Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) Title Sub Title Author Publisher 日本の化粧品業界における寡占の崩壊要因の分析 大友, 裕也 (Otomo, Hiroya) 磯辺, 剛彦 (Isobe, Takehiko) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 Publication year 2014 Jtitle 修士論文 (2015. 3) Abstract Notes Genre Thesis or Dissertation URL http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=ko40003001-00002014 -2923
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程 学位論文 ( 2014 年度 ) 論文題名 日本の化粧品業界における寡占の崩壊要因の分析 主査 磯辺剛彦 副査 岡田正大 副査 齋藤卓爾 副査 学籍番号 81330288 氏名大友裕也
論文要旨 所属ゼミ磯辺剛彦研究会学籍番号 81330288 氏名大友裕也 ( 論文題名 ) 日本の化粧品業界における寡占の崩壊要因の分析 ( 内容の要旨 ) 本論文は 日本の化粧品老舗大手がなぜ近年国内での業績を悪化させるのか 同業界での事例をもとにひいてはなぜ寡占が崩壊するのか そのプロセスを明らかにすることを最終目的とするものである 経済学における寡占に関する先行研究をもとに寡占の基準として 1: 規模の経済性 2: 製品の差別化 3: 参入障壁 4: 価格支配力を設けて 1983 年時点と直近の 2013 年との時系列の比較によって寡占の崩壊要因を分析する 従来老舗大手は カウンセリングを行う化粧品専門店や百貨店といった流通ルートにおいて中 高価格帯ブランドを構築してきたが 流通構造が変化 : ドラッグストアや量販店 通販といった廉価製品を扱うルートが主体となったことによりマルチチャネルで展開するに至る 化粧品専門店はカウンセリングを行う百貨店と廉価製品を扱うドラッグストアの中間に位置するという構造的問題を抱えており メーカーがマルチチャネルで展開したことにより顧客離れが進む 規模が拡大するにつれてかねてより中 高価格帯においてブランドが拡散していた老舗大手は 廉価製品ルートでも展開したことによりブランドが既存したこと 加えて占有していた化粧品専門店すら落ち込んだ結果 2: 製品の差別化が満たせなくなる 1: 規模の経済性に関しては大手がカウンセリング販売を行うため給与賞与や売出費割合が大きく 訪問販売が競合であった 1983 年当時に比べて量販店に特化した競合などが台頭したことにより優位を喪失 3: 参入障壁は大手が流通チャネルを占有していたことで販路構築コスト自体が参入を妨げていたが流通構造の変化の結果喪失 4: 価格支配力に関しても再販価格制度の撤廃や 2-3 割引きで実勢価格を形成するドラッグストアが台頭したこと 顧客が低価格志向にいたる 2 面から値引き圧力がかかり喪失した 以上のようにそのほか 3 基準も満たせなくなるが 外部環境の変化で所与のものとする あるいは 1 のように競争優位を維持するためにはまぬがれないという側面がある 一方で 2: 製品の差別化に関してはメーカー側の戦略によって生じていることから本論文では 4 要因すべてを満たせなくなったが特に流通構造を通じたブランドの構築に失敗した結果 寡占が崩壊したと結論づける
目次 第 1 章問題意識 -----1 第 2 章先行研究および仮説構築のための事象の整理 2 1 先行研究 -----2 2 2 1983 年における日本の化粧品業界の状況 -----3 2 3 事象の整理 -----4 第 3 章各事象の概要 3 1 法規制 -----5 3 2 競合他社 -----5 3 3 R/D-----6 3 4 販売 -----7 3 5 消費者 -----7 第 4 章仮説 -----10 第 5 章流通チャネルの拡大によるコスト効率や価格統制力への影響 -----11 第 6 章顧客の囲い込みおよび製品の差別化の現状と影響 -----14 第 7 章法規制の緩和の影響 -----16 最終章結論 -----17
