4. 発表内容 : 研究の背景 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) らの研究グループは これまでの研究の積み重ねにより ALS では神経伝達に関わるグ ルタミン酸受容体の一種である AMPA 受容体 ( 注 4) の異常が運動ニューロン死の原因で

Similar documents
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の細胞死を引き起こすメカニズムを更に解明 - 活性化カルパインが核膜孔複合体構成因子を切断し 核 - 細胞質輸送を障害 - 1. 発表者 : 郭伸 ( 国際医療福祉大学臨床医学研究センター特任教授 / 東京大学大学院医学系研究科客員研究員 ) 山下雄也 ( 東京大学大

PowerPoint プレゼンテーション

の制限が多い基準になっています 改訂版 El Escorial Airlie House 診断基準で ALS 確実, ALS 可能性高し, もしくは ALS 可能性高し検査陽性 に合致する症例を対象とします 1 参加者の選択基準 ( 適格基準 ) 1. 書面による本人または代諾者の同意が得られている

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

No.16-35

記 者 発 表(予 定)

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - HP用.doc

論文発表の概要研究論文名 :Interaction of RNA with a C-terminal fragment of the amyotrophic lateral sclerosis-associated TDP43 reduces cytotoxicity( 筋萎縮性側索硬化症関連 TD

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

Untitled

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

共同研究報告書

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

学位論文の要約

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

平成 29 年 8 月 4 日 マウス関節軟骨における Hyaluronidase-2 の発現抑制は変形性関節症を進行させる 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 : 門松健治 ) 整形外科学 ( 担当教授石黒直樹 ) の樋口善俊 ( ひぐちよしとし ) 医員 西田佳弘 ( にしだよしひろ )

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

<4D F736F F D A8DC58F4994C C A838A815B C91E5817B90E E5817B414D A2E646F63>

Microsoft Word - tohokuuniv-press _01.docx

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

患者向医薬品ガイド フィコンパ錠 2mg フィコンパ錠 4mg 2016 年 5 月作成 この薬は? 販売名 フィコンパ錠 2mg フィコンパ錠 4mg Fycompa Tablets 2mg Fycompa Tablets 4mg 一般名 ペランパネル水和物 Perampanel Hydrate

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

平成14年度研究報告

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

生物時計の安定性の秘密を解明

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word - 日本語解説.doc

Microsoft Word - 01.docx

プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 10 月 4 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 アルツハイマー病の新規病態と遺伝子治療法の発見 新規の超早期病態分子を標的にした治療法開発にむけて ポイント アルツハイマー病の超早期において SRRM

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

発達期小脳において 脳由来神経栄養因子 (BDNF) はシナプスを積極的に弱め除去する 刈り込み因子 としてはたらく 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 生後発達期の小脳において 不要な神経結合 ( シナプス )

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

DRAFT#9 2011

報道解禁日 : 日本時間 2017 年 2 月 14 日午後 7 時 15 日朝刊 PRESS RELEASE 2017 年 2 月 10 日理化学研究所大阪市立大学 炎症から脳神経を保護するグリア細胞 - 中枢神経疾患の予防 治療法の開発に期待 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) ライフサイエンス

Microsoft Word - PRESS_

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

論文の内容の要旨

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

スライド 1

PowerPoint Presentation

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

Untitled

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

核内受容体遺伝子の分子生物学

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

汎発性膿庖性乾癬の解明

Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

‰²−Ô.ec9

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

学位論文名 :Relationship between cortex and pulvinar abnormalities on diffusion-weighted imaging in status epilepticus ( てんかん重積における MRI 拡散強調画像の高信号 - 大脳皮質と視

<4D F736F F D DC58F4994C A5F88E38A D91AE F838A838A815B835895B68F FC189BB8AED93E089C82D918189CD A2E646F63>

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 8 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与 - GABA 受容体阻害剤が モデルマウスの記憶を改善 - 物忘れに始まり認知障害へと徐々に進行していくアルツハイマー病は 発症すると究極的には介護が欠か

多チャンネルプレーナ技術 による生体組織分子解析と その神経疾患応用

Microsoft Word _02,final,0611

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

DRAFT#9 2011

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

Transcription:

