160 図 1. 観察場所. A: 奥村運動場,B: 二見港,C: 自衛隊基地,D: 州崎, E: 小曲,F: 小港 ~ 北袋沢. 灰色部分は観察した範囲 太線は河川を示す. 今回観察された小笠原群島で繁殖記録の ある陸鳥は 8 種であった ( 表 1). このうち, 小笠原固有亜種はオガサワラノス

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平成 28 年度東京都内湾水生生物調査 2 月鳥類調査速報 実施状況平成 29 年 2 月 27 日に鳥類調査を実施した この時期は越冬期にあたり 冬鳥のカモ類やカイツブリ類 カモメ類が多く確認された 天気は曇りで 気温 8.1~9.9 北寄りの風が 2.1~ 3.5m/sec であった 調査当日は

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目 科 種類 発見月日 発見場所 備考 6 月 22 日 エンマ台 目撃 7 月 2 日 ミドリガ池上空 目撃 7 月 11 日 祓堂上空 目撃 7 月 12 日 浄土山上空 目撃 7 月 13 日 大谷上空 2 羽 目撃 7 月 14 日 室堂平上空 2 羽 目撃 7 月 18 日 国見岳上空 2

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8 小笠原諸島の概要小笠原諸島は 東京から約一〇〇〇キロ南に位置する三十ほどの島々である 小笠原諸島には 父島列島 母島列島 聟むこじま島列島から成る小笠原群島 火山(硫黄)列島 西之島 沖ノ鳥島 南鳥島が含まれる 小笠原群島が島として形成されたのは 少なくとも百万年より前といわれている 一方 火山

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石 川 和 男 小 川 次 郎 秋 山 勁 三 秋 山 勉 井 戸 浩 之 岩 本 孝 丹 下 一 彦 宮 岡 速 実 蔵 : 愛 媛 県 立 とべ 動 物 園 ) ( 未 発 表 ). 11. Pterodroma hypoleuca (Salvin, 1888) シロハラ ミズナギドリ 既 知

Transcription:

Strix 報文 - Vol. 27, pp. 159 164, 2011 小笠原群島父島の鳥類相 15 年前との比較 栄村奈緒子 100-2101 東京都小笠原村父島字小曲 * 159 はじめに小笠原群島は本土から約 1000 km 南に位置する太平洋上の海洋島で, 聟島列島, 父島列島, および母島列島から成る. 小笠原群島の鳥類相は 戦前から現在にかけてまとめられた文献がいくつか存在する (Seebohm 1890, 籾山 1930, 蓮尾 1969, 樋口 1984, 千葉 船津 1991 など ). これらの文献によると小笠原群島の鳥類相には時代とともに大きな変遷が見られる.19 世紀末までにオガサワラカラスバトColumba versicolor やオガサワラガビチョウCichlopasser terrestris などの小笠原群島の固有種を含む多くの在来種が絶滅し,20 世紀に入ってからはメジロ Zosterops japonicus が人為的に移入され ( 籾山 1930), 戦後には自然に分布拡大したと思われるモズLanius bucephalus とトラツグミZoothera dauma が定着している ( 川上 2002). 今回,2005 年 4 月から 2006 年 3 月の 1 年間に父島列島父島に在住していた筆者の鳥類の観察記録を報告する. また, 過去に年間を通した鳥類の観察記録として, 千葉 船津 (1991) による 1989 年から 1991 年の 2 年間の父島の観察記録がある. これについて今回の結果と比較し, 鳥類相の変化を明らかにした. 方法調査は小笠原群島父島列島父島 (142 11 E,27 05 N) において行った ( 面積 24 km2, 最大標高 326 m). 観察は,A: 奥村運動場 ( 草原 ),B: 二見港 ( 海上, 港 ), C: 自衛隊基地 ( 砂浜, 草原 ),D: 州崎 ( 海岸, ギンネム林 ),E: 小曲 ( 森林, 集落 ), F: 小港 ~ 北袋沢 ( 河川, 森林, 畑 ) の 6 カ所で行った ( 図 1). 観察は 2005 年 4 月から 2006 年 3 月の期間に, 毎月各場所へ任意の時間に 2 回以上行き,10 倍の双眼鏡と 30 倍の望遠鏡を使用して出現した鳥類の種類を記録した. 調査地以外の場所で観察された鳥類の種類もあわせて記録した. 年間を通して, 島内のいたるところで観察された種は, 観察場所を記録しなかった. 同時期の小笠原自然文化研究所 (2005,2006) による父島の鳥類の観察記録も今回の結果に含めた. 確認された鳥類は川上 (2003) に従って, 現在までに小笠原群島で繁殖記録のある種とそれ以外の渡り鳥に区別した. これらの結果を, 調査した年から 15 年前である1989 年 4 月から1991 年 3 月の2 年間に父島で観察された種を記録した千葉 船津 (1991) の結果と比較した. 結果および考察 2011 年 2 月 14 日受理 キーワード :Avifauna, Bonin Islands, Bull-headed shrike, Lanius bucephalus * 現所属 : 立教大学理学研究科. 171-8501 東京都豊島区西池袋 3-34-1

