の誤嚥性肺炎の原因 唾液分泌量の低下 口内乾燥 義歯や虫歯 嘔吐反射の低下 咳嗽反射の低下
誤嚥性肺炎の可能性を持つ病態 陳旧性および急性の脳血管障害 変性神経疾患と神経筋疾患 意識障害 認知症 胃食道逆流症 胃切除 ( とくに胃全摘 ) 喉頭 咽頭腫瘍 気管切開 経鼻胃管
誤嚥性肺炎診断フローチャート 発熱 喀痰 頻呼吸 頻脈 日本呼吸器学会 成人院内肺炎診療ガイドライン p60. より引用 胸部 X 線胸部 CT( 多くは両側性肺炎 ) CRP 高値 高齢者では食欲不振 日常活動低下意識障害 失禁 肺炎所見 (+) 肺炎所見 ( ー ) 人工呼吸器関連肺炎メンデルソン症候群 嚥下性肺炎 ( 通常型 ) びまん性嚥下性細気管支炎 誤嚥の直接観察嚥下機能障害の存在嚥下機能障害の可能性 確実例ほぼ確実疑い例
誤嚥性肺炎の予防と治療対策 1 顕性誤嚥対策と治療 食事介助 食事内容物の検討 ( 増粘剤の使用 ) 徹底した口腔ケア 咽頭の持続吸引 嚥下訓練 嚥下筋群の強化 ( 発声訓練 ) 経鼻胃管の長期留置の回避 胃食道逆流対策
誤嚥性肺炎の予防と治療対策 2 不顕性誤嚥対策と治療 ベッド ( 頭位 ) 挙上 口腔内細菌叢の改善 口腔内清拭 ( うがい 歯磨き ) 口腔ケア 歯科治療 脱水の改善 栄養対策 嚥下反射改善物質の投与 (ACE 阻害薬など ) 意識レベルをあげる努力 嚥下反射抑制物質の中止 ( 鎮静薬 眠剤の中止 )
小括 : 喀痰をきたす疾患 喀痰とは気道の分泌物の総称である 喀痰の性状で病態を推定できる 喀痰をきたす疾患の大半は感染症である 感染症の中でも肺炎は最も重要な疾患である 高齢者の肺炎の大半は誤嚥性肺炎である 誤嚥性肺炎は口腔内ケアで予防できる
口腔内吸引の技術及び 関連するケア からだの地図帳 p24 講談社編
口腔内吸引の必要性 人は生理的に唾液や鼻汁を分泌したり あるいは痰を出して 通常はそれを胃の中に飲み込んだり 一部は口や鼻孔から排出している ところが高齢者や脳梗塞などの患者では 嚥下障害 あるいは呼吸筋力の低下によって咳をすることができず これらの分泌物や痰を飲み込んだり あるいは口や鼻から十分排出できない このような場合に 吸引によって これらの排出を助けるということが必要になってくる 口腔内吸引は誤飲 誤嚥 肺炎等の防止 あるいは気道の確保に非常に重要である
口腔内吸引実施ガイドライン STEP 1 STEP 2 STEP 3 STEP 4 STEP 5 STEP 6 STEP 7 安全管理体制確保観察判断実施準備ケア実施結果確認片づけ評価記録
STEP 1 安全管理体制確保 ( 安全に吸引ができるものを選定すること, および救急時に備える ) 対象者の全身状態や口腔内病変の有無を観察し 吸引の適応性を確認する 看護職員が実施する必要のある対象者の目安口腔内に損傷がある口腔内に出血がある開口が困難である嘔吐反射が強い経管栄養を行っている気管切開している
STEP 2 観察判断 ( 口腔内および全身状態を観察し 吸引の必要性を確認する ) 口腔内および全身状態を観察口腔内の状態 ( 出血や損傷の有無 ) 咳反射の有無義歯の状態 ( 総義歯か部分義歯か 装着状況 ) 全身状態 ( 意識レベル 覚醒の状況 呼吸状態 ) 対象者の訴え 吸引の必要性と担当者の確認看護師と介護職員の協働か 看護師のみか
STEP 3 実施準備 ( 吸引に必要な物品を選定 収集し 対象者のもとへ運ぶ ) 吸引に必要な物品 1 吸引器 2 吸引びん 3 ディスポ手袋 4 プラスチックエプロン 5 マスク 6 酒精綿 7 サクションチューブ 8 水道水 9 コップ ( 水道水を入れる )
STEP 4 ケア実施 ( 吸引について対象者に説明し 吸引を適切かつ安全に実施する ) 1 口腔内吸引の部位は可視範囲とする 2 舌根部 咽頭後壁 口蓋扁桃部を刺激して咽頭反射を起こすことがないように注意する 2 吸引圧は 200~300mmHg 3 カテーテル挿入の目安は 15~20cm 4 吸引時間は 10~15 秒 5 吸引中の呼吸状態 ( 息を止めていないか 苦しそうでないか ) 顔色 ( 色っぽくないか 赤くないか ) 口唇色 ( 紫色になっていないか ) を観察しながら行う 51 回で吸引できない場合は患者の呼吸が落ち着いてから再度行う
1 吸引カテーテルを親指で押さえて折り曲げ吸引圧がかからないように口腔内にゆっくり入れる 2 入れたら吸引カテーテルを押さえていて親指を離し 気道粘膜を損傷しないようにカテーテルの先端を動かしながら吸引する 3 吸引が終わったらカテーテルを回転させながらゆっくり抜く
