特 集 縦隔 胸膜疾患における画像診断の役割 1. 画像診断の基礎 1-1. 胸部 X 線画像 原眞咲 1), 小澤良之 2) 名古屋市立西部医療センター中央放射線部 1), 名古屋市立大学大学院放射線医学分野 2) Chest Radiographs Masaki Hara, M.D., Ph.D. 1), Yoshiyuki Ozawa, M.D., Ph.D. 2) 1) Department of Radiology, Nagoya City West Medical Center 2) Department of Radiology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences NICHIDOKU-IHO Vol.59 No.1 6-28 (2014) Summary In this article, we will describe the role of mediastinal reflections for evaluating chest radiographs. On standing posterio-anterior (PA) chest radiograph, the lung area obscured by the heart, mediastinum and diaphragm has been reported to range up to 43% and 26% of the whole chest area and volume, respectively. It is essential that these areas should be carefully evaluated to improve the accuracy of interpretation of PA chest radiograph. The information of radiographs consists of lines and contrast. Although it might be difficult to obtain the information of areas with high attenuation superimposed by the heart, mediastinum and diaphragm, the ability to recognize the variety, origin, and characteristics of the mediastinal lesions would improve the level of diagnoses. The lines on radiographs are projected when the round margin is exposed to beams of a tangential direction. When the margin of soft tissue is surrounded by lower density material, the low attenuation band will appear beside the lines (black, negative or dark Mach effect). In contrast, when the tissue with lower attenuation makes a round margin, the lines will show an apparent clear low density shadow (white, positive or light Mach effect). We understand the circumstance of the lines based on this illusion. The classification of the mediastinum component by Felson has been used in chest radiology for a long time. This method divided the mediastinum into three components such as the anterior, middle posterior area using lateral chest radiograph. The boundary between the anterior and middle mediastinum and between the middle and