第 1 章問題意識 2011 年 日本の化粧品業界において老舗大手 4 社 : 資生堂 花王 カネボウ コーセーの寡占が崩れるという現象が起きている 1983 年において市場規模が 9097 億 7380 万円に対して 62.1% の売上高シェアを大手は占めていたのに対して 2011 年には市場規模 2 兆 2710 億円に対して 34.9% にまで大手 4 社のシェアが落ち込んでいるのである この寡占がなぜ崩壊するのかを本研究の問題意識とする 図 1: 国内市場規模と大手 4 社の国内売上シェアの推移 出典 : 矢野経済研究所 化粧品マーケティング総監 等より筆者作成 寡占が崩壊するという現象は グローバルゼーションが進展する業界においては稀有なことである パンガジ ゲマワットはその著書 コークの味は国ごとに違うべきか において グローバル展開において本国以外の地域での競争にさらされる結果 本国内における寡占は高まる という学説を展開している 例えば資生堂が 7,862 億円のうち 4,022 億円と売り上げの約 6 割を海外から上げる 1 ようにグローバル化が進む一方で国内での業績は落ち込むように 日本の化粧品業界においては同氏の見解とは全く逆の現象が発生しているのである なぜ寡占が崩壊するのかという問いに対しては 概して流通構造の変化が主因であるとされる つまり 大手が従来強みとしてきた化粧品専門店および百貨店という流通チャネルが衰退し 新たにドラッグストア 薬局 薬店や量販店 そして通販といったチャネルの規模が増加した 中高価格帯を主力製品としてきた大手は 低価格帯を主に扱うこれら近年拡大するチャネルに対応することができずに その結果寡占が崩れたとされる 1 資生堂 HP 2013 年度決算短信 2015 年 2 月 27 日最終アクセス 1
図 2: チャネル別の国内売上高の推移 1997 年 2013 年 104,055 86,900 405,505 528,603 316,000 387,500 235,985 281,000 282,000 76,794 468,952 245,862 259,500 531,900 化粧品専門店百貨店ドラッグストア 薬局 薬店量販店通販訪問販売コンビニ 出典 : 矢野経済研究所 化粧品マーケティング総監 等より筆者作成 本研究はこの流通構造の変化に加えてより多面的に 日本の化粧品業界においてな ぜ寡占が崩壊するかを分析する 第 2 章先行研究および仮説構築のための事象の整理 2 1 先行研究 まず本研究における寡占の定義を定めるために 2 つの先行研究を取り上げる 川島康男著 寡占市場と戦略的参入阻止 ( 中央大学出版部 1997 年 ) では 寡占とは規模の経済性 製品の差別化 絶対的費用の優位性によって参入障壁が形成された結果 既存の少数の企業群によってその市場が占有されている状態としている 寡占企業はその市場で技術ノウハウを蓄積するとともに 価格支配力を有することでさらに参入障壁が高められるため 寡占化が進むとされる 加えて公正取引委員会事務局 高度寡占産業における競争実態 (1992 年 大蔵省印刷局 ) は日本における複数の寡占市場を分析し 寡占を維持する要因を挙げている 高度寡占が生じている食管 板ガラス タイヤ カラーフィルム ビール ウイスキー 家庭用合成洗剤 ピアノ 2 輪自動車 乗用車の 10 業界において 寡占が維持されている要因として技術格差 生産コストの差 需要動向への対応 流通網の構築 政府規制 販売面の規模の経済 価格統制力が挙げられている 2
よって本研究では 1 規模の経済性 2 製品の差別化 3 参入障壁 4 価格支配力が 存在するあるいは有するか否かを寡占の基準と定める 2 2 1983 年における日本の化粧品業界の状況 これらの先行研究をもとに 1983 年においてどのように化粧品業界において大手 4 社 : 資生堂 カネボウ ポーラ 花王によって寡占が形成されていたのかを俯瞰する まず流通網は大手と特約を結んだ化粧品専門店チャネルや百貨店 そして訪問販売が主流であった この 3 種類のチャネルを大手は囲い込み また 4 位以下の周辺企業に関しても規模の経済性を生むほどに成長していたため この流通網の構築にかかるコストが最たる参入障壁となり 新規参入を阻害していた 加えて政府規制として再販売価格維持制度 ( 以下再販制度と略する ) によって小売に定価販売が義務づけられていたため カウンセリングによる対面販売を行う あるいは 過度な製品供給や乱売を管理する目的で大手が販売会社を抱えるという高コストな体質であっても 利幅を確保できる状態に大手はあった その対面販売が製品への信頼感そして優越感という顧客の CS を満たした結果 一般制度品メーカーとの製品の差別化が形成される また再販制度は化粧品専門店や百貨店という小売側の利幅の確保にもつながっていたため 支持されていた つまり価格支配力も大手は有していたのである 需要動向と技術ノウハウに関しても 自然はや医療技術に基づく製品まで広範なラインを提供しており 顧客の需要に対して製品を投入することができたのである 以上のように 1983 年当時は 大手 4 社は寡占を維持する要因を満たしていた 2 と言える 図 3:1983 年時点の寡占の状況 出典 : 筆者作成 2 川島康男著 寡占市場と戦略的参入阻止 ( 中央大学出版部 1997 年 ) 3
