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横書き 2組

地すべり学会関西支部大豊地すべり調査 調査報告 メンバー高知大学笹原克夫, 日浦啓全 ( 名誉教授 ) 徳島大学西山賢一京都大学松浦純生, 末峯章, 土井一生国土防災技術 ( 宮本卓也, 井上太郎 相愛山崎尚晃, 松田誠司 四国トライ松尾俊明, 吉村典宏長崎テクノ 讃岐利夫木本工業株西森興司町田博一

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新潟県連続災害の検証と復興への視点

~ 二次的な被害を防止する ~ 第 6 節 1 図 御嶽山における降灰後の土石流に関するシミュレーション計算結果 平成 26 年 9 月の御嶽山噴火後 土砂災害防止法に基づく緊急調査が国土交通省により実施され 降灰後の土石流に関するシミュレーション結果が公表された これにより関係市町村は

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2.2 既存文献調査に基づく流木災害の特性 調査方法流木災害の被災地に関する現地調査報告や 流木災害の発生事象に関する研究成果を収集し 発生源の自然条件 ( 地質 地況 林況等 ) 崩壊面積等を整理するとともに それらと流木災害の被害状況との関係を分析した 事例数 :1965 年 ~20

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平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

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地すべり地形判読 地すべり地形判読 地すべり地形とは 地すべり地形判読のためには, 地すべりの定義をはっきりさせておく必要がある. まず, 重力を主な駆動力として斜面で発生する物質の移動を 斜面変動 あるいは 砕屑物の集団移動 という. この斜面変動の一形態が地すべりである. 地すべりとは, 斜面物

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7-2 材料 (1) 材料一般 1. アンカーの材料は JIS などの公的機関の規格により保証されているものか もしくは所要の品質や性能を有していることを確認したものとする 2. アンカーの材料を組み立てる場合には 各材料は他の材料に悪影響を与えないことを確認したものを使用する 1) 材料に関する一

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写真 -1 南阿蘇村阿蘇大橋地区の斜面崩壊発生状況 ( 国際航業株式会社 株式会社パスコ撮影 ) 図 -2 平成 24 年九州北部豪雨災害時及び熊本地震時の土砂移動分布図 図 -3 平成 24 年九州北部豪雨災害時及び熊本地震時の土砂移動分布図 ( 阿蘇山外輪部の一部を拡大 ) 図 -2に示すとおり

9 箇所名 江戸川区 -1 都道府県東京都 市区町村江戸川区 地区 清新町, 臨海町 2/6 発生面積 中 地形分類 盛土地 液状化発生履歴 近傍では1855 安政江戸地震 1894 東京湾北部地震 1923 大正関東地震の際に履歴あり 土地改変履歴 国道 367 号より北側は昭和 46~5 年 南

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点検対象項目 1 落石 崩壊 1-1 落石 崩壊 (1) 落石 崩壊の安定度調査の考え方 要因に関する評点 対策工に関する評点 履歴に関する評点 評 点 評点の求め方 1 要因は のり面部分と自然斜面部分について別々に評点を求める 2 のり面と自然斜面の対策工の状況に対して評点を加える 3 1と2の

2004年10月24日の中越地震で大規模な移動を引き起こした 小地谷市塩谷の地すべり 明瞭な滑落崖 とそれに続くすべり面 山側に傾いた水田 井上 向山著 建設技術者のための地形図判読演習帳 初 中級編 古今書院

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土砂災害警戒情報って何? 土砂災害警戒情報とは 大雨警報が発表されている状況でさらに土砂災害の危険性が高まったときに, 市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の方々が自主避難をする際の参考となるよう, 宮城県と仙台管区気象台が共同で発表する防災情報です 気象庁 HP より :

