30 第 1 部現地における災害応急活動 阿蘇大橋付近の被害状況 ( 熊本県阿蘇郡南阿蘇村 ) 熊本城の被害状況 ( 熊本県熊本市 ) 2

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☆配布資料_熊本地震検証

資料1 受援計画策定ガイドラインの構成イメージ

奈良県ライフライン 情報共有発信マニュアル 第 3.3 版 平成 24 年 7 月 奈良県ライフライン防災対策連絡会

4 被災生活の環境整備主な修正概要 避難所毎に運営マニュアルを作成し 避難所の良好な生活環境を確保するための運営基準等を明確にしておく 避難所運営マニュアルの作成 訓練等を通じて 住民の避難所の運営管理に必要な知識の普及に努める 県 DMAT( 災害時派遣医療チーム ) の活動終了以降の医療提供体制

第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

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アンケート調査の概要 目的東南海 南海地震発生時の業務継続について 四国内の各市町村における取り組み状況や課題等を把握し 今後の地域防災力の強化に資することを目的としてアンケート調査を実施 実施時期平成 21 年 11 月 回答数 徳島県 24 市町村 香川県 17 市町 愛媛県 20 市町 高知県

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02一般災害対策編-第3章.indd

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第 1 章熊本地震の概要 執筆 : 阿部直樹 ( 国立研究開発法人防災科学技術研究所 ) 1-1 熊本地震動の概要 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃 熊本県熊本地方の深さ約 11km を震源とする M6.5 の地震が発生し 熊本県上益城郡益城町において震度 7を観測した また約

熊本地震検討WG方向性について(案)

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<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

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資料1 第3回災害救助に関する実務検討会における意見に対する回答

事務連絡平成 24 年 4 月 20 日 都道府県各指定都市介護保険担当主管部 ( 局 ) 御中中核市 厚生労働省老健局総務課高齢者支援課振興課老人保健課 大規模災害時における被災施設から他施設への避難 職員派遣 在宅介護者に対する安全確保対策等について 平成 23 年 3 月 11 日に発生した東

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人的応援 研修 訓練の実施 県受援マニュアル及び災害時緊急連絡員活動マニュアルを踏まえた研修 訓練の強化 () マニュアルに基づく研修 訓練県が策定する 応援職員における奈良県への受入及び市町村への短期派遣マニュアル 及び 災害時緊急連絡員活動マニュアル に基づき 災害時に役立つ実働的な訓練や研修を

00 表紙・目次

第 5 部 南海トラフ地震防災対策推進計画

各府省からの第 1 次回答 1. 災害対策は 災害対策基本法に規定されているとおり 基礎的な地方公共団体である市町村による第一義的な応急対応と 市町村を包括する広域的な地方公共団体である都道府県による関係機関間の総合調整を前提としている を活用してもなお対応できず 人命又は財産の保護のため必要がある

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二戸市地域防災計画 ( 震災編 ) の一部修正の新旧対照表現行改正案 目次 ( 震災編 ) 目次 ( 震災編 ) 第 1 章総則 第 1 章総則 第 1 節 計画の目的 351 第 2 節 計画の性格 352 第 2 節の2 災害時における個人情報の取り扱い 352 第 3 節 防災関係機関の責務及

職員の運営能力の強化 避難所担当職員研修の実施 全庁対象の避難所担当職員研修(5 回開催で約 400 名参加 ) 区毎の避難所担当職員研修 男女共同参画の視点に立った避難所づくり 共助による災害時要援護者支援の取り組みについて説明 各区災害対策本部との連絡 避難所内の課題解決の調整など 地域団体等へ

平成 28 年熊本地震における対応 平成 28 年熊本地震 ( 前震 :4/14 本震 :4/16) において 電力 ガス等の分野で供給支障等の被害が発生 関係事業者が広域的な資機材 人員の融通を実施するなど 迅速な復旧に努めた結果 当初の想定よりも 早期の復旧が実現 また 復旧見通しを早い段階で提

1 視察目的 平成 28 年熊本地震は 観測史上初めて 同一地域において震度 7 の地震がわずか 28 時間の間に二度も発生し 大きな被害をもたらした 後に 前震 とされる平成 28 年 4 月 14 日 ( 木 )21 時 26 分に発生した地震は 熊本県熊本地方の深さ 11 km地点を震源とし


