健康セミナー 秋から冬にかけてのかゆみ NTT 東日本札幌病院皮膚科阿久津裕
秋から冬にかけて悪化することがある 皮膚の疾患 1 皮脂欠乏症 2 皮脂欠乏性皮膚炎 3 アトピー性皮膚炎 4 寒冷蕁麻疹
皮脂欠乏症 ( 乾皮症 ) 皮脂欠乏症は皮膚の表面の油が減少することにより皮膚の水分が減少して乾燥を生じる状態 下腿 大腿外側 腰臀部に症状が出やすい 秋から冬にかけて60 歳以上の 95% に下腿の乾皮症を認め その半数がかゆみを訴える
乾皮症を引き起こす要因 1 加齢女性のほうが男性より やや早めの年齢で皮膚の乾燥が始まる 2 季節空気が乾燥しやすい秋から冬に多い 3 基礎疾患アトピー性皮膚炎 糖尿病 血液透析 抗がん剤治療 4 生活習慣
皮脂欠乏性皮膚炎 乾皮症で皮膚バリア機能が低下し外的刺激が受けやすくなり湿疹化した状態 秋から冬にかけて関しやすい時期や環境の下で高齢者の下腿伸側に好発する
貨幣状湿疹 主に下腿伸側に Φ1 から 5 cmのコイン状の湿疹が散在 秋から冬にかけてみられ皮膚の乾燥が原因の一つである 掻痒が強く浸出液を伴うことが多い
自家感作性皮膚炎 貨幣状湿疹の急激な悪化によって 掻痒が強い発疹が全身に多発する 原因は下腿の貨幣状湿疹によるアレルギーが血行性に全身に拡大
貨幣状湿疹と鑑別が必要な皮膚病 尋常性乾癬も貨幣状湿疹と類似した皮疹を認める 鱗屑が銀色に光った感じである 皮膚の乾燥で発症したり悪化することはない
アトピー性皮膚炎 アトピー素因に基づく慢性の湿疹 皮膚炎 種々の要因で症状が増悪するが 秋から冬の湿度低下による乾燥が皮膚のバリア機能を低下させ皮膚炎やかゆみを増悪させる
秋から冬は皮膚が乾燥しアトピー性皮膚炎が増悪し全身性紅皮症に移行することもため 毎日の保湿が大切である
寒冷蕁麻疹 温かいところから寒いところに移動する際に出現する蕁麻疹 ( 逆の場合もある ) 急激な温度差が原因 若年者は原因不明で半年から数年で感知する 中高年の場合は患者の5% に血液系の病気が合併する ( 悪性リンパ腫 クリオグロブリン血症のほかに肝炎など )
寒冷蕁麻疹の治療法 抗アレルギー剤の内服 10 以下の温度に注意する 寒風 冷水を避けるようにする 減感作療法 17 の水に手また足を2~3 分 1 日 1~2 回浸す 水温を徐々に下げて4 週間後には7 の水に浸すようにする
乾燥に対する皮膚表面の機能 皮膚のバリア機能 体内から体外への水分喪失を防ぎ 外界から 刺激物質や細菌などの侵入を防ぐ 角層の保湿機能 各層内の水分含有量を維持する機能
角層は外界の影響から身体を守る最前線である 角層の機能は対外保護作用とバリア機能である 乾燥した皮膚では角層の障害にて細菌 化学物質ホコリ ダニなどの刺激にて皮膚炎とかゆみを引きおこす
アトピー性皮膚炎の病変部では角層水分量が少なくバリア機能も悪い 老人性乾皮症では角層水分量は少ないが基本的にバリア機能は悪くない
皮膚の水分保持機能 正常の角質層は乾燥した環境でも水分を保持し皮膚の滑らかさや柔軟を維持する 皮脂 角質細胞間脂質 天然保湿因子にて皮膚の水分が保持される
高齢者の皮膚の乾燥 加齢とともに皮膚が委縮し天然保湿因子も減少する 皮脂膜も減少し皮膚の乾燥が強くなる
小児の皮膚の乾燥 生後 2 か月までは母親由来のホルモンの影響で皮脂の分泌が亢進する そのためニキビや脂漏性皮膚炎になることがある 生後 4~5 か月を過ぎると急激に皮脂の分泌が低下する 角質細胞間脂質であるセラミドも少ない状態のため乳幼児期の皮膚は非常に乾燥しやすい 皮膚の薄さも成人の 1/2~1/3 のため冬の乾燥季節にはスキンケアが必要
皮膚の乾燥とかゆみ
かゆみは知覚神経終末で感知され C 線維を通って脊髄から脳に伝わって認識される 乾燥した皮膚では表皮内まで神経線維が伸びてかゆみを引き起こす 皮膚の保湿や紫外線照射を行うと神経線維の伸長を抑える 健常皮膚 乾燥した皮膚
皮膚の乾燥によるかゆみに対する治療 保湿剤の塗布 抗ヒスタミン薬の内服 止痒効果のある外用剤の塗布レスタミン軟膏 オイラックスクリーム 光線療法 ( 紫外線治療 )
保湿外用剤 ワセリン 角層の表面に付着して水分が喪失しないように密閉する 尿素製剤 吸湿性や浸透圧により水分を保持する ヘパリン類似物質製剤 保湿因子補充により角層の水分保持能を高める
保湿剤の基本的な塗り方 1 手を清潔にして 保湿剤を人差し指にとる 2 保湿剤を点在させる 3 手のひらを使ってやさしく丁寧に できるだけ広い範囲に塗る 体のしわに沿って塗ると 皮膚に広がりやすくなる
処置前値比(%塗布量と保湿効果の関係 120 * 塗布量 :3mg/cm 2 100 80 * * )前値脱脂後 1hr 2hr 3hr 4hr 60 塗布量 :1mg/cm 2 * P<0.05, vs 1mg 40 n=8, Mean±SE
