背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

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配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

平成**年*月**日

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

スライド 1

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

Microsoft Word - 01.doc

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

マスコミへの訃報送信における注意事項

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

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機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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マスコミへの訃報送信における注意事項

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

< 研究の背景と経緯 > ここ数十年に渡る半導体素子 回路 ソフトウェア技術の目覚ましい進展により 様々なモノがセンサー 情報処理端末を介してインターネットに接続される IoT(Internet of Things) 社会が到来しています 今後その適用先は一層増加し 私たちの日常生活においてより多く

QOBU1011_40.pdf

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

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Microsoft PowerPoint - 基礎電気理論 07回目 11月30日

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

Microsoft PowerPoint _トポロジー理工学_海住2-upload用.pptx

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

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図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

教師の持つ指導ポイント 評価規準 中国地方の送電線網の図を利用し, 発電所からの電力を消費地に届けていることを示す その際, 送電の途中では, 電線の抵抗のために電線が発熱して電気エネルギーが損失することを, 本単元の内容をもとに考察させる ( 自然事象への関心 意欲 態度 ) エネルギーは変換の際

スライド 1

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

<4D F736F F D C668DDA97705F81798D4C95F189DB8A6D A8DC58F4994C5979A97F082C882B581798D4C95F189DB8A6D A83743F838C83585F76325F4D F8D488A F6B6D5F A6D94468C8B89CA F

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

8.1 有機シンチレータ 有機物質中のシンチレーション機構 有機物質の蛍光過程 単一分子のエネルギー準位の励起によって生じる 分子の種類にのみよる ( 物理的状態には関係ない 気体でも固体でも 溶液の一部でも同様の蛍光が観測できる * 無機物質では規則的な格子結晶が過程の元になっているの

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

平成18年2月24日

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

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スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

記 者 発 表(予 定)

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論文の内容の要旨

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

第1章 様々な運動

マスコミへの訃報送信における注意事項

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記 者 発 表(予 定)

降圧コンバータIC のスナバ回路 : パワーマネジメント

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酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

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報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

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1 薄膜 BOX-SOI (SOTB) を用いた 2M ビット SRAM の超低電圧 0.37V 動作を実証 大規模集積化に成功 超低電圧 超低電力 LSI 実現に目処 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 ( 理事長古川一夫 / 以下 NEDOと略記 ) 超低電圧デバイス技術研究組合(

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新技術説明会 様式例

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相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

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超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

記者発表資料

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

平成22年11月15日

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コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

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sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します 情報機構 sample

←ちゃんとしたロゴに変更

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資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

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どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

平成**年*月**日

Transcription:

平成 25 年 5 月 2 日 東北大学金属材料研究所東北大学原子分子材料科学高等研究機構 塗るだけで出来上がる磁気 - 電気変換素子 - プラスチックを使った次世代省エネルギーデバイス開発に向けて大きな進展 - 発表のポイント 電気を流すプラスチックの中で 磁気 ( スピン ) の流れが電気信号に変換されることを発見 この発見により 溶液を塗るだけで磁気 ( スピン )- 電気変換素子が作製可能に プラスチックを使ったフレキシブルで低コストな次世代スピントロニクスデバイス応用に期待 東北大学金属材料研究所の安藤和也助教 ( 現在慶應義塾大学理工学部専任講師 ) と東北大学原子分子材料科学高等研究機構の齊藤英治教授は 広く普及している導電性プラスチックの中で 磁気の流れ スピン流 ( 注 1) が電気信号に変換されることを発見し 磁気 - 電気変換プラスチック の作製に成功しました 電子は電気と磁気両方の性質を併せ持っており 電気のみを利用してきた従来のエレクトロニクスに磁気 ( スピン ) の性質を積極的に取り入れることで 量子コンピュータや超低消費電力デバイスといった新しい機能 特性をもつ次世代省エネルギーデバイスを目指す スピントロニクス ( 注 2) が 近年世界的規模で盛んに行われています スピントロニクスによるデバイス実現のためには デバイス内に蓄積されたスピン情報の読み出しが不可欠であり 安価に作製可能なスピンを電気に変換する スピン - 電気変換素子 の開発が急務でした 今回 安藤助教らの研究によって 既に安価に製造されているプラスチックが 磁気 - 電気変換素子の原料として利用可能なことが明らかになりました これにより フレキシブルで大面積化が可能な低コスト 磁気 - 電気変換プラスチック の作製が可能となり 環境負荷の極めて小さな次世代の省エネルギーデバイス開拓への大きな推進力となることが期待されます この成果はケンブリッジ大学キャヴェンディッシュ研究所の渡邉峻一郎博士 Henning Sirringhaus 教授との共同研究によるものです 本研究成果は 英国科学誌 Nature Materials ( ネイチャーマテリアルス ) のオンライン版 (5 月 5 日付 : 日本時間 5 月 6 日 ) に掲載されます 本件に関する問い合わせ先 ( 研究内容について ) 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科専任講師安藤和也 TEL: 045-566-1582 東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授齊藤英治 TEL: 022-215-2021 ( 報道担当 ) 東北大学金属材料研究所総務課庶務係水戸圭介 TEL: 022-215-2181 東北大学原子分子材料科学高等研究機構広報 アウトリーチオフィス 1 中道康文 TEL: 022-217-6146

