理学療法科学 32(3):459 464,2017 症例研究 Core stability training により運動失調およびバランス障害が改善した重度小脳性および感覚性運動失調の 1 症例 Core Stability Training Improved Ataxia and Balance of a Patient with Severe Cerebellar and Afferent Ataxia: A Case Study 1) 阪本誠 2) 松木明好 3) 谷恵介 4) 木村大輔 Makoto SAKAMOTO, MS, RPT 1), Akiyoshi MATSUGI, PhD, RPT 2), Keisuke TANI, MS, RPT 3), Daisuke KIMURA, PhD, RPT 4) 1) Yamato Visiting Nursing and Rehabilitation Station: 154-59 Kihara-cho, Kashihara-shi, Nara 634-0004, Japan TEL +81 744-24-8600 E-mail: sincere.dandelion@gmail.com 2) Faculty of Rehabilitation, Shijonawate Gakuen University 3) Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University 4) Department of Rehabilitation, Faculty of Health Science and Technology, Kawasaki University of Medical Welfare Rigakuryoho Kagaku 32(3): 459 464, 2017. Submitted Jan. 27, 2017. Accepted Feb. 24, 2017. ABSTRACT: [Purpose] We aimed to investigate the effects of core stability training (CST) on ataxia and balance disturbance. [Subjects and Methods] A man in his fifties who was at 3 years past the onset of pontine hemorrhage and had severe cerebellar and afferent ataxias, and balance and gait disorders was included in this study. In the first 4 weeks (phase A), a physical therapist visited him at his home and conducted physical therapy, which included muscle strengthening, sit-ups, and transfer training, for 60 minutes per week. After phase A, CST was added to the program for 4 weeks (phase B). [Results] Only in phase B were the scale for the assessment and rating of ataxia and Berg balance scale improved. [Conclusion] CST for patients with severe cerebellar ataxia due to stroke can improve cerebellar and afferent ataxias, and balance. Key words: core stability training, cerebellar ataxia, balance 要旨 : 目的 Core stability training(cst) が運動失調とバランス能力に及ぼす影響について検討した. 対象と方法 発症から 3 年経過した橋出血後の 50 歳代男性. 運動麻痺はなく四肢体幹に重度運動失調, バランス障害, 歩行障害を呈していた. 週 1 回 60 分, 理学療法士が自宅訪問し介入した. 介入開始から 4 週間 (A 期 ) は, 筋力増強練習, 寝返り, 移乗の練習を行った. その後の 4 週間 (B 期 ) は, それらに CST を付加した. 結果 B 期においてのみ,scale for the assessment and rating of ataxia のスコアが 3.5 点,Berg balance scale のスコアが 2 点改善した. 結語 CST は重度運動失調症例の運動失調とバランス能力を改善する可能性がある. キーワード :Core stability training, 運動失調, バランス 1) リハビリ訪問看護ステーションやまと : 奈良県橿原市木原町 154-59( 634-0004)TEL 0744-24-8600 2) 四條畷学園大学リハビリテーション学部 3) 京都大学大学院人間 環境学研究科 4) 川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科 受付日 2017 年 1 月 27 日受理日 2017 年 2 月 24 日