posterior mediastinum is a continuous line from the anterior edge of trachea to the posterior margin of heart and 1 cm behind the anterior edge of the vertebral bodies, respectively. The clinical value of this classification is excellent because the boundaries had been determined by plotting numerous lesions on lateral images. CT can provide more accurate and detailed anatomical information and a new CT classification for mediastinal component has recently been published. We hope that this article will be helpful for residents and general radiologists to refresh thier knowledge of their mediastinal and pleural anatomies. 胸部単純 X 線写真の読影における肺縦隔境界線 (mediastinal reflection) の役割胸部単純 X 線写真正面像において 縦隔 心 横隔膜陰影と重なりを持つ肺の面積は 肺が投影される面積の 43% に及ぶと言われている ( 図 1) 1) CTを用い容積として計算した場合でも全肺容積の26% が重なっている ( 図 2) 1) 肺病変の診断率を高めるためには この重なった 部分の読影技術を会得することが必須である 2 3) 単純 X 線写真は 線 と 濃度差 が情報の原点である 縦隔 心 横隔膜と重なる吸収の程度が高い部分 (X 線の透過性が低く画像上は 白っぽく見える部分 ) の情報をとらえるためには複雑な肺縦隔構造を知る手がかりとなる肺縦隔境界線の理解を深める必要がある 2 3) 単純 X 線写真における 線 は丸く突出した辺縁が接線で投影された場合に形成される 軟部吸収値が突出し 6(6) 日獨医報第 59 巻第 1 号 6-28(2014)
図 1 正面像で中央陰影 横隔膜に重なる肺野面積 43% 26% 重なる体積 重なる面積 図 2 CT 像で中央陰影 横隔膜に重なる肺野面積 体積 周りが空気に覆われた場合は線の外側に透過性の高い帯状構造が認識され 逆に 空気や肺が突出し 周りが軟部で覆われた部分では線自体の透過性が低下し画像上白っぽく認識される これは目の錯覚により生じる現象であり 各々 black (negative dark) マッハ効果 ( 図 3) white (positive light) マッハ効果 ( 図 4) と呼ばれる 線 の性状を正しく認識することにより 周囲の環境を診断することが可能となる ( 表 1) 2 3) 縦隔の区分は 単純 X 線写真の領域では古くからFel- sonの区分が使用されている ( 図 5) 4) すなわち 気管前 7(7)
図 3 Black Mach band 図 4 White Mach band 8(8)
表 1 Black Mach effect と white Mach effect Black(negative, dark) 周りが空気気管傍線, 下行大動脈左縁, 心辺縁, 横隔膜辺縁, 随伴影 White(positive, light) 周りが軟部食道傍線, 脊椎傍線, 前接合線, 肺下縁 図 5 単純 X 線写真側面像による縦隔の区分 Felson の区分 縁を尾側にトレースし心後縁に連続させた境界より腹側を前縦隔 椎体前縁より10mm 背側に仮想の線をトレースし この境界より背側を後縦隔 両者の間を中縦隔とする区分である 数多くの病変の位置を側面像にプロットした上で 鑑別に有用な境界を導き出した臨床的な区分である CTではより詳細な存在部位や広がり 病変性状の評価が可能となっている 1999 年に 縦隔腫瘍取扱い規約第 1 版 が発行され CTを用いた新しい区分が 提唱されている 5 6) 発生部位の正確な把握は鑑別診断に役立つ重要な情報である 本稿では 代表的な肺縦隔線を列挙し CT 画像からフィードバックする解説をできるだけ平易に加えることにより 肺縦隔解剖についての理解を深め 合理的かつ効率的な読影手順を身につけ 実践応用する手助けとなることを目標としたい 9(9)
