除されたものを除く ) について 1 本件は, 被上告人を定年退職した後に, 期間の定めのある労働契約 ( 以下 有期労働契約 という ) を被上告人と締結して就労している上告人らが, 期間の定めのない労働契約 ( 以下 無期労働契約 という ) を被上告人と締結している従業員との間に, 労働契約法

Similar documents
た本件諸手当との差額の支払を求め ( 以下, この請求を 本件差額賃金請求 という ),2 予備的に, 不法行為に基づき, 上記差額に相当する額の損害賠償を求める ( 以下, この請求を 本件損害賠償請求 という ) などの請求をする事案である 2 原審の確定した事実関係等の概要は, 次のとおりであ

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

違反する 労働契約法 20 条 長澤運輸事件最高裁 ( 平成 30 年 6 月 1 日判決 ) 速報 2346 号定年後再雇用の嘱託者につき精勤手当 超勤手当を除く賃金項目は労働契約法 20 条に違反しないとされた例 定年後 1 年契約の嘱託社員として再雇用されたトラック乗務員の一審原告らが 定年前

平成  年(オ)第  号

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

長澤運輸事件(東京高裁 平 判決)

長澤運輸事件(東京地判平成28年11月2日)について

本件合併時にA 信用組合に在職する職員に係る労働契約上の地位は, 被上告人が承継すること,3 上記の職員に係る退職金は, 本件合併の際には支給せず, 合併後に退職する際に, 合併の前後の勤続年数を通算して被上告人の退職給与規程により支給することなどが合意された また, 本件合併の準備を進めるため,

I 事案の概要 本件は 東証一部上場企業の物流大手である株式会社ハマキョウレックス ( 以下 被告 被控訴人 又は 上告人 といいます ) との間で有期雇用契約 1 を締結している契約社員 ( 以下 原告 控訴人 又は 被上告人 といいます ) が 以下に掲げる正社員と契約社員との間の労働条件 (

9( 以下, 併せて 上告人 X1ら という ) は, 平成 19 年 9 月 30 日まで, 旧公社の非常勤職員であったが, 同年 10 月 1 日, 被上告人との間で有期労働契約を締結して, これを7 回から9 回更新し, 上告人 X1, 同 X2, 同 X3, 同 X5, 同 X6 及び同 X

従業員 Aは, 平成 21 年から平成 22 年にかけて, 発注会社の課長の職にあり, 上記事業場内にある発注会社の事務所等で就労していた (2) 上告人は, 自社とその子会社である発注会社及び勤務先会社等とでグループ会社 ( 以下 本件グループ会社 という ) を構成する株式会社であり, 法令等の

定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

第36号

<4D F736F F D20819C906C8E96984A96B1835A837E B C8E3693FA816A8E518D6C8E9197BF E646F63>

今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

れぞれ求める住民訴訟である 2 原審の確定した事実関係等の概要は, 次のとおりである (1) 市は, 鳴門市公営企業の設置等に関する条例 ( 平成 16 年鳴門市条例第 3 8 号 ) により, モーターボート競走法に基づくモーターボート競走の開催及びこれに附帯する業務を行うため, 競艇事業を設置し

特例適用住宅 という ) が新築された場合 ( 当該取得をした者が当該土地を当該特例適用住宅の新築の時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が当該取得をした者から当該土地を取得した者により行われる場合に限る ) においては, 当該土地の取得に対して課する不動産取得税は, 当該税額から

均衡待遇・正社員化推進奨励金 支給申請の手引き

する 理 由 第 1 事案の概要 1 本件は, 平成 21 年 ( 受 ) 第 602 号被上告人 同第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X1 という ) 及び平成 21 年 ( 受 ) 第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X 2 といい,1 審原告 X 1と1 審原告 X 2を併せ

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

平成  年(オ)第  号

平成  年(オ)第  号

Microsoft PowerPoint - 2の(別紙2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保【佐賀局版】

- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

必要とする家族 1 人につき のべ 93 日間までの範囲内で 3 回を上限として介護休業をすることができる ただし 有期契約従業員にあっては 申出時点において 次のいずれにも該当する者に限り 介護休業をすることができる 一入社 1 年以上であること二介護休業開始予定日から 93 日を経過する日から

被上告人に対し, 上記各賦課決定の取消しを求めている事案である 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は, 次のとおりである (1) 上告人は, 東京都渋谷区内に所在する面積が200m2以下である本件土地及びこれを敷地とする第 1 審判決別紙物件目録記載の建物 ( 以下 旧家屋 という ) を所有

国際自動車事件 判例解説 1 事件の概要 [ 1 ] 事件の要旨本件は Y 社に雇用され タクシー乗務員として勤務していたXらが 歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるY 社の賃金規則上の定めが無効であり Y 社は 控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払い義務を負う

被告は 高年法 9 条 2 項に規定する協定をするため努力したにもかかわらず協議が調わ なかったものと認めることはできず 本件就業規則 29 条が高年法附則 5 条 1 項の要件を具 備していないというべきである 本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則 29 条は 手続要件を欠き無効であり 原

( イ ) 従業員の配偶者であって育児休業の対象となる子の親であり 1 歳 6か月以降育児に当たる予定であった者が死亡 負傷 疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合 6 育児休業をすることを希望する従業員は 原則として 育児休業を開始しようとする日の1か月前 (4 及び5に基づく1 歳