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画像解析による東横山地すべりの発生機構 独立行政法人土木研究所土砂管理研究グループ上席研究員藤澤和範研究員小原嬢子 1. はじめに平成 13 年に 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 ( 以下 土砂災害防止法 ) が制定され 土砂災害警戒区域等の指定等のソフト対策が進められている しかし 地すべりに関してはその前兆が見られない状態での特別警戒区域の設定が困難となっている また 地表面に現れる亀裂や表層崩壊などの現象から地すべりの危険性有りとの判断にいたるには 専門家の判断が必要になる場合も多い 近年 地すべり滑動を画像として捉えたものとして 奈良県大塔村宇井地区で平成 16 年 8 月 10 日に発生した地すべり 1) や 岐阜県揖斐川町東横山地区で平成 18 年 5 月 12 日から 13 日にかけて発生した地すべりがある 地すべりを画像として捉えたものは少なく この画像を解析することによって 地すべりが発生するまでの過程や運動特性が明らかにされることは 今後の地すべり対策や危機管理のうえで重要であると考える そこで筆者らは 東横山地すべりが滑動する様子が撮影された画像から 地すべりが滑落する際の現象や 地すべりに伴う斜面変動履歴 地すべりの移動速度を読み取り その発生機構の考察を行った 2. 地すべりの概要東横山地すべりは 岐阜県揖斐郡揖斐川町東横山地区 国土交通省横山ダムの下流約 2km 中部電力久瀬ダムの上流約 3.5km の一級河川揖斐川の左岸側に位置している ( 図 -1) 地すべりの規模は 幅約 150m 高さ約 135m で 崩落土砂の土量は約 5 万 m 3 である 地すべり末端の土砂は揖斐川の川幅を半分程度まで閉塞させたが その大部分は地すべり斜面に残された状態となった 2) ( 写真 -1 2) 横山ダム 揖斐川町東横山地 地すべり発生箇所 0 0.5 1.0(km) 2) 地すべりが発生した斜面は 揖斐川に面する図 -1. 東横山地すべり位置標高 135~270m の平均傾斜約 35 の急斜面である 地質構造は 頁岩を基盤岩とする受け盤構造で 地すべり頭部および末端部には緩み領域となる強風化頁岩が認められる また

末端部付近の緩み領域には受け盤構造で破砕帯が存在している 写真 -1 地すべり地全景 (H18.5.14 撮影 ) 写真 -2 地すべり末端部の河道内土砂堆積状況 (H18.5.14 撮影 ) 3. 調査方法地すべりの画像解析には 国土交通省中部地方整備局越美山系砂防事務所所管の監視カメラ画像を用いた 地すべりの画像が撮影された平成 18 年 5 月 12 日 12 時 ~13 日 10 時の間に発生した比較的規模の大きい崩壊と地すべりの滑落を抽出し 斜面変動履歴を把握するためにスケッチ図を作成した また 最も大規模な崩壊を伴い 最終的な地すべり地を形成した同月 13 日 07 時 59 分頃の地すべりの滑落について より詳細な滑落の現象をスケッチ図にまとめるとともに おおよその滑落の速度を画像から読み取った なおここでは 土砂の崩落に伴って画像上で地形の変化が認められるものを 崩壊 とし 土砂の崩落があるものの画像上で地形の変化が認められないものを 落石 とする また 地すべりの移動土塊が落ちきらずに斜面に残るような滑動をするものを 滑落 とする 4. 地すべりの画像解析結果 4-1. 地すべり滑落までの斜面変動履歴平成 18 年 5 月 12 日 12 時 ~13 日 10 時の間の地すべり画像から 比較的大規模な崩壊と地すべりの滑落が 6 回発生していることが分かった これらを発生順に崩壊 1~6とし それぞれについてスケッチを作成したものを図 -2 に示す 画像から 地すべりが滑落に至るまでの履歴は以下のように推測される ⅰ)4 月 11 日に道路山側の法面斜面で崩壊が確認され 同 21 日には斜面上部で亀裂が確認されている その後 5 月 12 日 13 時 38 分に斜面上部の亀裂の下流側延長部付近にて 崩壊規模約 2,000 m3の崩壊が発生した ( 図 -2. 崩壊 1) ⅱ) 崩壊 1や 4 月 11 日の崩壊部から小規模な落石が続き 5 月 12 日 20 時 02 分に崩壊 1のやや上流側で崩壊規模約 1,000 m3の崩壊が発生した ( 図 -2. 崩壊 2) ⅲ) 同 12 日 22 時 23 分から崩壊 1 2 周辺で落石 崩壊が頻発するようになり 22 時 40

