Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

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第一章自然免疫活性化物質による T 細胞機能の修飾に関する検討自然免疫は 感染の初期段階において重要な防御機構である 自然免疫を担当する細胞は パターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors:PRRs) を介して PAMPs の特異的な構造を検知する 機能性食品は

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (


報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

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八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

平成24年7月x日

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研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

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平成24年7月x日

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< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

図 Mincle シグナルのマクロファージでの働き

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研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

報道関係者各位

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研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

第6号-2/8)最前線(大矢)


病原性真菌 Candida albicans の バイオフィルム形成機序の解析および形成阻害薬の探索 Biofilm Form ation Mech anism s of P at hogenic Fungus Candida albicans and Screening of Biofilm In

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word CREST中山(確定版)

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論文の内容の要旨

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

汎発性膿庖性乾癬の解明

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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研究成果報告書

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

記 者 発 表(予 定)

スライド 1

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

プログラム

学位論文の要約

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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Transcription:

平成 22 年 5 月 21 日 東京大学医科学研究所 真菌に対する感染防御のしくみを解明 ( 新規治療法の開発や機能性食品の開発に有用 ) JST 課題解決型基礎研究の一環として 東京大学医科学研究所の岩倉洋一郎教授らは 真菌に対する感染防御機構を明らかにしました カンジダなどの真菌は常在菌として健康な人の皮膚や粘膜などに存在し 健康に害を及ぼすことはありません 一方で 免疫力が低下した人に対しては命を脅かす重篤な病態を引き起こすことがあります ところが これまで真菌類に対する感染防御機構は良く判っておりませんでした このしくみをマウスモデルで調べ デクチン-2とよばれる樹状細胞注 1) の表面にあるタンパク質が カンジダの感染防御に重要な役割を果たしていることを突き止めました デクチン-2は 真菌の細胞壁を構成する糖鎖の一つであるα-マンナンを認識し 細胞内にシグナルを伝え サイトカイン注 2) とよばれるタンパク質を生産します そのサイトカインが T 細胞の中の Th17 細胞注 3) とよばれる特殊な亜集団の分化を誘導する事によって カンジダ感染防御に重要な役割を果たしている事がわかりました 本研究の成果は真菌感染の治療や 酵母やキノコなどのα-マンナン含有食品の有効利用に役立つことが期待されます 本研究は 東京大学医科学研究所の西城忍助教らの他 東京薬科大学 理化学研究所免疫 アレルギー科学総合研究センター 東北大学 東邦大学 大阪大学のグループとの共同で行われ 戦略的創造研究推進事業 (CREST) の他 生物系特定産業技術研究支援センター ( 生研センター ) 文部科学省の支援を受けて行われました 本研究成果は 2010 年 5 月 20 日に米国科学誌 Immunity のオンライン速報版で公開されました - 1 -

本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構と治療技術 ( 研究総括 : 菅村和夫宮城県立がんセンター総長 ) 研究課題名 :IL-17 ファミリー分子 C 型レクチンを標的とした自己免疫 アレルギー疾患の発症機構の解明と治療薬の開発研究代表者 : 岩倉洋一郎研究期間 : 平成 20 年 10 月 ~ 平成 26 年 3 月 JST はこの領域で アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防 診断 治療することを目的に 免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています 上記研究課題では IL-17 ファミリー分子 及び C 型レクチンを標的とした自己免疫疾患 アレルギー疾患の発症機構を解明し 最終的に治療薬の開発に結びつけることを目指しています - 2 -

