経営情報あれこれ 平成 30 年 3 月号 価値の源泉 モノからコトへ この10 年間 (2007 年から 2017 年 ) で 世界のトップ企業に大きな変化が生じています 従来 付加価値の源泉は モノ造りにあるとされてきましたが この 10 年間で大きな変化が生じています 消費者の変化に気づき 世界の消費者と直接取引するプラットホームを有する企業が大きく躍進しています 今月は 消費者の変化とサプライチェーンの大変革期に直面する産業界とその先について紹介します 1 世界のトップ企業の変化 2007 年 5 月時点の世界のトップ企業と 2017 年 5 月時点の世界のトップ企業は 次 の通りです 世界の時価総額トップ 10 企業 ( 時価の単位 : 億ドル ) 2007 年 5 月 2017 年 5 月 順位 企業名 時価 順位 企業名 時価 1 エクソンモービル 4685 1 アップル 7964 2 GE 3866 2 アルファベット 6751 3 マイクロソフト 2936 3 マイクロソフト 5392 4 シティーグループ 2695 4 アマゾン 4754 5 ペトロチャイナ 2618 5 フェイスブック 4388 6 AT&T 2548 6 バークシャーハサウェイ 4076 7 ロイヤルダッチシェル 2408 7 J&J 3454 8 バンクオブアメリカ 2250 8 エクソンモービル 3410 9 中国工商銀行 2233 9 テンセント 3254 10 トヨタ自動車 2163 10 アリババ 2975 ( 注 ) バークシャーハサウェイ社は バフェット氏が経営する投資ファンド会社 (1) 製造業や金融業の衰退とIT 企業の躍進 2007 年 5 月頃までは GE トヨタ等の製造業 シティーグループ バンクオブ アメリカ 中国工商銀行等の金融機関 エクソンモービル ペトロチャイナ シェル 等の石油会社 AT&T の電話会社が世界のトップ企業でした
しかし 2017 年には GE トヨタ等の製造会社 金融機関 エクソンを除く石 油会社は世界のトップ企業から消え 代わりに IT 関連企業である アップル アル ファベット マイクロソフト フェイスブック テンセント アリババといった IT 企業が世界のトップ企業に躍進しています (2) 変化の原因 世界の産業界に 一体何が起きたのかを知ると変化の原因がわかります 1 消費者の変化 モノのあふれた時代において 消費者の関心は 良いものの所有より かけが えのない経験や利便性を求める ことに移ってきています 日本でも 海外から 数千万人の外国人が押し寄せ 日本独特の文化 温泉 ス キー 和服等の経験を楽しむようになりました また 自宅に居ながら航空機やホ テルの予約 スマホでの決済 メールでの情報のやり取り 実際の販売店にいかな くとも SNS ネットを通して 情報の収集や買い物等の取引を行っている消費 者が急増しています さらに 大きな戸建て住宅から都心の便利なマンションを求 めるようになり 車を所有するのではなく 必要な時にレンタルしたりする等 消 費者は 良いモノの所有ではなく 利便性を求めるようになってきました この消費者の行動の変化が 世界の産業界に変化をもたらし これまでのサプラ イチェーン ( 商流 : メーカー 問屋 販売店 消費者 ) を創造的に破壊し 新たな サプライチェーンとして IT ネットでのプラットホーム 提供業者と消費者によ る直接取引に大きく変化しています < 新しいサプライチェーン その 1> 消費者消費者消費者消費者消費者消費者情報商品情報商品商品情報 プラットホーム ( アマゾン フェイスブック等 ) メーカーメーカーメーカーホテル
新しい商流では プラットホームから情報を得た世界の消費者は プラットホームで自分の価値観に合う商品 サービスを購入します プラットホームの運営企業は 世界の下請 提携のメーカー 提携ホテル等に商品 サービスを発注し 供給させます < 新しいサプライチェーン その 2> 消費者消費者消費者消費者消費者消費者情報商品情報商品商品情報 コンビニチェーン ( セブンイレブン等 ) メーカーメーカーメーカーその他 世界的にコンビニ店舗を展開している企業は 消費者の購買情報に基づいて 販売商品を店舗に並べ消費者に販売しています その商品の供給は 世界のメー カーや自社工場等で行っています 2 商流の変化をもたらす技術 この商流の変化をもたらしたのは IT 技術 SNS 技術 各種関連ソフト技術 ビッグデータ処理技術 AI( 人口知能 ) スマホ技術等の急速な発展にあります 3 グローバル化と全世界での生産 販売 輸送 欧米 日本という先進国が世界経済を支配した時代には 良い商品は先進国 悪い製品は後進国 という構図の中で 消費者は良いものを求めていました しかし 先進国からの投資 IT 技術や教育水準の向上 インフラ整備等を契機 に 経済 情報のグローバル化が進展し 後進国を工業新興国に変身させ その国 民の所得水準が向上しています これにより ほとんどの商品が 全世界で生産さ れ 全世界で販売されるようになりました プラットホームの運営企業は 全世界の消費者に商品情報を提供し 消費者が求 める商品を 全世界のメーカーに発注し 生産 供給させ ( メーカーの下請化 )