2 3 事象の整理 図 4: 寡占が崩壊した要因となる事象 出典 : 筆者作成 1983 年当時構築されていた寡占がなぜ 2011 年までに崩壊したのか 流通以外の要因を考慮するために RD 生産 流通 販売 消費者というバリューチェーンの各段階に沿って そして外部環境として法規制および競合他社の動向も踏まえて 1983 年に寡占が維持されていた要因を崩す要因となりうる事象をそれぞれ記載したのが図 3である まず外部環境における変化であるが 政府の法規制であった再販制度が独占禁止法の観点から また廉価製品の台頭によって小売側が定価販売の規制撤廃をもとめたことから 1993 年以降撤廃されることとなった また販路の構築コストがドラッグストアの台頭によって下がったために新規参入企業にとって障壁が下がる RD に関しても例えばナノ浸透といった医療技術に基づく製品軸が形成され その技術ノウハウを持たない大手は参入余地を生む また女性をターゲットにしていた化粧品業界において 男性が化粧品を使うという新たな需要が台頭しそれに対する製品開発ニーズも生まれる 生産に関しても新規参入企業に余地が生まれたためシェアを奪われた結果 規模の経済性も低下していると想定される 流通に関してはドラッグストアといった新規チャネルの与えるインパクトや再販制度撤廃後 化粧品専門店において値崩れを誘発する在庫管理の問題も起こる その在庫管理と関連して販売面では専門店と共存するために 過度な在庫の押し付けや小売店管理のための人事評価制度の再構築が必要となるであろう さらにドラッグストアの台頭を前にチェインストア制度を維持すること自体の是非も問題となる また従来チャネル根ざして行われてきた囲い込み制度がチャネルの変化をいかに受けているのかも販売上の問題に含める 最後に消費者において低価格志向やカウンセリングに基づく購買行動をおこなってきた顧客が価値を見出さなくなった結果大手の製品から離れていったのではないか 4
これらの事象をまず整理することで仮説を導く 第 3 章各事象の概要 3 1 法規制 一部小売店による乱売が行われたことが契機となり 過度な値崩れを防止し業界の成長を維持することを目的として 1923 年から再販売価格維持制度が実施されることとなる 1983 年までは大手メーカーそして百貨店 化粧品専門店双方に利益をもたらした定価維持の制度であるが 廉価な製品を提供する新規メーカーが台頭するにつれ 小売側に価格の維持が困難になったために再販制度の是非が問われることとなる 新規参入メーカーはカウンセリングによる対面販売を展開しない分廉価な製品を提供できたのである 廉価製品による値引き圧力の結果 再販売制度が 1,000 円以下の低価格商品より 1993 年以降順次撤廃されていく この定価販売が崩れることで カウンセリング販売という強みが大手にとって高販管費率をもたらす 同時に規制によってもたらされていた価格支配力も同時に失うこととなった 3 2 競合他社 法規制の項目において廉価製品を投入する新規参入企業が存在したと述べた たとえば 1982 年および 1983 年に化粧品市場に参入した企業は 21 社あったが 販売網の構築コストや訪問販売員へのマージン負担から初期投資が回収できず撤退しているので 2014 年の時点で化粧品業界に存続している企業はない 3 1983 年の段階では販路構築のコストが参入障壁となっていなのが なぜ参入できたのか 流通チャネルの変化と密接に関わり合うが 全国規模で販売網を持つドラッグストアで新規メーカーが販路構築の必要性がなくなったからである この新規参入企業の売上高は 1,000 億円にも満たず 市場シェアは 1% 未満とプレゼンスは低い しかし 重要なことは販売コストが相対的に低い分廉価な製品を投入している点であり 値引きを誘発しているということにある 次に売上高市場規模で 4 位以下の企業群を俯瞰する 2011 年においては百貨店などに直接卸す直販型の外資系メーカー P&G やロレアル ユニリーバといった企業が大手にまず続き そして一般品メーカーのドクターシーラボやマンダムが 1983 年から台頭してきたといえる 各グループの戦略は 直販型の外資は 百貨店に特化し高価格帯を展開する そして拡大する通販における需要も百貨店の通販 HP を介して参入することによってブランド毀損を回避しながら取り込む 一般品のドクターシーラボはナノ浸透という医療技術を源泉に異業種から参入 マンダムは男性用の化粧品メ 3 矢野経済研究所 85` 化粧品業界の現状と戦略展望 より 5
