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特 集 縦隔 胸膜疾患における画像診断の役割 3. 胸膜 胸壁疾患 3-2. 胸壁疾患 松下彰一郎, 栗原泰之 2), 野津和仁, 岡田幸法, 藤川あつ子, 松岡伸, 山城恒雄, 八木橋国博, 中島康雄 聖マリアンナ医科大学 放射線医学講座 聖路加国際病院 2) 放射線科 Diseases of the Chest Wall Shoichiro Matsushita, M.D., Yasuyuki Kurihara, M.D. 2), Kazuhito Nozu, M.D., Yukinori Okada, M.D., tsuko Fujikawa, M.D., Shin Matsuoka, M.D., Tsuneo Yamashiro, M.D., Kunihiro Yagihashi, M.D., Yasuo Nakajima, M.D. Department of Radiology, St. Marianna University School of Medicine 2) Department of Radiology, St. Luke s International Hospital NICHIDOKU-IHO Vol.59 No.1 102-110 (2014) Summary In evaluation of chest images in daily practice, we should pay attention not only to the lung parenchyma but also to the pleura and the chest wall because there are many kinds of chest wall diseases, although they are not common. We present radiologic features of several important diseases including pyothorax-associated lymphoma, chylothorax, pericostal tuberculosis, actinomycosis, nocardiosis, neurogenic tumor, elastofibroma, relapsing polychondritis and SPHO syndrome. It is important to understand their imaging characteristics for precise diagnosis and treatment. はじめに 胸膜 胸壁の正常構造と HRCT 解剖 1 2) ( 図 胸膜は 肺と胸壁の間に挟まれて存在し 臓側胸膜と壁側胸膜に分けられる 正常では 通常の5~10mm 厚のCTでは臓側胸膜と壁側胸膜の分離は困難であり 連続する線状影として正常胸膜を捉えることも難しい しかし 逆にいえば 本来認められない胸膜や胸膜腔が認められれば異常所見と考えられ CTで胸膜病変の有無が容易に診断できるようになる 胸壁は骨と周囲の軟部組織からなるが CTではこれらの各組織を分離することが可能である また CTは胸膜や肺内病変の胸壁への進展範囲の診断にも役立つ しかし CTでは組織間コントラストの不足のため 腫瘍の進展範囲や組織の性状などに関する十分な情報が得られにくいことが多い その場合は 組織間コントラストに優れるMRIの方が有用性が高い 胸膜は臓側胸膜と壁側胸膜からなるが 胸水貯留か気胸の場合以外は これらを分離識別することは困難である 胸壁は 肋骨 胸椎 胸骨からなる骨性胸壁と 筋肉を主としたその周囲の軟部組織からなる CTでは明確にこれらの組織を識別することができる 正常では CTで胸膜外脂肪層を同定できない場合が多く 肋間では胸膜と胸内筋膜および最内肋間筋が重なって線状構造として認められる 肋骨下には 胸膜 胸膜外脂肪層および胸内筋膜が存在しているが 正常では胸膜の同定はできない したがって 肋骨下に線状の構造物を認めた場合は 胸膜肥厚と診断できる 102(102) 日獨医報第 59 巻第 1 号 102-110(2014)