分には崩壊規模約 10,000 m3の大規模な崩壊が発生した ( 図 -2. 崩壊 3) ⅳ) 崩壊 3の後はしばらく小康状態が続いたが 同 13 日 03 時 06 分に上流側の斜面末端部付近で崩壊規模約 1,000 m3の崩壊が発生した ( 図 -2. 崩壊 4) なお 画像のアングルと暗闇によって詳細は不明であるが 局所的に樹木が揺れることなどから この頃から斜面上流側サイドで 地すべりによる変状が現れ始めていると推測される ⅴ) 同 13 日 04 時 44 分に崩壊 4の上方斜面より崩壊規模約 1,000 m3の崩壊が発生した ( 図 -2. 崩壊 5) ⅵ) 同 13 日 07 時 40 分頃から 斜面中段 ~ 下段で落石 崩壊が発生し始め 時間の経過とともにその発生回数が増加し 07 時 59 分に崩壊規模約 40,000 m3の大規模な崩壊 滑落が発生した ( 図 -2. 崩壊 6) その後 斜面では落石 小崩壊が発生するものの 地形を大きく改変するような崩壊は発生しておらず この崩壊 6によってほぼ現在の地形形状となった このように 地すべりが滑落するまでの状況として はじめに地すべり滑動に伴う応力の影響が現れやすいと考えられる地すべり縁辺部 ( 頭部 ~ 側部 末端 ) で崩壊が発生し その崩壊部分から落石や小崩壊が頻発していることが分かる また 大規模な崩壊の前には落石 小崩壊が時間の経過とともに頻発していく様子が 画像から読み取ることが出来る ⅰ ⅱ ⅲ 4 月 11 日に確認 された法面崩壊 1 2 揖斐川 崩壊 1(5 月 12 日 13:38) 崩壊 2(5 月 12 日 20:02) 崩壊 3(5 月 12 日 22:40) ⅳ ⅴ ⅵ 5 4 崩壊 4(5 月 13 日 03:06) 崩壊 5(5 月 13 日 04:44) 図 -2 地すべりの崩落履歴スケッチ 崩壊 6(5 月 13 日 07:59)

4-2. 5 月 13 日 07 時 59 分頃に発生した地すべりに伴う斜面変動履歴地すべりの変遷の中で 最も大規模に滑落した図 -2. の崩壊 6(5 月 13 日 07 時 59 分頃発生 ) の滑落前の約 20 分間と 滑落時の約 20 秒間についてスケッチを行った結果をそれぞれ図 -3, 図 -4 に示す 1) 滑落前約 20 分間図 -3 に示すように 5 月 13 日 07 時 38 分 51 秒 ~07 時 59 分 50 秒を 10 コマに分けてスケッチ図を作成し 崩壊 6の発生直前の落石 崩壊の状況を把握した これによると 道路よりやや高い位置の斜面で小規模な崩壊が発生し ほぼ同じ高さで 小規模な崩壊が時間の経過とともに左右に転移して発生していることが分かる ( 図 -3.ⅱ~ⅵ) 崩壊 6の発生直前には斜面上部でも崩壊が発生するようになり 崩落 5の時点で滑落崖の下方に落ち残っていた土塊が崩壊し始め ついには斜面全体が滑落に至ったことが分かる ( 図 -3.ⅶ~ⅹ) ⅰ ⅱ 凡例新しく発生した崩壊前に発生した崩壊 7 時 38 分 51 秒 ⅲ ⅳ 7 時 40 分 35 秒 7 時 41 分 02 秒