ーカーとして参入した それぞれ大手が技術ノウハウを有さない分野に特化して製品の差別化を実現し それを規模が拡大し かつ大手が囲い込みをしていない量販店や薬局薬店といったチャネルで展開するのである 大手と住分けるかたちで徐々に規模が拡大している 3 3 R/D 化粧品業界の製品開発の起点はその原料 / 成分となる たとえばアロエといった植物成分からコラーゲンやヒアルロン酸などの皮膚生理学上有用とされる薬効成分までの中からどのような成分を用いるかがである 4 従来にない成分を用いることで大手の技術ノウハウから差別化を図る企業が散見される たとえば酒造を本業とする日本盛りが米ぬかを原料として開発した米ぬか美人を例として挙げる また化粧品には大きく分けて 4 つの用途 : 洗顔 整肌 保湿 栄養 効果が存在する これら 4 つの要素ごとに従来は製品開発がなされてきたが 整肌 保湿 栄養 効果の 3 用途を単一製品で満たす製品が台頭してきている 大手はこれまで自社の売り上げ減をまねくことからこの複数用途向け製品の投入を敬遠してきたが 特に新規参入企業が同コンセプトの製品を投入 低価格志向の顧客を引き付けている 加えて価格帯と年齢ターゲットで大手と競合他社のポジショニングを比較すると 中高価格帯を主に展開する大手に対して 美白やアンチエイジングなどの機能性に特化する あるいは新たに台頭する若年層や男性といった顧客セグメントに特化するポジショニングで展開している 図 5: 大手と競合他社のポジショニング 出典 : 矢野経済研究所 化粧品マーケティング総監 における各社主要ブランド資料から筆者作成 4 山岡良夫著 化粧品業界 ( 教育社新書 1985 年 )130 頁より 6
3 4 販売及び囲い込み 大手は再販売価格維持制度が撤廃されて以降 美容員という販売管理費や販売会社が抱える在庫負荷という高コスト体質が浮き彫りとなった これらを改善するため経営管理会計上の評価指標から改革することで社員の営業改革を進めている まず資生堂では 化粧品専門店側の経営が悪化しチェインストア制度から脱退する店舗が出るという強みの喪失という危機を迎える その小売りを救済するという観点から経営管理改革を進める 小売り側に過度な在庫負担を押し付けないために小売りの売り上げに応じて営業人員を評価する また花王は自社の販売会社の在庫負担を社員に意識させるため EVA という管理体系を導入した 資本コストを直接原価制度によって算出 RD 費用や製品投下後のマーケティングコスト 在庫負荷を踏まえたうえで売り上げ目標が意識されるようになったのである また小売店の経営悪化を販促費によって救済する施策もなされている 資生堂では リベートを 1 割増しにすることで化粧品専門店のキャッシュを補填し店頭改善といった投資を活性化させることを企図する 花王においても販売会社が策定したエリア戦略に沿ってマーチャンダイジング担当と呼ばれる棚割りや陳列を専門に行う人員を配置し 時にセルフとカウンセリング化粧品が同列に並べられているというような状況を改善するこころみがなされる 以上のように大手側の経営管理体制 そして小売り側へのテコ入れの両面から販売体制の見直しを図っている 従来囲い込みに関しては 化粧品専門店下で形成された顧客組織 資生堂の花椿会や花王のベルの会 を通じてクーポン ノベルティグッズ 美容講習会や情報誌を供与 5 することで囲い込みを行ってきた 3 5 消費者 1997 年以降の消費者の支出動向を分析する 2 人以上の世帯における年間の総支出 6 とその化粧品消費動向 7 をみる まず総消費支出の動向をみると 2000 年には 380.7 万円の支出に対して 2013 年には 348.5 万円と下落しており消費に対する抵抗感が伺える 一方で化粧品支出金額を見ると 2013 年の時点で年間約 51,240 円となっており時系列の推移でも堅調に伸びていると言える リーマンショックといった節約志向の高まりが強まるとされる期間においても大きな支出金額の変化が見られないのが特徴である 5 藤岡章子 日本におけるリレーションシップ マーケティングの先駆的展開 京都大学経済会 6 総務省統計局 HP 家計調査- 家計収支編 - 二人以上の世帯 http://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/ index.htm#longtime 2015 年 2 月 27 日最終アクセス 7 総務省統計局 HP 1 世帯当たり年間の品目別支出金額, 購入数量 - 二人以上の世帯 等 7