臓側胸膜壁側胸膜脂肪層胸内筋膜最内肋間筋 肋骨 肋間筋間脂肪織および肋間動静脈 肋間筋 図 1 胸膜 胸壁の正常解剖 ( 文献 2) より一部改変して転載 ) 胸膜 胸壁の代表疾患日常的に遭遇する可能性が高い疾患は 腫瘍であれば原発性肺癌からの直接浸潤や転移性腫瘍 非腫瘍性疾患であれば胸水 膿胸などであると思われるが ここでは 頻度はやや下がるが是非知っておきたい疾患について取り上げた 代表的な疾患に関しては成書を参考にされたい 胸膜 ( 腔 ) の代表疾患 1. 慢性膿胸続発悪性リンパ腫 (PL: pyothoraxassociated lymphoma) 3-5) ( 図 2) 慢性膿胸に続発する悪性リンパ腫で 慢性膿胸の2% に合併するという報告もある また 80% の症例で人工気胸術の既往があり 人工気胸術からPL 発症までの期間は平均で43 年だったという PLの組織型としては diffuse large -cell lymphoma(dlcl) が最も多い 発生の要因として 慢性膿胸による慢性炎症による刺激の他 Epstein-arr virus (EV) との強い関連が示唆されている PLは高齢者に多い ( 平均年齢 70 歳 ) 背景には慢性膿胸があり 呼吸機能も低下しているため 予後は悪く 5 年生存率は35% 程度である 治療法としては手術 ( 胸膜肺全摘 ) 化学療法 放射線療法などがある また PLは痛みで発症することが多い 60% 程度の症例で 胸痛 あるいは背部痛が見られるとされている 単純 X 線写真では膿胸腔陰影の拡大や 膿胸壁の石灰化の破壊像 肋骨の溶骨性変化などを見ることが多く CT/MRIでは膿胸壁に接する腫瘤を認める 膿胸腔 と腫瘍部の区別には造影 CTやMRI PET/CTが有用である 2. 乳糜胸 6 7) ( 図 3) 乳糜胸とは胸腔内にリンパ液が存在する状態である 乳糜胸水は悪性細胞や他の胸水中細胞の編成や コレステロールの集積により起こる 胸腔における乳糜の貯留の原因は 主に次の3つの機序による すなわち 1 胸管や大きなリンパ管の破綻からくる漏出 2 胸膜のリンパ管からの漏出 3 横隔膜を介した乳糜腹水の胸腔への漏出である 約 50% の乳糜胸は新生物由来で 25% が外傷によるもの 15% は特発性である 新生物病変の75% はリンパ腫で 乳糜胸はリンパ腫の初発症状となりうる 胸管は 第 5~7 胸椎の高さで脊椎を横切るため これより下部での傷害では右 これより上部での傷害では左に乳糜胸を生じる傾向にある 乳糜のCT 値は脂肪成分を含んでいるにもかかわらず 通常の胸水のCT 値との区別が困難である それは乳糜がタンパク質も豊富に含むからである 胸壁の代表疾患 3 4) 1. 胸囲結核 ( 図 4) これまで胸壁冷膿瘍 結核性胸壁膿瘍 肋骨周囲膿瘍など様々な名称で呼ばれてきた胸壁軟部組織内の結核性病変の総称である 胸囲結核は必ずしも結核後遺症として見られる病態ではないが その発生機序は1 結核性胸膜炎による胸膜の癒着 肥厚により リンパ管新生が起 103(103)

図 2 慢性膿胸続発悪性リンパ腫 (PL: pyothorax-associated lymphoma) 70 歳代, 男性.3ヵ月程前から右胸壁の腫瘤, 疼痛を自覚した. 症状改善なく, 精査目的に当院受診.20 歳頃, 右肺結核のため胸郭形成術の既往がある. 胸部単純 X 線写真では右胸腔内には慢性膿胸によると思われる石灰化 ( ) を認める. この膿胸腔と連続するように右側胸部皮下には腫瘤性病変が認められ, また膿胸腔の頭側部分では肋骨の溶骨性変化も認められる (). CT では右胸腔内には石灰化を伴った慢性膿胸を認め, この腹側に肋骨を破壊する腫瘤性病変を認める (,C). 縦隔および肺門には病的リンパ節腫大は認めない. その後, 開胸生検でDLCLと診断された.Epstein-arr virus(ev) 陽性であった. 化学療法 (R-THP COP) および放射線療法が施行された. C こり 胸腔内の結核菌がリンパ行性に胸壁軟部組織に到達し乾酪性病変を形成する 2 胸壁軟部組織に直接穿破して胸壁膿瘍を形成する 3 結核菌の血行性播種により病変を形成する 4 胸腔穿刺などの処置により 医原性に胸腔内へ結核菌が播種する などが考えられている 特に 胸腔内と交通を有する場合には胸壁穿孔性膿胸と呼ばれる 臨床的には結核既往のあるものが8 割ほど 活動性結核のあるものが17.4~62.5% で 肺病変既往とも明らかでないものも症例報告されている 画像所見は基本的には膿瘍のそれであるものの 各症例で胸腔内病変からの交通や 内部もしくは近傍に骨破壊 ( 腐骨 ) を認めるなど病変の進展経路を示す所見が多彩に認められる 4 8) 2. 放線菌感染症 ( 図 5) ctinomycesによる感染症を放線菌症と呼び 多くは ctinomycosis israelliによる慢性化膿性肉芽腫性疾患である 嫌気性グラム陽性桿菌で 口腔内や消化管内に常在する 放線菌症の約 15% が胸部に発生する 肺内に病変が限局する気管 肺期から病変の進展ごとに肺胸壁期 軟部組織 ~ 皮膚にまで到達する瘻孔期に分類される ただし胸壁のみに所見を来した症例も報告されているため胸壁腫瘍の鑑別には挙げておきたい 放線菌症特有の画像所見はないが胸壁病変としては胸壁を含む異常な軟部組織の腫脹や膿瘍形成 またこれらに連続性のある膿胸からの瘻孔形成の他 骨膜炎と骨髄炎の所見などが見られる 軟部腫瘍様の画像所見を呈することがありその際 104(104)