後接合線 前接合線 右気管傍線 右食道傍線 大動脈肺動脈線 左脊椎傍線 大動脈肺動脈窓 肺の下縁 下行大動脈左縁 図 6 正面像における代表的肺縦隔境界線 A B 臨床で役立つ肺縦隔境界線の種類とその解説 1. 正面像 ( 表 2 図 6 22) 2 3) 後接合線または胸膜食道線条 前接合線 右気管傍線 右食道傍線または食道奇静脈線 大動脈肺動脈窓 大動脈肺動脈線 左脊椎傍線 下行大動脈左縁および肺の下縁が挙げられる 1) 後接合線 (posterior junction line) または胸膜食道線条 (pleuro-esophageal stripe)( 図 6A 7 10) 後接合線は両側肺円蓋部から2~3cm 尾側で左右の肺が食道の背側 椎体前縁で接する部分が投影され描出される 尾側で大動脈弓が現れると 左側肺が食道背側に到達できなくなるため 線としては投影されなくなり消失する Felsonの縦隔区分では中縦隔に存在する 吸気不十分の場合や 肥満体である場合 両側肺が食道背側まで進展できず 食道外側に位置すると 投影像は食道の左右径により線は形成せず 幅を持った線条 (stripe) となる ( 図 10) 2) 前接合線 (anterior junction line)( 図 6A 7 8 11) 左右の肺が胸骨の背側で接することにより生じる 大動脈弓の高さを起点にすると線の性質が理解しやすい 大動脈弓の高さでは 左右の肺が接しているが 2~ 3cm 頭側では前縦隔が胸壁と5~6cm 接するようになり 左右の肺が急に乖離する これは 大動脈弓より腕頭動 表 2 正面像における肺縦隔境界線の種類 ( 肺下縁含む ) 後接合線 (posterior junction line) 胸膜食道線条 (pleuro-esophageal stripe) 前接合線 (anterior junction line) 臨床的に有用性が高いのは, 右気管傍線 (right paratracheal band) 右食道傍線 (right paraesophageal line) 食道奇静脈線 (azygoesophageal line) 左脊椎傍線 (left paraspinal or paravertebral line) 大動脈肺動脈窓 (aorto-pulmonary window) 大動脈肺動脈線 (aorto-pulmonary stripe) 下行大動脈左縁 (lateral margin of the descending aorta) 肺下縁 脈 左総頸動脈 左鎖骨下動脈が分岐し さらに左右の 腕頭静脈が合流し上大静脈となる構造が前縦隔に出現す るためである ( 図 11) 尾側に向かって前接合線はやや左側に偏位するが 徐々に描出不良となる これは 右心室が前胸壁に接する範囲が拡大することによる ( 図 11) 後接合線が消失する部位より前接合線が出現するため 関連があるように一見思われるが 実際には前接合線は胸骨背側部に存在する前縦隔の構造であり 椎体前縁の後接合線とは全く関連がない 逆に これら肺縦隔境界線の成り立ちを理解できると 単純 X 線写真正面像所見のみから 背腹方向の情報 すなわち 三次元情報を推測することが可能となる 10(10)
図 7 後接合線, 右気管傍線, 前接合線と左鎖骨下動脈左縁 図 8 後接合線, 右気管傍線および前接合線と側面像 11(11)
図 9 CT における後接合線 ( ) と左鎖骨下動脈左縁 図 10 CT における胸膜食道線条 ( ) 12(12)
図 11 CT における前接合線 ( ) 3) 右気管傍線 (right paratracheal band)( 図 6A 7 9 12) 気管透亮像の右側に2~3mmの幅を持った線条が描出される 気管全長に渡って描出されるわけではなく描出範囲が限られる理由 また 右側にしか出現しない理由を理解することが重要である 気管傍線は胸鎖関節の高さから尾側のみで認められ 気管気管支分岐部に至り紡錘状に膨隆する 胸鎖関節の頭側で描出されない原因は 胸部単純 X 線写真正面像では胸郭入口部 ( 胸骨上縁 胸鎖関節 第 1 肋骨上縁 第 1 胸椎上縁で構成される面 ) が腹側で低く背側が高位の斜めに投影されることにある 気管は 胸郭入口部の腹側寄りを通過するため 胸鎖関節より頭側の気管はすでに頸部に存在することになる 頸部では気管周囲には甲状腺 総頸動脈 内頸静脈さらに胸鎖乳突筋が覆っており 気管周囲に空気が存在することはない また左右差は生じない 