< 研究の背景と経緯 > 真菌類には食用キノコや酵母 カビなどが含まれ 細胞壁はマンナン β-グルカン キチンなどの多糖類で構成されていることが知られています キノコや酵母などは食用に供され その構成成分中には免疫系を活性化すると言われているものも存在しています 一方で カビは常在菌として環境中に存在し 人に病原性を示すものもあります しかしながら これまでこのような真菌類の免疫系に対する作用や 感染防御機構はよくわかっておらず 明確な実験的証拠が示されておりませんでした 本研究は真菌のうち 人に対して重篤な症状を引き起こす事のある Candida albicans( カンジダ菌 ) に対する感染防御機構を解析したものです カンジダ菌は人に感染性を示す代表的なカビの一種で 皮膚や粘膜に常在しています 健常人には通常病原性を示しませんが エイズや末期がん患者など免疫能が低下した人に対しては 時には死に至る重篤な病態を引き起こすことがあります そこで私たちはこの菌が宿主の免疫系に対して与える影響と感染防御機構を解析する事にしました 私達は以前 C 型レクチンと呼ばれる糖鎖認識受容体の一種で デクチン-1 とよばれる分子がβ- グルカンの受容体であり ( 図 1) カリニ肺炎の病因となるカビの一種 Pneumocystis carinii の感染防御に重要な役割を果たしていることを明らかにしております ( 参考文献 1) しかし デクチン-1 はカンジダ菌の感染防御にはあまり関与しておりませんでした そこで 細胞壁を構成する別の多糖であるマンナンと結合することが知られていたデクチン (Dectin)-2 に着目し この遺伝子の欠損マウスを作製してその機能を解析しました < 研究の内容 > デクチン-2 欠損マウスを作製し このマウスの骨髄細胞から樹状細胞を作製して この細胞にα-マンナンを作用させた時 反応性が変化するかどうかを調べました その結果 野生型の樹状細胞からは TNF や IL-1 IL-6 IL-23 などの炎症性のサイトカインの発現誘導が見られるのに対し デクチン-2 欠損マウス由来の樹状細胞ではこれらのサイトカイン産生が全く見られなくなる事を見いだしました この事はデクチン 2がα-マンナンの特異的な受容体である事を示しています シグナル伝達経路を調べたところ, デクチン-2 がα -マンナンを認識すると Fc 受容体 γ 鎖 CARD9 を介して NF-κB を活性化し 強力にサイトカイン産生を誘導することがわかりました ( 図 1) デクチン-2 欠損マウス由来の骨髄由来樹状細胞は試験管の中でα-マンナンによるサイトカイン産生能を失っているばかりではなく デクチン-2 の欠損マウスはカンジダ菌に対する感染防御能が顕著に低下し 野生型マウスと比較し 有意に生存率が低下しておりました ( 図 2) また 試験管内でカンジダ菌と樹状細胞を培養した時の培養液を別に準備したナイーブ T 細胞注 3) の培養液に添加すると Th17 細胞とよばれる感染防御や炎症反応で重要な役割を果たす T 細胞が効率的に分化してくるのに対し デクチン-2 欠損マウスの樹状細胞由来の培養液は Th17 細胞を分化させる能力が著しく低下している事が分かりました ( 図 3) これらの結果から デクチン-2 は真菌表面に存在するα-マンナンに結合するだけでなく 特異的なシグナルを細 - 3 -

胞内に伝える活性化受容体である事 デクチン-2 を介したシグナルはサイトカイン産生を誘導してこれらのサイトカインがT 細胞を優先的にTh17 細胞に分化させることがわかりました 私達はこれまでに Th17 細胞が黄色ブドウ球菌などの細菌に対する感染防御に重要であることを見つけておりますが ( 参考文献 2) 今回の研究で Th17 細胞が産生する IL-17 がカンジダ菌の感染防御にも非常に重要な役割を果たしている事がわかりました ( 図 4) < 今後の展開 > これらの成果により これまでにない新しい切り口の真菌感染に対する治療薬を開発できる可能性があります また 真菌は健常人にも共生していることから デクチン-2が常に弱く刺激されている可能性があり その結果 アレルギーや自己免疫といった別の病気を引き起こしている可能性も考えられます 今後はその様な 健康な人におよぼす真菌の影響についても理解も進むことも期待されます また これまで食物中に含まれるα-マンナンが生体の免疫系に何らかの影響を与えている可能性が言われていますが 今回作製したデクチン-2 欠損マウスを用いる事によって こうした問題にも答えを出すことが出来るものと考えられます - 4 -

< 参考図 > 図 1. デクチン-1とデクチン-2によるサイトカイン分泌機構模式図デクチン-1はβ-グルカンの受容体で 細胞外の糖鎖を認識する部分でβ-グルカンと結合すると 細胞内にある ITAM と呼ばれる部分が活性化し CARD9と呼ばれるタンパク質を含む複合体にシグナルを伝えます その結果 炎症性サイトカインが大量に細胞から放出されます 一方 デクチン-2は細胞外の糖鎖を認識する部分でα-マンナンと結合しますが デクチン-1と異なり 細胞内にシグナルを伝える ITAM などの特定の配列がありません そこで ITAM を細胞内に持つが 細胞外には特定の配列を持たない Fc 受容体 γ 鎖が会合し シグナルを細胞内に伝達します その後は同様に CARD9を含む複合体と NF-κB を介して大量のサイトカインを分泌することが判りました - 5 -

