正常な松果体 下垂体 副腎疾患の病理像 下垂体の発生と関連する特殊用語 トルコ鞍 1
下垂体の発生に関連する嚢胞病変 ラトケ嚢胞はラトケ嚢の遺残組織に由来し 粘液状物質でみたされた嚢胞としてトルコ鞍内や鞍上に形成される 組織学的にラトケのう胞の嚢胞壁は呼吸上皮に類似する線毛円柱上皮細胞や杯細胞様の粘液産生細胞により構成される 大型の嚢胞の場合は 下垂体機能を傷害し下垂体性侏儒症の原因になる 頭蓋咽頭管は胎生期に下垂体前葉の母組織である内胚葉性組織が 口腔より頭蓋骨内に陥入した際に頭蓋骨内に遺残した組織であり 残存組織に由来する嚢胞が頭蓋咽頭管嚢胞とよばれる また同組織に由来する頭蓋咽頭管腫瘍も知られる 症例 1 2 歳, 去勢雄 ブルテリア 尋常ではない狂暴性のため, 飼い主に放棄され その後ブルテリア保護団体へ, さらにその後は闘犬専門のトレーナーへ預けられたが, まったくコミュニケーションがとれず, 飼育不能のため大学へ譲渡された ラトケ嚢胞 ACTH 2
トルコ鞍部に発生する腫瘍 (WHO 分類 ) トルコ鞍部胚細胞腫 Suprasellar Germ cell tumor 異所性の胚上皮細胞に由来する腫瘍で 精上皮腫様の組織に肝細胞 消化管 あるいは気管上皮に類似する細胞増殖が見られる 咽喉頭管腫瘍 Craniopharyngioma 発生的には通常消失する咽喉頭管組織から発生すると考えられる 脳底部で膨張性かつ浸潤性の増殖を示し のう胞や管腔形成を伴い多角形から円柱状の腫瘍細胞の充実性増殖をしめす 下垂体腺腫 / 腺癌 Pituitary adenoma/adenocarcinoma イヌ ネコ ウマに好発するが 他の動物種では稀 腫瘍のサイズ 浸潤性 および腫瘍細胞の産生するホルモンに従い細分類される ( 後述 ) 腺癌は形態的には腺腫と類似するが 著明な実質 脈管内浸潤性を示す 腺腫と比較して極めて稀 トルコ鞍部に発生する腫瘍 (WHO 分類 ) トルコ鞍部胚細胞腫 Suprasellar Germ cell tumor 異所性の胚上皮細胞に由来する腫瘍で 精上皮腫様の組織に肝細胞 消化管 あるいは気管上皮に類似する細胞増殖が見られる トルコ鞍部に発生する腫瘍 (WHO 分類 ) トルコ鞍部胚細胞腫 Suprasellar Germ cell tumor 異所性の胚上皮細胞に由来する腫瘍で 精上皮腫様の組織に肝細胞 消化管 あるいは気管上皮に類似する細胞増殖が見られる 3
トルコ鞍部に発生する腫瘍 (WHO 分類 ) 咽喉頭管腫瘍 Craniopharyngioma 発生的には通常消失する咽喉頭管組織から発生すると考えられる 脳底部で膨張性かつ浸潤性の増殖を示す トルコ鞍部に発生する腫瘍 (WHO 分類 ) 咽喉頭管腫瘍 Craniopharyngioma のう胞や管腔形成を伴い多角形から円柱状の腫瘍細胞の充実性増殖をしめす トルコ鞍部に発生する腫瘍 (WHO 分類 ) 咽喉頭管腫瘍 Craniopharyngioma 唾液腺の多形腺腫と類似した腺上皮と筋上皮の二相性増殖を示す keratin αsma 4
下垂体腫瘍の分類 (WHO 分類 ) 腺性下垂体の腫瘍 1.1 下垂体前葉の腺腫 サイズ 5mmを基準に細分類 ; Micro vs Macro 組織浸潤性を基準に細分類; Non invasive vs Invasive 1.1.1 ACTH 産生腺腫 ( イヌで多い ) 1.1.2 GH 産生腺腫 ( 少ないがネコにみられる ) 1.1.3 プロラクチン産生腺腫 1.1.4 TSH 産生腺腫 1.1.5 性腺刺激ホルモン産生腺腫 1.1.6 多ホルモン産生腺腫 1.1.7 非ホルモン産生腺腫 1.2 下垂体中間葉の腺腫 1.2.1 ACTH 産生腫瘍 ( イヌで多い ) 1.2.2 MSH 産生腺腫 ( ウマでみられる ) 1.3 下垂体癌 (=Invasive macro-adenomas?) 参考症例 臨床事項イヌ 雑種 11 歳 雄 ( 去勢済み ) 平成 15 年 7 月 24 日初診 : 食欲 元気はあるが腹部膨満 一部の皮膚脱毛 ALP>3500 GPT=373 平成 15 年 8 月 7 日 : 皮膚 Biopsy でクッシング症候群が疑われる 以後強肝剤 抗生物質で加療するも改善がみられず肝酵素は高値を持続 平成 16 年 2 月 19 日 : 自宅にて死亡 剖検時の外景所見 著明な脱毛と皮膚の菲薄化 5
