日臨外会誌 74(11),3103 3107,2013 症 例 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 前 田 知 世 日高英二 内田恒之 大 本 智 勝 石田文生 工藤進英 症例は48 歳男性で, 便潜血反応陽性の精査にて下部消化管内視鏡検査を施行され, 横行結腸癌が認められた.CT colonography にて横行結腸に高度の壁変形像を認め, さらに,non-rotation typeの腸回転異常症を伴っていた.ct angiography にて, 腫瘍の支配血管は中結腸動脈 (MCA) で, 上腸間膜動脈 (SMA) の左側から分岐し, 上腸間膜静脈 (SMV) 背側を走行していた. 以上より, 腸回転異常症に併存した横行結腸癌と診断した. 癒着が高度であり, 開腹にて横行結腸部分切除術を施行した. 郭清は, MCA がSMVの背側を走行していたため MCA の右枝で処理し D2 とした. 診断は tub2, pss,pn0,ly0,v0,fstage IIだった. 腸回転異常症に併存した右側結腸癌は,SMA とSMVの分枝の走行異常が多く, 術前にCT angiographyにて血管走行を把握しておくことが重要である. 索引用語 : 腸回転異常症, 大腸癌,CT angiography 緒言腸回転異常症は, 小児期までに診断されることが多く, 成人になって診断されることはまれである. 今回, を経験したので報告する. 症例症例 :48 歳, 男性. 主訴 : 便潜血反応陽性. 既往歴 :37 歳時に大腸ポリープを内視鏡的に切除した ( 悪性所見なし ). 現病歴 : 便潜血反応陽性の精査のため近医を受診. 下部消化管内視鏡検査を施行され, 横行結腸に 2 型病変を指摘された. 精査加療目的に当科紹介となった. 初診時現症 : 身長 169cm, 体重 77.3kg. 腹部は平坦, 軟. 手術痕なし. 血液検査所見 : 血算 生化学所見は特に異常所見はなく, 腫瘍マーカー (CEA,CA19-9) も正常範囲内であった. 下部消化管内視鏡検査 : 横行結腸に30mm 大の 2 型 腫瘍を認めた. 生検にて高分化腺癌と診断された. 腹部造影 CT 検査 : 病変は30mm 大の造影効果のある壁肥厚として描出された. 有意な領域リンパ節の腫大は認めなかった. 上腸間膜静脈 (SMV) が上腸間膜動脈 (SMA) の左側に位置する SMV rotation sign を認め, 中結腸動脈 (MCA) はSMV 背側を走行していた (Fig. 1). 2013 年 8 月 23 日受付 2013 年 9 月 4 日採用 所属施設住所 224-8503 横浜市都筑区茅ヶ崎中央 35-1 Fig. 1 腹部造影 CT 検査 :SMV が SMA の左側に位置する SMV rotation sign を認め ( 矢印 ),MCA は SMV 背側を走行していた ( 矢頭 ). 155
3104 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 Fig. 2 CT colonography: 横行結腸に高度の壁変形像を呈した腫瘍を認めた ( 矢頭 ). 盲腸 上行結腸が腹部正中に認められ, 結腸のほとんどは左側に位置しており,non-rotation type の腸回転異常症であった. CT colonography: 横行結腸に高度の壁変形像を呈した腫瘍を認めた. 盲腸 上行結腸が腹部正中に認められ, 結腸のほとんどは左側に位置しており, non-rotation type の腸回転異常症であった (Fig. 2). CT angiography: 腫瘍の支配血管はMCAであり, SMA の左側から分岐していた (Fig. 3). 以上の検査より, 横行結腸癌,cSS,cN0,cH0, cp0,cm0,cstage IIと術前診断し, 全身麻酔下に結腸部分切除術を施行した. 手術所見 : 腹腔鏡手術で開始したが, 癒着が強かったため, 開腹手術に移行した. 上行結腸 盲腸は後腹膜に固定されず, 正中に存在し,Ladd 靱帯は認めなかった. 横行結腸部分切除術を施行. リンパ節郭清は MCAがSMVの背側を走行していたため,MCAの右枝をSMV 左縁で処理しD2 郭清とした. 虫垂切除は施行したが, 腸回転異常に対する固定術は施行しなかった. 手術時間は214 分, 出血は117mlであった (Fig. 4). Fig. 3 CT angiography a) 矢頭は腫瘍を示す. 腫瘍の支配血管は MCA であった. b) MCA は SMA の左側から分岐していた. a b 切除標本 病理組織所見 : 横行結腸に50 32mm の 2 型腫瘍を認めた (Fig. 5). 病理診断は,tub2, pss,ly0,v0,pn0 ( 0 /21),sH0,cP0,cM0, fstage II であった. 術後経過 : 術後経過は良好で, 第 4 病日より経口摂取を開始し, 第 9 病日に退院した. 現在術後 2 年 2 カ月であるが, 合併症 再発なく経過している. 術後補助療法は行っていない. 考察消化管は胎生期にSMAを軸として270 度の反時計回転を経て固定される. 不完全または異常回転の結果, 156