胸腔内に入って初めて気管の右側辺縁に右上葉内側部が接し 気管傍線の外側縁を形成することになる したがって 気管傍線の構成要素は 気管壁 周囲のわずかな結合組織 壁側胸膜 臓側胸膜であり これらが2 ~3mmの厚さの線条として描出される ( 図 12) 気管の左側に沿って10mm 径の管状構造がCTでは確認できる これは 左鎖骨下動脈であり 気管左側壁に左上区が接することはできない ( 図 7 9) 胸部単純 X 線写真正面像では気管左側壁の10mm 外側に左外側に向かう線状影が描出されるが これは 左鎖骨下動脈の左縁 + 気管傍線と同様の気管壁 周囲のわずかな結合組織 壁側胸膜 臓側胸膜を介した辺縁が投影された陰影である ( 図 7 9) 気管傍線の下縁は4 分音符の頭のように紡錘状に拡張 13(13)
図 12 CT における前接合線 ( ) と奇静脈弓 (azygos arch, ) 図 13 右食道傍線, 左脊椎傍線および下行大動脈左縁 14(14)
図 14 右食道傍線, 左脊椎傍線および下行大動脈左縁と側面像 するが この辺縁は奇静脈弓が投影され形成される ( 図 7 8 12) 奇静脈弓は奇静脈から腹側に90 度屈曲し上大静脈に合流する部分である 短径 7mmを超えると拡大と判断する 拡大の原因としては 開口している上大静脈から右心房からの影響 すなわち右心負荷によることが多い また 正常変異として 肝下下大静脈閉塞 + 奇静脈連結が挙げられる 下大静脈の閉塞のため 奇静脈が側副路となり 血流増加のため奇静脈および奇静脈弓が拡張することが原因である さらに 腫瘍 肉芽腫性など様々な原因の気管気管支分岐部リンパ節腫大および神経原性腫瘍などの縦隔病変も拡大の原因となる 気管傍線は気管の真横に位置するため Felsonの縦隔区分では中縦隔に属している 4) 右食道傍線 (right paraesophageal line)( 図 6A 7 8 13 15) 右下葉のS6ならびにS7は内側面に凸に膨隆している この丸い辺縁が明瞭な線として投影される 胸腔のこの陥凹部は奇静脈食道陥凹と呼ばれ 奇静脈あるいは食道右縁が存在する 気管分岐部よりこの陥凹は出現し 食道の腹腔内への移行部 すなわち横隔膜の食道裂孔部ま で連続する ( 図 15) 胸部単純 X 線写真正面像では気管分岐部より椎体ほぼ正中を若干左側に向かって走行する ( 図 6A 7 8) 食道傍線を境界として向かって右側は透過性が高く 左側は透過性が低下している これは重なる軟部構造の厚さに起因するが 食道傍線が不明瞭な場合この透過性の左右差に注目すると存在部位を知る手がかりとなる 左側では 下行大動脈が存在し 左房との間にこのような陥凹が通常存在できないため左食道傍線は認められない しかし肺気腫や過大な吸気などで 左房を代表とする心大血管と下行大動脈との間に下葉が嵌入する場合 左食道傍線が観察される 食道癌 食道平滑筋腫 食道嚢胞 食道静脈瘤といった食道関連病変において食道傍線は限局性に膨隆する 食道は椎体前面の腹側を走行するため 全長に渡り中縦隔に位置することになる 5) 左脊椎傍線 (left paraspinal or paravertebral line) ( 図 6A 13 14 16 17) 下行大動脈の上縁から胸椎左側辺縁より5~6mm 外側に認められる線である ( 図 6A 13 14) 左横隔膜内側 15(15)
図 15 CT における右食道傍線, 食道奇静脈線 ( ) 図 16 CTにおける左脊椎傍線下行大動脈背側で肺が椎体傍部に凸に突出する部分で構成される ( ). 横隔膜と接する部分で消失する ( ). 16(16)
図 17 CTにおける下行大動脈左縁 ( ) 下行大動脈は大動脈裂孔に向かい腹側に偏位し, 横隔膜と接する部分で消失する ( ). 縁とV 字を形成することがある 左側に描出されるというよりは下行大動脈左縁の内側に生ずるとする方がより正確である 脊椎傍線の成因は下行大動脈の背側 椎体傍部に形成される下葉肺の円形突出である ( 図 16 17) したがって 下行大動脈の存在が必須であり 右側下行大動脈例では右脊椎傍線が投影されることになる 肺縦隔境界線の中では最も背側に位置する構造であり 唯一後縦隔に属している ( 図 15) 胸部仰臥位単純 X 線写真正面像は ポータブル装置の構造的な制約のため FFD(film-focus distance) が立位の180~200cmと比較して100cm 程度と短いため 拡大率が大きくなること また 腹背方向撮影となるため 心 縦隔構造が拡大され 重なりの大きい画像となるため読影の難易度が高い