460 32 3 I. はじめに運動失調によるバランス能力障害を改善するためには, 補助のない立位で全身運動を使ったダイナミックなバランストレーニング 1) や歩行練習 2,3) を, 一日に 2 時間以上, 週 4 回以上行う 3-5) 必要がある. しかし, これらの集中的な運動療法の効果を検証した Randomized controlled trial( 以下,RCT) では運動失調の重症度を示す Scale for the Assessment and Rating of Ataxia( 以下, SARA) が平均で 12 点程度 3,5) と軽度 ~ 中程度の運動失調を呈した症例を対象としており, 重度の運動失調を呈する症例は含まれていなかった. さらに,Marquer ら 2) による運動失調に対する理学療法効果に関するシステマティックレビューにおいても, 立位保持が難しい重度の運動失調を呈する症例のバランス障害を改善させる有効なバランストレーニング方法に関する報告は含まれていない. つまり, 支えの無い立位や片脚立ち, ステップ動作を含むダイナミックなバランストレーニングが行えない重度の運動失調を呈する症例に対する効果的な運動療法は確立していない. 他方, 背臥位などの安定した姿勢で行えて, バランス能力を改善する可能性のある介入方法として,Core stability training( 以下,CST) 6-8) がある. この CST は体幹と四肢の協調的な運動を獲得することにより, バランス能力を改善すると考えられており, すでに脳血管障害による片麻痺患者や健常者における体幹機能の改善, さらにバランスや下肢の運動機能が改善したことが報告されている 6,7). 体幹の安定性は日常の機能的活動のためのバランスや四肢の協調的な運動に欠かせない要素であり 9), このような体幹の安定性向上を目標とした理学療法プログラムが四肢の協調的な運動, 歩行とバランス能力を改善させると考えられる 10). 今回, 橋出血による重度の運動失調により, ダイナミックなバランストレーニングが行えなかった症例に対し, 背臥位で行えるブリッジ動作を中心とした CST から, つかまり立ちによる CST まで段階的に実施した結果, 上下肢の運動失調, 立位バランス能力, 着座能力の改善がみられたため, その経過, 介入方法に考察を加えて報告する. 院にて理学療法, 作業療法, 言語療法が適用された. 退院から 2 ヵ月経過した後より, 要介護 4 の認定を受け, 週 2 回のデイサービス, 週 1 回の訪問リハの利用を開始した. デイサービスでは理学療法士の介助下での歩行器歩行練習を 20 分実施し, 訪問リハでは理学療法士が対象者宅に訪問し, 起居練習, 移乗動作練習を 60 分実施していた. 約 2 年のデイサービスと訪問リハの理学療法を継続したが, 機能の向上および低下は認められなかった. その後, 訪問リハの担当者が筆者に変更され, 筆者による訪問リハが開始された. 本症例研究は, 治療方法や個人情報の保護に関する充分な説明を行い, 患者本人から書面にて同意を得た上実施した. 2. 症例研究デザイン A-B デザインで CST の効果を検討した. 筆者らが症例の担当者になってからの最初の 4 週間を A 期とし, 筋力増強運動と日常生活動作練習, すなわち起居, 起立動作, 移乗動作を中心としたプログラムを行ったが, CST は行わなかった.A 期が終了した翌週からの 4 週間を B 期とし,CST を付加した理学療法を実施した. A 期の初期と最終時期, および B 期の最終時期に理学療法評価を実施し,A 期の初期と最終時期の評価結果の差異, および A 期の最終と B 期の最終時期の評価結果の差異をそれぞれの期間の介入効果と判断した. 3. 理学療法評価脳卒中後の上下肢運動機能の定量的評価のために Fugl-Meyer Assessment( 以下,FMA) の運動項目 (A ~ F,100 点満点 ), 錐体路徴候の有無を確認するために深部腱反射, 病的反射を計測した. また, 感覚障害の有無を確認するために感覚検査を実施した. この他, 立位, 座位でのバランス機能に特に関与する体幹屈曲と両下肢の筋力を測定するために Manual muscle testing ( 以下,MMT), 小脳性運動失調の程度を評価するために SARA 2) を計測した. 主に体幹を使った基本的動作能力の評価のために Trunk Control Test( 以下,TCT) 11), 体幹協調機能を評価するために Trunk ataxic test( 以下, TAT) 12), バランス能力を評価するために Berg balance II. 対象と方法 1. 対象対象は脳幹出血 ( 橋右背側, 第 4 ~ 両側側脳室 ) の発症後約 3 年が経過した 50 代男性である. 図 1 は筆者らが訪問リハビリテーション ( 以下, 訪問リハ ) を開始した時の頭部 MRI であり, 橋 ( 図 1- 左 ) から中脳 ( 図 1- 右 ) にかけて, 右背側に脳出血による脳損傷を認める. 発症直後から約 6 ヵ月間, 回復期リハビリテーション病 図 1 訪問リハビリテーション開始時頭部 MRI 画像 (DWI: 拡散強調画像 )