図 3 乳糜胸 60 歳代, 女性. 右肺 S6 の adenocarcinoma に対して, 右中下葉切除術後. 胸部単純 X 線写真 () および胸部 CT(, C) にて右胸腔内には多数の cavity を認め, 内部には air-fluid level を形成している. ドレーン挿入およびピシ バニール注入を行うも, 治療抵抗性であり, 開胸乳糜胸掻爬術 + 胸管結紮術が施行された. C は肺癌 肉腫との鑑別が困難である 生検で診断できる症例は半数以下で 多くは確定診断が得られないまま 外科的手術 (VTS を含む ) により診断されている その理由としては 肺放線菌症は慢性化膿性肉芽腫性疾患であることから ctinomyces 属の菌塊は病変の深部に存在することが多く 周囲は肉芽組織で囲まれており 通常の生検針では肉芽組織を通過できず 菌塊の部位を適切に採取できていないためと考えられている クが高い 病原体の経気道吸入による肺ノカルジア症の他 外傷からの経皮的感染による皮膚ノカルジア症 一次感染巣から血行性に播種する播種性ノカルジア症に分類される ノカルジア症において特異的な画像所見はないが 胸部単純 X 線写真および胸部 CTで末梢側優位に非区域性の浸潤影が広範囲に見られることが多い 細胞性免疫障害という臨床背景を見たら鑑別に挙げるべき疾患である 9) 3. ノカルジア症 Nocardia 属は好気性グラム陽性桿菌であり 土壌や水中など広く自然界に分布する Nocardia 属の感染防御にはT 細胞による細胞性免疫が主な役割を果たしているため リンパ腫 臓器移植 HIV 感染症 ステロイドや免疫抑制剤投与といった細胞性免疫障害患者で発症のリス 4. 神経原性腫瘍 10) ( 図 6) 神経線維腫症で見られる叢状神経線維腫は 広範囲に胸壁を侵す CTでは 均一で境界明瞭な円筒形の腫瘤として見える MRIではT1 強調像で低 ~ 等信号 T2 強調像で不均一な高信号を示す 105(105)

