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「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

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当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

金融政策決定会合における主な意見

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

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経済見通し

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

第1章

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

【11】ゼロからわかる『債券・金利』_1704.indd

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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経済学でわかる金融・証券市場の話③

第 1 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +1.54% 収益率 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1.02% 実現収益率 ( )) 運用収益額 +3,222 億円 総合収益額 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1,862 億円 実現収益額 ( )) 運用資産残高 ( 第 1 四半期末 )

平成24年度 業務概況書

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

目 次 1. 平成 27 年度 ( 平成 27 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 ) における運用環境について 2. 平成 27 年度 ( 平成 27 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 ) のポートフォリオ別の運用状況 3. ベンチマーク インデックスの推移 ( 参考 ) 被保険者ポート

市場と経済A

2018 年度第 3 四半期運用状況 ( 速報 ) 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に判断することが必要ですが 国民の皆様に対して適時適切な情報提供を行う観点から 作成 公表が義務付けられている事業年度ごとの業務概況書のほか 四半期ごとに運用状況の速報として公表を行うも

当面の金融政策運営について(「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の導入、12時50分公表)

現実の金融政策 2016 年 1 月より政策委員 9 名 ( 総裁 副総裁を含む ) 年 8 回 ( 通常 1 月 4 月 7 月 10 月 ) ただし実施月は2 回ずつ 金融政策決定会合 金融政策を具体的にどのように運営していくのか 金融政策の方針を決定 ( 金融市場調節方針 ) 本来 金利ターゲ

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黒田総裁が 10 月 6 7 日の金融政策決定会合や 直前の参議院財政金融委員会 (10/28) でも物価目標達成への自信を示していたため 市場では今回は追加緩和が行われないとの見方が大勢であった 追加緩和は市場にとってサプライズとなり 株高 円安が進展することとなった 日銀は 追加緩和を行った理由

四国地方 主要8行の預金・貸出金等分析(2017年第2四半期(中間期)決算)

【IR付属資料2】120116地方公共団体の基金に係る資金の性質に応じた運用手法について

わが国の経済・物価情勢と金融政策

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2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

短期均衡(2) IS-LMモデル

経済:マーケット・フォーカス

PowerPoint プレゼンテーション

マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

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( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

第 2 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +0.09% 実現収益率 ( ) ( 第 2 四半期 ) 運用収益額 億円 実現収益額 ( ) ( 第 2 四半期 ) 運用資産残高 ( 第 2 四半期末 ) 357 億円 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に

平成28年度公金管理運用計画

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

平成16年度中間決算の概要

【16】ゼロからわかる「世界経済の動き」_1704.indd

PowerPoint プレゼンテーション

グローバル・マクロ・ウォッチ

(4) 資産運用の実績 ( 一般勘定 ) ア. 資産の構成 ( 単位 : 百万円 %) 金額占率金額占率 現預金 コールローン 394, , 買 現 先 勘 定 223, , 商 品 有 価 証 券 金 銭 の 信 託 有 価 証

PowerPoint プレゼンテーション

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平成11年度決算:計数資料

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別紙2

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

参考図表:2018年第2四半期の資金循環(速報)

平成23年11月1日

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平成 28 年度第 3 四半期退職等年金給付組合積立金運用状況 警察共済組合

輸出が伸び悩む理由について 会合後の記者会見で黒田総裁は 海外生産シフトといった構造的要因があるとしながらも 1ASEAN 景気の弱さ 2 米国の寒波や東アジアの春節の影響 3 駆け込み需要への対応から企業が国内向け出荷を優先する動きが見られることを挙げ 一時的な要因も相応にあると説明した 今後 先

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スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

Microsoft Word ECB利下げ.doc

マクロ インサイト FRB FRB 長期金利 FRB bp 図表 1 FRB と市場の金利予測の乖離 FOMC 予測 vs 市場予測 年末 年末 2.0 市場が

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退職等年金給付積立金 平成30年度第2四半期運用状況


現代資本主義論

1

資料 1-1 資料 1-1 平成 29 年度財政融資資金運用報告について 平成 30 年度財政融資資金運用報告について 平成令和元年 30 年 7 月 26 日財務省理財局財務省理財局

平成30年度第1四半期における運用状況等

1 制度の概要 (1) 金融機関の破綻処理に係る施策の実施体制金融庁は 預金保険法 ( 昭和 46 年法律第 34 号 以下 法 という ) 等の規定に基づき 金融機関の破綻処理等のための施策を 預金保険機構及び株式会社整理回収機構 ( 以下 整理回収機構 という ) を通じて実施してきている (2