剖検時の脳底部肉眼像と固定後割面 脳底部組織像 腺性下垂体の著明な圧迫性増殖 ACTH 陽性細胞 ( 色素嫌性細胞 ) を主体とする増殖 ACTH 6
副腎皮質の不規則な増殖 ( 皮質腺腫 ) 萎縮性皮膚症と石灰沈着症 ステロイド性肝障害 ( 肝細胞の空胞変性 ) 7
副腎の発生と組織構築 神経堤 ( 外胚葉性細胞 ) の浸潤 増殖により形成される 中胚葉性腹腔上皮 ( 中皮 ) の局所増殖により形成される 動物発生学江口保暢著文永堂出版より転載 副腎の発生と組織構築 胎生期 出生 胎子性皮質 恒久性皮質 髄質 髄質 髄質 胎生期の副腎は胎子性皮質を有し これが副腎皮質の 2/3 を占める 出生後に急速に退縮し 胎児性皮質の外側部より恒久性皮質組織が発達し 3 層構造を形成する 増殖 副腎の組織構築の特徴 副腎皮質球状帯電解質コルチコイド ( アルドステロン ) 球状の細胞塊を形成細胞質に微細な脂質滴を含む 束状帯糖質コルチコイド ( コルチゾル ) 放射状に配列する細胞索形成細胞質に大量の脂肪を含み空胞状 分化退行 網状帯副腎アンドロゲン ( 雄性ホルモン ) 細胞索は分岐 融合して網状細胞質の脂肪滴は少なく好酸性退行性変化が多い ( リポフスチン沈着 ) 副腎髄質アドレナリン ノルアドレナリン不整形の細胞 細胞質に好塩基性顆粒重クロム酸カリウムを含む固定液で褐色 クロム親和性細胞 ( 褐色細胞 ) 8
副腎皮質過形成および腫瘍の分類 分類 皮質過形成 結節性 ( 巣状 ) 過形成 被膜下細胞過形成 ( マウス ) 皮質腺腫 皮質腺癌 機能性皮質腺腫 / 腺癌 原発性アルドステロン症 特徴等 皮質細胞の非腫瘍性増殖 周囲組織への明瞭な圧迫所見を欠く 被膜外に突出する場合もある 高齢マウスや性腺除去マウスに発生する 被膜下より紡錘形細胞を主体とする細胞の増殖が見られる 周囲組織への明瞭な圧迫所見を認め しばしば被膜形成を伴う 中度の細胞異型と多形性を示すが 脈管 結合組織への浸潤所見を欠く 被膜 結合組織 脈管への明瞭な浸潤所見を有し 出血 壊死巣が多発する 高度の細胞異型と多形性 および核分裂所見を有する ホルモン産生活性を有する腫瘍群 球状帯に由来 筋力低下 テタニー 高 Na 低 K クッシング症候群束状帯 ~ 網状帯に由来 多飲多尿 脱毛 肥満 副腎性性器症候群 網状帯に由来 アンドロジェン / エストロジェン過剰 副腎皮質腫瘍 ( 腺腫 + 過形成 ) の肉眼所見 副腎皮質腫瘍 ( 腺癌 ) の肉眼所見 9
副腎髄質腫瘍 ( 褐色細胞腫 ) の肉眼所見 副腎腫瘍の肉眼所見 ( 割面 ) 副腎皮質萎縮アジソン病 アジソン病犬の血清を正常犬の副腎 ( 左 ) 甲状腺 ( 中 ) 下垂体 ( 右 ) と反応させた 10
甲状腺免疫染色 サイログロブリン カルシトニン 11
甲状腺炎 12
甲状腺癌 サイログロブリン免疫染色 甲状腺濾胞癌 サイログロブリン免疫染色 13
甲状腺髄様癌 (C 細胞癌 ) アミロイドの沈着 上皮小体過形成 上皮小体過形成による 大動脈壁石灰沈着 気管支軟骨石灰沈着 14
