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第 59 回日本心臓病学会学術集会シンポジウム 睡眠時無呼吸症候群と心血管リスク 睡眠呼吸障害と循環器疾患 :Overview 百村伸一 Shin-ichi MOMOMURA, MD, FJCC 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科 要約 OSA CSA CSA OSA OSA OSA CPAP OSA CPAPCSA CSA <Keywords> 閉塞性睡眠時無呼吸中枢性睡眠時無呼吸 CPAP ASV 在宅酸素療法 J Cardiol Jpn Ed 2012; 7: 27 31 はじめに 昨今, 睡眠時無呼吸症候群 (SAS) がメディアにも取り上 げられ広く知られるようになってきた.SAS は睡眠中に繰り返す呼吸の停止により昼間の過度の眠気を代表とする様々な症状が出現する病態を意味する.SAS によって居眠り運転や仕事能率の低下等が起きることは社会的な問題となり. また個人レベルでは QOLが損なわれる. さらに, 循環器領域においてはこのような自覚症状の有無, つまり 症候群 の有無にかかわらず睡眠時無呼吸が存在すること自体が循環器疾患の発症進展に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた ( 図 1). 睡眠時無呼吸には閉塞性睡眠時無呼吸 (obstructive sleep apnea:osa) と中枢性睡眠時無呼吸 (central sleep apnea: CSA) の2 つのタイプの無呼吸がある.OSA は睡眠時の気道の閉塞によるもので, 一般人口における頻度が高く肥満者に 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科 330-8503 1-847 E-mail: momoshin@omiya.jichi.ac.jp 多い. 無呼吸中には呼吸の努力がみられる. 一方中枢性睡眠時無呼吸は中枢からの呼吸のドライブの消失により起きるもので無呼吸中に呼吸努力がみられない. 心不全に合併する中枢性睡眠時無呼吸は, 覚醒時にもみられるCheyne- Stokes 呼吸 (CSR) と同様の機序で起きるため CSR-CSA (central sleep apnea with Cheyne-Stokes respiration) と呼ばれることが多い. ただし実際にはほとんどの場合, 閉塞タイプの無呼吸と中枢タイプの無呼吸イベントは一人一人の心不全患者に様々な割合で合併し, また睡眠時無呼吸のパターンが変化することも知られている. これらの睡眠中にみられる呼吸の障害をまとめて睡眠呼吸障害 (SDB) と称する ( 図 2). 睡眠時無呼吸と心血管疾患心血管疾患には高率に睡眠時無呼吸を合併する. 例えば, 高血圧患者では全体の30% 1), 特に治療抵抗性高血圧の 83% に合併するという報告がある 2). また, 虚血性心疾患でも30% 以上, 急性冠症候群では 50% 以上との報告がある 3,4). 不整脈にもしばしば合併し, 心房細動患者の約 50% が閉塞性睡眠時無呼吸を合併しているとの報告もあり 5), 夜間に発 Vol. 7 No. 1 2012 J Cardiol Jpn Ed 27

図 1 睡眠呼吸障害の 3 つの側面. 図 2 睡眠呼吸障害の概念. SDB sleep disordered breathing SAS sleep apnea syndrome OSA obstructive sleep apnea CSA central sleep apnea CSR Cheyne-Stokes respiration 生する徐脈性不整脈には睡眠時無呼吸が引き金となっている場合が多い. 大動脈解離でも 40% 弱との報告があり 6), 肺動脈性肺高血圧にもしばしば合併する 7). 心血管疾患のなかでも最も睡眠時無呼吸合併頻度の高い疾患は心不全で, その合併頻度についての今までの報告では最低でも 50% 弱, 高いものでは 76% に達する 8,9). 心血管疾患に合併する睡眠時無呼吸のほとんどは OSAであるが, 心不全では OSAとCSA の両者を合併する 8). 一方,SDB の側からみても心血管疾患を合併しやすいことがわかっている. 例えば米国の一般住民 を対象とした Sleep Heart Health Study では睡眠呼吸障害の重症度の指標である無呼吸低呼吸指数 (AHI) の四分位 (0 1.3 1.4 4.4 4.5 11.0,>11.0) で見ると睡眠呼吸障害が最も軽症のグループに対する最も重症グループの心血管疾患のオッズ比は 1.3であった. さらに睡眠時無呼吸は単に心血管疾患に高率に合併するのみならず, 心血管イベント発生を増加し 10,11), また予後も悪化させることもわかってきた 11-13).Marin らの前向き研究では AHI 30 以上の重症 OSAH( 閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸 ) 患 28 J Cardiol Jpn Ed Vol. 7 No. 1 2012

睡眠時無呼吸症候群と心血管リスク 図 3 閉塞性睡眠時無呼吸から心血管イベント発症に至る過程. 者では致死性心血管イベントおよび非致死性心血管イベントのオッズ比はそれぞれ 2.87,3.17 であった 11). OSAの心血管疾患進展発症における役割 ( 図 3) このように睡眠時無呼吸特に OSAは様々な心血管疾患に合併するのみならず, その進展発症にも重要な役割を果たしていると考えられる. OSAでは無呼吸時のハイポキシアおよび炭酸ガス濃度の上昇, 覚醒反応などが交感神経緊張の亢進を招く 14,15). この交感神経緊張は日中にも及び, 持続的な心血管負荷をもたらす 16).OSA では1 回の無呼吸は時に2 分以上に及ぶこともあり, 酸素飽和度は 60% にまで低下する. さらに呼吸の再開に伴う急激な酸素濃度の増量が皮肉なことに睡眠時無呼吸患者において酸化ストレスの増加をもたらす 17,18). 酸化ストレスの増加は前炎症性サイトカインの惹起などを介して炎症を引き起こし 19,20), 血管内皮機能を障害する 21,22).OSA では内皮機能障害に関連し, 血栓形成の亢進や接着分子の増加も報告されている 23). 