青竜塾平成 27 年第 5 回 漢方生薬と方剤利水剤 医療法人社団ひのき会 証クリニック吉祥寺 神田 檜山幸孝
気血水の相互関係 内湿
水の偏在 = 過剰状態 内湿とは 水滞ないし水毒とほぼ同義 夏期に高温 多湿環境で増悪する 本邦では冬の日本海側で低温 多湿となる 病理 : 津液の代謝障害から水滞となる 水滞は下半身 末梢から進行する 水湿が滞留すると痰を生じる
漢方医学における病的機転 内因 : 七情 怒 喜 思 憂 恐 悲 驚 内生五邪 : 内風 内寒 内熱 内火 内湿 内燥 外因 : 六淫 風 寒 暑 湿 燥 火 不内外因 : 不摂生
内生五邪と五臓の相互関係 夏では熱邪と結び湿熱となる 湿熱が更なる水滞を招く 五臓の障害としては脾気虚となり 水湿が重症化する 冬では寒邪による腎陽虚と相まって水滞がさらに悪化する 近年では夏期の冷房による寒邪が無視できなくなっている
水湿が代謝されずに持続すると 痰 : 呼吸器および器官内に停留した粘稠な液体を生じる さらに気血の巡行を妨げ 気鬱 気虚 血虚 瘀血病態を生ずる 症状 : だるい 体が重い 疲れやすい 朝起きにくい 皮膚は乾燥し皮下に水腫
西洋医学からみた内湿 症状 : 腎の機能障害 : 浮腫 尿量減少主に下半身の浮腫 ( むくみ ) 下痢帯下が増える 脾の機能障害 : 消化吸収 水分代謝の障害 肺の機能障害 : 動悸 息切れ 呼吸困難
水滞病態がみられる疾患 疼痛性疾患しびれ 痛みを水滞からとらえる 疼痛部位に浮腫の存在 性周期に関連する浮腫 : 月経痛 頭痛 PMS 月経困難症更年期障碍 脳 脊髄血管障害 : 麻痺側に浮腫 心 腎機能低下 : 末梢優位の浮腫 炎症性疾患 : アレルギー性疾患 リウマチ膠原病 炎症部位に浮腫
水滞病態と現代医学 : 治療の観点から 水滞病態は血行障害を来す疾患でひろく見られる -------------------------------------------------------------------- 水滞病態は多くは二次的に生ずる 水滞病態の改善 症状の改善 * 根本 = 原因治療ではなくとも症状の改善が期待できる 水滞病態に注目して新たな治療戦略を立てられる
痛みと漢方 痛みを漢方医学的にどう捉えるか 肝心の異常脾虚 腎虚の併存 気血の異常水滞の合併 疼痛性疾患を瘀血 > 血虚 > 水滞病態からみると
漢方医学における疼痛の病理 実痛 不通則痛 通則不痛 例 ) 寒凝瘀血 虚痛 不栄則痛 例 ) 腎気虚損
漢方医学では疼痛をどう捉えるか 気 血 水の異常
頭痛 ( 緊張型頭痛 片頭痛 ) 気 血 水の異常 水滞 瘀血 頭重感 ~ 緊張型頭痛 ~ 血管性頭痛 生理周期に関連した血管性頭痛 気逆 気鬱 頭重感 ~ 緊張型頭痛 ~ 血管性頭痛 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 冷え 寒 : 寒厥 血管性頭痛
三叉神経痛 西洋医学的病態から漢方医学的病態 治法へ ( 日本神経治療学会標準的神経治療 : 三叉神経痛 2009) 1 三叉神経の root entry zone における圧迫 三叉神経の浮腫 水滞 : 利水消腫五苓散の有効例多数 2 神経原性疼痛の興奮性抑制 : 抗けいれん薬 肝鬱血虚 : 養血柔肝 疏肝解鬱柴胡桂枝加芍薬湯 芍薬甘草湯 気逆 瘀血 : 活血化瘀 降気桃核承気湯
肋間神経痛気 血 水からみると 気鬱 = 瘀血 > 水滞 ( 局所に腫れ ): 五積散 五積散 陳皮 枳殻 ( 理気 ) 川芎 当帰 ( 活血化瘀 ) 蒼朮 厚朴 茯苓 ( 袪湿 ) 半夏 桔梗 陳皮 ( 去痰 ) 芍薬 甘草 ( 補陰 止痙 ) 麻黄 白芷 ( 去風散寒 ) 乾姜 桂皮 ( 温裏散寒 )
内湿漢方方剤選択の指針水滞 特徴的症状と対応する病態 食欲不振 胃もたれ便通異常 便秘 下痢倦怠感 易疲労感 息切れ 腰痛 消化器系以外の症状にも注目
内湿漢方方剤選択の指針水滞 症状に対応する方剤と選択