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自衛隊の原子力災害派遣に関する達

168 第 5 部支援物資の実態と企業の災害対応 図 1 備蓄 プッシュ型支援 プル型支援の関係 ( 内閣府 ) ( 内閣府政策統括官 ( 防災担当 ) の公表資料に基づいて著者作成 ) 図 2 備蓄 プッシュ型支援 プル型支援の関係 ( 自治体 ) ( 著者作成 ) 一方で 熊本地震における実際の

熊本地震における 西原村の現状と今後の対応等

(溶け込み)大阪事務所BCP【実施要領】

地震発生後の九州地方整備局の活動 4 月 16 日の夜明け 本震の後に再度調査を実施しておりま す その際は 道路崩壊の調査 土砂崩壊の箇所の調査 被 災地に入るための安全ルートの確認等を実施しております 次に九州地方整備局の活動について紹介させていただき ます まず最初に地震発生後の初動体制につい

東日本大震災 (H ) 地震時の情報収集や提供に関する課題 国 地方公共団体などが連携した被災者や物資輸送者への交通関係情報の提供 大震災直後は 各管理者から別々に通行止め情報等が提供されたため 被災地までの輸送ルートの選定が困難な状況 国が集約して提供を始めたのは10 日以上過ぎた3/

緊急緊急消防援助隊について消防援助隊の概要 目的 地震等の大規模 特殊災害発生時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施する消防の援助体制を国として確保 創設の経緯等 阪神 淡路大震災での教訓を踏まえ 平成 7 年に創設 平成 15 年 6 月消防組織法の改正により法制化 平成 16 年 4 月


国の法令改正等の反映近年行われた国の法令改正や防災基本計画の修正内容を反映しました 市町村が 指定緊急避難場所及び指定避難所の指定を進めることを追加 市町村が 被災者の被害状況 配慮事項等を一元的に集約した被災者台帳を作成し 総合的かつ効果的な支援の実施に努めることを追加 首都直下地震対策特別措置法

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熊本地震を踏まえた応援受援について

2 物的支援の実施について 物資については 各避難所への搬送などの課題が指摘されているが 被災自治体には地震発生直後から国や周辺自治体等による物資供給が行われていたため 都など他地域への支援要請は限定的であった こうした状況にあって 都は 区市町村等関係機関との緊密な連携により被災地からの要請に基づ

平成17年7月11日(月)

大規模災害時における罹災証明書の交付等に関する実態調査-平成28年熊本地震を中心として-

緊急緊急消防援助隊について消防援助隊の概要 目的 地震等の大規模 特殊災害発生時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施する消防の援助体制を国として確保 創設の経緯等 阪神 淡路大震災での教訓を踏まえ 平成 7 年に創設 平成 15 年 6 月消防組織法の改正により法制化 平成 16 年 4 月

2 被害量と対策効果 < 死者 負傷者 > 過去の地震を考慮した最大クラス あらゆる可能性を考慮した最大クラス 対策前 対策後 対策前 対策後 死者数約 1,400 人約 100 人約 6,700 人約 1,500 人 重傷者数約 600 人約 400 人約 3,000 人約 1,400 人 軽傷者

01A

東京事務所版 BCP 実施要領目次応急頁 < 第 1グループ> 直ちに実施する業務 1 事務所における死傷者の救護や搬送 応急救護を行う一時的な救護スペースの設置 運営 備蓄の設置 医療機関への搬送 1 2 事務所に緊急避難してきた県民や旅行者等への対応 避難 一次避難スペースの運営 指定避難所への

平成 30 年 7 月豪雨に係る初動対応検証レポート 平成 30 年 11 月 平成 30 年 7 月豪雨に係る初動対応検証チーム

資料 2-3 超大規模防火対象物等における自衛消防活動に係る訓練の充実強化方策 ( 案 ) 平成 30 年 10 月 31 日 事務局

「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書

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(6) 八丈町役場 青ヶ島村役場 八丈町災害対策本部 青ヶ島村災害対策本部の設置 7 訓練の様子 (1) 八丈町避難誘導訓練地震時における総合的な避難訓練と火山噴火時における避難訓練を併せて行い 八丈町及び防災関係機関並びに住民がとるべき防災処置を実践し 地震災害 火山噴火災害に対応した防災対策の習


先行的評価の対象とするユースケース 整理中. 災害対応に関するユースケース. 健康に関するユースケース. 移動に関するユースケース. 教育に関するユースケース. 小売 物流に関するユースケース 6. 製造 ( 提供した製品の保守を含む ) に関するユースケース 7. 農業に関するユースケース 8.