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開発が急務となっています このような次世代の省エネルギー電子技術として期待されているのがスピントロニクスです ( 図 1) エレクトロニクスが電流を利用していたのに対し スピントロニクスでは電流に代わり電子の磁気的性質 ( スピン ) の流れ スピン流 が主役となります このようなスピン流を利用する電子機器の開発にはスピン流を電気信号に変換する技術が不可欠であり この実現を目指し現在世界的規模で研究が進められています 本研究では 電気を流すプラスチック ( 導電性プラスチック ) の中でスピン流が電気信号へと変換されることを発見しました 今回用いた導電性プラスチック PEDOT:PSS は 電気伝導性と環境安定性に優れており 且つ光の透過性も高いため 液晶ディスプレーや帯電防止コート等に利用されています 多くの他の材料と異なり 導電性プラスチックは溶液を基板に塗るだけで作成できるため 例えばインクジェットプリンタのインクの代わりにこれを用いることで スピン ( 磁気 )- 電気変換素子を 印刷 することができます これまでこのような材料はスピンの情報を長時間保存できるものの スピン流の読み出しには利用できないと信じられてきましたが 今回得られた結果はこの常識を打ち破るものです 本研究は フレキシブルで低コスト且つ大面積化が容易に可能なプラスチックベースのスピントロニクス素子開発に大きな進展をもたらすことが期待されます 研究の内容 今回の研究では 図 2に示した磁性絶縁体と導電性プラスチックから成る素子を作製し 磁気のダイナミクスを利用することで導電性プラスチック中へスピン流を注入しました スピン流を注入しながら電圧測定を行うことで 導電性プラスチック中を流れるスピン流が電気信号に変換されていることを発見しました さらにこの電圧信号を精密に調べることで 検出された信号が導電性プラスチック中の逆スピンホール効果 ( 注 4) によるものであることを明らかにしました 原理の説明 相対論的座標変換であるローレンツ変換によれば 運動している磁石の一部は図 2に示すように電気分極に変換されます 運動している磁石 即ち磁石の流れはスピン流の存在を意味しています 従って 相対性理論はスピン流が流れるとその周りに電気信号が生じることを予言しています 真空中でこの機構によって生じる電気信号は非常に小さいものですが 物質中では物質の特性を反映して同じ対称性をもつスピン流 - 電気信号変換現象 逆スピンホール効果 が表れます 通常 逆スピンホール効果は白金や金といった原子番号が大きな物質で顕著に表れ 炭素と水素からなる有機物中では極めて小さいというのが常識でした 今回の発見は これまでごく小さいと信じられてきた導電性プラスチック中のスピン流 - 電圧変換が予想に反して大きな電気信号を生むことを明らかにしたものです ( 図 3) 2

今後の展開 スピン流を電気信号に変換する技術の確立は 省エネルギースピントロニクスデバイス開発の 最重要課題の一つです 本研究により発見されたプラスチック中のスピン流から電気信号への変 換は 電子のスピンを利用することで省エネルギー化を目指すスピントロニクスと フレキシブ ルで且つ低コスト 大面積化が可能な有機エレクトロニクスの両方のメリットを最大限利用した プラスチックスピントロニクス の基幹となり 新しい時代の電子技術と省エネルギー社会の 実現に大きく貢献することが期待されます 本研究の一部は内閣府の最先端 次世代研究開発支援プログラム ( 研究代表者 : 安藤和也 ) の一環として実施されました 3

参考図 図 1. スピントロニクスとスピン流 図 2. 今回用いた導電性プラスチックと相対論的効果によるスピン流から電気信号への変換 図 3. 導電性プラスチック中のスピン流 - 電気信号変換の観測 4

用語解説 注 1) スピン流スピンは電子が有する自転のような性質である 電子スピンは磁石の磁場の発生源でもあり スピンの状態には上向きと下向きという 2 つの状態がある 電流が流れることなく スピンだけが流れているのがスピン流であり 上向き状態のスピンを持った電子と下向き状態のスピンを持った電子がそれぞれ逆方向に流れることによる 注 2) スピントロニクス電子の磁気的性質であるスピンを利用して動作する電子デバイスを研究開発する分野である 電子スピンは応答が早く 熱エネルギーの発生も非常に少ないため これを利用したスピントロニクス素子は 超高速 超低消費電力の次世代電子素子の有力候補と期待されている 注 3) ジュール熱金属や半導体に電流を流すと電気抵抗により熱が発生する このジュール熱の存在によりエネルギーの損失なしに電流を流すことはできない 注 4) 逆スピンホール効果電子のスピンと軌道の相互作用により上向きスピンを持った電子と下向きスピンを持った電子が互いに逆方向に散乱されることでスピン流が電流へと変換される現象 5

論文名 著者名 Solution-processed organic spin-charge converter ( 溶液プロセスで作製した有機スピンー電荷変換素子 ) Kazuya Ando, Shun Watanabe, Sebastian Mooser, Eiji Saitoh, and Henning Sirringhaus 6

< お問い合わせ先 > < 研究に関すること > 安藤和也 ( アンドウカズヤ ) 慶應義塾大学理工学部専任講師 (2013 年 4 月 1 日より ) 223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉 3-14-1 Tel: 045-566-1582 E-mail: ando@appi.keio.ac.jp 齊藤英治 ( サイトウエイジ ) 東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授 980-8577 仙台市青葉区片平 2-1-1 Tel: 022-215-2021 E-mail: eizi@imr.tohoku.ac.jp < 報道担当 > 東北大学金属材料研究所総務課庶務係水戸圭介 ( ミトケイスケ ) 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 Tel:022-215-2181, Fax:022-215-2184 E-mail:imr-som@imr.tohoku.ac.jp 東北大学原子分子材料科学高等研究機構広報 アウトリーチオフィス中道康文 ( ナカミチヤスフミ ) 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 Tel: 022-217-6146, Fax: 022-217-5129, E-mail: outreach@wpi-aimr.tohoku.ac.jp 7