KPMG Insight KPMG Newsletter Vol.22 January 217 経営トピック 9 スタジアムの収入源となるネーミングライツ ~ 海外と日本の比較 kpmg.com/ jp
経営トピック 9 スタジアムの収入源となる ネーミングライツ ~ 海外と日本の比較 有限責任あずさ監査法人スポーツアドバイザリー室室長パートナー大塚敏弘スポーツ科学修士得田進介 スタジアムを開発し 長期的に運営していくためにはスタジアム完成前から収入源を確保しておくことが重要です 将来の収入源としては 施設内の営業権契約収入 特別観覧ルームのライセンス収入 広告掲載に係るスポンサー契約収入 ネーミングライツ収入が考えられます そのなかでも近年 特に盛んになっているのはネーミングライツ収入です ネーミングライツとは スポーツ施設などの名称にスポンサー企業の社名やブランド名を付与するもので いわゆる 命名権 と呼ばれます アメリカでは 199 年代から北米のプロスポーツ施設を中心に市場が急速に拡大し 現在では 日本国内でもスポーツ施設などの運営資金調達のための重要な手法の1つとして定着していますが わが国の公共施設では 味の素スタジアム での導入が初の事例となります ( 味の素スタジアムHPより抜粋 ) 第 1 期契約は23 年 3 月 1 日より5 年契約で総額 12 億円 ( 年間 2.4 億円 ) 現在は第 3 期契約の期間中であり 5 年間 (214 年 3 月 1 日 ~219 年 2 月末日 ) で総額 1 億円 ( 年間 2 億円 ) となっています 日本では施設所有者の多くが自治体であることから ネーミングライツ収入によって施設収入を増やし 納税者の負担を軽減することが大きな目的になっていると言えます なお 本文中の意見に関する部分については 筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします 大塚敏弘おおつかとしひろ 得田進介とくだしんすけ 1 KPMG Insight Vol. 22 Jan. 217 217 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
(契約年数)単位:円)出典 : スタジアム開発を成功させるための計画 を基に作成(経営トピック 9 ポイント 海外のスポーツ施設のネーミングライツ市場は 導入件数の増加や新規参入が活発であることから高騰傾向にある 特に米国のスポーツ施設では 導入件数の増加だけでなく契約期間が長期間となっているため 他国と比べて金額が大きくなっていると言える 日本の主なプロスポーツであるサッカーと野球で使用している施設のネーミングライツ導入割合は同水準であるが 金額を比較すると野球の方が大きくなっている 近年のスポーツ施設のネーミングライツはスタジアム全体だけでなく スタンドやセクションにかかるものについても販売されており ネーミングライツの販売可能性は広がっている Ⅰ. 海外のスポーツ施設のネーミングライツ 海外のサッカースタジアムのネーミングライツについて 1 座 席当たりの年間平均ネーミングライツ金額をドイツ ブンデス リーガ イングランド プレミアリーグ 米国 メジャーリーグ サッカーの 3 つのリーグで比較した結果 米国がドイツの 2 倍以 上 イングランドの 1.5 倍弱となっており 米国の金額が特に大 図表 1 海外リーグの 1 座席当たりの年間平均ネーミングライツ金額と契約期間 きくなっています (1ユーロ=119 円で算定 ) これは 米国 メジャーリーグサッカーの市場が北米 4 大スポーツに迫る勢いで成長しており 世界的に注目度が高くなってきているため ネーミングライツの金額も大きくなっていることが考えられます また イングランドおよびドイツにおける平均ネーミングライツ契約期間が 8 年間であるのに対して米国は 14 年間となっており 米国は長期間で契約していることが特徴的であると言えます ( 図表 1 参照 ) また ドイツとイングランドの 2ヵ国で現在契約されているネーミングライツを産業ごとにみると 金融業やエネルギー産 14, 14 図表 2 ドイツ イングランドのネーミングライツ産業別シェア 12, 12 その他 21% 金融 19% 1, 1 8, 8 ビール 5% エネルギー 11% 6, 4, 6 4 航空 5% 2, 2 食品および飲料 6% 自動車 1% ドイツ イングランド 米国 通信 7% 建設 8% 保険 8% 出典 : スタジアム開発を成功させるための計画 を基に作成 217 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG Insight Vol. 22 Jan. 217 2
経営トピック 9 業の件数が多くなっています 件数自体は多くありませんが航 空産業も多額の投資を行っており 様々な産業がネーミングラ イツ市場に乗り出していると言えます ( 図表 2 参照 ) Ⅱ 日本のスポーツ施設のネーミングライツ 一方で 日本国内のスポーツ施設のネーミングライツについ て J リーグ各カテゴリーとプロ野球で導入しているホームスタ ジアム 球場の数は J リーグのカテゴリーのなかでは J2 リーグ 図表 3 スタジアム 球場数)出典 :J リーグ公式 HP NPB.jp 日本野球機構統計データ等を基に作成( 図表 4 単位:円出典 : 各スタジアム 各球場の HP 等を基に作成(14 12 1 8 6 4 2 1, 9, 8, 7, 6, 5, )4, 3, 2, 1, 国内スポーツ施設のネーミングライツ導入件数 J1 リーグ J2 リーグ J3 リーグプロ野球 8% 7% 6% 5% 4% 3% 2% 1% % 国内スポーツ施設の 1 座席当たり年間平均ネーミングライツ金額 プロ野球 J1 リーグ J2 リーグ J3 リーグ (ネーミングライツ導入16 割合)が最も多く1 4 スタジアム ネーミングライツの導入割合は Jリーグ全体でもプロ野球でも概ね 5 % 程度となっています このことから 日本のプロスポーツで使っている施設の約半分しかネーミングライツを導入していないことが分かります ( 図表 3 参照 ) ここで