平成16年新潟県中越地震 JR西日本福知山線列車事故 16年10月23日に発生した新潟県中越地震は 死者68人 災害関連死を含む という被害を もたらしました この地震を契機に 警察では 極めて高度な 救出救助能力を必要とする災害現場において 迅速かつ的確に被災者の救出救助を行う専門部 隊として 1

( 県の責務 ) 第三条県は 地震防災に関する総合的な施策を策定し 及びこれを実施する責務を有する 2 県は 市町村 自主防災組織その他防災関係機関等と連携して 地震防災対策を推進しなければならない 3 県は 地震に関する調査及び研究を行い その成果を県民 事業者及び市町村に公表するとともに 地震防

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特集大規模自然災害からの復旧 復興 参考 警察が検視により確認している死者数 50 名 災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的負担による死者数 106 名 6 月 日に発生した豪雨による被害のうち熊本地震と関連が認められた死者数 5 名建物被害全壊 8,360 棟, 半壊 3

九州における 道の駅 に関する調査 - 災害時の避難者への対応を中心としてー ( 計画概要 ) 調査の背景等 道の駅 は 平成 16 年 10 月の新潟県中越地震 23 年 3 月の東日本大震災において 被災者の避難場所 被災情報等の発信や被災地救援のための様々な支援の拠点として活用されたことなどか

宮城県総合防災情報システム(MIDORI)

目次 はじめに P3 1 災害 緊急の範囲 P3 2 時間と場所を考慮した対応の必要性 P3 3 時間ごとの対応 P4 4 場所ごとの対応 P5 5 デジタルサイネージの提供コンテンツ P6 6 緊急時を意識したデジタルサイネージシステム P6 7 情報の切替 復帰の条件 P7 8 緊急運用体制 P

新規文書1

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第3編 災害応急対策

2 地震 津波対策の充実 強化 (1) 南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定を踏まえ 地震防災上緊急に整備すべき施設整備 津波防災地域づくりに関する法律 の実効性確保 高台移転及び地籍調査の推進など事前防災や減災に資するハード ソフトの対策を地方公共団体が重点的に進めるための財政上の支援措置を講じ

イ留意事項 ( ア ) 対処基本方針が廃止された場合は 救援の継続や復帰のための措置について 何らかの措置により行います ( イ ) 復帰のための措置 a 誘導以外の措置 b 市長 知事による誘導 (2) 別紙第 1 情報計画 参照 2 構想 (1) 活動方針市 ( 環境防災課ほか各課 ) は 県

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病院機構災害医療センター ( 以下 災害医療センター という ) に DMAT 事務局を設置する 都道府県は 通常時に DMAT 運用計画の策定 医療機関等との協定の締結等を行い 災害時に 計画に基づき DMAT を運用し 活動に必要な支援 ( 情報収集 連絡 調整 人員又は物資の提供等 ) を行う

油漏洩 防油堤内 にて火災発生 9:17 火災発見 計器室に連絡 ( 発見 者 計器室 ) 発見後 速やかに計 器室に連絡してい る 出火箇所 火災の状況及び負傷者の発生状況等を確実に伝え 所内緊急通報の実施 火災発見の連絡を受 けて速やかに所内 緊急通報を実施し 水利の確保 ( 防災セ ンター 動

防災業務計画 株式会社ローソン

日本医師会ニュース「平成28 年熊本地震」:情報提供第五報

た ( 派遣員数 4 名 ) (2) 全国知事会は 大分県等と連携しながら 引き続き情報共有に努めるとともに 各都道府県に対し 知事会の対応状況等を連絡することとしている (3) 全国知事会は 被災市町村と支援県によるカウンターパート方式による支援を決定 (4) 熊本県への救護班の派遣について 36

調査出張報告書〔文化厚生委員会〕   (県内用)