留意事項 ( 1) 賃金アップの方法 欄には 賃金の算定方法を下記から選択し記載してください 賃金アップが 毎月決まって支払われる賃金 の場合は 1 賃金アップが 毎月決まって支払われる賃金 + 臨時に支払われる賃金 の場合は 2 賃金アップの方法 欄において 1の 毎月決まって支払われる賃金 を選

(2) B 社に係る破産事件等東京地方裁判所は, 平成 21 年 2 月 24 日,B 社を再生債務者として, 再生手続開始の決定をした しかし, 東京地方裁判所は, 同年 3 月 24 日,B 社の事業継続を不可能とする事実が明らかになったとして, 再生手続廃止の決定をするとともに, 再生手続廃止

短時間 有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針 について ( 同一労働同一賃金ガイドライン ) 厚生労働省雇用環境 均等局有期 短時間労働課職業安定局需給調整事業課

PPTVIEW

自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

調査等 何らかの形でその者が雇用期間の更新を希望する旨を確認することに代えることができる ( 雇用期間の末日 ) 第 6 条第 4 条及び第 5 条の雇用期間の末日は 再雇用された者が満 65 歳に達する日以後における最初の3 月 31 日以前でなければならない 2 削除 3 削除 ( 人事異動通知

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

申出が遅れた場合は 会社は育児 介護休業法に基づき 休業開始日の指定ができる 第 2 条 ( 介護休業 ) 1 要介護状態にある対象家族を介護する従業員 ( 日雇従業員を除く ) 及び法定要件を全て満たした有期契約従業員は 申出により 介護を必要とする家族 1 人につき のべ 93 日間までの範囲で

2019-touren1-1

利子相当額 という ) を加えた額に相当する金額 ( 以下 退職一時金利子加算額 という ) の返還に関し, その経過措置を定める 厚生年金保険法等の一部を改正する法律 ( 平成 8 年法律第 82 号 以下 厚年法改正法 という ) 附則 3 0 条 1 項の委任に基づいて定められた, 厚生年金保

Microsoft PowerPoint - è³⁄挎"3".pptx

平成18年1月13日 最高裁判所は,貸金業者の過払い金の受領は違法と知りつつなされたことを推定するとした判例です

平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

3. 無期労働契約への転換後の労働条件無期労働契約に転換した後の職務 勤務地 賃金 労働時間等の労働条件は 労働協約 就業規則または個々の労働契約等に別段の定めがない限り 直前の有期労働契約と同一になるとされており 無期転換に当たって職務の内容などが変更されないにもかかわらず 無期転換後の労働条件を

報酬改定(処遇改善加算・処遇改善特別加算)

2(1) 所得税法 34 条 2 項は, 一時所得の金額は, その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額 ( その収入を生じた行為をするため, 又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る ) の合計額を控除し, その残額から所定の特別控除額を控除した金額とす

<4D F736F F F696E74202D20984A93AD8C5F96F CC837C A815B C F38DFC8BC68ED28D5A90B38CE3816A2E707074>

し, これを評点 1 点当たりの価額に乗じて, 各筆の宅地の価額を求めるものとしている 市街地宅地評価法は,1 状況が相当に相違する地域ごとに, その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し,2 標準宅地について, 売買実例価額から評定する適正な時価を求め, これに基づいて上記主要な街路の

裁判所は, 同年 9 月, 被上告人に対し, 米国に被拘束者を返還することを命ずる旨の終局決定 ( 以下 本件返還決定 という ) をし, 本件返還決定は, その後確定した (4) 上告人は, 本件返還決定に基づき, 東京家庭裁判所に子の返還の代替執行の申立て ( 実施法 137 条 ) をし, 子

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

無期契約職員就業規則

平均賃金を支払わなければならない この予告日数は平均賃金を支払った日数分短縮される ( 労基法 20 条 ) 3 試用期間中の労働者であっても 14 日を超えて雇用された場合は 上記 2の予告の手続きが必要である ( 労基法 21 条 ) 4 例外として 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の

1. 表紙

筑紫野市学童保育連絡協議会学童クラブ指導員就業規則

07体制届留意事項(就労継続支援A型)

< F2D30325F95BD8BCF8B8B975E8A7A93C197E192CA926D2E6A7464>

平成 31 年 4 月 1 日から平成 34 年 3 月 31 日まで 63 歳平成 34 年 4 月 1 日から平成 37 年 3 月 31 日まで 64 歳 4 定年について 労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはなりません ( 均等法第 6 条 ) ( 退職 ) 第 48 条前条に定める

改正労働基準法

Microsoft Word - 22育児・介護休業等規程

パートタイマー就業規則

< F2D E95E CC816988C482CC A2E6A>

ただし 日雇従業員 期間契約従業員 ( 法に定める一定の範囲の期間契約従業員を除く ) 労使協定で除外された次のいずれかに該当する従業員についてはこの限りではない (2) 週の所定労働日数が2 日以下の従業員 (3) 申出の日から93 日以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員 2 要介護状態に


(Microsoft Word - \215\304\214\331\227p\220E\210\365\213K\221\245.doc)