J3リーグ所属の U-23チームは基本的にトップチームと同じスタジアムを使っているため数から除いており また プロ野球の各球団の地方開催球場についても除いています 1 座席当たりの年間平均ネーミングライツ金額を Jリーグ各カテゴリーとプロ野球で比較した結果 ネーミングライツ導入割合や座席数はほぼ同水準であるにもかかわらず プロ野球で使用している球場の 1 座席当たりの年間平均ネーミングライツ金額はJリーグのスタジアムの約 5 倍となっています ( 図表 4 参照 ) これは 野球場のネーミングライツの金額がサッカースタジアムよりも大きいと言うことができます Ⅲ. まとめ 近年ではスタジアム全体のネーミングライツ以外にも スタジアムの各スタンドに対するネーミングライツも販売されており その販売可能性は広がっていることが考えられます たとえば トルコのプロサッカーリーグに所属しているガラタサライ SKのホームスタジアムであるトルコ テレコム アリーナでは トルコ最大の通信会社であるトルコ テレコムがスタジアム全体のネーミングライツ契約を締結していますが それ以外にも地元食品会社がスタジアム東側 2 階スタンド席のネーミングライツを年間 15 万ユーロ ( 約 1.7 億円 ) で購入しています 通常であればスタンド席はテレビや新聞などにも露出しないためネーミングライツを購入するメリットは少ないと思われますが 入場者数の多いスタジアムの場合には 人々の目に触れる機会も多いため 企業としてネーミングライツに対する投資効果は十分にあると推察されます 高額になりがちなスタジアム全体のネーミングライツだけでなく 相対的に安価な各スタンドや各セクションのネーミングライツについても販売するなどし 様々な工夫を凝らして収益源をより多く獲得することがスタジアム運営を行ううえで重要であると考えます 3 KPMG Insight Vol. 22 Jan. 217 217 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the
経営トピック 9 スタジアム開発を成功させるための計画 目次 バックナンバー スポーツビジネスの現状について (KPMG Insight Vol.12/May 215) 欧州サッカーリーグ ( ドイツ ブンデスリーガ ) の財政健全性について (KPMG Insight Vol.13/July 215) J リーグの現状分析 (KPMG Insight Vol.14/Sep 215) 欧州 4 大プロサッカーリーグと比較した際の日本サッカー界の経営課題 (KPMG Insight Vol.15/Nov 215) スタジアム建設における財務計画策定のプロセス (KPMG Insight Vol.16/Jan 216) 人々が集うスタジアムとは ~ 海外事例を基に (KPMG Insight Vol.17/Mar 216) スタジアムからはじまる地方創生 (KPMG Insight Vol.18/May 216) スタジアム開発における会計専門家の役割 (KPMG Insight Vol.19/Jul 216) スポーツの発展と放映権料の関連 (KPMG Insight Vol.2/Sep 216) チームとスタジアムの一体経営 (KPMG Insight Vol.21/Nov 216) 序章 : スタジアム開発プロセスに ついて 第 1 章 : プロジェクトビジョンの構築 第 2 章 : 計画および実現可能性調査 第 3 章 : 許認可の取得と設計 第 4 章 : 建設 第 5 章 : 運営 終わりに 新しいスタジアムの新規建設または大規模な改修を検討す る際には 開発の開始から完了までのプロセスを理解するこ とが プロジェクトを成功させるために重要です スタジアム開発計画に 1 つとして同じものはありませんが 一連のステップと 異なるフェーズにおける相互関連性およ び関与する専門家を理解する必要性は大部分で共通してい ます 本報告書では 開発業者 クラブ 協会および公共団体に対 して スタジアム開発計画の概要を提供しています スポーツアドバイザリー室 の概要 KPMG ジャパンは 一般事業会社で培った知見や経験を活用し スポーツ業界に属するチーム 団体が強固な経営および財務基盤を構築し 勝利し続ける組織作りの支援を行うため 有限責任あずさ監査法人内に スポーツアドバイザリー室 を設置しました スポーツアドバイザリー室はスポーツに関連するチームや団体が攻めのマネジメントを行う一助となるべく 一般企業で培った経営や財務管理の知見を活用し 経営課題の分析 中長期計画の策定 予算管理および財務の透明性等に資するアドバイスを提供します スポーツ業界を熟知したきめ細やかなサービスを提供するとともに KPMG ジャパンのグループ会社の知見やスキルも活用しながら スポーツ関連チームや団体を包括的に支援してまいります 主なサービス 経営課題の分析 業績評価項目 指標に関する各種調査 データ収集に係る支援 目標値設定および分析手法に係る開発支援 経営管理に係るアドバイザリー 中長期計画支援 予算管理支援 ( 経営戦略 経営目標と整合した予算数値設定支援 ) 差異原因分析 組織目標達成のための具体的施策設定支援 財務管理 資金出納管理 : 各種資金表の作成と実績比較を通じた資金管理体制構築 固定資産管理 : 設備投資の意思決定段階における採算性計算 維持更新にかかる経済性分析支援 等 内部統制構築支援 情報システムに係るアドバイザリー ガバナンス強化およびコンプライアンス支援 本稿に関するご質問等は 以下の担当者までお願いいたします 有限責任あずさ監査法人 スポーツアドバイザリー室 TEL:3-3548-5155( 代表番号 ) 室長パートナー大塚敏弘 toshihiro.otsuka@jp.kpmg.com スポーツ科学修士得田進介 shinsuke.tokuda@jp.kpmg.com 217 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG Insight Vol. 22 Jan. 217 4
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