ⅴ ⅵ 7 時 52 分 41 秒 7 時 53 分 32 秒 ⅶ ⅷ 7 時 58 分 15 秒 7 時 59 分 25 秒 ⅸ ⅹ 7 時 59 分 39 秒 7 時 59 分 50 秒 図 -3. 崩壊 6 に至る 20 分間の崩壊履歴 2) 滑落時の 20 秒間図 -4 に示すように 5 月 13 日 07 時 59 分 35 秒 ~07 時 59 分 55 秒の 20 秒間を 10 コマに分けてスケッチ図を作成した ここでは 地すべり地のほぼ正面からの画像を用いて地すべり全体の滑落状況を把握した また これと下流側から地すべり地を斜め方向から撮影

した画像を用いて 図 -4.ⅰに示した測線に沿って断面図を作成し 地すべり滑落に伴う移動土塊の変形状況を検討した これによると 地すべり地上流側部で崩壊が進行するとともに 崩壊 5の時点で滑落崖の下方に落ち残っていた土塊に亀裂が形成され そこから崩壊が拡大している ( 図 -4.ⅱ~ ⅲ) その後 崩壊は地すべり頭部で発生するようになり 地すべり本体の滑動が始まるのに伴って この時点での地すべり縁辺部 ( 頭部 ~ 側部 末端 ) で崩壊が多発するようになる ( 図 -4.ⅳ) 地すべり本体の動きとして地すべり土塊の頭部が下方へと移動していく様子が確認され これに伴って地すべり頭部 ~ 中腹部にかけて表層部の破壊が進行し 複数の段差を伴った地形の盛り上がりが確認されるようになることから 地すべり滑動はトップリング変動を伴うものと推測される ( 図 -4.ⅴ~ⅵ) その後 トップリング変動が推定される地すべり頭部 ~ 中部の土塊が破砕され 崩積土化しており この崩壊土砂が斜面下方全体を覆うとともに 末端部の土塊のトップリングが確認される ( 図 -4.ⅶ~ⅸ) これは 地すべり滑動に伴う応力が斜面下方にまで達したために 斜面末端部でトップリングが発生したものと推測される 地すべり表層付近の崩壊土砂とは別に地すべり移動土塊は斜面上部に残存し トップリングに伴う崩壊土砂が下方へと流れ落ちたために 地すべり移動土塊の下方に崩壊による滑落崖が形成されている ( 図 -4.ⅹ) 4-3. 移動速度図 -2. の崩壊 6について 地すべりの移動速度の読み取りを行った 崩壊 6の際には すべり面まで達する地すべり本体の動きと 地すべりの地表付近で発生する崩壊が見られる 地すべりの表層付近で発生する崩壊のために 地すべり全体の動きを把握することは困難であるが 滑落崖付近の地すべり移動体の移動が 地すべり本体の移動速度を表していると仮定して 2 箇所の移動速度を計測した ( 図 -5. の A,E) また 地表付近の崩壊土砂の移動速度についても 3 箇所で計測を行った ( 図 -5. の B,C,D) 表 -1. 各地点の移動距離と移動速度 測定 中間点まで 最終到達点まで 箇所 距離 速 度 距離 速 度 (m) (m/sec) (m) (m/sec) A 15.6 2.19 B 49.7 9.86 C 87.7 7.3 59.1 11.82 D 72.9 8.1 59.6 8.52 E 20.0 1.33 (A,E は地すべりの滑落 B,C,D は崩壊の 移動速度を示す ) A E C B D A~E: 測定箇所 : 中間点図 -5. 移動速度測定箇所と移動ベクトル

