婦人科がん がんは昭和 56 年に日本人の死亡原因の第 1 位となって以来 徐々に増加しています 婦人科が んである子宮がん ( 子宮頸がん+ 子宮体がん ) と卵巣がんの死亡数は平成 18 年の人口動態統計に よるとそれぞれ第 8 位と第 10 位ですが ( 表 1) 各部位別の死亡率を年齢別にみると婦人科がんは 20~54 歳で上位に位置しています ( 表 2) 表 1 女性の主要部位別がん死亡数 ( 平成 18 年 )( 人口動態統計 2007.9.7) 順位 部位 死亡数 % 1 胃 17 670 13.0 2 肺 17 314 12.7 3 結腸 13 637 10.0 4 乳房 11 177 8.2 5 肝 11 086 8.2 6 膵 10 827 7.9 7 胆道 8 913 6.5 8 子宮 5 513 4.0 9 直腸 5 027 3.7 10 卵巣 4 435 3.3 11 リンパ腫 3 667 2.7 12 白血病 3 047 2.2 13 その他 23 930 17.6 136 243 100.0 表 2 女性のがんの主要部位別 年齢階級別の死亡率の順位 ( 人口 10 万人対 ) 順位 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50-54( 歳 ) 1 白血病 胃 乳房 乳房 乳房 乳房 乳房 1.0 0.8 2.4 5.7 11.6 20.3 30.7 2 胃 白血病 子宮 胃 胃 胃 胃 0.4 0.7 1.6 3.3 6.8 10.7 15.1 3 卵巣 乳房 胃 子宮 子宮 子宮 結腸 0.2 0.5 1.6 3.1 4.3 6.4 10.2 4 子宮 子宮 白血病 卵巣 卵巣 卵巣 卵巣 0.1 0.4 1.0 1.5 2.9 6.2 9.8 5 乳房 卵巣 卵巣 結腸 結腸 肺 子宮 0.1 0.4 0.8 1.5 2.5 5.4 9.7 人口動態統計 ( 平成 15 年 )
子宮頸がん 1. 子宮頸がんについて 子宮頸がんは子宮頸部に発生するがんです ( 図 1) 約 80% は扁平上皮がんであり 残りは腺がんですが 腺がんは扁平上皮がんよりも予後が悪いといわれています 図 1 子宮頸がんの発生部位 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は子宮頸がんのリスク因子です ほとんどの HPV 感染は一過性で消失しますが 約 10% に感染が持続し 持続感染したもののうち約 10% が前癌状態になるといわれています 特に HPV 16 型や 18 型はハイリスクタイプといわれています ハイリスク HPV 感染の有無については自費で検査可能です 扁平上皮がんは異形成 上皮内癌を経由して浸潤がんに進行していきます ( 図 2) 正常上皮 95% 軽度異形成 50% 5% 高度異形成 30% 5% 20% 上皮内癌 25% 70% 微小浸潤癌 100% 浸潤癌 2. 子宮頸がんの症状図 2 子宮頸がんの自然史 症状なし( 初期のがんでは症状がありません ) 不正出血( 月経時以外 性交時またはその後 閉経後 ) 異常なおりもの( 帯下 ) その他の症状大腿または骨盤の痛み直腸や膀胱からの出血 3. 子宮頸がんの検査 診断 1) 細胞診子宮の入口 ( 外子宮口 ) の表面をブラシやヘラのようなもので擦り 細胞を採取します 2) コルポ診コルポスコープで子宮腟部を拡大して観察する検査法で 薄い酢酸液で処理します 組織診の際に採取部位を見極めるためにも使用します 3) 組織診細胞診で異常があった場合に行います 疑わしい部位から採取し 悪性度やがんの