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参考症例ネコ 雑種 去勢雄 7 歳 3 か月臨床歴 2007 年頃より 慢性下痢や肥満細胞腫が断続的に 2 年間続く 2009/7/3 検診時 昼寝時に 1~2 分程度の痙攣 MRI 所見 : 視床下部領域に約 1cm 程度の腫瘤病変あり 食欲 飲水量増加 ACTH 刺激試験実施 ( コルチゾール値 3.5μg/dl 10.5μg/dl) 9/4: 放射線治療開始 徐々に下垂体相当部の腫瘤が縮小 2010/1/5: 成長ホルモン上昇 (3.8ng/ml 5.8ng/ml) 末端肥大を疑う外貌変化あり 以降も下垂体腫瘍は緩慢に縮小 異常なほどの食欲があるものの 徐々に体重が減少 2011/8/26: 食欲不振を主訴に来院 血中 K 値低下 (2.8mEq/l) カリウム補正をするも衰弱し 9/12 死亡 ( 体重 5.22kg 2.78kg) 17
下垂体の組織所見 HE 所見 酸好性細胞 (α 細胞 ) の増殖巣 下垂体のサイズ φ8 5mm 色素嫌性細胞の増殖巣 下垂体の組織所見 ( 免疫組織化学 ) GH ACTH 上皮小体 ( 主細胞 ) 過形成 甲状腺の組織所見 (HE/ 免疫組織化学 ) 甲状腺濾胞上皮腺腫 Thyroglobulin 18
左副腎の組織所見 (HE/ 免疫組織化学 ) 副腎皮質腺腫 Chromogranin A 膵臓の組織所見 (HE 染色 ) 外分泌腺結節性過形成 膵島アミロイド症 脾臓の組織所見 19
肝臓の組織所見 最終的な病理組織診断 GH 産生腺腫 ( 下垂体 ) 副腎皮質腺腫 甲状腺ろ胞上皮腺腫 上皮小体過形成 膵臓外分泌腺過形成 膵島アミロイド症 萎縮性皮膚症 退形成性形質細胞腫 ( 脾臓 肝 腎 ほぼ全身に転移 ) 肺水腫 ヒトの多発性内分泌腺腫瘍 Multiple Endocrine Neoplasia (MEN) 常染色体優性遺伝する疾患で 2 つ / それ以上の内分泌腺において良性 / 悪性の増殖が見られる Type1: MEN1 遺伝子 ( 腫瘍抑制遺伝子 ) の不活化による 主に上皮小体 膵臓 下垂体 やや少ないが甲状腺や副腎などのうち 2 つ / それ以上の腺に腫瘍ができる Type2: RET 遺伝子 ( 癌原遺伝子 ) の変異による 2A; 甲状腺 C 細胞癌 ( 髄様癌 ) 副腎髄質 上皮小体のうち 2 つ以上に腫瘍や過形成がみられる 2B;2A と異なり 上皮小体に異常なし 一方 消化管などに神経節細胞腫が多発する FMTC; 家族性に甲状腺 C 細胞癌が多発するが 他組織に変化なし 20
動物における MEN like 症候群 犬 猫 下垂体 甲状腺 上皮小体 副腎 膵臓 - - - - - - - (Kiupel M et al., 2000) (Peterson ME et al., 1982) (Roccabianca P et al., 2006) (Reimer SB et al., 2005) ( 紹介症例 ) 〇 〇 〇 - - - 馬 - - - (Germann SE et al., 2006) (De Cock HEV, Mae Lachlan J, 1999) 牛 - - - フェレット - - (Sponenberg DP, McEntee K, 1983) (Fox JG et al., 2000) 下垂体 ;ACTH 産生腺腫 ( 猫 ) 中間部腺腫 ( 馬 ) 甲状腺 ;C 細胞過形成 C 細胞癌 C 細胞腺腫 上皮小体 ; 主細胞過形成 主細胞腺腫 ( 臨床的 ) 副腎 ; 皮質過形成 皮質腺癌 褐色細胞腫 髄質過形成 膵臓 ;β 細胞癌 インスリノーマ 外分泌腺癌 まとめ トルコ鞍部には下垂体腫瘍以外に 発生異常に関連する腫瘤病変が存在し 多くは良性の臨床動向を示す 下垂体腫瘍はまず大きさで分類し かつその産生ホルモンに応じて細分類する いわゆる悪性腫瘍は少ないと考えられる 副腎腫瘍も産生ホルモンに応じて分類するが 病理学的には特異抗体がほぼないので 臨床兆候の把握や 血中ホルモン値の測定が不可欠となる 病理学的な良性 悪性の判断は医学領域でも困難とされる 多発性内分泌腫瘍の原因遺伝子究明が獣医学領域でも求められる 21