<4D F736F F D C192E895AA96EC90EA96E F58B8B975E8B4B92F A792E8817A>

Taro-婚姻によらないで懐妊した児

第 1 章育児休業 第 1 条 ( 対象者 ) 生後 1 年未満 ( 第 5 条による育児休業の場合は 1 歳 6 ヶ月 ) の子と同居し養育する従業員であって 休業後も引き続き勤務する意思のある者は 育児のための休業をすることができる ただし 日々雇用者 期間雇用者 ( 申出時点において雇用期間が

審議するものとする 2 前項の審議は 当該任期付職員の在任中の勤務態度 業績等の評価及び無期労働契約に転換した場合に当該任期付職員に係る退職日までの人件費の当該部局における措置方法について行うものとする 3 教授会等は 第 1 項の審議に当たり 必要に応じて 確認書類の要求 対象者への面接等の措置を

市報2016年3月号-10

規定例 ( 育児 介護休業制度 ) 株式会社 と 労働組合は 育児 介護休業制度に関し 次 のとおり協定する ( 対象者 ) 育児休業の対象者は 生後満 歳に達しない子を養育するすべての従業員とする 2 介護休業の対象者は 介護を必要とする家族を持つすべての従業員とする 介護の対象となる家族の範囲は

題名

平成  年(行ツ)第  号

Microsoft PowerPoint - 020_改正高齢法リーフレット<240914_雇用指導・


標準例6

公益社団法人松戸市シルバー人材センター臨時職員就業規程 ( 目的 ) 第 1 条この規程は 公益社団法人松戸市シルバー人材センター ( 以下 センター という ) の臨時に雇用する者 ( 以下 臨時職員 という ) の就業に関して必要な事項を定めるものとする ( 定義 ) 第 2 条この規程において

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

平成  年(あ)第  号

< B83678E DD96E28D8096DA2E786C7378>

調査結果の概要 1 平均年齢及び平均勤続年数 ( 表 1) 集計表第 1 表 調査産業計の男女計の平均年齢は 40.3 歳 平均勤続年数は 17.1 年 製造業ではそ れぞれ 39.7 歳 17.0 年となっている 産業区分 年 表 1 平均年齢及び平均勤続年数 ( 歳 年 ) 男女計男女平均勤続平

内閣府令本文

13 条,14 条 1 項に違反するものとはいえない このように解すべきことは, 当裁判所の判例 ( 最高裁昭和 28 年 ( オ ) 第 389 号同 30 年 7 月 20 日大法廷判決 民集 9 巻 9 号 1122 頁, 最高裁昭和 37 年 ( オ ) 第 1472 号同 39 年 5 月

平成20年度

労災年金のスライド

契約の終了 更新18 無期労働契約では 解雇は 客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認められない場合 は 権利濫用として無効である と定められています ( 労働契約法 16 条 ) 解雇権濫用法理 と呼ばれるものです (2) 解雇手続解雇をする場合には 少なくとも30 日前に解雇の予告

育児休業及び育児短時間勤務に関する規則

【全文】就業規則(今井保育園H29.1.1)

(3) 始業 終業時刻が労働者に委ねられることの明確化裁量労働制において 使用者が具体的な指示をしない時間配分の決定に始業及び終業の時刻の決定が含まれることを明確化する (4) 専門業務型裁量労働制の対象労働者への事前通知の法定化専門業務型裁量労働制の導入に当たり 事前に 対象労働者に対して 1 専

5. 退職一時金に係る就業規則のとりまとめ 退職一時金に係る就業規則の提供があった企業について 退職一時金制度の状況をとりまとめた なお 提供された就業規則を分析し 単純に集計したものであり 母集団に復元するなどの統計的な処理は行っていない 退職一時金の支給要件における勤続年数 退職一時金を支給する

無期転換嘱託職員の報酬 退職等に関する規程平成 30 年 4 月 1 日制定 ( 趣旨 ) 第 1 条この規程は 別に定めるもののほか 公益社団法人全国市有物件災害共済会職員就業規則 ( 以下 規則 という ) 第 2 条第 2 号に定める嘱託職員のうち 労働契約法 ( 平成 19 年法律第 128

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

社内様式 2 育児 介護 休業取扱通知書 あなたが平成年月日にされた 育児 介護 休業の申出について 育児 介護休業等に関する規則 第 3 条 第 7 条 に基づき その取扱いを下のとおり通知します ( ただし 期間の変更の申出があった場合には下の事項の若干の変更があり得ます ) 1 休業の期間等

★HP版調整事件解説集h28[043]

2 賞与 3 手当 4 福利厚生 5 その他 第 4 派遣労働者 1 基本給 2 賞与 3 手当 4 福利厚生 5 その他 第 5 協定対象派遣労働者 1 賃金 2 福利厚生 3 その他 第 1 目的 この指針は 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 ( 平成 5 年法律 -

1. 改正高年齢者雇用安定法の施行に伴う留意点 改正高年齢者雇用安定法の施行に伴い 厚生労働省より Q&A が公表されています 今回はこの Q&A に記載があるものについて 参考になると思われるものについてピックアップしてまとめています (1) 継続雇用制度の導入について i. 定年退職者を嘱託やパ

