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Transcription:

第 66 回日本口腔衛生学会 総会 2017 年 5 月 31 日 ~6 月 2 日 ( 水 ~ 金 ), 山形テルサ 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より ~ 中久木康一 1,2 北原稔 3 渕田慎也 2 門井謙典 2,4 田上大輔 5 小玉剛 6 佐藤保 6 1. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面外科学分野 2. 神奈川歯科大学大学院歯学研究科横須賀 湘南地域災害医療歯科学研究セ ンター 3. 神奈川県小田原保健福祉事務所足柄上センター 4. 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 5. ( 一社 ) 熊本県歯科医師会 6. ( 公社 ) 日本歯科医師会

目的 2016 年 4 月に発災した熊本地震においては 歯科医師会などによる歯科保健医療支援が 4 月 15 日から 7 月 31 日まで行われた 県外からの支援者の派遣は 4 月 22 日から 6 月 6 日まで ( 歯科チームとしては 5 月 22 日まで ) 行われた これらの対応記録を総括し 災害時の歯科支援活動における記録のあり方を検討した 方法 期間内に 歯科医師のべ 1295 名 歯科衛生士のべ 799 名 その他 179 名が支援活動に参加した そのうち 災害救助法に基づいた派遣は 歯科医師述べ 822 名 歯科衛生士述べ 613 名 その他 42 名であった これらの支援者には 日本歯科医師会他で統一版として定めた 避難所等歯科口腔保健標準アセスメント票 ( レベル 2) を用いての集団に対する評価と 所定の日報用紙への記載を求めた これらを集計し 記録のあり方に関して考察した

120 100 80 平成 28 年熊本地震歯科支援活動 (7 月 15 日現在 ) 活動人数 全合計 熊本県合計 支援チーム合計 中久木康一, 他, 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より ~ ( 参考引用 ) 60 40 20 0 歯科外部支援チーム 平成 28 年熊本地震歯科支援活動 (7 月 15 日現在 ) 活動人数 その他, 89 JMAT, 84 全国知事会, 30 歯科衛生士, 733 歯科医師, 1264 外部支援, 587 熊本県内, 1385 熊本県歯科医師会常務理事牛島隆先生 平成 28 年熊本地震日本医師会災害医療チーム JMAT の対応 ( 日本医師会,2016 年 6 月 17 日 )

熊本地震歯科支援外部派遣チーム一覧 南阿蘇村 益城町 西原村 その他の地域 4 月 23 日 ~5 月 1 日 5 月 1 日 ~8 日 5 月 8 日 ~15 日 5 月 15 日 ~22 日 福岡県歯大分県歯宮崎県歯福岡県歯福岡県の3 大学 佐賀県歯長崎県歯鹿児島県歯沖縄県歯兵庫 JMATの歯科 ( 兵庫県病院歯科医会 ) 鹿児島 JMAT 山口 JMAT 中久木康一, 他, 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より~ 鹿児島県大学 ( 全国知事会 ) 山口県歯科医師会 福島 JMAT

集団アセスメント票 ( 集団 統一版 ) 歯科医療救護報告書 ( 日報 )

結果 集団アセスメントからの評価 週単位のカテゴライズ 全データ 有効データの数 同一週 同一避難所 またはデータ不備にて除外したデータの数 第一週 4 月 20 日 ~ 4 月 23 日 63 52 11 第二週 4 月 25 日 ~ 5 月 1 日 89 39 50 第三週 5 月 2 日 ~ 5 月 8 日 42 19 23 第四週 5 月 9 日 ~ 5 月 15 日 75 20 55 第五週 5 月 16 日 ~ 5 月 22 日 53 19 34 第六週以降 6 月 14 日 ~ 8 月 9 日 5 0 5 合計 327 149 178 本部アセスメント票回収 : 327 件アセスメント票有効 ( 継続評価解析用 ) データ件数 : 149 件 南阿蘇アセスメント票回収 : 25 件 (4 月 24 日 ~30 日 ) 環境用具 行動 症状歯科医療 水や歯みがき場所 歯ブラシなどは 7~8 割で充足しており 不足は 1 割程度 義歯洗浄剤や義歯ケースの充足は 3~4 割のみで 不足も 3~4 割 歯みがき行動は 6 割でされているが 義歯洗浄は 4 割でしかされていない 問題点は 痛み 2 割 食事の問題 15% その他 15% 程度 歯科へのアクセスは 7 割で可能 巡回歯科チーム来訪は 1 割弱

考察 集団アセスメントからの継続評価 継続的な支援と評価が行われた 2 市町においての週ごとの継時的なニーズ評価を試みた X 村では第 3 週から需要が急激に増えている Y 町では 経時的な変化が ない この理由としては X 村では 第 3 週から外部支援チームが介入しており 地域の歯科医療者と外部支援チームなどでは評価の基準が異なる という可能性が考えられた 乳幼児や障害者などの多くは 第 3 週目以降避難所から移動していることが多いが 晩期のアセスメントはその後も避難所に残らざるを得ない人だけを拾っており 母集団が変わっている可能性が考えられた 自治体ごとに被災も違えばインフラ復旧も違い 支援の入り方も違うことより 継続評価は困難