経口 AMPA 受容体拮抗剤による筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の治療法確立 - 孤発性 ALS 分子病態モデルマウスへの長期投与試験 1. 発表者 : 郭伸 ( 国際医療福祉大学臨床医学研究センター特任教授 / 東京大学大学院医学系研究科講師 ( 非常勤 )) 赤松恵 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野特任研究員 ) 山下雄也 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野特任研究員 ) 2. 発表のポイント : 死に至る難病であり 有効な治療法がなかった筋萎縮性側索硬化症 (ALS 注 1) の発 症原因に根ざした新規治療法の開発に成功した 分子病態モデルマウスに既存の抗てんかん薬である高選択非競合 AMPA 受容体拮抗剤ペ ランパネル ( 製品名 フィコンパ ( 注 2) ) を 90 日間連続経口投与し 細胞死の原因になっている異常なカルシウム流入を軽減することにより ALS に疾患特異的な TDP-43 病理を伴う神経細胞死を抑制する治療に成功した 臨床的薬用量での有効性が得られたことからも ALS 患者の大多数を占める孤発性 ALS の 特異的な治療法としての早期実現が期待される 3. 発表概要 : 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は主に中高年に発症する 進行性の筋力低下や筋萎縮を特徴 とし 健康人を数年の内に呼吸筋麻痺により死に至らしめる神経難病で この経過を遅らせる 有効な治療法はありません これまで 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教 授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) らの研究グループは ADAR2 という酵素 ( 注 3) が 低下することで 過剰な細胞内カルシウム流入を引き起こすことにより ALS の大多数を占め る遺伝性のない孤発性 ALS の運動ニューロン死に関与していることを突き止めていました 今回 郭伸特任教授と東京大学大学院医学系研究科赤松恵特任研究員らの研究グループ は この過剰なカルシウム流入を抑える作用が期待される 既存の抗てんかん薬であるペラン パネル ( 製品名 フィコンパ エーザイ株式会社 ) を ALS モデルマウスに 90 日間連続で経 口投与したところ運動機能低下の進行 及びその原因となる運動ニューロンの変性脱落が食い 止められ しかも 運動ニューロンで引き起こされている ALS に特異的な TDP-43 タンパク の細胞内局在の異常 (TDP-43 病理 ) が回復 正常化しました また 発症前のみならず発症 後に投与した場合でも 運動ニューロン死による症状の進行が抑えられました モデルマウスでの結果ではありますが ペランパネルは既に承認されているてんかん治療 薬であり ヒトに換算した場合にてんかん治療に要する用量以下でマウスに有効性が確認出来 たことから 臨床応用へのハードルも低いと考えられ ALS の特異的治療法になるものと期 待されます 以上の成果は Scientific Reports (6 月 28 日オンライン版 ) に掲載されます なお 本研究は一般財団法人日本 ALS 協会の IBC グラント 研究奨励金 および公益財団法人難 病医学研究財団研究奨励助成金 日本医療研究開発機構 (AMED) の支援を受けて行われま した

