Microsoft Word - p docx

Similar documents
ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

生ワクチン 不活化ワクチン ジフテリア 百日咳 破傷風 不活化ポリオ混合ワクチン の接種から20~24 週あけて3 回目を接種 別の種類のワクチンを接種する場合は 中 27 日 ( いわゆる4 週間 ) 以上あけて受けます 別の種類のワクチンを接種する場合は 中 6 日 ( いわゆる1 週間 ) 以

9 予防接種

ヒブ ( インフルエンザ菌 b 型 ) 対象者 : 生後 2ヶ月から5 歳未満までのお子さん標準的な接種開始期間は 生後 2ヶ月から7ヶ月未満です 生後 2ヶ月を過ぎたら 早目に接種しましょう 接種方法 : 接種開始時の年齢により接種方法が異なります 接種開始が生後 2ヶ月から7ヶ月未満の場合 (

H30_業務の概要18.予防接種

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 014 年 10 月 1 日版日本小児科学会 乳児期幼児期学童期 / 思春期 ワクチン 種類 直後 6 週 以上 インフルエンザ菌 b 型 ( ヒブ )

0 歳 0カ月 乳幼児の予防接種スケジュール ( 例 : その 1) 同時接種を希望するが 1 回に受ける数は 2 種類以下を希望する場合 ( 受診回数 : インフルエンザを除いて 18 回 ) 1 歳 カ月 日本小児科学会推奨案 ジフテリア 百日咳 破傷風混合ワクチン生ワクチン別の種類のワクチンを

2. 定期接種ンの 接種方法等について ( 表 2) ンの 種類 1 歳未満 生 BCG MR 麻疹風疹 接種回数接種方法接種回数 1 回上腕外側のほぼ中央部に菅針を用いて2か所に圧刺 ( 経皮接種 ) 1 期は1 歳以上 2 歳未満 2 期は5 歳以上 7 歳未満で小学校入学前の 1 年間 ( 年

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの主な変更点 2014 年 1 月 12 日 1)13 価結合型肺炎球菌ワクチンの追加接種についての記載を訂正 追加しました 2)B 型肝炎母子感染予防のためのワクチン接種時期が 生後 か月 から 生直後 1 6 か月 に変更と なりました (

平成 24 年 7 月改定版 すべての予防接種につきましては 次のページに記載してあります 平成 24 年度予防接種日程表 ( 国の通知により 内容が変わる場合があります 毎月の 広報みなみちた でご確認ください 新 麻しん風しん混合 3 期 4 期 ( 個別 ) 対象 :3 期 ( 中学 1 年生

小児用肺炎球菌ワクチン 対象者 : 生後 2カ月 ~5 歳未満の方接種費用 : 無料ただし 接種開始が2 歳以上の場合は自己負担あり (1100 円 ) 接種回数 : 接種開始年齢によって異なります 接種開始月 年齢接種回数 接種間隔接種費用 生後 2 月から 7 月未満 生後 7 月から 12 月

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

生ワクチン乳幼児の予防接種スケジュール ( 例 : その 1) 同時接種を希望するが 1 回に受ける数は 2 種類以下を希望する場合 ( 受診回数 : インフルエンザを除いて 18 回回または 19 回 ) 0 歳 0カ月 カ月 カ月 1 歳 カ月 13 カ月 1 15 カ月 16 カ月 17 カ月

第1 入間市の概要

<4 種ウイルス疾患 ( 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ) フローチャート> 医療機関の記録または母子手帳でワクチンを接種したことが A B C 2 回確認できる 1 回確認できる全く確認できない D E 前回接種より少なくとも 1 ヶ月以上あけて さらに 1 回ワクチン接種を受ける 抗体検査を

両面印刷推奨 <4 種ウイルス疾患 ( 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ) フローチャート> 医療機関の記録または母子手帳でワクチンを接種したことが A B C 2 回確認できる 1 回確認できる 全く確認できない D または E のどちらかを選ぶ D E 前回接種より少なくとも 1 ヶ月以上あけ

スライド 1


<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

スライド 1

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

<4D F736F F D208FAC8E A8B858BDB838F834E CC90DA8EED82F08E6E82DF82DC82B7312E646F6378>

会計 10 一般会計所管課健康推進課款 4 衛生費事業名インフルエンザ予防接種費項 1 保健衛生費目 2 予防費補助単独の別単独 前年度 要求段階 財政課長内示 総務部長 市長査定 最終調整 予算計上 増減 1 当初要求 2 追加要求等 3 4( 増減額 ) 5( 増減額 ) 6=