新たな津波浸水想定を踏まえた見直しの概要 資料 1-2 H23 の想定 対象断層県設置の有識者検討会設置の有識者検討会の検討の検討結果を踏まえた 4 断層 ( 日本海東縁部 能登半島東方沖 能登半島北方沖 石川県西方海東縁部 能登半島東方沖 能登半島北方沖 石川県西方沖 ) 想定の手法土木学会の手法

(3) 設備復旧対策事例 ~ 基地局及びエントランス回線通信事業者各社で取り組んだ主な基地局あるいはネットワーク設備復旧対策としては 光ファイバー 衛星回線 無線 ( マイクロ ) 回線の活用による伝送路の復旧や 山頂などへの大ゾーン方式 ( 複数の基地局によるサービスエリアを1つの大きなゾーンとし

防災 減災への民間情報の活用の必要性 東日本大震災において 明らかになった課題 従来の情報収集の取組 職員による現地調査 報道機関からの情報 通報 検知器 ( センサー ) 課題 対応できる人員の限界 小さな地域に関する情報の不足 紙情報が多い 情報の整理 管理が困難 設備 維持費用が大きい 上記課

(取組名を記載)

( 社会福祉施設用作成例 ) (4) 施設管理者は, 緊急時連絡網により職員に連絡を取りましょう (5) 施設管理者は, 入所者の人数や, 避難に必要な車両や資機材等を確認し, 人員の派遣等が必要な場合は, 市 ( 町 ) 災害対策本部に要請してください (6) 避難先で使用する物資, 資機材等を準

浸水深 自宅の状況による避難基準 河川沿いの家屋平屋建て 2 階建て以上 浸水深 3m 以上 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 浸水深 50 cm ~3m 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難上階に垂直避難 浸水深 50 cm未満 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 自宅に待

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2014年度_三木地区概要

熊本地震に係る広域応援検証・評価について

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1 首都直下地震の概要想定震度分布 (23 区を中心として震度 6 強の想定 ) 首都直下地震 想定震度分布 出典 : 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ 首都直下地震の被害想定と対策について ( 最終報告 ) ( 平成 25 年 12 月 ) 2

市町村支援の状況について

04 Ⅳ 2(防災).xls

初動対応検証レポート

(6) 行方不明者の捜索 (7) 治安の維持 (8) 被災者等への情報伝達 (9) 前各号に掲げるもののほか 派遣先都道府県警察の長が特に指示する活動一部改正 平成 25 年第 15 号 ( 即応部隊の活動 ) 第 4 条即応部隊は 大規模災害発生時に直ちに被災地等へ赴き それぞれ次に掲げる活動を行

時間災害状況等の推移関係機関関係機関の活動内容道府県 ( 防災本部 ) の留意事項 ( 評価の視点 ) 1 日目 3.1 地震に基因する標準災害シナリオ 9:00 (0:00) 地震発生 ( 震度 6 強 ) 特定事業所 施設等の緊急停止措置 災害拡大防止上必要な施設の手動停止操作 地震発生後 速や

国土技術政策総合研究所 研究資料

事務連絡 平成 29 年 10 月 25 日 建設業団体の長殿 国土交通省土地 建設産業局建設業課長 平成 28 年熊本地震の被災地域での建設工事等における 予定価格の適切な設定等について 公共工事の予定価格の設定については 市場における労務及び資材等の最新の実勢価格を適切に反映させつつ 実際の施工

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4:10 防災科学技術研究所第 2 回災害対策本部会議を開催 各班による状況報告による情報共有等を実施 9:34 防災科学技術研究所第 3 回災害対策本部会議を開催 各班による状況報告による情報共有等を実施 11:50 防災科学技術研究所職員が熊本県庁 ( 熊本県災害対策本部 ) に到着 16:00

Transcription:

熊本地震における災害対応について 29 熊本地震における災害対応について 熊本県知事公室危機管理防災課 1. 熊本地震の概要熊本地震は 震度 7の地震がわずか28 時間の間に2 回も発生するという観測史上初となる大規模災害であった その被害は想像を絶するものであり 死者 181 名 住家被害は約 18 万棟になる ( 熊本県 1 月 13 日現在 ) また 国道 57 号や阿蘇大橋などの幹線道路の寸断や電気 水道 ガスなどのライフラインの停止など 県民の生活を支えるインフラに甚大な被害が生じた ( 停電約 45 万件 ガス供給停止約 10 万件 断水約 39 万件 ) さらに 日本三大名城の一つである熊本城のほか 水前寺成趣園や阿蘇神社など熊本県民の 宝 というべき文化財も大きな被害を受けた なお 熊本地震による県内の被害額は 推計で約 3.8 兆円に上る ( 平成 28 年 9 月 14 日時点の数値 ) また 市町村が開設した避難所には 最大で183,882 人 ( 県人口の約 1 割 平成 28 年 4 月 17 日 ( 日 ) 午前 9 時 30 分時点 ) が避難した さらに 避難所以外の施設への避難や 商業施設の駐車場 公園 グランド等での車中避難 自宅の軒先への避難が発生し 頻発する余震活動の影響から避難所の開設期間は長期化した ( 平成 28 年 11 月 18 日に熊本県内の市町村が設置した全避難所が閉鎖 ) このように被害が広範かつ甚大であったため 地震発生直後の平成 28 年 4 月 14 日に 県内全 45 市町村に災害救助法が適用され 同月 25 日には激甚災害 同月 28 日には全国で4 例目の特定非常災害に指定された このような極限状態の中で 県として これまでに経験したことのない未曽有の大災害に立ち向かっていくことになった 2. 県災害対策本部の初動対応県では 前震が発生した4 月 14 日午後 9 時 26 分に熊本県災害対策本部を自動設置し 被害情報の収集や国 市町村及び関係機関との調整を開始するとともに 初期段階における救出 救助の体制を整えた ( 表 1 参照 ) 前震発生直後 益城町などで大きな被害を確認したため 同日午後 10 時 05 分に緊急消防援助隊へ 午後 10 時 40 分に自衛隊へ派遣要請を行った 普段から防災訓練等を通して 顔の見える関係を築いていたことが迅速な応援要請に繋がった 1

30 第 1 部現地における災害応急活動 阿蘇大橋付近の被害状況 ( 熊本県阿蘇郡南阿蘇村 ) 熊本城の被害状況 ( 熊本県熊本市 ) 2

熊本地震における災害対応について 31 H28.4.21 政府現地対策本部及び熊本県災害対策本部合同会議の状況 H28.4.22 活動調整会議の状況 3

32 第 1 部現地における災害応急活動 表 1 初動対応タイムライン 災害対策本部の運営については 災害対応の経験が豊富な自衛官 OB の危機管理防災企画監がリーダーシップを発揮し 初期の指揮命令系統を確立した また 大きな余震が続く混乱の中にあっても 危機管理防災課 消防保安課の職員が総括班 消防班 情報班 物資班等の各班に分かれて スムーズに対応することができた 加えて 本県は 危機管理部門の経験のある職員を大規模災害発生時に動員する制度を設けている 現役課員と経験職員が協力して各種業務に迅速かつ的確に対処しており 改めて当該制度の有効性が確認できた また 今回 県庁各部局と警察 消防 自衛隊 海上保安庁 国土交通省等の関係機関と密に連携するため 県災害対策本部では 活動調整会議をこまめに行い 県の方針を伝え 情報と認識の共有を図るとともに 捜索と人命救助を行う上での課題等を調整した この際 情報共有や状況分析の手法として UTM グリッド地図 ( 地理院地図 ) を導入したことにより 県内のどこで被害が発生しているのかなど位置情報を一目で把握 共有することができた このように各局面における適切な初動体制の確保が 迅速な人命救助活動や避難者支援活動に繋がりきることができた 一方で 運営上課題が生じた点もあった 例えば 被害状況等の情報の提供時期や責任者によるぶら下がり対応等 あらかじめ報道機関との情報提供に関する取り決めを行っていなかったため 随時の報道対応に時間を要し 情報収集に支障を来たすこともあった 今後 報道機関の関心の高い情報 ( 被害状況等 ) は 発表時間 回数 提供方法等について あらかじめ報道機関と情報を共有しておく必要があると考えている また 災害対策本部の中に 報道官を置き 記者レク又はぶら下がり対応など 積極的な情報提供体制を検討していく必要もあると考えている 3. 人命救助 被災者の救助は 発災から 72 時間以内が特に重要な時間帯と言われている 安否不明者 4