STEP 5 結果確認 対象者の吸引前の状態と吸引後の状態変化 ( 顔色 呼吸状態 脈 顔色 口唇など色など ) を観察する. 吸引した痰の量 性状 色 ( 白色 黄色 緑色 ピンク色 血性 ) 等の異常の有無を確認する STEP 6 片づけ STEP 7 評価記録
口腔ケアについて
口腔ケアについて 口腔ケアの目的 1. 誤嚥性肺炎の予防 2. 口腔疾患の予防 3.QOLの向上 口腔ケアの内容 1. 食物残渣の除去 2. 歯垢の除去 3. 舌苔の除去 4. 口腔内マッサージ 5. 舌の運動 口腔ケアの効果 1. 口腔および咽頭の細菌数の減少 2. 発熱の回数 期間の減少 3. 歯肉炎 口腔粘膜の炎症の減少 4. 口臭の軽減および摂食量の増加 5. 誤嚥性肺炎の予防
口腔ケア群と対照群の咽頭部総細菌数の変化
嚥下機能に対する器質的口腔ケアの効果 サブスタンス P 嚥下までの時間 口腔ケアによって嚥下反射の促す物質であるサブサタンス P(SP) の増加と嚥下するまでの時間 (LTSR) の短縮が認められた Yoshino,A,at al;daily Oral Care and Risk Fsctors for Pneumonlsamong Elderly Nursing Home Patients JAMA 2001 引用改定
口腔ケアと誤嚥性肺炎 口腔ケアと誤嚥性肺炎ー要介護高齢者における 2 年間の肺炎発生率ー 20% 15% 19% 10% 5% 0% 対照群 11% ケア群 Yoneyama T et al:lancet 354:515,1999
口腔内状態の評価法 口腔内状態評価法望まし状態 1 清掃状態 : 残存歯へのデンタルプラークの付着の評価指標 0: プラークがない 1: プラークが歯面の1/2 未満 2: プラークが歯面の1/2 以上 0~1 の状態にある 2 舌苔 0: なし 2: あり 0 の状態にある 3 口腔乾燥度 0: 正常唾液湿潤 1: 唾液粘性亢進 2: 唾液中に泡が見られ乾燥している 3: 粘膜にほとんど唾液が見られず著明に乾燥している 0 の状態にある 4 口臭 0: なし 1: あり 0の状態にある 5 口角炎 0: なし 1: あり 0の状態にある 6 食物残差 薬の残留 0: なし 1: あり 0の状態にある 7 義歯の汚れ 0: なし 1: あり 0の状態にある
小括 : 口腔内吸引の技術及び関連するケア 口腔内吸引について 口腔内吸引は誤飲 誤嚥 肺炎等の防止 気道の確保にきわめて重要である 口腔内吸引実施ガイドラインに沿った技術の習得に心がけることが大切である 口腔内ケアについて 口腔ケアは肺炎の原因となる口腔内細菌を減少させるので 誤嚥性肺炎の予防に役立つ 高齢者は咳反射 嚥下機能が低下しているので 誤嚥に注意する
まとめ 看護職員と介護職員の協働で肺炎を予防できる
表参道吉田病院 通町 鶴屋 浄行寺 吉田3号線白川公園 水道丁 藤崎宮 大甲橋 8 階 管理棟 7 階 一般病棟 (37 床 ) 医師 5 名 6 階 療養病棟 (42 床 ) 医師 1 名 5 階 介護病棟 (42 床 ) 医師 1 名 3,4 階 老健なでしこ医師 1 名 2 階 健診センター医師 2 名 1 階 外来 検査部門
診療科目 ( 表参道吉田病院 ) 呼吸器内科アレルギー科循環器内科消化器内科糖尿病内科腫瘍内科 睡眠時無呼吸外来禁煙外来咳外来女性乳腺内科リハビリテーション科がん免疫療法
特別養護老人ホームの健康管理 ホーム A( 定員 54 名 ) ホーム B( 定員 29 名 )
ホームAにおける肺炎発生の推移肺炎発症の推移 40 35 30 肺炎 25 20 15 10 5 0 A 看護師長採用 総数 肺炎
A 看護師長による取り組み 介護職員との協働を積極的に行った 食事介助についてその人に合った姿勢を整える注意しつつ食事介助を行うトロミ食はトロミをつけすぎないむせた場合の処置 ( タッピングや吸引 )( 看護師長 ) 口腔ケアについて食後すぐに行うスポンジブラシを使用する 身体保清について
口腔内吸引で肺炎を予防できる 看護師と介護職員との協働で肺炎を予防することができた 食事介助 口腔内吸引を含む口腔ケアが有効であった 看護職員と介護職員の連携によるケアの重要性が再確認された
おわりに 肺炎 ( 誤嚥性 ) は老人の友達 肺炎 ( 誤嚥性 ) は夜作られる 肺炎は老人の最後の命の灯火を吹き消す 予防に勝る治療はなし 口腔内吸引 口腔ケアは誤嚥性肺炎を予防する 看護職員と介護職員の連携が大切