柴苓湯とは 出典 処方構成 適応病名 症状 世医得効方 柴胡 7.0 黄芩 3.0 人参 3.0 甘草 2.0 大棗 3.0 生姜 1.0 半夏 5.0 ツ社茯苓 3.0 猪苓 3.0 蒼朮 3.0 沢瀉 5.0(4.0) 桂皮 2.0(1.5) ク社茯苓 4.5(3.0) 猪苓 4.5(3.0) 白朮 4.5(3.0) 沢瀉 6.0(5.0) 桂皮 3.0(2.0) 注 ) 小柴胡湯 : 柴胡黄芩人参甘草大棗半夏生姜注 ) 五苓散 : 茯苓猪苓白朮沢瀉桂皮 再構成したものを示す 総合 : 暑気あたり循環器 : むくみ消化器 : 急性胃腸炎 水瀉性下痢
柴苓湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 小柴胡湯柴胡 7.0 半夏 5.0 黄芩 3.0 半夏 6.0 人参 3.0 甘草 2.0 大棗 3.0 半夏 6.0 生姜 1.0 生姜 1.0 五苓散茯苓 3.0/4.5 白朮 3.0/4.5 茯苓 5.0 猪苓 3.0/4.5 沢瀉 5.0/6.0 猪苓 3.0/4.5 桂皮 2.0/3.0 : 疏肝解鬱 理気 : 瀉火 : 理気 化湿 化痰 止嘔 : 補気健脾 生津 : 理気 止嘔 化痰 化湿 : 化痰 : 健脾 補中 利水 : 健脾利水安神 : 利水 止瀉 消腫 : 清熱 : 解表 = 発汗 散寒 理気
防風通聖散とは 出典 処方構成 宣明論 大黄 1.5 芒消 0.7 麻黄 1.2 防風 1.2 荊芥 1.2 薄荷 1.2 滑石 3.0 山梔子 1.2 桔梗 2.0 石膏 2.0 連翹 1.2 黄芩 2.0 当帰 芍薬 川芎 1.2 白朮 2.0 甘草 2.0 生姜 0.3 注 ) 調胃承気湯 = 大黄 2.0 芒消 0.5 甘草 1.0 適応病名 症状 再構成したものを示す 総合 : 肥満症 むくみ循環器 : 高血圧 [ の随伴症状 ( どうき 肩こり のぼせ )] 心臓衰弱消化器 :( 常習 ) 便秘 胃酸過多症腎泌尿器 : 腎臓病精神神経 : 脳溢血これらに伴う肩こり
防風通聖散構成生薬からみた漢方医学的適応病態 大黄 1.5 芒消 0.7 麻黄 1.2 防風 1.2 荊芥 1.2 薄荷 1.2 滑石 3.0 山梔子 1.2 桔梗 2.0 石膏 2.0 連翹 1.2 黄芩 2.0 当帰 芍薬 川芎 1.2 白朮 2.0 甘草 2.0 生姜 0.3 : 瀉下 : 解表 疏表 : 清上 : 清下 : 清肺 胃 : 清熱 解毒 : 養血 = 補血 : 補気 健脾 : 和胃 = 和中
防巳黄耆湯とは 出典 処方構成 適応病名 症状 金匱要略 防已 5.0 黄耆 5.0 白朮 3.0 甘草 1.5 生姜 1.0 大棗 3.0 再構成したものを示す 総合 : 肥満症 ( 筋肉にしまりのない いわゆる水ぶとり ) 浮腫運動器 : 筋炎 関節炎 関節痛 関節リウマチ生殖器 : 月経不順泌尿器 : 腎炎 ネフローゼ 妊娠腎 陰嚢水腫精神神経 : 疲労倦怠 半身不随皮膚 : 皮膚病 多汗症 癤 癰
防巳黄耆湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 防已 5.0 黄耆 4.0 白朮 4.0 黄耆 4.0 白朮 3.0 白朮 3.0 生姜 0.5 甘草 1.5 大棗 3.0 防已 5.0 黄耆 4.0 白朮 4.0 大棗 2.0 : 利水 消腫 : 補気健脾 止汗 : 化湿 : 健脾 緩和 : 止痛 袪風湿 : 固表 生肌 : 止瀉 : 健脾
五苓散とは 出典 処方構成 傷寒論 金匱要略 ツムラ コタロー クラシエ 東洋 茯苓 3.0 4.5 3.0 3.0 猪苓 3.0 4.5 3.0 3.0 白朮 3.0 4.5 3.0 3.0 沢瀉 4.0 6.0 5.0 5.0 桂皮 1.5 2.5 2.0 3.0 注 ) ツムラは白朮に替えて蒼朮 東洋は桂皮に替えて桂枝 適応病名 症状 再構成したものを示す 総合 : 浮腫 二日酔い= 宿酔 暑気あたり消化器 : 急性胃腸カタル 急性胃腸炎 ( しぶり腹の者には使用しないこと ) ( 小児 乳児の ) 下痢 水瀉性下痢 悪心 嘔吐 胃内停水 黄疸腎 泌尿器 : 腎炎 ネフローゼ 尿毒症 膀胱カタル精神神経 : めまい 頭痛内分泌 代謝 : 糖尿病