熊本地震における災害対応について 33 が発生した4 月 16 日の本震から3 日後の4 月 19 日までの間に 各機関による迅速な捜索 救出活動の結果 緊急消防援助隊 自衛隊 県内消防本部 警察 海上保安庁の各機関により総数で1,713 名が救助された ( 表 2 参照 ) 本県の地震災害の被害想定 ( 平成 25 年 3 月作成 ) では死者数は約 1,000 人に上ると予測していた 各機関の円滑な救助活動がなければ 被害想定を大きく上回る数の死者が発生した可能性があったのではないかと考えている また 各県の防災消防ヘリをはじめ 警察 自衛隊 海上保安庁のヘリも多数投入され 夜を徹しての救助 救援活動や被害状況の把握に当たっていただいた 特に 道路が寸断されていたため 孤立地域の被災者の救助や支援物資の輸送など 各機関のヘリは大変効果的に活用された さらに ヘリから送られる現地の映像を災害対策本部会議室の大型スクリーンにリアルタイムで流すことにより 常に最新の被害状況を把握することができ 捜索 救助における各種方針を決定するうえで 極めて有効であった なお 熊本県では平成 25 年度より九州広域防災拠点構想のもと 阿蘇くまもと空港の隣にヘリ駐機場の整備を行っていたため 延べ150 機の警察ヘリや49 機の消防ヘリを受け入れるなどヘリコプターによる応援をスムーズに受け入れることができた 救出に係る投入人数 表 2 被災者の救出状況 ~4 月 15 日 4 月 16 日 4 月 17 日 4 月 18 日 4 月 19 日 計 緊急消防援助隊 594 489 2,081 1,981 1,953 7,098 県内消防本部 270 572 0 14 12 868 警察 1,153 1,126 2,246 1,988 1,976 8,489 自衛隊 1,800 15,000 20,000 22,000 22,000 80,800 海上保安庁 0 14 0 5 0 19 計 3,817 17,201 24,327 25,988 25,941 97,274 救出者数 緊急消防援助隊 11 74 1 0 0 86 県内消防本部 76 124 0 1 8 209 警察 39 112 1 2 5 159 自衛隊 590 336 205 21 103 1,255 海上保安庁 0 2 0 1 1 4 計 716 648 207 25 117 1,713 他にも 発災直後の自衛隊等が到着していない初期段階では 地元の消防団や自主防災組織等により 住民の避難誘導や安否確認 倒壊家屋からの被災者の救出等が行われた 災害救助活動は 専門集団である各救助機関の活動を いかに円滑に進めるかが肝要である 今回 本県では初めて 緊急消防援助隊の応援要請を行い 自衛隊 警察 海上保安庁などの各機関との連携調整を密に行うことにより 全体として 一体感を持った まとまりのある効率的な捜索 救助等の活動を展開することができたと考えている 本県としては 今回の地震を機に 各機関がさらに円滑に活動することができるように 受援に係る計画や体制の整備を進めていく予定である 5

34 第 1 部現地における災害応急活動 緊急消防援助隊による救助活動の様子 4. 物的支援災害時の支援物資の供給方法としては 被災地のニーズに応じて物資を調達 供給する プル型 支援が基本である しかし 発災直後は正確な情報把握に時間を要するうえに 民間企業の供給能力が低下するため 被災自治体のみでは 必要な物資量を迅速に調達 供給することができない このため 今回の熊本地震では 被災自治体からの要請の前に 国が必要不可欠と見込まれる物資を調達し 緊急輸送する プッシュ型 支援が採用された このプッシュ型支援により 水や食料が早期に被災地に届き また 国が本支援を大々的に発表したことによるアナウンスメント効果もあり 被災者の安心感の確保につながった また 物資輸送において ラストワンマイル の問題が発生した これは 国では支援物資を県や被災市町村の物資拠点まで輸送し 市町村が当該拠点から各避難所までの輸送を行う計画であったため 幹線道路の被災やトラック及び人員の不足により 避難所に物資が届かないという問題である このため 物資の管理 配送を 発災直後は自衛隊に依頼し その後は民間物流業者に業務委託することにより解決を図った 他にも いつ 何が届くのかという情報提供がなかったことも物資要請の重複や物資余剰の発生など混乱を招いた この問題については 国と協議し 各避難所にタブレットを導入することにより リアルタイムで被災者のニーズを把握することができ 物資要請の重複を防ぐなど物資調達の効率化につながった さらには 2 度の震度 7の強震 いつまでも続く余震活動への不安から 車中泊 テント 6