別表 ( 第 3 条関係 ) 給料表 職員の区分 職務の級 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 8 級 号給給料月額給料月額給料月額給料月額給料月額給料月額給料月額給料月額 再任用職 1 144, , , , , ,60

Transcription:

平成 29 年 ( 受 ) 第 442 号地位確認等請求事件 平成 30 年 6 月 1 日第二小法廷判決 主 文 1 原判決中, 上告人らの精勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄する 2 被上告人は, 上告人 X1に対し,9 万円及び第 1 審判決別紙 2の 精勤手当 欄記載の各金員に対する各 支払日 欄記載の日から各支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被上告人は, 上告人 X2に対し,5 万円及び第 1 審判決別紙 3の 精勤手当 欄記載の各金員に対する各 支払日 欄記載の日から各支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被上告人は, 上告人 X3に対し,6 万円及び第 1 審判決別紙 4の 精勤手当 欄記載の各金員に対する各 支払日 欄記載の日から各支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 5 原判決中, 上告人らの超勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し, 同部分につき, 本件を東京高等裁判所に差し戻す 6 上告人らのその余の上告を棄却する 7 第 1 項から第 4 項までに関する訴訟の総費用は被上告人の負担とし, 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする 理 由 上告代理人宮里邦雄, 同只野靖, 同花垣存彦の上告受理申立て理由 ( ただし, 排 - 1 -

除されたものを除く ) について 1 本件は, 被上告人を定年退職した後に, 期間の定めのある労働契約 ( 以下 有期労働契約 という ) を被上告人と締結して就労している上告人らが, 期間の定めのない労働契約 ( 以下 無期労働契約 という ) を被上告人と締結している従業員との間に, 労働契約法 20 条に違反する労働条件の相違があると主張して, 被上告人に対し, 主位的に, 上記従業員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに, 労働契約に基づき, 上記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求め, 予備的に, 不法行為に基づき, 上記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である 2 原審の確定した事実関係等の概要は, 次のとおりである (1) ア被上告人は, セメント, 液化ガス, 食品等の輸送事業を営む株式会社であり, 平成 27 年 9 月 1 日現在の従業員数は66 人である イ上告人らは, いずれも被上告人と無期労働契約を締結し, バラセメントタンク車 ( 以下 バラ車 という ) の乗務員として勤務していたが, 被上告人を定年退職した後, 被上告人と有期労働契約を締結し, それ以降もバラ車の乗務員として勤務している (2) ア被上告人は, 就業規則 ( 甲 1 号証, 乙 1 号証 以下 従業員規則 という ) に基づく賃金規定等において, 被上告人と無期労働契約を締結しているバラ車等の乗務員 ( 以下 正社員 という ) の賃金について, 以下のとおり定めている ( ア ) 基本給は, 原則として月給とし, 在籍給及び年齢給で構成する 在籍給 在籍 1 年目を 8 万 9100 円とし, 在籍 1 年につき 800 円を加 算 ( ただし, 在籍 41 年目の 12 万 1100 円を上限とする ) 年齢給 20 歳を 0 円とし,1 歳につき 200 円を加算 ( ただし,50 歳 の 6000 円を上限とする ) - 2 -

( イ ) 乗務員に対し, その職種 ( 乗務するバラ車の種類をいう 以下同じ ) に応じた以下の係数を当該乗務員の月稼働額に乗じた額を, 能率給として支給する 10tバラ車 4.60% 12tバラ車 3.70% 15tバラ車 3.10% バラ車トレーラー 3.15% ( ウ ) 職種により, 職務給を支払う その月額は, 以下のとおりとする 10t バラ車 12t バラ車 15t バラ車 7 万 6952 円 8 万 0552 円 8 万 2952 円 バラ車トレーラー 8 万 2900 円 ( エ ) 従業員規則所定の休日を除いて全ての日に出勤した者に精勤手当を支払う その額は月額 5000 円とする ( オ ) 1か月間無事故であった乗務員に対して無事故手当を支払う その額は月額 5000 円とする ( カ ) 従業員に対して住宅手当を支払う その額は月額 1 万円とする ( キ ) 従業員に対して家族手当を支払う その月額は, 配偶者について5000 円, 子 1 人について5000 円 (2 人まで ) とする ( ク ) 役付者 ( 班長又は組長をいう 以下同じ ) に対して役付手当を支払う その月額は, 班長が3000 円, 組長が1500 円とする ( ケ ) 従業員に対し, 時間外労働等を命じた場合, 超勤手当を支給する ( コ ) 従業員に対して通勤手当を支給する その月額は, 公共交通機関の1か月定期代相当額とし,4 万円を限度とする ( サ ) 従業員の賞与については, 別に定めるところによる ( シ ) 3 年以上勤務して退職した乗務員には, 退職金を支給する イ従業員規則は, 従業員の定年を満 60 歳とする旨を定めている また, 従業 - 3 -