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

アメリカの予防接種制度について


Microsoft PowerPoint - 【配布資料】28予防接種従事者研修

予防接種のてびき こどもの命を守るために 釜石市

P P P P P P P P P P P

次の人は 医師が健康状態や体質に基づいて 接種の適否を判断します 心臓や血管 腎臓 肝臓 血液の障害や発育の障害などの基礎疾患がある人 他のワクチンの接種を受けて 2 日以内に発熱があった人や全身性の発疹などアレルギーが疑われる症状が出たことがある人 過去にけいれんをおこしたことがある人 過去に免疫

プリント

% ORG/WIKI/FILE:SALKWS.JPG 1. ORG/WIKI

不活化ポリオワクチンの導入に関する方針について(案)

赤ちゃんが生まれたら 新生児 低体重児の家庭訪問 問 保健推進課 お子さんが生まれたら 母子健康手帳と一緒にお渡ししている 新生児出生通知書兼低体重児出生届出書 を 保健推進課に提出してください TEL

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

資料1-1 HTLV-1母子感染対策事業における妊婦健康診査とフォローアップ等の状況について

10【資料4】接種間隔緩和資料案

untitled

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF375F90DA8EED94EF977082CC82A082E895FB82C982C282A282C42E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

48小児感染_一般演題リスト160909

平成24年、秋、日本の予防接種はこのように変わります

部分的接種集団において感染症はワクチン未接種者に伝播しない ワクチンの集団予防効果 - 効果的なワクチンの接種率が十分に高い場合 感染症の伝播を阻止できる可能性があります その場合 ワクチン接種を受けなかった人やワクチン接種を受けても免疫を獲得できなかった人も 感染症から保護されるようになります こ

スライド 1

スライド 1

00【議連提出資料】B型肝炎ワクチンの定期接種化について

平成13年度税制改正(租税特別措置)要望事項(新設・拡充・延長)

ロタテック内用液ワクチン接種を受ける人へのガイド

DPT, MR等混合ワクチンの推進に関する要望書

2 (2) 異なった種類のワクチンを接種する場合の間隔 生ワクチン BCG 麻しん風しん混合 (MR) ロタウィルス 水痘 おたふくかぜ 不活化ワクチン ヒブ 小児用肺炎球菌 四種混合 三種混合 不活化ポリオ 日本脳炎 二種混合 B 型肝炎 インフルエンザ 27 日以上あける 不活化ワクチン生ワクチ

乳幼児健診・相談と予防接種.indd

した努力を妨げるものである 開発途上国に暮らす子どもたちのほとんどは 現在 GAVI アライアンス ( ワクチンと予防接種のための世界同盟 ) から受けている大規模な財政援助なしには 予防接種の恩恵を受けられない GAVI アライアンスは 10 年以上前に設立された官民連携の組織であり 途上国で新ワ

Microsoft Word - 過誤接種の種類と対策改訂2017.5

Microsoft PowerPoint - 【参考資料4】安全性に関する論文Ver.6

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

協会けんぽ加入者における ICT を用いた特定保健指導による体重減少に及ぼす効果に関する研究広島支部保健グループ山田啓介保健グループ大和昌代企画総務グループ今井信孝 会津宏幸広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学 疾病制御学教授田中純子 概要 背景 目的 全国健康保険協会広島支部 ( 以下 広島支部

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

このワクチンの接種前に 確認すべきことは? ワクチン接種を受ける人または家族の方などは このワクチンの効果や副反応などの注意すべき点について十分理解できるまで説明を受けてください 説明に同意した上で接種を受けてください 医師が問診 検温および診察の結果から 接種できるかどうか判断します 次の人は こ

報告風しん

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

第 11 章 保健衛生 600 人 図 11-1 乳幼児健康診査実施状況 幼児一般検診 1 歳 6ヶ月検診 3 歳児検診 平成 20 年度平成 21 年度平成 22 年度平成 23 年度平成 24 年度平成 25 年度平成 26 年度平成 27 年度 14

感染症情報22週(週報)