保湿剤の使用量 0.5g 手のひらの面積 2 枚分に塗れる目安軟膏やクリーム : 人差し指の先から第 1 関節まで伸ばした量 = 1FTU ローション :1 円玉大の量 =1FTU
塗った後 かろうじて光る程度 肌がしっとりする状態が適量 保湿剤を塗った皮膚にティッシュペーパーを貼りつけても落ちないくらいの状態が適量
保湿剤の外用回数とタイミング 保湿外用剤の効果持続時間は 4 時間程度なので 1 日 3 回以上の外用が勧められる 保湿外用薬を 1 日 2 回 5 日間連用すると 保湿効果が健常皮膚で 1 週間 AD のト ライスキンでも 3 日間持続する 効果持続時間が短いため 朝の外用が推奨される ( 洗顔後 ) が 朝の外用は実行されないことが多い 日本アレルギー学会 : アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2006
入浴後の塗布時期と保湿効果の関係 入浴により角層に侵入した水分は健常皮膚でも急速に蒸散し 15 分後には入浴前のレベルまで低下する 以前は保湿剤は入浴後 15 以内の外用が勧められていたが 入浴直後と 1 時間後で差がない
保湿剤の剤形による使い分け 使用感ではローション クリーム 軟膏の順に べたつき や てかり感 が強くなる 軟膏は皮膚への固着性が高く 衣服で除去されにくい 軟膏の方が汗で流れ落ちにくい 剤形による保湿効果の差は認められていない 日中は塗布が容易でべたつきにくいクリーム ローション スプレーを選択し 夜は軟膏を選ぶ方法もある
毎日の外用治療と保湿にて短期間に改善する アトピー性皮膚炎の人は 1 日 2 回の外用が必要である
かゆみを和らげる方法 かゆいところを掻く 熱いタオルで体を拭く 体を冷やす 気分転換 ( 散歩やストレッチなど ) 注意 健常人の皮膚では熱でかゆみは抑えられるがアトピー性皮膚炎では熱刺激でかゆみが増強する 冷刺激では両者ともにかゆみが改善する
皮膚を冷やすとかゆみがとれるのは なぜですか? かゆみを感じている部分の皮膚を冷却すると かゆみを伝達しようとする神経に対して抑制的に働くためかゆみの刺激が脊髄を通って脳まで届きずらくなり かゆみが軽減する
皮膚を傷つけない掻き方 爪を短く切り 爪を立てず爪の背側で 軽くたたく 角を丸く整える 内から外に動かす 服の上から掻く さする
皮膚を掻くと一時的にかゆみが和らぐが強い掻破は控える
かゆみと掻破の悪循環 皮膚が乾燥してかゆみが出現し 強く引っ掻いてしまうと皮膚のバリア機能が低下や皮膚炎の悪化を招き さらにかゆみが増強する
皮膚を傷つけるような掻破による 結節性痒疹
秋から冬にかけての皮膚のケア
暖房で高温に設定すると外気温との差が大きくなり部屋の中が乾燥し皮膚が乾燥しやすくなる 入浴で熱すぎる湯や長湯は皮膚の乾燥を引き起こす ナイロンタオルやボディブラシなどで洗うと皮膚を保護する角質や皮脂が取れすぎるので使用を控える 入浴後は失われた皮脂を補うために毎日 保湿剤を塗る
入浴によるスキンケア 皮膚の汗 垢 皮脂 細菌によりかゆみがひき起こされる 皮膚を清潔にすることが大切 入浴により外用療法の効果が高まる
入浴で石鹸を使ってもいいのか? 低刺激性石鹸を使用した方がいいの か? 古い角質や皮膚にたまった汗 垢 細菌はかゆみや皮膚炎を引きおこすので石鹸を使って皮膚をきれいな状態に保つことが大切 特別な香料や消毒剤 殺菌剤が入っていない普通の石鹸で問題ない 低刺激石鹸は皮膚の脂分をとる作用が普通の石鹸より弱いので入浴後の皮膚の乾燥がひどい場合には低刺激石鹸の使用してもいい
老人性乾皮症では保湿剤を塗布する ことに加えて古い角質を洗浄するこ とが大切である 乾皮症は60 歳以上の高齢者の95% に認められる 保湿因子が減少が皮膚の大きな原因であるが角質の肥厚も原因になっている 古い角質を除去するには入浴やシャワーが必要である
皮膚の角質層の天然保湿因子は水溶性のため水で洗うだけで流失する 水洗いだけで角層水分量は低下して皮膚が硬くなる Sakai S: MB Derma No.196,2012
入浴での注意点 湯温は 39 から 41 度のぬるめに設定する 長湯を避け 入浴時間は 30 分以内にする ナイロンタオルなど硬いものは避け 手か柔らかい布で洗う 入浴剤を使用する場合はイオウ系は避け 保湿効果のあるものを使用する 入浴後は保湿剤を使用する
小児は成人より皮膚が乾燥して秋から冬にかけて乾燥肌になりやすい ぬるめのお湯でさっと洗う 必要以上に石鹸で洗いすぎない 木綿のタオルや手でなでるように洗う 体を拭くときタオルでごしごし拭かない お風呂上りに早めに保湿する