図 2. デクチン-2を欠損するとカンジダ菌に対する抵抗力が低下するデクチン-2が真菌細胞膜を構成するα-マンナンと結合し 細胞から大量にサイトカインを分泌させることがわかったので デクチン-2 欠損マウスと野生型マウスにカンジダ菌を感染させました その結果 デクチン-2 欠損マウスはカンジダ菌に対する抵抗力が顕著に低下しており 野生型マウスと比較し感染後の生存率が有意に減少していることがわかりました - 6 -

図 3. デクチン-2によって分泌されたサイトカインは T 細胞を優先的に Th17 細胞に分化させる上 : 実験方法の模式図です 野生型マウスとデクチン-2 欠損マウスの樹状細胞にカンジダ菌を加え その培養液を採取しました その培養液を別に準備したナイーブ T 細胞に加え 同時に T 細胞に対する増殖刺激を行い 5 日後に T 細胞の分化状態をフローサイトメーターで調べました 下 : フローサイトメーターで T 細胞の産生するサイトカインを調べた結果です 野生型マウスやデクチン-1 欠損マウスの樹状細胞から採取した培養液と培養した T 細胞は IL-17 を産生する Th17 細胞になっていますが デクチン-2 欠損マウスの樹状細胞から採取した培養液は Th17 細胞に分化させる能力がないことがわかりました この結果から デクチン-2を介して培養液中に分泌されるサイトカインが Th17 細胞の分化に重要であることが示されました - 7 -

図 4. IL-17 欠損マウスはカンジダ感染に対する抵抗力が低下しているデクチン-2によるシグナルが T 細胞を優先的に Th17 細胞に分化させる能力があることがわかったので 実際に Th17 細胞から分泌される IL-17 が実際にカンジダ感染に関与しているかどうかを IL-17 欠損マウスを使って調べました その結果予想通り IL-17 欠損マウスはカンジダ菌に対する抵抗力が低下しており 野生型マウスと比較し 生存率が顕著に低下しました - 8 -

< 用語解説 > 注 1) 樹状細胞 : 免疫を担当する細胞の一つで 平たく枝を伸ばした様な形をしています 樹状細胞は外敵を見分け 取り込み 他の免疫担当細胞に抗原として提示します 注 2) 炎症性サイトカイン : 免疫担当細胞が細胞外に放出するタンパク質のうち 炎症反応を引き起こすもの サイトカインを放出することにより 他の免疫担当細胞を集めたり 他の細胞を分化させ外敵と戦う準備をさせたりする機能があります 注 3) T 細胞 Th17 細胞 ナイーブ T 細胞 : 免疫担当細胞の一つ 樹状細胞によって抗原提示を受けると その抗原を見分けることの出来る T 細胞が増殖します まだ抗原に出会ったことのない T 細胞をナイーブ T 細胞と呼びます また 増殖する時に特定の条件が整うと IL-17 を分泌する Th17 細胞に分化します < 論文名 > Dectin-2 recognition of α-mannans and induction of Th17 differentiation is essential for host defense against Candida albicans. ( デクチン-2はα-マンナンの特異的受容体であり IL-17 産生 T 細胞の分化を誘導することによりカンジダ感染防御に重要な役割を果たす ) < 参考文献 > 1. Saijo et al., Dectin-1 is required for host defense against Pneumocystis carinii but not against Candida albicans. Nat. Immunol., 8; 39-46 (2007). 2. Ishigame et al., Differential roles of interleukin-17a and -17F in host defense against mucoepithelial bacterial infection and allergic responses. Immunity, 30: 108-119 (2009). <お問い合わせ先 > < 研究に関すること> 岩倉洋一郎 ( イワクラヨウイチロウ ) 東京大学医科学研究所システム疾患モデル研究センター教授 108-8639 東京都港区白金台 4 6 1 東京大学医科学研究所システム疾患モデル研究センター 分子病態研究分野 HP: http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/cem_dcb/index.html - 9 -