また 仰臥位であるため胸水が背側に貯留するため 肋骨横隔膜や内側部の透過性低下といった立位で有用な異常所見を利用することができない このため 胸水貯留の感度が低いとされている 脊椎傍線が仰臥位正面像で消失した場合 下行大動脈左縁の描出の有無により胸水貯留量推定の一助となる 6) 大動脈肺動脈窓 (aorto-pulmonary window)( 図 6B) 上縁は大動脈弓下縁 下縁が左肺動脈上縁 内側縁が左主気管支の左縁 右縁は縦隔胸膜により境界される透過性の高い領域である 大動脈弓下縁は左頭側にカーブし 左肺動脈上縁は若干尾側に走行するため 内側に頂点を有する三角形の透過性亢進領域と表現されている 大動脈下リンパ節の腫大や神経原性腫瘍などの縦隔病変が存在すると透過性が低下し 周囲の大動脈弓や左肺動脈弓との境界が不明瞭となるため 大動脈肺動脈窓が消失することになる さらに大きな病変が存在すれば左側縁が左側に膨隆する 7) 大動脈肺動脈線 (aorto-pulmonary stripe)( 図 6B 18 19) 7) 大動脈肺動脈窓の腹側 上行大動脈前外側部から肺動脈幹外側を周囲の脂肪変性を来した胸腺を覆う縦隔胸膜辺縁が投影されて生ずる ( 図 6B 18 19) 大動脈弓背側辺縁である第 1 弓よりは腹側の構造である 大動脈弓辺縁の若干内側から斜め外側に向かって左肺動脈影と交差し 左 2 弓に連続して描出される ( 図 6B 18) 描出頻 17(17)
図 18 大動脈肺動脈線 (aorto-pulmonary stripe) 大動脈弓辺縁の若干内側から斜め外側に向かい, 左肺動脈影と交差し, 左 2 弓に連続する ( ). 図 19 CT における大動脈肺動脈線 18(18)
図 20 正常肺下縁 両側肺の下縁は胸腔の背尾側, 肋骨横隔膜から尾側に辺縁平滑な弧を描く. 高さに左右差はない ( ). 図 21 肺下縁 : 左陳旧性胸膜炎胸水貯留後, 吸収される過程で癒着が起こると肺の下縁が挙上する ( ). 19(19)
図 22 71 歳, 男性 Lepidic predominant adenocarcinoma( ) と陳旧性胸膜炎 ( ) 横隔膜と重なる肺の異常影をとらえるためには, 肺の下縁を常に意識し, 読影のルーチンとする必要がある. B A C 度は15% と高くはない 前縦隔の占拠性病変 ( 胸腺上皮性腫瘍 悪性リンパ腫 胚細胞腫瘍 リンパ節腫大 血腫など ) により左側に膨隆する また 縦隔気腫が存在すると縦隔内空気に境界される線として描出されやすいとされている 8) 肺下縁 ( 図 20 22) 両側肺の下縁は胸腔の背側尾側に伸びている 左右の肺の下縁には左右差がないのが正常である また 正常では肋骨横隔膜から尾側に辺縁平滑な弧を描く 胸膜炎などで胸水が貯留したあとに吸収される際に癒着が生じると肺の伸展が不十分となり肺の下縁が挙上する 横隔膜と重なる肺の面積や容積は無視しえない 読影の際に は肺の下縁を常に意識することにより 肺野異常影を発見するきっかけとするべきである 2. 側面像 ( 表 3 図 23 33) 2 3) 前上胸膜外線と前縦隔線 上下大静脈後縁 気管後線条または気管食道線条 大動脈弓後上縁 左肺動脈後上縁 大動脈肺動脈窓 右上葉気管支輪切り像 中間気管支後線条 左上葉気管支輪切り像 肺動脈影と下肺静脈影 椎体前線 左右の横隔膜の識別方法 心嚢水貯留所見が診断に有用な構造として挙げられる 20(20)
前上胸膜外線 左前縦隔線 上 下大静脈後縁 気管後線条 気管食道線条 表 3 大動脈弓 肺動脈後上縁 上葉気管支輪切り像 中間気管支幹後線条 側面像における肺縦隔境界線の種類 (anterio-superior extrapleural line) (left anterior mediastinal line) (posterior margin of SVC and IVC) (posterior tracheal stripe or band) (posterior tracheoesophageal stripe) (aortic arch, postero-superior margin of PA) (orifice of upper lobe bronchus) (posterior intermedius bronchus stripe) 左右肺動脈 下肺静脈 (pulmonary arteries and inferior PV) 椎体前線 (anterior vertebral line) 左右横隔膜の識別 (identification