はじめに日銀は 1 月 29 日に マイナス金利付き量的 質的金融緩和 の導入を決定し 金融緩和の拡大に踏み切った これまで 量的 質的金融緩和 という異例の大規模緩和を 3 年近く続けたにも関わらず 日銀が政策目標とする物価上昇率は足元でゼロ % 近傍に止まっている 原油価格の大幅下落という想定外

日本国債

平成29年度公金管理運用計画

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

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平成26年度公金管理運用計画

国内主要112行の第2四半期決算(中間期)預金・貸出金等実態調査

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【42】今日から使える「債券・金利」_1704.indd

Microsoft PowerPoint - 平成22年度決算の概要(Ver2)

平成29年度における運用状況等

実際 ドル円相場と日米金利差の推移をみると概ね相関していると言え その相関係数は振れを伴いながらもとりわけ高い相関を示している時期もあることが確認できる ( 前頁図表 1 2) 一方 最近みられる傾向として注目されるのがドル円相場と日本株の相関の高さである 2. ドル円相場と日本株の関係 (1) 高

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

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第101期(平成15年度)中間決算の概要

公社債の店頭売買の参考値等の発表及び売買値段に関する規則 に関する細則 の 一部改正について 平成 30 年 4 月 6 日 日本証券業協会 Ⅰ. 改正の趣旨本協会では平成 27 年 11 月 2 日より 社債の取引情報の発表制度 ( 以下 発表制度 という ) を開始しており 発表制度については

ニュースリリース 食品産業動向調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 2 6 日 株式会社日本政策金融公庫 食品産業景況 DI 4 半期連続でマイナス値 経常利益の悪化続く ~ 31 年上半期見通しはマイナス幅縮小 持ち直しの動き ~ < 食品産業動向調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日

受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

足元 ファンドの基準価額にはプラスの影響 当ファンドでは マザーファンドを通じて実質的に日本国債への投資を行っています 今回の日銀による追加金融緩和により 年限の短い部分から長い部分まで日本国債の利回りが大幅低下した結果 ( 図表 4) 当ファンドの基準価額は組入債券の価格上昇 ( 金利低下 ) を

People s Bank 決算概要 The Bank of Okinawa,Ltd 11

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Transcription:

長期化する金融緩和による懸念点 ~ 大量の国債買入と金利操作の持続性 ~ < 要旨 > 23 年 4 月から始まった一連の金融緩和政策は 3 年半余りが経過した 金融緩和の 長期化でマネタリーベース拡大は継続し 足元の残高は 4 兆円を超える規模まで達し たが 年 8 兆円とする大量の国債買入は持続可能なペースではない 当部の試算では 現在の買い入れペースが持続できるのは 27 年後半から 28 年前半までとなった また マネタリーベースの拡大に伴い 額面を超える金額での国債買入が続いている が これは日本銀行の償却負担を増大させ収益を悪化させる要因となる 当部の試算で は 22 年度までは保有国債からの受取利息を償却額が上回ることはないが 海外の 長期金利が上昇する中で 長期金利の抑圧を続けることは内外金利差を拡大させ 日 本国債の売却増加を誘引しやすくなる そうなれば 償却負担額は累増していき 日本銀 行の財務やイールドカーブ コントロールの維持可能性に対する疑念を高め 結果として 更なる金利上昇圧力を招きかねない 27 年以降の米欧の政治イベントによる金利を中心とした金融市場の不安定化は 量と金利操作の両面から 現在の日本銀行による金融政策の枠組みに変更を迫ることと なるであろう. 大量の国債買入の持続性 23 年 4 月の量的 質的金融緩和政策 (QQE) の導入から 3 年半余りが過ぎた しかし 消費者物価の前年比上昇率 2% の 物価安定の目標 は 当初念頭に置いた 2 年を優に超えたにも関わらず 未だ達成されていない ( 図表 ) 金融緩和の長期化により 国債買入によりマネタリーベースも拡大を続け 足元の残高は 4 兆円を超える規模まで達している 図表 マネタリーベースと CPI コア 2..5. ( 前年同月比 %) マネタリーベース ( 右目盛 ) CPI コア ( 生鮮食品を除く総合 ) ( 月末残高 兆円 ) 45 4 35.5 3. 25 -.5 2 -. 5 -.5-2. 5 2 2 22 23 24 25 26 ( 注 )CPI コアは消費税調整済み ( 資料 ) 総務省 消費者物価指数 日本銀行 マネタリーベースと日本銀行の取引