11 号 3105 Fig. 5 切除標本所見 : 横行結腸に 50 32mm の 2 型腫瘍を認めた. Fig. 4 手術所見 : リンパ節郭清は MCA が SMV の背側を走行していたため,MCA の右枝を SMV 左縁で処理し D2 郭清とした. 腸回転異常症が発生する 1).Wang らは腸回転異常症 を 4 分類し,190 度で回転が停止したnon-rotation type,2180 度で停止したmalrotation type,3 逆回転している reversed type,4paraduodenal herniaと分類した 1). このうち,non-rotation typeが53.3% と 2) 最多であり, 本症例も最も頻度の高いnon-rotation type であった. 医学中央雑誌において1983 年から2013 年までで 腸回転異常 および 大腸癌 をキーワードにして検索すると ( 会議録除く, 手術症例のみ ), 腸回転異常症に併存した大腸癌の報告が29 例あり, そのうち24 例 (82.8%) が non-rotation typeだった. 腫瘍発生部位は盲腸 4 例, 上行結腸 7 例, 横行結腸 5 例,S 状結腸 6 例, 直腸 7 例であった.S 状結腸直腸癌は44.8%, 盲腸から横行結腸までの発生は55.2% であり, 右側結腸癌が多く, 本症例も横行結腸癌が併存していた. 本邦の大腸癌好発部位はS 状結腸と直腸で併せて大腸癌の70% に達することから, 虫垂から右側結腸の解剖学的位置異常が大腸癌の発生に関与している可能性も指 摘されており 3), 腸回転異常を伴う症例の検診では, 右側結腸癌を念頭において全大腸を観察する必要があると思われる. 腸回転異常症と術前診断ができなかった報告例は29 例中 4 例で, そのうち 2 例は緊急手術例であった. 術前診断されていた25 例のうち12 例は消化管造影,13 例はCTで診断されていた. 腸回転異常症の診断には消化管造影で消化管の走行異常, あるいは造影 CTで SMV rotation sign を確認することが有用である. 本症例も造影 CTで診断されており, 造影 CTを確認する時は腸回転異常症の可能性も考えて,SMAとSMV の走行に注意する. また, 腸回転異常症はまれな疾患ではあるが, 画像診断によりほとんどの症例で術前診断が可能であると思われた. 腸回転異常症に合併した悪性腫瘍で最も問題になるのは解剖学的位置関係と血管の走行異常に伴うリンパ節郭清である 4). 腸回転異常症は単に腸係蹄が腹腔内のどの部分に存在するかという位置の異常であり, SMAの分岐は正常であり, この分岐をたどれば癌取扱い規約に沿ったリンパ節郭清が可能であるとの報告がある 5). しかし, 下腸間膜動脈の支配領域が小腸と 6) 左側結腸に及ぶ分岐形態異常を認めた症例も報告されており, 術前に CT angiography にて腹腔動脈 SMA 下腸間膜動脈 腫瘍支配動脈の同定が望ましいと考える. 未記載 4 例を除く25 例のうち, リンパ節郭清の程度は,D1 が 5 例,D2 が 8 例,D3 が12 例であった.D1 となった症例のうち, 2 例は全身状態が悪く, 1 例は P1 で治癒切除不能と判断した例だった. 報告例の多くで大腸癌取扱い規約に沿ったリンパ節郭清が施行されていた. 本症例では,SMAがSMVの右側にあり, MCAがSMVの背側を通っていたため, 大腸癌取扱い規約で示されているD3 郭清を施行することが困難であり D2 郭清となった. 157
3106 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 29 例のうち, 術前 CT angiographyまたは術前血管造影検査が施行されたのは 6 例と少なく, 手術中に支配動脈の確認が可能であった場合は取扱い規約に沿ったリンパ節郭清が可能と考える. 十分な術前検討の上, 7) 腹腔鏡手術を施行した症例も報告されている. しかし, 術中に血管走行が把握しにくいことも多く, 腹腔 8) 鏡手術では不十分な郭清となる症例もあったため, 特に腹腔鏡手術や血行支配の複雑な横行結腸癌では術前に CT angiographyで血管の走行を確認しておくことが重要と思われた. Non-rotation typeの腸回転異常症に対する治療として,ladd 靱帯の形成を認めた場合は, 十二指腸 小腸と結腸の間の癒着とLadd 靱帯を切開剥離し捻転が生じないように腸を配置するLadd 手術を考慮する 9)10). 腸管の固定は必ずしも推奨されていない 11) が, 再発性の腸捻転を起こした症例では必要となる 12). 虫垂炎を合併した場合に診断 治療に難渋した報告例もあり, 腹部手術施行の際は, 予防的虫垂切除を考慮すべきと言われている 13). 本症例においては, 予防的虫垂切除術は施行したが, 腸管固定術は施行しなかった. 現在のところ, 術後腸閉塞の出現はなく経過している. 結語を報告した. 腸回転異常症に併存した大腸癌では, 血管の走行異常が見られることが多く, 術前にCT angiography で血管走行を把握しておくことが手術時のリンパ節郭清をより安全に行うために重要と思われた. 本論文の要旨は第 73 回日本臨床外科学会総会において発表した. 