of the bilateral diaphragms) 心嚢水の描出 (displaced epicardial fat pad sign) SVC: superior vena cava, IVC: inferior vena cava, PA: pulmonary artery, PV: pulmonary vein 図 23 前上胸膜外線, 下大静脈後縁, 左前縦隔線 1) 前上胸膜外線 (anterio-superior extrapleural line) ( 図 23 24) 左側面像で左頭側の胸腔外には 腕頭動静脈 第 1 肋軟骨の一群が存在する これらの構造が拡張 蛇行あるいは腫大すると胸腔側に突出する辺縁を形成することになる 2) 左前縦隔線 (left anterior mediastinal line)( 図 23) 前胸壁の尾側では 心臓が存在するため左右の構造が異なっている すなわち 左側では心臓あるいは心膜外脂肪塊 (pericardial fat pad) が存在するため 舌区の肺が前胸壁にまで達しない このため 側面像では右肺の透亮像に重なって前上部前胸壁から尾背側に向かい線状構造が投影される 21(21)
図 24 CT における前上胸膜外線 図 25 CT における下大静脈後縁 3) 上 下大静脈後縁 (posterior margin of superior and inferior vena cava)( 図 23 25) 上大静脈後縁は気管透亮像の腹側で上大静脈と腕頭静脈の後縁が前方に凸の線状影として描出される構造である 描出頻度は10% 以下と稀であり 臨床的な有用性も大きくはない 一方 下大静脈後縁はほとんどの例で描出される構造であり 心陰影の尾背側に重なる前方に凸の線状影である 背側に凸の場合は半数で左室肥大 40 % で右心不全が存在すると報告されている この線の腹側には横隔膜を貫く下大静脈の本体が存在するため 右横隔膜が下大静脈に相当する部分でシルエットアウトされ 辺縁が消失することになる この現象は 横隔膜の左右識別の手がかりの一つとして活用できる 下大静脈に接する肺は下葉のS7であり 同部位の病変の可能性があるが 胸水や縦隔病変の可能性も考慮する必要がある 4) 気管後線条 (posterior tracheal stripe or band) または気管食道線条 (posterior tracheoesophageal stripe)( 図 26 27) 気管後線条は 正面像における気管傍線と同様の機序で形成される線条である 側面像では気管内腔面の背側には気管膜様部が存在し さらに 少量の結合組織 縦隔胸膜 臓側胸膜を介して肺胞内の空気に至る これらの構造の厚さが線条を形成する 食道が気管の真後ろに 接して走行している場合は 食道の内腔に空気が存在すると 縦隔 臓側胸膜の代わりに食道前壁が構成要素となる この場合は気管食道線条となる いずれも 胸部上部食道 (Ut) の食道病変 特に食道癌により消失することが多い もちろん右上葉内側に存在する病変でも同様の変化が生じうる 5) 大動脈弓 (aortic arch) および肺動脈後上縁 (posterosuperior margin of pulmonary artery)( 図 26) 大動脈弓背側部が肺内に突出し肺により覆われると投影される 小児や若年者では大動脈弓全体が縦隔内に存在し辺縁が肺野で覆われることがないため 側面像で辺縁が描出されにくい 逆に高齢者で動脈硬化による蛇行が著明となり肺に突出する部分が増すと突出部位に応じて辺縁がより広範囲に描出される 同様の機序で 左肺動脈が背外側に走行する上縁が肺により被覆される部分がより小さな弓状影として指摘可能である 大動脈弓下縁と左肺動脈上縁との間が側面像における大動脈肺動脈窓になる 正面像同様 透過性亢進が見られない場合 占拠性病変の有無を確認すべきである 6) 中間気管支幹後線条 (posterior intermedius bronchus stripe)( 図 26 28) 右上葉支輪切り像の背側縁から尾側に2mmまでの明瞭な線条が2~3cm 描出される これは気管後線条と同 22(22)