図 6:1 世帯あたり年平均の支出 (2 人以上の世帯対象, 単位 : 円 ) 3,900,000 52,000 3,800,000 50,000 3,700,000 48,000 3,600,000 46,000 3,500,000 44,000 3,400,000 42,000 3,300,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 40,000 総消費支出 化粧品への支出 出典 : 総務省統計局家計調査年表より, 灰塗は金融危機の期間を示す 節約志向は見受けられないものの 次に各製品カテゴリーと価格帯別の割合を見るとスキンケア ヘアケア メイクアップ ボディケア フレグランスという各製品カテゴリーで最も購入されるのが 1,000 円未満の低価格商品であるなど消費者の低価格志向が見受けられる 各カテゴリーにおける低価格商品の割合はスキンケアで 31.4% ヘアケアで 58.9% メイクアップで 46.3% ボディケアで 68.6% フレグランスで 52.8% となっている 8 加えて化粧品の支出先を価格帯別の国内市場規模の動向で見ると 支出総額自体は伸びをけん引するのは低価格商品であると考えられる 中価格帯は国内において依然最大の市場であるが 2007 年の10,265 億円をピークに約 2% ずつ減少傾向にあり 2013 年は9,292 億円にまで落ち込む 高価格帯は上昇傾向にあるが2011 年で頭打ちとなり 2013 年 6,608 億円ほどで停滞している 残る低価格帯市場のみが年 2% で上昇を続けており 2013 年時点で5,545 億円まで成長している 以上のように 大手が特にポジションをとる中価格帯から低価格帯 高価格帯への 2 極化が進み 特に低価格帯を好む傾向が伺える 8 週刊粧業 HP 商品別に見た購入価格帯と購入チャネル 2015 年 2 月 27 日最終アクセス 8
図 7:2006 2013 年における価格別の国内化粧品市場 11,000 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 価格帯別の国内市場規模の推移 ( 単位 : 億円 ) 4,000 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 高価格帯中価格帯低価格帯 出典 : 富士経済 2012 年国内化粧品市場とトレンドを調査 などをもとに筆者作成 最後にライフスタイルと化粧品の使用度の関係を見る 麻生国男著 化粧品業界 ( 教育社新書 1982 年 )136 頁では当時の総理府の 婦人の現状と施策 の資料を基にライフサイクルが化粧品の使用頻度にどのように関連しているかを図式化している 大学を機に化粧品度が上がり OL そして出産以降は頻度が低下していく黒線にあたる部分である それに今日のライフサイクル上の変化 : 女性の就労人口の増加を考慮したものが赤線で示される部分である 就労女性が増加するとともに 就労期間も長くなる 他人との接点がある場合に化粧をする頻度があがるため 25 歳以降も以前に比べて上がっていることを示すものである また若年層など化粧年齢の低下や男性用化粧品といった新たなカテゴリーの登場も起こる 9
図 8: ライフサイクルと化粧品の使用頻度 出典 : 麻生国男著 化粧品業界 ( 教育社新書 1982 年 ) を基に筆者作成 以上のことを総合すると 化粧品への支出は増加するものの 市場は高価格帯 低 価格帯の 2 極化が進み 特に低価格志向が見受けられる 支出増加と低価格化は購入 頻度の増加によってもたらされていると考えられる 第 4 章仮説 第 2 章における先行研究による寡占の維持要因と第 3 章における 2014 年現在における大手 4 社を取り巻く事象から仮説を導く 先行研究にある生産コストの差 そして 価格統制力という要因をもとに 1 流通チャネルの変化によって 販路を自社で開拓する必要のなくなったその他企業 (2011 年における大手 4 社以外の企業を以下その他企業と略する 対象企業は下図 9の通り ) のコスト効率が上がる その結果 参入を許し当該企業に売り上げを奪われたのではないか あるいはその他の既存企業もコスト効率 業績が向上して大手の売り上げが奪われたのではないか 2 値引きが常態化するドラッグストアといった新規チャネルの台頭とともに大手は価格統制力を失い あるいは顧客の志向が低価格化にシフトしたため 値崩れに歯止めがかけられなくなる その結果その他企業に圧迫される あるいは自社の売り上げが直接的に落ちたのではないか 次に特に製品に対する需要動向への対応をもとに4 囲い込みができていない あるいは製品の差別化が困難となった結果 売り上げの減少につながったのではないか 最後に5 法規制が緩和された結果その他企業に参入を許したため 当該企業に売り上げを奪われ大手の売り上げが落ちたのではないか 以上の仮説に基づいて 化粧品業界における寡占の崩壊要因の分析を進める 10