Core stability training 461 scale( 以下,BBS) 2) を計測した.Activities of daily living( 以下,ADL) における自立度を評価するために Functional independence measure( 以下,FIM) 13) を計測した. いずれの評価も, 筆者らによる訪問リハ開始時, 介入開始から 4 週目 (CST 介入前 ), 介入開始から 8 週目 (CST 介入後 ) に計測した ( 表 1). 4. 介入方法筆者らが訪問リハで介入した期間は 8 週間であった. 訪問による理学療法介入の頻度は週 1 回, 実施時間は 60 分であった. 介入期間の前半 4 週間 (A 期 ) にて, 筋力増強運動と日常生活動作練習, すなわち, セラピスト介助下での寝返り, 起居, 起立動作, 移乗動作を中心としたプログラムを実施したが, 運動失調, バランス能力,ADL に改善が認められなかった. そのため, その後の 4 週間 (B 期 ) はこれまでのプログラムに CST を追加した. CST は先行研究 8) に倣い, バランス障害が重度でも実施可能なものを選択した.1 つ目は, 背臥位にて膝関節を 70º から 90º 屈曲位に保持し, 骨盤の後傾を促した 表 1 理学療法評価 介入前 (0 週 ) ADL 訓練後 (4 週 ) CST 後 (8 週 ) FIM 61 61 61 TCT 48 48 48 TAT IV IV IV SARA 29 29 25.5* 歩行 6 6 6 立位 5 5 4* 座位 3 3 3 言語 6 6 6 指追い試験 ( 右 / 左 ) 2 / 3( 平均 2.5) 2 / 3( 平均 2.5) 2 / 2*( 平均 2.0) 指鼻指試験 ( 右 / 左 ) 2 / 3( 平均 2.5) 2 / 3( 平均 2.5) 2 / 2*( 平均 2.0) 回内外試験 ( 右 / 左 ) 1 / 3( 平均 2.0) 1 / 3( 平均 2.0) 1 / 2*( 平均 1.5) 踵膝試験 ( 右 / 左 ) 3 / 3( 平均 3.0) 3 / 3( 平均 3.0) 2* / 2*( 平均 2.0) BBS 6 6 8* FMA 上肢 右 43 / 66 43 / 66 43 / 66 左 40 / 66 40 / 66 40 / 66 下肢 右 28 / 34 28 / 34 28 / 34 左 28 / 34 28 / 34 28 / 34 MMT 体幹屈曲 4 4 4 股関節屈曲 4 4 4 股関節伸展 4 4 4 膝関節屈曲 4 4 4 膝関節伸展 4 4 4 足関節背屈 4 4 4 足関節底屈 4 4 4 表在感覚 上肢右軽度鈍麻軽度鈍麻軽度鈍麻 下肢右軽度鈍麻軽度鈍麻軽度鈍麻 位置覚 上肢右軽度鈍麻軽度鈍麻軽度鈍麻 下肢右軽度鈍麻軽度鈍麻軽度鈍麻 FIM:Functional independence measure,tct:trunk control test,tat:trunk ataxic test, SARA:Scale for the Assessment and Rating of Ataxia,BBS:Berg balance scale,fma: Fugl-Meyer Assessment,MMT:Manual muscle testing.*: 変化した項目 (vs 4 週目 ).
462 32 3 B IV. 考 察 A 図 2 Core stability training 状態でゆっくりと股関節を 0º まで伸展するブリッジ動作を行い, その姿勢を 5 ~ 10 秒保持させ, ゆっくりと元の姿勢に戻すようにさせた ( 図 2-A).2 つ目は, まず, 図のように両手で手すりを把持させ, 膝関節屈曲 45º, 股関節屈曲 45º 程度のハーフスクワットの姿勢を保持させた. その姿勢が保持できたら, 約 10º 程度の膝屈伸運動を 5 秒程度かけて行わせた ( 図 2-B). なお, 筆者らが介入する前に CST は行われておらず,A B 期ともに CST を含めた理学療法介入時間を 60 分に統一した. III. 結果 FMA,MMT,TCT,TAT, 感覚検査,FIM は, 開始時, 4 週目,8 週目で変化は認められなかった ( 表 1).FMA では協調性の項目は左右ともに 0 点であったが, 上下肢の運動機能は右 71/100 点, 左 68/100 点であった. また, 深部腱反射の亢進, 病的反射は認められなかった. 