文献 1)Wang C, Welch C : Anomalies of intestinal rotation in adolescents and adults. Surgery 1963 ; 54 : 835-855 2) 加藤憲治, 櫻井洋至, 松田信介他 : 左下腹部痛で発症した腸回転異常を伴った急性虫垂炎の 1 例. 日臨外会誌 1996;57:2494-2498 3) 板谷喜朗, 河本和幸, 金城昌克他 : 腸回転異常症に併存した横行結腸癌の1 例. 日臨外会誌 2009;70:3066-3069 4) 福原研一朗, 大村泰, 葛城邦浩他 : 腸重積で発症した腸回転異常を伴う盲腸癌の 1 例. 外科 2010;72:1238-1241 5) 磯貝晶子, 長嶋隆, 渡辺泰治他 : 盲腸癌を伴った腸回転異常症の 1 例. 手術 1995;49:1447-1450 6) 仲宗根由幸, 西島功, 池原康一他 : 下腸間膜動脈の走行異常を伴う腸回転異常症に合併したS 状結腸癌の 1 例. 日臨外会誌 2009;70:1118-1121 7) 山本純也, 渕野泰秀, 大石純他 : 成人腸回転異常症を伴った上行結腸癌に対し腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した 1 例. 日消外会誌 2007; 40:1960-1965 8) 坂口達馬, 徳原克治, 岩本慈能他 : 腸回転異常を伴った大腸癌に対し腹腔鏡下手術を施行した 1 例. 日本大腸肛門病会誌 2013;66:105-109 9) 楠田慎一, 福島正之, 北原光太郎 : 幼少時から腹部症状をみとめた中腸軸捻転症の 1 例. 日腹部救急医会誌 2007;27:91-93 10) 佐々木啓成, 和田敏史, 森谷雅人他 : 上行結腸癌を合併した成人腸回転異常症の 1 例. 日外科系連会誌 2003;28:920-923 11) 岡本竜弥, 佐野薫, 小笠原敬三他 : 腸回転異常症術後再軸捻転の 1 例. 日小外会誌 2004;40: 193-197 12) 芳澤淳, 好沢克, 高見澤滋他 :Ladd 手術後に中腸軸捻転症再発をきたした腸回転異常症の 1 例. 日小外会誌 2009;45:66-71 13) 高木哲, 三澤良輔, 内川裕司他 : 成人腸回転異常症患者における急性虫垂炎の 1 例. 日臨外会誌 2008;69:81-84 158
11 号 3107 A CASE OF TRANSVERSE COLON CANCER WITH ADULT INTESTINAL MALROTATION Chiyo MAEDA, Eiji HIDAKA, Tsuneyuki UCHIDA, Tomokatsu OMOTO, Fumio ISHIDA and Shin-ei KUDO Digestive Disease Center, Showa University Northern Yokohama Hospital A 48-year-old man with transverse colon cancer was admitted to our hospital. Computed tomography (CT) colonography showed a severe deformity in the transverse colon, and the small bowel on the right and the large bowel on left in the abdominal cavity. CT angiographic findings suggested that the artery feeding the tumor was the middle colic artery (MCA), which branched to the left of the superior mesenteric artery. The diagnosis was a transverse colon cancer with non-rotation type of malrotation. The patient underwent partial colectomy with lymph node dissection and appendectomy. The MCA, feeding artery of the tumor, was running under the superior mesenteric vein. The right branch of the MCA was ligated for D2 lymph node dissection. The tumor was finally diagnosed as tub2, pss, pn0, ly0, v0, and fstage II. Proximal (right-sided) colon cancer with intestinal malrotation has a high rate of superior mesenteric artery and superior mesenteric vein anomalies. It is important to understand vessel anomalies on CT angiography before surgery. Key words:intestinal malrotation,colon cancer,ct angiography 159