員規則は, 嘱託者 には, 従業員規則の一部を適用しないことがある旨を定めている ウ被上告人は, 全日本建設運輸連帯労働組合関東支部 ( 以下 本件組合 という ) との間において, 平成 16 年 9 月 17 日, 年間賞与を基本給の5か月分とする内容の労使協定を締結した なお, 本件組合には, 被上告人の従業員で構成された長澤運輸分会がある (3) 被上告人は, 被上告人を定年退職した後に有期労働契約を締結して被上告人に勤務する従業員 ( 以下 嘱託社員 という ) に適用される就業規則として, 嘱託社員就業規則 ( 以下 嘱託社員規則 という ) を定めている 嘱託社員規則は, 嘱託社員の給与は原則として嘱託社員労働契約の定めるところによること, 嘱託社員には賞与その他の臨時的給与及び退職金を支給しないこと等を定めている (4) 被上告人は, 平成 22 年 4 月から, 嘱託社員のうち, 定年退職前から引き続きバラ車等の乗務員として勤務する者 ( 以下 嘱託乗務員 という ) の採用基準, 賃金等について, 定年後再雇用者採用条件を策定しており, 同 26 年 4 月 1 日付けで改定された後の定年後再雇用者採用条件 ( 以下 本件再雇用者採用条件 という ) の内容は, 以下のアからエまでのとおりである これによれば, 上告人らを含む嘱託乗務員の賃金 ( 年収 ) は, 定年退職前の79% 程度となることが想定されるものであった ( なお, 上告人らが定年退職前 1 年間に嘱託乗務員であったと仮定して賃金を計算した場合, その金額は, 実際に支払を受けた賃金の約 76% から約 80% となる ) ア採用対象者 60 歳定年に達した正社員で, 再雇用を希望する者イ契約期間 1 年以内の期間を定めて再雇用する ウ賃金 1 基本賃金 月額 12 万 5000 円 - 4 -

2 歩合給 12tバラ車 月稼働額 12% 15tバラ車 月稼働額 10% バラ車トレーラー月稼働額 7% 3 無事故手当月額 5000 円 4 調整給 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間にお いて月額 2 万円を支給する 5 通勤手当 公共交通機関の 1 か月分の定期代 ( ただし,4 万円を上限と する ) 6 時間外手当 時間外勤務等について, 労働基準法所定の割増賃金を支給す る 7 賞与, 退職金支給しない エ契約の更新更新の最終期限は, 満 65 歳に達した後の9 月末日又は3 月末日のいずれか早い日とする (5) 嘱託乗務員の労働条件に関する団体交渉の経緯等は, 以下のとおりである ア被上告人は, 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 ( 以下 高年齢者雇用安定法 という ) により65 歳までの高年齢者雇用確保措置が義務付けられることを受け, 本件組合との間で協議を行い, 平成 17 年 1 月, 定年退職者を再雇用する継続雇用制度を導入する旨の労使協定を締結した イ被上告人が策定した当初の定年後再雇用者採用条件においては, 嘱託乗務員の基本賃金は月額 10 万円, 歩合給は バラ車 (13t,15t) 稼働額 10 %, 無事故手当は月額 1 万円とされ, 調整給を支給する旨の定めはなかった 被上告人は, 平成 24 年 3 月以降, 本件組合との間で団体交渉を行い, 定年後再雇用者採用条件について, 順次,1 基本賃金を月額 12 万円とすること,2 無事故手当を月額 5000 円とし, 基本賃金を月額 12 万 5000 円とすること,3 厚生年金 - 5 -

保険法附則 8 条の規定による老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられたことに伴い, 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間, 月額 1 万円の調整給を支給すること,4 上記 3の調整給を月額 2 万円に増額することを内容とする改定を行い, その結果, 本件再雇用者採用条件が定年後再雇用者採用条件の内容となった 本件組合は, 上記団体交渉において, 被上告人に対し, 定年退職者を定年退職前と同額の賃金で再雇用すること等を要求したが, 被上告人は, これに応じなかった (6) ア上告人 X1は, 昭和 55 年 6 月に被上告人と無期労働契約を締結し, 平成 26 年 3 月 31 日に定年退職した また, 上告人 X2は昭和 61 年 10 月に, 上告人 X3は平成 5 年 1 月に, それぞれ被上告人と無期労働契約を締結し, いずれも同 26 年 9 月 30 日に定年退職した 定年退職時における上告人らの基本給の額は, 上告人 X1が12 万 1500 円, 上告人 X2が11 万 7500 円, 上告人 X3 が11 万 2700 円であった なお, 上告人らは, 定年退職する際, いずれも退職金の支給を受けた イ上告人らは, 定年退職した日において, それぞれ, 被上告人と有期労働契約を締結した 上告人らは, 当初の雇用期間 ( 上告人 X1につき1 年間, 上告人 X2 及び同 X3につき6か月間 ) の満了後, 雇用期間を1 年間として当該有期労働契約を更新している ( 以下, 更新の前後を問わず, 上告人らと被上告人との間の有期労働契約を 本件各有期労働契約 という ) 本件各有期労働契約は, いずれも本件再雇用者採用条件と同じ内容であり, 上告人らは, 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間, いずれも調整給の支給を受けた (7) ア嘱託乗務員である上告人らの業務の内容は, バラ車に乗務して指定された配達先にバラセメントを配送するというものであり, 正社員との間において, 業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはない また, 本件各有期労働契約においては, 正社員と同様に, 被上告人の業務の都合により勤務場所及び担当業務 - 6 -