進行度を評価します 4) MRI CT 検査 がんの進行度やリンパ節腫大の有無などを調べます 4. 子宮頸がんの病期 ( ステージ ) 0 期上皮内癌 Ⅰ 期がんが子宮頸部に限局する Ⅰa: 組織学的にのみ診断できる浸潤癌 Ⅰa1 は間質浸潤の深さが 3mm 以内 Ⅰa2 は 3mm を超えるが 5mm 以内で 広がりが 7mm を超えないもの Ⅰb: 臨床的浸潤癌 Ⅰb1 は病巣径が 4cm 以内のもの Ⅰb2 は病巣径が 4cm を超えるもの Ⅱ 期がんが頸部を超えているが 骨盤壁または腟壁下 1/3 には達していない Ⅱa: 腟壁上部 2/3 に浸潤 Ⅱb: 子宮傍組織浸潤 Ⅲ 期浸潤が骨盤壁まで達するもので 腫瘍塊と骨盤壁との間に cancer-free space がない または 腟壁下 1/3 に浸潤が達する Ⅲa: 腟壁下部 1/3 に浸潤 Ⅲb: 骨盤壁まで子宮傍組織浸潤 癌による水腎症 無機能腎 Ⅳ 期がんが小骨盤腔を超えるか 膀胱 直腸の粘膜を侵す Ⅳa: 膀胱 直腸粘膜浸潤 Ⅳb: 小骨盤外に進展 5. 子宮頸がんの各病期における治療法子宮頸がんには 手術療法 放射線療法あるいは化学療法による治療法があります 子宮頸癌治療ガイドライン ( 日本婦人科腫瘍学会 ) に準じて治療法を選択しています 0 期円錐切除術または単純子宮全摘出術 Ⅰa1 期単純子宮全摘出術 Ⅰa2 期準広汎子宮全摘出術 Ⅰb1 期 Ⅱa 期広汎子宮全摘出術 リンパ節郭清術 放射線療法 Ⅰb2 期 Ⅱb 期広汎子宮全摘出術あるいは同時化学放射線療法 Ⅲ 期同時化学放射線療法 Ⅳ 期同時化学放射線療法あるいは化学療法
6. 進行期別の5 年生存率 (1979-1988 治療例 ) 進行期 Ⅰa 85.9% Ⅰb 77.2% Ⅱa 67.5% Ⅱb 59.9% Ⅲa 38.2% Ⅲb 35.2% Ⅳa 17.2% Ⅳb 4.1% ( 日本産婦人科学会 2001 一部改変)
子宮体がん 1. 子宮体がんについて 子宮体がんは子宮体部に発生するがんで ( 図 3) 近年増加傾向にあります ( 図 4) エストロゲンによって増殖するタイプと関係なく増殖するタイプに大別されますが リスク要因としては 未産婦 不妊症 月経異常 エストロゲンの服用歴 タモキシフェン内服歴 肥満 高血圧 糖尿病などが指摘されています 一方 経口避妊薬の内服によりリスクが低下するといわれています 図 3 子宮体がんの発生部位 2. 子宮体がんの症状 症状なし( 初期のがんでは症状がありません ) 不正出血月経時以外閉経後 3. 子宮体がんの検査 診断 1) 細胞診子宮の内部に細い専用器具を挿入し 内面を擦って細胞を採取します 2) 組織診細胞診で異常を認める場合や超音波検査で月経周期の黄体期以外で子宮内膜が厚い場合に
専用の器具で子宮内膜の一部を採取します 3) 画像検査 (MRI CT 検査 ) がんの進行度やリンパ節腫大の有無などを調べます 4. 子宮体がんの病期 ( ステージ ) 0 期子宮内膜異型増殖症が相当 Ⅰ 期がんが子宮体部に限局 Ⅰa: がんが子宮内膜に限局 Ⅰb: 筋層浸潤 1/2 以内 Ⅰc: 筋層浸潤 1/2 を超える Ⅱ 期がんが体部および頸部に及ぶもの Ⅱa: 頸管腺のみを侵す Ⅱb: 頸部間質浸潤 Ⅲ 期がんが子宮外に広がるか 小骨盤腔を超えていないもの または所属リンパ節転移のあるもの Ⅲa: 漿膜あるいは付属器への浸潤 あるいは腹腔内細胞診が陽性 Ⅲb: 腟転移 Ⅲc: 骨盤内あるいは傍大動脈リンパ節転移 Ⅳ 期がんが小骨盤腔を超えているか 明らかに膀胱または腸粘膜を侵す Ⅳa: 膀胱あるいは腸粘膜への浸潤 Ⅳb: 腹腔内あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移 5. 