論文内容の要旨

事業報告

pdf0_1ページ目

3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

Microsoft Word - 外国人医療支援ガイド(日本語版).doc

事務連絡平成 28 年 2 月 5 日 各都道府県衛生主管部 ( 局 ) 御中 厚生労働省健康局健康課 厚生科学審議会予防接種 ワクチン分科会基本方針部会の審議について 本日開催された厚生科学審議会予防接種 ワクチン分科会基本方針部会における審議の結果 B 型肝炎ワクチンの定期接種化について 以下の

スライド 1

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

1

スライド 1

参考資料 5 MR の接種勧奨の取り組みについて MR1 期 (1 歳 ~2 歳未満 ) 1 歳となる月の前月末に予診票及びお知らせを発送 1.6 歳児健診時 個別チェックによりお知らせ配布 ( 通年 ) 2 歳となる前々月に未接種者に案内を発送 ( 別紙 1) MR2 期 ( 小学校に入学する前年

(Microsoft PowerPoint \217\254\216\231\227\\\226h\220\332\216\355\202\314\214\273\217\363.ppt)

スライド 1

15 第1章妊娠出産子育てをめぐる妻の年齢要因

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 予防接種マニュアル(H28.10)

pdf0_1ページ目

第 1 章アンケートの概要 1-1 調査の目的 1-2 対象者 1-3 調査方法 1-4 実施期間 1-5 調査結果サンプル数 第 2 章アンケート調査結果 2-1 回答者自身について (1) 問 2: 年齢 (2) 問 5: 同居している家族 2-2 結婚について (1) 問

34 片渕美和子他 表 1 各年度の B 型肝炎, 麻疹, 風疹およびムンプスに対する抗体陽性率 検査年度 HBs 麻疹 風疹 ムンプス 2003 年 3/231(1.3)* 131/217(60.4) 200/217(92.2) 114/217(52.5) 2004 年 0/231( 0) 134

Top 10 causes of death globally 年世界死亡原因トップ 10 Alzheimer disease and other dementias アルツハイマーその他認知症 Trachea, brochus, lung cancers 気管 気管支 肺がん

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

広報みはま.indd

ほとんどのワクチンは 完全な予防効果を得るために複数回に分けて投与される しかし ワクチンによって 2 回目以降の投与時期が異なるため 複雑な予防接種スケジュールとなり 子どもたちが必要な予防接種を完了するには生後 1 年の間に少なくとも 5 回は病院を訪れなければならなくなる こうした状況が親や保

クチ ワ ン で安心 予防接種は集団生活前に子育て応援券を有効活用 感染症発生動向速報 ( 平成 31 年第 10 週分 3 月 4 日 ~3 月 10 日 ) インフォメーション 予防接種をご確認くださいこの春から保育所 幼稚園に通い始めるお子さんも多いと思います 一般に乳幼児は感染症に対する抵抗

<4D F736F F D208DC58F4992F18F6F94C E397C DB88E781458BB388E F8E838EC08F4B8A7790B682CC82BD82DF82CC975C966890DA8EED82CC8D6C82A695FB>

各ワクチン対症疾患に対する簡単な説明を書きました 各疾患については infection.pdfをご覧ください 4 種混合ワクチンの 百日咳は 長期持続する強い咳と新生児乳児が感染すると呼吸停止 死亡あるいは脳症を起こす可能性があります ジフテリアは喉頭炎で窒息死亡する病気です MRの内麻疹は 1 週

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌


pdf0_1ページ目

赤ちゃんが生まれたら 出生届 お子さんが生まれた日から数えて 14 日以内 ( 国外で生まれた場合は 3 か月以内 ) に 住所地または本籍地の市区町村役場に出生の届出が必要です 出産された場所や里帰り先など 一時滞在地の市区町村役場にも届出できます 問合せ市民課 その他児童手当

注 本 スケジュール 案 は 2013 年 11 月 現 在 乳 幼 児 に 可 能 な 主 なワクチンをすべて 受 けると 仮 して1 例 を 示 したものです の 順 番 や 受 けるワクチンの 類 については お 子 様 の 体 調 や 周 りの 感 染 症 発 生 状 況 によって 異 なっ

人間ドック 総合健康診断インフォメーション 明日も今日と同じ笑顔でいたいから あなたのからだ見直してみませんか

Microsoft Word - 予防接種2011

Transcription:

31. 小児任意予防接種の認知度および接種率と接種行動に影響する要因の検討 〇津田侑子 ( 高槻市保健センター管理医, 大阪医科大学衛生学 公衆衛生学 ) 小坂美也子 ( 高槻市子ども未来部子ども保健課課長 ) 髙栁香里 ( 高槻市子ども未来部子ども保健課主査 ) 渡辺美鈴 ( 大阪医科大学衛生学 公衆衛生学講師 ) 河野公一 ( 大阪医科大学衛生学 公衆衛生学教授 ) 背景 目的 世界保健機構 (World Health Organization, WHO) の推定によると,5 歳未満の子ども達が毎年約 250 万人, ワクチンで予防可能な病気で死亡しており, 毎日 6,800 人の子ども達がワクチンにより回避可能な疾患で死亡していることを示している 予防接種は, 生命を脅かす感染症を制御し回避するための証明された, 最も対費用効果の高い公衆衛生上の介入の一つである 1 日本の予防接種制度は, 予防接種法に基づいて市町村が原則無料で行っている定期予防接種と任意で受ける有料の任意予防接種がある 定期接種は国が接種を勧奨し, 接種期間や対象者について設定したうえで, 国の責任下で実施される しかし, 予防接種法で決められていない予防接種や定期接種の年齢枠から外れての接種は任意接種とされている わが国の定期予防接種には,BCG, ジフテリア, 破傷風, 百日咳, ポリオ, 麻疹, 風疹, 日本脳炎の 8 疾患が規定されている 2 このようなわが国の予防接種対策に対して, 無料で実施されている定期予防接種が少ない, 多価混合ワクチンを含めて導入されているワクチンの種類が少ない, 同時接種の実施が少ないので利便性が悪い, 予防接種全般に関する第 3 者的な諮問機関がないなど先進諸国と比べて遅れていることが指摘されてきた 3,4 このような状況の中, わが国は, インフルエンザ菌 b 型 ( 以下 Hib), 小児用肺炎球菌, 流行性耳下腺炎, 水痘, ロタウイルス,B 型肝炎, 季節性インフルエンザが乳幼児期の任意予防接種とされており, 全国的に平成 23 年より Hib, 小児用肺炎球菌に一部公費助成が始まった 現在, 定期接種は 90% 以上の接種率があるが, 任意接種は行政の介入がなく, 他の研究報告などから 20~40% と推測される 5 が, 正確な接種率は把握されていない 今後, 任意予防接種は子どもの健康を守り育む上で法的な整備が期待されるが, その実態は不明である そこで, 本研究では, 任意予防接種の普及の基礎資料を得るために, アンケート調査によって, 任意予防接種の認知状況および接種状況を調べ, 任意予防接種行動に影響を与える因子を明らかにすることを目的とした 方法 1 調査方法と対象者および解析対象者 150

2011 年 7~12 月にかけて, 高槻市 ( 人口 357,387 人 :2011 年 12 月末現在 ) に在住する 1 歳 6 ヶ月健診を受診する子ども 1,477 人 (2011 年度 1 歳 6 ヶ月健診総対象者 3,046 人の 48.5%) の保護者を対象に, 予防接種に関するアンケート調査を実施した 質問項目は, 基本属性, 保護者の定期 (BCG, ジフテリア 百日咳 破傷風 ( 以下,DPT), 経口生ポリオ ( 以下,OPV), 麻疹風疹混合 ( 以下,MR), 日本脳炎 ) および任意予防接種 (Hib, 小児用肺炎球菌, 流行性耳下腺炎, 水痘,B 型肝炎, 季節性インフルエンザ, 不活化ポリオ ( 以下,IPV) に対する認知度, 接種状況, ワクチン情報の入手経路, 受けない理由等とした 尚, 複数回の接種が必要なものについては,1 度でも接種していれば, 接種した とした 調査方法は, 事前に健診案内とアンケート用紙を郵送し, 健診当日, 健診施設で記入漏れがないことを確認した後に回収した 回収した 1,172 部 ( 回収率 79.4%) のうち, 回答者の続柄の記載がない 5 部を除いた 1,167 部を解析対象とした IPV については, 調査実施時, 日本では未承認ワクチンであったが, 一部の医療機関では個人輸入で接種が行われており, 医学的にも社会的にも導入が強く望まれているワクチンであったため項目に追加した (2011 年 7 月現在 ) ロタウイルスワクチンについては, 2011 年 6 月に任意予防接種として承認されたが, 医療機関への販売開始が 2011 年 11 月からであったため, 項目には入れなかった 2 任意予防接種の有無に関する定義本研究では任意予防接種の有無について解析を行った Hib または肺炎球菌ワクチンのいずれかを 1 歳 6 カ月健診の時点で受けている子どもを 任意予防接種を受けた と定義した 本調査の対象者 (1,167) では Hib の接種率は 53.1%, 肺炎球菌は 43.1%, いずれかを接種した者, つまり 任意予防接種を受けた は 664 人 (56.9%) であった Hib, 肺炎球菌は生後 2 ヶ月から接種可能で, 標準的接種を行えば,1 歳 6 ヶ月の時点では 4 回の接種回数がある中で,3 回目まで完了もしくは 4 回全て完了していることになる 結果 1 予防接種の認知度と接種率について本研究の対象者の特性は, 対象者の 97.7% が母親,69.8% が 30 代,75.0% が専門学校 大学を卒業しており,66.9% が主婦であった 図 1 に定期予防接種の認知度と接種率を示す 認知度はすべての予防接種で 98% 以上と 151