結果 歯科対応内容集計 日報は一部地域を除き 4 月 21 日から 5 月 21 日まで記録があり のべ 1579 の対応が記載されていた さらに日計表の使用のなかった南阿蘇地区の記録を日計表にあわせて分類して 821 を追記し のべ 2400 の対応となった ( データ修正後 ) 最も多かったのは 口腔内衛生状態チェック 口腔ケアの 1623(67.6%) であり 次いでその他 308(12.8%) 義歯修理 調 整 160(6.7%) 紹介 73 消炎鎮痛 49 保存治療 17 歯周治療 16 と続いた 口腔ケアが全期にわたって平均的にあるのに対し 義歯修 理 調整は 前期 93(58%) 中期 49(31%) 後期 18(11%) と 特に 初期に多かった 中久木康一, 他, 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より ~

160 140 中久木康一, 他, 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より ~ 結果 歯科対応内容 ( データ修正後 ) 120 100 80 60 40 義歯修理 調整 その他 口腔内衛生状態チェック 口腔ケア 摂食嚥下リハ 20 0 口腔外科 再装着 義歯新製 義歯修理 調整 歯内療法 保存修復 歯周治療 消炎鎮痛 口腔内衛生状態チェック 口腔ケア 反復唾液テスト 摂食嚥下リハビリテーション 紹介 その他 4/21-30 5/1-5/10 5/11-5/21 義歯修理 調整 93 58% 49 31% 18 11% 口腔内衛生状態チェック 口腔ケア 574 35% 588 36% 461 28%

考察 これからの記録様式のありかた 特定の項目の数が多すぎると全体が評価しにくくなってしまうので いくつかの細項目と分断する 口腔内衛生状態チェック 口腔ケア の項目を細分化 医療支援を含む時期から保健活動のみとなった後まで 多組織で同じ項目での記録をとり続けることにより 経時的な評価が可能となる 書きにくい どの項目かわからない となると その他 が増える傾向があると考えられる 書き手による判断の違いにより その他 を多くしないよう 各項目ごとに具体的な内容を明記 延べ数しかないと需要が見えない % 評価ができるように 実施数のみではなく実人数を追加 項目 日計表の全国統一 中久木康一, 他, 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より ~ 治療内容の記載は申し送り票のみで 本部にての記録は不要 ( 発出元での保険算定はせず 地元の協働した歯科医院における算定 )

歯科医療救護報告書 ( 日報 ) 中久木康一, 他, 災害時の歯科診療記録の提案 ~ 熊本地震における対応記録より~ 実人数がないと % が出せない年齢わけは必要? 小児と成人程度? 性別は必要? 記録が煩雑になる? ( 報告者名 所属 ) ( 電話番号 ) 最初から正の字書けるようなスペースつくっておく? 処置 対応実人数 活動時間 : 何時何分 ~ 何時何分チーム全員 評価 相談 診察 個別指導 集団指導 その他 ( ) 建物など名 ( 市町村など名 ) 診察なしの相談 診察および説明 相談 口頭での口腔ケア指導のみ お口の中を触っての口腔ケア指導 術者の行うハミガキ 口腔ケア 口腔ケア用品提供 集団での口腔ケア啓発 対応のべ人数 歯や口にまつわることだけで OK 歯科 : 医科 : その他 : ( その他の ) 摂食嚥下機能スクリーニングテスト (RSST MWST FT) 摂食嚥下機能の評価 ( 頸部聴診など ) 摂食嚥下に関わる指導 ( 体位 間接訓練 ) 食形態や摂食方法などの指導 ( 直接訓練 ) 避難所全体の人数その日にいた人数の概算 うがいなどのスペースや水の状況 などは集団アセス ( レベル 2) に書くから不要?

結論 これらの記録から経時的な地域ごとの評価を行うためには 同一地域において同一基準で評価される必要がある しかし 災害支援においては移り変わり続けるニーズに対応していくため活動地域や対象が変わり 地域評価は困難であった 一方で 活動全体の対応内容については 口腔内衛生状態チェック 口腔ケア の項目を細分化し 医療支援を含む時期も保健活動のみのフェーズにおいても多団体において同じ項目での記録をとり続けることにより 経時的な評価が可能となると考えられた 熊本地震における医療支援では 東日本大震災後に 災害時の診療録のあり方に関する合同委員会 により作成された標準 災害診療記録 および集計報告システム J-SPEED が活用された 歯科においても迅速な集計報告を目的としたシステムが必要と考え提案する

謝辞 謝辞 : 活動および総括にあたり ( 一社 ) 熊本県歯科医師会 ( 公社 ) 熊本県歯科衛生士会 および 熊本県内の歯科保健医療関係者各位の御協力をいただきましたことを深謝いたします 演題発表に関連し, 開示すべき COI 関係にある企業 団体等はありません