五苓散 ( 四苓散 + 桂皮 ) 構成生薬からみた漢方医学的適応病態 茯苓 白朮 猪苓 沢瀉 茯苓 3.0 白朮 3.0 猪苓 3.0 沢瀉 4~5.0 猪苓 3.0 桂皮 1.5~2.5 : 四苓散 : 健脾 補中 利水 : 利水 止瀉 消腫 : 清熱 : 解表 = 発汗 散寒 理気
二陳湯とは 出典処方構成適応病名 症状 循環器 : なし呼吸器 : なし 和剤局方 半夏 5.0 陳皮 4.0 茯苓 5.0 甘草 1.0 生姜 1.0 注 ) 小半夏加茯苓湯 : 半夏茯苓生姜 再構成したものを示す 消化器 : 悪心 嘔吐精神神経 : なし
二陳湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 半夏 5.0 生姜 1.0 半夏 6.0 陳皮 2.0 生姜 1.0 茯苓 5.0 : 化湿 和胃降逆 化痰 止咳 : 理気 化湿 化痰 止嘔 : 理気 化湿 化痰 : 化痰 : 利水 止瀉消腫健脾安神
当帰芍薬散とは 出典 処方構成 適応病名 症状 金匱要略 当帰 4.0 芍薬 1.0 白朮 4.0 茯苓 4.0 沢瀉 2.0 川芎 2.0 注 ) 四苓散 ( 茯苓 白朮 猪苓 沢瀉 )- 猪苓注 ) 四物湯 ( 当帰 芍薬 川芎 地黄 )- 地黄 再構成したものを示す 総合 : 倦怠感 更年期障害 ( 頭重 頭痛 めまい 肩こり等 ) 腰痛 足腰の冷え症循環器 : 動悸 心臓弁膜症 心臓衰弱 血圧異常 脚気泌尿器 : 慢性腎炎 腎臓病生殖器 : 月経不順 月経困難 月経痛 不妊症 妊娠中の諸病産前産後あるいは流産による疲労倦怠 めまい むくみ消化器 : つわり 痔核 脱肛皮膚 : にきび しみ しもやけ造血器 : 貧血 ( 症 ) 産前産後あるいは流産による貧血症精神神経系 : 更年期神経症 めまい 頭重 肩こり
当帰芍薬散構成生薬からみた漢方医学的適応病態 当帰 3.0 芍薬 4.0/6.0 川芎 3.0 当帰 3.0 芍薬 4.0/6.0 当帰 3.0 川芎 3.0 白朮 4.0 茯苓 4.0 白朮 4.0 茯苓 4.0 沢瀉 4.0 : 止痙 止痛 調経 : 補血 : 活血 散寒 ( 通陽 ) : 健脾 : 利水 消腫 止瀉
真武湯とは 出典 処方構成 適応病名 症状 傷寒論 茯苓 5.0 白朮 ( 蒼朮 )3.0 芍薬 3.0 生姜 1.5 附子 0.5~1.0 注 ) 附子 : 最低量しか入っていないので加える必要がある 再構成したものを示す 消化器系 : 胃腸疾患胃下垂症腹膜炎慢性下痢泌尿器系 : ネフローゼ慢性腎炎循環器系 : 高血圧症低血圧症心臓弁膜症総合 : 新陳代謝の沈衰しているもの 冷え 倦怠感が強くめまいや動悸があって尿量減少し 下痢しやすいもの
真武湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 茯苓 5.0 白朮 ( 蒼朮 )3.0 芍薬 3.0 生姜 1.5 附子 0.5~1.0 : 健脾利水 : 益脾陰気収斂 : 和営止腹痛 : 温経逐寒 : 補腎陽去寒邪
内湿漢方方剤選択の指針水滞 特徴的症状と対応する病態 食欲不振 胃もたれ便通異常 便秘 下痢倦怠感 易疲労感 息切れ 腰痛 消化器系以外の症状にも注目
内湿漢方方剤選択の指針水滞 症状に対応する方剤と選択
内湿 水滞のまとめ 病態 : 津液の代謝障害を招来し 水滞となる 水滞は下半身 末梢から進行する 水湿が滞留すると痰を生じる 熱邪と結んで湿熱となる 内湿が基礎にあると湿邪はより顕著になる 対応する治療 : 化湿 化痰 補脾陽気, 補肺陽気, 補腎陽