図表 2 保有者別国債保有残高の推移 図表 3 国債保割合の推移 5 4 3 2 日本銀行預金取扱金融機関保険 年金基金海外 2 2 22 23 24 25 26 (%) 8 6 4 2 2 2 22 23 24 25 26 その他保険 年金基金日本銀行 ( 資料 ) 日本銀行 資金循環統計 ( 資料 ) 日本銀行 資金循環統計 海外預金取扱金融機関 6 25 22 37 QQE の柱であるマネタリーベース拡大は 当初年間 6~7 兆円のペースでの増加目標からスタートし 24 年 月には更に年間 8 兆円に増額された 26 年 9 月には イールドカーブ コントロール (YCC) の導入に伴い マネタリーベースの増加目標は めど とされたが 物価情勢の弱いままの中 増加ペースは依然として維持され 足元では日本銀行が最大の国債保有者となった ( 図表 2) 国債の保有割合も上昇を続け 26 年 9 月末時点では 37% を保有していることになる ( 図表 3) 日本銀行の国債保有急増は 資金量を目標にした枠組みでは 目標額の国債を買い続けられなくなることで金融政策の限界が来る という懸念を高める要因となり こうした状況で日本銀行が採用したのが 9 月に導入した YCC であった 金融政策の目標を量から金利にすることで 国債需給が引き締まればより少ない額の買い入れでも金利を押さえ込んで金融政策の目標を達成し続けることができるというのが日本銀行の説明であり 同時に資金量を目標にした枠組みの限界説に対する回答でもあった YCC において マネタリーベースの増加は めど とされて目標ではなくなったが 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 ) の前年比上昇率の実績値が安定的に 2% を超えるまで 拡大方針を継続する として 大量の資金供給に依然として重要な意味を持たせている これは 9 月の総括的検証において示された マネタリーベースの拡大は 人々の物価観に働きかけ 予想物価上昇率の押し上げに寄与した という考え方に基づいている そしてこの先は 年国債利回りをゼロ % 前後に維持するために 多少増減はしてもこれまでとほぼ同じという大量の国債を買入れ続けることを想定している では 日本銀行はこの先も大量の国債購入を続けられるのであろうか 今回 以下の通り単純な仮定を置くことで 大量の国債買い入れができなくなる時期を試算すると 27 年後半から 28 年前半となった まず 試算の前提となる国債の供給と需要額を確認すると 26 年度の国債発行予定額から新規発行額は 37 兆円 日本銀行の買入額は 28 年度までの 3 年間で毎年度平均 4 兆円の償還が発生することを考慮し 年間 8 兆円の拡大をするために 総額で約 2 兆円が必要になる ( 次頁図表 4 5) 2

ここで 毎年度 37 兆円の国債が新規に発行され 2これを日本銀行が市中取引で全額買入れること 3 残りの 83 兆円を主要な買入先である金融機関から買入れることの三つの前提を置くと 26 年 3 月末時点で 232 兆円ある金融機関の国債残高は約 2.8 年 (232 兆円 83 兆円 ) で底をつくことになる 但し 実際には 金融機関は担保として一定程度の国債を保有する必要があり 全額売却に応じることはないことを考慮すると 27 年後半から 28 年前半までには大量の国債買入は難しくなる 図表 4 平成 28 年度の国債発行予定額 43 図表 5 国債償還金額の推移 ( 単位 : 兆円 ) 発行根拠法別 消化方式別 新規国債 37 市中発行分 58 復興債 2 個人向け販売 3 財投債 2 公的部門 ( 日銀乗換 ) 8 借換債 9 合計 68 68 42 4 4 39 38 ( 注 )2 次補正後の値 内訳の数字は兆円以下を四捨五入しているため 合計の値と必ずしも一致しない ( 資料 ) 財務省 平成 28 年度国債発行予定額 37 26 年度 27 年度 28 年度平均 ( 注 )26 年 月末時点での保有銘柄を元に算出 ( 資料 ) 日本銀行 日本銀行が保有する国債の銘柄別残高 財務省 国債の償還予定額 大量の国債買入れが持続出来なくとも 国債需給が引き締まった場合には より少ない買入額で金利を抑え込むことができるようになるため 日銀の考え通り目標とする金利は維持できよう しかし 買入額が減ってしまうとオーバーシュート型コミットメント (OSC) に結び付けられた マネタリーベースの拡大 による予想物価上昇率への働きかけの効果は弱まることになる この点で 大量の資金供給に重要な意味を持たせる OSC の考え方は さほど遠くないうちに見直しを迫られる可能性がある 2. 国債買入の償却負担増による金利上昇の懸念 金融緩和政策が長期化するにつれて持続性が懸念されるのは量による緩和だけではない マネタリーベースの拡大に伴う 額面を超える金額での国債買入は 日本銀行の償却負担を増大させ収益を悪化させる要因となる そこで こうした日本銀行の財務面での悪化が 現在の金融緩和策の持続性に対する懸念の高まりを通じて 実際の金利上昇につながる可能性がどの程度あるのかをみていきたい QQE 以降 民間投資家からの額面を超える価格での国債買入が急増し マイナス金利以降にはそのペースが更に加速している 額面と買入額との差額は 要償却額として日本銀行にとっての将来の損失となる そこで この要償却額を当部で試算すると QQE が開始された 23 年から 26 年 月末までに年度平均で約 3 兆円 累計で約 2 兆円発生したことになる ( 次頁図表 6) この金額は残存期間を通じて均等な金額が償却されていくため 単年度でみれば 直ちに日本銀行の収益を悪化させる主要因とはならない 3