を変更することがある旨が定められている イ上告人らは, 本件各有期労働契約の締結後, 平成 27 年 10 月までの間に, 第 1 審判決別紙 5 記載のとおり, 被上告人から賃金の支払を受けた ( 以下, 同別紙記載の賃金を 本件賃金 という ) なお, 被上告人においては, 毎月 1 日から月末までの期間に対する賃金を翌月 10 日に支払うこととされている 本件賃金の支給対象期間において, 上告人 X1 及び同 X3は欠勤しておらず, 上告人 X2は平成 26 年 12 月及び同 27 年 1 月を除き欠勤していない (8) 上告人らは, 本件訴訟において,1 嘱託乗務員に対し, 能率給及び職務給が支給されず, 歩合給が支給されること,2 嘱託乗務員に対し, 精勤手当, 住宅手当, 家族手当及び役付手当が支給されないこと,3 嘱託乗務員の時間外手当が正社員の超勤手当よりも低く計算されること,4 嘱託乗務員に対して賞与が支給されないことが, 嘱託乗務員と正社員との不合理な労働条件の相違である旨主張している ( 以下, 上記 1から4までにおいて比較の対象とされている各賃金項目を併せて 本件各賃金項目 という ) そして, 上告人らは, 本件賃金の支給対象期間において, 嘱託社員の賃金に関する労働条件が正社員と同じであるとした場合, 第 1 審判決別紙 6 記載のとおりの賃金 ( 以下 本件試算賃金 という ) が支払われるべきであるとしている 3 原審は, 上記事実関係等の下において, 要旨次のとおり判断し, 上告人らの請求をいずれも棄却した 事業主は, 高年齢者雇用安定法により,60 歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており, 定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると, 定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない また, 定年退職後の継続雇用において職務内容やその変更の範囲等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われており, 被上告人が嘱託乗務員について正社員との賃金の差額を縮める努力をしたこと等からすれば, 上告人らの賃金が定年 - 7 -

退職前より2 割前後減額されたことをもって直ちに不合理であるとはいえず, 嘱託乗務員と正社員との賃金に関する労働条件の相違が労働契約法 20 条に違反するということはできない 4 しかしながら, 原審の上記判断のうち, 精勤手当及び超勤手当 ( 時間外手当 ) を除く本件各賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法 20 条に違反しないとした部分は結論において是認することができるが, 上記各手当に係る労働条件の相違が同条に違反しないとした部分は是認することができない その理由は, 次のとおりである (1) 労働契約法 20 条は, 有期労働契約を締結している労働者 ( 以下 有期契約労働者 という ) の労働条件が, 期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者 ( 以下 無期契約労働者 という ) の労働条件と相違する場合においては, 当該労働条件の相違は, 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度 ( 以下 職務の内容 という ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 不合理と認められるものであってはならない旨を定めている 同条は, 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に, 職務の内容, 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情 ( 以下 職務の内容等 という ) を考慮して, その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり, 職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される ( 最高裁平成 28 年 ( 受 ) 第 20 99 号, 第 2100 号同 30 年 6 月 1 日第二小法廷判決参照 ) (2) 労働契約法 20 条にいう 期間の定めがあることにより とは, 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である ( 前掲最高裁第二小法廷判決参照 ) 被上告人の嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違は, 嘱託乗務員の賃金に関する労働条件が, 正社員に適用される賃金規定等ではなく, 嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定められることにより生じて - 8 -

いるものであるから, 当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる したがって, 嘱託乗務員と正社員の本件各賃金項目に係る労働条件は, 同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる (3) ア労働契約法 20 条にいう 不合理と認められるもの とは, 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である ( 前掲最高裁第二小法廷判決参照 ) イ被上告人における嘱託乗務員及び正社員は, その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく, 業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはないから, 両者は, 職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲 ( 以下, 併せて 職務内容及び変更範囲 という ) において相違はないということができる しかしながら, 労働者の賃金に関する労働条件は, 労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく, 使用者は, 雇用及び人事に関する経営判断の観点から, 労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して, 労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる また, 労働者の賃金に関する労働条件の在り方については, 基本的には, 団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる そして, 労働契約法 20 条は, 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として, その他の事情 を挙げているところ, その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない したがって, 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は, 労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである - 9 -

ウ被上告人における嘱託乗務員は, 被上告人を定年退職した後に, 有期労働契約により再雇用された者である 定年制は, 使用者が, その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら, 人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに, 賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ, 定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は, 当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される これに対し, 使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合, 当該者を長期間雇用することは通常予定されていない また, 定年退職後に再雇用される有期契約労働者は, 定年退職するまでの間, 無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり, 一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている そして, このような事情は, 定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって, その基礎になるものであるということができる そうすると, 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは, 当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において, 労働契約法 20 条にいう その他の事情 として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である (4) 本件においては, 被上告人における嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違が問題となるところ, 労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合, 個々の賃金項目に係る賃金は, 通常, 賃金項目ごとに, その趣旨を異にするものであるということができる そして, 有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては, 当該賃金項目の趣旨により, その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである そうすると, 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては, 両者の - 10 -