体幹屈曲と左右の下肢の MMT は 4 レベルであった.TCT では両側ともに寝返り, 起き上がりは上肢を使用する, もしくは非定型的な運動パターンを用いていた. 座位保持に関しては両上肢を空間に挙上した状態で保持はできるが, 体幹の動揺が強い状態であった. SARA と BBS は, 開始時と 4 週目に差はなかったが, 8 週目に変化が認められた.SARA は歩行, 座位では改善がみられなかったものの, 立位は 5 から 4 に, 指追い試験は平均 2.5 から 2.0 に, 指鼻指試験は平均 2.5 から 2.0 に, 回内外試験は平均 2.0 から 1.5 に, 踵膝試験は平均 3.0 から 2.0 に改善し, 合計点は 29.0 から 25.5 へと改善がみられた.BBS は初期評価時には, 立ち上がり, 着座動作, トランスファーがそれぞれ 1 点, 座位保持が 3 点, その他の項目は全て 0 点であったが,CST 実施後には着座動作が 3 点へと改善した. 本研究では, 橋出血発症後に重度の運動失調によるバランス障害を呈した患者に対し CST を実施し, 運動失調やバランス能力, 日常生活動作に対するその効果を検証した. 基本動作練習を中心とした介入期間では運動失調, バランス能力,ADL 能力を反映する各検査結果に変化は認められなかったが,CST を追加した介入期間後,SARA スコアに反映される立位バランス能力と上下肢の運動失調,BBS に反映される立位からの着座能力が改善した. 以上のことから, 重度の運動失調症例に対する CST は, 上下肢の運動失調や立位バランス能力, 着座能力を改善する可能性があると考えられた. 初期評価において, 上下肢の運動機能評価について, FMA の協調性項目は 0 点であったが, 右が 71 点, 左が 68 点であったこと, 下肢の MMT が 4 であったこと, 腱反射は正常で, 病的反射は出現しなかったことから, 本症例の運動機能障害は運動麻痺ではなく, 運動失調に起因することが示唆される. 運動失調の重症度を反映する SARA は無症状では 0 点, 最重症では 40 点となり, 脊髄小脳変性症の最重症ステージにある症例の SARA の中央値は 30 であったことが報告されている 14). 本症例は初期評価時において SARA スコアが 29.5 点であったことから, 介入前には重度の運動失調を呈していたと考えられる. また, 脳卒中による橋背側部の損傷により小脳性の運動失調が出現する 15). 小脳性運動失調の場合, 予測的な運動制御が障害されるため, 予測可能な標的を追従する指追い試験で追跡誤差が大きくなり, さらに運動分解や企図振戦が確認される. よって, 本症例は小脳性の運動失調である可能性が高いと考えられた. その一方, 感覚障害も有していたため, 体性感覚障害が運動失調の要因の一つになっている可能性は否定できなかった. したがって, 本症例の運動失調は小脳性, および感覚性であると考え, 介入を検討した. 運動失調によるバランス能力障害を改善するための集中的な運動療法の効果を検証した RCT では, 介入直後に運動失調の重症度を反映する SARA スコアが平均で約 2 点改善し, 介入から 12 週まで 1 点の有意な改善が保持されたことが報告されている 3). 本症例研究では SARA スコアが 3.5 点の変化があったため, 先行研究を基に, 運動失調に改善があったと解釈した.SARA の下位項目でみてみると, 立位の項目が 5 点から 4 点に変化していたが, このことは立位保持能力が改善したことを意味する. また, 左上肢の指追い試験, 指鼻指試験, 前腕の回内外試験の点数が 3 点から 2 点に変化したことは, 左上肢の運動失調が改善したことを示唆する. 両下肢の踵膝試験の点数が 3 点から 2 点に変化していたことは, 両下肢の運動失調が軽減したことを示唆する.BBS
Core stability training 463 の着座項目が 1 点から 3 点に変化したことは, 手すりを用いるか, 人が介助しなければ安全に着座できなかったのが, 自己にて安全に着座できるようになったことを示している. 以上のことより,CST 実施後に, 左上肢と両下肢の運動失調, 立位バランス, 着座能力が改善したと考えられた. 立位バランス能力, 着座動作には, 姿勢制御筋である下肢筋の協調的な働きが不可欠であることから,CST による下肢の運動失調の改善が, 立位バランスと着座動作の改善に寄与した主な要因であると考えられる. また, 他の要因として, 体幹の安定性向上がバランス能力, 着座能力の向上に寄与した可能性が考えられる. 