図 26 気管後線条, 上葉気管支輪切り像, 中間気管支後線条, 右下肺静脈, 左右肺動脈 じ成り立ちで生じ 上葉支分岐以降中葉支分岐までの中間気管支幹膜様部が構成要素である 描出頻度は95% と非常に高く 描出されない あるいは肥厚している場合は中間気管支幹周囲のリンパ節腫大や奇静脈食道陥凹の肺病変が存在する可能性がある 7) 右上葉気管支輪切り像 (orifice of right upper lobe bronchus)( 図 26 29A) 正面像で明瞭な気管分岐部は側面像では描出されない 一方 左右の上葉気管支口は 左右方向に正対するため 透亮像として投影される 気管透亮像の下縁に上下に2 個の円形の透亮像が認められ 頭側が右 尾側が左となる これは右主気管支からまず右上葉支が分岐するのに対し 左主気管支は大動脈弓が頭側に存在するため長く 上下葉支に分岐するのは尾側であるためである 周囲の軟部構造の構成により左上葉支輪切り像の描出頻度が高い 右上葉支の後下部には軟部組織に乏しいためである ( 図 29A) 逆に右上葉支輪切り像が全周明瞭に確 図 27 CTにおける気管後線条気管膜様部と結合織, 縦隔 臓側胸膜からなる. 正面像の気管傍線に相当する. 認できる場合はリンパ節腫大など病的所見と考えて良い 23(23)
図 28 CT における中間気管支幹後線条 中間気管支幹の膜様部と結合織, 縦隔 臓側胸膜からなる. A B 図 29 CTにおける右上葉気管支輪切り像 A 右上葉支の分岐部が投影される ( ). 矢状断像で背側には肺が直接接している ( ). B 左上葉支の分岐部が投影される ( ). 矢状断像で前方は左上肺静脈, 背側は左肺動脈と ( ) 接している. 24(24)
図 30 CT における右下肺静脈 ( 冠状断像, 矢状断像 ) 表 4 左右横隔膜の識別法 左側面像では交叉する 右側面像では常に右が上位 直下に胃泡や結腸脾彎曲部のガス像 左 心臓とシルエットされる ( 前縁不明瞭 ) 左 横隔膜後部が下方に位置する ( 左側面 ) 左 下大静脈によりシルエットされる 右 8) 左上葉気管支輪切り像 (orifice of left upper lobe bronchus)( 図 26 29B) 右より広い範囲が明瞭に描出される ( 図 29B) 左下葉支の管状の透亮像がこの像より斜め背側に走行する 9) 左右肺動脈と右下肺静脈 (pulmonary arteries and right inferior pulmonary vein)( 図 26 30) 左上葉輪切り像の背側から左下葉気管支透亮像の背側に見られる透過性の低下は左肺動脈により生ずる 左肺動脈が左主気管支の頭側を背側に向かい走行するためである 右中間気管支幹の透亮像の腹側は右肺動脈の存在により透過性が低下する右肺動脈影の尾背側よりに円形の結節影が認められるがこれは左房に流入する右下肺静脈の輪切り像である ( 図 26 30) 10) 椎体前線 (anterior vertebral line) 左肺切除後や左完全無気肺状態では 左横隔膜が挙上し 失われた容積を補うが 右肺も代償性に拡張し左側 に膨隆する 気管分岐部より頭側では後接合線が左側に偏位し 気管分岐部より尾側では食道傍線が左側に偏位し椎体前面を拡張した肺組織が覆うことになる この部分が側面像で投影されると 椎体骨前縁より2~3mm 前方に明瞭な線状構造となり, 前椎体線と呼ばれている 臓側 縦隔胸膜 結合織 場合により 胸管 半奇静脈 奇静脈が構成要素となる 11) 左右横隔膜の識別方法 (identification of the bilateral diaphragms)( 表 4 図 31A B) 左右の横隔膜を識別する方法には 左側面像で交差する原理を理解すること 左横隔膜直下に胃泡が存在すること 左横隔膜の前縁が心臓陰影とシルエットされること 右横隔膜は下大静脈後縁から腹側が2~3cmシルエットされることなどがある ( 表 4 図 31A B) 左側面像においては 正常の場合 左右の横隔膜は交差して投影される 左側面像では X 線束は点焦点として胸部の右側から左側の受像系に照射され右側の臓器は 25(25)
図 31 左右横隔膜識別法 A この症例では, 左側面では交叉している. 左横隔膜直下に胃泡 ( 白 ), 左は心臓とシルエットされる ( 黒 ). 右 横隔膜は下大静脈後縁より腹側が限局性にシルエットされる ( { ) という所見が描出されている. B 左側面像で横隔膜が交叉する ( 背側部では右が尾側 ) 理由は, 背側の肺の下縁の高さに左右差がなく, 横隔膜腹側では右が頭側, 左が尾側と左右差があるためである. 右肺下縁は拡大され, 左より尾側に投影される. A B 26(26)