熊本地震における災害対応について 35 泊 自宅の軒先避難など指定避難所以外への避難が多数発生し その方々の実態の把握が困難であったことから 行政による物資支援などには限界があった この問題については 本県と熊本県社会福祉協議会 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク (JVOAD) の三者による連携のもと ボランティアや NPO 等による支援が大きな力となった プッシュ型支援により届いた支援物資 5. 広域応援と受援力前述のように 初動対応を迅速かつ適切に行うことができたのは 震災発生直後から各局面において 国や各自治体 自衛隊 消防 警察 民間企業等の各機関からの献身的な応援があったからである 国の非常災害現地対策本部は 最大 110 名体制で対応に当たり 各省庁からは被災者生活支援チームとして 延べ8,388 名の応援職員が派遣された 特に 本県勤務経験を有する者や本県出身者の各省幹部が派遣されたため 国との調整等が速やかに進めることができた また 大分県 ( 九州知事会事務局 ) や政令市長会等が派遣調整の窓口となって 延べ約 123,000 人の応援職員が全国の自治体から派遣された 特に 応援自治体を被災自治体に割り当て その自治体が責任を持って 継続的に支援を行うカウンターパート方式の採用は 県による被災市町村への支援が十分に行き届かない中 必要な人員を派遣する仕組みとして有効に機能した また 東日本大震災や新潟県中越沖地震などの災害を経験した職員はその経験を活かし 避難所運営や罹災証明書発行業務 住家被害認定調査など各種災害対応業務において活躍した このように職員派遣は有効に機能した面もあったが 課題も生じた まず 被災市町村は 発災直後の混乱により 支援が必要な業務や人員数の把握が困難であった また 受 7

36 第 1 部現地における災害応急活動 援計画が未整備であったため 応援県との役割分担や情報共有が不十分なところもあった その結果 職員数の過不足が生じたり 応援職員の活用が十分できない市町村もあった 他にも短期で交代する応援職員間の引継ぎや業務の説明等に苦慮したケースもあった 以上の点から 発災当初は 応援県は被災自治体の要請を待たず 自己完結型の支援チームをプッシュ型で派遣する仕組みや 災害対応業務の標準化を行い 被災自治体職員 応援職員を問わず 誰でもすぐに災害対応業務が行えるような仕組みが必要であると考える また 非常時優先業務の整理など BCP の策定 見直し等により 受援体制も整備する必要がある 表 3 広域応援 派遣先 派遣元 応援職員派遣者数 熊本県庁 全国知事会 関西広域連合 静岡県等 延べ約 18,000 人 熊本市 政令市長会等 延べ54,000 人 その他市町村 全国知事会 関西広域連合 福島県等 延べ約 61,000 人 計 数値は H29.1.10 時点 公的機関からの派遣人数のみ 延べ約 123,000 人 住家被害認定調査に従事する応援職員の様子 8

熊本地震における災害対応について 37 6. 最後に近年 全国で災害が多発しており 災害への 対応力 の強化が急務となっている この対応力の強化のために 過去の災害の教訓を学び 次の防災対策 災害対応に活かしていかなければならない そのため 本県では熊本地震の対応について検証を行っており 対応の過程で生じた課題の整理や今後の改善策の検討を行っている また この経験及び教訓を風化させず後世に遺していくために 市町村や大学 企業 各種団体等と連携して 被害の実情や復旧 復興の過程で得たノウハウなどを 後世に伝えていくために必要な資料のアーカイブ化にも取組んでいる 上記を通して 熊本地震の経験と教訓が本県のみならず 全国の今後の防災対策 災害対応の礎となるよう取り組んでいく次第である 今後とも本県の復旧 復興に向けて 暖かいご支援 御協力をよろしくお願いいたします 自衛隊員と避難者との炊出し作業の様子 9