無呼吸時の胸腔内陰圧もOSA における心血管負荷の原因となる.OSA では上気道が閉塞している一方で呼吸努力はあるため胸腔内が陰圧となり, ときに 50 mmhg を超える. 無呼吸開始時に胸腔内圧の低下に伴い, 一時的に全身血圧は低下するが速やかに血管トーヌスが上昇し, 血圧が維持される. しかし心臓 ( 左室 ) は陰圧の胸腔内にあるため収縮期に左室内腔にかかる圧つまり transmural pressureは収縮期血圧に胸腔内陰圧分を加えたものとなり, 左室後負荷は増大する. 一方, 心臓への静脈還流は増加し, 右心系は拡張し, 特に拡張期に心室中隔が左室側にシフトし左 室拡張機能は低下する. 胸腔内陰圧と左室拡張機能障害は肺うっ血を増強する. またハイポキシアに伴い肺動脈は収縮し肺高血圧がもたらされる. OSAにおいてはこれらの様々な機序が交絡し高血圧, 動脈硬化, 不整脈, などの様々な循環器疾患へ, そして循環器疾患の終末像である心不全さらには心血管死亡へと進展して行く ( 図 3). 従って OSAは心血管疾患の危険因子であることを認識する必要がある. OSAの治療 OSAは生活習慣と強く結びついた疾患であるので, まず, 肥満がある場合には減量をすすめる, 禁煙や就寝前の飲酒を控えるなどの生活習慣の改善が行われるべきである.OSA 自体の最も有効な治療法は CPAP( 持続気道陽圧 ) 治療である. 心血管イベントを評価した前向き試験がいくつか報告されており, 特に 2005 年のMarinらの報告は有名で重症 OSA 患者にCPAP 治療を行うことにより心血管イベントが大幅に抑制されている 11,24). 既に心血管疾患を有する無呼吸患者における前向き試験でも CPAP 治療の二次予防効果が報告されている 25,26). また OSAを合併する心不全患者において CPAP 治療が左心機能を改善することが無作為試験により明らかにされており 27), 心臓イベントの軽減効果も前向き試験によって示されている 28). しかし残念ながら, 心血管イベントをエンドポインとした CPAP 治療の大規模ランダム化試験が今もって行われていない状況である.CPAP の問題点はそのコンプライアンス, あるいは継続率の悪さにある. 自覚症状を有する SASであれば CPAP によって著明に症状が改善することが多 Vol. 7 No. 1 2012 J Cardiol Jpn Ed 29

いため継続できる場合も多いが, 自覚症状に乏しい場合は継 29) 続率が低下すると思われる. 高血圧患者を対象とした研究や, 上記の心不全患者を対象とした研究 28) では CPAP のコンプライアンスがそれぞれ, 降圧作用や心臓イベント抑制作用を左右することがわかっている. わが国においては簡易モニターで AHIが 40 以上の場合, 終夜睡眠ポリグラフィ (PSG) でAHI 20 以上の睡眠呼吸障害が証明された場合には CPAP の保険適応が認められている. このように, すべての患者に CPAP が適応できるわけではなく, その代替治療として口腔内装置 (oral appliance:oa) が用いられることもある.OA の利点は簡便性, 継続性の良さにあるが, 心血管イベントを抑制できるかどうかについてはほとんど報告がない. 循環器領域では自覚症状改善もさることながら, 将来の心血管イベント抑制のために重症 OSAをスクリーニングし治療介入するという認識が重要である. 文 献 1) Kales A, Bixler EO, Cadieux RJ, Schneck DW, Shaw LC 3rd, Locke TW, Vela-Bueno A, Soldatos CR. Sleep apnoea in a hypertensive population. Lancet 1984; 2: 1005-1008. 2) Logan AG, Perlikowski SM, Mente A, Tisler A, Tkacova R, Niroumand M, Leung RS, Bradley TD. High prevalence of unrecognized sleep apnoea in drug-resistant hypertension. J Hypertens 2001; 19: 2271-2277. 3) Schäfer H, Koehler U, Ewig S, Hasper E, Tasci S, Lüderitz B. Obstructive sleep apnea as a risk marker in coronary artery disease. Cardiology 1999; 92: 79-84. 4) Yumino D, Tsurumi Y, Takagi A, Suzuki K, Kasanuki H. Impact of obstructive sleep apnea on clinical and angiographic outcomes following percutaneous coronary intervention in patients with acute coronary syndrome. Am J Cardiol 2007; 99: 26-30. 5) Gami AS, Howard DE, Olson EJ, Somers VK. Day-night pattern of sudden death in obstructive sleep apnea. N Engl J Med 2005; 352: 1206-1214. 6) Sampol G, Romero O, Salas A, Tovar JL, Lloberes P, Sagalés T, Evangelista A. Obstructive sleep apnea and thoracic aortic dissection. Am J Respir Crit Care Med 2003; 168: 1528-1531. 7) Chaouat A, Weitzenblum E, Krieger J, Oswald M, Kessler R. Pulmonary hemodynamics in the obstructive sleep apnea syndrome. Results in 220 consecutive patients. Chest 1996; 109: 380-386. 