図 9: 国内化粧品市場における売上シェア 1% 以上の企業の推移 第 5 章流通チャネルの拡大によるコスト効率や価格統制力への影響 まず流通チャネルの拡大の推移を見る 1920 年代より現在の大手 4 社により化粧品業界が形成された 当時は再販売価格維持制度のもとで価格を統制する観点からメーカーが流通を管理するための販売会社を持ち 百貨店や特約を結んだ化粧品専門店に小売を委託する構造となっていた これが今日のいわゆる制度品化粧品の流通構造である 化粧品専門店といったチャネルを大手が独占するに至り自社で販路を開拓するメーカーが次に台頭を始める 1940 年代より販売卸の時点で外部の化粧品問屋に委託し 百貨店や量販店 薬局薬店といった小売で流通させるメーカーである その後 1960 年頃より市場の成長を見計らい 百貨店に対して直接下ろす形で外資系のメーカーが参入する また同時期に 従来の制度品や一般品メーカーのように店舗を持たずに 個々の家庭に対して直接訪問し販売するメナード化粧品やポーラ化粧品メーカーが台頭する 加えて 1970 年代からは同じく無店舗型で 広告やビラを媒体として化粧品を販売するメーカーが現れることとなる 最後に 2015 年現在は先の再販売価格維持制度が撤廃されたこともあり制度品と一般品の垣根がなくなり 両メーカーを同様に扱うドラッグストアなどの小売で販売される 以上が今日までの大まかな流通構造であった 図 2においてこれらチャネル別の推移を見た通り 大手が独占してきた百貨店や化粧品専門店は 2011 年の時点でそれぞれ 2820 億円と 3875 億円である 他のチャネルに比べて市場規模にしめる割合が小さくなっている 他方インターネットによる通販やドラッグストアがそれぞれ 5319 億円と 2810 億円となり新規チャネルが直近の 10 年で 2 倍と興隆している インターネット通販は販路に係るコス 11
トが回避できる ドラッグストアはメーカーが販路を開拓することなく全国規模で製 品を流通させることができるためである 図 10: 流通チャネルの変化の推移 出典 : 筆者作成 このチャネルの変化は売上高販売管理費の効率に大きく影響すると言える 図 6は大手 3 社 ( 花王に関しては 化粧品事業を主に扱うビューティーケア事業のデータが参照可能な直近 6 年のデータのみ使用 ) と量販店型 訪問販売型 通販型メーカーの販管費率の推移を示したものとなる 直販型はロレアルを訪問販売型はポーラ化粧品 (2010 年東証 1 部上場のため決算短信を参照可能な 2009 年以降のデータのみ使用 ) を通販型は DHC を 各グループにおけるシェアがトップであることを選定理由にそれぞれ取り上げた まず 特に対面カウンセリングによる販売を強みとする大手の中でも資生堂とコーセーの販売管理費率が 65-70% と高く近年悪化していることが伺える 2012 年において資生堂とコーセーはそれぞれ 18,000 人 7,000 人の対面カウンセリングを行う美容員を抱えるからである 9 1993 年以前は再販売価格維持制度のもとで 小売においても定価販売がなされていた 化学製品である化粧品をカウンセリングによって安全に販売できる美容員を維持することを再販制度が必要な根拠としているほど 同制度に依存した販売管理費用の設定であったと想定される その後定価が維持できなくなるとともに コスト効率は悪化することとなる 販管費率が 60% と相対的に低い花王は 2,800 人と小規模であり これは同社がカウンセリングよりも小売営業担当による棚割および陳列に比重をおいているからであると想定される 他方 無店舗販売のため特に通販型の DHC の比率が他社と比較して 60% 弱と低い 9 矢野経済研究所 化粧品マーケティング総監 2013 より 12