移動距離の長い C,D 測定箇所では 道路の高さを中間点として 崩壊開始点から中間点 中間点から最終到達点までの移動速度を計測した ( 表 -1.) なお 移動速度計測箇所は Dが岩塊 それ以外は木を目標物としている その結果 地すべり本体の動きは秒速 1.3~2.2m 程度であるが 地表付近の崩壊土砂は秒速 8.5~11.8m 程度であることが分かった 5. 考察地すべりの画像解析結果から 図 -2. の崩壊 1 2のように 地すべりの前兆となる初期の崩壊は 主に道路山側の法枠工上部で発生していることや 崩壊 6の滑落直前の崩壊現象も主に法枠工上部で発生していることから 崩壊 6の直前までは地すべりの末端は道路のやや上部に位置していたと考えられる しかし 地すべりの下流側では 地すべり頭部 ~ 中部で発生したトップリング現象が末端部に波及している様子が確認されたことなどから 崩壊 6の地すべり滑動に伴う応力が 下方の土塊に伝達されることにより すべり面が道路の位置よりも下方へと拡大されていったものと推測される 6. まとめ今回 東横山地すべりの画像から 地すべりに伴って発生する落石や崩壊などの現象を解析することで 地すべりの発生機構を分析し 以下のようなことが把握できた 地すべり初期の変状として 主に地すべりの縁辺部( 頭部 ~ 側部 末端 ) で落石や崩壊が発生している 地すべり滑動に伴う応力が下方の土塊に伝達されることにより すべり面の位置が下方に拡大することがある 大規模な滑落に際しては それに先だって落石や崩壊発生頻度の増加を伴う 以上から 落石 崩壊の発生位置と発生回数を詳細に追跡することにより 地すべりの発生範囲や滑落までの時間的余裕を推測することが可能になるものと考える このような手法は 特に地すべりに伴う崩壊等の現象が進行し 地すべり発生前に 地すべり頭部に形成された亀裂へ伸縮計などの設置が困難な場合などに有効であると思われる 今回は法面崩壊発生後の踏査により 早期にカメラ等による斜面の監視体制が取られたことで貴重な画像情報を入手でき 地すべりの発生機構を把握することができた 今後 詳細に3 次元の立体的な解析を行えるように 複数の角度 ( 例えば地すべり全体を含む3 方向 ( 正面 斜め2 方向 )) から同時に画像情報を収集することができれば 地すべり土塊の応力状態などを推測することも可能となり 地すべりの機構解析や危機管理に役立つと考える 最後に 本研究の実施に当たってご協力いただきました 国土交通省中部地方整備局越美山系砂防事務所 岐阜県県土整備部砂防課 岐阜県揖斐土木事務所はじめ関係各位に ここに記して謝意を表します

参考文献 1) 野村康裕 藤澤和範 (2006): 地すべりの運動特性を考慮したリスクマネジメントに関する一考察 - 奈良県大塔村で発生した地すべり道路災害を例として-, 地すべり,Vol.42,No.6,pp.11-18. 2) 藤澤和範 池田学 樋口佳意 (2006): 岐阜県揖斐川町東横山地区で発生した地すべり速報, 土木技術資料, Vol.48,No.7,pp.4-5.

スケッチ 時刻 スケッチ 時刻 断面図 正面図 断面図 正面図 すべり面の延長 推定 トップリング 現象 崩壊土砂が斜 面下方に及ぶ 上流側斜面 の崩壊進行 ⅷ ⅳ ⅸ 7時59分51秒 地すべり頭部 の土塊が移動 頭部の崩 壊進行 7時59分41秒 末端押し出し部 の倒れ込み 崩壊土砂が下 上流側斜面が 流側斜面を覆う 崩積土砂化 7時59分49秒 亀裂の形成 と崩壊 7時59分39秒 ⅲ 図-4. 崩壊⑥発生時20秒間の斜面変動履歴 河床付近まですべり 面延長 推定 崩壊土砂化 7時59分47秒 7時59分45秒 頭部 中部 で表層崩壊 ⅶ ⅵ トップリング 現象 道路の位置 上流側で 崩壊進行 7時59分37秒 7時59分35秒 断面図作成測線 ⅱ ⅰ ⅹ 滑落崖形成 複数の段 差地形 地すべりの移動 土塊が残存す る 7時59分55秒 地すべり土塊 の盛り上がり 7時59分43秒 ⅴ