子宮体がんの各病期おける治療法子宮体がんには 手術療法 化学療法 放射線療法あるいはホルモン療法による治療法があります 子宮体癌治療ガイドライン ( 日本婦人科腫瘍学会 ) に準じて治療法を選択しています 術後に再発リスクを評価して化学療法などの治療を追加します Ⅰ 期単純子宮全摘出 / 準広汎子宮全摘出術 両側付属器摘出術 後腹膜リンパ節郭清 Ⅱ 期広汎子宮全摘出術 両側付属器摘出術 後腹膜リンパ節郭清 Ⅲ 期以上単純子宮全摘出術 両側付属器摘出術 ( 後腹膜リンパ節郭清 ) ( 大網切除術 ) 腫瘍減量術
6. 進行期別の5 年生存率進行期 Ⅰa 82.4% Ⅰb 72.2% Ⅱ 66.8% Ⅲ 37.5% Ⅳa 18.2% Ⅳb 5.1% ( 日本産婦人科学会 2001 一部改変)
卵巣がん 1. 卵巣がんについて卵巣がんは増加傾向にありますが 癌検診が実施できず 進行するまで自覚症状がないため 早期発見が困難な腫瘍です ( 図 5) 2. 卵巣がんの症状 症状なし ( 初期のがんでは症状がありません ) 下腹部のしこり 圧迫感 図 5 卵巣がんの発生部位 3. 卵巣がんの検査 診断 1) 画像検査 ( 超音波検査 MRI CT 検査 ) 腫瘍内部の構造 がんの進行度やリンパ節腫大の有無などを調べます 2) 腫瘍マーカー CA125 などいくつかのマーカーがあり 腫瘍が増大すると高い値を示します 4. 卵巣がんの病期 ( ステージ ) Ⅰ 期卵巣に限局 Ⅰa: 片側卵巣に限局 Ⅰb: 両側卵巣に限局 Ⅰc: 被膜破綻や被膜表面への浸潤 または 腹水 腹腔内洗浄液の細胞診にて悪性細胞を認める Ⅱ 期骨盤内臓器への進展 Ⅱa: 子宮 卵管への進展 Ⅱb: 他の骨盤内臓器への進展 Ⅱc: 被膜破綻や被膜表面への浸潤 または 腹水 腹腔内洗浄液の細胞診にて悪性細胞を認める Ⅲ 期骨盤腔を超える腹膜播種 所属リンパ節転移 肝臓表面への転移 Ⅲa: 顕微鏡レベルの腹腔内播種 リンパ節転移 (-) Ⅲb: 直径 2cm 以下の腹膜内播種 リンパ節転移 (-) Ⅲc: 直径 2cm 以上の腹腔内播種あるいは所属リンパ節転移 Ⅳ 期遠隔転移 肝臓実質への転移 ( 画像でも可 ) 悪性細胞を含む胸水 5. 卵巣がんの治療法 卵巣がんには 手術療法や化学療法による治療法があります 卵巣癌治療ガイドライン ( 日本
婦人科腫瘍学会 ) に準じて治療法を選択しています 手術中に迅速病理検査を行い 卵巣がんと確定診断された場合には両側付属器摘出術 単純子宮全摘出術 大網切除術 後腹膜リンパ節郭清術 ( 腫瘍減量手術 ) を行います 術後化学療法としてプラチナ製剤とタキサン系製剤の併用療法を6コース追加します 初回手術で原発腫瘍の摘出が困難である場合には まず化学療法を行うこともあります 6. 進行期別の 5 年生存率 新しい抗がん剤の導入により 5 年生存率は改善していますが 長期生存率は依然として不良です 進行期 1988-1994 Ⅰ 92.6% Ⅱ 70.1% Ⅲ 37.5% Ⅳ 25.5% ( 卵巣がん治療ガイドライン 米国国立がん研究所のデータ 一部改変 ) Copyright (C) 2008 Dr.Masahiko Maegawa, All Rights Reserved.