高かった 生後 3 ヶ月からの接種である BCG,DPT, 経口生ポリオの接種率は約 95% と高かった しかし,1 歳以上の推奨である MR は 84.5%, 日本脳炎は 4.5% であった 図 2 に任意予防接種の認知度と接種率を示す Hib, 肺炎球菌, 流行性耳下腺炎, 水痘, 季節性インフルエンザの認知度は 95% 以上であった B 型肝炎 75.7%,IPV63.5% と認知度が低くなっていた 接種率は Hib 53.1%, 肺炎球菌 43.1%, 季節性インフルエンザ 25.0%, 他のワクチンは 20% 以下であった 近年, 日本においても出生児すべてに接種するユニバーサル接種の必要性が言われている B 型肝炎の接種率は 1.3%, 国内未承認ではあるが個人輸入での接種が行われている IPV は 7.5% であった 2 接種行動に影響する要因全体として, 任意予防接種を受けた群は 664 人 (56.9%), 受けていない群は 503 人 (43.1%) であった 表 1 に予防接種の有無別に見た対象者の属性を示す 予防接種を受けた群は受けない群と比較して, 年齢 30 代, 大卒, 専門職, 児が第 1 子である割合が有意に高かった 任意予防接種の有無別にみた情報源との関連を表 2 に示す 受けた群では, 受けない群より, 育児本, かかりつけ小児科医, インターネットからの情報が有意に高かった 任意予防接種の有無別にみた受けない理由を表 3 に示す 両群間で, 調査項目全てに有意性を認めた 受けていない群の受けない理由として, 費用がかかる 48.3% 副反応が心配 39.0% 予防接種の知識が少なく不安 18.7% などが上位を占めていた 任意予防接種の有無と調査項目との関連の強さを観察するために, ステップワイズ法による多重ロジスティック回帰分析を行った 予防接種を受ける行動は, 学歴の高さ ( オッズ比大学 7.68), 児が第 1 子である (7.58), 年齢が 30 代である (20.9)( 表 4), 育児本 (1.96), インターネット (1.84), かかりつけ小児科医 (1.53) からの情報がある ( 表 5) という因子と関連した 受けない理由としてはどの項目とも有意に関連していたが, 副反応が心配 ( オッズ比 3.14), 忘れていた (2.61), 費用がかかる (2.22), 接種場所や医療機 152