ことが伺える 量販店における販売はさらに低いことが想定される 図 11: 各グループの売上高販売管理比率の推移 出典 : 各社の 1998 2013 年有価証券報告書をもとに筆者作成 以上のように新たに台頭したチャネルがコスト効率に及ぼす影響は 特に美容員による対面販売を強みとしてきた大手と比較すると 売上高販売管理比率で 10% 以上の差を生む大きなものとなる このコスト効率の差は規模の経済性の効力を失わせ 参入余地を生む あるいは 既存企業への競争力を生むこととなるのである 次にドラッグストアといった新規チャネルの台頭が 大手の価格統制力にどのような影響を及ぼしているかを考察する ドラッグストアが主流になった結果 大手から小売側に価格決定力が移ることとなった 特に低価格帯を扱うドラッグストアは店頭実勢価格がメーカー側の希望小売価格から 2-3 割ほどの値引きで形成されることが常態化している その結果 顧客は他のチャネルでの商品選択の際もドラッグストアの店頭実勢価格を参照価格とすることとなる よって低価格志向が定着することとなるのである 大手の強みである中 高価格帯でも同様であり この場合は再販価格維持制度の撤廃とともに小売でクーポンなどによる間接的な値引きから値崩れが始まる 各チャネルにおける低価格化に対して それぞれ目下対策が行われている ドラッグストアにおいては ブランド統合などで製品ラインが再編されるのを機にメーカーが希望小売価格を提示しない ( 以下 NPP と略する ) 手法によって ドラッグストアなどの小売側が値引きのインセンティブを働かせないように企図している 中 高価格帯では メーカーが例えば化粧品専門店の在庫を自社計上する あるいは 経営管理会計の面から小売に対していくら買い取られたかではなく 小売の売上にいかに貢献したかという指標で営業員を評価することで小売側の在庫放出のインセンティブを 13
削ぐといった手法で 値崩れを防ぐ対策を行っている しかし これら対策をもって しても低価格志向の顧客需要の取り込みにはいたっておらず 10 大手は価格統制力を 失っていると言える 図 12: 各価格帯の価格動向および対策 ここまでに述べた値引き圧力は 小売側からだけでなく顧客側からも情勢されている 第 3 章でみたように顧客サイドでも低価格志向が強まっていることが 各製品カテゴリーにおける価格帯別の構成と 価格帯別の市場規模の推移から伺えた この低価格志向の需要を取り込む形でドラッグストアや量販店が拡大し そのチャネルを通じて新規参入企業がセルフ販売の廉価製品展開するのである このように小売および消費者の2 者から価格低下圧力がかかる結果 大手は客単価が下がり 売り上げの減少に陥るのである 第 6 章顧客の囲い込みおよび製品の差別化の現状と影響 本項では顧客の囲い込みおよび製品の差別化が困難となった結果 大手の寡占が崩れたのではないかという仮説に関して検証してゆく まず顧客の囲い込みに関して 百貨店 化粧品専門店に根ざした顧客の囲い込みが 2014 年現在効力を失っている 百貨店 化粧品専門店では 対面販売によるカウンセリングによって 顧客ごとにあった製品を提供すること自体が価値となり 大手の囲い込みの源泉となっていた また化粧品専門店単位で例えば資生堂といった大手の製品を愛用する顧客の同好会のような組織が構築され そこを通じてクーポンによる値引きが実施されていた これらチャネルに根づいた施策が囲い込みの源泉となっていたのである しかし 2014 年現在 その囲い込みが効力を失いつつある 百貨店 化粧品専門店でのカウンセリングは 店頭検査機器とそこで供与されるデータに代用され 顧客が自分自身で判断して購入することも可能となった その結果 セルフ販売の商品へ顧客が流れることとなる もう1つの囲い込みの源泉となっていた同好会も主要なチャネルが百貨店 化粧品専門店ではなくドラッグストアなどになるにつれて影響力が小さくなり 大手は自社のポータルサイトを通じて顧客を囲い込むことを 10 富士経済 化粧品国内市場の販売チャネル別動向調査 より 14
企図する 化粧品専門店が抱えていた顧客の個人データをこのサイトに移管して 直接情報発信やクーポンの発行を行うのである しかし この施策は顧客が化粧品専門店を通り超して資生堂のインターネットサイトを通じて購入することを可能とするため反発を受ける 大手との化粧品専門店の契約を打ち切り脱退する店舗も出るなど争点となっている 以上のように顧客の購買行動の変化 あるいはチャネルの変化によって顧客の囲い込みが困難な状況となっており これが他社への顧客流出につながっていると考えられる 次に製品の差別化に関して考察する 図 9 11は大手 3 社の価格帯別の代表ブランドと それらがどのチャネルを通じて流通しているかを示した図である 流通チャネルが多様化した結果 百貨店 化粧品専門店以外に流れた顧客を取り込むために 特に資生堂では主力の中 高価格帯のブランドであってもマルチチャネルで展開している それがブランド構築を妨げることとなり 製品ごとに差別化が図られなくなってしまったのである まず資生堂であるが図 9の通り化粧品専門店においてほぼ全ての製品ブランドが販売されていること 高価格帯のクレドポーボーテ リバイタルグラナス ハクの 3 製品は百貨店 化粧品専門店に加えて ドラッグストアや GMS といった小売でも展開されている 中価格帯のマキアージュ エリクシールも同様である 対面カウンセリングの結果得られる製品の信頼感や高級感といった軸が資生堂を支持する要因となっていた 11 にもかかわらず このマルチチャネル展開によってその強みが失われているのである 花王 カネボウは合併を機にブランドを統合整理 チャネルごとに製品を分ける単一チャネルの戦略をとる またコーセーは高価格帯のアルビオンに対して自社名を使わずにアウトオブブランドで展開することでブランド毀損を回避するなど 顧客側からのブランドイメージを明確にすることで製品の差別化を現在図っている 図 13: 資生堂の製品ブランドと流通チャネルの関係 11 麻生国男著 化粧品業界 ( 教育社新書 1982 年 ) 15