先行研究によると,CST によって体幹の安定性が向上することで, バランス能力が向上する可能性が示されている 6,7). CST に使用されるブリッジ姿位では, 腹横筋, 腹直筋, 脊柱起立筋に筋活動が生じることが報告されており 16), 本症例においても同様のブリッジ姿位が保持できていたことから, 体幹の安定性に強く関与する腹横筋, 腹直筋, 脊柱起立筋の同時収縮が生じていたと考えられる. これらの筋の協調的活動能力の向上が体幹の安定性を向上させ, 立位バランス能力, 着座能力を向上させた可能性が考えられる. しかし, 体幹機能の一部, および一側面を反映する,MMT,TCT,TAT に変化は認められなかった. 体幹屈曲の MMT では他の筋との協調的な働きは評価できないため, 体幹の安定性に寄与する機能の変化は反映されなかったと考えられる.TCT は寝返り, 起き上がり, 座位保持ができるか否かを点数化したものであり, 本症例の体幹の安定性の変化を反映できなかった可能性がある.TAT は両上肢を胸で組み, 両大腿後面を座面から上げて姿勢保持ができなければⅣと判定され, その姿勢を中等度の揺れを伴いながらでも保持できれば Ⅲと判定される.TAT がⅣであった本症例では端座位の安定性が向上しても TAT の試験姿勢の保持が難しかったため, 検査結果に反映されなかった可能性がある. 以上のことから,CST 後の立位バランス能力, 着座能力の改善には, 下肢の運動失調の改善と MMT, TAT,TCT に反映されない体幹の安定性向上が関与した可能性があると考えた. 介入前にも体幹をよく使う寝返り, 起き上がり, 移乗の動作練習は行っていたが, 運動失調, バランス能力, および ADL の改善にはつながらなかった. それらの動作練習に比べ CST は緩徐な運動である. このような緩徐な運動は, 早い運動の際に生じやすい慣性を減らし, 運動の難易度を下げ, エラーを小さくする効果がある. 重度の運動失調を呈する患者では運動時に起こるエラーが大きい場合には運動を学習しにくいが, 小さいエラーの場合には運動を学習しやすいことが先行研究によって示されている 17). そのため, 本症例においても, 緩徐な運動を行うことで下肢筋, および体幹筋の協調的な運 動が学習された可能性があると考えた. また,CST による介入後, 左上肢の運動失調の改善もみられた. この理由の一つとして, 立位での課題の際に両上肢を支持として用いたことが上肢の協調性トレーニングになったことが一因として考えられる. 肘関節の屈曲伸展運動は生じないものの, 膝関節屈曲伸展運動を, 手すりを保持した状態で行うことにより, 体幹と肩関節周囲筋の同時活動が得られたため, ブリッジ動作と同様の学習効果が得られたのではないかと考えられた. 一方, 前腕の回内外運動はこの運動に含まれていないため, この改善は肩関節 体幹の協調的な活動から影響を受けた可能性も考えられる.Miyake ら 18) は, 小脳性運動失調を呈する症例に対する体幹トレーニングによる体幹の安定性向上により, 上肢の運動失調が軽減したことを報告している. これは体幹の安定性向上により, 上肢運動の動揺が減少したためと考えられる. 今回の症例も同様に, 体幹の安定性向上により上肢機能が改善した可能性があると考えられる. 本症例は,CST を行わなかった A 期の前後では, 計測した全てのパラメータにおいて変化が認められず, CST を行った B 期の前後においてのみ SARA と BBS のスコアに変化が認められた. このことから, 本症例の機能改善は B 期で行った介入により生じた可能性が高いと言える. この機能改善には, 疾患本来の自然回復による可能性も考えられるが, 本症例は発症から 3 年経過していることから, 疾患の自然回復の可能性は低いと考えられる. よって, この本症例の B 期の改善は, 疾患の自然回復とは考えにくい. 以上のことから,A 期と B 期の改善の差は A 期と B 期の介入の差, すなわち CST の有無によるものであると考えられる. 本研究の限界点として, 体幹機能が向上したことを三次元動作解析装置や筋電図を用いて検証できていないことがある.CST によって体幹機能がどのように変化したかを評価することができなかったため, これらの機器を用いた運動解析が必要と考えられる. また本研究では, 上下肢の運動失調, 立位バランス能力の改善はみられたが,ADL 動作の改善にまでは至らなかった. これは,4 週間の短期間の介入だったからである可能性がある. 脊髄小脳変性症などの変性疾患症例を対象に行われた RCT 1,3,4) では, 歩行が可能で軽度から中等度の小脳性運動失調を呈する症例に対する集中的なリハビリテーションの効果は 4 週間以上の介入が行われ, その効果が実証されている. よって, 本症例のような重度症例に対しては, より長期に介入することで ADL に汎化される程度の効果が得られるかもしれない. また, 介入頻度が週 1 回であり, 先行研究 1,3,4) で行われた週 4 回よりもかなり少なかった点が影響した可能性が考えられる. よって, 重度小脳性運動失調症例に対する CST のより長期間, および高頻度の介入を行う症例研究が, 今後必要と考えられる.