関が限られているので不便 (2.11), 予防接種の知識が少なく不安 (2.08) などが関連した 考察 1 予防接種の認知度と接種率本研究では, 定期予防接種の認知度はすべての予防接種で 98% と高く, 接種率も MR 以外は 95% 以上であった MR は接種期間が 2 歳までなので, 最終的には他のワクチン接種率に近づくと考えるが,1 歳になってすぐに接種することが望まれる 日本の定期予防接種の接種率は全国的にほぼ 95~100% であり, 定期予防接種の認知度や接種率は全国的に普及している このような高い接種率は, 母子健康手帳からの情報や市町村からの個別通知, および無料であることが寄与していると考えられる 任意予防接種においては, 標準的な接種開始時期は,Hib, 肺炎球菌,B 型肝炎が生後 2 ヶ月,IPV が生後 3 ヶ月, 季節性インフルエンザが生後 6 ヶ月,1 歳以上からの接種が流行性耳下腺炎, 水痘である その費用は流行性耳下腺炎や水痘は 1 回 8,000 円程度で,2 回接種が必要であり,16,000 円と高額な自己負担となる 本研究において任意予防接種の認知度はほぼ 95% 以上であったが, 接種率は低く, 助成のある Hib, 肺炎球菌のみ接種率がそれぞれ 53.1%,43.1% であった 本研究において受けない理由の 1 位に費用がかかる (34.6%) をあげている 公衆衛生的に子どもの健康を守るためには予防接種の無料化は必然である 本研究では, 流行性耳下腺炎, 水痘の接種率はそれぞれ 19.5%,18.6% であった これらのワクチンの接種開始時期は MR と同じ 1 歳で,MR との同時接種が可能である 定期の MR の接種率は 84.5% あり, 任意の接種率向上に向け, 小児科や行政から 同時接種 の勧奨が必要である 小児における任意予防接種を含めた予防接種スケジュールでは, 短期間に複数の予防接種が必要になるので, わが国でも利便性を高めることが重要となる 2 任意予防接種行動に影響する因子と接種率向上に向けた対応費用の多寡に加えて, 学歴の高さ 児が第 1 子である 年齢が 30 代であることは小児の任意予防接種を受ける行動に関係していることが明らかとなった さらに, 育児本 インターネット かかりつけ小児科医が任意予防接種において効果的な情報源となっており, 受けない理由として予防接種の知識不足や不安と関連が強かった 日本では 核家族化が進み育児者の孤立が言われる中で 育児本やインターネットは予防接種行動において重要な情報ツールになっていることが明らかになった インターネッ 153

トからの情報は有益でもある反面, 過剰に偏った報道になる場合もあり, 保護者の不安感を募らせる原因となることもある 一方, 母子健康手帳は情報源として 25% 程度であった 母子健康手帳は定期の予防接種情報についは記載されているが, 任意は詳しく記されていない現状であった 情報の氾濫した現状では, 定期, 任意の予防接種に関わらず, エビデンスに基づいた情報提供が行政に望まれる 情報提供に, 母子健康手帳の活用が推奨される 母子健康手帳はわが国固有のもので, ほぼ 100% 普及しており, 妊産婦から小学校入学までの児の健康を記録し, 育児バイブルとして活用されている 6 この手帳の中に, 予防接種の有無にかかわらず, 任意予防接種についても, 有益性, 接種方法, 副作用の情報, 副作用への対処法などを記載することが必要であり, だれが見ても利用しやすい手帳に改善していくことも課題となる さらに, 専門職である保健師の活動も重要である 本研究では保健師からの情報は 2.9% と著しく低かった 低い理由には, 任意予防接種であるため, 保健師が関与すべきでないとの規範があることが原因と考える しかし, 公衆衛生的社会防衛として, また, 情報氾濫に対応して, 正確な情報を発信することは行政の責任となり, その中心メンバーとして保健師の役割が期待される 社会的防御のために, ワクチン無料化をはじめとする制度整備に加えて, 保護者や家族背景からみた 受けない群 の特性を考慮した介入, 医師や保健師など医療従事者の予防接種への積極的介入, 効果的な情報ツールを活用した質の良い情報提供が, 任意予防接種率向上には重要であると考えられる 1. World Health Organization(a brochure):an introduction to the Global Immunization Vision and Strategy 2009. 2. 木村三生夫, 平山宗宏, 堺春美. 予防接種の手びき ( 第 13 版 ). 東京 : 近代出版,2011. 3. 斉藤昭彦. 海外の予防接種. 小児科診療 2009;12(45):2265-2271. 4. Centers for Disease Control and Prevention (CDC): General Recommendations on Immunization: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR 2011: Recomm Rep 60(2); 1-64. 5.Baba K, Okuno Y, Tanaka-Taya K, Okabe N. Immunization coverage and natural infection rates of vaccine-preventable diseases among children by questionnaire survey in 2005 in Japan. Vaccine. 2011; 29(16):3089-92. 6. 弓削美鈴, 川崎佳代子, 丸山陽子, 金城壽子. 母子健康手帳の有用性とその要因 4 ヵ月児 18 ヵ月児 3 歳児をもつ母親の意識調査. ヘルスサイエンスリサーチ 2010;14(1):65-72. 経費使途明細 調査票印刷費 2000 冊 157,500 円調査票郵送費 120 円 1477 冊 177,240 円調査票集計 データ入力費 ( 人件費 交通費含む ) 283,500 円合計 618,240 円 上記使途内容のうち,30 万円を助成費用から支出した 154