図 32 側面像における心嚢水貯留所見 (displaced epicardial fat pad sign) A 臓側心膜の脂肪と心嚢外脂肪との間に帯状の透過性低下領域が認められる ( 黒 ). B CTの矢状断像ではよりコントラストが明瞭である ( 白 ). A B 左側より拡大して投影されることが基本となる すなわち 右側の肋骨は左側の肋骨より一回り大きく投影されることになる 横隔膜後縁の位置は左右とも同じ高さであるが この拡大のため 横隔膜後縁は頭尾方向に差が生じ 拡大した右が尾側 拡大率の少ない左側が頭側に描出される 一方 横隔膜の前方は 心臓が存在するため 左の方が右側横隔膜より尾側に位置している 右横隔膜の前半部は左側より拡大率が高いものの 当初の差を逆転するまでには至らないため 右側が頭側 左側が尾側に位置する このため 右横隔膜は腹側では頭側 背側では尾側に存在することになり 中程で交差することになる この原則が理解できれば 右側面像を撮影した場合の左右横隔膜の投影像も容易に理解可能である すなわち 右側面像では 左胸郭が一回り大きく投影されるため 同じ高さに位置する横隔膜後縁は左が尾側 右が頭側と左側面像とは反対になる 横隔膜腹側については 右が頭側 左が尾側であるが 左が拡大され より尾側に投影されることなり 全長に渡り左横隔膜辺縁が尾側に位置するため交差することはない 左横隔膜直下に胃泡が存在することは自明であるが 胃泡が見られない場合は適応できない 左横隔膜腹側部に心臓下面が接しているためシルエットされるのも当然の現象である 下大静脈が横隔膜腱中心の大静脈孔を通過する部分では横隔膜の丸く突出する形状が失われるため辺縁が消失する 12) 心嚢水の描出 (displaced epicardial fat pad sign) 単純 X 線写真による心嚢水の描出は側面像の方が正面像より鋭敏とされている 8) 心嚢内に液体が貯留している場合 側面像において 心陰影前尾側に心周囲の脂肪と心膜外の脂肪組織の透亮像に挟まれた帯状の透過性低下影が描出される ( 図 32) 正面像では 巾着型 (water-bottle sign あるいは configuration) の心陰影を呈するが 心嚢水貯留が中等度から多量になって初めて見られる所見である ( 図 33) 終わりにこれら肺縦隔境界線の成り立ちを理解することにより 単純 X 線写真の所見から3 次元情報をとらえることが可能となり より水準の高い画像評価 診断につなが 27(27)
図 33 正面像による心嚢水貯留 (water-bottle configuration) この所見を呈するには多くの心嚢水を要するとされる. ることが期待される 参考文献 1) Chotas HG, Ravin CE: Chest radiography: estimated lung volume and projected area obscured by the heart, mediastinum, and diaphragm. Radiology 193: 403-404, 1994 2) 大場覚 : 胸部 X 線写真の読み方第 2 版. 東京, 中外医学社, 2002 3) 林邦昭, 中田肇編 : 新版胸部単純 X 線診断 画像の成り立ちと読影の進め方. 東京, 学研メディカル秀潤社, 2000 4) Felson B: The mediastinum. Chest roentogenology 1973, WB Saunders, Philadelphia 5) 日本胸腺研究会編 : 臨床 病理縦隔腫瘍取扱い規約第 1 版. 東京, 金原出版, 2009 6) Fujimoto K, Hara M, Tomiyama N, et al: Proposal for a new mediastinal component classification of transverse plane images according to the Japanese Association for Research on the Thymus (JART) general rules for the study of mediastinal tumors. Oncol Rep 31: 565-572, 2014 7) Keats TE: The aortic-pulmonary mediastinal stripe. Am J Roentgenol Radium Ther Nucl Med 116: 107-109, 1972 8) Woodring JH: The lateral chest radiograph in the detection of pericardial effusion: a reevaluation. J Ky Med Assoc 96: 218-224, 1998 28(28)