賃金の総額を比較することのみによるのではなく, 当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である なお, ある賃金項目の有無及び内容が, 他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ, そのような事情も, 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される (5) 上記 (1) から (4) までで述べたところを踏まえて, 被上告人における嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違が, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについて検討する ア嘱託乗務員に対して能率給及び職務給が支給されないこと等について被上告人は, 正社員に対し, 基本給, 能率給及び職務給を支給しているが, 嘱託乗務員に対しては, 基本賃金及び歩合給を支給し, 能率給及び職務給を支給していない 基本給及び基本賃金は, 労務の成果である乗務員の稼働額にかかわらず, 従業員に対して固定的に支給される賃金であるところ, 上告人らの基本賃金の額は, いずれも定年退職時における基本給の額を上回っている また, 能率給及び歩合給は, 労務の成果に対する賃金であるところ, その額は, いずれも職種に応じた係数を乗務員の月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ, 嘱託乗務員の歩合給に係る係数は, 正社員の能率給に係る係数の約 2 倍から約 3 倍に設定されている そして, 被上告人は, 本件組合との団体交渉を経て, 嘱託乗務員の基本賃金を増額し, 歩合給に係る係数の一部を嘱託乗務員に有利に変更している このような賃金体系の定め方に鑑みれば, 被上告人は, 嘱託乗務員について, 正社員と異なる賃金体系を採用するに当たり, 職種に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに, 基本賃金の額を定年退職時の基本給の水準以上とすることによって収入の安定に配慮するとともに, 歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定することによって労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫しているということができる そうである以上, 嘱託乗務員に対して能率給及び職務給が支給されないこと等 - 11 -

による労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断に当たっては, 嘱託乗務員の基本賃金及び歩合給が, 正社員の基本給, 能率給及び職務給に対応するものであることを考慮する必要があるというべきである そして, 第 1 審判決別紙 5 及び6に基づいて, 本件賃金につき基本賃金及び歩合給を合計した金額並びに本件試算賃金につき基本給, 能率給及び職務給を合計した金額を上告人ごとに計算すると, 前者の金額は後者の金額より少ないが, その差は上告人 X1につき約 10%, 上告人 X2につき約 12%, 上告人 X3につき約 2% にとどまっている さらに, 嘱託乗務員は定年退職後に再雇用された者であり, 一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上, 被上告人は, 本件組合との団体交渉を経て, 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間, 嘱託乗務員に対して2 万円の調整給を支給することとしている これらの事情を総合考慮すると, 嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても, 正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で, 嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は, 不合理であると評価することができるものとはいえないから, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である イ嘱託乗務員に対して精勤手当が支給されないことについて被上告人における精勤手当は, その支給要件及び内容に照らせば, 従業員に対して休日以外は1 日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであるということができる そして, 被上告人の嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上, 両者の間で, その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきである なお, 嘱託乗務員の歩合給に係る係数が正社員の能率給に係る係数よりも有利に設定されていることには, 被上告人が嘱託乗務員に対して労務の成果である稼働額を増やすことを奨励する趣旨が含まれているとみることもできるが, 精勤手当は, 従業員の皆勤という事実に基づいて支給されるものであるから, 歩合給及び - 12 -

能率給に係る係数が異なることをもって, 嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことが不合理でないということはできない したがって, 正社員に対して精勤手当を支給する一方で, 嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は, 不合理であると評価することができるものであるから, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である ウ嘱託乗務員に対して住宅手当及び家族手当が支給されないことについて被上告人における住宅手当及び家族手当は, その支給要件及び内容に照らせば, 前者は従業員の住宅費の負担に対する補助として, 後者は従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として, それぞれ支給されるものであるということができる 上記各手当は, いずれも労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく, 従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであるから, 使用者がそのような賃金項目の要否や内容を検討するに当たっては, 上記の趣旨に照らして, 労働者の生活に関する諸事情を考慮することになるものと解される 被上告人における正社員には, 嘱託乗務員と異なり, 幅広い世代の労働者が存在し得るところ, そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる 他方において, 嘱託乗務員は, 正社員として勤続した後に定年退職した者であり, 老齢厚生年金の支給を受けることが予定され, その報酬比例部分の支給が開始されるまでは被上告人から調整給を支給されることとなっているものである これらの事情を総合考慮すると, 嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても, 正社員に対して住宅手当及び家族手当を支給する一方で, 嘱託乗務員に対してこれらを支給しないという労働条件の相違は, 不合理であると評価することができるものとはいえないから, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である エ嘱託乗務員に対して役付手当が支給されないことについて - 13 -

上告人らは, 嘱託乗務員に対して役付手当が支給されないことが不合理である理由として, 役付手当が年功給, 勤続給的性格のものである旨主張しているところ, 被上告人における役付手当は, その支給要件及び内容に照らせば, 正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものであるということができ, 上告人らの主張するような性格のものということはできない したがって, 正社員に対して役付手当を支給する一方で, 嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たるということはできない オ嘱託乗務員の時間外手当と正社員の超勤手当の相違について正社員の超勤手当及び嘱託乗務員の時間外手当は, いずれも従業員の時間外労働等に対して労働基準法所定の割増賃金を支払う趣旨で支給されるものであるといえる 被上告人は, 正社員と嘱託乗務員の賃金体系を区別して定めているところ, 割増賃金の算定に当たり, 割増率その他の計算方法を両者で区別していることはうかがわれない しかしながら, 前記イで述べたとおり, 嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは, 不合理であると評価することができるものに当たり, 正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず, 嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は, 不合理であると評価することができるものであるから, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である カ嘱託乗務員に対して賞与が支給されないことについて賞与は, 月例賃金とは別に支給される一時金であり, 労務の対価の後払い, 功労報償, 生活費の補助, 労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである 嘱託乗務員は, 定年退職後に再雇用された者であり, 定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか, 老齢厚生年金の支給を受けることが予定され, その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間は被上告人から調整給の支給を受けることも予定されている また, 本件再雇用者採用条件によれば, 嘱託乗務員の賃金 ( 年収 ) は - 14 -