図 14: 花王 カネボウの製品ブランドと流通チャネルの関係 図 15: コーセーの製品ブランドと流通チャネルの関係 第 7 章法規制の緩和の影響 本項では 法規制の緩和が新規参入を許し その結果大手の売り上げに影響をあたえているのではないかという仮説を考察する 化粧品業界においては大きく 2 つの法規制 : 再販売価格維持制度 ( 以下再販制度と省略する ) と薬事法があったが これらの規制が緩和された 1993 年 4 月 1 日より 小売に対して値引きを規制していた再販制度が撤廃され 大手は価格の決定力を失う そして前項で考察した通り ドラッグストアの台頭によって小売側に価格決定力が移ることとなるのである また 定価での利幅を前提に構築された高コスト体質をもたらすカウンセリングのための美容員の相対的な負荷も高まることとなる 次に薬事法に関して 規制が緩和された結果 新規参入企業の台頭を許すとともに 製品の差別化が困難となる結果をもたらした 薬事法の改正によって 厚生労働大臣が認定する以外の成分も製品に使用が可能となった その反面 成分の全表示を義務づけるとともに 安全性に対して責任を持つという改正内容である これは成分認可 16
の必要がなくなった結果 参入サイクルを短くすることとなり新規参入企業にとっては化粧品市場がより魅力となる また大手が技術ノウハウをもっていない成分による研究開発が可能となり参入障壁も低下する この参入企業が廉価製品を展開することによって さらに低価格志向が強まることとなる また顧客は成分内容の比較が容易となり 検査機器データをもとにセルフ販売の製品へ顧客が流出する結果をもたらすこととなるのである 法規制が緩和されることによってその他企業の参入を許すこととなり 大手はシェアを奪われることとなる 図 16: 化粧品業界における法規制の推移とその影響 出典 : 筆者作成 最終章結論 第 5 章から第 7 章での検証を基に大手の寡占の崩壊要因を総括する ドラッグストアといった新規チャネルの台頭は 新規参入企業に参入余地を生むとともに 大手側の高コスト体質を表面化させるとともに規模の経済性を失うことを意味する またドラッグストアにおける値引き価格が参照価格となること そして顧客の低価格志向が重なることで価格支配力を大手は失うこととなる 囲い込みに関してもセルフ販売化粧品の台頭や検査機器に代用されることによってカウンセリングの優位性は失われ かつ自社 HP における囲い込みも化粧品専門店との軋轢が生じる結果となる 同時に薬事法改正といった法規制の緩和によって技術ノウハウの蓄積といった優位性が失われ その他企業の製品が特長的に顧客にとらえられることとなる 製品はマルチチャネル戦略によって主力の中 高価格帯であってもブランド構築を妨げ その結果製品の差別化をも困難になる 以上のように 1983 年時点で構築していた寡占の維持要因であった規模の経済性 製品の差別化 価格支配力 参入障壁を段階的に失ったため 大手の寡占が崩壊したと結論づける 17
図 17: 寡占崩壊の因果関係図 出典 : 筆者作成 謝辞 本研究を進めるにあたり ご指導頂いた研究会担当であり修士論文主査の磯辺剛彦教授 そして副査を勤めて頂いた岡田正大教授 齋藤卓爾教授に感謝いたします また日頃の議論を通じて本研究に対する示唆を頂いた磯辺剛彦研究会の皆様に感謝いたします 参考文献 安喜博彦著 産業経済論 寡占経済と産業展開 ( 新泉社 2007 年 ) 麻生国男著 化粧品業界 ( 教育社新書 1982 年 ) 川島康男著 寡占市場と戦略的参入阻止 ( 中央大学出版部 1997 年 ) 公正取引委員会事務局編 高度寡占産業における競争の実態 ( 大蔵省印刷 1992 年 ) 平林千春 廣川州伸共著 花王 強さの秘密 ( 実業之日本社 2004 年 ) 山岡良夫著 化粧品業界 ( 教育社新書 1985 年 ) ジェフリー ジョーンズ著 ビューティービジネス ( 中央経済社 2011 年 ) ジェフリー ジョーンズ著 多国籍企業の変革と伝統 ( 文眞堂 2013 年 ) 18