4. 発表内容 : 研究の背景 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) らの研究グループは これまでの研究の積み重ねにより ALS では神経伝達に関わるグ ルタミン酸受容体の一種である AMPA 受容体 ( 注 4) の異常が運動ニューロン死の原因であ ることを突き止めていました 具体的には AMPA 受容体のカルシウム透過性を規定するサ ブユニットである GluA2 に本来生ずべき RNA 編集 ( 転写後の一塩基置換 注 5) が起こら ず 未編集型 GluA2( 注 6) が発現するためカルシウム透過性が異常に高い AMPA 受容体が 運動ニューロンに発現していること 加えて GluA2 が未編集となるのは RNA 編集酵素で ある ADAR2 酵素の発現低下のためであることを確かめていました ( 注 7) さらに ADAR2 のコンディショナルノックアウトマウス (AR2 マウス 注 8) の解析から ADAR2 酵素の発現低下は 異常なカルシウム透過性 AMPA 受容体の発現を引き起こすことにより運 動ニューロン死の直接の原因であることを証明し 孤発性 ALS の運動ニューロンで起きる TDP-43 の局在異常 (TDP-43 病理 注 9) を引き起こすことからも この分子異常が孤発性 ALS に病因的意義を持つことを示してきました ALS には有効な治療法がなく 死に至る難病であるため 根本的な治療法が切望されてい ます 高選択非競合 AMPA 受容体拮抗剤であるペランパネルは グルタミン酸によるシナプ ス後 AMPA 受容体の活性化を阻害し 神経の過興奮を抑制することで運動ニューロン死を抑 制すると考えられます またすでに抗てんかん薬として国内外で承認されており 安全性も 確立されていることから ALS の治療薬剤として大いに期待されます 本研究では 孤発性 ALS の病態を示すモデルマウスに経口投与を行い 臨床的薬用量での効果を検討しました 研究内容 モデルマウスへの治療 本研究グループが開発した孤発性 ALS の病態を示すコンディショナル ADAR2 ノックア ウトマウス (AR2 マウス ) では ALS に特有な運動機能障害 選択的な運動ニューロン 死 ALS に特異的な TDP-43 病理が観察されることから 孤発性 ALS の病態を反映するモデル動物であると考えられます このマウスに臨床的に用いられている薬用量相当のペラン パネルを経口的に投与し効果を検討したところ 脊髄の運動ニューロンの減少が有意に抑制 され 進行性の運動機能低下が抑えられました また ALS に特有な TDP-43 タンパクの細 胞内の異常な局在変化を改善しました 上記の結果は ペランパネル投与により AMPA 受 容体での異常なカルシウム透過性が改善され 神経細胞の過興奮が抑えられた結果 運動ニ ューロン死が阻止された事が考えられます ( 図 1) またこの効果は症状が進行した時期の マウスにおいても確認されており 全てのマウスが 90 日間の経口投与を完了できたという 安全性の面からも これらの解析結果は 孤発性 ALS 患者に対しての治療効果が得られる 可能性があることを示唆します 社会的意義 今後の予定 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) の研究グループは モデルマウスを用いて 死に至る神経難病である孤発性 ALS の治療 法の開発を行っており ADAR2 の遺伝子治療に引き続き AMPA 受容体拮抗剤ペランパネル を用いての治療に成功しました ペランパネルはすでにてんかんの治療薬として承認されてお り 既存薬を用いた今回の治療法の開発は 臨床試験への道のりもハードルが低いと考えら

れ 早期の臨床試験開始が期待できます また ADAR2 の遺伝子治療とは治療標的が異なる ことから 併用により更なる効果が期待できる点でも ( 図 1) ALS 患者の大多数を占める 孤発性 ALS の治療実現への道筋が拓かれたと言えます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Scientific Reports (6 月 28 日オンライン版 ) 論文タイトル : The AMPA receptor antagonist perampanel robustly rescues amyotrophic lateral sclerosis (ALS) pathology in sporadic ALS model mice 著者 :Megumi Akamatsu, Takenari Yamashita, Naoki Hirose, Sayaka Teramoto, Shin Kwak DOI 番号 :DOI: 10.1038/srep28649 6. 問い合わせ先 : 国際医療福祉大学臨床医学研究センター特任教授 / 東京大学大学院医学系研究科講師 ( 非常勤 ) 郭伸 ( かくしん ) 電話 /Fax:03-5841-3566 e-mail:kwak-tky@umin.ac.jp 7. 用語解説 : ( 注 1) 筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis;ALS): 運動ニューロン ( 大脳皮質運動野の上位運動ニューロンと脳幹脳神経核や脊髄前角の下位運動ニューロン ) が変性 脱落することで起こる進行性の筋力低下や筋萎縮を特徴とする神経変性疾患である 主に中高年に発症し 有効な治療法はなく数年の内に呼吸筋麻痺により死に至る神経難病で 大多数は遺伝性のない孤発性 ALS である 本研究では孤発性 ALS を対象としている ( 注 2) フィコンパ ( 一般名 : ペランパネル水和物 ): 抗てんかん剤 ( エーザイ株式会社 ) てんかん発作は 神経伝達物質であるグルタミン酸により誘発されることが報告されており ペランパネルはグルタミン酸によるシナプス後 AMPA 受容体の活性化を阻害し 神経の過興奮を抑制する高選択 非競合 AMPA 受容体拮抗剤である http://www.eisai.co.jp/news/news201635pdf.pdf ( 注 3)ADAR2(Adenosine deaminase acting on RNA 2): 二重鎖 RNAのアデノシンに働く脱アミノ基酵素で GluA2 Q/R 部位のアデノシンとイノシンの置換 (A-I 置換 ) を特異的に触媒する この酵素がないと未編集型 GluA2 が発現し AMPA 受容体はカルシウム透過性になる ( 注 4)AMPA 受容体 : ヒトや哺乳類の脳や脊髄で興奮性神経伝達を司る神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体の 一種で イオンチャネルの開閉により神経の興奮を制御している ほとんどのニューロンが AMPA 受容体を発現し その大多数はカルシウムイオンを透過しない 孤発性 ALS では異常 にカルシウム透過性が高い AMPA 受容体が発現している