160 図 1. 観察場所. A: 奥村運動場,B: 二見港,C: 自衛隊基地,D: 州崎, E: 小曲,F: 小港 ~ 北袋沢. 灰色部分は観察した範囲 太線は河川を示す. 今回観察された小笠原群島で繁殖記録の ある陸鳥は 8 種であった ( 表 1). このうち, 小笠原固有亜種はオガサワラノスリButeo buteo toyoshimai, アカガシラカラスバト Columba janthina nitens, オガサワラヒヨドリ Hypsipetes amaurotis squameiceps, ハシナガウグイスCettia diphone diphone である. また, メジロは人為的に持ち込まれた移入種である ( 籾山 1930). この種構成は 15 年前の記録と同じであった ( 千葉 船津 1991). これらの種のうち, モズとアカガシラカラスバト以外は毎月, 島内の多くの場所で観察された. モズの出現状況は, 今回と 15 年前の記録に違いが見られた. 小笠原群島において, モズは 1985 年頃に父島で繁殖が初めて確認され,1990 年頃は父島内の広い範囲で観察されていたようである ( 千 葉 1990, 千葉 1991, 千葉 船津 1991, 鈴木 千葉 1991). 父島以外でも 1980 年後半から 1990 年代にかけて, 父島列島の属島である兄島と弟島や母島列島の母島で短期的に数個体が観察されている ( 千葉 1991,1993, 川上 2002, 弟島の記録は 1995 年 6 月 15 日に 1 個体 ; 川上和人私信 ). ところが, 今回の調査では 10 月と 12 月にそれぞれ 1 個体のみが北袋沢で観察されたにすぎなかった. また, 翌年の 2006 年 10 月に北袋沢で雄 1 個体が確認されている ( 西海功私信 ) それ以降,2010 年 11 月現在にいたるまで, 小笠原群島内でモズが確認された記録がない. したがって, 現在では何らかの原因で小笠原群島の個体群がほぼ消滅した状況にある可能性がある. アカガシラカラスバトは 11 月に 1 個体しか観察されなかった.15 年前の記録でも,1989 年 ~ 1990 年の間に一回観察されているだけである ( 千葉 船津 1991). 本亜種は現在, 絶滅危惧 IA 類に指定されている ( 環境省 2008).15 年前も今回も本種の観察例がごく少ないことから, 父島における本種の生息個体数がそもそも少ない可能性が考えられる. 小笠原群島で繁殖記録のある海鳥では, カツオドリSula leucogaster とクロアジサシ Anous stolidus の 2 種が確認された ( 表 1). 他の種類の海鳥も小笠原群島で繁殖しているが ( 川上 2002), 今回は陸地からの観察であったため確認されなかった. 渡り鳥は合計 53 種が観察された. 全体的な出現種数は夏期に少なく, 秋期から春期にかけて種数が増加する傾向が見ら

161 表 1. 観察された鳥類のリスト. 観察場所の位置は図 1 を参照. 目種名 ( 亜種 ) 学名繁殖 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月観察場所 ペリカン目カツオドリ Sula leucogaster B, D コウノトリ目 ゴイサギ Nycticorax nycticorax F ササゴイ Butorides striatus F アマサギ Bubulcus ibis A, C, D, F ダイサギ Egretta alba D, F チュウサギ E. intermedia A, C, D, F コサギ E. garzetta F アオサギ Ardea cinerea B, F カモ目 ヒシクイ Anser fabalis D コハクチョウ Cygnus columbianus C マガモ Anas platyrhynchos B, F コガモ A. crecca F オカヨシガモ A. strepera F ヒドリガモ A. penelope F オナガガモ A. acuta F スズガモ Aythya marila F タカ目 ミサゴ Pandion haliaetus F トビ Milvus migrans D オジロワシ Haliaeetus albicilla D ノスリ ( オガサワラノスリ ) Buteo buteo toyoshimai ハヤブサ属 Falco sp. C ツル目 バン Gallinula chloropus F オオバン Fulica atra F チドリ目 ハジロコチドリ Charadrius hiaticula C コチドリ C. dubius C, D イカルチドリ C. placidus F シロチドリ C. alexandrinus C メダイチドリ C. mongolus C オオメダイチドリ C. leschenaultii C ムナグロ Pluvialis fulva A, C, D, F ケリ Vanellus cinereus A キョウジョシギ Arenaria interpres A, C, D ヒバリシギ Calidris subminuta A, C