図表 6 償却必要額 4 3 2 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 ( 注 )26 年度は 26 年 4 月 ~26 年 月末まで ( 資料 ) 日本銀行 日本銀行が保有する国債の銘柄別残高 マネタリーベースと日本銀行の取引 25 年度の金融市場調節 この償却負担が日銀の利益を圧迫して 日銀財務内容に対する懸念が高まるのではないかと いう観点から 毎年度の国債買入額と利回り 償却必要額の 3 つの動きについて一定の仮定 を 置くことで 22 年度までどの程度償却負担が日本銀行の収益を押し下げるかシミュレーションを 行った ( 図表 7) このシミュレーションに基づくと 22 年度までの間に日銀の保有する国債の受 取利息の金額を 償却負担額を上回ることはない 今回のシミュレーションでは 国債買入額が 27 年度をピークに低下していくと共に 償却負担も減少してくと仮定しているため 受取利息か ら償却額を差し引いた償却調整後の利息収入は.3 兆円程度で維持されることになる 図表 7 受取利息と償却必要額の推移 3.5 3. 2.5 2..5..5 受取利息 償却必要額 予測. 24 25 26 27 28 29 22 ( 年度 ) ( 注 )26 年度の数値については 26 年 4 月 ~26 年 月末までの動きが続くと仮定して算出した ( 資料 ) 日本銀行 日本銀行が保有する国債の銘柄別残高 マネタリーベースと日本銀行の取引 各種報道を元に作成 ここでは 27 年度に 8 兆円の買入がなされ 28 年度以降は徐々に買入額が減少すること 222 年度まで 日本銀行の保有国債の平均利回りが.3% 程度 ( 過去の低下トレンドを参考とした ) まで徐々に低下していくこと 3 償却負担額が毎年度 2,~3, 億円程度で増加するとの仮定を置いた 4

しかし 現在のように海外からの金利上昇圧力が高まる中で 長期金利を抑え込み続けると 内外金利差の拡大で日本銀行に対する国債の売りが増加しやすくなる こうなると 日本銀行は金利維持のために売りに応じる必要があり 前節で触れた買入額の減少には至らないが 償却負担額は累増していき 日本銀行財務への懸念を高めかねない これが YCC の維持可能性に対する疑念を強めれば 国債の売り圧力 ( 金利上昇圧力 ) に拍車をかけることになる 日本銀行の内外でこの枠組みに対する懸念が強まれば政策の変更を余儀なくされ 結果として金利急騰に至る可能性も将来的には考えられる 米国を中心とする海外の金利上昇圧力が強まるほど こういったリスクは高まっていくだろう 3. 今後の展望 26 年 2 月の金融政策決定会合で 日本銀行は長短金利の目標水準と国債買入ペースの変更は行わなかった 現在は適切なイールドカーブの形状は維持されているとの見方をしているが 長短金利の誘導水準の変更がどのような条件でなされるのかは明らかにされておらず 変更のタイミングや変更する金利水準等 なお不確実性は高い 円安 原油高の影響でCPIコアが 2% に近づいていくことが見込まれるが その過程で % の誘導水準を維持し続けることは過剰な緩和となる可能性があり 国内需要の動きに応じた適切なイールドカーブの形状を示すことが求められる ただし 誘導水準の引き上げは前述した償却必要額の増加を意味するため 日銀の財務面からの政策の限界が意識され意図しない金利上昇を招きかねない一方で 緩和を強化する際には量的な限界が意識されやすくなる 今後 日本銀行は難しい政策判断を求められるであろう 27 年以降は 米国や欧州の政治イベントを起因として 金利を中心とする金融市場の振れが拡大することを想定しており 将来的には オーバーシュート型コミットメント と イールドカーブ コントロール の枠組みによる現在の金融緩和の方向に変更が求められる可能性は高いと考えられる ( 経済調査チーム加藤秀忠 :Kato_Hidetada@smtb.jp) 本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済 金融情報を提供するものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 5