これを消費者に提供することで 少ないコストで 消費者及びメーカーから高い利 益を得ることができるようになりました 2 産業界の変化 従来のサプライチェーンが創造的に破壊され 消費者と直結したサプライチェーン ( その 1) が主流になりつつある産業界では 次のような大変革が起きています (1) 供給業者の下請化 商品を生産する製造企業 サービスを提供するホテル 飲食 旅行 専門サービス 等の供給業者は プラットホームを運営する企業から発注を受け 生産 供給するよ うになり 多くの供給業者が下請けになりつつあります (2) 付加価値の源泉がモノからコトへ 消費者の関心が 良い ( モノ ) の所有より かけがえのない経験や利便性を求める こと ( コト ) に移り 付加価値の源泉が モノ から コト に変化しています これにより モノ ( サービスを含む ) を供給する製造業 サービス業等から 付加価 値が大きく減少し ( コト ) を提供するネット関連産業 IT ソフト産業に大きな付 加価値が移ってきました (3) 機械装置から利用権の販売 シリコンバレーのベンチャー企業カーボン社は 3D プリンターで高強度 難形状 の造形技術を開発しました 従来ならば 造形技術を組み込んだ装置を販売するとこ ろですが カーボン社は 適宜にアップデートされるソフトやサービスを受けられる 利用権を販売し 大きな利益を上げています 装置の販売には 製造 販売に多くの人材と費用がかかりますが アップデートさ れるソフトやサービスを受ける利用権の販売には それほどコストがかからず 高い 利益率が獲得できます (4)IoT によるオープン化 これまで 1 つの企業単独で事業を展開することが一般的でしたが IoT 社会 第 4 次産業革命の進展により 関連する企業との連携を図り サプライチェーンを IoT でつなぎ 工場用 IoT 供給用 IoT による新たなオープンビジネスモデルを展開する 企業が世界的に出てきています (5) 消費者 ( ユーザー ) との直接取引システム 企業にとって 消費者 ( 最終ユーザーを含む ) の要求 関心 問題点等を直接把握 し これに直接応えていく消費者との直接取引システムを構築し そこに多くのサプ ライヤーを協力者とするビジネスモデルが今後とも増加していくものと考えられま す 一見すると 消費者主導の社会システムを具現化したビジネスモデルですが 実際 は 商売の基本である 消費者の望むものを売る という考え方を 世界的レベルで
具現化したものです (6) サプライチェーン 2 ネットの利用が得意でない高齢者 すぐに必要な商品を求める消費者等にとり プ ラットホームから情報を得て 商品を発注し 数日後に商品を手に入れるよりも よ り利便なものが大規模コンビニチェーン店舗です 商品アイテム毎に 売れ筋 1 位 ~3 位までをそろえ 消費者情報に基づいて商品の 入れ替えを常に行い 消費者の利便性にこたえるばかりでなく 消費者の需要を喚起 しています この消費者の需要に対し 供給メーカー等が動かされ 常に生産する商品が変化す ることにより コスト増大が生じ 付加価値が減少しています サプライチェーンその 2 は 商売の鉄則である 消費者の望むものを売る という 言葉を 常時 具現化したビジネスモデルです 3 付加価値が減少する供給業者消費者 ( 最終ユーザー ) への直接販売 提供するビジネスにおいて プラットホーム運営企業 ( 世界的なコンビニチェーン企業 ) に対しモノやサービスを供給するメーカーやサービス供給企業の付加価値が減少しています 今後 この傾向はますます顕著になると想定できます これに対し メーカーやサービス供給企業は 付加価値を維持し 増大させるための戦略を考え これを実行していくことが求められます 事務所から 消費者の関心の変化が従来のサプライチェーンを変革させ 全世界の産業に変化と付加価値の移転をもたらしています この変化はすべての企業に影響を与えています 常に 環境変化 特に消費者 得意先の変化に留意しながら事業を展開してください ( 公認会計士辻中事務所 税理士法人みらい