162 表 1. 続き. 目種名 ( 亜種名 ) 学名繁殖 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月観察場所 チドリ目 クサシギ Tringa ochropus F タカブシギ T. glareola C, F キアシシギ T. brevipes C, F イソシギ Actitis hypoleucos A, C, F ソリハシシギ Xenus cinereus A, F コシャクシギ Numenius minutus C ツバメチドリ Glareola maldivarum A, C, F セグロカモメ Larus argentatus B オオセグロカモメ L. schistisagus B, C シロカモメ L. hyperboreus B カモメ L. canus B ウミネコ L. crassirostris B ハジロクロハラアジサシ Chlidonias leucopterus B, F クロアジサシ Anous stolidus その他 ハト目カラスバト Columba janthina nitens E ( アカガシラカラスバト ) アマツバメ目ハリオアマツバメ Hirundapus caudacutus その他 スズメ目 ツバメ Hirundo rustica D, E, F, その他 ツメナガセキレイ Motacilla flava A キセキレイ M. cinerea F ハクセキレイ M. alba 1 1 1 A, C, D ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis squameiceps ( オガサワラヒヨドリ ) モズ Lanius bucephalus F イソヒヨドリ Monticola solitarius トラツグミ Zoothera dauma ウグイス ( ハシナガウグイス ) Cettia diphone エゾビタキ Muscicapa griseisticta F メジロ Zosterops japonicus シマアオジ Emberiza aureola D イカル Eophona personata その他ムクドリ Sturnus cineraceus C 合計種数 10 21 23 8 6 7 6 28 21 21 28 14 21 1 亜種ホオジロハクセキレイ M. a. leucopsis を含む.

163 図 2. 観察された鳥の種類の季節変化. れた ( 図 2, 表 1). 夏期を除いてチドリ目は比較的多くの種類が観察された. 年間を通して多くの月に観察された種は, チドリ目のキョウジョシギArenaria interpres, ムナグロPluvialis fulva, イソシギActitis hypoleucos の 3 種であった. コウノトリ目は春期と秋期に, カモ目とカモメ目は冬期に, スズメ目は秋期に観察種数が増加した. 全体として今回の傾向は 15 年前と類似していた ( 千葉 船津 1991). 謝辞 NPO 法人小笠原自然文化研究所の方々には調査地の情報を提供していただく等, 大変親切にしていただきました. 小笠原村役場の千葉勇人氏と森林総合研究所の川上和人氏, 国立科学博物館の西海功氏には小笠原諸島内のモズの資料, 情報を提供していただきました. 立教大学理学部教授で Strix 編集長の上田恵介氏と Strix 副編集長の三上かつら氏には, 執筆の際に多くの助言をいただきました. これらの方々に深くお礼を申し上げます. 引用文献 千葉勇人 船津毅. 1991. 父島列島 母島列島の鳥類. 第 2 次小笠原諸島自然環境現状調査報告書, 東京都立大学 ( 編 ): 135-147. 千葉勇人. 1991. ボニン博物通信. Vol. 8, 10 月号. 千葉勇人. 1993. ボニン博物通信. Vol. 18, 4 月号. 蓮尾嘉彪. 1970. 小笠原諸島の動物, 鳥類 哺乳類を中心として 小笠原諸島自然景観調査報告書. 東京都 ( 編 ): 111-143. 環境省. 2008. 改訂レッドリスト付属説明資料, 鳥類. 環境省自然環境野生生物課. 川上和人. 2002. 小笠原の鳥類. プランタ81: 22-27. 樋口行雄. 1984. 小笠原諸島の鳥類目録. Strix 3: 73-87. 籾山徳太郎. 1930. 小笠原諸島並びに硫黄列島産鳥類について. 日本生物地理学会会報 1: 89-186. 小笠原自然文化研究所. 2005. BBC, 季刊誌 i-bo 15: 31. 小笠原自然文化研究所. 2006. BBC, 季刊誌 i-bo 16: 8. Seebohm, H. 1890. On the birds of the Bonin Islands. Ibis 2: 95-108. 鈴木惟司 千葉勇人. 1991. 小笠原諸島に最近定着したモズの1990 年 3 月における繁殖確認記録. 第 2 次小笠原諸島自然環境現状調査報告書東京都立大学 ( 編 ): 169-172. 千葉勇人. 1990. 小笠原諸島におけるモズの繁殖. 日鳥学誌 38: 150-151.

164 The avifauna in Chichijima Island, the Bonin Islands Comparison with the record fifteen years ago NaokoEmura Komagari, Chichijima, Ogasawara-Mura, Tokyo 100-2101, Japan Current address: Graduate school of Life Sciences, Rikkyo University, Nishi-ikebukuro 3-34-1, Toshima-ku, Tokyo 171-8501, Japan