8) Yumino D, Wang H, Floras JS, Newton GE, Mak S, Ruttanaumpawan P, Parker JD, Bradley TD. Prevalence and physiological predictors of sleep apnea in patients with heart failure and systolic dysfunction. J Card Fail 2009; 15: 279-285. 9) Oldenburg O, Lamp B, Faber L, Teschler H, Horstkotte D, Töpfer V. Sleep-disordered breathing in patients with symptomatic heart failure: a contemporary study of prevalence in and characteristics of 700 patients. Eur J Heart Fail 2007; 9: 251-257. 10)Mooe T, Rabben T, Wiklund U, Franklin KA, Eriksson P. Sleep-disordered breathing in men with coronary artery disease. Chest 1996; 109: 659-663. 11)Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, Agusti AG. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet 2005; 365: 1046-1053. 12)Wang H, Parker JD, Newton GE, Floras JS, Mak S, Chiu KL, Ruttanaumpawan P, Tomlinson G, Bradley TD. Influence of obstructive sleep apnea on mortality in patients with heart failure. J Am Coll Cardiol 2007; 49: 1625-1631. 13)Javaheri S, Shukla R, Zeigler H, Wexler L. Central sleep apnea, right ventricular dysfunction, and low diastolic blood pressure are predictors of mortality in systolic heart failure. J Am Coll Cardiol 2007; 49: 2028-2034. 14)Somers VK, Dyken ME, Clary MP, Abboud FM. Sympathetic neural mechanisms in obstructive sleep apnea. J Clin Invest 1995; 96: 1897-1904. 15)Naughton MT, Benard DC, Liu PP, Rutherford R, Rankin F, Bradley TD. Effects of nasal CPAP on sympathetic activity in patients with heart failure and central sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med 1995; 152: 473-479. 16)Narkiewicz K, Somers VK. The sympathetic nervous system and obstructive sleep apnea: implications for hypertension. J Hypertens 1997; 15: 1613-1619. 17)Yamauchi M, Nakano H, Maekawa J, Okamoto Y, Ohnishi Y, Suzuki T, Kimura H. Oxidative stress in obstructive sleep apnea. Chest 2005; 127: 1674-1679. 18)Jelic S, Padeletti M, Kawut SM, Higgins C, Canfield SM, Onat D, Colombo PC, Basner RC, Factor P, LeJemtel TH. Inflammation, oxidative stress, and repair capacity of the vascular endothelium in obstructive sleep apnea. Circulation 2008; 117: 2270-2278. 19)Yokoe T, Minoguchi K, Matsuo H, Oda N, Minoguchi H, Yoshino G, Hirano T, Adachi M. Elevated levels of C-reactive protein and interleukin-6 in patients with obstructive sleep apnea syndrome are decreased by nasal continuous positive airway pressure. Circulation 2003; 107: 1129-1134. 20)Ryan S, Taylor CT, McNicholas WT. Selective activation of inflammatory pathways by intermittent hypoxia in obstructive sleep apnea syndrome. Circulation 2005; 112: 2660-2667. 21)Kraiczi H, Caidahl K, Samuelsson A, Peker Y, Hedner J. Impairment of vascular endothelial function and left ven- 30 J Cardiol Jpn Ed Vol. 7 No. 1 2012

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