定年退職前の79% 程度となることが想定されるものであり, 嘱託乗務員の賃金体系は, 前記アで述べたとおり, 嘱託乗務員の収入の安定に配慮しながら, 労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫した内容になっている これらの事情を総合考慮すると, 嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であり, 正社員に対する賞与が基本給の5か月分とされているとの事情を踏まえても, 正社員に対して賞与を支給する一方で, 嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は, 不合理であると評価することができるものとはいえないから, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である (6) ア以上のとおり, 嘱託乗務員と正社員との精勤手当及び超勤手当 ( 時間外手当 ) を除く本件各賃金項目に係る労働条件の相違については, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たるということはできないから, 上記各手当を除く本件各賃金項目に係る上告人らの主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない イこれに対し, 嘱託乗務員と正社員との精勤手当及び超勤手当 ( 時間外手当 ) に係る労働条件の相違は, 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たる しかしながら, 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても, 同条の効力により, 当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である ( 前掲最高裁第二小法廷判決参照 ) また, 被上告人は, 嘱託乗務員について, 従業員規則とは別に嘱託社員規則を定め, 嘱託乗務員の賃金に関する労働条件を, 従業員規則に基づく賃金規定等ではなく, 嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定めることとしている そして, 嘱託社員労働契約の内容となる本件再雇用者採用条件は, 精勤手当について何ら定めておらず, 嘱託乗務員に対する精勤手当の支給を予定していない このような就業規則等の定めにも鑑みれば, 嘱託乗務員である上告人らが精勤手当の支給を受けることのできる労働契約 - 15 -

上の地位にあるものと解することは, 就業規則の合理的な解釈としても困難である さらに, 嘱託乗務員の時間外手当の算定に当たり, 嘱託乗務員への支給が予定されていない精勤手当を割増賃金の計算の基礎となる賃金に含めるべきであると解することもできない したがって, 精勤手当及び超勤手当 ( 時間外手当 ) に係る上告人らの主位的請求は理由がない ウ ( ア ) そこで, 精勤手当に係る上告人らの予備的請求について検討すると, 前記 (5) イで述べたとおり, 上告人らに精勤手当を支給しないことは労働契約法 20 条に違反するものである また, 被上告人が, 本件組合との団体交渉において, 嘱託乗務員の労働条件の改善を求められていたという経緯に鑑みても, 被上告人が, 嘱託乗務員に精勤手当を支給しないという違法な取扱いをしたことについては, 過失があったというべきである そして, 上告人らは, 第 1 審判決別紙 2から4までの各 精勤手当 欄記載のとおり, 正社員であれば支給を受けることができた精勤手当の額 ( 上告人 X1につき合計 9 万円, 上告人 X2につき合計 5 万円, 上告人 X 3につき合計 6 万円 ) に相当する損害を被ったということができる そうすると, 精勤手当に係る上告人らの予備的請求は理由があり, 被上告人は, 上告人らに対し, 不法行為に基づく損害賠償として, 上記金額の損害賠償金及びこれに対する精勤手当の各支払期日から各支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金の支払義務を負う ( イ ) また, 時間外手当に係る上告人らの予備的請求について検討すると, 前記 (5) オで述べたとおり, 上告人らに対し, 精勤手当を計算の基礎に含めて計算した時間外手当を支給しないことは, 労働契約法 20 条に違反するものであり, 被上告人がそのような違法な取扱いをしたことについては, 過失があったというべきである したがって, 被上告人は, 上記取扱いにより上告人らが被った損害について, 不法行為に基づく損害賠償責任を負う 5 以上によれば, 上告人らの主位的請求並びに精勤手当及び超勤手当 ( 時間外 - 16 -

手当 ) を除く本件各賃金項目に係る予備的請求をいずれも棄却した原審の判断は, 結論において是認することができ, この点に関する論旨は採用することができない 他方, 上告人らの予備的請求を棄却した原審の判断のうち, 上記各手当に関する部分は, 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり, 破棄を免れず, この点に関する論旨は理由がある そこで, 原判決中, 上告人らの上記各手当に係る予備的請求に関する部分を破棄し, 精勤手当に係る上告人らの予備的請求については, これを認容することとし, 超勤手当 ( 時間外手当 ) に係る上告人らの予備的請求については, 上告人らの時間外手当の計算の基礎に精勤手当が含まれなかったことによる損害の有無及び額につき更に審理を尽くさせるため, これを原審に差し戻すこととし, その余の上告は理由がないから, これを棄却することとする よって, 裁判官全員一致の意見で, 主文のとおり判決する ( 裁判長裁判官山本庸幸裁判官鬼丸かおる裁判官菅野博之裁判官三浦守 ) - 17 -