C D 図 4 胸囲結核 20 歳代, 女性. 右側胸部腫瘤. 胸部単純 X 線写真では右側胸部から側腹部にかけて軟部腫瘤 ( ) を認める (). 胸部 CTでは胸腔内から胸壁にかけて連続する腫瘤を認める. 内部は低吸収域を呈し, 嚢胞性腫瘤と考えられる (, C). 肺野では小葉中心性分布を呈する小結節 ( ) を認める (D). 本症例はクオンティフェロン陽性であり, 胸囲結核と診断された. 抗結核薬内服で腫瘤は消退した. 5.Elastofibroma ( 弾性線維種 ) 1 2) ( 図 7) 肩甲骨と肋骨との摩擦による結合組織の反応性増殖が病因と考えられている 重労働の人に多く 南九州から沖縄にかけて多く見られる 両側発生も少なくなく 通常は無症状で発見される CTでは肋間筋と連続する軟部腫瘤として認められる 内部に索状の脂肪濃度域を認めることが多い 3 1 6. 再発性多発軟骨炎 ( 図 8) 自己免疫機序によって 耳介 鼻 喉頭 気管気管支 関節の軟骨の炎症を反復する疾患である 関節リウマチ 全身性エリテマトーデス シェーグレン症候群などの合併が多い 胸部 CTでは中枢部気道壁の肥厚が認められる 気道壁の肥厚は 軟骨を有する部分に高度で 気管では前方 3 分の2が高度になりやすい 画像上 肺野の末梢気道病変が見られる症例もある 気管 中枢部気道の狭窄 虚脱が見られ ことに呼気で目立つ また病変は肋軟骨周囲にも認められることがある 106(106)

C D 図 5 放線菌感染症 40 歳代, 男性. 胸部単純 X 線写真では右肺に多発結節を認め, 右胸水貯留を伴っている (). 胸部 CTでは両側肺野末梢側優位に多発結節を認める (). 造影では内部は低吸収を呈している. 一部の病変は胸膜にも認められ, 胸壁への浸潤を呈している (C, D). また, 少量の胸水貯留を認める ( 未提示 ). 図 6 神経原性腫瘍 70 歳代, 男性. スクリーニン グで施行した CT で, 右肋骨 の背側部分に結節性病変 ( ) を指摘. 造影では淡い造影効果を有している (, ). 経時的変化は認められず, 臨床的に肋間神経由来の神経腫と診断された. 107(107)

図 7 Elastofibroma( 弾性線維腫 ) 70 歳代, 女性. 背部腫瘤精査.CT では肩甲骨下部の広背筋と肋骨の間に凸レンズ状の形態を呈する腫瘤 ( ) を認める (). MRI では内部は T1 強調像,T2 強調像とも低信号で, 内部には索状 / 線状の脂肪濃度 ( 高信号域 ) が霜降り状に混在している (, C). C 図 8 再発性多発軟骨炎 50 歳代, 女性. 前胸壁の腫脹 ( ), 気管壁の肥厚 ( ) を認める. 肥厚は前方の3 分の2の気管軟骨が存在する部分で認められ, 膜様部は保たれる. 肋軟骨周囲の軟部組織の腫脹 ( ) も認める. 3) 7.SPHO 症候群 ( 図 9) Synovitis( 滑膜炎 ) cne( 座瘡 ) Pustulosis( 膿疱症 ) Hyperostosis( 骨化症 ) Osteitis( 骨炎 ) を特徴とする 主に前胸部で無菌性の骨炎を認め 鎖骨と第一肋骨部に骨硬化と腫大が見られる 胸鎖関節以外でも下顎骨 脊椎 仙腸 関節 末梢関節が侵されることもある おわりに胸部画像診断においては 肺を中心とした重要臓器に目を奪われがちであるが 胸壁にも見逃してはならない疾患が隠れていることがある 胸部の画像診断では 胸壁も含めた隅々まで読影することが重要である 胸壁疾患の理解に本稿が少しでもお役に立てれば幸いである 108(108)

C D E 図 9 SPHO 症候群胸部単純 X 線写真で胸鎖関節部の肥厚 ( ) を認める (). 胸部 CTでも胸鎖関節部で骨硬化, 骨過形成 ( ) が認められ, 周囲軟部組織の腫脹を伴っている (). MRIでは胸鎖関節から胸骨柄周囲にはT2 強調画像で比較的低信号域な軟部腫瘤 ( ) が認められ, 同部はSTIR 像で不均一な高信号として描出されている. 連続する皮下脂肪層や縦隔側に浮腫状変化が見られる (C, D). 骨シンチグラフィでは胸鎖関節部に強い集積増加あり. 胸椎にも集積増加あり (E)( CT 所見などと合わせてこちらの病変もSPHO 症候群の一部と考えられた ). 109(109)

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