( 注 5)RNA 編集 ( 転写後の一塩基置換 ): 遺伝子の DNA が RNA に転写された後 RNA 塩基に変化が起こることを総称して RNA 編集と呼び この場合はアデノシンがイノシンに変換する脱アミノ基の反応 (A-I 置換 ) を指す ( 注 6) 未編集型 GluA2: RNA 上のイノシンは翻訳時にグアノシンと認識されるので ゲノム上のグルタミン (Q) コドン (CAG) が RNA 上で CIG に置換されアルギニン (R) コドン (CGG) として翻訳されるためにタンパク質においてアミノ酸置換が起こる GluA2 の Q/R 部位はイオンチャネルポアの内腔に面しており 陽性電荷の Rはカルシウムイオンの流入を妨げるが 中性電荷の Q は妨げないので GluA2 は RNA 編集によりカルシウムを制御する特性を獲得する AMPA 受容体の多くは GluA2 を含み その GluA2 は全て編集型なので GluA2 を含む AMPA 受容体はカルシウム非透過性である ( 注 7)ALS 患者の剖検脊髄を用いた単一運動ニューロンの解析から GluA2 Q/R 部位の RNA 編集が不十分で 未編集型 GluA2 が発現することが疾患特異的な病的変化であることを明らかにした (Takuma et al, Ann Neurol, 1999; Kawahara et al, Nature 2004; Hideyama et al, Neurobiol Dis 2012) ( 注 8) コンディショナルノックアウトマウス (AR2 マウス ): ADAR2 遺伝子の活性基部分を二個の Flox 配列ではさみ 運動ニューロン特異的に発現させた Cre により ADAR2 を運動ニューロンでノックアウトした ( 二個の Flox で挟まれた遺伝子部分は切り取られるため ) マウスで 運動ニューロンでは未編集型 GluA2 が発現し 緩徐な運動ニューロン死による進行性運動麻痺を呈する 孤発性 ALS の表現型を再現する唯一の分子病態モデルマウスである (Hideyama et al., J Neurosci 2010) ( 注 9)TAR DNA binding protein of 43 kda (TDP-43) : TDP-43 は RNA 結合タンパクで ALS の運動ニューロンに異常な物質の集積により形成される構造体 ( 封入体 ) の構成要素であることが 2006 年に明らかにされた (Arai et al, BBRC 2006; Neumann et al, Science 2006) 孤発性 ALS の大多数の症例やある種の家族性 ALS で はこの封入体と同時に正常な局在部位である核から TDP-43 の喪失が運動ニューロンに観察さ れるため (TDP-43 病理 ) これは ALS の病理学的指標になっている ADAR2 の発現低下 は カルシウム透過性 AMPA 受容体の異常な発現 カルシウム依存性プロテアーゼであるカ ルパインの活性化により TDP-43 病理の原因となるため (Yamashita et al, Nat Commun 2012) 運動ニューロンで TDP-43 病理が消失し TDP-43 の正常な核内局在を取り戻すこと は治療効果の指標になる 8. 添付資料 :

図 1: 高選択非競合 AMPA 受容体拮抗剤ペランパネルを用いた ALS の治療戦略孤発性 ALS の病態を示すモデルマウスを用いて AMPA 受容体拮抗剤であるペランパネルをマウスに経口投与した結果 進行性の運動ニューロン死が減少し 運動機能低下の抑制 さらに ALS 特異的な病理変化である TDP-43 病理の正常化が確認された ペランパネル単独でも有意な効果がみられるが 図に示すように 2013 年に本研究グループが報告したアデノ随伴ウィルス (AAV) による ADAR2 遺伝子治療の標的とは異なるので 両者の併用により相乗効果が期待できる