464 32 3 本研究により, 体幹と四肢の協調的な活動を集中的に 促す CST が重度の失調症患者の立位バランス能力, 上 下肢の失調症状を改善する可能性が示唆された. これま で行われてきた四肢の協調運動訓練に CST を付加する ことで, より高い運動失調軽減効果が得られる可能性が ある. また, 重度運動失調により, ダイナミックなバラ ンストレーニングが適用できない場合でも,CST を実 施することでバランス能力が改善する可能性がある. よって,CST は運動失調症例に対して, 四肢の運動失 調改善, バランス能力改善のために付加することを検討 するべきトレーニング方法であると考えられる. 謝辞 いたします. 本研究に協力頂いた対象者様とそのご家族に深謝 引用文献 1) Ilg W, Brötz D, Burkard S, et al.: Long-term effects of coordinative training in degenerative cerebellar disease. Mov Disord, 2010, 25: 2239-2246. 2) Marquer A, Barbieri G, Pérennou D: The assessment and treatment of postural disorders in cerebellar ataxia: A systematic review. Ann Phys Rehabil Med, 2014, 57: 67-78. 3) Miyai I, Ito M, Hattori N, et al. Cerebellar Ataxia Rehabilitation Trialists Collaboration: Cerebellar ataxia rehabilitation trial in degenerative cerebellar diseases. Neurorehabil Neural Repair, 2012, 26: 515-522. 4) Ilg W, Synofzik M, Brötz D, et al.: Intensive coordinative training improves motor performance in degenerative cerebellar disease. Neurology, 2009, 73: 1823-1830. 5) Ilg W, Schatton C, Schicks J, et al.: Video game-based coordinative training improves ataxia in children with degenerative ataxia. Neurology, 2012, 79: 2056-2060. 6) Chung EJ, Kim JH, Lee BH: The effects of core stabilization exercise on dynamic balance and gait function in stroke patients. J Phys Ther Sci, 2013, 25: 803-806. 7) Shirey M, Hurlbutt M, Johansen N, et al.: The influence of core musculature engagement on hip and knee kinematics in women during a single leg squat. Int J Sports Phys Ther, 2012, 7: 1-12. 8) Kim YK, Chun SP, Kang TG, et al.: Effects of core stability training on postural control ability and respiratory function in chronic stroke patients. Adv Sci Technol Lett, 2015, 88: 181-186. 9) Ryerson S, Byl NN, Brown DA, et al.: Altered trunk position sense and its relation to balance functions in people poststroke. J Neurol Phys Ther, 2008, 32: 14-20. 10) Freund JE, Stetts DM: Use of trunk stabilization and locomotor training in an adult with cerebellar ataxia: A single system design. Physiother Theory Pract, 2010, 26: 447-458. 11) Collin C, Wade D: Assessing motor impairment after stroke: A pilot reliability study. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 1990, 53: 576-579. 12) 内山靖, 松田尚之, 菅野圭子 他 : 運動失調症における 体幹協調機能ステージの標準化と機能障害分類. 理学療法学,1988, 15: 313-320. 13) Keith RA, Granger CV, Hamilton BB, et al.: The functional independence measure: A new tool for rehabilitation. Adv Clin Rehabil, 1987, 1: 6-18. 14) Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al.: Scale for the assessment and rating of ataxia: Development of a new clinical scale. Neurology, 2006, 66: 1717-1720. 15) Schmahmann JD, Rosene DL, Pandya DN: Ataxia after pontine stroke: Insights from pontocerebellar fibers in monkey. Ann Neurol, 2004, 55: 585-589. 16) Okubo Y, Kaneoka K, Imai A, et al.: Electromyographic analysis of transversus abdominis and lumbar multifidus using wire electrodes during lumbar stabilization exercises. J Orthop Sports Phys Ther, 2010, 40: 743-750. 17) Criscimagna-Hemminger SE, Bastian AJ, Shadmehr R: Size of error affects cerebellar contributions to motor learning. J Neurophysiol, 2010, 103: 2275-2284. 18) Miyake Y, Kobayashi R, Kelepecz D, et al.: Core exercises elevate trunk stability to facilitate skilled motor behavior of the upper extremities. J Bodyw Mov Ther, 2013, 17: 259-265.